Coolier - 新生・東方創想話

セラギネラ 第二話

2007/02/06 09:00:16
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  過ぎゆく瞬き、また瞬き、だれのまばたき?

  ひろがる明るさはみな眠らない。

  この存在を脱却せず、いたるところにおまえを集め、立て

                    (光輝強迫 序詞 Lichtzwang/P・ツェラン)






          セラギネラ  2








 時計台を見上げればちょうど日付が変わるところだった。星明かりの中にその館、紅魔館
は聳え立つように見える。紅美鈴は未だ現れぬ来訪者の姿を空に求めたが、生憎といつ
までたっても影一つ見えなかった。ただただ星が綺麗な夜だった。

「どう?まだ来ない?」音も無く隣に現れた十六夜咲夜に、美鈴は首を振った。
「こっちは後は家具や調度品を運び込めば終わりなんだけど・・・。ひょっとして道に迷った
のかしらねえ」メイド長は門番の方を向き、ちょっとその辺探してきてくれない、と言った。
彼女は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「えぇー、私まだ夕食も食べてないんですよ。誰か他の人をやってくださいよ」
「私だってまだよ。うちの小ホールを大ホールにするのに結構時間がかかっちゃったし、今
からお嬢様方とあの連中の為の料理を用意しなきゃいけないの。予定時刻に遅れたら
お嬢様に失礼でしょ」ここは他の子にやらせておくからお願いね、と言うと、咲夜は来た時
と同じく音も無く姿を消した。美鈴ははあ、とため息をついた。


 騒霊の音楽家プリズムリバー姉妹を館に招いて演奏会を催したい、と紅魔館の主レミリア
・スカーレットが言い出したのがほんの数日前のことである。言い出したらきかない彼女の
ために咲夜がプリズムリバー家の屋敷を訪れて頼んだところ、予想に反してあっさり承諾
されたのだという。まだ紅魔館で演奏した事が無いから、というのがその理由だったそうだ。


 まもなく現れた交代の門番に後を任せ、美鈴は夜空へと飛び上がった。精神を集中して
感覚を研ぎ澄ますと、大分遠く霧の湖の端の方で3つで一塊になった不自然な気の流れを
見つけた。
「あんなところか」あまり気乗りのしない口調でそう言うと、彼女はしかし行かないわけにも
いかず渋々そちらに向かった。


「・・・ここはどの辺なのかしら」
「いつまでたっても紅魔館に着かないじゃない。二人ともしっかりしてよ」
「大丈夫大丈夫、その内辿りつくわよ。気楽に行きましょ」ルナサ、メルラン、リリカのプリズ
ムリバー姉妹は霧の立ちこめる湖の上空で自分達の位置が分からなくなっていた。
 行けども行けども濃い霧が続いているこの湖はあまり近付く者も居ない。彼女達はこの辺
の地理に疎いわけでもなかったしこの湖の危なっかしさも知っていたが、まあ魔が差したの
だとしか言いようが無い。
「折角の珍しいお招きなのに、ルナサ姉さんもリリカも元気が不足してるわ」おもに彼女に。
「メルラン姉さんが「たまには湖を横切って飛んでみましょう」なんて言うからこんな目に遭って
るんじゃない!少しは反省してよ、もう」
「お前も私も同意したんだから同罪・・・」リリカの指摘にルナサが冷静な突っ込みを入れた。

 不意にはるか遠くの方で何かが光ったかと思うと、姉妹の近くを一本のクナイ型の気弾が
虹色に輝く光の尾を曳きながら飛んでいった。
「おや、お出迎えだ」いち早く気付いたルナサは片手を頭上にかざすと、空気を震わせる
音弾を上空目がけて放った。ぶぅん、という低く通る音が辺りに撒き散らされる。ややあって
緑の民族衣装に身を包んだ赤毛の背の高いのが飛んできた。

「プリズムリバー様ご一行とお見受けしました。私は紅魔館からの使いの者です」美鈴は
ぺこりとお辞儀した。
「お出迎えありがとう。道に迷って難儀してたところよ」姉妹を代表してまずルナサが挨拶
し、メルランとリリカもそれに続いた。
「早速ですがいそぎ館へとご案内いたします。お嬢様がお待ちです」美鈴の先導で彼女達
はようやく館への移動を再開した。無難に湖の縁に沿って飛ぶだけの事だったがその方が
色々と厄介事に巻き込まれる可能性が減るのである。


 館の正門前には既にメイド達が列を作って待っていた。
「ようこそ紅魔館へ。皆様方のお越しを私ども一同心よりお待ち申し上げておりました」咲夜
が姉妹に深々とお辞儀した。居並ぶメイド達も一斉に頭を垂れる。
「どうぞ中へ。レミリアお嬢様もフランドールお嬢様もお待ちかねです」メイドの先導で姉妹
が館へと入っていくのを見届け、美鈴は肩の荷が降りたと言わんばかりにそそくさと門番の
配置に戻った。
「ご苦労様、ちょうど良いタイミングだったわ。食事は後で届けるわね」
「あの連中霧の湖の端っこ辺りで迷ってましたよ。チルノあたりが嗅ぎつけてこなきゃいいん
ですけどねえ」ねぎらいの言葉をかける咲夜に美鈴は懸念を漏らした。
「今日みたいな日は絶対に通しちゃ駄目よ。あんなのが来たら十中八九演奏会が台無しに
なるわ」
「でしょうねえ。ま、あれぐらいは多分何とかなるでしょう」肩をすくめて自信があるのか無い
のかよく分からない言い方をする門番を見て、メイド長は頼りないわね、とため息をついた。


「よく来てくれたわね。歓迎するわ」
「お言葉痛み入ります」謁見の間に通されたプリズムリバー姉妹にレミリアが声をかけると、
ここでも姉妹を代表して長女のルナサが返答した。
 プリズムリバー家も一応貴族の家柄だが、彼女達にそういう気概はあまり無い。騒霊は
あくまで騒霊である。いかにも貴族然としたレミリアと相対すると物腰は低かった。もちろん
レミリアにしてみれば自分に接する全ての者がとるべき当然の態度だったが。
「早速ですが少々音合わせの時間を頂きたく思います。本日の曲目を用意しましたので
しばらくそちらに目を通してお待ち頂けますか」
「ええ、そうさせてもらうわ。・・・咲夜、彼女達をホールへお連れして」
「かしこまりました。さ、こちらでございます」例によって例の如く音も無く現れたメイド長を
横目に、紅魔館の主はプログラムに目を通してわくわくとした表情になった。


 紅魔館には演奏会ができるような大ホールがなかった。咲夜は館内の空間をいじって小ホール
(元々は朗読のためのスペースだったが誰も朗読なぞしないので物置代わりに使われていた)を
大ホールへと改装してこれに充てることにしたのである。
 もっとも改装したところで実際に演奏を鑑賞できるのは館の住人の中でも限られた者だけである。
ただただ音響を良くしたいとか見栄を張りたいとかそういう理由なのだった。そのためホールは広
くてもそこに運び込まれる家具や調度品は少なくて済む有様である。

 ともあれ、大ホールに運び込まれた革張りのソファには当主のレミリア、その妹フランドール・
スカーレット、それにレミリアの友人パチュリー・ノーレッジが腰を下ろして開演を待っていた。
「レミィのわがままにしてはまあ大人しい方かしらね」車輪のついた移動式の書架を持ち込んで、
既にソファの肘掛けに数冊の本を積み上げているパチュリーがそう皮肉を言った。
「あら失礼ね。お貴族様には色々と虚飾が必要なのよ。魔女にはこの苦労は分からないかしら?」
にっこりと微笑んでレミリアはやり返した。是非もないというように肩をすくめる七曜の魔女を
見て、悪魔の妹も真似をして肩をすくめた。
「長らくお待たせいたしました。開演の時刻です」
「老いも若きも少女にも淑女にも、今夜も最高にゴキゲンな時間をプレゼントするわ!」
「一曲目は発表間もない新曲『弓張り月に矢をつがえ』です。お楽しみください」ルナサ、メル
ラン、リリカの周囲に無数の楽器の幽霊が現れ、演葬が始まった。


「始まったか」館内から漏れ出てくる騒音に気づき、美鈴はちら、と背後の館を振り返った。
 奏者が3人で聴き手も3人とはいかにも贅沢な話である。咲夜にしてもまだ厨房で料理の
仕上げに余念がない筈だし、せいぜい暇にしているメイドが壁越しにこっそり聴いている程
度だろう。

「ああ、そう言えばチルノが月琴の演奏をさせろとか言ってたなあ。何か代わりの物を適当に
用意しとかなきゃ」美鈴は館の庭にある作業小屋に置いてある楽器について思いをいたした。
 専属の楽師がいない紅魔館において、当主のレミリアを除けば美鈴だけが例外的に楽器
の演奏ができる。月琴や二胡のような大陸渡りの弦楽器が中心で腕前の方もほんの申し訳
程度なのでそうそう関心を示す者も居ないが、彼女はこれに適当にでっち上げた子供向けの
お話を合わせて弾き語りをすることで、チルノやルーミアといった連中を大人しくさせて館の
近くで悪さをされないようにしているのである。

 まさかチルノのような妖精から楽器の演奏がしたいなどという言葉が出てくるなどとは思い
もよらなかったが、それが心からの願いなのか単なる思いつきなのかは想像するだけ無駄で
ある。美鈴がしてやるのはせいぜい氷の妖精が自分で言ったことを覚えていた場合のため
に壊されても困らないガラクタを用意しておくくらいだった。

「・・・咲夜さん遅いなあ。食事まだかな」彼女の関心が演奏会や楽器から夕食に移ったその
時、折悪しく毎度お馴染みの気が館へと向かってきた。
「はあ、ついてないな。まだチルノの方が良かったよ」美鈴はため息を一つついてたっ、と地を
蹴ると空中に飛び上がり、そのままの勢いで本日二度目の夜間飛行に出かけた。

 待っていた人がいらっしゃいましたらお待たせいたしました。第二話を
お届けいたします。
 なにやらイベント的な事を行っているエピソードの様にも見えるかも
しれませんが、話が進むにつれて何のことはない前回と大差のない平凡な
日常の話になっていくものと思われます。
マムドルチァ
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コメント



0.680簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
ここで魔理沙かー…。美鈴、合掌。
10.無評価マムドルチァ削除
どうも、返事が遅れて申し訳ありません。

>ここで魔理沙かー…。美鈴、合掌。
ところが事態は驚きの方向に!!と言いたい所ですが、果たして誰か驚いて
くれる方はいらっしゃるのでしょうか。呆れていなければ良いのですが。
14.無評価kagely削除
何やら厄介ごとが起きそうだ…という感じがよく出ていると想います
美鈴の不安の描写が多いからでしょうかね?
第一話と比べるとこちらの方が「何が起きるんだろう」という気持ちを煽られる始まり方な気がします