Coolier - 新生・東方創想話

MARISA Personal Operation(MPO) -後編-

2007/02/12 06:21:09
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天井に大穴が開き、そこからは微かに朝日の光が差し込んでいる。
チリチリと館のあちこちでは火が燻り続け、吹きっさらしの紅魔館はそれでも焦げ臭い。
レミリア=スカーレットの住処である紅魔館は今、たった二人の侵入者によって壊滅的な損傷を受けていた。
損傷は建物のみではない。
そこらじゅうに、防戦するも敵わなかったメイド妖精が倒れ、そしてレミリアの足元には門番が少しも動かずに横たわっている。
「やめなさい! ……その子がどんな力を持っているかはお前もよく解っているだろう、魔理沙!!」
レミリアは――光を幻想郷の大地に注ぎ始めた太陽を背に飛ぶ少女――魔理沙を苦々しく睨みつけながら吸血鬼独特の圧倒的威圧感をぶつけた。
「ああ、知っているぜ」
「だったら何故こんな真似をする? お前は人間――霊夢と同じようにここの平穏を護っているのでしょ」
「あー? 私はあいつとは違うぜ。人間だからって、誰でも同じことを考えているわけじゃあないからな」
「どういうこと? ……それじゃあお前は一体……」
「私はあいつとは違う。ただ昨日と同じ幻想郷を今日も明日もずっと変わらぬ様に護り続けているような、あいつとは」
少しだけレミリアは考える素振りを見せ、すぐにハッと気が付いたように言葉を発した。
「そ……それはまさか……魔理沙、もしかしてお前がやろうとしていることは……!」
「私はここが、幻想郷がとても好きだ。だから異変が起こるたびに護り続けた。……霊夢の様に巫女だから、仕事だからという動機ではないんだぜ」
魔理沙の背後から光を放っている朝日の熱に体を焦がしながらも、レミリアは一歩も引かずにその光の差し込む方を見据える。
「……そう、そういうことね。お前の向かおうとする運命が解ったわ」
レミリアは思い起こしていた。
魔理沙がここに乗り込んできて、何をし、または何をしようとしていたのかを。
運命とは、時間が途切れることの無い連続性を有しているという性質によって、現在の時点で既に決定している未来そのものを指している。
それはつまり、過去から現在に至るまでの連続性から未来が予測可能であることを体現している。
故にレミリアは、魔理沙の運命を読み取るために思い起こした。魔理沙がここに乗り込んできた時のことを。







「……失礼します」
「あーぁ、退屈ねぇ咲夜」
主人の申しつけどおり午前零時に午後の紅茶を持ってきた咲夜に、レミリアは部屋に入って早々ぶっきらぼうな台詞を言う。
「平和が一番と昔からよく言いますわ。さ、目覚めの紅茶です。お嬢様の仰るとおり、午前零時」
「咲夜の言う昔なんて、私からすれば全く信ずるに値しない時間ね」
「あら、それは申し訳御座いませんでした。その通りですわ。では……」
神社にでも行きましょうか? と言葉を続けようとした咲夜だが、そのことを察したレミリアは言葉を遮る。
「いや、今日はいい。今日は、時間通りに起こしさえしてくれればそれでいいわ」
咲夜は前日、レミリアから午前零時に稀少品であるという午後の紅茶を持って来いと託っていた。
どうせくだらないシャレなのだろうとは解っていたが、咲夜はキッチリそれを入手すると指定どおりの時間ぴったりにレミリアの寝室を訪れた。
それが先ほどのことだ。
「でも、私が来た時にはもうお嬢様は起きていらっしゃったではありませんか。それほどこの紅茶を御所望でしたか?」
「まぁ、それもあるわ」
そう言って半身だけ起こし、レミリアは咲夜が持ってきた紅茶を口にする。
一口飲むと、はっきり目が覚めたのか元気にベットの上から飛び降りる。
「じゃあ、朝ごはんを用意して頂戴。それからその紅茶は甘すぎるからもういらないわ。やっぱり稀少品だからって良いものという訳では無いわね」
それだけ言い残し、レミリアは少し上機嫌そうに咲夜を部屋に残して自分だけ部屋から出る。
ちなみに、咲夜はこれからレミリアが食卓に付くであろうおよそ2分40秒以内には、朝食(今は夜なのだが)の準備を済ませていなければならないと直感したのだが、パーフェクトメイドはそのことには全く慌てる素振りも表さず、代りに今日のレミリアの様子に唖然としていた。
「……何か良いことでも有るのかしら? お嬢様が朝食を召し上がるなんて」
次の一瞬、咲夜はとりあえず初めて作る朝食のメニューを一時間ばかり考えることとなった。







「咲夜」
「はい」
無表情に食事を済ませたレミリアの呼びかけに、咲夜はやや緊張した調子で答える。
「これからは毎日朝食を摂ることにするわ。私が言わなくても準備しておいて頂戴」
「は、はいっ!」
結局、咲夜が悩んだ末に決めた朝食のメニューは、歯ごたえが出るほど焼いたトーストと特製イチゴジャムに、紅茶(午後ティーでない)のみであった。
「さて、と……」
「あ、お嬢様。口にジャムが付いていますわよ。私が拭きますわ。それに服にパンかすが。これはお着替えになった方がいいかもしれません」
朝食が終わったので食卓から出ようとするレミリアに、咲夜はあれこれと必要以上に気を使う。
やれやれ、とレミリアは思う。
咲夜は褒められたりするたびに舞い上がってしまい、やたら構いたがる様になることが今までにも何度かあった。
実はそれは、咲夜にあってはそれが顕著なのでとても目に付くのだが、他の紅魔館の住民にも同じことが言えた。
幻想郷からは恐怖の対象として見られるレミリアだが、紅魔館内においてはそうではないのだ。
紅魔館にいる住民は、そのほとんどが本来いるべき群からはぐれてしまった者達だ。
彼女達は本来の群からはぐれ、ある者は逃げ出し、ある者は打ち解けようとしたのだが叶わず、それでレミリアに求められてここにいる。
言うなれば、紅魔館ははぐれものの楽園であった。
はぐれもの達は、レミリアによって運命を操られ、レミリアの元で暮らすようになる。
「ああ! 五月蠅いわね!! 別にどうってこと無いわよ」
「ええ、もう着替えも終わりましたわ。明日からこういうことの無い様に工夫します故、ご容赦くださいませ」
「~~~っ」
咲夜は満面の笑みで、先ほどまでレミリアが着ていたであろう服を手に掛け、レミリアに頭を下げる。
「過ぎたるは猶及ばざるが如しよ。今日はこれ以上私に構わなくて良いわ。他の皆にも伝えといて頂戴。今日は暇を出す、と」
「え? お暇……です、か」
今度こそスタスタと食卓を出て行くレミリア。
はぐれ者はせっかく暇を貰っても持て余すだけ、といった様子で立ち尽くした。

「…と、そんな訳なのよ。今日のお嬢様はちょっと様子が変だと思わない?」
咲夜は、他のメイド達に先ほどのレミリアの言葉を伝える道中、美鈴にレミリアの今日の様子を話してみた。
「お嬢様が起き掛けから張り切っていらっしゃったんですか。じゃあ、多分アレですよ」
「アレ?」
こんなことは初めてだ、といった様子の咲夜に対し、美鈴は何か知っているようだ。
「何十年かに一回、思い出したようにお嬢様はお遊びになるんですよ」
「あら、失礼ね。お嬢様は私が毎日お相手差し上げているわ」
「それは本当の意味での遊びですよ。そうでなくって、お嬢様の本気の遊び、です」
「お嬢様が本気になることなんて、あるのかしら? 今日はパチュリー様の調子のいい日とか?」
「あー、どうですかねぇ…でもあの人、お嬢様とキャッキャ遊んでいる絵面がまず想像できないんですが」
「それもそうね……と、言うことは、それって……」
「今頃は、紅魔館の閉ざされた地下の結界をあけていらっしゃると思いますよ。アレ、私達が掘ったんですよ~。あの時は大変だったな~」
「地下にいらっしゃるのは、それは……」
咲夜は、門から紅魔館を見やる。
吸血鬼であるレミリアお嬢様がいるということで、他所からは畏怖の念を抱かれている彼女達の館。
その館の内でさえ、さらに畏怖の念をもって閉じ込めている存在があった。
「妹様……」







コツコツコツコツ……
ゆっくりと私は地下への回廊を歩く。
今日なら絶好調。どんな遊び方だろうと、あの子の相手をしてやれる。
「ここはいい所ね。本当、私達にうってつけ」
そう、私達は外界から幻想郷へやって来た。
私は、幻想郷のような条件の土地を探していたのだ。そうしなければ、最悪吸血鬼の血統が途絶えることになると思ったからだ。
ここを見つけたときは、えらく私も興奮したわ……。


結界に覆われ、外界から隔離された場所。幻想郷。
私は、自分の力を最大限に発揮出来そうな場所を探し、そしてこの地を見つけ出した。
何故、ここなら私の力を最大限に扱えるのか? それには、運命について知らなければならない。
運命とは、時間が連続してとめどなく流れるために、現在の時点で既に決定している未来の事。
であるから、運命を操るとは、未来へと流れる時間を観測し、そこに干渉することとなる。
では更に、時間が未来へと流れるとはどういうことか?
紅茶の中に砂糖が混ざること。熱水と冷水が混ざり、均一の温度の水になること。放っておくと、自然と部屋が散らかること。種はその血を次々と混ぜ、よりよい姿へなろうとすること。
時間が未来へ流れるとは、即ちエネルギーの移動、エントロピーの増大。
つまり、私の能力を行使するためにはエントロピーの増大が必要十分なのだ。
それを補うようにか、私には妹が一人いる。
――着いたわよ、フラン。ここが私の探していた場所。
ようやく理想通りの土地を見つけ興奮気味の私は、手元ですやすやと寝ているフランを起こさないよう心の中で囁きかける。
とてもとても、無邪気で可愛らしい寝顔。
フランは、自分とは違いとても真っすぐな性格で、本当に無邪気と形容する他無い。
我が妹、フランドール=スカーレットの能力は、あらゆる物を破壊すること。
破壊とは、究極的なエントロピーの増加。
それは私の能力を補佐するために発露したのかもしれない。尤も、現実には破壊してしまえば運命を操作する意味はもうなくなってしまうのだけれども。
………。
しかし、私はある時、ある運命を読み取った。
それは、エントロピーが無尽蔵に増大するその結末についてだった。
当然のことながら、それは死の世界――食料がなくなってしまえば、勿論私達も生きてはいけない――そのものに他ならなかった。
私は思った。
フランは、いやフランの持つその能力は、とても制御が難しいということを。
幼い妹にはとても無理だろう。まして、エントロピーが増大しきってしまえば、恐らく自らの能力が及ばなくなってしまう。
故に、閉じた系でエントロピーの増大を抑制するシステムを内包した幻想郷は、私にとって理想的で自分の力を最大限に発揮できる土地なのだった。

「おじゃまするわ」
私は、湖の畔に見つけた館を自らの住処とし、そこで自分の身の回りの世話をする者を探すことにした。
扉を開けると、独特の鼻から直に喉を刺激するような匂いがした。
「ケホ……何なの、ここは? 紙がいくつも束ねておいて有るけれど」
「あなた、本を知らないの?」
暗がりの中から変わった服装の魔女が現れる。
「知っているけど、まさかこれ全部本なのかしら??」
「そうよ、ここは魔法図書館。あなた達はどうしてここに? それとも私に用かしら?」
「ああ、私はレミリア=スカーレット、運命を操る吸血鬼よ。そしてこの寝ている子は私の妹、フランドールよ」
今は寝かしてあるから、そっとしてあげて頂戴、と言い加える。
「吸血鬼……また珍しい客ね」
「客ではないわ、今日から”私たち”はここに住むもの」

………それから、自分は吸血鬼の世話なんて出来ないといったパチュリーの提案により美鈴や咲夜といった部下を揃え、そして今に至る。


コツコツコツコツ……
自分が回廊を歩く音だけがやけに響く。
そう、私はフランを外界から避けさせるために幻想郷にやって来た。
更にその上、極力幻想郷にも干渉させないため、紅魔館に閉じ込めさせた。
コツコツ……
妹は、自分のことを何と思っているだろう。
私は無邪気な妹の笑顔を思い浮かべるたび、憂鬱になる。
フランは、閉じ込められていることになんら不満や不自由を抱いていない。
それがためにフランは自分のことを嫌悪することすらない。
けれど、それは私にとって良いことなのだろうか?
上の階となんら変わり無い外見の扉。それにノックする。
コンコン
「え……だぁれ?」
フランの声。
そういえば、前にフランを見たときはいつだったろう。
ああ、そうだ。それはつい最近だ。
私が霊夢のところに出かけている間にネズミが忍び込んだことがあった。
そのときに、フランは人間に興味を持って弾幕ごっこをしたらしいのだ。
……思えば、ここに来てから初めてフランは地下から出たのではなかっただろうか?
「私よ、フラン入るわ」
ガチャ
「お、お姉様!」
「遊びに来たわよ」
「本当!? お姉様が? 私と遊んでくれるの!?」
「ええ」
「すっごく素敵! お姉様大好きよ!!」
本当にこれだけのことで喜んでいるんだろう。
嬉しさを体全体で表す様に、フランは私に飛びつくように抱きついてくる。
その時のフランの顔といったら、本当に天真爛漫という言葉がぴったり来るような笑顔だ。
「ク……フ、フフ……アハハ、アッハハハハハハハハハハ!!」
私に抱きつき、よほど遊んでもらえることが嬉しいのか、無邪気に笑っている。
妹の両腕は万力のように私を締め付け、妹の瞳は瞳孔を大きく開き、妹の笑い声は正しく地の底から響き渡るような愛らしさ。
そのどれをとっても、私はフランにいじらしさを感じないわけにはいかなかった。
ずっとこんな狭い地下に閉じ込めているダメな姉を罵る訳でもなく、ただ遊んでくれることを喜んでくれる。
「……さあ、フラン。遊びましょう? 何がいい?」
私はそっとフランの顔に手を当ててこちらを向かせる。
「お…お姉、様…ウフフ…わ、私……ククク」
「ほら、笑ってないでお姉ちゃんに言って頂戴。そして一緒に遊びましょう?」
「わ……私、弾幕ごっこがいい!!」
「弾幕ごっこ……スペルカードルールでいいの?」
「そう!! この前人間が来て、一緒にやったんだけど、面白かったんだ~。お姉様も知ってるの??」
「ええ、お姉ちゃんは大抵のことは知っているわ」
というよりかは、スペルカードルールが出来たきっかけは自分にあった。
それは思い起こすだけで……と、今はそんなことはどうでもいい。今はフランのことだけ見てあげなくては。
「フランは別にスペルカードルールの契約に縛られることは無いでしょう?」
たとえそれが妖怪の様式に則って為された契約であっても、フランの破壊する能力の前では問題でない筈。
「うぅん、私解ったんだぁ」
「え?」
「鬼ごっこでもかくれんぼでも、ルールが有るから面白いの。だから、人間とはスペルカードで遊んだ」
先ほどからフランは人間――それは、恐らく霧雨魔理沙だろう――とやった弾幕ごっこが楽しかったと言っている。
真逆、人間なんて生き物に妹の遊び相手が勤まってしまうほどに、ここ幻想郷は全ての生き物を均一化する場所なのだろうか。
「フフフ……たかだか人間の弾幕に驚いていたんじゃ、フランもまだまだよ。私の全世界ナイトメアで、真の弾幕美というものをお知りなさい」
「えー? そんなことないよぉ……あれから私も考えたんだよ? お姉様こそ、この禁じられた遊びでアッと言わせちゃうんだから!!」
「≪禁じられた遊び≫ね……フフ。いいわよ、見せて頂戴フラン」
意味の強さがそのまま力の強さと直結しているスペルカードにおいて、≪禁じられた遊び≫は正しくフランの行う遊びであった。
妹が死の意味を知る必要は無い。そのような穢れは、全て私が引き受けよう。
「それじゃあいくわ! お姉…」
ドゴオオオオォォォォォォン!!!
突如揺れるフランドールの地下牢。
上に相当の衝撃が襲ったらしい。また、恐らくその衝撃を放った元が発しいている凄まじい重低音が私の耳を劈く。
上の紅魔館は恐らく何らかの損傷を受けているだろう。
そのことも気にはなるが、なによりこの夜の王たるレミリア=スカーレットに仇なそうとする者がいるとするならば、それは改めなければならない。
――我が妹の安寧な生活のために。
「フラン、すぐに戻るわ。あなたはここで待っていなさい」
私はフランに背を向け、地下を出る。







「くっ! 一体なんなのよこれは」
「全然効いてない感じですよ~。咲夜さんどうしましょうか」
咲夜と美鈴は、暇を貰っているにも関わらず突然の襲撃者に対し応戦していた。
紅魔館の臨時防衛部隊が直面する敵は、幻想郷にはとても似つかわしくないサイズだった。
本来なら紅魔館の正門からでも入れないサイズであったその襲撃者は、しかし先ほどの攻撃によって出来た穴から悠々と侵入してきたのだ。
「あれだけ図体がデカイのに、俊敏な動きが出来るなんて……定石通りなら、どこかに弱点でもあるのかしら?」
そして、幻想郷に似つかわしくないのはそのサイズだけでなく、それは鋼鉄のボディーを持っていた。
通常の弾幕では、ダメージはほとんど無い様子だった。
「とりあえず隠れて様子を見ましょう、美鈴。もしもう一度館を攻撃しそうになったら、その隙にもう一度一斉攻撃を仕掛けるしかないわ!」
「りょ、了解です」
「お嬢様が出てくるまでに、何としても倒すわよ」
二人は本棚の影に隠れる。ここは整然と並んでいるようで入り組んだ構造をしているため、手当たり次第攻撃したところでそう簡単には当たらないと咲夜は踏んでいた。
ガション、ガション……
「まるでSFに出てくるようなロボットね……」
「ロボット? ……ってなんですか咲夜さん」
「今度ゆっくり教えてあげるわよ」
咲夜は、自分とほぼ同じぐらいの年に見える美鈴に世代間格差を感じ、それが少し可笑しかった。
……ガション、ガション
ふと、ロボットが立ち止まる。
「隠れても意味は無いわ。貴方達より、ダチョウの方がもっと上手に隠れるもの」
バカッ ドドドドドドドドドド……!!
「そ、その声は…!!」
ロボットから射出された複数の人形達は、緩やかな放物線を描きながらその全段が咲夜と美鈴が隠れている場所へと正確に向かってくる。
「アーティフルサクリファイス・ランチャーよ」
「その中にいるのは、アリス=マーガトロイド!!」
シュゴォォオオ  ドドドドドドォォォオオンン!!!
アリスが乗るロボット――正式には、メタルドール LAXA(LArgeXAnghai)という――から射出された無数の自爆人形の爆撃によって、咲夜たちが隠れていた場所は煙に覆われた。
LAXAから顔を出したアリスは、その煙を見つめる。
「割とあっけなかったわね。さて、次はここの館の主かしら……」





地下から出てくる途中、二度目の大きな衝撃音を聞き、私はそこへ向かう。
我が館を破壊した侵入者は、何とも形容しがたい鋼鉄の塊だった。
「何? この木偶の坊は」
「フフ…これはLAXA。私と魔理沙の合作人形、メタルドールLAXAよ」
鋼鉄の塊から発せられる暗く鋭い声色を聞いて、私は侵入者がアリス=マーガトロイドであると理解した。
「そんなことはどうでもいいわ。これは一体どういう了見かしら? ブクレシュティの人形師」
「それを貴女に喋る必要はないわ。少しの間、私に付き合ってもらえるかしら?」
相変わらず抑揚の無い喋り方。
「フン。いいだろう」
考えても見れば、どういう了見かを知る必要は全く無かった。
勝って退ける。今はそれだけで良い。
私はいち早くフランの元に戻りたい気持ちでイライラしていたし、アリスとかいう魔法使いには少しも興味が無かった。
「古代北欧の物を使うのは少し気が進まないけれど……」
私は、真紅のスピア・ザ・グングニルをスペルカードから取り出す。
「悪いけど……」
グングニルの投擲からは何人たりとも逃れられない運命。
私は、一本目のスピア・ザ・グングニルを投げつける。
シュッ……ガアァァァン!
投げられた魔槍は、私の投擲能力とも相まって当然目の前のでくの坊が避けられる故も無く、直撃する。
しかし……なるほど鋼というものは頑丈だ。へこみはしたが、貫通するには至っていなかった。
むしろ直撃による衝撃によって、塊が大きく後退しバランスを崩したことに一撃目の意味を見出した方が良いと思えるほどだ。
「そんな玩具じゃ……」
その隙に、同じところにもう一度同じ攻撃を加える。
ガアァァァン!
やはり金属が物質をはじく音。しかし、その塊は先ほどより大きく歪んでいる。
もう一撃か……。
「ち、ちょっとま…」
アリスが何か言っているが勿論聞いてやる暇は無い。
「ダーツ遊びの的にもならないわよ!」
ズドォン!
LAXAとかいう、鋼の塊の真ん中を貫き、三本目のスピア・ザ・グングニルは紅魔館の外へ。
ド ガァァァァァアアアン!!!
鋼鉄の塊は爆発した。中に爆発物でも詰め込んであったのだろうか?
「最後は爆発するなんて……やはりロボットみたいね。ということは……」
「咲夜?」
どこに隠れていたのか、うちのメイド長が姿を現す。
見れば服が少し焦げ付いているみたいなので、逃げ隠れていたわけでも無いのだろうけど…。
「申し訳ありません、お嬢様」
「お嬢様、すいません~」
更に門番も現れる。こっちはもっと酷くやられている様子で、顔に煤までつけている。
「いいわ、その代わり掃除はちゃんとして頂戴」
「勿論ですわ。……ということだから、無事には帰さないわよ。アリス」
こっそりとその場から抜け出そうとしていたアリスの首根っこを、瞬間移動した咲夜が捕まえる。
「…バレてたの?」
「ロボットが爆発したら、その搭乗者が脱出するのはお約束ですもの」
アリスのことは咲夜たちに任せて、私はもう一度フランの所に戻ろう。
今日はフランと遊ぶ日なのだ。そのことをだけを考えよう。
地下に向かうため、私は咲夜たちから背を向け後ろを振り返った。

「あ、お姉様」
「フランッ!? どうしてここへ?」
驚いたことに、地下にいるはずのフランが私のすぐ後ろにいた。
私の言うことを、これまで一度も破ってきたことの無かったフランが。
そもそも、自分から外に出たがることもなかった筈なのに……。
「私は、あそこで待っておくように言っておいたでしょう? どうして……」
と、フランの後ろから一人の人間が姿を現した。
「さあ、レミリアにお別れの挨拶をするんだ。フランドール」
「魔理沙!!」
「いい所にいたじゃないか、レミリア。ちょっとフランドールと遊びに行ってくるぜ。いいだろ?」
「霧雨魔理沙……その子から離れなさい」
「どうしてだ? 私とフランドールは友達なんだ、そうだろ?」
「う……うん」
「フラン……」
「ごめんなさいお姉様。でも、魔理沙は私の友達になったの。それで、友達は外で一緒に遊ぶものだって……」
「そうだぜ。レミリアは実の妹を監禁してるらしいからな。酷い姉だぜ」
「魔理沙っ! お姉様は……」
「解ってるぜ、フランドールは別にレミリアのことを恨んでいない。たった一人の肉親だから、好きだって言うんだろ?」
「う、うん」
「レミリア、お前はこの健気さに付け込んでいるだけだ。気が付いているんだろう?」
「突然やってきて、私のフランを連れて行こうとして……アリスともつるんでいたの?」
「そうさ。アリスの人形作りに協力する代償として、な」
その人形は私が破壊してやったが。
ちらと魔理沙はアリスの方を見る。アリスは咲夜に拘束されており、何のアクションも取れないはずだ。
魔理沙とは、以前一度戦って負けたが、今日のコンディションで一対一なら負けは無い。
……ここで魔理沙を倒し、フランを救出すればいい。

「咲夜……他の奴らも聞け!!
 レミリアはお前たちに居場所を与え、そして懐柔してきた。
 あいつは運命を操る。その能力によって、お前たちは運命を変えられて、レミリアに従うようになり、紅魔館に住み着いた。
 けれど、運命とは本来生まれ持って持っているもの。背負っているものだ。
 本当の運命、つまり宿命に逆らえば、いつか必ず報いが来る。
 紅魔館の中をよく見てみろ。
 例えば咲夜。この中で人間といえば、お前一人じゃないか。周りの奴らは皆、人間とは寿命が一桁は違う妖怪か妖精。
 同じ時を過ごしていないものとの生活は、そのギャップに気が付くと辛くなるぞ。
 そして、お前がいくら願っても紅魔館にいる限り人間と打ち解けることは決して出来ないだろう。
 他の奴らもそうだ! 紅魔館にいる限り、本来の群――本来の安息――に戻ることはできないだろう。
 レミリアははぐれものの楽園(アウターズヘブン)を作ったつもりかもしれないが、その紅魔館自体もいびつだ。
 妖怪は人間を何時食らおうとしているかも知れない! 人間はいつ妖怪や妖精を退治しようと考えているかも知れない!!
 無邪気な妖精たちですら、強力で自分達に影響を与える妖怪に嫉妬しているかも知れない!!
 お前を馬鹿にしているヤツはいないか!?
 お前を殺してやりたいと思ってるヤツはいないか!?
 考えてみろ、明日にも紅魔館のだれかがお前に弾幕を浴びせるかもしれない。
 操られた運命ではなく、本当の宿命を思い出すんだ!」

「う、く……」
しかし私の思惑とは別に、魔理沙の話を聞き、咲夜はアリスの拘束を解いてしまう。
うちのメイド長は、元の運命を思い出しかけているのかもしれない。頭を抑え、立っているのがやっとといった状態だ。
「咲夜、魔理沙の言うことを聞いてはダメよ。貴女は十六夜咲夜。ここにいなさい」
「わ、私の……本当の宿命……」
「お前の名前は、本当に十六夜咲夜なのか!? 思い出せ、紅魔館に来る前のことを!!」
「く……に…NmiyaaaAAAAOOH!」
咲夜の目の光が、ここに来た頃の鈍く鋭い輝きに戻る。
次の瞬間、その鋭く鈍い銀の輝きが視界全てを埋め尽くす!
「く……」
時間を止めてナイフを投げる咲夜の戦闘術。
ナイフの数が多すぎるので、蝙蝠化して逃げることは不可能。以前のように、時を不連続にした咲夜の運命を操ることによって再び途切れた時の流れを繋ぎ合わせている余裕も無い。
ドスドスドスッ
「お、お嬢様……大丈夫ですか?」
しかし……
「美鈴……」
被弾を覚悟した私だったが、体のとこにも痛みはなかった。
その代りに、目の前でうちの門番に無数のナイフが突き刺さっている。
「私……は、ここに来れてすっごく楽しかった、ですよ」
「美鈴、喋らないで」
「……ここに来てから、あんまり気の利いたことも出来ませんでしたけど……今日はお役に立てましたか? お経様」
「え? ……ええ」
何か返事をしようとしたけれど、その前に美鈴の意識は途絶えてしまった。
「……やめさせなさい! 魔理沙!!」
「私がやってるんじゃあ無いぜ。止めたければ、自分で止めてみたらどうだ?」
「魔理沙、あなた……咲夜ッ! 魔理沙の言葉を真に受けてはダメよ。ここでの貴女の体験だけを信じなさい!!」
「ク……ウゥ、私は……」
やはり人間の群に戻りたい気持ちが根強く残っているのか?
けれど……
「咲夜……貴女はどちらかというと私達に近いわ。人間だからといって、必ず人間に馴染まなくてはいけないものではないのよ」
私が次の言葉を選んでいると、代わりにパチェが咲夜に説得を試みた。
「パチェ……」
パチェは、他の皆と同様に一度襲撃者にやられている様子だった。
「パチュリーか? さっき私に撃破されたばかりだっていうのに、意外と体力あるんだな」
「ネズミにうろちょろされたのでは、ゆっくり休むこともできないもの……レミィ、魔理沙は呪術を使っているに過ぎないわ。私に任せてもらえるかしら?」
「呪術……魔法の一種か」
「そう。どこで会得したのかは知らないけれど……咲夜、アリス、こっちへ来なさい! ジンジャガスト」
小さな竜巻を二つ発生させ、それで咲夜とアリスを縛ると、パチェたちは竜巻の強風によって紅魔館の地下へと姿を消す。






それが、魔理沙がここに乗り込んできてからの出来事であった。
私は、それを思い起こし魔理沙の運命を読み取った。
改めて、朝日を背にした魔理沙と対面する。
「それにしても、お前が呪術を使うなんてね……弾幕は火力、だとか言っていたのではなかった?」
「たまには、違うタイプの魔法にも興味が出てくるものさ」
「フフ……嘘ね。お前は、絶対的な火力を追い求めてきた。本来、魔法使いというのはパチェのように様々な種類の魔法を体得するものだというにも関わらずにね」
「………」
「だが、お前は人間の性能ではこれ以上の火力を出せない。という壁にぶつかったのではないか? だから、フランの火力を借りようとした」
「…目的が解らないぜ」
「白を切っても無駄よ。お前は幻想郷の結界に、穴を開けるつもりなんでしょ?」
「!!」
「閉じた系――外からの干渉を受けない世界――では、あるシステムさえ構築されていれば、エントロピーの減少もありえる。世界は、同じ形を維持し続けることができる」
それが、幻想郷。と私は続けた。そのような世界こそ、私の探した理想郷だったのだ。
「そうだぜ……私は、幻想郷をよりよい方向へ進化させたい。そのためには、変化させることが必要なんだ」
「変化させることは、最終的には死、消滅を意味するわ。短い時しか生きられぬお前にはそれが理解できないだけよ」
「レミリアもあいつと同じことを言うんだな。だが、今日はフランを借りていくぜ? 別に攫っていくわけじゃない。一緒に遊ぶだけさ」
「いいえ! フランと遊ぶのは、この私よ!!!」
「しょうがないな…私のマスタースパークで消し炭にしてやる!!!」













「いてて……あーやられちまったぜ」
霧雨魔理沙は、自らの住処である霧雨魔法店に一人で戻ってくる。
あれから、自分の所為で喧嘩している(と思った)レミリアと魔理沙を止めるべく、フランのレーヴァテインが二人の頭上に振り落とされたのだ。
体中のあちこちが壊滅的なダメージを受けているのだが、あいにくスペルカードによる打撃だったので命に別状はなかった。
彼女の主食である、作り置きしてあった茸スープに魔法で熱を入れ、それを口にする。
「あーあ、これで紅魔館の過去まで調べて実行した呪術も失敗かよ」


幻想郷の人里出身の彼女――普通の魔法使い、霧雨魔理沙――は、パワーバランスが大きく妖怪に傾いた幻想郷に革命をもたらそうとした。
それは、遙か昔人間たちの天下であったために、妖怪たちが外の世界と隔離された自分達の楽園、つまり幻想郷を作りだし、更にその境界を具現化した博麗大結界を人間――博麗の巫女――に保守させていることに対しての、彼女なりの反乱だったのかもしれない。
前編から随分と時間が経過してしまいました。申し訳ありません。
本作品について、皆様の忌憚無きご批評がいただけましたら幸いに思います。
(とりあえず、魔理沙の出番が思ったほど増やせなかったのが、自分としての反省点です^^;)
CEn
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