Coolier - 新生・東方創想話

月夜の弦楽合奏

2007/02/22 02:13:10
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  1 悪魔が奏でる行進曲



「はあ、はあ…。」

 少女は荒い息を吐きながら、必死に飛行を続けた。

 暗い場所である。周りには何かが沢山立っていた。よく見ると、そこには本が沢山並んでいる。それは本棚だった。

 少女は無数に並ぶ本棚と本棚の間を飛行する。迷路のように入り組んで並んでいる本棚なのだが、少女は迷わず進んで行った。

見えた!

 少女の目の前に見えてきたのは、ドアである。

そのドアの前に少女は着地する。スカートのポケットに手を突っ込み、中から小さな鍵を取り出した。ドアの鍵穴にその鍵を差し込んで回す。カチリと小さな音がして鍵が開いた。

少女はドアを開けると、中に滑り込むように入っていった。そして、急いでドアを閉めて鍵を掛ける。

「…はあ…う、げほっ…。」

 そのままドアにもたれかかってしまった。疲労のためか、その場に座り込んでしまう。

「…灯りよ…。」

少女の右手に光が現れた。魔法によって作られた光である。暗かった室内を照らす。

少女の顔がはっきりと見えた。小悪魔と呼ばれている少女である。もちろん本名ではない。だが、周囲の人達はそう呼んでいた。

周囲もはっきりと見える。ここは、ヴワル魔法図書館にある部屋の一つで、司書室であった。司書を務めているのは小悪魔なので、この部屋は彼女の書斎でもある。部屋の中には、大きな本棚に机と椅子だけだ。本棚には本がぎっしりと詰め込まれている。机の上には羊皮紙や羽ペンなどの筆記用具が乱雑していた。

小悪魔は立ち上がると、部屋の本棚に飛びついた。本棚の最上段の方にある本を引き抜いて、ぺらぺらとめくっていく。

…どこにしまったかな…。

次々と本を取り出してはめくる。

「…あった!」

 ある本の間に何かが挟まっていた。

 小悪魔はその何かを取り出した。それは三枚のスペルカードだった。

スペルカードとは、自分の得意技に名前を付けたカードである。スペルカードが無いと得意技が使えないというわけではないが、あらかじめ力を封じて作っておけば、詠唱時間も必要なく、少ない力の消費で得意技が使えるのだ。

 どごん!どごん!

 突然、入り口のドアが叩かれた。いや、叩くなどという穏やかなものではない。ドアを破ろうとしているのだ。

いそがなくちゃ。

 机の上に、スペルカードを置くと、引き出しを乱暴に引っ張る。はさみやものさしなどの文房具が沢山入っている引き出しを漁った。

 …これと、これ…。

 小悪魔が取り出したのは『銀の塊』と、『魔法陣が描かれたマット』だった。

 司書室の床に魔法陣が描かれたマット敷く。その上に銀の塊を載せた。

 どごん!どごん!

 ドアを叩く音が大きくなっていく。破られるのは時間の問題だろう。

 …もう時間が無い。私がやるしかないんだ…。

 小悪魔は大きく深呼吸をした。そして、右手にスペルカードを掲げる。

「解呪 封印されし鍵!」

 小悪魔が叫んだ。同時にスペルカードが光を放った。するとどうだろう。魔法陣が火を噴いたのだ。一瞬のうちに魔法陣は燃え尽き、そこに残ったのは『銀色の鍵』だった。

「はあ、はあ…。良かった、うまくいった…。」

 小悪魔は床に膝を付いた。全身から汗が噴き出してくる。

 どごん!どごん!

…休んでる場合じゃない…。

 小悪魔は、銀色の鍵を手に立ち上がった。机に向かい、羽ペンを手にする。

 羊皮紙に文章を書く。要点をだけをまとめた短い文章だ。

 …咲夜様…ごめんなさい…。

 たたんだ羊皮紙と銀色の鍵をペンケースに一緒に入れる。ペンケースはそのまま机の上に置いておいた。

 どごん!どごん!

 …逃げなくちゃ。私は死にたくないんだ…。

 ドアの前に立つ。

 どごん!どごん!

 …今だ!

 タイミングを見計らい、ドアを一気に押し開ける。

「光よ!」

 外に飛び出すと同時に魔法を放った。小悪魔の体が目が眩むほどに光輝く。

「うがぁ。」

 何者かが悲鳴を上げた。人型の影が映る。かなりの巨体だった。

 小悪魔は急いでドアを閉めて鍵を掛ける。そしてスペルカードを掲げた。

「転移 扉よ、転移せよ!」

 一瞬の出来事だった。司書室のドアが消えていたのだ。目の前にあるのは何もない壁だった。

 小悪魔は飛び上がると一目散にその場から離れる。

「うがあ!」

 何者かが追ってくる。

 後ろを見ちゃ駄目。捕まったら殺される。

 小悪魔にはわかっていた。追ってくる者の正体が。

 自分よりも遥かに強い力を持った存在。『悪魔』なのだと。





  2 黄昏に聴こえた交声曲



 太陽が地平線の彼方に沈んでいこうという時。紅魔館に向かって二人の人物が飛行していた。

「すっかり遅くなってしまったわね。」

 青を基調にしたメイド服に身を包んだ銀髪の女性、紅魔館のメイド長、十六夜 咲夜が呟いた。

「仕方ありませんよ、これだけの量のお使いですもの。今日中に済ませただけでも良かったと思いましょう。」

 となりを飛ぶ、緑の胴着を着込んだ赤毛の女性、紅魔館の門番隊の隊長、紅 美鈴が答えてくれた。

「そんなことは、言い訳にもならないわ。とにかく急ぎましょう。」

「はい。」

 二人はスピードを上げた。

 …確かに凄い量のお使いよね。いったい何に使うのかしら?

 二人は背負い袋を背負い、両手には麻の袋を持っている。これら全てがお使いの品である。量だけではない。変わった品物が大半だ。魔法薬から、薬草、茸、鉱石、金属片など、様々なものがある。ここ数日、女主人のレミリアと、その友人の魔女のパチュリーが一緒に何かの儀式をしているのだ。その儀式で使うらしい。魔法の知識のない咲夜達には用途がさっぱりわからなかった。

 …いいわ。使い道なんてどうだって。私は言いつけられた物を集めてくるだけ。

 紅魔館が見えてきた。夕日で赤く染まった館は、その名のとおりに紅く、鮮やかだ。

「…あれ?」

 紅魔館のほぼ真上に差し掛かった時だった。美鈴が何かに気づいて声を上げた。

「どうしたの?」

「正門に、誰もいないんですよ。」

 咲夜は正門を見る。普段なら門番隊の誰かがいるはずである。しかし、今は誰もいなかった。

「侵入者に破られたの?」

「…いえ、そうではないようですね。私、ちょっと見てきます。咲夜さんは先に戻っていてください。」

 美鈴は正門へと下りていった。

 美鈴に任せれば大丈夫ね。私は早く戻らないと。

 咲夜は裏口へと向かう。メイド長とはいえ、メイドはメイド。正門から出入りは出来ない。

 …とりあえず、この荷物はメイド達に任せて私は夕食の準備ね…。お嬢様が起きる前に済ませないと。…今日も時間を止めないとやり切れそうにないわね…。

 考え事をしているうちに裏口へとたどり着いた。裏口のドアノブに手をかける。

 がちゃがちゃ…。

 あら?鍵がかかっているわ。誰が掛けたのかしら。

 ポケットから鍵を取り出そうとして、咲夜は固まった。ドアノブを凝視する。

「なんで鍵穴が無いの?」

 ドアをよく見てみる。いつもの裏口のドアとは形が違っていた。

「ど、どういうこと?いつの間にドアごと交換なんてしたのよ…。」

 咲夜は立ちすくんでしまう。

「さ、さ、咲夜さん!」

 後ろから名前を呼ばれ、振り向いた。大慌てで美鈴がこちらに向かってくる。

「どうしたの?」

「ちょっと来てください。おかしなことになっているんです。」

「おかしなことって?」

「いいから来てください。早く。」

 美鈴は咲夜の手をつかむと正門へ向かって飛ぶ。

「ちょ、ちょっとなによ。」

 美鈴に引きずられるようにして到着したのは、正門のすぐ横にある、門番隊の詰め所の前である。

「一体どうしたのよ。」

「咲夜さん。ここを開けてみてください。」

 美鈴が指したのは、詰め所の入り口のドアである。

「…なぜかしら?」

「いいから早く!」

「わ、わかったわよ。」

 がちゃ。

「………。」

 思考が止まった。

「…美鈴…。」

「はい。」

「私の見間違いだったらごめんなさい。今、私の開けたドアは、門番隊の詰め所のドアよね。」

「はい、そうです。」

「そうよね。それでね、私の目の前に見える部屋って、門番隊の詰め所だったかしら?」

「いえ、違います。」

「私には、紅魔館の応接間にしか見えないの。」

「私にも応接間にしか見えません。」

「…どうなっているのよ!」

 思わず咲夜は美鈴につかみ掛かってしまった。

「美鈴!あなた、何をしたのよ!」

「わ、私じゃありません。私だってさっき開けてびっくりしたんです。」

「本当に?」

「ほ、本当です。咲夜さん、落ち着いてください。私にこんなこと出来ませんよ。こんなことが出来る人って限られているじゃないですか。」

「こんなことが出来る人?」

 咲夜の脳裏にある人物の顔が浮ぶ。紅魔館の図書館に住んでいる魔女の顔だった。

「…パチュリー様?」

「…たぶん…。」

「…なるほどね…。」

 なぜか納得してしまう。以前、節分で紅魔館中を豆だらけにしたり、花畑にミステリーサークルを作ったりなど、突拍子も無いことを始めた彼女である。他人の迷惑を顧みない行動は日常茶飯事だった。

 空間を弄って、応接間と詰め所のドアをつなげたのかしら?裏口のドアもパチュリー様の仕業?

「…こんなことをして何の意味があるのかしら…。」

「さあ…。」

「考えても仕方がないわね。とにかく館の中に…。」

 途中まで言いかけて咲夜は急に黙った。

「咲夜さん?」

「………。」

 背負いっぱなしだった荷物を下ろすと、詰め所の中を覗きこむ。

 普段見ている応接間だ。暖炉に火は入っていない。咲夜は一歩踏み込んだ。

「咲夜さん、どうした………これは…。」

 後を着いてきた美鈴も気づいたようだ。

 なに…この血の臭い…。

 咲夜の頭の中で警報が鳴り響く。この部屋の中で何かが起こっている。

 身構えながらそろそろと部屋の中へと進んでいく。

 部屋の中央に位置するテーブルと、それを囲むソファー。壁には大きな絵画と、大きな振り子時計が掛けられていた。

 咲夜と美鈴の呼吸以外全ての音がしない静寂の空間。時を止めてしまったかのようだ。

 血のにおいが強くなっていく。においの元は、暖炉の前のソファーの辺りだ。

 …美鈴…。

 …はい…。

 視線だけで合図をする。二人は駆け出した。ソファーを挟み込むようにして回り込む。

「なっ?」

「うっ?」

 同時に声を上げてしまった。

 そこには、血まみれの少女が倒れていたのだ。

「………どういうことなの………。」

「………わかりませんよ………。」

 美鈴が少女にそろそろと近づいて行く。屈みこんで手をつかんだ。

「冷たい…死んでだいぶ経っています…。」

「…そう…。」

「…うちのメイドの一人ですね。首がちぎれかけています。何者かに襲われたようですね。」

 一体何が起きているの?パチュリー様の悪ふざけにしては度が過ぎているし。

「…この傷口…一体どれだけの力を加えたらこうなるのでしょうか…。」

 ちぎれかけている首の部分を見てみる。首が半分ぐらいえぐれていた。尋常な力ではない。

 …う、気持ち悪い…。

 目の前の無残な死体と血のにおいのせいで、咲夜は嘔吐しそうになった。後ろを向いて死体から視線を外す。

 …え?

 振り向いた時に、何かが視界に入った。黒い『何か』が目の前に存在している。

 ―キーン―

 頭の中に耳を劈くような警戒音が鳴り響く。咲夜はとっさに飛び上がった。

 ヴォン!

 『何か』が剣のように伸びた。先ほどまで咲夜が立っていた場所をなぎ払う。

 な、何なの?わ、私を狙っていた?

 咲夜は上空から『何か』を見た。それは黒い塊だった。直径三十cmぐらいの球体が宙に浮いているのだ。

 な、何これ…初めて見る…えっ?

 咲夜は驚愕する。塊が突然膨張を始めたのだ。そして何かのカタチを作る。

「人間?」

 一瞬の出来事だった。塊は人のカタチになっていた。顔には目も鼻も口も無い。まるで、真っ黒に染められたマネキン人形のようだった。

「え?え?な、何ですか?」

 状況を理解出来ていない美鈴は立ちすくんだままだった。

 タンッ!

 ヒト型をしたモノが床を蹴った。右腕を振り上げながら美鈴に向かって飛び掛る。上空から見ている咲夜にはわかった。その動きに殺意があるのが。

「美鈴!」

「くっ!」

 不意打ちとはいえ、格闘技の心得がある美鈴である。ヒト型が振り下ろす拳を受け止める為に構えをとる。

 ドカッ!

「う、うわぁー。」

「美鈴!」

 しっかりガードをしたにもかかわらず、美鈴は弾き飛ばされてしまった。

 なんて力なの…まさか、メイドを殺したのもこいつ?

 人型をした塊は美鈴に追い討ちを掛けようとして再度床を蹴ろうとする。

 トスッ!

 その足元に、銀色に輝くナイフが投げ込まれた。

「あなたの相手は私がするわ。はらほら、かかっていらっしゃい!」

 ナイフを投げたのは咲夜だった。ヒト型をしたモノの注意を引き付けるために思い切り挑発する。

 ヒト型をしたモノがこちらを振り向いた。やはりその顔には目も鼻も口もない。だが、その顔がにやりと笑ったように見えた。

 床を蹴ったが飛び掛ってくる。しかし、咲夜は冷静だった。

「クロースアップマジック!」

 叫ぶのと同時に、咲夜の周りには無数のナイフが現れた。ナイフは咲夜を守るように展開される。

 ドスドスドス!

 ナイフがヒト型の体に次々と突き刺さった。だが、ヒト型の勢いは止まらず、咲夜めがけて腕を振り下ろす。

 しかし、そこには咲夜の姿は無かった。

「どこを見ているの?」

 咲夜は床に立っていた。右手に数本のナイフ、左手にはスペルカードを掲げて。

「幻符 殺人ドール!」

 咲夜は一気にナイフを投げつけた。そのナイフが次々に分裂する。瞬く間にヒト型はナイフの群れに囲まれた。

「いけっ!」

 咲夜の掛け声で、周囲のナイフが一気にヒト型に突き刺さる。

 ドスドスドス!

「………。」

 体中をナイフで貫かれたヒト型の動きが止まった。

「美鈴!」

「はい!」

 咲夜が時間を稼いでいる間に体勢を立て直した美鈴が突っ込んできた。左手にはスペルカードを掲げて。

「華符 破山砲!」

 凄まじい勢いで右の拳を叩き込む。

 ドゴオン!

 美鈴の拳はヒト型の体を貫いていた。

 パシュ。

 はじける様な音がしてヒト型は拡散して消えてしまう。カラカラと音を立てて、ヒト型に突き刺さっていたナイフが床に落ちた。

「………倒したの?」

「………たぶん。」

 辺りに気配が無くなったのを確認して、二人は構えを解く。

「今のは何だったのでしょう?」

「わからないわ。それより美鈴、怪我は無いの?」

「大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけれど。」

 美鈴は殴られた腕を見せながら笑顔を見せる。

「よかった。」

 咲夜も笑顔を見せた。

 ガタッ!

「「!」」

 背後で物音がした。二人は振り向いて身構える。

「咲夜様!美鈴様!」

 振り子時計の扉が開かれている。そして、中からメイド服の少女が飛び出してきた。

「あ、あなた…。」

「うわーん、咲夜様ぁー。」

 泣きながら少女が咲夜に飛びついてくる。その少女はメイドの一人だった。

「ど、どうしたの?何があったの?」

「…ぐすっ…みんな、みんなが…うわーん。」

 メイドの少女は、咲夜の胸で泣くばかりだ。

 咲夜は少女の頭を撫でてやりながら、落ち着くのを待った。

「…落ち着いた?」

「はいです。」

「そう。一体何があったの?」

「私にもよく分からないんですけど…。」

 たどたどしくも少女が話し始めた。

「咲夜様と美鈴様が出かけてから、私達はいつもどおり掃除をしていたんです。私はトイレの掃除をしていました。そうしたら、大きな地震が起こったんです。」

「地震?地震なんかあったかしら?」

「どうでしたかねぇ。何時頃?」

「正午前です。」

 正午前ねえ…まぁ、空を飛んでいればわからないか…。

「それで、とりあえず外に避難しようと思ってドアを開けたら、何故か倉庫に出たんです。」

「トイレのドアを開けたら倉庫に繋がったと…。」

「はい。訳が分からなくておろおろしていました。そうしたら、今度は隣のドアが開いて怪物が入ってきたんです。」

「怪物?さっきの黒いマネキンみたいな奴かしら?」

「いいえ、大きな角で鹿みたいな顔をした巨人でした。」

 大きな角…鹿みたいな顔…巨人…見たことがないわね。

「その怪物は私に襲い掛かってきました。必死に逃げたんですけど、捕まってしまって。いくら暴れても放して貰えなくて…。」

 恐怖が蘇ってきたのだろう。少女の声に震えが混じってきた。

「…殺されると思って目を瞑ったとき、突然手を放されたんです。目を開けたら、怪物はいなくなっていて、代わりに小悪魔ちゃんがいたんです。」

「小悪魔が?」

 紅魔館の図書館で司書をしている少女の顔を思い出す。

「小悪魔ちゃんは、私の手を引いて倉庫を飛び出しました。どこをどう通ってきたのか覚えていませんけど、私を応接間に連れてきました。そして、この振り子時計の中に押し込んだんです。『絶対に出てきちゃ駄目だよ。』って言ってどこかに消えました。それからずっと時計の中で震えていました…。目の前であの子が殺されるのを…見ているしか…ありませんでした…。」

 少女の両目に涙が溜まってきた。

「…小悪魔ちゃんに手を引かれている時もです…。廊下のあちこちでみんなが血を流して倒れているんです…。私…何も…何も………うわあーん。」

 少女はまた泣き出してしまう。咲夜はそっと頭をなでてやった。

「もういいわ。大丈夫よ、私がみんなを助けてあげるわ。」

「…ひっく…はい…。」

 …これは悪ふざけなんかじゃない。紅魔館の中で、とんでもない異変が起こっているのよ。

 咲夜は唇を強く噛んだ。





  3 館に響いた狂想曲



 外に出ると、すでに日は落ちていた。東の空には月が昇りだしている。月は新円を描いている。

「それじゃ、お願いね。」

「はい。咲夜様も美鈴様もお気をつけて。」

「私達は大丈夫よ。あなたも気をつけて。」

「はい。行って参ります。」

 メイドの少女は咲夜達に深々と頭を下げた後、空へと飛び上がった。そして紅魔湖の方へと飛び去る。

「…私達も行きましょう。」

「はい。」

 咲夜は美鈴と一緒に、正門へと向かった。

 彼女には博麗神社へと向かってもらった。博麗の巫女、博麗 霊夢に救援を要請するために。幻想郷の異変の解決においては彼女以上の人物はいない。

 …もっとも、霊夢が到着するのを待っていたら、紅魔館は滅びているでしょうね…。

 頭の中に嫌な考えが浮かんでくる。頭を振って忘れようとするが、不安は拭えない。

「…咲夜さん。正門、開きました。」

 美鈴が扉を開けながら話しかけてきた。

「…行きましょう。」

 二人は館の中へと入っていく。

 正門をくぐると、いつものロビーに出た。入ってすぐ左手には階段がついており、二階のラウンジへと上れるようになっている。天井には豪華なシャンデリアがかかっている、だが今は点いていなかった。

 …なにこの感覚…寒くも無いのにぞくぞくする…。

 ロビーはひっそりと静まり返っている。いつもなら、メイドの誰かが客人を迎えるはずだ。だが、今は誰もいない。

「不気味ですね…。」

 美鈴も感じているのだろう。声にいつもの明るさが無かった。

「…とにかく、お嬢様を捜しましょう。」

「はい。」

 メイド達のことも気がかりだが、何よりも主人の無事を確認したかった。

 ロビーは二階部分を含め、扉が四つほどある。正面の大きな扉は、応接間へとつながっている。客人を通すのはここだ。右手にも大きな扉がある。廊下が館の奥へと伸びており、途中には地下室へと向かう階段がある。図書館へ向かうのならば、この扉から入っていくのだ。左手の階段の下にあるのは小さなドア。これはメイド達の通用路である。先には、メイド達の部屋や食堂があるのだ。階段を上った二階のラウンジに扉がある。この扉から先が、主人、レミリア・スカーレットの自室へとつながっていた。この先に入れるものは、レミリアが信用している者だけだ。

 咲夜達は、二階へと上って扉を開いた。長い廊下が伸びている。

 廊下を奥に向かい全速力で飛行する。

 …おかしいわ…こんなに長いわけないのに…。

 疲労を感じるほど飛び続けただろうか。やっと扉が見えてきた。大きな扉を押し開ける。

「あら?」

「あれ?」

 目の前に見える部屋は、ロビーだった。応接間へとつながっているはずの扉から出てきてしまったのだ。

「…参ったわね…。」

 咲夜はどこからともなくナイフを取り出した。

「…参りましたね…。」

 美鈴は腰を低く落とす。

「後ろ!」

「はい!」

 二人は思い切り前へと跳んだ。

 ドカン!

 背後で何かが爆発した。爆風でややふらつきながらも、二人は無事に着地する。

「ウガァ!」

 爆発の向こう側から咆哮が聞こえた。爆煙ごしに見えたのは巨大な人影である。いや、人ではない。頭に大きな角を生やし、鹿に似た顔をしていた。

 彼女が言っていた怪物とはこいつね。

 咲夜はスペルカードを取り出して身構える。

「咲夜さん!こっちからも!」

 美鈴の指したほうを横目で見た。そっちにも同じ怪物が立ちふさがっている。

「…美鈴、そっちはお願い。速攻で仕留めるわよ。」

「はい。いきます。」

 二人は怪物に向かって突撃する。相手は自分の倍ほどもある巨体だ。二対二では挟み込まれると逃げ場が無い。それなら、機動力を活かせる一対一の方が有利と考えたのだ。

「ウォーン。」

 怪物が叫んだ。すると両手に炎が生み出される。

 ヴォン!

 風を切り裂く音を出しながら、咲夜めがけて炎の弾丸を投げつける。

「バニシングエブリシング。」

 着弾の瞬間、咲夜の姿はそこから消えていた。誰もいなくなった空間を炎の弾丸が通り過ぎる。

「アンビシャスジャック。」

 咲夜は怪物の背後にいた。怪物が振り向く前に手にしたナイフを次々に投げつける。

 ドスドスドス!

 怪物の背中にナイフが突き刺さっていく。

 これで決めるわ!

「幻象 ルナクロック!」

 咲夜のスペルカードが輝く。一瞬、全ての音が消える。次の瞬間、怪物の周囲には数え切れないほどのナイフが配置されていた。

「いけっ!」

 ザシュザシュザシュ…。

 怪物の全身にナイフが突き刺さる。怪物は悲鳴も上げる間も無くその場に立ち竦んだ。

 よし、早く美鈴の援護に…え?

 咲夜は目を疑った。怪物がこちらを振り向いたのだ。全身に突き刺さったナイフからは赤い血が流れ落ちている。

「…う、うそ…。」

 …倒れない…なぜ…あんなに血が流れているのに…。

 咲夜は無意識に後退りをしていた。

「ウガァ!」

 怪物が咆哮を上げて迫ってくる。

 しまった。

咲夜は必死に逃げようとする。だが、怪物の踏み込みの速さは、咲夜の予想を超えていた。

 怪物の右腕が咲夜目掛けて振り下ろされる。

 咲夜は両手で頭をガードした。衝撃を覚悟する。

 その時だった。

「光よ!」

 誰かの叫び声が聞こえた。周囲が物凄い光に包まれる。思わず目を瞑るがそれでも眩しい。

「咲夜様、こいつらは悪魔です。手加減なんかする必要なんてありません。」

「だ、誰?」

「咲夜様、紅魔館を救えるのはあなただけです。もっと非情になってください。」

「え?私?」

「はい。」

 さらに光が強くなる。両目を手で覆わないと目がつぶれてしまいそうだ。

 一体…何が起こっているの?

 次第に光が弱まっていく。

 光が完全におさまり、目を開けた時には怪物の姿は無かった。

「咲夜さん!」

 美鈴がこちらに向かって駆けてきた。

「咲夜さん、何があったんですか?」

「え?何って?」

「凄い光だったじゃないですか。光がおさまったら、怪物も消えているし。咲夜さんがやったんじゃないんですか?」

「…私じゃないわ…。」

「え?それじゃ誰が?」

「わからないわ。でも、もう一人誰かがいたのは確かよ。その人は、あの怪物を悪魔と呼んだわ。」

「あ、悪魔?」

「そう…。」

 咲夜は大きく息を吐いた。鼻腔の奥には、血の臭いが残っている。

 私が紅魔館を救う?誰が何のために紅魔館を?襲ってくるのは悪魔?

 頭に浮かんだ疑問に答えてくれる者はいなかった。



 咲夜達は廊下を進んでいた。

 ロビーから地下へと向かう扉は開かなかった。残るは使用人の通用路だけ。ならばここを進む他はない。

「後ろです!」

「くっ!」

「キシャー!」

 背後から突然何かが飛び掛ってきた。ぎりぎりのところでかわす。

「いい加減にして…。」

「同感です。」

 目の前にいるのは、大きな爪とキバを持った猿だった。もちろんこんな猿は幻想郷にはいない。こいつも悪魔なのだろう。

「次々出てきますよ。」

「くっ…一気に仕留めるわよ。」

 二人の周囲には、十体を超える悪魔が取り囲んでいた。

「傷符 インスクライブレッドソウル!」

「彩符 極彩颱風!」

 二人はスペルカードを掲げて駆け出す。

 ほんの数分後。悪魔たちは全滅していた。

「はぁ、はぁ…。」

「はっ、はっ…咲夜さん…怪我は…ありませんでしたか…?」

「大丈夫よ…。」

 二人とも大きく肩を上下させている。

 廊下に入ってから、次々に悪魔たちが襲撃してくる。倒した悪魔達は五十体を超えていた。

 もう、やめて…頭がおかしくなりそう…。

 咲夜と美鈴の服は悪魔の返り血で真っ赤だ。嗅覚は血の臭いで完全に麻痺してしまっている。

「咲夜さん、私につかまってください。」

「美鈴…。」

 美鈴は咲夜の右腕を自分の首に回して咲夜を抱えた。

「美鈴、ごめんなさい…。」

「私なら大丈夫です。咲夜さんは少し休んでください。」

「…うん…。」

 ふらつく咲夜に比べ、美鈴の足取りはしっかりしていた。人間の咲夜よりも、妖怪の美鈴の方が肉体的に余裕があるのだ。

「…あ、扉ですよ。」

 美鈴に抱えられながらしばらく進むと、大きな扉が見えた。

「…開けましょう。でも慎重にね…。」

「はい。」

 美鈴は咲夜の腕を放して、扉へと近づいた。

 ぎぎぃ―。

 ゆっくりと扉を開ける。何が出てきてもいいように、咲夜は身構えて待った。

 ………。

 しばらく待ったが何も起きない。咲夜はゆっくりと中を覗きこんだ。

 …ここは、食堂…。

 悪魔の気配がないのを確認して、二人は中へと入っていった。

 食堂はひどい有様だった。テーブルと椅子は砕け散って散乱している。白いテーブルクロスは所々赤く染まっている。天井の照明灯は砕け散り、破片で床が光っていた。

 …ひどい…。

 何があったのかは容易に想像できる。殺戮の光景を思い浮かべ、咲夜の表情がゆがんだ。

「咲夜さん…。」

「…大丈夫よ…大丈夫だから…。」

 心配する美鈴になんとか返事をする。

「先へ進みましょう…。」

「…はい。行きましょう。」

 がたがた、がたがた。

「「!」」

 何かの動く音が聞こえた。二人は音の方へと振り向く。音が聞こえたのは食堂の奥のドアだ。このドアは厨房へとつながっている。

 ガチャ。

 ドアが開いた。中から人影が飛び出してくる。

「やっぱり。咲夜様、美鈴様。」

 メイド服の少女だった。

「本当に咲夜様?」

「うわーん、咲夜様ぁー。会いたかったですぅー。」

「美鈴隊長ぉー。」

 すると、次々にメイドたちが食堂になだれ込んできた。

「み、みんな…。」

「「うわーん!」」

 メイド達は咲夜と美鈴に抱きついてくる。みんな泣いていた。

「…良かった…みんな生きていてくれて…。」

 メイド達の顔を見て、咲夜に少しだけ笑顔が戻った。



 メイド達が落ち着いたのは、それから十数分後だった。

 食堂にある椅子で、なんとか使えそうなものを集めて並べる。副メイド長が無事だったので、咲夜は椅子に腰を下ろし、話を聞いていた。

「…突然館の中に怪物が現れたとき、私達はパニックになりました。襲われてもう駄目だと思った時、小悪魔さんが助けてくれたのです。」

「小悪魔が?」

「小悪魔さんは怪物を追い払ってくれました。そして私達に『みんな食堂に避難して。後で必ず助けに行くから。』そういってどこかに消えました。私はみんなを食堂に誘導しました。次々にみんなが集まってくれたのですが、ここにも怪物が現れて…。なんとか厨房に逃げてバリゲートを張って耐えました。その時にも、何人かは犠牲になりました…。」

「そう…。ご苦労だったわね。あなたのおかげで被害が最小限に食い止められたわ。ありがとう。」

「もったいないお言葉です…。」

 彼女はうつむいてしまった。犠牲者を出したことに責任を感じているのだろう。

「元気を出して。後は私が何とかするから。」

「はい…。」

 …とは言ったものの…どうしたらいいの…。

 メイド達の無事は嬉しい。だが、肝心の主人の行方はわからない。不安は拭えないままだ。

「………。」

「咲夜様。これをどうぞ。」

「え?」

 メイドの一人が何かを差し出してきた。それはきれいに折りたたまれたメイド服だった。

 すっかり忘れていたが、咲夜の服は返り血で真っ赤に染まっている。

「ありがとう。」

 メイド服を受け取るとさっそく着替える。きれいな服に身を包むと、少しは血の臭いから逃れられた気がする。

「やっぱり咲夜様にはきれいなメイド服が似合います。」

 着替えを終えた咲夜を見て、メイドは笑顔で感想を述べた。

「…いい笑顔ね…うらやましいわ…。」

「咲夜様が無事だったからですよ。咲夜様が戻ってきてくれれば、もう怖いものなんかありません。」

「え?私?」

 …私を待っていたの?

「メイド長、お飲みください。」

 副メイド長が紅茶を入れて持ってきてくれた。

「紅茶?どうしたのこれ?」

「隣は厨房ですから。みんなにも淹れますので、遠慮なくお飲みください。」

「ありがとう、いただくわ。」

 紅茶のカップを口につけて傾ける。温かい液体が喉を通るのがわかった。

 …おいしい。今朝も飲んだはずなのに、何日も飲んでいなかった気がする…。

 大きく息を吐く。今までの疲れがすっと消えていった。

 周囲を見渡す。みんなに紅茶を配るメイド達の表情には笑顔が戻ってきていた。咲夜が戻ってきてくれたことで心に余裕が出来たのだろう。

 …みんなが私を待っていた。待っていてくれた。なら私に出来ることは…。

 咲夜は紅茶を一気に飲み干した。そして立ち上がる。先ほどとは表情が変わっていた。

「美鈴。」

「はい。準備は出来ていますよ。」

 すでに美鈴は立ち上がっていた。いつの間にか道着も着替えている。

「行きましょう。」

 紅魔館のみんなを守るのよ。

 咲夜は自分自身へと言い聞かせた。





  4 魔女が語った夜想曲



 厨房から裏口につながるはずのドアを開ける。そこは外ではなく、廊下が伸びていた。

「ここからね。」

「はい。この先に図書館がありました。」

 咲夜の質問にメイドの一人が答えた。彼女は逃げる時に図書館を通ったそうだ。

 図書館に行けば、何かがわかるはず。

 そう思い、ヴワル魔法図書館を目指すことにしたのだ。

「メイド長、お気をつけて…。」

 副メイド長が心配そうに声をかけてくる。

「私は大丈夫。それよりも、みんなをお願いするわね。」

「はい…。」

「咲夜様ぁ…美鈴様ぁ…。」

「お気をつけてください。」

「が、がんばってください…。」

 メイド達が励ましの言葉をかけてくれる。

「ありがとう。美鈴、行きましょう。」

「はい。」

 二人は飛び上がり廊下を進んでいった。

 …図書館に行けばパチュリー様に会えるはず。…それに小悪魔にも…。

 咲夜は図書館の主と司書の顔を思い浮かべていた。強大な力を持つ魔女に、下級とはいえ魔族である。この異変について何か知っているはずだ。

 特に小悪魔よ…。あの子、何かを知っているわ。

 咲夜は、さっきからうろちょろしている小悪魔が気になっていた。今思えば、ロビーで自分を助けてくれた人物も小悪魔のように思える。

 …なら、あの言葉…紅魔館を救えるのは私だけ…どういう意味なの…。そして私に非情になれって…なぜなの…。

「咲夜さん!また来ました!」

 隣を飛ぶ美鈴が叫んだ。廊下の向こうに見えるのは巨大な悪魔の姿である。

 思考を中断して悪魔の姿を確認した。その数約十体。

「美鈴、手を貸して。これだけの数を相手にしていられないわ。」

「はい。」

 咲夜は右手を美鈴の方へと伸ばした。その手を美鈴の左手がしっかりと握る。

「時符 プライベートスクウェア。」

 スペルカードを手にした咲夜が叫ぶ。周囲の音が消え、時が止まった。悪魔達はピクリとも動かない。

 咲夜は美鈴の手を引いて悪魔達の横をすり抜ける。

「時よ、動きなさい。」

 咲夜の声で時が動き出した。悪魔達の姿はすでに見えなくなっていた。

「追いかけて来ないでしょうか…。」

 後ろを見ながら美鈴がつぶやいた。

「その時はその時よ。今は先へ進むことだけを考えましょう。」

「はい。」

 美鈴は咲夜の手を離し、隣に並んだ。

「あ、扉が見えてきました。」

 美鈴の声で前方を確認する。大きな扉が見えてきた。扉の前で着地する。

「開けますよ。」

「ええ。」

 ギギギ…。

 鈍い音をたてて扉が開いた。

 …図書館…。

 中には無数の本棚が並んでいる。間違いなく、紅魔館に存在する『ヴワル魔法図書館』だった。

 二人は図書館へと入っていく。中はいつもより薄暗い。淀んだ空気が喉の奥に引っかかってしまいそうだ。

「パチュリー様!」

「パチュリー様。小悪魔ちゃん。居ないのですか。」

 二人の名を呼びながら奥へと進んでいく。だが、声が反響するだけで返事はない。

 十分も歩いただろうか。迷路のような本棚を進む。

「パチュリー様。小悪魔ちゃ…。」

「うるさいわね。」

 暗闇の中から声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。

「パチュリー様ですか?」

 声のした方を振り向く。いつの間にかそこには机と椅子がおいてあり、紫色の服を着た女性が本を片手に座っていた。

「パチュリー様。ご無事でしたか。」

「うるさいと言ったでしょう。」

 本を閉じて立ち上がる。その女性は間違いなく、ヴワル魔法図書館の主、パチュリー・ノーレッジだった。

 え?パチュリー様よね…。なにか…なにか変な気がする…。

「いったい何の用かしら?私の読書を邪魔するだけの価値のある用事なのでしょうね?」

「え?な、何の用って…。」

 あまりの威圧感に美鈴は言葉を飲み込んでしまった。

 おかしいわ…何かがおかしい。

「パチュリー様。紅魔館がおかしくなってしまったのはご存知なのでしょう。どういう事なのですか?」

 咲夜はパチュリーの目を見つめて言った。

「…おかしい?何のことかしら?」

「とぼけないでください。誰かが館の空間を弄って、悪魔を呼び寄せた事です。」

「…ああ、その事なの。」

 まるで興味がないかのように、パチュリーは答えた。

「そんなの大した事じゃないわ。」

「な?どういう意味ですか?」

 多くのメイド達が命を落としているのに…それを大した事ではないと言うの?

「空間を弄ったのは私だもの。それくらいの事、大した事じゃないという意味よ。」

「「な…。」」

 二人は言葉を失った。

「な、なぜそのような事を…。」

「レミィの頼みだからよ。」

「お、お嬢様が?」

 な、なぜ、お嬢様が…。

「それに、悪魔を呼び出したのはレミィよ。私じゃないわ。」

「う、うそ…。」

 そ、そんな…。紅魔館の異変はお嬢様の仕業なの…。

「ど、どうしてなんですか!みんな…みんなが殺されたっていうのに!」

 美鈴がパチュリーに向かって叫ぶ。

「言ったわよ。レミィの頼みだって。」

 パチュリーは本を小脇に抱えて近づいてきた。

「もう一つ、レミィから頼まれたことがあるの。」

 パチュリーは咲夜を見た。

「咲夜。あなたを『殺してくれ』って。」

「………え?………。」

 今、なんて言いました?お嬢様に頼まれた?何を?私を殺す?何で?殺してくれ?誰が?お嬢様が?誰を?私を?殺す?殺す?殺す?

 咲夜の頭の中をパチュリーの言葉がかき回す。

「な、なんで…お嬢様が…私を…殺すの…。」

「決まっているでしょう。あなたが邪魔だからよ。」

「私が…邪魔?」

 その場に膝をついてしまう。

「いいわよ。そのままおとなしくしていて頂戴。」

 パチュリーがスペルカードを取り出した。右手に炎が生み出される。

「火金符 セントエルモピラー」

 炎の弾丸が咲夜に向かって放たれた。だが、咲夜は避けようともしない。

「光符 華光玉!」

 ドゴオン!

 咲夜の目の前で爆発が起こった。炎の弾丸を美鈴が迎撃したのだ。

「え?美鈴…。」

「咲夜さん、だまされちゃ駄目です。」

 美鈴が咲夜とパチュリーの間に割って入った。咲夜をかばうように身構える。

「このパチュリー様はおかしいです。そんな人の話を鵜呑みにしては駄目です。お嬢様が咲夜さんを殺そうとするなんて、絶対にありえません。」

「美鈴…。」

「咲夜さん、そこで見ていてください。私がパチュリー様の目を覚ましてあげます。」

「え?あなた、パチュリー様と戦うつもりなの?」

「はい。」

 美鈴はパチュリーをにらみつける。

「邪魔をするの?美鈴。それならあなたから先に始末するだけよ。」

「いきます。たあっ!」

 美鈴はパチュリーめがけて飛び掛る。

「うりゃ!」

「くっ…。」

 美鈴は飛び蹴りから、パンチ、キックとコンビネーションを放つ。パチュリーは結界を張っての防戦一方だ。

「はっ!」

「ぐふっ。」

 美鈴の拳がパチュリーの腹部を捉えた。パチュリーはその場にうずくまる。

「とどめ!降華蹴!」

 美鈴が頭上からのかかと落としを放った。

「甘いわ。スプリングウインド。」

 パチュリーを中心に突風が巻き起る。

「う、うわっ。」

 バランスを崩した美鈴は技を止め、何とか着地する。

「くっ、ならば螺光歩!」

 拳を前方に突き出して突進していく。

 にやり。

 パチュリーの表情がにやけた。右手にはスペルカードが握られている。

「美鈴!だめ!」

 気づいた咲夜が声をかける。だがもう遅かった。

「金土符 エレメンタルハーベスター」

 パチュリーの周囲に巨大な円形チェーンソーが生み出された。

「う、うわぁー!」

 チェーンソーに切り裂かれ、美鈴の体が宙を舞った。

「美鈴!」

「まだ終わらないわよ。土水符 ノエキアンデリュージュ。」

 パチュリーが美鈴に向かって右の人差し指を向ける。その指先から、圧縮された水球が次々と飛び出して美鈴を襲った。

「ぐはっ!」

「美鈴!」

 吹き飛ばされた美鈴に咲夜が駆け寄る。息はあるが、美鈴は気絶していた。

「今度こそあなたの番よ。」

 パチュリーが近づいてくる。

「…パチュリー様…。」

 倒れた美鈴をかばうように立ち上がる。

「本当に…本当に私を殺すのですか?それがお嬢様の望みなのですか?」

「何度も言わせないで。私はレミィにあなたを殺すように頼まれた。理由はあなたが邪魔だから。」

「そんな…。」

 お嬢様が私を邪魔だと思っているの?私はお嬢様の為に精一杯がんばってきたのに…。

「観念したようね。今、楽にしてあげるわ。………いえ、その前に。どうやらネズミがもぐりこんだみたいね。」

「え?」

「そこにいるのはわかっているわ。出てきなさい。」

 パチュリーは指先に光を生み出すと、頭上に向かって放った。

「…小悪魔?」

 天井近くまである本棚の上部が照らされる。そこにいたのは、図書館の司書、小悪魔だった。

「………。」

 小悪魔は無言で咲夜の隣に降り立った。

「小悪魔、あなた…。」

「………。」

 小悪魔はパチュリーから目を放さない。

「小悪魔。あなたまで私の邪魔をするのね。それならば容赦しないわ。」

 パチュリーはスペルカードを取り出した。

「逃げます。」

「え?」

 小悪魔もスペルカードを取り出した。

「逃がさない。日符 ロイヤルフレア。」

「転送 我が体、転移せよ!」

 パチュリーのスペルが命中する寸前、咲夜達三人の体は消え去っていた。

「う、うああああああ…。」

 凄まじい圧力が咲夜の体を襲う。間の前は真っ白で何も見えない。

 体が引き裂かれそう…助けて、助けて…。

「咲夜様、しっかりしてください。」

 誰?小悪魔?

「よく聞いてください。もう時間がありません。咲夜様以外には紅魔館を救えなくなってしまいました。」

 なぜ?なぜ私なの?

「この異変の犯人を倒せるのは咲夜様だけだからです。」

 犯人?それは誰?

「その人の名は…レミリア・スカーレット…。」

 え?

「咲夜様、思い出してください。そうすれば、レミリア様を救えます。」

 どういう事なの?わからないわ。

「忘れないでください。レミリア様を救えるのは咲夜様だけなのです。」

 ちょっと…待って…説明してよ…。

 さらに圧力が強くなる。咲夜は気が遠くなってきた。

 お嬢様を救うには、お嬢様を倒す…なぜなの…。

 咲夜は気を失った。





  5 悪魔と踊る輪舞曲



 どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。咲夜は仰向けで床に倒れていた。

「…うん?」

 咲夜の両目が開いた。背中が冷たい。

「…ここは…。」

 体を起こし、周囲を見渡す。長い廊下だった。照明が不十分の為、廊下の先までは見渡せない。

「…め、美鈴!」

 記憶が蘇ってきた。立ち上がって友の名を呼ぶ。

「美鈴!小悪魔!パチュリー様!」

 だが、いくら呼んでも誰の返事も無かった。

 …美鈴、無事でいて…。

 倒れている友の姿が思い浮かぶ。今の咲夜には彼女の無事を祈るしかなかった。

 …ここはどこなのかしら…。

 改めて周囲を見渡した。紅魔館の廊下であることは確かだ。廊下の装飾から見ると、地下室に向かう廊下だと思う。どのみち空間が弄ってあるので、どこにつながっているのかわからない。

 進むしかないのね。

 咲夜は飛び上がって、廊下を進む。慎重にゆっくりとだ。

 …お嬢様…。

 単調な廊下を進んでいると、嫌でも何かを考えてしまう。

 パチュリー様の言うように、お嬢様が異変を起こしたの?それは考えられないわ。それに、私を殺そうとしているなんて…。小悪魔の言っていることもわからない。お嬢様を助ける為に、お嬢様を倒す?どういうこと?…それは私にしか出来ないこと…、なぜ私にしか出来ないの?…お嬢様、いったいどうなっているのですか…。

「…ん?ドア…。」

 前方にドアが見えてきた。咲夜はドアの前に降り立った。

 ゆっくりとドアノブに手をかける。

 ―キーン―

「!」

頭の中で何かが叫んだ気がした。咲夜は思わず手を引っ込める。

 な、なに今の…。頭の中に直接響いてきた…。

 咲夜には警報のように思えた。この中には恐ろしいものがいる。そう告げているかのようだった。

 ゴクリ。

 咲夜は生唾を飲み込んだ。

 きっと、戦いは避けられない…。ナイフを抜かないと…。

 ナイフを抜く。銀色の刃が鈍く光った。

 …私はまだ死ねない…。お嬢様、美鈴、力を貸してください。

 咲夜は覚悟を決めると、ドアノブに再度手をかけた。

 ガチャ。

 ドアを開けてすばやく中に入る。後ろ手でドアを閉め、警戒しながら周囲を見回す。

 そこは部屋だった。薄暗く、空気が淀んでいる。

 しくしく…。

 奥から誰かのすすり泣きが聞こえた。声の高さから少女のように思える。

 …この声…もしかして。

 咲夜は部屋の奥へと駆け出した。

「…しくしく…。お腹が空いたよ…。」

 そこにいたのは確かに少女だった。赤いブラウスに同じく赤いスカート。ピンクの帽子をかぶった少女が座り込んで泣いている。

「妹様…。」

「あう?」

 咲夜の呼び声に少女が顔を上げた。その少女は、レミリアの妹、フランドール・スカーレットであった。

「よくご無事で…。」

「………。」

「…妹様?」

「…人間…。」

 ―キーン―

 またもや咲夜の頭の中に警報が鳴り響いた。

「…いただくよ!」

「い、妹様?」

 フランドールが咲夜めがけて飛び掛ってきたのだ。咲夜は身をよじり、かろうじて回避する。

「人間…なら、私が食らう!」

「な、なぜ?」

 フランドールの赤い目がさらに真紅へと染まる。そこにはいつもの無邪気な笑顔の面影はなかった。

「うおお!」

「くっ。」

 飛び掛ってくるフランドールを必死にかわす。その動きには殺意が込められていた。

 そんな…妹様まで私を殺そうとするの?

「ちょろちょろするなぁ!禁忌 クランベリートラップ!」

 周囲の空間に無数の赤い実が生み出された。咲夜の退路をふさぐようにそれは展開する。

「くっ!」

「これで逃げられない。観念しろ!」

 く…ならば。

 フランドールが飛び掛ってくる。咲夜はスペルカードを取り出した。

「幻符 インディスクリミネイト」

 無数のナイフが咲夜を中心に放たれた。ナイフは周囲の赤い実を次々に落とす。

「むっ!」

 ぎりぎりのところで、咲夜はフランドールの突進をかわす。

 なんとかかわした…次はどうすれば…。

 フランドールと距離をおいて着地する。フランドールも咲夜の方を向いて着地した。

「お前、なんで攻撃してこない?」

「い、妹様…、私がわからないのですか…?」

「人間の知り合いなど私にはいない。」

「妹様…。」

 フランドールが少しずつ近づいてくる。咲夜は少しずつ後ずさりするしかなかった。

「おとなしく私に食われろ。禁忌 レーヴァテイン。」

 フランドールの右手に、炎を纏った剣が生まれる。

「うおお!」

「くっ!」

 咲夜は両手にナイフを構えフランドールを待ち構える。

 ぶん!ぶん!ぶん!

 フランドールが斬撃を放ってくる。

 シュ!ガキン!パシュ!

 斬撃を避け、弾き、よける。レーヴァテインを受けたナイフは一撃で砕け散った。回避しても、凄まじい熱風で体が焼かれる。

 殺される、このままでは…。でも、どうしたらいいの?

「これならどう?」

「な?ああっ!」

 フランドールの斬撃は、咲夜の足元を払ってきた。真上にジャンプして避けるが、間に合わず左足が激痛に襲われる。

「うあああ!」

「次は右足だ。」

 フランドールは右足に向かってレーヴァテインを振り下ろす。

「バ、バニシングエブリシング。」

 レーヴァテインが命中する寸前、咲夜は時を止めて空間を飛び越えた。

 ドガッ!

「ぐ…はっ…。」

 咲夜は壁に背中から叩きつけられた。無理な体勢で力を発動させた為、着地に失敗したのだ。

「ほう。やるな。でも、もう終わりだ。」

 壁に背をあずけて座り込む咲夜に向かって、フランドールがゆっくりと近づいてくる。

 何とか目を開ける。ゆっくりと近づいてくるフランドールの姿が見えた。

 …こんなところで死ぬの?…だめよ…私はまだ死ねない…。お嬢様に会うまでは死ねないの…。

 拳を握り締める。左足以外はまだ動いてくれた。

 …ん?

 もう一度フランドールを見つめる。すでにレーヴァテインは消えていた。ゆっくりと近づいてくる。

 …なぜさっさと止めを刺さないの?私にはまだ余力が残っているのに…。

 ―吸血鬼が人間を襲う理由は主に二つに分類される―

 え?誰?

 ―まず、一つ目は殺戮を目的としたもの。吸血鬼の精神的な感情から来る殺戮衝動も含まれる。この状態の吸血鬼は、策略をもたず、真っ向から襲ってくることが多い。この場合、真っ向から勝負を挑む実力がない限り近寄るべきではない。どうしても逃げられない場合は、策略を立て、罠を仕掛けるのが良いだろう―

 頭のなかに響いてくる。

 ―二つ目は、吸血を目的としたもの。この状態の吸血鬼は、前者と違い策略を立てることが多い。なぜなら、吸血鬼は相手を生け捕りにしようとするからだ。吸血鬼といえど、心臓の停止してしまった人間からの吸血は苦労を伴う。心臓の動いている状態ならば吸血が容易に出来る。よって、吸血鬼は自ずと手加減をしてくる。その隙をつければ撃退も不可能ではない―

 …撃退も不可能ではない…。

 咲夜は大きく目を開いた。フランドールがたどり着くまで後十秒ほどある。

 …撃退の手段は?

 ―吸血鬼の弱点というと、十字架、にんにく、聖水、日光、流水、銀の武器など多く知られている。確かに吸血鬼はこれらを嫌うが、これらで致命傷をあたえることは難しい。これは、真の弱点を隠すためのカモフラージュと考えられる―

「諦めたみたいだな。おとなしく血を吸われていれば良かったものを。」

 フランドールが咲夜の肩に手をかけた。

 ―吸血鬼の弱点とは、魔族でありながら人間に極めて近い体内構造をしていることである。つまり、人体に対して有効な攻撃手段が通用するのだ―

 フランドールのキバが咲夜の首筋に迫る。

「はっ!」

 ドスン!

「ぐはっ…。」

 咲夜の右の拳がフランドールのみぞおちに突き刺さっていた。

 人間が絶対に鍛えることが出来ないところなら…通用する。

「ぐえっ…。」

 フランドールは腹部を抑えてうずくまったままだ。

「たぁっ!」

 ガツン!

「くわ…。」

 うずくまるフランドールの顎の下に、アッパーカットを叩き込む。

 …顎から衝撃は脳までとどく。脳しんとうはまぬがれない。

 吹き飛ばされたフランドールは床に倒れこむ。そのまま起き上がってこない。

 咲夜は動く右足で床を蹴った。すばやくフランドールの背後に回りこむ。

「う、な、なにを…。」

 フランドールの首に腕を巻きつける。そのまま、チョークスリーパーの体勢で頚動脈を締め付けていく。

「…は、放せ…く、くるし…。」

 脳に血液がいかなくなれば、酸欠で気絶するはず…。

 フランドールは暴れて咲夜を振りほどこうとする。しかし、脳しんとうを起こしているため、体が思うように動かない。

 咲夜は手を緩めない。そのまま十数分も経っただろうか。

「………ぐ……は………。」

 フランドールが気を失った。

 咲夜はフランドールから手を離すと、そのまま後ろへと倒れこんだ。

「はあ…はあ…。」

 …なんとか…勝てた…。…左足、大丈夫かな…。

 体を起こして、左足をさする。痛みはまだ引かないが、火傷だけですんだようだった。適切な治療をすれば、数日で完治するだろう。

 となりで気絶しているフランドールを見た。先ほど襲ってきた悪魔の面影はなくなっており、ただ眠っているだけに見える。

 …パチュリー様に続いて妹様まで…。いったいどうなっているの…。

「…う、うーん…。」

「い、妹様?」

 フランドールが目を覚ましたようだ。咲夜は立ち上がって身構える。

「…ん?ここ…どこ?」

「…妹様?…。」

「え?…咲夜?」

 咲夜の名を呼んだフランドール表情は、いつもの無邪気な少女に戻っていた。

「よかった…。」

 緊張が緩んだせいか、咲夜はその場に座り込んでしまう。

「咲夜?………え、咲夜?………咲夜!」

 フランドールが飛びついてきた。咲夜は倒れるのを何とかこらえて受け止める。

「咲夜、怪我は?足、ちゃんと動く?」

「え?妹様…先ほどの事、憶えているのですか?」

「うん…ごめんね、咲夜…。」

「謝るのは私の方です。妹様を殴ってしまいました。申し訳ありません。」

「ううん。咲夜は悪くないよ。私、どうかしてたんだ…。ごめんなさい。」

「…はい…。」

 目に涙をためるフランドールを、咲夜はそっと抱いてやった。



 フランドールは、部屋の奥から救急箱を引っ張り出してきた。もしもの為に、咲夜が置いておいたものだ。運よく火傷用の軟膏が入っていてくれた。

 火傷のひどかった左足ばかり気になっていたのだが、小さな火傷は体中に出来ていた。レーヴァテインの余波は相当なものだったらしい。火傷に軟膏を塗り、包帯を巻いていく。

 治療をしながら、今までの出来事を話して聞かせた。初耳だったらしく、フランドールは驚いた。

「そうだったんだ…。咲夜、ごめんね…。」

「私は大丈夫です。もう謝らないでください。」

「…うん…。」

「それよりも、妹様の知っていることを聞かせていただけませんか。」

「うん。私が部屋にいたら、大きな地震が起きたんだ。すぐにおさまったんだけど、部屋の中がぐちゃぐちゃになっちゃって。誰かを呼ぼうかと思ったら、突然お姉様が入ってきたの。」

「え?お嬢様が?」

「うん。お姉様は何にも言わないで、私の目をじっと見つめるの。そしたら、だんだん頭がぼうっとしてきて、凄くお腹が空いてきて。気づいた時にはお姉様もいなかった。その後、部屋で泣いていたら、人間が入ってきたの。それが咲夜だったんだけど、その時は咲夜だってわかんなかった。それで襲い掛かっちゃたの。」

「…そうですか…。」

「吸血鬼の目には、相手に暗示をかける力があるの。普通の人間にやったら発狂するぐらい強力だから、私はお姉様に暗示をかけられたんだと思う。」

「………。」

 咲夜の表情が強張った。

 すると、パチュリー様がおかしかったのも、暗示をかけられたからだと思う。暗示をかけられるのはお嬢様以外にはいない。やっぱりこの異変の首謀者はお嬢様なの…。

「咲夜、お姉様に会いに行こう。」

「妹様…。」

「私に暗示をかけて、咲夜を襲わせるなんておかしいよ。そんなのお姉様じゃない。きっと、お姉様も暗示をかけられてるんだ。」

「…そうかもしれませんね。」

 そうあって欲しい。お嬢様が自らの意思でこの異変を起こすなんて考えたくない…。

「二人でお姉様を殴りに行こうよ。一発殴れば私みたいに正気に戻るよ、きっと。」

「そうかも知れませんけど…。」

「…そういえば…ねえ、咲夜。」

「何ですか?」

「さっき私と戦ったときなんだけど、私のこと、素手で倒しちゃったじゃない。いったいどうやったの?」

「え?それは…。」

「私も手加減はしていたけど、素手で倒されたのは初めてだよ。どうやったらそんなこと出来るの?」

「………。」

 なぜだろう…。あの時、頭の中に聞こえてきたあの言葉。その言葉どおりに攻撃したら、本当に妹様を倒せてしまった。いったい、誰が…。

「咲夜?」

「…私にもわかりません。無我夢中でしたので。多分、偶然が重なっただけですよ。」

「ふーん。そうなんだ。お姉様のお仕置きより堪えたよ。」

「え?そんなに?」

「大丈夫だよ。もう痛くないもん。…それより咲夜。」

「はい?」

「お腹が空いたよ。咲夜の作ったご飯が食べたいの。だから、早くお姉様を見つけて、一緒にご飯にしよ。」

 フランドールは立ち上がった。

「そうですね。お嬢様を捜しましょう。」

 咲夜も立ち上がった。





  6 隠されていた聖譚曲



「咲夜、あんなところにドアなんてあったっけ?」

「ドアですか?」

 フランドールの指差した先には確かにドアがあった。部屋の出入り口の反対側だ。そこにはドアは無いはずだった。

「あそこにドアはありませんでした。空間を弄ったせいで出来たのでしょう。」

「…開けてみようよ。」

「どこに繋がっているかわかりませんよ。」

「だったらなおさら。もしかしたら、お姉様の部屋に出るかもしれないよ。」

「…そうですね…。」

 咲夜は少しためらいながら答えた。

 今の目的はレミリアに会うこと。ならば、レミリアの部屋に繋がっているのが一番良い。だが、今の咲夜は、レミリアに会いたい反面、レミリアに会うのが怖かった。

 …小悪魔の言った事が事実なら、私はお嬢様と戦うことになる…。妹様の言うように、お嬢様が暗示にかかっていても、私はお嬢様と戦うことになってしまう…。お嬢様と戦うのだけはいや…。

「咲夜?」

「…あ、はい。」

「どうしたの?顔色が悪いよ。」

「いえ、なんでもありません。行きましょう。」

「う、うん。」

 咲夜はドアノブを握る。

 …やっぱり、お嬢様に会いたい…。

 ガチャ。

 ドアを引き開ける。

 ドアの向こうに気配が無いのを確認して、中に入っていく。

 そこは本棚が沢山置いてある小さな部屋だった。

「ここどこ?」

「ここは、図書館の司書室ですね。」

「なんだ、つまらない。お姉様の部屋なら良かったのに。」

 フランドールはつまらないと言ったが、咲夜にとっては喜ぶべき場所だった。さっきからうろちょろしている小悪魔の部屋だ。何か重要な手がかりがつかめると、咲夜は思った。

「妹様、この部屋を調べてみましょう。異変についての手がかりがつかめそうな気がするのです。」

「そうなの?わかった。」

 部屋を見渡す。入り口の正面には机が置いてある。左右には大きな本棚が置いてある。どちらとも本がぎっしりと詰め込まれていた。

「机を調べてみましょう。」

「うん。」

 机の上には、羊皮紙、ペンケース、文鎮、インク、羽ペンなどの筆記用具が乱雑に置いてあった。インクビンが倒れ、机の上に大きな染みが出来ている。地震の時に倒れたのだろう。

 次に引き出しを開けてみた。どの引き出しにも、文具が沢山入っている。

「…咲夜、別におかしな物は入ってないと思うけど…。」

 引き出しの中身をひっくり返しながら、フランドールが言った。

「そうですね。特におかしな物はありませんね。」

 続いて、本棚を見てみる。向かって左の本棚の下にはいくつかの本が散らばっていた。本を拾ってみたが、種類はばらばらである。

「咲夜…この本棚の本、全部調べてたら明日になるよ…。」

「同感です。本棚は諦めましょう。」

 そうなると、やはり机しかないわね。

 もう一度机の上をよく見てみる。インクがこぼれて周囲の筆記用具を黒く染めている。

「ん?」

 咲夜は、インクが不自然に切れている部分を見つけた。ペンケースの置いてあるところだ。ある一部分だけ染みが無かった。つまり、地震の後、誰かがペンケースを動かしたということだ。

 ペンケースのふたを開けてみる。すると、中には、羽ペン、インク、ものさしなどの筆記用具に交じって、銀色の鍵と、丸めた羊皮紙が入っていた。

 何かしら?

 咲夜は銀色の鍵と、羊皮紙を手に取った。羊皮紙を広げてみる。

 ―東側の本棚の裏―

 と、見慣れない文字で書いてあった。

「東側?」

 東側と言われてもすぐにはわからない。ましてやここは地下にある。方角などあまり意味が無い。

 えっと…司書室は、図書館の北側に在ったから、入り口は南側になるわね。すると、東は入り口から見て右側ね。

 右側の本棚をよく見てみる。本棚は壁にぴったりとくっ付けてあり、裏側は見えない。

「咲夜、どうしたの?」

「ああ、こんな物が出てきたんです。」

 咲夜はフランドールに羊皮紙を手渡した。すると、羊皮紙を見て、フランドールは難しい表情を見せる。

「ねえ、咲夜。これなんて書いてあるの?こんな字見たことないよ。」

「それはですね………え?」

 咲夜はフランドールから羊皮紙を受け取ってもう一度見た。

 な、なにこの字…。見たことも無いわ。なのに、私、何でこれが読めるの?

「な、なんで…。」

「どうしたの?」

「あ、いえ…。これは『東側の本棚の裏』と書かれているんです。多分、その本棚の事だと思うんですけれど。」

「そうなの?それじゃ、私がどかしてあげるよ。」

 フランドールは本棚の横に回りこむ。本棚に手をつくと、力いっぱい押し込んだ。

「うーん…。」

 ズズズ…。

 重い本棚がゆっくりと動き出した。

「………。」

 その光景を見ながら、咲夜は考え込んでいた。

 …妹様との戦いのときに頭に浮かんだ言葉も、この羊皮紙に書かれている文字も、記憶にはないのに…。私は一体何者なの…。

「咲夜!ドアがあるよ!」

「え?は、はい!」

 フランドールの声で現実へと戻される。

 本棚の裏にあったのは、縦長の小さなドアだった。

「このドア、ドアノブが無いよ。鍵穴はあるんだけど。」

「ドア、と言うよりも、これはロッカーですね。」

「…開かないよ。」

「もしかして…。」

 咲夜は羊皮紙と一緒に入っていた銀色の鍵を取り出した。

 鍵穴に銀色の鍵を差し込んで回す。カチリ、と小さな音が聞こえた。鍵が開いたらしい。

「…開けますよ…。」

「うん。」

 咲夜が手を掛けると、音も無くロッカーの扉が開いた。

「なにこれ?着替えが入ってただけ?」

「…これは…。」

 ロッカーの中には、ハンガーに掛けられた黒い服があった。足元には同じく黒いブーツが置いてある。他にも何か小物が入っているようだ。

「小悪魔の着替えかな?わざわざこんなところに隠してどうすんだろ。ねえ咲夜。…咲夜?」

 フランドールの声は咲夜の耳に届いていなかった。咲夜はロッカー内の服を取り出して手に取った。

 ロッカーに入っていたのは、『長袖のシャツ』『膝までのスパッツ』『首を覆うチョーカー』『指ぬきのグローブ』『膝までのブーツ』である。全て黒色に染められ、厚手の布で作られていた。

 ―これは私の物―

 咲夜の頭の中に声が響く。あの時の声だ。

「咲夜、どうしたの?」

「妹様、失礼致します。」

 咲夜はその場で突然服を脱ぎだして肌着姿になる。そして、取り出した服を身に付けていく。咲夜の姿は、黒一色になっていた。

 着てもまったく違和感が無い…。サイズもぴったり…。体中を覆う黒い鎧…そうこれは鎧。初めて見たはずなのに、これを着ていた気がする…。

「え?それって咲夜の服なの?」

「…多分そうなのだと思います…。」

「多分って、どういう事?」

「………。」

 その質問に咲夜は答えず、黒いシャツの上からメイド服を着込む。外見はいつもの服装になった。

「…まだ何か入っているよ。」

 フランドールがロッカーの奥から何かを取り出した。それは、一冊の薄いノートと、ホルダーに収まったナイフだった。

「貸してもらえますか。」

「う、うん。」

 フランドールからそれらを受け取る。

 ホルダーからナイフを引き抜いてみた。刃渡り二十cmはあろうかという大型ナイフである。握って軽く振ってみた。重さを感じない程に軽い。そして、咲夜の手にしっくりと馴染んでくれる。

 …このナイフも、使ったことがある気がする…。

「さ、咲夜…。そ、そのナイフ何?私、なんだか怖いよ…。」

「え?妹様?」

 フランドールが怯えた声を上げた。先ほどまでの笑顔が消え、顔面蒼白であった。

「咲夜、そのナイフしまって…。怖い…。」

「は、はい。」

 咲夜はナイフをホルダーに戻す。すると、フランドールの表情に笑みが戻ってきた。

「あうー。なに今のナイフ。見てたら凄く怖くなってきて。ねえ、それも咲夜のナイフなの?」

「…それは…わかりません。」

「………。」

 咲夜の答えに不満らしく、フランドールの表情が曇る。

「咲夜、私に何か隠しているでしょ。」

「それは…。」

「話してよ。咲夜、凄く辛そうなんだもん。私で力になれるか分からないけどさ。」

「………。」

 妹様にあのことを話すの…。それは…。

「咲夜!」

「………わかりました。」

 咲夜は大きく息を吐いた。フランドールの眼を見つめる。

「このことを知っているのは、お嬢様だけなのですが。」

「うん。」

「私には、紅魔館に来る以前の記憶が無いのです。」

「へ?」

 フランドールが間の抜けた声を上げた。あまりにも予想外だったようだ。

「な、なんで?」

「わかりません。お嬢様が言うには、記憶を失って迷い込んできた私をメイドとして使うことにしたそうです。なので、紅魔館に来る前の私の過去は誰も知らないのです。」

「そうだったの…。え?じゃ、このナイフとか服は何なの?昔の咲夜の持ち物だとしたら、なんでこんなところにあるの?」

「わかりません。でも、このナイフや服は私に合わせて作ってあるのです。恐らく、私が紅魔館に来る前に持っていた物だと思います。それをここに隠す理由は何なのでしょうか…。」

「うーん………隠しておいたって事は、いつか使うことがあるかも知れないからだよね。それしか考えられないもん。」

「そうかもしれません。でも、このナイフもこの服も間違いなく武具です。それも強力な。メイドの私にこれを使って何をしろと言うのでしょうか…。」

「う、うーん。」

 フランドールは腕組みして悩んでしまった。

 お嬢様…私にいったい何をさせる気なのですか…。そして、私は何者なのですか…。

「そうだ。咲夜、ロッカーに入っていたノートを見てみようよ。何か書いてあるかもしれないよ。」

「これですか?」

 手にしたノートを見つめる。黒い表紙の薄いノート。表紙にタイトルなどは何も書かれていなかった。

 見るのが怖い…でも…。

 咲夜はノートをめくった。また見覚えの無い文字で書かれている。

 この文字が読めるということは、私はこの文字を使っていたということなのね…。

『吸血鬼は、ヒトや動物の血を吸う怪物として恐れられている。』

『一般に吸血鬼は、一度死んだ人がなんらかの理由により不死者としてよみがえったものと考えられている。』

『吸血鬼は、蝙蝠に変身する、ねずみに変身する、霧に変身するなどの手段を用いて棺の隙間や小さな穴から抜け出し、真夜中から夜明けまでの間に活動するものとされた。』

 な、なにこれ…。吸血鬼に係わることばかり書いてある…。

 ページをめくった。そこに書いてある文章を読んで、咲夜は驚愕する。

『吸血鬼が人間を襲う理由は主に二つに分類される。まず、一つ目は殺戮を目的としたもの。吸血鬼の精神的な感情から来る殺戮衝動も含まれる。この状態の吸血鬼は、策略をもたず、真っ向から襲ってくることが多い。この場合、真っ向から勝負を挑む実力がない限り近寄るべきではない。どうしても逃げられない場合は、策略を立て、罠を仕掛けるのが良いだろう。二つ目は、吸血を目的としたもの。この状態の吸血鬼は、前者と違い策略を立てることが多い。なぜなら、吸血鬼は相手を生け捕りにしようとするからだ。吸血鬼といえど、心臓の停止してしまった人間からの吸血は苦労を伴う。心臓の動いている状態ならば吸血が容易に出来る。よって、吸血鬼は自ずと手加減をしてくる。その隙をつければ撃退も不可能ではない。』

 こ、この文章は…私の頭の中に響いてきた…。

『吸血鬼の弱点というと、十字架、にんにく、聖水、日光、流水、銀の武器など多く知られている。確かに吸血鬼はこれらを嫌うが、これらで致命傷をあたえることは難しい。これは、真の弱点を隠すためのカモフラージュと考えられる。吸血鬼の弱点とは、魔族でありながら人間に極めて近い体内構造をしていることである。つまり、人体に対して有効な攻撃手段が通用するのだ。』

 そ、そんな…。

 さらにページをめくる。そこには挿絵が描かれていた。

『対吸血鬼用武装 ヴァンパイア。』

 ナイフの絵だった。先ほどロッカーから出てきたナイフに間違いない。

『対悪魔用の武装の中でも、対吸血鬼用に特化された武装である。ナイフの形状をしており、隠蔽もしやすい。吸血鬼ハンターの血筋の者によって鍛えられたと言われている。ヴァンパイアの名は、吸血鬼の血を吸う魔剣という異名からきている。』

…まさか…まさか…。

 無数の武具が書かれている。咲夜の着込んだ黒い服も、対吸血鬼用の防護服として書かれていた。

 そして最後のページをめくった。

『著 吸血鬼ハンター ジョン・ハールマン』

「うわあああああああああああ!」

 咲夜は大声を上げてノートを床に叩き付けた。

「さ、咲夜。どうしたの?お、落ち着いてよ。」

「あああああああああああああ!」

 フランドールが必死になだめる。だが、咲夜は叫び続けた。

 私が吸血鬼ハンターだって言うの!私はお嬢様を殺す者だって言うの!そんなの嘘よ!

「ああああ…………。」

 咲夜はその場にがっくりと膝をついた。

「…お嬢様…教えて下さい…。」





  7 真実の協奏曲



「咲夜、落ち着いた?」

「はい。取り乱して申し訳ありません。」

 取り乱した咲夜が落ち着いたのは、それから一時間は経過した後だった。

「びっくりしたよ。あんなに取り乱した咲夜を見たの初めてだもん。」

「申し訳ありません。」

「気にしなくていいよ。」

 フランドールは立ち上がる。

「咲夜、あのノートに、咲夜の昔のことが書いてあったんでしょ。」

「…はい…。」

「やっぱり。でも、私は聞かないよ。昔の咲夜よりも今の咲夜だもん。」

「妹様…。」

「さ、早く行こ。お姉様に会わなくちゃ。」

「…はい。」

 咲夜も立ち上がった。

「ねえ、咲夜。こっちの本棚の裏にも何かありそうな気がするんだ。」

「どうでしょうか…。」

 フランドールは、西側の本棚を指差した。

「どけてみるよ。私に任せて。」

 本棚の横に回りこんだフランドールは、本棚を力いっぱい押す。

 ズズズ…。

 本棚がゆっくりと動き出した。

 その光景を見ながら咲夜は思う。

 私が本当に吸血鬼ハンターなら、この小さな吸血鬼とも、殺し合いをしたのだろうか。

「咲夜、扉があったよ。」

「あ、はい。」

 その小さな吸血鬼が扉を見つけた。その表情はとても無邪気だ。

 …止めよう、こんな考えは。お嬢様に会って、全ての話を聞いてからにしよう。

「開いたよ。行こ。」

「はい。」

 不安な気持ちを押さえつけながら、扉をくぐる。

「あれ?ロビー?」

「そのようですね。」

 確かにロビーだった。開かなかった地下への扉から出てきたのだ。

「なんだ。あんなところにあるから、お姉様の部屋に繋がっていると思ったのに。」

「仕方ありませんね。とりあえず皆のところに…あら?」

「どうしたの?」

「美鈴!」

 ロビーのほぼ中央。そこに人が倒れていた。顔は見えないが、服装から美鈴だと思う。

「美鈴!無事なの!」

 咲夜は美鈴に向かって駆けだした。

「咲夜!上!」

「え?」

 咲夜は足を止める。

 ドシン!

 巨大な何かが咲夜の目の前に落下してきた。埃が舞う。そこにいるのは悪魔だ。太い手足、三m近い巨体、顔の中央に一つだけついている大きな目玉。

「なに?こいつ?」

「悪魔です。気をつけてください。」

「あ、悪魔?これが?」

 咲夜は両手にナイフを構える。フランドールも腰を落として身構えた。

 ドシン!

「咲夜!あっちにも!」

「くっ!」

 ロビーの反対側、つまり、美鈴を挟んだ向こう側にも同じ悪魔が現れたのだ。

「咲夜、こっちは私が引き受ける。美鈴のところに行って!禁忌 レーヴァテイン。」

 フランドールは右手に炎の剣を生み出した。

「妹様…お願いします。バニシングエブリシング!」

 空間を飛び越えて、悪魔と美鈴の間に割り込んだ。

 ブンッ!

 空気を切り裂く音を立てながら、悪魔の巨大な腕が咲夜に襲い掛かる。

「甘いわ!」

 次々に繰り出される悪魔の攻撃を、避け、弾き、受け止める。

 体が軽い。

 咲夜は悪魔の攻撃の全てを受け流していた。ナイフで受けきれない攻撃は防護服で滑らせる。上に着ているメイド服はぼろぼろになっていくが、防護服と咲夜の体には傷一つ無かった。

 凄い…これだけの攻撃を防ぐなんて…。

 悪魔の攻撃の間から、ナイフを投げつけていく。だが、その巨体にはビクともしない。

 ならば………抜くわ!

 腰に括り付けたホルダーへと手を伸ばす。そして、ヴァンパイアを引き抜いた。

「うわああ!」

 ザシュ!ドスン!

 咲夜の振るったナイフは、悪魔の右腕を肩から切断していた。腕が床に落下する。

 …す、凄い…。

 ドシン、ドシン!

 激痛で悪魔が暴れる。切断された右腕からは、大量の血が噴き出していた。

 これで決める!

「奇術 ミスディレクション!」

 咲夜の周囲に無数のナイフが展開する。全てのナイフは悪魔を取り囲むと、悪魔の動きを封じた。

「はああ!」

 右手にヴァンパイアを構えた咲夜が悪魔目掛けて突っ込む。同時に展開されたナイフも動き出した。

 グサッ!

 咲夜のヴァンパイアは、悪魔の胸を貫いていた。

 ヴァンパイアを引き抜く。悪魔はピクリともせずに倒れこんだ。

 …これは…恐ろしい…。

 ヴァンパイアの刀身を見つめる。銀色に光る刃には一滴の血も付いていなかった。まるで刃が血を吸ってしまったかのようだった。

「禁弾 スターボウブレイク!」

 後方で光が輝いた。フランドールが弾幕を放ったのだ。直撃を受け、悪魔が倒れていく。

「ふー、やっと倒せたよ。咲夜は大丈夫?」

「はい、私は大丈夫…あ、美鈴!」

 咲夜は美鈴に駆け寄った。

「美鈴…え?これは…。」

 咲夜は驚いた。倒れていたのは美鈴ではなく、丸めた毛布に美鈴の胴着を着せただけの物だったのだ。

「一体誰が…。」

 いえ、こんなことをするのは一人だけ…。

「小悪魔!いるのでしょう、出てきなさい!」

 …ぱちぱちぱち…。

「さすがは咲夜様です。よくわかりましたね、私が仕組んだ事だって。」

 二階のラウンジから拍手と声が聞こえる。上を向くと、笑顔の小悪魔がいた。

「咲夜さん!」

「美鈴!」

 小悪魔の隣から、美鈴が出てきた。

「美鈴、怪我は?」

「もう大丈夫です。小悪魔ちゃんが手当てをしてくれましたから。」

「そう、よかった。」

「今、そっちに行きます。」

 美鈴が咲夜の隣に降りてくる。続いて小悪魔も降りてきた。

「美鈴!」

「妹様。ご無事でしたか。良かったです。」

「うん。ねえ、一体どういう事なの?私、さっぱりわかんないんだけど。」

「そうね…。全部説明してもらうわよ、小悪魔!」

 咲夜は小悪魔を睨み付ける。小悪魔は笑っていなかった。

「もう、気づいていらっしゃるのでしょう?咲夜様。」

「なんのことよ。」

「咲夜様の過去のことですよ。気づかないふりをしているだけでしょう。」

「そ、それは…。」

「先ほどの戦いで確信したはずです。過去の自分を。」

「………。」

 咲夜は反論しない。

「咲夜さん、何なのですか、過去の自分って…。」

「咲夜、どういう事なの?」

 美鈴とフランドールが尋ねてくる。

「それは…。」

「答えづらいようでしたら、私から申し上げましょう。紅魔館に来る以前の咲夜様は、吸血鬼ハンターなのです。」

「「きゅ、吸血鬼ハンター!?」」

 美鈴とフランドールがそろって驚きの声を上げた。美鈴は眼を見開き、フランドールは大きく口を開けたままだ。

「小悪魔、なぜあなたが私の過去を知っているの?」

「咲夜様がレミリア様の従者となる前は、私がレミリア様の使い魔をしていましたから。ですから、咲夜様が紅魔館に来た時から全て知っています。」

「…私は、やっぱり吸血鬼ハンターなのね…。」

「そのとおりです。」

 小悪魔の表情は笑っていない。嘘を吐いているようには見えなかった。

「ちょ、ちょっと待ってください。」

 美鈴が話しに割り込んできた。

「おかしいですよ。お嬢様は吸血鬼なんですよ。そのお嬢様が自分を狩るハンターを従者にするわけ無いじゃないですか!」

「…はい。そのとおりです。でも、それには事情があったのです。」

「事情?」

「はい。これからその全てをお話します。長くなります。場所を変えましょう。」

 皆の返事も待たずに、小悪魔は歩き出した。東の扉を開け、司書室へと入っていく。

「行きましょう。」

 咲夜達も続く。全ての謎を語るであろう小悪魔の元へ。



 小悪魔は四人分の椅子を用意すると咲夜達を座らせる。そして、どこからとも無く紅茶のポットを取り出し、カップに注いで配った。

「どこから話しましょうか…。」

「お嬢様のことよ。お嬢様は無事なの?」

「今は無事です。」

「今ってどういう事よ?」

「慌てないで下さい。順に話しますから。」

 小悪魔は紅茶を一口飲んだ。

「まず咲夜様の事をお話しましょう。咲夜様が吸血鬼ハンターなのは事実です。咲夜様は、この館に住む吸血鬼、つまりレミリア様を狩るために紅魔館にやってきました。咲夜様はレミリア様と戦いました。しかし、レミリア様に敗れ、倒されました。」

 …私はお嬢様に負けたのね…。

「レミリア様は、そのハンターに止めを刺しませんでした。変わりに、『十六夜 咲夜』の名をあたえ、運命を変えたのです。自分の従者としての運命を与えられたハンターは、以前の記憶を全て失いました。それが今の咲夜様です。」

「………。」

「でもさあ…。」

 フランドールが質問をしてきた。

「さっき美鈴も言ったけど、どうして咲夜を殺さなかったの?ハンターって、吸血鬼を倒すプロのことでしょ。そんなのがそばにいたら凄く怖いよ。」

「同感です。運命を変えたといえ、自分の天敵をそばにおくものでしょうか?」

 美鈴も同じ考えのようだ。

「もちろん事情があります。レミリア様は自分を殺す為に咲夜様をそばにおいたのです。」

「「「な?」」」

 三人の声が重なった。

「別に、レミリア様に自殺願望があるわけではありません。レミリア様の病気のせいなのです。」

「「「病気?」」」

 またも三人の声が重なった。

「病気?そんなこと聞いたことも無いわよ。」

「お姉様が病気だなんて、私も聞いたことないよ。」

「私もです。一体どんな病気なんですか?」

 咲夜達はそろって小悪魔に問いただした。

「落ち着いて下さい。今すぐ命に係わるような病気じゃありませんから。」

 小悪魔は咲夜達をなだめる。

「『感染性 血球異形成症候群』という病気です。『ブラッドシンドローム』とも呼ばれます。吸血鬼だけが感染する病気です。約百年前にレミリア様は感染されました。この病気は、吸血した血液に含まれているウイルスから感染すると言われていますが、確かなことはわかっていません。治療法もまだ不明です。この病気は潜伏期間が長く、個人差が大きいので、感染しても、発病せずに生涯を終える吸血鬼も多いそうです。」

「発病したらどうなるの?」

「まず、体中の血管が破れて激痛に襲われます。次に理性を失います。これは病気が進行するにつれて酷くなり、最終的には、破壊衝動となります。破壊衝動にとらわれてしまった吸血鬼を止めることは出来ません。他者の手で安楽死させてもらうしかないのです。」

「…まさか、自分を安楽死させるために私を?」

「はい。発病しても吸血鬼は吸血鬼です。並みの力では滅ぼせません。レミリア様は自分が発病した場合、咲夜様の記憶を蘇らせて自分を殺させるつもりです。私が咲夜様の武具を封印しておいたのも、レミリア様の命令だからです。」

「そんな…。」

「自分が発病してしまった時、自分を滅ぼす役目をフランドール様にやらせるわけにはいかないから、とレミリア様はおっしゃっていました。」

「あう、お姉様…。」

 フランドールが泣き出した。それが、姉のことを思ってなのか、姉の自分に対する思いの為なのかわからなかった。

「………。」

 咲夜と美鈴は黙り込んでしまった。自分達の主人が抱えていた思いを知って、言葉が出ないのだ。

「さて、昔話は終わりです。ここからが今回の異変の真相です。」

 表情を変えず、小悪魔は話を続けた。

「咲夜様。ここ数日、レミリア様とパチュリー様が儀式を行っていたのはご存知ですね。」

「ええ。知っているわ。」

「その儀式ですが、先ほど言いました、レミリア様の病気の発病を抑制する為のものなのです。」

「え?さっき治療法は無いって…。」

「はい。治療法は見つかっていません。ですが、特殊な儀式により、発病を遅らせることは出来るのです。レミリア様は十年に一度、この儀式を行っています。この儀式を続けていれば、そう簡単には発病しないはずです。」

「な、なんだ。そんな方法があるのね。良かった…。」

 咲夜は少し安心した。レミリアと戦わなくてはならない可能性が少しは減ったからだ。

「ところが、今回儀式に邪魔が入ったのです。この儀式、満月の夜に合わせて三日間行うのですが、その間レミリア様は全ての結界を解き放ち、無防備になってしまうのです。この時、レミリア様の体に何者かが侵入しました。」

「え?お嬢様の体に侵入?どういう事なの?」

「これは私の魔族としての勘です。恐らく、吸血鬼の魂が入り込んだのだと思います。」

「吸血鬼の魂?」

「吸血鬼は肉体を滅ぼされると、魂も同時に滅びます。ですが、まれに魂だけが残る場合があるそうです。今回、どこかで滅ぼされた魂が肉体を求めてさまよって来たのだと思います。そして、偶然にもレミリア様の体に白羽の矢を立てました。そして、レミリア様はその吸血鬼に意識を奪われたのです。」

 その場の全員が息を飲んだ。

「それじゃ、この異変の原因は、その吸血鬼がお嬢様の体を操って起こしたものなのね。」

「はい。パチュリー様に暗示をかけて館を迷宮化させ、咲夜様を殺させようとしました。どうやら、その吸血鬼は咲夜様が吸血鬼ハンターであることに気づいているようです。咲夜様を恐れているのでしょう。」

「そうだったのね…。」

 咲夜は胸のつかえが取れた気がした。レミリア自らが、自分を殺そうと思っていたわけではなかったことがわかったからだ。

「小悪魔、今のお姉様はどうしているの?」

 フランドールが質問した。

「恐らく、少しずつ魂を飲み込まれているでしょう。館を迷宮化したのも時間稼ぎだと思います。今日の深夜零時。月が真上に来るとき、レミリア様の魂は消滅するでしょう。」

「「「な?」」」

 全員が壁に掛かっている時計を見た。針は間もなく十一時を差そうとしている。

 咲夜は立ち上がり、小悪魔につかみ掛かった。

「あなた、何をのんきにしているの!後一時間しかないじゃないの!お嬢様を助ける方法があるっていったわね、それを早く言いなさい!」

 だが、小悪魔は表情も変えずに咲夜の手を払いのけた。

「もう準備は出来ています。その為に咲夜様を動かしたのですから。」

「な?どういう事よ?」

「咲夜様には、吸血鬼ハンターの頃を思い出してもらわないといけませんでしたので、多少強引でしたが、フランドール様と戦って頂きました。予想どおり、咲夜様は記憶を思い出し、フランドール様に勝ちました。そして、ヴァンパイアを手にした咲夜様なら、レミリア様にも負けません。」

「…あなた、私にお嬢様と戦えって言うの?」

「はい。すでにレミリア様を助ける手段はありません。ならば、体を完全に乗っ取られる前に、滅ぼすのがせめてもの情けでしょう。」

「う、嘘…。」

 咲夜は膝をついた。先ほど取れた胸のつかえが、また突き刺さって来たかのようだった。

 お嬢様を助けるって…苦しませずに殺すことだったの…。そんな…そんな…。

「嘘だー!」

 フランドールが叫び声を上げて小悪魔につかみかかる。

「お姉様を助けられないなんて嘘だ!お姉様を殺すなんて私が絶対に許さないんだから!」

「そうです!お嬢様が助からないなんて嘘です!」

 フランドールに続き、美鈴も小悪魔に飛び掛った。

「…うるさい。邪魔をするな!」

 小悪魔は二人を力ずくで振りほどく。小さな体からは想像もできない力だった。

「さあ、咲夜様。レミリア様の元へ行きましょう。」

 え?

「時間がありません。レミリア様の魂が消滅してからでは、手遅れになる可能性があります。さあ、早く。」

 お嬢様を殺すの?

「咲夜様、早く!」

私は…。

「嫌よ…。私には出来ない…。お嬢様を殺すなんて…絶対に出来ない…。」

「…そうですか。」

 小悪魔は伸ばした手を引いた。

「ならば、十六夜 咲夜。ヴァンパイアを渡してもらおう。」

「え?」

 突然小悪魔の口調が変わった。表情もいつもの笑顔からは想像もできない威圧感がある。

「十六夜 咲夜。お前が出来ないのなら私がやる。だから私にヴァンパイアをよこすのだ。」

「私がやるって、あなた…。」

「悪魔は自分よりも大きな力を持つ者には逆らえない。主が死を望むのならばそれを叶えるのが悪魔なのだ。さあ、ヴァンパイアを渡せ。渡さぬならば、力ずくでも奪っていくぞ。」

 小悪魔が咲夜に迫ってくる。

「咲夜、渡しちゃだめ。」

「そうです。お嬢様を助ける手段はあるはずです。」

 フランドールと美鈴が割って入ってきた。

 …お嬢様…。

「そこをどけ。お前たちに用は無い。」

「どかないよ。」

「どきません。」

 …お嬢様…お嬢様…お嬢様…。

「…これは渡せないわ。」

「咲夜?」

「咲夜さん?」

 咲夜はゆっくりと立ち上がる。そして小悪魔を見た。

「私にお嬢様は殺せないわ。でも、あなたにお嬢様を殺させるわけにもいかない。私はお嬢様を助けるのよ。」

 咲夜は強く言い放った。

「お嬢様の魂が消滅していないのならば、助ける方法はあるはずよ。それを捜すわ。小悪魔、あなたが私の邪魔をするのならば、あなたを殺してでも行くわよ。」

「レミリア様と戦うことになってもか?」

「それでお嬢様を救うことが出来るのならやるわよ。」

「そうか…。」

 咲夜の言葉を聞いた小悪魔の表情が緩んだ。

「良かったですー。がんばったかいがありましたー。」

「「「へ?」」」

 突然笑顔になった小悪魔を見て、咲夜達はあっけに取られてしまった。

「さっき言ったのは嘘です。レミリア様を助ける方法はまだあります。」

「う、嘘?なんでそんな嘘を?」

「だって、咲夜様に本当のことを話したら、きっと落ち込んじゃうと思いましたし、話さなかったらレミリア様に負けちゃうだろうし。だったら、限界まで追い詰めれば気持ちが吹っ切れるかなと思いましたから。うまくいきましたー。」

 小悪魔は満面の笑みを浮かべて喜んでいる。

 ぶちっ!

「ねえ、小悪魔…。」

「はい。なんですか………あ、あの…咲夜様?」

「あなたのおかげで吹っ切れたわ。お礼をあげる。」

 ぎゅむー。

 咲夜は小悪魔の頬を両手でつまんで思い切り引っ張った。

「いふぁいいふぁいいふぁいいふぁいー。」

「こんなものじゃ終わらないわよ。」

「やふぇてくだふぁいー。」

 涙目になりながら必死に許しを請う小悪魔だったが、咲夜の手は緩まない。

「あーあ、咲夜を怒らせちゃった。」

「でも、いつもの咲夜さんに戻りましたね。」

「そうだね。落ち込んでるよりいいよ。」

「ええ。そろそろ止めましょうか。」

 のんきに会話をするフランドールと美鈴である。この二人も今ので気持ちがほぐれたらしい。

「咲夜さん、ストップです。それ以上やると、小悪魔がしゃべれなくなります。」

「仕方が無いわね。今日はこれぐらいで勘弁するわ。」

 両手を小悪魔の頬から離す。小悪魔は両手で頬を押さえて座り込んでしまった。

「うう、ひどいですぅ。」

「自業自得よ。ほら、早く立ちなさい。お嬢様を助ける方法を聞かせるのよ。」

「ふぁーい。」

 小悪魔はよろよろと立ち上がる。両手は頬から離さなかったが。

「咲夜様、これを使うんです。」

 小悪魔はポケットに手を入れると何かを取り出した。手のひらに収まるほどの大きさの物を咲夜に手渡した。

「これは、懐中時計ね…ってまさかこれは…。」

 こ、この懐中時計は、ノートに書かれていた物じゃ…。

「はい。ノートに書かれていた懐中時計です。咲夜様なら使いこなせるはずです。」

「これを使えと…。」

「はい。これを使えばレミリア様にも負けません。後は咲夜様の力に賭けます。」

「…随分と分の悪い賭けね。」

「ですから咲夜様が吹っ切れてくれるように仕組んだんです。正気では使うのをためらってしまいますから。」

「なるほどね。あなた、その名のとおり、『小悪魔』ね。」

「ほめ言葉と受け取っておきます。」

 咲夜は懐中時計をポケットにしまい込んだ。

「咲夜さん、それは何なんですか?」

 二人の会話の意味がわからない美鈴が尋ねてきた。

「これは、秘密兵器よ。」

「秘密兵器ですか?」

「そう。さあ、お嬢様を助けに行くわよ。」

 咲夜は完全に自分を取り戻していた。





  8 吸血鬼に捧げる鎮魂曲



 咲夜は扉の前に一人立った。

 ぼろぼろになってしまったメイド服は新しいものに着替えてきた。服の下には黒の防護服を着込み、腰にはヴァンパイアを収めたホルダーが差してある。右胸のポケットには数枚のスペルカード、左胸のポケットには小悪魔から受け取った懐中時計が入っていた。

 背後からは戦いの音が聞こえてくる。フランドール達がパチュリー率いる悪魔達を抑えてくれているのだ。フランドール達は、レミリア救出を咲夜に託して、時間稼ぎをしてくれている。

「…よし、いくわ。」

 扉をゆっくりと押し開ける。音も無く扉は開いた。

 見覚えのある部屋だった。いや、忘れたくとも忘れられない部屋だ。赤を基調にした壁紙に小さな暖炉のある間取り。天井にはシャンデリアが掛けられ部屋を照らしている。普段ならベッドが置いてあるはずの場所にベッドは無かった。その周囲にあったサイドテーブルやリクライニングチェアも見当たらない。

 部屋の一番奥。窓際に玉座が一つ置かれていた。そしてその玉座に座る一人の人物。桃色のブラウスにスカートを着込んだ女性。この部屋の主、レミリア・スカーレットがいた。

「ようこそ。吸血鬼ハンターよ。」

 玉座に座るレミリアが言った。その声は確かにレミリアのものだが、口調は完全に別人である。

「…初めまして。紅魔館に仕えるメイド、十六夜 咲夜と申します。」

 咲夜はスカートの両端を指先でつまむと、深く礼を返した。

「これはこれは。ならば、私も名乗らねば失礼であるな。」

 レミリアは立ち上がると、右手を腰の前に置き、咲夜に礼をする。

「私の名はヴェルデ・ベルリオーズ。以後お見知りおきを。」

「ご丁寧にありがとうございます、ベルリオーズ様。」

「出来れば伯爵と呼んでいただけるかな。生前はこれでも爵位を持っていたのでね。」

「わかりました。伯爵様。」

 咲夜は頭を上げた。そして伯爵をにらみ付ける。

「さて、伯爵様。単刀直入に申し上げますわ。レミリアお嬢様の体から出て行ってくださいまし。」

「ほう、本当に単刀直入だな。だが、それは出来ない頼みだよ。せっかく手に入れた体を失いたくはないのでね。」

「ならば、力ずくでも出て行っていただくことになりますが。」

「それが君に出来るとは思えないがね。」

 伯爵は笑みを浮かべながら、玉座へと座りなおした。

「君の戦いは見せてもらったよ。時を操る能力は素晴らしい。だが、それだけだ。体力、精神力、判断力のどれをとっても未熟だ。その程度の力では私を追い出すことなどできんよ。」

「………。」

「私の知るハンターの中でも、君は最も未熟だ。残念だよ。新たな体を手に入れ、私を滅ぼしたハンターを八つ裂きにしてやろうと思っていたのだが、興ざめだ。」

「あなたは、自分を滅ぼした吸血鬼ハンターに復讐されるために、お嬢様の体を奪ったと言うのですか?」

「そうだ。魂となってからも私はハンターの血を追い求めた。そして見つけたのだよ、新しい体とハンターの両方が存在していた場所をな。」

「………許せませんわね。」

 咲夜はナイフを取り出した。

「私怨の為にお嬢様の体を乗っ取り、紅魔館の皆を苦しめた。極刑に値します。」

 左手にスペルカードを構える。

「ほう、やるかね。レミリア嬢の体を八つ裂きにしたところで私は滅びんぞ?それとも策があるのかな、吸血鬼ハンターよ。」

 伯爵も立ち上がり身構えた。

「勘違いなさっているようですね。私は吸血鬼ハンターなどではありません。レミリア・スカーレットに仕える従者、十六夜 咲夜ですわ。」

 咲夜は伯爵目掛けて駆け出した。

「ふ。愚か者が。」

 パチン!

 伯爵が指を鳴らす。すると、咲夜の周囲に黒い塊が出現した。一瞬のうちに塊はヒトの形を取る。応接間で会ったあの悪魔だ。その悪魔が五体。

「傷魂 ソウルスカルプチュア!」

 咲夜のスペルカードが輝いた。

 シャシャシャシャシャ。

 咲夜はナイフを振りながら駆け抜ける。その後には、切り刻まれた悪魔の体が宙に浮かんでいるだけだった。

 咲夜が伯爵の目の前まで迫る。

 …お嬢様、主に刃を向ける無礼をお許しください…。

「幻世 ザ・ワールド!」

 周囲の音が消えた。咲夜以外の全ての時が止まる。

「…時よ、動きなさい!」

 咲夜の声で時が動き出す。一瞬のうちに伯爵の周囲には無数のナイフが取り囲んでいた。

「甘いな。紅符 不夜城レッド。」

 伯爵の体を紅い炎が包む。その炎によって、ナイフは全て焼きつくされてしまった。

「………。」

 咲夜は無言のまま伯爵から間合いを離す。それを見て伯爵はにやりと笑う。

「やはりその程度かね。その程度ではこの体に傷を付けることもできんよ。」

「………。」

「策が尽きたかな。間もなく時間だ。レミリア嬢の魂が消滅する時をその目で見せてやろうか。」

「…そうはいきませんわ。」

 咲夜は胸のポケットに手を入れた。取り出したのは、懐中時計と一枚のスペルカード。

「時間を操る、本当の恐ろしさをお見せいたしますわ。」

 懐中時計を左手に持ち替えて開く。その文字盤は血のように真っ赤で、針が付いていなかった。

「咲夜の世界。」

 スペルカードが輝く。すると、懐中時計の文字盤に秒針が現れた。その秒針は十二を差したまま動かない。

 空間が歪んだように思えた。周囲の色が消え、灰色の世界が広がる。部屋の壁までの距離が遠くにも近くにも見えた。

「…ほう。空間を歪めたのかね。だが、これに何の意味があるのかね?私を倒すのならば、時を止めたほうがよいだろうに。」

 確かに時は止まっていない。咲夜も伯爵も自由に動ける。

「お気づきになられませんか。お嬢様なら、気づかれたでしょうに。」

「ほう。私がレミリア嬢よりも劣っていると言うのかね。気に入らんな。レミリア嬢の魂は私が握っているのだぞ。」

「お嬢様ならば、私の力が発動する前に、私をしとめたはずです。それが出来なかったあなたはお嬢様には及びません。」

「なんだと。ならば、ここでお前を殺してやろう。」

 伯爵の表情が怒りに変わった。本気になったのだろう、左手にはスペルカードが掲げられている。そして、右手に紅い槍が生み出された。

「死ぬがいい。神槍 スピア・ザ・グングニル!」

 槍が咲夜目掛けて放たれた。咲夜は避けようともしない。

 カチッ。

 懐中時計の秒針が動いた。ほんの一秒ほどだ。

 槍が咲夜にぶつかる。だが…。

 ヒュン。

 槍は咲夜を突き抜けて、何事も無かったかのように後方へと飛んでいった。

「な、なんだと?」

 伯爵が驚愕の声を上げた。

「ばかな…槍が突き抜けるだと?幻覚か?」

「いいえ。幻覚などではありませんわ。私は一歩も動いていませんもの。」

「どういう事なのだ…。ならば、夜符 クイーン・オブ・ミッドナイト!」

 伯爵を中心に、目が眩むほどの紅い弾幕が生み出された。恐ろしいほどの弾幕が咲夜目掛けて襲ってくる。

 カチッ。

 またも懐中時計の針が動いた。

「はははっ、これならどうだ………な、なんだと。そんなばかな!」

 凄まじい弾幕の中、咲夜は伯爵の方へ歩いて近づいてきたのだ。

全ての弾幕は、咲夜にぶつからず通り過ぎる。まるで幽霊に攻撃を仕掛けているかのようだった。

「これが、時を操ると言うことなのです。」

「時を操る?どういう意味なのだ?」

「わかりませんか?ならば説明いたします。私は四次元空間を作り出したのです。」

「四次元空間だと?」

「私達が存在しているのは三次元空間です。三次元での物体の座標は、X軸、Y軸、Z軸の三つで全て表せます。三次元では、同じ座標上に二つ以上の物体が存在することは出来ません。」

 咲夜は伯爵にゆっくりと近づいていく。それに合わせ、伯爵は後退していた。

「その三つの軸に、時間の概念を加えます。それが四次元です。四次元では、時間軸が異なれば、同じ座標上でも複数の物体が存在できます。つまり、伯爵の攻撃に対し、私は異なる時間軸に体を移動させたのです。よって、伯爵の攻撃が私に当ることはありません。」

「ま、まさか…そんなことをすれば、次元の境界が崩壊するぞ…。」

「確かにその危険はあります。ですが、この懐中時計の力を借りれば不可能ではないと信じておりました。」

 咲夜は手にしている懐中時計を見つめた。この懐中時計、正式には『次元操作装置』という。時を操る者が使うことにより、三次元と四次元の境界を操作することが出来るという、魔法装置なのだ。しかし、扱いが極めて難しく、しくじれば、次元の隙間に取り残される恐れもあるという危険な装置でもあった。

「これで、あなたの時間は私のものよ。」

「ばかな…。」

 咲夜は伯爵の目の前まで来ていた。伯爵の背後には玉座があり、これ以上下がれない。

「ばかなばかなばかなばかなばかな…。こんなことで私が敗れるというのか…。」

「伯爵様。これで終わりです。」

 咲夜はヴァンパイアを抜いた。

「うがあ!紅魔 スカーレットデビル!」

 伯爵の体を真紅の炎が包む。だが、炎が咲夜の体に触れることは無かった。

 炎の中で咲夜は目を瞑った。意識を伯爵に集中する。

 …私が吸血鬼ハンターだと言うのなら、その血よ、吸血鬼の居場所を教えて…。

 咲夜は右手でヴァンパイアを抜く。

 ………見つけた!

「ここ!」

 ズブリ!

 咲夜の握るヴァンパイアが、伯爵の右胸に突き刺さった。

「うがああああああああああああああああああ!!!」

 伯爵の絶叫が響く。

「なぜ…なぜ…私の…魂の場所がわかったのだ…。」

「私はお嬢様の体の中の邪魔者を見つけただけ。それが伯爵だというだけです。」

 正直言って賭けだった。しくじれば、レミリアの命を奪うことになる。

 …感謝するわ、小悪魔。あなたが私を導いてくれなかったら、私はお嬢様を殺していたでしょう…。

 咲夜はヴァンパイアをさらに深く突き刺した。

「うがあああああ………。」

 伯爵の絶叫が消えた。レミリアの体から力が抜けていく。

 咲夜はヴァンパイアを引き抜いた。傷口から血が流れ出す。

「お嬢様、しっかり。」

 レミリアの体を受け止めると、服の両袖を破り、傷口を縛る。だが、レミリアが意識を取り戻す気配は無かった。

『オノレ、吸血鬼ハンターメ。』

 背後から低い声が聞こえる。咲夜が振り向くと、人魂のようなものが浮かんでいた。声はそこから聞こえてくる。

『オノレオノレオノレコロスコロスコロスコロス。』

 人魂は次第にヒト型になっていく。

「死に切れませんでしたか…お嬢様、しばしお持ちください。最後のお掃除をしてまいります。」

 ぐったりとするレミリアを玉座に座らせ、咲夜はスペルカードを取り出した。

『シネエエエエエエエ!』

 咲夜は真正面に立ちはだかった。伯爵が咲夜に飛び掛ってくる。

「ヴェルデ・ベルリオーズ伯爵。このスペルをあなたに捧げましょう。幻葬 夜霧の幻影殺人鬼。」

 時が止まる。咲夜の両手から次々に銀のナイフが飛び出す。咲夜を中心に広がるナイフは、まるで銀色の竜巻が発生したかのようだ。

『ウギャアアア!』

 銀の嵐に飲み込まれ、伯爵が悲鳴を上げる。

 咲夜はヴァンパイアを抜いた。銀の嵐の中に飛び込む。

「さようなら。」

『グ、ググア…。』

 咲夜のヴァンパイアは、伯爵の体を貫いていた。

 パアン。

 伯爵の魂が霧のように拡散する。辺りから悪魔の気配も完全に消えていた。

「お嬢様。」

 ヴァンパイアをホルダーに収め、レミリアの元へと駆ける。

「…お嬢様…。」

「………あ………う………。」

 レミリアがゆっくりと目を開けた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「………さ、く、や………。」

「はい。」

「…ごめんなさい…。」

 レミリアの目には涙が浮いている。

「…はい…。」

 咲夜はレミリアの目を見ながら優しく答えた。





  9 従者に贈る幻想曲



「…ん…。」

 ベッドで眠っていたレミリアが小さな声を上げて目を覚ました。

 目をこすりながら体を起こす。辺りを見回した。ここは間違いなく自分の部屋であることを確認する。当たり前のことのはずだが、それが安心できる。

 こんこん。

 部屋の入り口のドアがノックされた。いつも自分が目を覚ますのを待っていたかのようなタイミングでノックされるドア。次に掛けられる言葉もわかっていた。

「咲夜です。お嬢様、お目覚めでしょうか。」

「起きているわ。入ってらっしゃい。」

「失礼します。」

 ドアを開けて咲夜が入ってくる。手に持ったトレーには、包帯、錠剤、水差し、グラス、紅茶の入ったポット、と沢山の物が載せられていた。

「おはようございます。」

「おはよう。」

「今日の体調はいかがでしょうか?」

「だいぶ良くなったわ。もう包帯はいらないわ。」

「そうはいきません。さあ、包帯を取り替えましょう。」

「…わかった。」

 咲夜はトレーをサイドテーブルに置いて、包帯だけを手に取った。

 レミリアが寝巻きの上着だけを脱ぐ。胸には、包帯が何重にも巻かれていた。右胸の部分の包帯は血で赤く染まっている。

 咲夜が包帯を外す。右胸には刺し傷が生々しく残っていた。そこから血がにじむ。

「少しは良くなってきたわね。」

「お嬢様…私の…。」

「咲夜。」

「…はい…。」

 咲夜はうつむいてしまった。レミリアと目を合わせずに包帯を巻いていく。

 すでに事件から一週間経ってしまっていた。それなのに、咲夜の付けた傷口は完治していない。吸血鬼の生命力からするとありえないことだった。それほど、ヴァンパイアの威力は凄まじかったのだ。

 毎朝、咲夜は包帯を取り替えてくれるが、その度に涙を流し、謝ってきた。その姿を見るのが嫌で、レミリアは、咲夜に『この傷は事故で付いたもの。だからあなたは悪くない。よってこれからは謝らないこと。』と命じたのだ。

 あの事件後、咲夜は何も言わず、後始末をしてくれた。命を落としてしまったメイド達の葬儀や、怪我人の手当て、迷宮化した館の修復など多くの仕事をこなしたのだ。それでも、嫌な顔一つしなかった。

「終わりました。」

「ご苦労様。」

「では、このお薬を飲んでください。」

 咲夜が、錠剤と水の入ったグラスを差し出してきた。

「なにこれ?貧血の薬?」

「いいえ。お嬢様の病気の治療薬です。」

「病気?…ブラッドシンドロームのこと?」

「はい。永遠亭の永琳に相談しましたら、作ってくださいました。」

「へ?うそ?今まで治療法は見つからなかったのよ。どうやって作ったのよ?」

「製法までは私も知りません。効果は保障するって言っていましたから、効くはずですよ。」

「そんなに簡単に作れたの…。なんだ…今まであんな儀式やってたのが馬鹿みたいじゃない…。」

「まあ、彼女は特別ですから。」

 錠剤を受け取って、水で流し込む。少し苦いが仕方ないだろう。

 咲夜は血で染まった包帯を片付け、紅茶をカップに注ぐ。ここからは、いつもの朝の風景だ。

「お待たせしました。」

「いただくわ。」

 注がれた紅茶を一口飲む。薬の味が口に残っていたせいか、少し苦かった。

 …そっか、もう病気の心配をする必要は無いのね。やっと胸のつかえが取れたって感じかしら。これで咲夜も………え?

 レミリアは咲夜を見上げた。いつもの顔がそこにはある。

 咲夜は、私が発病した時に、私を殺すためにいる。なら、もう発病の恐れが無くなった今は…。

「そっか…。いままでどおりでいられるんだ…。」

「…はい…。」

 こちらの思いを読み取ったのか咲夜が返事をしてきた。

「咲夜。あなたの過去を消して、運命を変えた私を恨んでる?」

 少し意地悪かと思ったが聞いてみた。

「いいえ。お嬢様が運命を変えてくれたことには感謝しています。そうでなければ、私は生きていませんでしたから。」

 少し遠くを見るような目をして咲夜が言った。

「お嬢様の従者となれて私は幸せです。それが私の生きがいですから。」

 私も、あなたと過ごす時が生きがいよ。

 口にこそ出さなかったが、レミリアも同じ思いだった。

「そう。なら、これはもういらないわね。」

 レミリアは、ベッドの隣にある、サイドテーブルの引き出しから、銀色の鍵を取り出した。

「それは…。」

「ええ。あなたから預かった鍵よ。全部しまったんでしょう?」

「はい。」

 それは、咲夜の、ヴァンパイアや懐中時計をしまってあるロッカーの鍵だった。事件の後、全てをしまいこみ、鍵をレミリアに預けたのだ。

「むんっ。」

 レミリアは鍵を力いっぱいにぎりしめる。手を開いたときには、銀の塊になっていた。

「…これで、あなたの過去も、吸血鬼ハンターも幻想のものになったわね。」

「はい。」

 レミリアはベッドから降りて立ち上がった。

「これからも頼むわよ。十六夜 咲夜。」

「はい。レミリア・スカーレット様。」

 二人は笑顔で挨拶を交わした。




 自分の書きたかったことを全部書きました。という作品です。
 書くきっかけは「東方求聞史紀」の「十六夜咲夜は元吸血鬼ハンター」からです。
 「レミリアが、吸血鬼ハンターを従者とした理由」で思いついたのがこのストーリーなのですが、設定を付け加えすぎてまとまりがつかなくなってしまいました。アイディアにおぼれた駄目な作品です…。

 タイトルの曲に意味は無いです。なんとなく雰囲気で付けました。一応、訳すと
 
 弦楽合奏=オーケストラ  行進曲=マーチ  狂想曲=カブリッチョ  夜想曲=ノクターン又はノットルノ  輪舞曲=ロンド  協奏曲=コンチェルト  鎮魂曲=レクイエム  幻想曲=ファンタジー又はファンタジア

 となります。

 長文になってしまいましたが、読んでくださった方、ありがとうございます。
ドライブ
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コメント



0.390簡易評価
9.-10名前が無い程度の能力削除
何で、命の取り合いのような戦いで、スペルカードを使ってるんですか?
東方求聞史紀を読んでれば、この意味は解りますよね?
全体的に違和感がつきまとう作品でした。
14.無評価aki削除
名前が無い程度の能力氏と意見が被りますが、全体的に違和感がつきまとう作品だと思いました。
理由として挙げられるのが…

①効果音を使いすぎ。
 『どごん!どごん!』とか『ドカン!』など。
 たまに使うくらいなら良いと思うのですが。

②呼吸などの台詞?
 「…はあ…う、げほっ…。」
 などなど、使いたくなるのは分かります。自分もそうです。
 たまに(同上)

③キャラクターの呼称
 メイドたちの『咲夜様』とか、『小悪魔ちゃん』。
 そも、小悪魔には名前すら無かったと思います。
 設定上も『図書館に住み着いている』程度ではなかったかと…故にいくらでも作りようのあるキャラではありますが。
 『咲夜様』を連呼するメイドたちには「?」と思いました。

④スペルカード
 これは意見が分かれると思います。
 ちなみに自分は殺し合いになっても使って良しと考えてます。
 『必殺技』みたいなものだと解釈してますし…何よりこの話の場合は仕方ないのではないかと。

⑤台詞
 メイドたちが主におかしかったかなと思います。
 『咲夜様』と呼んでる割にとてもフレンドリー…?

⑥世界観
 何よりこれの『ズレ』が一番大きい。
 これ一つで評価に天と地ほどの差が出ます。
 …と言うか、今までのを全部引っくるめたのがこれです。

以上です。
個人的な意見としては、表現が単調だったかなと思います。
長々と失礼しました。
16.10O3削除
私は東方求聞史紀を読んでいないですが…
そもそも弾幕戦自体が模擬戦なんでしたっけ? なので、
名前が無い程度の能力さんのコメントも解らない訳ではないですが、
二次創作である以上「良いんじゃない」と言うのが私の意見です。

ほら、本気用のスペカが別に作ってあるとか、
魔力の込め方で転用ができるとか…… すみません、適当言ってます。

それから、妹様に関して一点。
妹様って、人間を食料として見られなかったような?
まぁストーリー上、妹様が本気ださせる訳にもいかないですが。

原作との相違点が意図的であるなら、
後書き等で書いておくと良いかもしれませんね。
あと、全体的に漂う違和感… 何でしょう? すぐには気付きませんが
多分、他の方が指摘して下さるでしょう。

それでは、感想での長文失礼致しました。
17.無評価O3削除
>多分、他の方が指摘して下さるでしょう。
ありゃ…私がPCの前でガタガタ悩んでいる間に、
akiさんからもう…
18.無評価名前が無い程度の能力削除
レミリア辺りに付き合わされてバイオハザードやら悪魔城ドラキュラやらを
やりすぎた咲夜の見た夢ってことで夢オチにすれば納得できたかも。
そんな感じの話でした。
23.20削除
吸血鬼には脳がないって紅魔郷でお嬢様が言ってた。
本当かどうかは判りませんけど。

話の内容は悪くないんですけど・・・
小悪魔とかメイドとかの性格付けは人それぞれでいいと思います。
効果音も含めた戦闘シーンの表現をもうちょっとカッコよくして欲しいかな。

個人的にはバニシングエブリシングとかクロースアップマジックとかの萃夢想のスペカ以外の技は、技名を口に出さない気がします。語呂悪いし。
24.無評価ドライブ削除
コメントを書いてくださった皆様。ご意見、ご指摘ありがとうございます。

>名前が無い程度の能力様
 言われて気が付きました。そうですよね、命がけの戦いでスペルカードでは変でした…。

>aki様
 多くの指摘ありがとうございます。
 ①効果音は、僕の書き方としかいえないんです…。
 ②使いたくなるんですよね。安直すぎましたか…。
 ③呼称は僕も悩んだんですが、この形で…。
 ④僕は、スペルカード=必殺技で解釈してみました。
 ⑤メイドの台詞は失敗でした。さらっとながした結果です。
 ⑥世界観のちがい。そのとおりです。だんだん外れていって、修正がきかなくなった結果です…。
 
>03様
 ご指摘ありがとうございます。原作との相違点は確かに書くべきでした。違和感は僕の未熟さです。

>二人目の名前が無い程度の能力様
 かなり、バイオハザードと悪魔城ドラキュラを参考にした作品なので…。違和感がありすぎました…。

>翔様
 吸血鬼に脳が無いのかは僕も知りませんでした。戦闘シーンの描写はこれ以上できませんでした。精進します。

 沢山のご指摘とご意見、本当にありがとうございました。
26.70名前が無い程度の能力削除
違和感は確かにあったけれど、面白かった。
お嬢様の病気の薬、「永琳に頼む」ってパチェや小悪魔なんかは
真っ先に思いつきそうなのになぁ、なんて思ったけれど。
27.10abc削除
あの時から長い年月を経て気持ちの整理がついたので言います。
…よくもあの時冒頭に何も書かず求聞史紀のネタバレをしてくれましたね。
俺はあの日求聞史紀を買いに行く予定だったんですよ?