幻想郷における「みに」の経済効果
―永遠亭を支える者(自覚なし)-
あらすじ: みには邪スティス
昼なお暗い、迷いの竹林。その中にひっそりと建つ和風建築で、今日も月からの民が暮らしていた。
外の世界で厳冬が幻想と化したのか、今年の幻想郷の冬は厳しい。だが、降り積もった雪が陽射しを
反射し、永遠亭に注ぎ込む光の量は増えていた。
永遠亭奥の永琳の部屋で、主従が仲良く炬燵で暖まっていた時、驚愕の事実が披露された。
「ねぇ、えーりん」
「何でしょうか、姫様」
「最近は、どんなしょーもない事を研究しているの?」
「失礼ですね……まぁ、いいでですが。今は、この永遠亭に関する事を研究しております」
炬燵の天板に顎を乗せている輝夜をたしなめつつ、永琳は律儀に答えた。
「え? イナバ達の身体計測でもしてるの?」
「何を期待してらっしゃるんですか」
「ベツニー」
計測も何も、既に把握しております。
……とは言わないところが、天才のつつしみ。
「それなら、何を研究しているのよ?」
「姫様、ウドンゲの特徴と言えば、なんでしょう?」
「へにょりイナバの特徴ねぇ。へにょった耳と、長い髪と……ミニスカートかしら?」
「それなんですよ」
「?」
「姫様。永遠亭の繁栄は、ウドンゲのみにすかーとニかかっていたのデスよ!」
「ちょっとえーりん、落ち着きなさい。言葉がおかしいわよ」
「失礼致しました。取り乱すほどの大発見でして」
「順を追って話しなさい」
「では」
何故か、炬燵の中から出現した分厚い2冊のファイル。
その1冊を開き、永琳は講釈を始めた。
「姫様、こちらをご覧下さい」
「これは?」
「永遠亭の財政状況の、日毎の収入グラフです」
「……変動はあるけれど、素晴らしい眺めね」
「ありがとうございます。では、続きましてこちらを」
「……こっちの表と同じじゃないの?」
もう一つのファイルから抜き取られたグラフは、永遠亭の収入表と同じ分布だった。
「いいえ姫様、重ねてみたら――お分かりになりますか?」
「全く同じ、いいえ違うわ。同じでありながら、こっちの表の方が、変化を先取りしているわね」
収入表と重ねると、2枚目のグラフは、ほぼ1マス分だけ変化が早かった。
2枚目のグラフが上がると、1マス遅れて収入表のグラフが上がりだす。しかし、上昇具合は同じだった。
どちらの表も、横軸は日付。しかし、縦軸が収入表は通貨単位なのに対し、もう1枚は「cm」だった。
「こっちの表も、財政に関するものかしら?」
「いいえ、こちらは――
ウドンゲのスカートの丈です」
「…………え?」
「ですから、ウドンゲのスカートの丈です。スカートの裾と、膝との間の幅ですよ」
膝よりどれだけスカートの裾が上にあるかで、グラフは変動していた。
そして、短ければ短いほど、グラフは上昇していた。
「えぇと、ごめんなさい。さっぱり因果関係が分からないわ」
「ご説明致します。私は、常日頃からウドンゲを観察・記録していました」
「趣味じゃなくて?」
「学術的な興味です」
「……あそ」
「日々、ウドンゲを観察していて、気づきました。あの娘のスカートの丈は、日々変動しています」
「それでー?」
輝夜は、既に聞く気を失っている。
みかんを剥いて丸々一個を丸呑みし、永琳に手を叩かれた。
「その丈をグラフにしてみたら、収入表と変動幅が一致しました」
「……偶然でしょ?」
「私も、そう思いました。ですが、1ヶ月の記録が1日違いで完全に一致したのです」
「…………」
「過去の記録写真のスカート丈を測定してグラフ化し、1年分の収入グラフと照らし合わせてみました。
これまた、1日違いで一致しました」
「過去の記録写真ってナニヨ」
「私のコレクションです」
言いながら、永琳はファイルの一冊を開けた。
中には、日付の書き込まれた鈴仙の3アングル写真がファイリングされていた。
「やっぱり、趣味なんじゃない?」
「学術的興味だと言ったじゃありませんか」
「……いいけどね」
あのイナバは、私のペットいうよりもえーりんのペットだから。
そう呟きながら、輝夜が炬燵の中で伸ばした足を動かすと、何か硬い物が足に当たった。
「なにかしら?」
ゴソゴソ
「……ナニコレ」
「あ、この観察記録を執筆するに当たり使用した、参考資料です」
『わたしのおぜうさま ~365日24時間観察記録~』
『パパラッチ一代記』
『How to make my doll Ⅳ ――被写体のデータ収集法――』
香霖堂書房 刊
「ねぇ、えーりん。監禁されるべきは、私じゃなくて貴女じゃないかしら?」
「じゃあ、姫様が働かれますか?」
「……くれぐれも、外ではやらないようにね」
「ご安心を。ウドンゲだけです」
今度、へにょりイナバを見る時に憐れみの視線にならないだろうか。輝夜は、不憫でならなかった。
「話を戻しましょう。姫様、外の世界にはこんな言葉がございます。『景気はスカートの丈に現れる』と」
「どういう事?」
「好景気の時はミニスカートが流行し、不景気ではロングスカートが流行するという意です」
「それが、へにょりイナバのスカート丈に当てはまると?」
「これが、証拠です」
言いながら、永琳は2枚のグラフを手で示した。
「私は、研究を一歩進めてみました。10日前、ウドンゲのスカート丈を、通常より1cm上げさせました」
「そういえば、先週はイナバ達の鼻息が荒かったわね……」
「急に病人が増え始め、外来も薬局も患者が溢れ、売り上げが前年比の倍となりました」
「……それはスバラシイわね」
「さらに5日前、もう1cmあげさせました」
「腹黒イナバが、出血多量(鼻血)で医務室に運ばれた日ね」
「翌日、ライバルの霧雨魔法店で消費期限切れの薬品の販売が発覚して、魔理沙は夜逃げしました。
そのため、薬品販売を我がイナバ薬局が独占する事となり、最高益を記録したのです」
「ねぇ、病人が増え始めたのって……」
「霧雨魔法店の薬品購入者でしたね」
魔理沙の行方は、巫女も知らない。
「姫様、お分かり頂けたでしょう? ウドンゲのスカート丈は、永遠亭の財政を大きく左右するのです」
「ここまで証拠を出されては、信じるより他無いわね」
その時、永琳の部屋のふすま越しに、鈴仙の声がした。
「師匠、よろしいでしょうか」
「ウドンゲ? どうぞ」
「失礼します」
スッとふすまが開き、鈴仙が顔を覗かせた。
ちなみに、既にウドンゲ観察記録は隠されていた。
「あっ、姫様もこちらにおいででしたか。お昼のご用意が出来ました~」
「わかったわ」
「ご苦労様」
「では」
そう言って、鈴仙は下がるためにきびすを返した。
「!」
「! ウドンゲ、待ちなさいっ!」
「なんですか?」
きびすを返した時、チラリと見えたのは――
「そ、そのスカートは何ッ!?」
「……ロングスカート……」
「あ、今日は気分を変えてみました。似合いますか?」
昨日までのミニっぷりはどこへやら。
今日の鈴仙は、足首にまでかかるロングスカートだった。
「慧音さんから頂いたんですよ。私のイメージに合わせて藤色なんですって」
「キモケェェェェェェェェェェェェェネェェェェェッ!!!!! 許さねぇぇぇぇっ!」
奇声を上げ、永琳は窓を突き破り、大空へと飛び去った。
「……師匠……?」
「イナバ。永琳は、いつもの服装の貴女が、一番可愛いと思っているのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「だから、着替えてらっしゃい。そうしたら、里まで永琳を迎えに行きましょう」
「はい、わかりました! エヘヘ、気に入ってくれていたんですか」
スキップしながら自室へと去る鈴仙の背中を見ながら、輝夜は呟いた。
「明日夜逃げするのは、私達かしら……」
幸い、翌日の収益は減りはしたが、夜逃げまでには至らなかった。
しかし、永琳が錯乱して慧音を襲ったため、その治療費と庵の修繕費、更には報復にやって
来た妹紅の鳳凰によって永遠亭が半焼し、大幅な損失が計上されたとか――。
―永遠亭を支える者(自覚なし)-
あらすじ: みには邪スティス
昼なお暗い、迷いの竹林。その中にひっそりと建つ和風建築で、今日も月からの民が暮らしていた。
外の世界で厳冬が幻想と化したのか、今年の幻想郷の冬は厳しい。だが、降り積もった雪が陽射しを
反射し、永遠亭に注ぎ込む光の量は増えていた。
永遠亭奥の永琳の部屋で、主従が仲良く炬燵で暖まっていた時、驚愕の事実が披露された。
「ねぇ、えーりん」
「何でしょうか、姫様」
「最近は、どんなしょーもない事を研究しているの?」
「失礼ですね……まぁ、いいでですが。今は、この永遠亭に関する事を研究しております」
炬燵の天板に顎を乗せている輝夜をたしなめつつ、永琳は律儀に答えた。
「え? イナバ達の身体計測でもしてるの?」
「何を期待してらっしゃるんですか」
「ベツニー」
計測も何も、既に把握しております。
……とは言わないところが、天才のつつしみ。
「それなら、何を研究しているのよ?」
「姫様、ウドンゲの特徴と言えば、なんでしょう?」
「へにょりイナバの特徴ねぇ。へにょった耳と、長い髪と……ミニスカートかしら?」
「それなんですよ」
「?」
「姫様。永遠亭の繁栄は、ウドンゲのみにすかーとニかかっていたのデスよ!」
「ちょっとえーりん、落ち着きなさい。言葉がおかしいわよ」
「失礼致しました。取り乱すほどの大発見でして」
「順を追って話しなさい」
「では」
何故か、炬燵の中から出現した分厚い2冊のファイル。
その1冊を開き、永琳は講釈を始めた。
「姫様、こちらをご覧下さい」
「これは?」
「永遠亭の財政状況の、日毎の収入グラフです」
「……変動はあるけれど、素晴らしい眺めね」
「ありがとうございます。では、続きましてこちらを」
「……こっちの表と同じじゃないの?」
もう一つのファイルから抜き取られたグラフは、永遠亭の収入表と同じ分布だった。
「いいえ姫様、重ねてみたら――お分かりになりますか?」
「全く同じ、いいえ違うわ。同じでありながら、こっちの表の方が、変化を先取りしているわね」
収入表と重ねると、2枚目のグラフは、ほぼ1マス分だけ変化が早かった。
2枚目のグラフが上がると、1マス遅れて収入表のグラフが上がりだす。しかし、上昇具合は同じだった。
どちらの表も、横軸は日付。しかし、縦軸が収入表は通貨単位なのに対し、もう1枚は「cm」だった。
「こっちの表も、財政に関するものかしら?」
「いいえ、こちらは――
ウドンゲのスカートの丈です」
「…………え?」
「ですから、ウドンゲのスカートの丈です。スカートの裾と、膝との間の幅ですよ」
膝よりどれだけスカートの裾が上にあるかで、グラフは変動していた。
そして、短ければ短いほど、グラフは上昇していた。
「えぇと、ごめんなさい。さっぱり因果関係が分からないわ」
「ご説明致します。私は、常日頃からウドンゲを観察・記録していました」
「趣味じゃなくて?」
「学術的な興味です」
「……あそ」
「日々、ウドンゲを観察していて、気づきました。あの娘のスカートの丈は、日々変動しています」
「それでー?」
輝夜は、既に聞く気を失っている。
みかんを剥いて丸々一個を丸呑みし、永琳に手を叩かれた。
「その丈をグラフにしてみたら、収入表と変動幅が一致しました」
「……偶然でしょ?」
「私も、そう思いました。ですが、1ヶ月の記録が1日違いで完全に一致したのです」
「…………」
「過去の記録写真のスカート丈を測定してグラフ化し、1年分の収入グラフと照らし合わせてみました。
これまた、1日違いで一致しました」
「過去の記録写真ってナニヨ」
「私のコレクションです」
言いながら、永琳はファイルの一冊を開けた。
中には、日付の書き込まれた鈴仙の3アングル写真がファイリングされていた。
「やっぱり、趣味なんじゃない?」
「学術的興味だと言ったじゃありませんか」
「……いいけどね」
あのイナバは、私のペットいうよりもえーりんのペットだから。
そう呟きながら、輝夜が炬燵の中で伸ばした足を動かすと、何か硬い物が足に当たった。
「なにかしら?」
ゴソゴソ
「……ナニコレ」
「あ、この観察記録を執筆するに当たり使用した、参考資料です」
『わたしのおぜうさま ~365日24時間観察記録~』
『パパラッチ一代記』
『How to make my doll Ⅳ ――被写体のデータ収集法――』
香霖堂書房 刊
「ねぇ、えーりん。監禁されるべきは、私じゃなくて貴女じゃないかしら?」
「じゃあ、姫様が働かれますか?」
「……くれぐれも、外ではやらないようにね」
「ご安心を。ウドンゲだけです」
今度、へにょりイナバを見る時に憐れみの視線にならないだろうか。輝夜は、不憫でならなかった。
「話を戻しましょう。姫様、外の世界にはこんな言葉がございます。『景気はスカートの丈に現れる』と」
「どういう事?」
「好景気の時はミニスカートが流行し、不景気ではロングスカートが流行するという意です」
「それが、へにょりイナバのスカート丈に当てはまると?」
「これが、証拠です」
言いながら、永琳は2枚のグラフを手で示した。
「私は、研究を一歩進めてみました。10日前、ウドンゲのスカート丈を、通常より1cm上げさせました」
「そういえば、先週はイナバ達の鼻息が荒かったわね……」
「急に病人が増え始め、外来も薬局も患者が溢れ、売り上げが前年比の倍となりました」
「……それはスバラシイわね」
「さらに5日前、もう1cmあげさせました」
「腹黒イナバが、出血多量(鼻血)で医務室に運ばれた日ね」
「翌日、ライバルの霧雨魔法店で消費期限切れの薬品の販売が発覚して、魔理沙は夜逃げしました。
そのため、薬品販売を我がイナバ薬局が独占する事となり、最高益を記録したのです」
「ねぇ、病人が増え始めたのって……」
「霧雨魔法店の薬品購入者でしたね」
魔理沙の行方は、巫女も知らない。
「姫様、お分かり頂けたでしょう? ウドンゲのスカート丈は、永遠亭の財政を大きく左右するのです」
「ここまで証拠を出されては、信じるより他無いわね」
その時、永琳の部屋のふすま越しに、鈴仙の声がした。
「師匠、よろしいでしょうか」
「ウドンゲ? どうぞ」
「失礼します」
スッとふすまが開き、鈴仙が顔を覗かせた。
ちなみに、既にウドンゲ観察記録は隠されていた。
「あっ、姫様もこちらにおいででしたか。お昼のご用意が出来ました~」
「わかったわ」
「ご苦労様」
「では」
そう言って、鈴仙は下がるためにきびすを返した。
「!」
「! ウドンゲ、待ちなさいっ!」
「なんですか?」
きびすを返した時、チラリと見えたのは――
「そ、そのスカートは何ッ!?」
「……ロングスカート……」
「あ、今日は気分を変えてみました。似合いますか?」
昨日までのミニっぷりはどこへやら。
今日の鈴仙は、足首にまでかかるロングスカートだった。
「慧音さんから頂いたんですよ。私のイメージに合わせて藤色なんですって」
「キモケェェェェェェェェェェェェェネェェェェェッ!!!!! 許さねぇぇぇぇっ!」
奇声を上げ、永琳は窓を突き破り、大空へと飛び去った。
「……師匠……?」
「イナバ。永琳は、いつもの服装の貴女が、一番可愛いと思っているのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「だから、着替えてらっしゃい。そうしたら、里まで永琳を迎えに行きましょう」
「はい、わかりました! エヘヘ、気に入ってくれていたんですか」
スキップしながら自室へと去る鈴仙の背中を見ながら、輝夜は呟いた。
「明日夜逃げするのは、私達かしら……」
幸い、翌日の収益は減りはしたが、夜逃げまでには至らなかった。
しかし、永琳が錯乱して慧音を襲ったため、その治療費と庵の修繕費、更には報復にやって
来た妹紅の鳳凰によって永遠亭が半焼し、大幅な損失が計上されたとか――。
これはまた随分懐かしい説を。学生時代この事をレポート論文の題材にした
私がやってまいりました。^ ^;)
にしてもこの永琳、ダメっぽいですねぇ・・・既刊の著者達並に。
ああ、ところでメイド長の新刊予定はまだですか?(マテ)
この言葉は赤貧巫女にも教えてあげるべきだと思うんだ。
>数を操る程度の能力 様
懐かしい説ですね(笑)。でも、この説が有効なら、巷の高校生は……。
メイド長の新刊ですか? 次回は、 妹 様 が 犠 牲 か も しれませんね。
>蝦蟇口咬平 様
ハローページが幻想になりましたら(笑)。
>名前が無い程度の能力 様
某紅白は……次回、小ネタで書かせて頂こうと、既に暖めておりまする(ニヤリ)。
次はフランネタと聞いて歩いてきました
ぜひ欲しいのですが