Coolier - 新生・東方創想話

中の人は魔女

2007/02/08 03:58:38
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大掃除日和という言葉がある。
いや無い。と断言されてしまったら返す言葉が無いのだが、
ここは存在するという方向で強引に進めようと思う。

ともかく、そんな日和の昼下がりの出来事であった。





「いやあ……これは無いだろう」

薄暗い空間の片隅に座り込み、誰とも無しに言葉を漏らしたのは、霧雨魔理沙その人。
眼下には一冊の書物が開かれており、顔も伏せたままであることから、独り言であるのは明白だ。
返答を求める意味ではなく、純粋に口を突いてしまったというのが正解だろう。

「何がよ?」

が、回答はあった。

「こら、暗いだろ。後ろに回るな」
「そんな所で、じーっと座り込んでるのを見たら、誰だって気になるわよ」

そんな所。という表現は、まさしく正鵠を射ていた。
何しろここは冥界が白玉楼。その広大な敷地の一角に設えられた、土蔵の内部なのだから。

ちなみに魔理沙は、自殺もしていなければ、陰謀に巻き込まれて惨殺されたシリアスな過去も持ち合わせてはいない。
仮にそうだとしても、今の彼女では地獄行きの可能性が多いに高いと思われる。
正確な解答を記すとするなら、蔵の大掃除手伝え言われただね、仕方なく来たべさ。というものになろう。
それを証明するかのように、今も彼女等の周辺には、普段冥界に居を構えていない面々……というか知り合いが多数闊歩している。
が、それらは皆、大掃除という名目を律儀に守っているためか、関わってくるような気配は無い。
もしくは、魔理沙の奇行にはもう飽き飽きだ。といったところだろうか。

「さぼってないで、さっさと片付けましょ。魔理沙のせいで巻き添え食らうのはごめんよ」
「ん、別に私がどうしようとお前には関係無いだろ」
「関係あるわよ。私たちはワンセットで見られてるんだから。今日の報酬だって、連名で一袋らしいわよ?」
「……なんだそりゃ」

もう、この時点でお分かりだろうが、魔理沙に話しかけている人物はアリスである。
いやいや霊夢だろう。パチュリー今日は元気だな。フランちゃんかわいいよ。女言葉は止めておけ店主。
といった意見もあろうが、アリスと言ったらアリスなのだ。
ここは一つ折れてほしい。

「ま、良いさ。別に私はそんな表向きの報酬になんか興味はない」
「という事は、それ以上に興味をそそられる物を見つけたのね」
「おう。トレジャーハンティングこそが私の生きる道だからな」
「昨日は醤油作りが天職とか言ってた気がするけど……」

アリスは愚痴っぽく言葉を返しつつも、魔理沙の隣へと腰を下ろす。
貴方の傍にいたいから……等というファンタジックな理由ではなく、純粋に興味が沸いたからである。
表向きは別種であろうとも、彼女等の本質は蒐集家という点で一致しているのだ。

「まあ、流石にこれは胡散臭すぎるけどな……」
「何が?」
「ほれ、こいつだ」

魔理沙は視線を書物に落としたまま、後ろ手に何かを放る。
アリスはそれを反射的にキャッチすると、薄く差し込む光に当てるように掲げ上げた。
飾り気の無い金属の輪。
そこから短いチェーンが伸び、親指大ほどの大きさをもった黄金色の石に繋がっている。

「……イヤリング?」
「見た目はな。だがその実態は……」
「……」
「……何だろうな」

座った状態でのコケは高度な技術を要するものだが、アリスは見事にそれをやってのけた。
まことに律儀である。

「知らないならもったいぶって言うんじゃないわよ!」
「大声出すな、見つかったらどやされるだろ。
 ……何つーか、いまいち理解出来ないんだよ」
「どういう事よ」
「いや、な。何でもこの古文書……いや、魔導書? 良く分からんが、とにかくこの本の記述によると、
 あるマジックアイテムを用いる事によって、使用者の……気? 多分、魔力や霊力みたいなもんか。
 そいつを何倍にも増幅させる方法とやらが存在する……らしい」
「本当に仮定形だらけね……で、そのマジックアイテムというのがこれなの?」
「多分。でも、その使い方となると、さっぱり記されてない。
 二つで一組だって事までは分かったんだが……」

魔理沙はアリスに渡したものと同様のイヤリングを手の平で転がしている。
厳めしい表情と、歯切れの悪い台詞からして、調査は順調とは言い難いのだろう。

「……何にしても、胡散臭すぎる話ね。良くある与太話でしょ」
「そうは思うんだが……何か引っかかるものがあるんだよな」
「ふぅん」

既にしてアリスは、この事象からの興味を失いかけていた。
存在、及び効力そのものが曖昧かつ適当すぎるというのもあるが、
それに加えて、件のマジックアイテムからは、そうした強大な魔力が欠片も感じられなかったからだ。
これは偽物だった。魔理沙が誤読をしていた。古文書の内容そのものがデマだった。
等々、否定的な結論ばかりが浮かび上がるのも、無理からぬところだろう。

「……そうだよなぁ。
 そんな大層な代物が、白玉楼の蔵に転がってるってのもおかしいし、
 すぐ近くに解説された本が存在するのだって、いかにも怪しい」
「そう思いながらも、まだ諦めてない理由は……勘?」
「んむ」

それを馬鹿らしいと切り捨てる事は出来なかった。
魔理沙の野生の勘は、これまで良くも悪くも抜群の的中率を誇っていたからだ。
故にアリスは立ち去るでもなく、協力するでもなく、何となくその場に留まっていた。

「(魔力の大幅な増幅、ねぇ。どう見たってただのイヤリングなんだけど……)」

ふと思い立ち、そのイヤリングを自らの左耳へと着けてみる。
が、やはりというか、何の変化も起きはしない。
魔法防御力が向上した感覚も無ければ、不思議な力もみなぎらないみなぎらない。
単に起動命令や呪文といったものが必要なだけかもしれないが、
そうした詳細は、古文書と首っ引きの魔理沙にしか分からないのだ。

「他に何か情報は無いの?」
「んー、あらかた探してはみたんだが、他に類似するような資料も無かったんだよなぁ」

魔理沙は本から顔を上げると、大きく伸びをする。
そして、同じことを思ったのか、転がしていたイヤリングを右耳へ取り付けようとしていた。

「ねえ、二つで一組なら、一人で着けないと無意味じゃないかし……」
 
アリスが言葉を紡げたのは、そこまでだった。









派手な効果音も、鮮烈な映像演出もない。
一瞬だけフラッシュバックし、もわもわっとした白煙が蔵に充満したのみである。
だが、それにより生み出された効果は絶大であった。



「「……成る程。こういう事だったのね」」



煙が晴れたその場所に佇んでいたのは、一人の少女。
その口から紡がれる声は、高い低いといった既成の概念を無視していた。
ビブラート……というより、明らかに二重となって聞こえるのだ。

もはや、火を見るよりも明らかな事実ではあるが、それでも明確に記しておこう。
魔理沙とアリスは、物理的に合体していたのだ。


「「服装まで融合してるなんて……どういう原理なんだろう」」

それが合体による影響かどうかは定かではないが、彼女は驚いたり叫んだりするよりも先に、
現時点における自身の状態を把握することを最優先事項に定めていた。

呟きが示す通り、服装は良くも悪くも二人の寄せ集め。
黒のエプロンドレスが基調とはなっていたが、肝心のエプロンは消失しており、
その代わりに襟元や腰周りのリボンがさりげなく自己主張。
談合があったのか、魔理沙最大の特徴であるとんがり帽子は健在であるものの、
その下にはアリスの赤いカチューシャも同居という節操の無さである。
なお、下着に関してはご想像にお任せしたい。

周囲に鏡にあたるものが存在しないため、顔までは確認のしようが無かったが、
この様子からすると、セミロングの癖っ毛ブロンドに、ピンクのリボンで纏めたお下げ。
瞳の色はゴールド、もしくはブルーとのオッドアイといったところだろう。

無論、この現象の原因と思わしきイヤリングが健在なのは言うまでもない。
むしろ外れなかったというのが正解か。


「「……」」

状態確認、終了。
即ち、現実に目を向ける時間の到来である。

(うーん、見事なまでのお約束だ。ここまでストレートだと感動すら覚えるぜ)
(同感ね。取り乱すよりも先に、納得しちゃったわ。二つの身体が一つになれば、そりゃ魔力も増えるってものよ)
(……とはいえ、どうしたもんかな。もう断言できそうだが、あの古文書は役に立たない)
(使用方法すら書いてなかったのに、解除方法が書いてある筈も無いものね……あれ?)
(ん、どうした?)
(言葉に出来るのは一つだけなのに、思考は分離したままなのね)
(ああ、そういやそうだな。ま、良いだろ、このほうが便利だし)
(便利……ねぇ)

二人は、状況を完全に認識した今となっても、不思議なまでに落ち着いていた。
これが異常極まりない現象であることは、互いに理解しているにも関わらず、だ。
無論、その理由にまでは思い至っていないのだが。

(ぬ、いかん。大事な事を忘れていたぞ)
(何? 解呪法でも思い出したの?)
(違う。名前だよ、な、ま、え)
(名前って、今の私達の?)
(おう。このままじゃ自己紹介すら出来ないだろ)
(……まあ、自己紹介はともかくとして、便宜上必要ではあるわね)

故に思考という名の会話は、こうして暢気極まりない方向に逸れてゆく。
大物だからか、馬鹿だからか……判断は保留にしておきたい。

(というか、考えるまでもないか。アレしかないし)
(ま、それもそうね)


「「マリス、いやアリサ。これで決定ね」」


思考は二つでも、口は一つ。
つい先ほど気付いたばかりの事象は、早くも再証明されていた。
無論、悪い意味で。

(……って、なんだそりゃ! マリスで良いだろうが!)
(それはこっちの台詞よ! アリサのほうがどう考えても自然でしょう!)

当然というか、魔理沙とアリスの間で、凄絶な論戦が展開され始める。
が、傍目には、突っ立ったままの一人の少女が、時々意味不明な言動を漏らしては、
また押し黙るの繰り返し、という不気味な構図にしか見えないのが難点である。
せめてもの救いは、誰一人としてギャラリーが存在しない事だろうか。

(ちっ、このままじゃ何処までも平行線だな)
(そうね……ここは一つ、ジャンケンで決めるというのはどう?)
(ほほう、お前らしくもない直球勝負だな。だが、乗った!)
(ふふ、掛かったわね魔理沙……私には必殺のエンペラーがある……これでアリサで決定よ)
(……馬鹿かこいつは。そういう事ならフールで大逆転させてもらうとするか)
(……)
(……)
(……)
(……あー、無理だな、これは。思考で会話してるんだから、勝負にも何にもならん)
(……そうね。そもそも身体一つじゃ、ジャンケンする手段も無いし……)

コイントスなら勝負できただろう、という突っ込みがあれば良かったのだが、
悲しいかな、彼女等はそれに気付くことなく、談合にて論戦を終えた。
とりあえずマリス。というのが結論であったが、実際のところ、二人ともどちらでも良かったのだ。
なお、繰り返し言うが、傍目には一人の少女が立ち尽くしていただけである。


(……さて、どうしましょうか)
(んー、一端出るか。ここに立ってたところで、解決方法は見えそうに無いしな)
(そうね……外れないし、これ)

マリスは耳にぶら下がる物体を、忌々しげに指で弾く。
そして、軽くため息を吐くと、光が入る位置に向けて歩き出した。













白玉楼の施設とは言え、所詮は土蔵。
十数歩ほど歩を進めただけで、あっさりと辿り着く事が出来た。
無論、何時の間にか閉じ込められていた、といったトラブルも懸念してはいたのだが、
そこまでお約束の神も非常ではなかったのか、軽く引くだけで、あっさりと扉は開かれる。


「「あ」」
「「あ」」


訂正しよう。
お約束の神は、どこまでも非常だった。

「「……って、誰?」」
「「それはこっちの台詞」」

久方振りの日の光を満喫する間も無く、マリスは泥沼に足を踏み入れた感覚を味わっていた。
その原因は、丁度扉から出たところで鉢合わせた、一人の人物にある。
中途半端な長さのプラチナブロンドに、相変わらず元気の無い兎耳。
緑色のブレザーには、やや不釣合いな蝶ネクタイ。
背負った得物は、装飾過多の二丁ガンブレード。
見えてはいないが、何故か断言できそうな縞パン。
そんな珍妙な外見の人物に心当たりはなかったが、それがかえって結論への到達を容易なものとしていた。

(……妖夢と鈴仙だよなぁ)
(間違いないわね。でも、なんだってあの二人まで……)






(向こう、違和感の欠片も無いね)
(そうね……)

一方、こちらの少女……正確には少女達の見解は、多少の違いがあった。
外見的に記憶に無い人物、という意味では同じなのだが、それに付随する筈の不自然さを、
まったくと言って良いほど感じなかったのだ。
むしろ、元々一人だったのが、なんらかの事情で分かれていただけでは。と誤認してしまう程に。

(マリスにしろアリサにしろ何処にでもいそうな名前だし……)
(……あ、そうだ。私達はどう名乗る?)
(んー、お約束に従うなら、鈴夢か妖仙の二択かな)
(鈴夢は……霊夢と紛らわしいわね)
(じゃあ妖仙で。……何か、西遊記っぽい名前だけど)
(確かにそうね。あ、それならいっそ、うどみょんって名乗るのはどう?)
(……)
(ご、ごめん、冗談よ。だから怒らないで、というか呆れないで、私を一人にしないで!)
(いい……)
(え)

が、暢気という意味では同様らしい。
白玉楼が常春の都と称されるのも、むべなるかな。







とりあえず……という訳でもないが、人や妖怪のコミュニケーションの基本は対話である。
故に彼女等は、その基本に忠実に行動することにした。

「「ええと……魔理沙とアリス?」」
「「ええ。マリスで良いわ。そういう貴方は、妖夢と鈴仙ね」」
「「その通り。とりあえず、うど……妖仙って事にしておいて」」
「「……ウド?」」
「「今のは全員忘れて!」」

人称も呼称も耐え難いほどに支離滅裂。
が、それが実は正しいという摩訶不思議な光景だった。
それに加え、音声そのものが二重になっているため、大変に聞き取り辛かったりする。
なあに、かえって免疫力が付く……という訳にも行かないので、とりあえず括弧を重ねるのはここまでにしておきたい。
余計に分かり辛いという可能性は無視させてもらおう。

「その状態だと女言葉なのね」
「……変?」
「うーん、変だと思えないことが変かな」
「……」

再び会議が始まったのか、マリスは唐突に押し黙る。
かと思いきや突如、自分の身体を抓り、叩き、蹴ろうとして滑るという奇行に走った。
どうやら、会議では収まり切らない葛藤が起きているようだ。
そこに突っ込みが入らないのは、呆れているというよりは、同類としてなんとなく状況を理解しているからだろう。
ややあって、マリスが落ち着いたのを見計らい、改めて妖仙は口を開く。

「で、何でマリスはそんな状態に……って、聞くまでもないか」
「……そうね。どうせ同じでしょうし」
「すると、解除する方法が分からないまま合体しちゃったのも同じ、と」
「……」

マリスは沈黙をもって解答とした。
ここに来て初めて、自分達が余り好ましく無い状況に陥っている事に気付いたのだ。
合体という行為そのもの、そして実際に意識を共有したことに関する嫌悪感は、不思議なほど薄い。
が、それは一時的な話でしかない。
これはあくまでも、元に戻れるという前提があってこその気楽さなのだ。

「幽々子達の悪戯という線は無い?」
「無い……と思う。私達だけならともかく、マリスに仕掛けるような理由は、
 幽々子様にも師匠にも思い浮かばないから。姫に至っては来てすらいないし……」
「……そうね」

もっともこれは、問うたマリスにしても、薄いと思っていた線だった。
仮にこれが悪戯であるのなら、もっと分かり易い筋書きを描いていた筈。
それが今の場合だと、偶然にも古文書とイヤリングを発見し、偶然にもそれに興味を示し、
偶然にも記述外の使用方法まで思い至り、偶然にもそれを実行に移す……。
とてもではないが、悪戯とは考え難い期待値だ。
それならば、たまたまそういう物が転がっていたと考えるほうが、まだ可能性は高いだろう。

「元々、魔理沙もアリスも魔術の専門家でしょ。何か解決策は無いの?」
「それを言われると辛いところだけど、流石にこうも突拍子も無い事例ともなるとね……」

合体したことにより、計算上は知識の量も二倍になっている筈ではあるが、
お互いに未知の分野までどうにもならない。
そも、これを魔術と呼んで良いのかどうかも怪しいのだ。

「……自業自得とは言え、拙いなあ」
「こうなったら仕方ないでしょ。
 自然に術が解けるのを期待しつつ、解法を探るくらいしか無いわ」
「うーん……でも、今日にしたって、ここに留まれば良いのか、永遠亭に帰れば良いのか……」
「そんなの別にどっちだって良いじゃないの。いっそ間を……」

マリスの言葉が不意に途切れる。
それは、中の人同士による会議が始まった合図でもあった。
















「こんの……ヘタレ芸人どもっ!
 そんな安易なネタで笑いが取れるとでも思ってるのッ!?」
「「……」」

この台詞だけでは、誰であるか想像の付く方は少ないと推測される故、具体的に言おう。
動いたり動かなかったりとはっきりしない着痩せ魔女ことパチュリーさんです、はい。

彼女がいることから分かるように、ここは紅魔館の大図書館。
夢と魔法のワンダーランドとして好評を博してなどいない、埃っぽくて薄暗く閑散とした場所である。
それは当たり前だろう。と突っ込まれようが、それでも一応記しておく。

さて、マリスと妖仙が図書館を訪れた理由は至って単純。
この合体術について造詣のありそうな人物が、パチュリーしかいなかったのだ。
無論、パチュリーという人物を良く知っているマリスは、当初は疑問を呈していた。
だが、他に思い当たる相手はごく少数。
紫に話せば、面白がって余計に事態を混乱させる気がするとの結論が出ていたし、
一番頼りになりそうであった慧音は、あろうことか伝染性の脳の奇病で療養中である。
即ち、消去法という後ろ向きな結論により、ここを訪れざるを得なかったという訳だ。

「まったく、これだから素人は困るわ。一発芸でセンセーションを巻き起こしたところで、
 後には惨めに捨てられる運命しか残っていないというのに。
 万人に認められる経験と力量を身に着けて、初めて一発芸というものは……」
「あ、いや、芸人論はまたの機会にして欲しいんですけど。出来れば来世辺りで」
「ええ。私達がここに来たのは、まだ辛うじて残っているかもしれない、パチュリーの知恵を借りる為よ」
「……むぅ。そうも大きな期待をかけられては、私としてもやぶさかでは無いわね」
「馬鹿にされてるんですよ、パチュリー様」

図書館の良心こと小悪魔が、冷静かつ冷淡なツッコミを決める。
この良心は時折、意図せずに更なる波乱を生み出す要因ともなるのだが、今はそれは無視しておこう。

(やっぱりここは失敗だったんじゃない?)
(……かなぁ。もう手遅れだが)



「それで……ええと、何と呼んだら良いのかしら」
「マリスで良いわ。こっちは妖仙で」
「マリス……違和感の欠片も無いわね。貴方達、元々一人だったんじゃないの?」
「馬鹿な事言わないで」

このパチュリーの感想は、図らずも妖仙と同じものであった。

(そんなに自然に見えるのかしら、私達)
(この無節操なファッションが自然とも思えないけどな)

知らずは本人ばかりなり。

「で、具体的に私にどうしろと言うのかしら」
「私達がこうなるに至ったのは、とある古文書の記述が発端でした。
 ですが何故か、その本には解除方法が載っておらず……」
「私なら知ってるんじゃないか、と?」
「そういう事になるわね」
「んー……」

パチュリーは、お約束に従い、頬に手を当てつつ目線を下げる。
伝説の奥義の一つ、『私、考えてます』のポーズである。
一度使用したが最後、解くまでは誰一人として口を開くことが出来なくなるという恐ろしい技だ。
故に、この幻想郷においても、使用できるものはごく僅かに限られる。

「虫歯ですか? 面倒だからって、歯磨きを忘れては駄目ですよ」
「……」

が、悲しいかな、パチュリーはその域には達していなかったようだ。
歯が痛む訳でもないのに、滲み出る涙は抑えきれず、
批判の意を込めて睨みつけてみるも、返ってくるのは朗らかな笑顔。
私は間違っていない。世界を狂わせたのはこの天然だ。
などと心の中で毒づく以外に、パチュリーに出来る事は無かった。
正確には、時間の無駄だと気付いただけなのだが。


「……そういえば、以前にそんな記述を見かけた記憶があるわ」
「「本当に!?」」

元々二重となっている声が更にハモった為、ドルビーサラウンドとなってパチュリーへと放たれる。
弾幕結界は二重になると何故か弱体化するが、音声であれば普通に強力なのだ。

「ど、同時に詰め寄らないで。脳が桃色になりそうよ」
「元々じゃないですか」
「小悪魔」
「え? はい、何でしょう」
「もうツッコミもボケも禁止。今日の私は知識人として動くことに決めたわ」
「……はあ、分かりました」

すると普段は違うんですね、との突っ込みは、主人からの命令であるため差し控えられた。
その時の小悪魔の表情が、やや陰り気味に見えたのは、多分気のせいだろう。
……という事にしておきたかったのだが。

「ストップイッツ……小悪魔」
「は、はい」
「今、さり気なくアンニュイな雰囲気を醸し出したわね」
「あ、有り得ません。何故私がそんな……」
「ふふふ、隠しても無駄。語尾が震えているし、尻尾も震えているわ。
 だって貴方はもう、ネタ無しでは生きられない身体なんだもの……」
「そ、そんな事……」
「認めるのよ。突っ込みたいんでしょう? 突っ込まれたいんでしょう?」
「違いますっ。私はそんなはしたない女じゃ……」
「いいわ、それならば私も全力を出しましょう。いざガンガン行進きょぐっ」

コントタイムは、豪腕と美脚によるクロス突っ込みで終焉の時を迎えた。
無論、実行者はマリスである。
一人でこなすには些か難易度高い突っ込みなのだが、合体した彼女にとっては容易な事なのだ。

「漫才はもう結構よ。貴方が知識とネタで溢れかえっているなら、今日の私は魔力が溢れかえり過ぎているの。
 オーレリーズチェルノブシステム。その身体で確かめてみる?」
「た、たしかみてみたく無いわ。全面的に謝罪するから、時に落ち着きましょう。
 グレイトラグタイムショーは此方としても本意ではないわ」
「……OK。貴方をタフガイとして信用しましょう」

時々思うことがある。
これらのネタを理解できる世代は、どれだけ現存しているのだろうか、と。
だが、後悔したところで何を今更という話である。このまま行こう。

「おほん……合体の術だったわね」
「ええ、どこまで覚えているの?」
「……互いの力量がほぼ同等であり、なおかつ体格に大きな差異の無いもの同士のみが可能な術法。
 個々の相性にも左右されるために適合の可能性はごく低いが、その条件さえ満たすことができれば、
 術そのものは簡単な動作のみで発動……こんな感じだったかしら」
「そ、そう! それですよ!」

やや興奮気味に声を上げる妖仙。
恐らくは、パチュリーは単なる芸人ではないとの認識が、この瞬間に初めて生まれたのだろう。
が、マリスのほうはというと、些か異なる反応であった。

(そんな記述、あった?)
(多分……無かったと思う)
(すると、魔理沙が読んだ文献と、妖仙とパチュリーが読んだ文献は別物という事かしら)
(どうかな。条件的には私達も当てはまってるから、違うとも断言し難いぜ)
(……そうね)

力量に関して言えば、方向性は違えどもほぼ互角という認識は、魔理沙にもアリスにもあった。
また、体格にしても問題とは成り得ない。
以前はアリスのほうが一回り大きかったのだが、人間である魔理沙は、ゆっくりではあるが確実に成長しており、
現在においては、一部を除けば殆ど差が無くなっていたのだ。
なお、一部が何であるかは魔理沙の名誉の為に伏せておく。

「他に何か無いの?」
「解呪の方法らしきものも載っていた気はするけど……。
 ……ううん、駄目ね。私が覚えているのはそれくらいよ」
「でも、そういう文献があったのは確かなんですよね。
 それ、まだこの図書館の中にありますか?」
「ええ。ここは蔵書が増えることはあっても、減ることは無いわ」
「なら話は早いわ。早速、探してきて頂戴」
「……」

マリスからの頼み……というか、極めて分かり易い命令に、
さしものパチュリーも僅かながらに憤りを表に出す。

「あのねぇ……協力するとは言ったけど、これはあくまでも貴方達の問題なのよ。
 ならば自分で探すのが筋じゃないの?」
「こんな馬鹿みたいに広い場所、私達で捜索したって見つかりっこないでしょ。
 それなら専門家のパチュリーが探すほうがずっと合理的よ」

極めて図々しい正論に、改めてパチュリーは実感した。
彼女は間違いなく、魔理沙とアリスの融合体である、と。


「……分かったわよ。探してくれば良いんでしょ」
「その言葉を待っていたわ」

故に、諦めた。
何のことはない。ボケを放棄した時点で、今日の彼女の運命は決まっていたのだ。

「先に行ってなさい」
「あ、はい」

主語が含まれていなかったにも関わらず、即座に返答すると奥へと向けて飛んでゆく小悪魔。
一応、司書としての認識は健在であるようだ。

「……一応言っておくけど、微かに記憶にあるというだけで、正確に覚えている訳ではないの。
 だから、余り期待はしないで頂戴」
「超特大の期待をしておくわ。私達の未来は貴方の記憶力にかかっているのよ」
「頑張って下さいね。脳を切り開いての検索作業なんて、こっちもしたくないですから」
「……」

何故、私は脅迫されてるんだろう。
そんな、答えの出ない問いを浮かべつつ、パチュリーは書庫へと消えていった。







残された……というか、自分から残ったマリスと妖仙は、
程なくして図書館内に設えられた応接間へと落ち着いていた。
無論、許可は取っていないが、取るべき相手が仕事中ゆえ仕方ないとの自主判断である。

「ねえ、本当にこれでいいの?」
「いいのよ。どうせ私達が手伝ったところで、何の足しにもならないんだから」
「……心苦しいとか、そういう感覚は無いの?」
「何に対してよ」
「……」

良くも悪くも合体に馴染んで来たのか、マリスは絶好調である。
それに対して妖仙のほうは、何処か不安気な様子を隠し切れていなかった。
経験の差……と言いたいところだが、合計年齢は恐らく妖仙の方が上であるし、
ここは性格の違いによるものとしておくのが常道だろう。

「ええと、一つ聞いていい?」
「何?」
「マリス……というか、魔理沙とアリスは、何で合体しようだなんて思ったの?」
「そんなの不可抗力に決まってるでしょう。言い換えるなら、お約束の神の悪戯ってところかしら」

むしろ他に答えようが無いと言えよう。
そもそもにして、合体する意思すら無かったのだから。

「……え?」

が、何故か返ってきた反応は疑問符だった。
従って、マリスのほうも同様の反応を返さざるを得ない。

「え? って言われても困るわよ。他に何があるの?」
「いや……だって、あんな術法に、不可抗力も何も無いじゃない」
「……?」

どうにも話が噛み合わない。
お互いに同じ議題で討論していたつもりが、実は議題が同音異語であったかのように。

「ねえ、もしかして……」

それを確かめるべく、マリスが口を開いた瞬間だった。






『キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

「「!?」」





絶叫、いや絶唱、もしくは咆哮、はたまた轟音。
表現は多々あれど、それの意味するところはただ一つ。
何者かの大声が響き渡ったのだ。

「い、今のなに? パチュリーさん?」
「有り得る話ではあるけど、アレは違うわね。
 図書館じゃない……もっと遠くから聞こえたわ」

テーブルの上の紅茶(無断拝借)は、大音量の影響でさざ波を立てている。
響き具合からして、館内の何処が発生源であるのは間違いないところだが、
紅魔館大声コンテストが行われていた節はないし、ジャイアンリサイタルも開かれてはいない。
何れにせよ、尋常な事態でないのは確かだろう。

「フランドール……じゃないわよね。犠牲者だとしても喜色に溢れすぎだし……」
「……誰それ?」
「紅魔館が誇りたくても誇れなかった妹よ。……気になるわね。ちょっと見てくるわ」
「え、あ、ちょっとっ」

妖仙が制するよりも早く、マリスは応接間を飛び出していた。










(……やっぱり、お前も嫌な予感がするか)
(ええ。この頭が痛くなるような状況。何が起こっても不思議じゃないもの)
(お約束の神様か……何処の誰だか知らないが、さっさと歩いてお帰り願いたいもんだぜ)
(……違うわよ? 多分)
(冗談だ。というか多分って何だ)


久方振りとなる中の人会議を展開しつつ、マリスは駆ける。
合体の効果によるものか、身体は綿のように軽い。
故に、現場へと辿りつくまで、そう時間は必要とはしなかった。

ついでに言うならば、全てを理解するまでの時間も、ほんの一瞬で済んだ。





「……ふふふ……あはは……ふふはふはふはは……」
「……」





おでんが熱かった訳ではない。
薄闇に包まれつつあった館内のとある廊下で、
異なる二つの笑い声が、ステレオで発されていたのだ。
それも、何処か聞き覚えのあるものが。

(……流石にこれは無いんじゃないか)
(確か、私達がこうなる直前にも、同じような事言ってたわよね)
(いや……分かってる。全部分かってるんだ。でも、これだけは言わせてくれ)
(……仕方ないわね)



「……何で、お前らまで合体してるんだ……」



マリスの口から発された、最初で、そして恐らく最後の男言葉。
それは、頭上にて笑い声を上げ続けていた、二人でありながら一人の吸血鬼へと向けられたものだった。



「ふふっ……この開放感、溢れ出るパワー、ドロワーズ以外の感触、久しく忘れていたわ」
「いや、ドロワーズは関係ないでしょ」
「あ、魔理沙。……じゃないわね、何か混ざってるわ。あんた誰?」
「混ざってるとは何よ、混ざってるとは!」
「ま、別に誰も良いけど」

ようやくマリスの存在に気付いた吸血鬼が、無垢な笑みを浮かべつつ、ふわりと廊下へ舞い降りる。
……予定だったのかもしれないが、勢い余って床材を粉々に粉砕していた。
抑えきれぬ程の力が溢れていることは明白である。


(何で私がおまけ扱いされてるのよっ)
(というより、お前の存在自体を記憶してないんだろうな)
(余計悪いじゃないの!)
(いいから現実を見ろ。元々普通とは言い難い連中だが、そいつが数倍増しでヤバい事になってるぜ)
(……ふん、そんなの馬鹿でも分かるわよ)


「私は魔理沙じゃないわ。マリスよ」
「ふぅん、ならこっちは……」

そこで、ピタリと動きが止まる。
もはや恒例ともなりつつある、中の人会議の合図であろう。
無論、その間は隙だらけなのだが、何故かこの時のマリスは動こうとはしなかった。
……否、動いても無駄だと分かっていたのだろう。

「決定。私はレミフラ……もとい、ミリアドールよ。少しだけよろしくね」
「今後ともじゃないの?」
「あはっ、分かってる癖に」

その瞬間、先程とは比較にならない衝撃が、紅魔館全域に響き渡った。





「つっ……姉妹揃ってせっかちな連中ね」
「悪いわね。まだ、この状態に慣れてないのよ」

結論から言うと、マリスに直接的な被害は無かった。
もっとも、予告めいた言葉からして、倒すつもりの行動ではなかったのは明らかであるし、
そもそもにして、回避出来たというだけで、ミリアドールが何をしたのかすらも見えなかったのだ。

「暴れたい気持ちは分かるけど、完全に壊してしまったら、後で困るのは貴方よ?」

一瞬の交錯のみをもって、周辺の区画は完全に倒壊していた。
故に、今二人が対峙している場所は、紅魔館というよりは、ただの瓦礫の山である。
もしもこれが昼間の出来事であったなら、この瞬間にケリは付いていたのだが、
都合の悪いことに、既に完全に日は落ち切っており、入れ替わりに満月が顔を見せんとしている時分であった。
お約束の神は、どこまでも非常なのだ。

「それもそうね。なら、方向性を定める事にしましょう」
「矢印の先にあるのは……やっぱり私?」
「ご明察。楽しい宴のオープニングに相応しい散り様を期待してるわ」
「冗談っ!」

お返しとばかりに、マリスが先に動いた。
腰貯めに両手を構えると、間を置く事なく前方へと突き出す。
直後、闇に包まれつつあった紅魔館は、光によって真っ白に染められていた。

実はこの時、マリスには軽く牽制してみようとの意図しかなかった。
だが、実際に放たれたのは、ファイナルスパーク級のエネルギーの渦。
後少し、制御体制が遅れていたならば、ミリアドールよりも先に紅魔館を全壊させていた事だろう。

魔力の波が収まると、再び世界は闇夜の支配下へと置かれる。
今の一撃によって、ミリアドールが作り出した瓦礫の山は綺麗に掃除されていた。
少々広すぎる裏口の誕生、といったところか。

「……私には説教しておきながら、あんたが壊すってどうなのよ」
「いや、ごめん。ちょっと反省してるわ」

次第に高度を上げつつある月を背景に、不満気に呟くミリアドール。
ダメージが皆無であることは、確認するまでもなく分かっていた。
合体による強化は、向こうにも当てはまる事だからだ。

「ふぅん、反省だけなら鳥でも出来るけどね」
「そう言うと思って、謝罪の意を示すべく贈り物を用意したわ」
「……贈り物?」

言いながらに、自らのスカートの中を探る。
無論、脱ぎたてドロワーズの進呈という意味ではない。
四次元裏地は、マリスとなった今でも健在なのだ。

「幻想郷に二つとない希少品よ。受け取って!」

取り出した物体を間髪居れずに投擲するマリス。
気合の滲んだ声とは裏腹に、力の入ってない山なりの軌道である。
故にミリアドールは、怪訝な表情を浮かべながらも、それを普通にキャッチした。
言葉通りの贈り物なのか、と認識したのだろう。
が、それは、マリスの中の人……アリスという人物を知らない証拠である。

「何よこれ。こんなもので今の私の歓心を引けると……!?」

直後。
爆音が鳴り響き、ミリアドールは閃光に包まれた。





「効いてない、か」

その一瞬の間をもって、マリスは紅魔館の上空へと移動していた。
遥か眼下には、何が起こったのか理解出来ていない、といった呈のミリアドールが見える。
直接的な効果は薄くとも、虚は突けたという所か。

(よし、アレやるぞ)
(……ええ)

互いの同意を得るよりも早く、マリスという身体は、行動を開始していた。
大きく広げられた両手。その指の延長線上には、既に魔力収縮の動作を終えた無数の人形。
そして正面には、己の体長をも上回る巨大な魔法陣が描き出されている。

「マリスと名乗る以上、これはやっておかないとねっ!」

その言葉を号令として、膨大と称するに相応しい量のマジックミサイルが、人形達の手から一斉に放たれる。
同時に魔法陣から生み出されるのは、赤き光の奔流。
それらは本来、相反する性質の弾幕である。
だが、レーザーの干渉によって軌道を乱す筈のマジックミサイルは、むしろ嬉々として流れに乗り、
障害物となるマジックミサイルで勢いを殺される筈のレーザーは、更なる力を得たとばかりに勢いを増す。
何故そうなるのかと問われれば、やってみたらそうなった。と答えるより他無いだろう。

理論を組み上げるよりも先に、実践にて成立してしまった魔法。
通称、マリス砲である。


「……っ!?」

そこで、ようやく我を取り戻したのか、上空へと顔を向けるミリアドール。
が、時既に遅し。
一つとなった二人分の弾幕が、その小さな身体を飲み込んでいた。







都合十秒ほど打ち込んだところで、マリスは弾幕を解除した。
これ以上放ち続けては、紅魔館の地盤ごと破壊しかねないという判断からだ。

「……」

未だ粉塵に煙っている眼下を他所に、己の両手をしげしげと眺めるマリス。
合体を果たしてから後、本格的な弾幕を展開したのは始めての事だったが、
これほどまでに強化されていたとは思っていなかったのだ。

(何倍もの力ってのは、比喩でも誤読でもなかったんだな……)
(ええ……これは加算じゃないわ。乗算よ)

元々、魔理沙にしてもアリスにしても、個々の力量に特筆すべきものは無い。
だが、たった今開放された魔力は、そうした概念を全く無と化するものであった。

「……」

夢想だにしていなかった力を得た今、感慨に浸ってしまうのは無理からぬ事ではある。
しかし、それでもマリスは考えるべきだった。





「ったく、建物を外せば良いってもんじゃないでしょ」

合体による強化が乗算であるのならば、その力量差はさらに拡大しているのだ、と。







「……っ!?」

予期せぬ攻撃を仕掛けられた際、取り得る手段は大きく分けて三つ。
上策は回避、中策は防御、下策は傍観である。
この時、マリスが選んだのは、上策。
下策は当然ながら論外であるが、残りの二つの取捨に関しては、分析結果というよりは本能的なものだった。

ごう、と鈍い音が聞こえたかと思うと、直後に熱気が身体を通り過ぎる。
刹那の後、認識した光景により、マリスは本能の正しさに感謝する事となった。


「うわぁ……何よこれ。安直にも程があるわ」
「……」


呆れ気味に呟くミリアドールの手には、槍の側面に刃が取り付けられたような形状の紫色に輝く長大な得物。
が、問題は得物そのものではない。
マリスがいた地点の軸上に存在したものが、見事なまでに一刀両断されていたのだ。
岩も、地面も、湖も、そして恐らくは大気までも、である。

「グングニルとレーヴァティンの融合系が方天戟なんて聞いたら、神話の中の人もびっくりね。そう思うでしょ?」
「……むしろ、私がびっくりしてるわ」

全開マリス砲が直撃したにも関わらず、ダメージらしきものが皆無であることは、まだ許せた。
だが、その自嘲するような武器で、物理的に二つに分断されかけたのは如何なものだろうか。
もし仮にマリスが中策を選んでいたならば、それでジエンドだったのだ。

「ネーミングは……後で良いわね。じゃ、フリープレイの続きしよ?」
「え、ええ……」

最初のコインすら投入しないのか。との突っ込みは無かった。
というのも、この時点において、マリスは完璧に理解してしまったのだ。

これは無理だと。





「お嬢様、お待ちを!」





だが、お約束の神は、マリスを見捨てはしなかった。
言い換えれば、まだ弄び足りなかったとも表現出来ようが、それはそれである。

「……何よ咲夜」

興を削がれたせいか、ミリアドールは不満を隠すことなく、声の主へと顔を向けた。

「楽しまれているところを、真に申し訳ございません」

が、当の咲夜は、まったく臆した様子もなく、淡々と述べる。
もっとも、内面まで落ち着いているかどうかは、分かったものではないが。

「分かってるなら横槍入れないでよ」
「ですが、無礼は承知の上で、申し述べたき事があります」
「この記念すべき日に水を差すつもり? いくら咲夜でも、それは許し難いわよ」
「ご冗談を。そのような意図は毛頭ございません。
 むしろ、記念すべき一日であるからこそ、私は声を大にして言いたいのです」
「……?」
「午後の紅茶の時間ですわ」




マリスはコケた。




「ああ……そういえば、そんな時間だったわね」
「はい。夜の王……の二乗? 魔王の上で大魔王? まあ、そんな感じの何かたるもの、
 習慣は遵守されたほうが、肉体的にも精神的にも宜しいのではないでしょうか」
「んー、そうね。夜は永いんだし、宴は一服してからにしましょうか」
「そう仰られると思い、準備は整えておきました。さ、こちらへ」
「という訳だから、マリス。チャンネルはそのままね」
「え、ええ……」

呆気に取られている内に、ミリアドールと咲夜は、館内へと歩み去る。

だが、完全に視界から消える直前。
ほんの一瞬だけ咲夜が振り返り、目配せを送ってきたのだ。
それの意味するところは、想像するに容易である。







取り残された形となったマリスは、ふらふらと地面へと降り立つと、土汚れも気にせずに座り込んだ。
疲労の表れというよりは、緊張の糸が切れたと見るのが正しいだろう。

(……助けられたなぁ)
(……そうね)

咲夜が送った目配せの意図。
それは勿論、『今のうちに解決方法を考えろ』というものだろう。
表面上は平静であれど、咲夜とて状況に困惑していたに違いないのだ。

「マリスーっ」
「……あ」

丁度そこに、妖仙が駆け寄ってくる。
まるでミリアドールが居なくなるのを待っていたようなタイミングであったが、
元が元だけに、そんな腹芸が出来るような性質でもないだろう。

「妙に騒がしいから来てみたんだけど……何があったの?」
「……幼女型最終鬼畜兵器の誕生よ」
「はあ?」

フランドールの存在すら知らなかった妖仙に、それだけで通じる筈もなく、やむを得ずマリスは経緯を語る。
青空会議ならぬ、月空会議の始まりである。
といっても、内容そのものは至って単純だった為に、説明には然程の時間は要さなかった。


「……まるで合体のバーゲンセールね」
「そうね……何よりの問題は、決算する手段が無いという事かしら」
「言葉で説得は出来ないの?」
「出来るくらいならやってるわよ。
 どうもあの二人の場合、合体の影響がより負の方向に働いてる気がするわね」
「ふぅん……直接見てないから分からないんだけど、ミリアドールって、そんなに桁違いの化け物なの?」

口で言うは容易い。
だが、現実に感じた危機感が、この暢気な兎型半幽霊に伝わるかどうかは疑問である。
考えた末、マリスは分かり易く例え話をする事に決めた。

「幽々子と輝夜を足して、さらに掛けたようなものよ」
「……」

妖仙は、狂気の瞳を瞬かせたかと思うと、深い、深い、深すぎるため息を吐く。
どうやら伝わりすぎたようだ。

「それで、パチュリーのほうは?」
「……まだみたい。あれから一度も戻ってこなかったし」
「拙いわね。本が見つからない事には……って、え」

そこでマリスは、ある可能性に気がついた。
いや、気がついてしまったとでも言うべきだろうか。

ミリアドールとは、レミリアとフランドールが合体した姿だ。
即ちこの二人は、合体の方法を知っているという事になるのだが、
この姉妹の性格上、前々から暖めていたアイデアを今日になって実行したとは考え難い。
ならば、方法を知ったのも、つい先程なのだろう。

では……その情報元は何だったのか?

「……」
「マリス?」
「もしかして……」

マリスは妖仙を無視して、背後を振り返る。
そこは、ミリアドールの暴走、及び自らの射撃によって不毛の地と化した大地。
紅魔館の一部であった面影は微塵も残っては居ない。


(ミリアドールが叫び声上げてた場所って……)
(ええ。間違いなく、あそこだったわ)
(……アレを試す際、本を別の場所に置いたりするもんかな?)
(可能性はゼロじゃないわ。……と言いたいけど、記憶中枢のない吸血鬼のやることだものね)
(……)


結論は、出た。

「あの馬鹿姉妹……! なんだって廊下で合体術なんて試そうとするのよっ!」
「え? い、いきなりどうしたの?」
「……な、なんでもない、なんでもないわ。軽く思い出に浸っていただけよ」

言えなかった。
断じて言えなかった。
よりにもよって、最後の手がかりを自らの手で消し去ってしまったとは。

「ええと、思い出も良いけど、今はこれからどうするかを考えない?
 咲夜だって、そんなに長くは引き止めていられない筈だし……」

そんな事とは露知らず、妖仙は前向きな姿勢を示す。
無論、それはマリスにしても好都合……もとい、同意である。
今の自分たちが成すべきことは、ミリアドールを止める事以外に無いのだ。

「そうね。で、妖仙は何か策はあるの?」
「うん」
「ま、仕方ない……って、あるの!?」
「いや、驚かれても困るんだけど」

余り期待をしていなかった為か、マリスの驚きは大きかった。
元の二人に対するイメージが分かりそうな一幕である。

「図書館で待ってるとき、暇だから考え事してたんだ」
「……?」
「この合体魔術で最強の組み合わせって誰と誰なんだろうな、って。
 でも、余り時間つぶしにはならなかったわ。一瞬で答え出ちゃったから」
「……あー、それはそうね」

マリスは即座に同意を示す。
彼女もまた、考えるまでもなく解答にたどり着いたからだ。

「って、まさか策っていうのは……」
「それよ。力で勝てないのなら、もっと上の力をぶつければ良いの」

妖仙らしからぬ発言……とは言えないだろう。
ここまで反則技が横行してしまった以上、トリを飾るのも反則技であってしかるべきなのだから。

「という訳で、迎えに行ってきて」
「……あ、やっぱり」
「私が行ったところで、上手く説得出来るとも思えないから。
 それに、今のマリスなら、通常の三倍以上の速さで行けるでしょ?
 何せ、スピード狂とスピード常習者が掛け合わさったんだから」
「ちょ、ちょいと待った。独断と偏見で薬物中毒の烙印を押さないで」
「違うの?」
「違うわよ。今は」

昔はそうだった。との告白であるが、幸運にもそこに突っ込みが入ることはなかった。
単に、時間が無いからだろうが。

「ともかく、時間は私が稼ぐから、そっちは制圧出来る力を用意して。
 それとも他に妙案でもある?」
「……ブレイン&パワーね」
「え?」
「弾幕戦における、二大原則よ。策で絡め取るか、力で捻じ伏せるか。
 この場合、力を連れてくるという策を用いるのだから、両方に当てはまるわね。
 ……分かったわ。その案、乗りましょう」

それは妖仙に語るというよりは、自分自身に言い聞かせるような響きであった。


「そうと決まれば早く行って。もうすぐミリアドールとやらが来る」

何故分かるのか、との問いは不要だった。
妖仙の兎耳が、いつになく急角度で起立しているのが分かったからだ。
恐らく、人間耳は通常会話を、兎耳のほうはレーダー的役割を担当しているのだろう。

「四つ耳、意外と便利かもね……」
「何か言った?」
「おほん……任せて平気なの?」
「大丈夫。私は時間を稼ぐスペシャリストよ。
 勝てるかどうかは別として、無駄に場を引き伸ばす技量だけなら誰にも劣るつもりは無いわ」
「悲しいスペシャリストね」
「言わないで」

もう問答に意味は無いと判断したのだろう。
マリスは帽子を深く被り直すと、傍らにあった箒を手に取る。

「じゃ、行ってくるわ。
 スペシャリストの技とやら、せいぜい発揮してみせなさい」

次の瞬間、夜空には新たな流星が生まれていた。





「……」

しばしの間、マリスの消えた方向を眺めていた妖仙であったが、
聴覚を研ぎ澄ますまでもない、分かりやすい爆音に、ゆっくりと振り返る。

また一つ、犠牲となった紅魔館の区画。
そこから小さい影が飛び出したかと思うと、瞬時に妖仙の眼前へと降り立っていた。
流石に制動にも慣れたのか、着地の際に衝撃は皆無である。


「お待たせー。……あれ、あんた誰? マリスは?」
「急にお腹が痛くなったらしいわ。残念な事ではあるけどここは涙を呑んで欠場するって」
「あー、ありそうな話ね。いかにも悪食っぽいし」

でまかせであると分かった上で、話に乗っているのだろう。
ミリアドールの小さな身体からは、それだけの余裕と自信が感じられたのだ。
単に、栄養補給が済んで落ち着いているだけという可能性もあるが、それはそれ。
余裕を見せつけてくれるのは、妖仙にとって好都合以外の何物でもない。

「自己紹介していい? 都合四十三分に渡る感動ドキュメンタリー大作なんだけど」
「それはパス。受動的な娯楽はあんまり好きじゃないの。そもそも娯楽でもなさそうだし」
「……そう。なら、簡潔に済ませよっか」

妖仙は軽く息を吐くと、ガンブレードをそれぞれの手に掲げ持つ。
左手は上段に構え、右手は目標へと狙いを定める。
造詣などある筈も無い珍妙な武装なのに、まるで身体の一部であるかのような感覚。
合体しているという現状を、妖仙は改めて認識していた。

「私は狂気の半々人半々霊半兎、妖仙! ミリアドールとやら、私と立ち合いなさい!」

もはや訳の分からないことになっている二つ名の宣言が、戦闘開始の合図であった。



「嫌よ」
「えー!?」

多分。

















夜空を舞う、一人の少女がいた。
とはいえ、その速度は、ヒンデンブルグ号の足元にも及ばない、もっさりしたものである。
ならば舞うなどと気取らず飛行で十分ではないか、という意見がありそうなので、たまには採用しよう。

夜空を飛行する、一人の少女がいた。
これでよし。

「はぁ……」

紡がれるため息。極めて暗い表情。
憂鬱であることを万人に知らしめる姿である。
犬に噛まれたと思って忘れなさい。という慰めは不要だ。
見た目は現役女子中学生でも、彼女は紛れもなき強妖、射命丸文。
そして、鬱に至った原因も、記事のネタが見つからないという、極めて個人的な理由だからである。

「……どうしよう……このままじゃ干上がっちゃう……」

とは言え、今の文には、同情の余地が無いわけでもない。
ペンは剣より強いかもしれないが、パンはペンより更に強い。
人だろうが妖怪だろうが金の無い奴は帰れという、このお寒いご時世、
最大の飯の種である新聞記事が書けないのではお話にならない。
今のところ、自分の腕に食い付くほどには困窮していないものの、
紙は美味しいのだろうか、という実験はしている辺り、その日は決して遠くないというのが現状だ。
故に、文の足取り……というか羽根取りは重かった。

そんな時の事である。




『ほおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ!!!』




ほっちゃんは関係無い。
歓喜なのか恐怖なのかいささか判別に苦しむ絶叫が、ドップラー効果を実証しつつ、文を通過していったのだ。


「……」

尋常ならざる速度ではあったが、文の確かな動体視力は、僅かながらにもその外観を捉える事に成功していた。
主な特徴は二点。
帽子らしきものを被っていることと、何かに跨っていることである。
それらの条件、及び眼前の光景は、脳内検索ワードとしては十分過ぎた。

「むぅ……」

文は考える。
それが推測される人物であれば、こんな夜間に奇行に走っているのもさして珍しくは無い。
故に調査に走ったところで、有益な結果は得られないというのが真っ当な判断だろう。

「……私の前でスピード自慢とは、調子ぶっこくにも程があるわね」

それは新聞記者としての勘……というよりは、八つ当たりに近いだろう。
もしくは、ネタが無いのなら自分で作ってしまえば良い。との意向が働いているのかもしれない。
それは世間的には捏造と呼ばれるものなのだが、そこに思い至る程の余裕は無いのだろう。

何れにせよ、文は動く事を決めた。
目標が消え去った方向に身体を向けると、即座にスロットルを最大まで開く。
車ならば盛大なホイルスピンをするところだが、生憎として彼女は天狗。
空回りすることもなく、瞬時にトップスピードに乗っていた。




「……くっ……!」

だが、文の目論見は、些か甘かった。
当初は、軽く追い越してやろうという程度の認識だったのだが、
今となっては、レッドゾーン突入まで速度を上げざるを得なくなっていた。
それだけ加速しながらも、目標との距離は、じりじりとしか詰まらなかったのだ。

「……?」

静止状態であれば声が届こうという距離まで詰めたところで、文は疑念を抱く。
進行方向に身体を向けているため、後姿しか確認出来ない状態ではあるが、
それでも、仮定するだけの違和感は、容易に感じ取れていた。

「(魔理沙じゃ、無い?)」

よくよく見れば、検索条件としていた外見的特徴にも怪しいものがある。
とんがり帽子と箒という魔女の基本に乗っ取ったスタイルではあるが、
微妙にカラーリングが違うような気もしたし、デザインに至っては明らかに初見だ。

「あっ」

その時、風圧に負けたのか、飛ばされた帽子が後方へと流れて行った。
だが、目標に減速するような様子は無い。
それどころか、速度を維持したままで、進行方向と逆……要するに文の方へと振り向いたのだ。
そんな行動を取れば、箒から振り落とされそうなものだが、挙動は至って自然である。

「(……間違いない。すると、これは誰?)」

振り向いた人物は、何をするでもなく、じっと文を見つめていた。
というよりは、固まっていると表現するほうが正しいだろう。

これにより、文の思考は混乱を極めた。
人妖関わらず、幻想郷の実力者とされる少女のほぼ全てを把握している自認はあったが、
眼前の人物は明らかに例外だったからだ。
魔理沙的な特徴を持ちながら、何処か他の人物を連想させる外見。
帽子が無くなり、赤いカチューシャが見えるようになった今、それは更に顕著である。

「新聞記者じゃない。何か用?」
「……」

押し黙った、という訳ではない。
いかに文とはいえ、この限界速度の最中、相手の耳に届くような言葉が出せなかったのだ。
にも関わらず、当の相手は、箒に跨っているというよりは、腰掛けるといった案配であり、
表情からも明らかに余裕が伺える始末である。

「悪いけど記事になりそうなネタは……ありすぎるくらいあるわね」
「……っ」

詳しく聞かせろ。と言いたいところであったが、やはり言葉は届かない。
ジェスチャーにて伝えるべきかとも思案したが、今それを実行してしまえば、
風圧に流されてさようならとなるのは目に見えている。
まっこと理不尽な状況であった。

「でも、今は懇切丁寧に語ってあげる時間が無いの。
 ここは一つ、持ち前の記者魂で頑張って頂戴」

そこで始めて、目標が大きな動きを見せる。
両手を広げたかと思うと、効果音が聞こえてきそうな演出と共に、無数の人形が飛び出したのだ。
それらは皆、箒の柄にぶら下がったり、頭の上に座り込んだり、膝の上に収まったりと、自由気ままに分散する。

「(……やっぱり……)」

新たなキーワードを得た文は、ここに目標のもう一つの心当たりへと到達した。
だが、それでも明確な解答とは言い難い。
直接聞ければ話は早いのだが、今の状況はそれを許してはくれない。
何よりも、それ以上に気にかけるべきものがあると、勘及び人形の動きが告げていたのだ。

「さしずめ、スターダストドールズってところかしら。じゃ、さよなら」
「……!」

全ての人形が、一斉に口を開いた瞬間、文は僅かに身体を傾けた。
何てことのない動作のようであるが、このような超高速飛行中であれば話は別。
ほんの僅かな姿勢のずれが、一秒後にはメートル単位の座標移動として表れるのだ。

直後、無数の光の帯が、身体の横を連なって通過した。
己の勘が正しかったことに嘆息しつつ、再び文は前方へと視線を向ける。

が、時既に遅し。
僅かな挙動の間に、目標は視界から完全に消え去っていた。


「……」


文は、ゆっくりと速度を緩めつつ、ぼんやりと前方を眺めていた。
人形を出力としての、牽制の攻撃を兼ねた爆発的な加速。
理屈としては分からないでもなかったが、あまりにも無茶苦茶である。
実現可能かどうかという以前に、普通は誰もやろうと思わないだろう。

もはや文に、追いかけるだけの気力は無い。
それどころか、今の一件に関する記憶を、完全に封じ込める心積もりだった。
新聞記者失格と嘲られようが、それでも一向に構わない。
これは、触れてはならない類の現象なのだと、妙な確信を得ていたのだ。

故に文は、ただの一言のみを結論として、改めて帰路についた。

「……何なの、アレ」

















さて、一方こちらは、当のアレ。

(……名前はいいんだけど、やっぱりビジュアル的に問題がない?)
(そうかな、全身之ビームの塊也。って感じで良いと思ったんだが)
(その全身ビームが問題だと思うわ)
(まあ、感性の違いって奴だな)

依然として、暴走とも言える速度での航行中なのだが、
そんな中で相も変わらず、脳内会議を行える余裕っぷりであった。
もっともこれは、余裕を残せるだけの力で飛んでいるから、とも言い換えられる。
更なる加速を行うのは、自身はともかくとして、周辺環境に多いに影響を与えかねないというのが、その理由だ。
無論、環境に配慮しての意味ではなく、損害賠償を請求されるのが困るからだが。

そんな奴に置き去りにされた文も舐められたものだが、実際問題として、マリスには一切の感慨が無い。
この合体術は、既存の幻想郷のパワーバランスを無視しているものだと、実体験にて理解していたからだ。

「ん……着いたわね」

そして、件のパワーバランスを整えるべき存在の住居が、マリスの視界へと入った。
存分に古び、いつ倒壊しても不思議ではないような外見の代物であるが、
その実、吹雪だろうが嵐だろうがビクともしない強固さを持っているという、まこと不自然な建物。
言わずとも知れた、博麗神社である。





「こんばんわああああああーーーーーーーーぁぶっ!」





雨戸を弾き飛ばし、障子を突き破り、豪快に畳の上を転がったマリスは、
大黒柱への直撃により、ようやく直進運動を終えた。
仮に柱が無かったならば、そのまま建物そのものを貫通していたに違いないだろう。


「あたた……け、計算どおり……」

マリスは幻想郷有数の石頭をさすりつつ身体を起こす。
視界に入ったのは、霊気容れ……テレビに向かって座る二人の人妖。
その手には、何やら奇妙な形状の箱が握られており、そこから黒い線が延びて、テレビへと繋がっていた。
やがて、その内の一人が、大きくため息を吐いたかと思うと、ゆっくりと振り返る。

「……あのね、魔理沙。入ってくるときは、もう少し大人しくしろって何度言わせれば……」

そして、口を半開きにしたまま、完全に固まった。


「悪いわね。今日は緊急事態ゆえ止むを得なかったの」
「……」
「早速だけど本題……の前に一杯貰うわね。夜間飛行は喉が渇いて仕方がないわ」
「……」
「って、何よこの出涸らし。これはもうお茶じゃなくて白湯ね」
「……」
「貧乏性なのか物事に無頓着なのかはっきりしなさいよ。それとも、また新しいキャラ立て?」
「……」
「聞いてる? 霊夢?」
「だ……」
「だ?」
「誰よ、あんた……」

この時、霊夢が取った反応は、至極真っ当なものと言えるだろう。
だが、これまでマリスとして出会ってきた人物は、同類か変人しか存在しなかった故、
こうした反応をされるのは、初めての経験だったのだ。

「……そうやって普通に驚かれると、凄く新鮮ね」
「し、質問に答えなさい。あんた誰なのよ」
「今日、名乗るの何回目かしら……マリス、私はマリスよ」
「まりす……」

オウム返しに呟くと、ぱちぱちと目を瞬かせては、一歩二歩と後退して座布団に着席。
お茶を一口啜り、ほう、と一息吐き、瞑目開始。
きっかり五秒経過した後、隣の人物へと何やらアイコンタクト。
そして更にお茶をもう一口啜った後、ようやくマリスの元へと舞い戻った。

「……うん。確かにあんたはマリスね」
「理解が得られて嬉しいわ」
「じゃ、そういうことで」

ぺこり、と一礼すると、霊夢は再びテレビへと向き直った。
どうやら現実逃避することに決めたらしい。

「って、全然分かってないじゃないの!」
「あー、うるさいうるさい。ようやくキングボンビー押し付けたところなんだから邪魔しないで」
「桃鉄やってる場合じゃないのよ! いや本当に!」
「……えーと、何で私は無視されてるの?」

そこでようやく、霊夢の隣の人物が口を開く。
言うまでもないが、紫である。
いやいや萃香だろう。幽香も随分社交的になったな。レミリア様もう元に戻ったのか。また店主かよ。
といった意見もあろうが、紫と言ったら紫なのだ。
ここはもう一つだけ、折れてほしい。

「無視してた訳じゃないわよ。どうせ紫なら、何を見たって驚かないだろうし」
「まあ、そうなんだけど……それにしても、ついに身も心も一つになってしまったのね」
「え、そんな簡単に纏めちゃって良いの!?」
「良いもなにも、もうなっちゃってるんだから仕方ないでしょう」
「いや、私が気にしてるのは、結果じゃなくて過程なんだけど……」
「流石にまだ、子供は早いんじゃないかしら」
「そっちの家庭じゃない」

マリスにとって、霊夢の真っ当過ぎる反応は、面倒だと思う反面どこか心地良くも感じられていた。
やはりこうでなくては。という感想を抱いたのも無理からぬことだろう。
どうやら博麗の巫女は、別の意味で幻想郷の平均化に貢献したようだ。

「で、何の用件なのかしら。結婚報告?」

本題が無かったことにされかけていた最中、流れを取り戻したのは紫の一言であった。
よくよく考えれば、住人でもない紫の言うことではないのだが、
そこを誰も疑問に思わない辺りが、博麗神社の現状を良く表していた。

「あー、そうそう、忘れるところだったわ」
「あれだけ乱暴な登場しといて良く言うわね……で、何なのよ」
「霊夢、紫。何も聞かずに今すぐ合体しなさい」

言い切ると同時……いや、それよりも早く、霊夢のお払い棒が袈裟切りに振り下ろされた。
どうやら、何も聞かないというよりは、聞く耳すら持たれなかったらしい。
無理もないが。

「はいっ、と」
「え」

鮮烈と称すべき霊夢の一閃は、指先のみで軽く受け止められていた。

「スローモーションに見えるってのはこういう意味なのね……ま、別に嬉しくないけど」
「……」

霊夢はその表情を、怒りから困惑へと変化させる。
防がれたのが不満というよりは、状況そのものに不審を抱いたのだろう。

「……一体、何なのよ。私を馬鹿にしに来たの?」
「あー、うん、悪かったわ。ちょっと情報が不足していたわね」
「しすぎ。訳わかんないわよ」

時間が無いのは確かだが、ここで霊夢にヘソを曲げられては本末転倒。
止むを得ず、マリスは経緯及び作戦について簡潔に語りだす。
無論、合体解除の方法が、未だに見つかっていない点は伏せて、だ。


「……んー……」

霊夢はいつになく神妙な表情で考え込む。
鼻で笑い飛ばさなかった時点で、この荒唐無稽な話を信じたという事になるのだが、
それを証明するもっとも分かり易いサンプルが目の前にいるのだから、不自然でもないだろう。

「……むー……」

一方の紫はというと、新聞紙を広げては、黙々と甘栗と格闘していた。
割り方が上手く行かなかったのか、細い切り口に爪楊枝を差し込んでは四苦八苦している。
それを考え事をしている態勢と受け止めるには、些か苦しいものがあったが、
マリスとしては、霊夢が受ければそれで決まりと認識しているため、あえて突っ込みは入れなかった。



「……まあ、事情は大体分かったわ」

ややあって、霊夢がおもむろに口を開く。

「今のあんた達が助力を求めるくらいだもの、
 あの馬鹿姉妹は相当な化け物になっちゃってるんでしょ?」
「ええ」
「時間も無いみたいだしね……不本意ではあるけど、私は受けても良いわ」
「そう言ってくれると思ってたわ」

マリスは不遜に言い放ちつつも、内心で胸を撫で下ろす。
この同意を得たことにより、策の殆どは成ったと認識したからだ。
が、次に霊夢が口にした言葉は、その認識を否定するものであった。

「……ただ、大きな問題が残ってるわね」
「問題?」
「肝心のこいつが、まったく乗り気じゃないみたいだから」

霊夢は顎をしゃくるような仕草で、隣人を指し示す。

「ええ、大反対ね」

まるでその言葉を待っていたかのように、紫は大きく頷いて見せた。

「……どういう事?」
「どうもこうも無いわよ。その話、私の矜持に掛けて受け入れられないわ」
「矜持って……霊夢と合体することが?」
「その通りよ」

それは正に、マリスの想定からは大きく外れた言葉であった。
こうして博麗神社に入り浸っている現状から見ても、紫が霊夢にべったりなのは明白である。
最近は逆だという噂もあるが、それはそれとして、拒否するような理由は思い浮かばない。
倫理的な問題を語るには、最も不適当な存在であろうし、
何時もの気紛れとしておくには、態度が毅然としすぎているのだ。

「ええと、断言されると私のほうがショックなんだけど……」
「あ、いえ、違うのよ。霊夢と一つになるのが嫌という訳じゃ……」
「じゃ、何なのよ」
「ううん……その、行為そのものではなくて、付随する要素というか……」
「……やっぱり嫌なんでしょ?」
「ああ……どうすれば私の想いは伝わるの……?」
「いいわよ無理しなくても。一人相撲には慣れてるから」
「あー、何度も言うけど時間が無いの。
 ラブコメ的展開は別の機会にしてくれないかしら」

止むを得ず、マリスが間に割って入る。
このままでは別の話になりかねないからだ。

「この際だからはっきり言って。合体を渋る理由は何?」

そして、間を与えることなく質問をぶつける。
返答如何によっては、力ずくも辞さない覚悟である。
その雰囲気が伝わったのか、紫は大きく息を吐くと、おもむろに口を開いた。




「……語呂が最悪だからよ」




マリスは、今日何度目ともしれないコケを披露した。
  

「寝言ぶっこいてるんじゃないわよ大年増! 語呂なんてどうでも良いでしょうが!」
「私は至って真面目よ! 法則に従うなら名前候補は『れいかり』か『ゆかいむ』よ?」
 そんなの、とてもじゃないけど口に出来ないわ!」
「口にしなければ良いでしょ!」
「馬鹿を言わないで! 名乗りを挙げない主人公なんて主人公じゃないわ!」
「主人公は私達!」
「大体にして、貴方は大坪さんの気持ちを考えた事があるの!?
 そんなにデラデラノビアの悲劇を繰り返したいの!?」
「誰よそれ! というかデラデラって何よ!」

真面目になりかけていた雰囲気は何処へやら、
博麗神社は、一転して弛緩しきった空気に包まれていた。
いつもそうじゃん。と言われれば返す言葉も無いのだが、今日に至ってはやや問題だろう。

「霊夢! 貴方なら、私の言っている事が分かるでしょう?」
「あ、うん、それなら仕方ないかな」
「分かるの!?」


(ぬぅ……どうやら霊夢の奴、スキマに餌付け……じゃない、侵食されつつあるようだぜ)
(どっちかって言うと、霊夢の空気の読めなさが紫に浸透してるんじゃないかしら)
(……まあ、似たようなもんだ)


「そういう訳だから、合体はお断りよ。悪いけど他を当たって頂戴」
「……んじゃ、ま、そういう事で」

話は終わりとばかりに、再び日本一の鉄道王への道を歩み出す紫。
そして霊夢もまた、借金完済への第一歩を踏み出していた。
見事なまでの交渉決裂である。

「……」

マリスは、言葉もなく立ち尽くす。
あろうことかこの管理人と施工主は、幻想郷の危機よりも、ネーミングと桃鉄を重要視したのだ。
いっそこんな世界滅べ。と破滅的思想に走ろうとも、誰も責められまい。
だが、彼女は諦めなかった。



「逆転ホームラン!!」
「「!?」」



突然の大声に驚いた紫は、謝って東京の全物件を売りに出してしまい。
方やの霊夢は、リニアカードを使用しながら出目が五という奇跡の無駄遣いを披露していた。

「な、何なのよ突然! この29年の苦労を無にするつもり!?」
「そんなにやってて未だに借金まみれのへタレに意見する権利なんて無し!
 それよりも、耳かっぽじって私の案を聞きなさい!」

再起動を果たしたマリスは、卓袱台へと足を乗せると、威勢良く口を開いた。
背景には、鼓を打ち鳴らす人形もいるという、実にお膳立ての良い見得である。
その勢いに押されたのか、二人はコントローラーを放り出すと、正座をして向き直った。

「名前、確かに大事よね。その気持ちは良く分かるわ」
「あんた……というか、あんた達が言うと、ただの嫌味にしか聞こえないんだけど」
「でもね、人は考える葦なのよ。個々は矮小な生き物に過ぎずとも、思考をすることで可能性は無限に広がるの」
「私、妖怪……」
「だから大人しく聞けって言ってるでしょ!」

重低音ストンピングが、物理的に博麗神社を震わせ。同時に霊夢と紫をも震えさせる。
今のマリスは、紙一重ではあるが、確実に美しかった。

「という訳で、発想の転換よ。語呂が悪いなら、平仮名を捨ててしまえば良いの」
「……?」
「分かりなさいよラインズマン!」
「私、女の子……」
「そのネタはもう飽きたわ。ともかく、平仮名が駄目なら漢字。
 ここはひとつ、『霊紫』か『紫夢』の二択で手を打ちなさい」
「「……あー……」」

ようやく意思が伝わったのか、霊夢と紫は間の抜けた声を上げた。

「うん。それならまあ許容範囲かしら」
「そうかなぁ……何か釈然としないような……」
「口に出すからそう感じるのよ。あくまでも大切なのは字面よ」
「……ごめん紫。全然、意味わかんないから」

霊夢の呟きを他所に、紫は満面に喜色を浮かべて立ち上がると、
マリスに対抗するかのように卓袱台へと足を乗せた。
無論、美脚対決を求めてではなく、意気込みを示す意であろう。

「決定よ。ディバインナイトだか誰だか知らないけど、私達が叩きのめしてあげましょう」
「いや、それはメリアドールだから」
「突っ込み不要! さあ、霊夢、私とひとつになりましょう。それはとてもとても気持ちの良いことなのよ」
「え、いや、あんた何で急に元気になってるの……?」
「何度提案しても軽く流されていたものが、公認で実現されようとしているのよ!?
 これを喜ばずにいられるものですか!」
「……落ち込んでた私って、何なんだろ……」

止まぬ疑問との戦いを続ける霊夢を、そんなの知った事かとばかりに抱え上げる紫。
そして、静止する暇もなく、隣室へと消えていった。
紛うことなき、お持ち帰りだ。


(……あいつ、合体の意味を履き違えてないか?)
(ま、良いんじゃないかしら。突っ込むのも野暮よ)
(いや、突っ込めよ)















妖仙は頑張った。

質問をぶつけ、詭弁を弄し、思い出話を語り、泣き落としも演じ、ネタも披露し、
そして、ありとあらゆる弾幕を放って、時間稼ぎのスペシャリストの名に恥じぬ働きを示したのだ。
この激しさ極まる戦いにより、彼女が得た教訓。それは……。


「へぶっし!」


無理なものは無理。というものだった。





「……ううっ……」

本日、何度目ともしれない墜落。
度重なる暴虐の影響によって、ブレザーはとうに焼き捨てられ、
襟元のタイも何時の間にか行方不明となっており、現在はブラウスのみというスタイルである。
……という表現では誤解を招きそうだが、最後の聖地はギリギリで健在だ。
あからさまであってはならない。チラリズム万歳。というのは、縞パン愛好家の鉄則なのだ。
ともあれ、ガンブレードという珍妙な得物さえ無ければ、彼女が妖夢と鈴仙の合体した姿であるとは認識され辛いだろう。

「頑張るわね。これほど遊べるとは思ってなかったわ」

ほぼ無傷に等しいミリアドールが、のんびりとその距離を詰める。
湾曲表現ではなく、本当に遊んでいただけなのだろう。
故に、まだこうして妖仙は、生を永らえているのだ。

「まだまだ……私の引き出しは無限よ……」

それはネタの事なのか、弾幕の事なのか。
何れにせよ、強がりの類であるのは間違いないだろう。

「む。ちょっと待って」
「……また?」

呆れ顔のミリアドールを他所に、つーかーと表記された塊を耳へと当てる妖仙。
時間稼ぎ技、その十二。『急に電話が掛かってきた』だ。
無論、あらゆる意味でフェイクである。

「え? あ、はい、その件ですか、何度も言いますが、百億では足りないんですよ。
 本気で購入なさりたいのなら、その十倍は用意する心構えが……」
「……」

瞬間、耳元の電話が爆裂した。
兎耳のほうに当てていたお陰で、被害そのものは薄かったが、それの意味するところは重要である。

「くそっ、大事な商談を!」
「あんた達のどこにそんな金があるのよ」

続けざまに襲いくる大量のナイフを、横に転がるように回避。
それと同時に、狙いを定めていたガンブレードの引き金を引いた。
爆音が鳴り響き、一時視界は硝煙に隠される。


「煙いわ。それもう禁止」
「……善処しましょう」


数秒後。
開けつつある視界の向こうで、わざとらしく顔を顰めてみせるミリアドールは、やはり無傷だった。
想定内……というよりは、攻撃の前から分かっていた結果である。

妖仙とて、最初から諦めの境地に達していたわけではない。
あわよくば自分達で片を付けるくらいの腹積もりでいたのだ。
が、それでも無理なものは無理と達観せざるを得なかった要因は、極めて単純。
何をしても、まったくダメージを与えられなかったのだ。

叩き斬りもした。零距離射撃もした。垂直落下式DDTもフライングラリアートもブチかました。
果ては幻朧春風月睨斬なる自分自身も理解不能な必殺技なんかも繰り出したのだ。
が、その結果が、服装すら乱れてないミリアドールという現実なのだ。
誰とて絶望感も受けようものである。


(……思うんだけどさぁ)
(何?)
(私達の武装、むしろ合体前より弱体化してない?)
(……うん。多分、楼観剣のほうが役に立ったと思う)
(だよね……こんな玩具みたいなもので、どうしろって言うのやら……)
(ドローも出来ないしね……)


このような状況では、脳内会議が愚痴で溢れるのも止むを得ないところだろう。
だが、それでも妖仙は立ち上がり、ミリアドールと向かい合う。
己の役割を果たす為に。

「もう良いでしょ? いい加減、新しい刺激が欲しくなってきたわ」
「そ、その結論はまだ早いわ。何せ私はまだ、二回もの変身を残しているのよ。この意味が分かる?」
「じゃ、変身して見せてよ」
「……きょ、今日はちょっと月が隠れてるから難しいかも」
「満月よ」

呆れたような呟きを合図として、ミリアドールが両手を広げる。
それが何を意味するのか理解するよりも早く、妖仙は強制的に宙へ投げ出されていた。
視界外……足元から立ち上った、紅い光の柱に飲み込まれたのだ。


「い、痛い! 死ぬ! 普通に死ぬ!」
「女の子でしょ。我慢しなさい」


暢気に返してくるように、殺意を持った攻撃でもなかったのだろうが、
それにしたところで、妖仙には十分過ぎた。
このまま月まで登ってみるか、と現実逃避するギリギリのところで抜け出したものの、
受けたダメージは甚大であり、降りるというよりは落下するように地面に転がされる有様だ。


「ぐぅ……」
「……」

言葉もなく、ミリアドールが歩み寄る。
もはや語るにも飽いたというところだろうか。


(……アレ、やろうか)
(本気?)
(もう、他に手が無い。今使わないと、きっと後悔する事になる)
(別の意味で後悔しそうなんだけど……仕方ない、か)


結論は最初から出ていたゆえ、単なる確認である。
妖仙は、上半身を持ち上げると、乱れる息もそのままに口を開く。

「ま、待って……行動に出る前に、今一度、私の発言に耳を傾けて……」
「……本当に、よく喋る奴ね」
「実は、ずっと昔から、貴方みたいな強くて美しくて可愛くて危うい吸血鬼に仕えたいと思ってたの。
 こ、ここは是非、私を部下にしてみるつもりは無い? や、役に立ってみせるわよ」
「どういう風に?」
「な、何でもよ。家事は勿論のこと、庭仕事も出来るし、医療行為もお任せ。
 お望みとあらば、警護も諜報活動も暗殺も引き受けるわ。……どう?」

これぞ、妖仙流時間稼ぎ最終奥義、『命乞い』である。
どこら辺が最終奥義なのかというと、この技は発動してしまったが最後。
反応いかんに関わらず、漏れなく心の中の主様に見捨てられるという結果が待っているからだ。
心の中なら別にええやんの。との突っ込みは無粋に過ぎよう。
主人への依存度が極めて高い彼女にとって、これは入水自殺に等しい決断なのである。
まあ、入水したところで、全幽霊に転職か、力ずくで蘇生させられるかの二択でしかないのだが。





「……」

果たして、ミリアドールは動きを止めていた。
それは、もはや何度目とも知れない、脳内会議の合図である。


(……便利かもね)
(ちょっと、お姉様。本気? どう見たってただの命乞いじゃないの、アレ)
(いやいやフラン。あれだけの属性の塊よ。威厳を保つには有効とも考えられるわ)
(属性と威厳がどう繋がるのか分からないんだけど)
(お黙りなさい。貴方にはまだ、頂点に立つ者の苦悩が理解出来ないだけよ)
(あんまり理解したくないし、それを言うなら苦悩じゃなくて煩悩)
(違うわよ。108つなんかじゃ到底足りないもの)
(はぁ……やっぱりダメね、こいつ)
(フ、フラン、貴方、お姉さまに向かってこいつとは……私は許しませんよーっ!)
(だから、こっちまでネタに感化されてどうすんのよ。それより、さっさと終わらせて遊びに行こうよ)
(……へーい)


脳内姉妹会議は、妹の勝利で終わった。
なお、参考までに言うと、姉が勝った例は今のところ存在しない。
威厳云々以前の問題である。






「悪いけど、今は仕官を受け付ける気は無いの。
 後日、まだ動けるようなら、改めて履歴書を提出してね」
「……それは残念……」

かくして最終奥義はスルーされた。
もはや抗う体力も、次なるネタを生み出す気力も無い事を自覚してか、
妖仙はここに覚悟を決める。
ガンブレードを地面へと投げ捨てると、どっかとその場に座り込んだのだ。


(……目覚める場所は何処かなぁ)
(冥界か竹林か……彼岸じゃないことを祈るしか無いね)


ほんの気紛れで試してしまった合体術が、よりにもよってこのような結末を招くとは。
せめてもの救いは、今際のその時まで一人ではない事くらいだろう。

妖仙は、次に見える人物が小町ではない事を願いつつ、堅く目を閉じた。






「諦めるんじゃないわよアホっ!」
「え」





果たして、その願いは適えられた。
恐る恐る目を開いてみれば、そこには箒に跨ったマリスの姿。
そして、遥か眼下に映るのは、追いかけて来る様子のないミリアドール。
マリスによって強制的に引っ張り上げられた妖仙は、一瞬にして上空まで移動していたのだ。

「ま、見てないけど良い仕事だったわよスペシャリスト。これにて策は成ったわ」
「という事は……」

それに対する返答は、言葉ではなく、現実の光景によって示された。

何も無い筈の空間が口を開くという、見慣れたくなくとも見慣れてしまった光景。
が、記憶と異なるのは、その空間から、するりと顔を覗かせた人物である。


「……」


完全にスキマから出たそれは、妖仙がイメージしていた存在とは差異があった。
いや、妖仙のみならず、マリスやミリアドールにしても同様であろう。
この合体術によって誕生する人物は、良くも悪くも元の二人の寄せ集めの姿になるというのが通説だからだ。

しかし、彼女はどうだろうか。
一見した顔立ちや、大きなリボンの金髪ポニーテールが特徴的なくらいで、他の要素は極めて薄い。
ほぼ白一色の衣装は、袖も分離していなければ、パニエの中の人も頑張ってはいない。
おまけに、日傘もお払い棒も扇子も持たない、まったくの丸腰だった。

が、何よりも妖仙にとって不思議だったのは、そうした外見的印象を持ちながらも、
彼女が霊夢と紫の合体した姿だと確信できた事に尽きるだろう。

「ええと、あれは……れいかり? ゆかいむ?」
「それ、二度と口に出さないでね。ふて腐れられたら、全てが台無しよ」
「……?」
「……っと、アレの名前は重厚極まる会議の結果『霊紫』ってことに決まったわ」
「……れいし?」
「だから、声に出すなって言ってるでしょ!」
「ならどう言えっていうのよ!」
「考えるな! 感じなさい!」
「強く言えば何でも押し通せると思うんじゃないっ!」

覚悟を決めていた割には、元気な妖仙であった。









「……何か、変な感じね。夢の中にいるみたい」

誰に言うでもなく、ぼんやりと呟く霊紫。
その表情は、どこまでも空ろだった。

「ああ……そうね。夢の文字が内包されたんだから、それも当然か……」

中の人会議が口に出ているのかと言うと、そういった様子でもない。
まるで、目に見えぬ誰かに語りかけているような雰囲気なのだ。

「ごきげんよう、貴方が新しい挑戦者?」

何時の間にか、霊紫の眼前にはミリアドールの姿があった。
既にしてマリスや妖仙への興味を失ったのだろう。
むしろ、新たな展開を前に、嬉々としている風すら伺える。

「……」

が、霊紫からの反応は無い。
というか、ミリアドールを見てすらいなかった。

「……聞いてる?」
「……」

中の人の性格を考えれば、激昂してなんら不思議の無い場面である。
が、何故かこの時のミリアドールは、相手が気付くのを待つという、消極的に過ぎる対応を選んでいた。
もっとも、その理由は、自身でも理解していなかったのだが。

「……あ、うん、聞いてるわ」

ちなみに、この言葉が発されたのは、ミリアドールの問いから三十秒後の事である。

「とんだ天然になったものね……さて。自己紹介、必要?」
「……いらないわ」
「そ。じゃ、そっちの番よ。大方推測はついてるけどね」
「……」
「だから、急に黙るなっ!」
「ううん……名乗るの楽しみだったはずなんだけど……何だか、面倒になっちゃったの」
「いや、貴方の個人的嗜好には興味ないんだけど」
「でも、便宜上困りそうだから、一応名乗るわ。霊紫です、よろしくどうぞ」
「あ、はい、こちらこそ」

ぺこり、と空中にて頭を下げあう霊紫とミリアドール。
余りにも締まらない最終決戦である。

「じゃ、早速……」
「あ、ちょっと待って」
「何なのよ、もう。時間稼ぎはお腹一杯よ」
「違うわ。先に謝っておきたくて」
「はあ?」
「ごめんなさい。多分、貴方の期待には答えられない」
「……それを決めるのは、私よっ!」

それは、いわゆる不意打ちとなって放たれた。
右手からは、紅の直槍を投擲する形で。
左手からは、紅蓮の剣を叩き付ける形で。
やはり方天戟ではネーミングの面で問題があったから……という訳ではなく、純粋に効率を求めてだ。

本来、このようなやり口は、ミリアドールの最も忌避するところである。
余裕の無い行動である上に、楽しくも何ともないからだ。
しかし、それでもやらざるを得ない何かを感じ取っていたから、というのが正しい所だろう。


「……え……」


ミリアドールは、決して霊紫を侮ってはいなかった。
故に、不意打ち気味のこの行動も、恐らくは防がれるか避けられるだろうと思っていたくらいだ。
が、現実の光景は、時として想像をも超えて、重く圧し掛かる。
何しろ霊紫は、文字通り何もしなかったのだ。

「……ほら、言ったじゃないの。もう、両方とも暫く使えないわよ?」
「……」

防がれてはいない、回避されてもいない、にも関わらず手ごたえは何一つとして無し。
そして、霊紫の言葉が示す通り、新たなグングニルは生み出されず、
沈黙したレーヴァティンはただの曲がった杖となった。

「あー、ちなみに手品でも何でもないから、誤解しないでね」

合体に馴染んで来たのか、霊紫の口調が次第に快活さを見せ始める。
それとは対照的に、ミリアドールは困惑へと陥る一方だ。
無防備な相手を攻撃したら、何故か武器が失われていた。等という状況では、それも仕方ない所だろう。


「……なら、こっちも手品じゃないわよ」

我を取り戻したミリアドールは、後方へと距離をとる。
が、逃げるつもりで無いのは、言葉の響きからしても明白である。

「何を見せるつもり?」
「数よ」

それを示すが如く、唐突かつ大胆に、ミリアドールの身体に変調が起こる。
とは言え、巨大な角が生えるだの、身体が醜く膨れ上がるだのといったものではなく、
物理的にその身体の数を増やすというものであった。
無論、四体などではない。
それこそ、日本野鳥の会の助けを借りねば、計測不可能とも思えるような量であるが、
乗算の法則からして、恐らくは256体といったところだろう。

「ありゃ……いくらなんでも増えすぎじゃないの?」
「……私もそう思う」

こうなるとは思っていなかったのか、ミリアドールの声は困惑気味だ。
もっとも、こんな殊勝な台詞も256人が同時に発すれば、怖いだけである。
しかも、元々の声が二重であるため、実質的には512人分だ。
咲夜辺りならば至福の時とも受け取れようが、
マリスや妖仙にすれば、騒音と頭痛により頭を抱えるだけの光景だろう。
が、肝心の霊紫はというと、相も変わらずの空ろな表情。
言葉は元気になりつつあるだけに、何を考えているのか、ますます分からなくなっていた。

「と、とりあえず……落ちなさい!」

そんな不安を振り払う為か、ミリアドール達は、一斉に弾幕を撃ち放った。
いや、もう薄々は気付いているのかもしれない。
だがそれでも、彼女は動くしかなかったのだ。


「ぽん、っと」


この時、霊紫が取った行動はただ一つ。
わざとらしく口にすると同時に、軽く手を打っただけだ。

だが、僅かながらでもアクションがあったせいか、
次なる光景は、この場の全員が目にする事が出来ていた。
分かたれた255人のミリアドール、そして彼女から打ち出された膨大な量の弾幕は、
それこそ、存在を隠されたかのように、忽然と消失したのだ。

「……」

残された一人……ミリアドールの本体は、もはや呆然とする以外の術を持たなかった。

「分かった?」
「……」

何を。とは問い返さない。
その言葉の意味するところは、嫌が応にも理解できてしまったからだ。
図らずもそれは、マリスや妖仙が、自身と対峙した際に浮かべた感想と同じもの。

これは無理だと。



「さて……理解して貰えたようだし、締めさせてもらうわね」
「締めるって……」

霊紫は返答の代わりとばかりに、右手をゆっくりと振り上げる。
が、幻想郷中の霊力が収束されるなどといった派手な動きもなければ、
不可思議な現象が起こる予兆も見えたりはしない。
本当に、ただ手を動かしただけである。

が、もうミリアドールには分かっていた。
予知でも宣言でもなく、あれは本当に事実を告げているだけなのだと。

彼女は、今をもってしてもなお、世界に超えられない壁などないと思っている。
では、目の前の霊紫という存在は、どう表現すれば良いのか。
答えは簡単。

あれは違う世界の何かなのだ。


「最後くらい宣言しましょうか……結界『32bitと64bitの境界』」


紅魔館を、刹那の閃光が照らした。















「……アレはブレイン? パワー?」
「パワー……と言いたいところなんだけど、そういう次元じゃないわね。
 そもそも、弾幕じゃないし」
「うん……自分で仕向けた事とは言え、ちょっと気の毒かも」

何時の間にか、地上へと降り立っていたマリスと鈴仙。
彼女等の前には、それまでミリアドールと呼ばれていた吸血鬼が、十進法を採用していた。
要するに、両手を広げて地面に転がっていたのだ。
要さないほうが短かったような気もするが、そこは臨機応変という事で一つお願いしたい。

「ま、このくらいなら何とも無いでしょ。肉片が残ってれば復活するような連中だし」
「その光景は、見ずに済んで良かったかな」
「……光が……広がっていく……」

彼女等にしてみれば、一度は殺されかけた相手だけに、同情するような余地は無い筈なのだが、
それでも気の毒と思えるくらいに、霊紫の力は圧倒的に過ぎた。
いや、もはや強い弱いといったレベルの存在ではない。
反則をも通り越した、もっとおぞましい何か。としか表現できまい。

「で、その霊紫は……何してるのかしら」
「さあ……」

未だ腕を振り下ろした状態のまま浮いている霊紫。
元々、何を考えているのか分からないというのが紫の評であるのだが、
そこに霊夢が加わった事で、更に謎は深まっていた。

やがて、固まるにも飽きたのか、それとも中の人会議が終わったのか、
霊紫は眼下の二人……もしくは三人へと顔を向ける。
その表情は、依然として空ろなままだった。


(……魔理沙)
(……何だ?)
(もう、言うのも飽きたけど……)
(なら言うな。私だってうんざりだ)
(……嫌な予感。しない?)
(言うなって言ったろっ!)


「済んだわよ、マリス。……と、妖仙だっけ」
「あ、うん、ご苦労様。お陰で助かったわ」

マリスの内乱を他所に、妖仙は霊紫へと礼を述べる。

「じゃ、早速、次に入りましょうか」
「……次?」
「ええ。貴方たちの番よ」

霊紫が初めて動かした表情。
それは、どこか気味の悪さが感じられるような笑顔だった。


「ちょ、ちょっと待って! そ、そんな事まで頼んでないわよ!」
「うん……頼まれた覚えも無いわ。これは私の自主的な行動よ」
「余計に悪い! 何だってそういう結論になるのよ!」
「臭い匂いは元から絶つ。騒動の原因となったのは、紛れも無く貴方達でしょ?」

騒動というのが、合体魔術そのものを指しているのなら、その通りである。
だが、言い訳の材料とて数え切れない程あるのだ。

「わ、私はもともと、合体したくてしたわけじゃ……」
「動機はどうでもいいわ。やったんでしょ?」
「そ、それは霊紫だって同じじゃないの!」
「私の事はどうでもいいわ。やったんでしょ?」

悲しいかな、この相手には理屈がまったく通用しなかった。

「ど、どうするの!?」
「これは、流石にどうにも……」

ミリアドールの時とは、話がまったく別物である。
これ以上は無い組み合わせという結論から霊紫を誕生させるに至ったのだから、
それに対する抑止力など、存在するはずが無いのだ。


「逆転ホームラン!!」
「!?」


そうか、ここに来てタイムスリップか、と抜かすのは単なる現実逃避である。
何故ならば、その台詞を口にしていたのは、マリスではなく妖仙だからだ。

「マリス、私達と合体しよう」
「はあ!?」
「二身合体よりも三身合体のほうが上なのは決まってる。それなら四身合体すればどうなるか……」
「そ、それは、身じゃなくて神よ!」
「なおさら良し! 私達は幻想郷の神になるの!」
「もう黙ってろ!」

どうやら、現実逃避をしていたのは妖仙のほうだったらしい。
理論も何もない、もはや完全なる泥沼である。
だが、沼の底に沈みきり、一体化してしまった妖仙は、それに気付こうとはしない。

「会議終わった?」
「い、いえ、まだよ、軽く明朝まではかかりそうね。コメンテーターも楽じゃないわ」
「そう。じゃ、三人揃って夢の世界で頑張りなさい。……いえ、六人かしら」

霊紫は笑みを維持したまま、ゆっくりと左手を振り上げる。
右手がアレだったのだから、それが逆になったところでどうなるかは想像するに容易であろう。
むしろ、ミリアドールですらこの有様なのだから、マリスや妖仙では、あっさりと三途を渡る可能性が高い。

(こんなオチは無いだろう……勘弁してほしいぜ)
(……)
(いや、まだだ。きっと何か回避方法があるはずだ……!)
(……)
(って、おい、アリス。お前も何か考えろって)
(……)
(聞いてるのか? それとも現実逃避したか?)
(……魔理沙)
(んぁ?)
(ありがとう。貴方に会えて、本当に嬉しかったわ)
(即死フラグを立てるなああああああああああ!!)



マリス……いや、魔理沙があらゆる意味で釜の淵に手を掛けたその時。
ぽん、という迫力に欠ける音が耳に届いた。

「「……?」」」

マリスと妖仙は、同時に顔を上げる。
音の発生源と思わしき位置は、舞台装置のドライアイスにも劣る、貧弱な白煙がたなびいていた。
ややあって発生した微弱な横風が、その白煙をまとめて流し去る。





「……お?」
「……ありゃ」




そこに佇んでいた人物は、二人。
月の微弱な明かりであっても、容易に特定可能な特徴的な外見。
霊夢と紫である。
 

「……」
「……」
「……時間切れ?」
「多分……」

もう本日何度目になるか数え切れない、困惑の表情を浮かべるマリスと妖仙。
だが、命拾いをしたのだという結論だけは、誰に問うでもなく理解出来ていた。

「はぁ……気が抜けたわ」
「そうね……」
「ったく、即死フラグなんて立てるから、勘違いするところだったわ」
「即死フラグ?」
「……気にしないで。こっちの話よ」
「って言われても、どっちの話なのや……うわっ!?」

呆れ気味に言葉を返そうとしたその瞬間。
妖仙が爆発した。
と言っても、肉片が飛び散ったり内臓が破裂したりといったスプラッタな光景ではなく、
気の抜けそうな貧弱極まる効果音と共に、白煙に包まれたというだけである。

「……妖仙?」

疑問符付きではあるが、実際にはただの確認である。
次第に晴れて行く白煙。その向こう側に佇んでいた人物は……やはり二人だったのだ。


「……なるほど、ね」
「私達も時間切れってことか」


既に同例を目撃していたからか、妖夢にも鈴仙にも動揺した様子は無い。
むしろ、心の底から安堵したとでも評すべき表情だった。
元を返せば、この結果こそが、彼女等が今ここにいる理由なのだから。

「……あ」

もしや、と思い、マリスは背後を振り向く。


「ママン……止めてよママン……」
「無理……ピーマンだけは無理なの……」


その予感は見事に的中していた。
安らかな……とは言い難い苦悶の表情で寝言を漏らす二人の幼女の姿は、
この騒動が大方の面で収束した証拠であった。





「残念ねぇ、もう少し霊夢と身体を共有していたかったんだけど」
「あー、私はもう良いわ。取り返しの付かないことになりそうだし」
「ま、仕方ないわね」

マリス達の下へと降り立った紫と霊夢は、まったく普段通りの調子であった。
とても先程まで殺意を持っていたとは思えない姿である。

「……」
「……ん? 何身構えてんのよ」
「……お、お仕置きは?」
「あら、されたいの?」
「ノーサンキュー! 謹んでお断りするわ」

実際問題、元に戻ってしまった霊夢や紫が、マリスにお仕置きなど出来るはずもないのだが、
それでも卑屈に出てしまう程に、霊紫の記憶は強烈だったのだろう。
単に、マリスとしての地かもしれないが。

「で、この二人、どうする?」

霊夢が顎で指し示したのは、合計千歳の吸血鬼姉妹。
未だリアルナイトメア体験中なのか、訳の分からない寝言を漏らしていた。

「今のうちに止めを刺すとか……」
「そこまでしなくても良いんじゃないかしら。どうせ、暫くの間は合体も出来ないのだし」
「……?」

紫の言葉に、マリスは怪訝な表情を浮かべる。
人道的な発言が信じられない……なら良かったのだが、むしろ問題は後半部分にある。

「ちょっと、紫。もしかして、この合体術のこと、最初から知ってたの?」
「……え? 本気で言ってるの?」
「いいから答えて」
「あのねぇ……貴方、私達に合体術の方法を伝えた記憶ある?」
「……あ」

記憶を遡るまでもなく、無いのは明白であった。
そもそもにして、マリスは未だに正確な始動手順すら知らないのだから。

「まったく……もし私が知らなかったら、どうするつもりだったのよ」
「か、過去の事は忘れましょう。人は未来に生きるものよ」

流石に同じギャグを三度繰り返すのは抵抗があったのか、
紫の反応は、軽くため息を吐くに留まっていた。
無論、呆れの方が強かったと見るほうが妥当であるが。

「あの、紫様」
「あら妖夢、久し振りね。うどみょんは楽しかった?」
「はい、未だかつてない甘美な体験……って何を言わせるんですか!」
「自分から答えておいて良く言うわね」
「……ええと、私からも質問があるのですが」
「ん、この際だから何でも答えちゃいましょうか」
「この合体術って、何なんですか」
「……また、随分と漠然とした質問ねぇ」
「す、済みません。ですがもう、真相を知る方が紫様以外におられないもので……」

この発言は、本来突っ込みが入ってしかるべきものなのだが、
不思議な事に、誰一人として実行するものはいなかった。
実にミステリーである。

「まあ、良いわ。それなら知る限りを教えてあげましょう」
「お願いします」
「……といっても、私もそれほど詳しい訳ではないのよ。
 まさか、本当にこんなにも簡単に実現可能だとは思っていなかったもの」
「……同感ね。最初に聞いたときは冗談かと思ったわ」

霊夢が呆れ顔で頷いてみせる。
そして、異口同音にマリス、妖夢、鈴仙も習う。
ただの一動作ではあるが、実際に体験したものにしか理解出来ない重みが、それにはあった。

「この術法に必要な条件が、力量の同期、体格の一致、相性の有無の三つなのは知ってるわね?」
「はい」
「で、実行過程が単純なのは承知の通り。
 ただ、その後の持続時間は一つ目の条件……力量によって大きく異なるわ。
 分かり易く言えば、力の強い者同士ほど時間は短く、逆に弱いもの同士であるなら長くなるの」
「ああ……だから私達は数分で解けちゃったのね」

この説明により、合体がほぼ一斉に解けた理由は判明した。
時系列的に見ると、合体した順番は、そのまま力量差でもあったからだ。

「すると、元々この術に解除方法なんて無いという事ですか?」
「ええ。自然に解けるのを待つだけね」
「……あはは……私達、何の為にここまで来たんだろ……」

どこか、もの悲しい笑い声を上げる鈴仙。
生命の危険を冒してまで求めた答えがこれでは、泣くに泣けまい。

「ま、良いじゃない。結果的に丸く収まったんだし」
「それはそうだけど……」

傍目には、何気ない慰めの言葉であろう。
だが、ただ一人、それを聞き逃せない人物が存在した。

「……ちょいと待った。まだ収まってないことがあるわ」
「あら、何?」
「それなら何で、私は合体したままなの?」
「「「「あ」」」」

マリスを除いた四人の声がハモる。

「別に自惚れる気は無いけど、少なくともこの二人に劣ってるとは思わないわよ?」
「……時間稼ぎが出来たか、逃げ出したかの差じゃないの?」
「連れて来いって言ったのはあんた達でしょ!」
「じゃあ、策が浮かんだかどうかの差、とか」
「あれの何処が策なのよ!」
「うーん……どういう事かしらねぇ」

いつになく困惑した呻きを漏らした紫に、マリスは更に不安を募らせる。
誤差の範囲なだけ。名前の相性も持続時間に関わる。あの時会った妖仙は変身直後だった。
いくらでも仮説は考え付くのだが、それでも何かが引っかかるのだ。

「ま、多分誤差でしょ。気にしないでおきなさい」
「え、ええ……そう、したいんだけど」

霊夢の慰めにも似た言葉にも、快活に返す事が出来ない。
むしろ、ますます不安になるだけであった。
いや……それはもう、予感とでも言うべきだろう。

「そうね。世界にはもっと酷い合体術だってあるそうだし、
 それに比べれば大したものではないわ」
「へぇ、どんなものですか?」
「一度合体したが最後、二度と元には戻れないそうよ。
 これはもう、術というよりは呪いね」
「それは……少し嫌だなぁ」
「……少しなの?」

紫達の言葉が、聞き耳も立てていないのに脳髄へと響き渡る。
マリスは、それが過剰反応だと理解しつつも、耳を塞ぐ事を止められなかった。

「ま、それには特殊なマジックアイテムが必要だそうだし、
 そうそう簡単にお目にかかれるようなものじゃないでしょう」
「マジックアイテム?」

耳を塞ぐ手に当たる感触。
それは、いつしか存在を忘れかけていた、そして全ての始まりだと思っていたはずのもの。

「ええ。合体の術に使うようなものだから、多分装身具の類でしょう。
 妥当なのは、指輪かイヤリング辺りかしら……マリス? どうしたの?」















 ‐マリスは‐
 二度と元の姿へは戻れなかった……。
 魔理沙とアリスの中間の生命体となり、寿命が尽きるまで幻想郷をさまようのだ。
 そして、別れたいと思っても別れられないので、マリスは考える事をやめる前に結論を出した。

 このままでもいいか、と。


















「ちっとも良くない!!」


エピローグという名の夢は、図らずもマリスに覚醒を促していた。
勢い良く起き上がると、周辺に視線を巡らせる。
地形的な特徴から、そこが倒れた場所であることは直ぐに理解出来た。

が、誰もいない。
紫はもちろんのこと、霊夢も、妖夢も、鈴仙も。
それどころか、気絶していたはずのスカーレット姉妹の姿すら確認出来なかったのだ。
その事実の意味するところは、二つほど推測できよう。
だが、その内の一つである夢オチは、つい先程、実際に経験したということで除外される。
故に、残りの一つが解答という訳だ。

「……放置されたのね」

マリスの言葉に、悲しみの要素は無い。
むしろ、八つ当たりせずに済んで良かった。と達観しているくらいだった。
単に感情が麻痺しているだけとも言えるが。


(……どうするよ、おい)
(……正直、もう何も考えたくないんだけど)
(そりゃ私だって同じだ)
(……)
(……でもな、アリス)
(……何よ)
(今のところ証拠って言ったら、あの紫の言葉だけだ。それも推測でしかない類だぜ?)
(……全部分かってて、あえて濁して言ったんじゃないかしら)
(い、いや、それも推測に過ぎないだろ)
(……)
(とにかく、だ。諦めるよりも先に、もう少し努力してみる気は無いか?)
(……努力とか自分から口にして良いの?)
(良いんだよ。どうせ隠したところで無駄なんだし)
(まあ、そうね……)
(……)
(……)

十から先は数えていないくらいの回数をこなした脳内会議であったが、
盛り上がりの無さにおいては、今回を上回るものは存在しないだろう。

(……あ)
(ど、どうした! 異議ありか!? 一発逆転か!? 代打北川か!?)
(そ、そんな反応で迎えられるようなものじゃないんだけど……)
(気にするな。今は前向きな意見なら何だって歓迎するぜ)
(いえ、ね。パチュリーのこと忘れてたなって)
(……あー、そういや、あいつまだ探してるのかな)
(でしょうね。それも恐らく、私たちが焼いてしまった本を……)
(……)
(……)


「……行きましょう、か」

マリスは、スカートの汚れを払いつつ、立ち上がる。
気の毒だと思える程度の良心は残っていたということなのか、
それとも、見捨てられた事に対する同類意識か、何れにせよ次の行動は決まっていた。
目指すは図書館である。














紅魔館の内部は、先程までの騒動がまるで嘘のように、しん、と静まり返っていた。
……と言いたいところではあるが、実際はまったくの逆である。

「煉瓦ー! 煉瓦が足りないってばー!」
「え? 業者が休日? 叩き起こせ!」
「あの、どうしてここだけ鏡面仕上げに……?」
「人柱が逃げたわ! 捕まえるのよ!」

既に深夜と呼べる時間帯にも関わらす、右に左にの大騒ぎ。
その理由は勿論、この数時間に起きた大破壊の後始末に他ならないだろう。
威厳を誇る為の豪奢な屋敷が、空洞だらけの瓦礫の山ではお話にならないのだ。

「……」

マリスは、突貫工事に走り回るメイド達の目を避けるように、こっそりかっさりと動く。
無論、責任を押し付けられるのを回避するためだ。


「お姉様……私、もう駄目……助けてよ……」
「……こんな時だけ妹属性発揮するんじゃないの」
「……ちっ」
「い、今、舌打ちをしたわね!? 貴方、本当は正気でしょう!?」
「いいからさっさと手をお動かし下さい。時間は有限なのですよ」
「「お前が言うな」」


何処か見覚えのある連中も、華麗にスルー。
紅魔館の新たな上下関係が垣間見えた気もしたが、それでもスルー。
今のマリスには、他人に関わっている暇など無いのだ。






紅魔館の住人も、色々な意味で薄汚れた魔女一人に構っているほど暇ではなかったのか、
マリスは何の障害も無く、図書館へとたどり着いていた。

「……お邪魔しまーす……」

後ろめたさが多少あるのか、普段のような派手な口上は無し。
そもそもにして、あれからずっとパチュリーが本探しをしているのなら、
マリスはずっとここにいたと思っている筈なのだが、そこに思い至る程の余裕も無いらしい。


だが、転んでもただでは起きないのが彼女である。
ここに来るまでに行われた脳内会議により、一つの希望を見出していたのだ。
それは、最初に受けたパチュリーからの説明が鍵だった。

『解呪の方法らしきものも載っていた気はするけど……』

だが紫は、この合体術に解除法は無いと断言している。
即ち、紫とパチュリーの知っている術が似て非なるもの、という可能性が生まれる訳である。

無論、希望的観測ではある。
そうだったとしても、自分達の術が解除出来るとは限らないし、
何よりも、パチュリーの勘違いであればそれまでだ。

だがそれでも、何も無いよりはましである。
少なくとも、今この図書館にいる事に、建設的な意義が見出せるからだ。


「あ、マリス」


丁度そこに、パチュリーの声が耳に届いた。
途中で力尽きていただの、忘れて寝ていただのといったパターンも想定していた為か、
マリスは笑顔をもって彼女を迎える事に決めた。

「パ……」

が、その決意は、一秒と持たなかった。


「待たせたわね。本、見つかったわよ」
「……」
「……どうしたの?」
「……」
「風邪でも引いたのかしら? 
 だとしたら、私がのろのろしていたせいね……ごめんなさい」

いつものボケと言い張ることも出来る。
気の迷いという可能性で逃げることも出来る。
長時間の放置により、人格が反転したと言い訳する事も出来る。

だが、だがしかし、だ。
パチュリーに羽根は生えていない。という条件だけは、どうしても越えられなかったのだ。


「何で……あんた……達も……合体……してるの……よ……」


もはや、まともな文章を組み上げる事が出来なかった。
よくよく見れば、服装だって混ざっているし、髪色も赤みがかっているのだ。
気付かなかったというよりは、気付きたくなかったというのが本音だろう。

「ええと、何がそんなにショックなのか、私には分からないんだけど……」
「分かってよ! ボケツッコミ一人でこなせておめでとう! ピン芸人として頑張ってね!」
「ああ……名前が気になるのね。
 でも、考えて無かったから、適当にパチェコアとでも呼んでくれれば助かるわ」
「捻りなさいよ! というか聞いてないわよ! あんた達、どこまで行けば気が済むのよ!」
「……欽ちゃん?」
「古すぎるわよ!!」

もはや、今のマリスは全自動ツッコミマシーンと化していた。
だが、そんな状況においても、今だ彼女は幸運だと言える。
中の人が、二人いたからだ。


(ちょっと、魔理沙)
(魔理沙魔理沙うるせぇなぁ! コンチクショウが!)
(良いから聞きなさい!)
(……何よ……もう私なんてどうなったって良いのよ……)
(人格乱れすぎよ。ええと、パチュリー……パチェコアとやら、本見つかったって言ってなかった?)
(……あ)
(ということは、よ。アレも単に、解除方法を知った上で遊んでるだけじゃないかしら)
(……)
(……魔理沙?)
(アリス、結婚しよう)
(はぁ!?)


新たな死亡フラグはさておき、マリスは全自動のスイッチを切った。
まだ、未来はある。そう信じて。

「あー、パチェコア?」
「……あっ、私?」
「自分でそう呼べって言ったんじゃない」
「あ、うん、そうだけど、やっぱり英名のほうが良いかな、って。リトゥリーなんてどう?」
「名前談義はスキマ妖怪とでもして頂戴、それよりも質問があるの。
 ……これの解除方法、見つかったの?」
「ええ。全部書いてあったわよ」

中の人、ガッツポーズ。
いや、勿論そんなことは不可能なのだが、それくらいの勢いだったという意味だ。
何しろ、合体してからここまで半日弱。
受けたものといえば弾幕とショックしかないという偏食人生だったマリスにとって、
希望のみを感じさせるコメントは、例えようのない喜びに満ち溢れたものだったのだ。

「良かった……本当に良かったわ……」
「もう、大袈裟ね。そうでもなければ、合体なんてする訳が無いでしょう?」
「そうなんだけど……中の人が中の人だから……ひぅっ」
「泣かないで、私はいつだって貴方の味方よ」

本来ならば突っ込みが入ってしかるべき場面であるのだが、
その役割を果たす存在がいないため、何故か美しい友情の光景となっていた。
ここは、受け取り方は人それぞれという事にしておこう。



「じゃ、行きましょうか。あっちに置いてあるから」
「……ええ。本当にありがとう」

恐らくは、本日最初の心からの礼を述べると、マリスはパチェコア(仮名)の後に続く。


彼女には見えていた。

物語の終わりを告げるスタッフロールが。
背景にて、後日談を演じるキャスト達が。
暗幕で隠されようとしているスクリーンが。







羽根耳に光る、黄金色のイヤリングが。

どうも、YDSです。

この話における一番の問題点……むしろ存在そのものが問題かもしれませんが、
そこは置いておくと、やはり冒頭でオチが見えている点だと思います。
何しろ、ネタの元となったものが、超が四つほど付く有名な作品ですから。
という訳で、その状態でいかに興味を引き続けられるかが鍵となりました。
目論見が上手く行っていれば幸いですが……難しいかな。

また、話の関係上、キャラ間に明確なランク付けをしてしまいましたが、
別にこれは私の主張という訳ではなく、お約束に従ってみたという程度です。
実際、過去に妖夢が紫に勝つ話とかも書いてますし、この辺は適当というのが本音でしょうか。
むしろ、合体の組み合わせのほうが主張……ゲフンゲフン。

えー、何はともあれ、毎度毎度の長い話にお付き合い下さり、ありがとうございました。
YDS
[email protected]
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コメント



0.4660簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
なるほどなるほど。
ということは、あれですな。
紫かフランあたりの体内にでも侵入しないと解除されないわけですな!?
3.90名前が無い程度の能力削除
霊夢と紫のジョグレス進化は反則
4.80nanashi削除
naruhodo!
つまりゆゆさまの中に入って蟲やら鳥やらを助けろと(消化さr
19.80名前が無い程度の名前削除
いやいや、パチュリー+こぁはパチュアでいいと思うんだ。
それはそれとしてGJ!
21.90名前が無い程度の能力削除
この発想は…

GJ!!
25.90名前が無い程度の能力削除
慧音様……クロイツフェルト・ヤコブ病って。死んでしまうぞ。
しかし……なんて懐かしい。お菓子が食べたくなりますね。
26.90名前が無い程度の能力削除
…って事はあのポーズとったわけか、あいつらは
30.90削除
大変失礼ながら、この話にはひとつだけ大きな欠点があります。
その欠点により、話そのものが瓦解してしまっているのです。

…すなわち、霊夢と紫じゃどうやっても体格に非常に大きな差が、特に3箇所程(弾幕天生)
33.80名前が無い程度の能力削除
幽々子に食べられてからバリア解除
38.無評価名前が無い程度の能力削除
幽々子様はよりスレンダーな悪の化身になってしまうわけですねwww
妖仙はタイミングよくR1ボタンを押せばきっと強くなる…はず。
40.90名前が無い程度の能力削除
点の入れ忘れ…大変申し訳ないorz
44.80名前が無い程度の能力削除
確かに分離するには、誰かに呑まれなければならない訳で。
でも、ゆゆさまに伝説の「チョコになっちゃえ~!」を覚えさせると、幻想郷はリアルに危機を迎える気が。
あと、霊紫は主人公キャラじゃないな。これはラスボスか隠しボスの風格だ。
45.90名前が無い程度の能力削除
こ れ は い い 
ってか強いな。あの二人でさえ30分なのに
誰かに絵にしてくれないだろうか
53.80蝦蟇口咬平削除
おら、もう笑いすぎてほっぺが痛くなっちまったぞ
56.60名前が無い程度の能力削除
>「違うわよ。今は」
アリスはもう本当に原作でも二次創作でもどんどんアレな方向にいっちゃってもう……
おもしれーじゃねーか

文体のテンポが一定すぎてちょっとダレました。もっと波が欲しいかな、と
64.80素晴らしい削除
しくしく。道中おもしろかったけどオチが分からない。 セルあたりで見るの止めたからなぁ。
66.無評価名前が無い程度の能力削除
これはいいポタラ合体ですね。
ディバインナイト噴いたwww

DBで思いついたんですが、萃香ってあの能力で元気玉使えるんじゃね、
と思ったりした。

69.80名前が無い程度の能力削除
サントスやりおるわい
70.90名前が無い程度の能力削除
妖仙でなぜか幽遊白書のことを思い出した
71.100名前が無い程度の能力削除
オチが見えていようとも面白かったです。以下、誤字など
・どこまでも非常×2(非情)
・別に誰も良いけど(脱字)
・腰貯め(腰撓めor腰試)
・融合系(融合形)
・多いに×2(大いに)
73.無評価abc削除
>リニアカードを使用しながら出目が五という奇跡の無駄遣いを披露していた。

それきっと桃鉄ⅠかⅡですね。Ⅲからはのぞみカード。
77.80名前が無い程度の能力削除
桃鉄もそうやけど、代打北川て。
大逆転劇やないですかw
80.100名前が無い程度の能力削除
吸血鬼姉妹の悪魔合体、コンゴトモヨロシク…。
ハンドヘルドコンピュータなんてどこで売ってt(紫色の方天戟
91.70名無し毛玉削除
ちょっとテンポが悪いかな…中盤以降にややダレた傾向あり、です。
内容は良かったと思いますが、YDSさんにしては珍しいです。