何かの上に浮いて
何かの上に浮かされて
落ちることなくふわふわと。
目の前で降る雪が時間の経過を知らせる。
舞い落ちる粉雪はゆっくりと。牡丹の雪はせかせかと。
そんな雪を見ながら楽園の素敵な巫女、博麗霊夢はため息を吐く。
霊夢の座る縁側から見える境内。
目の前に広がる破壊されて散らばる無数の屑。
それは正月に、ここの境内で行われた宴の歴史。
正月からはもう一ヶ月以上経つ。
夏に行われた宴の歴史は一日経たずに霊夢によって消された。
しかし、この冬の宴の歴史は一ヶ月経っても消えていない。
ぐうたらではあるがきれい好きな霊夢にとってそれはとても珍しかった。
霊夢は縁側から動こうとしない。
せっかく淹れたお茶も今ではぬるくて苦くなっている。
もう飲むのが困難なお茶を霊夢は雪の上へこぼす。
白い雪が解けて穴を作った。
もう一度、急須に茶葉を入れてお湯を通した。そうしてまた、ため息を吐く。
霊夢は何でこうなってしまったのか、冷静に考えることにした。
あいつの顔が浮かび上がった。
この幻想郷の中の妖怪、人間、幽霊、半妖。全てが博麗神社へ集う。
誰かが企画を立てるわけでもなく、誰かが便りを出すわけでもなく。
いや、あの新聞記者なら有り得るかもしれない。
けれども、霊夢はこれ以上考えることをやめた。
考えると腹が立つし、嫌になるし、面倒くさいからである。
でも、思考を止めてもあいつの顔だけは脳裏に焼き付いて離れない。
宴の真ん中で杯を持ってへらへら笑うあいつ。
目を瞑るだけで微笑みかけるあいつが忘れられないのである。
「今何しているのかな。」
「また来ないかな。」
それだけが霊夢の頭の中に繰り返される。
上の空になりながら湯飲みに手を伸ばし口へ運ぶ。
霊夢は口にふくむなり、顔を歪ませ噎せた。
さっき淹れたお茶がまた飲めない位に苦くなってしまった。
またため息を吐いて湯飲みの中の苦いお茶を雪の上へ捨てる。
冬は黄昏が早い。日没が早い。
それに合わせて霊夢は床へはいる。
夜にもあいつの虚像は霊夢から離れない。
考えている内に眠くなって、あいつのいる夢へと入っていく。
冬はあけぼのが遅い。冬は日の出が遅い。
それに合わせて霊夢は床から出る。
そして冷たくて硬い縁側へ座りお茶を淹れて、ため息を吐く。
毎日がこれの繰り返しである。
そんな毎日に終止符が付こうとしていた。
ふと目を閉じるとあいつの声がする。霊夢は目を開けた。
でも、どこにもその姿はない。刹那の喜びのあとの永劫の虚しさ。
また目を瞑ってあいつを想う。また声がする。
どうせ空耳だ。霊夢はそう思いながら頭の中で流れるあいつの声に耳を澄ました。
「おい、霊夢大丈夫か?」
空耳が大きくなる。おかしいと思った霊夢は目を開ける。
そう、あいつだった。
目の前にはあいつの顔がこんなにも近く目に映っている。
ビックリした霊夢はあいつを突き飛ばした。
さっきまであいつの影になっていた太陽が霊夢の強烈に照らし、目をくらませた。
霊夢は少しずつ目を開けて光に慣らす。
晴れる視界の中であいつは雪の中に埋もれていた。
まもなく、その人間は体を起こす。
白い雪の上ではとても目立つ黒い帽子と服。それに掛かった白い雪のようなエプロン。
金髪のゆるい方編み。
そう、それが霊夢の思っていたあいつ。
「いてて、なんだってんだよ。いきなり人をつきとばしやがって。」
服に付いた雪を払いながらこっちを睨む。
「いきなりって、ビックリしたんだからしょうがないじゃないの。」
霊夢は取って付けたような言い訳をする。
無論、素直に会いたかったなんて言うのは性に合わない。
霊夢はここに来た目的を訊く。
「そういえば何しに来たのよ、魔理沙。来ただけならお賽銭位入れて行きなさいよ。」
魔理沙は呆れたような顔をして言葉を返す。
「お賽銭?いやぁ、霊夢が私に会いたいんじゃないかと思ってきたんだぜ?」
霊夢は息を止めた。まさか自分のためにここへ来たなんて思ってもいなかったからである。
「それにしてもあれだな。まだ片付いていないなんて、霊夢にしては珍しいじゃないか。」
「あんたのせいよ。」
「え?」
境内を見回していた魔理沙は、唐突な言葉に驚き霊夢の方へ目を向ける。
霊夢の目には大粒の涙が一つ、流れるか流れないかの境地で揺れていた。
「え・・・どうしたんだよ。今日の霊夢おかしいぜ?」
「おかしくもなるわ。魔理沙がずっと来なかったから、こんな風になったんじゃない。」
霊夢の頬を一筋の涙が伝う、霊夢が涙を流す所なんて一度も見たことがなかった。
魔理沙は慌てふためく。どうすればいいのか分からなかった。
「あ・・・いや・・・」
もうどうすればいいのか魔理沙にも分からない。
アリスを面白がって泣かすのは度々あったが、霊夢とアリスは違う。
寧ろ、清楚に見える霊夢の方が言い訳に困るのである。
沈黙が辺りを包む。吹き抜ける冷たい風が魔理沙の頬を刺す。
「ご・・・めんな・・・?」
魔理沙はしどろもどろに霊夢に話しかける。
なぜだろう、謝る方が恥ずかしい。自分でも顔が赤くなるのが分かった。
また沈黙が流れる。
「分かったよ!私が何か悪いことをしたんだろ?何だって言えよ。なんでもしてやるから!」
半分投げやりになった魔理沙は勢いで口にした。
しまった。言った後に後悔を覚える。悪知恵の働く霊夢のことだ。きっと悪いことが起きるに違いない。
そう思っていた魔理沙であったが霊夢の口からでた言葉に唖然とする。
「ずっとそばにいて欲しい。」
何を言っているのか魔理沙は理解できなかった。
一週間に一度は必ず神社に来ているし、神社に泊まったりもした。
それなのに一体どういう事だろう。思考が定まらないまま魔理沙は早口で話す。
「あー、分かった、アレだろ?今年もよろしくってことだよな?そういや宴会の時に言ってなかったけ。」
そうでなければ困る。この後に続ける台詞がないからである。
魔理沙はドキドキしながら霊夢の返答を待つ。寧ろ、待ちたくないと言った方が良いかもしれない。
霊夢の涙が止まった。そしてクスッと鼻で笑った。
「まったく。色気のない恋の魔法使いね。」
霊夢が顔を上げると笑顔があった。これもまた一度も見たことがない優しく笑う霊夢。
魔理沙の胸が高鳴っていく。破裂しそうな心臓を魔理沙は必死に抑えていた。
「あんたは気付いていないかも知れないけどさっきまで乗ってたその箒、私のものよ。
正月の宴で酔っていたのか知らないけど、箒を間違えるなんてらしくないわね。」
「え・・・?あ・・・。ほんとだ・・・。」
「私も掃除しようと思っていたんだけど人の箒で掃除なんてできないじゃないの。だからあんたを待っていたのよ。」
魔理沙は話をすることも忘れ、霊夢の優しい笑顔にただただ釘付けになる。
「じゃあ魔理沙。間違えた罰として一緒に境内を掃除しましょう。」
霊夢は立ち上がるなり硬直した魔理沙の右脇に抱えられた竹箒を両手に携え、
境内の宴の歴史へと向かっていった。
「なんだよ、待っていたのは私じゃなくて箒か・・・。」
魔理沙は単純で、霊夢は悪知恵が働く。
霊夢は魔理沙には分からない、「好きだ」の気持ちを伝えたようである。
「ほら魔理沙、サボると許さないわよ。」
「あーあー。今行くよ。」
硬直の解けた魔理沙は縁側の柱に立て掛かる自分の箒を手にとって霊夢のほうへ走っていく。
晴れた冬空の下で吹く冷たい風が、いたずらに魔理沙の頬を撫でた。
何かの上に浮かされて
落ちることなくふわふわと。
目の前で降る雪が時間の経過を知らせる。
舞い落ちる粉雪はゆっくりと。牡丹の雪はせかせかと。
そんな雪を見ながら楽園の素敵な巫女、博麗霊夢はため息を吐く。
霊夢の座る縁側から見える境内。
目の前に広がる破壊されて散らばる無数の屑。
それは正月に、ここの境内で行われた宴の歴史。
正月からはもう一ヶ月以上経つ。
夏に行われた宴の歴史は一日経たずに霊夢によって消された。
しかし、この冬の宴の歴史は一ヶ月経っても消えていない。
ぐうたらではあるがきれい好きな霊夢にとってそれはとても珍しかった。
霊夢は縁側から動こうとしない。
せっかく淹れたお茶も今ではぬるくて苦くなっている。
もう飲むのが困難なお茶を霊夢は雪の上へこぼす。
白い雪が解けて穴を作った。
もう一度、急須に茶葉を入れてお湯を通した。そうしてまた、ため息を吐く。
霊夢は何でこうなってしまったのか、冷静に考えることにした。
あいつの顔が浮かび上がった。
この幻想郷の中の妖怪、人間、幽霊、半妖。全てが博麗神社へ集う。
誰かが企画を立てるわけでもなく、誰かが便りを出すわけでもなく。
いや、あの新聞記者なら有り得るかもしれない。
けれども、霊夢はこれ以上考えることをやめた。
考えると腹が立つし、嫌になるし、面倒くさいからである。
でも、思考を止めてもあいつの顔だけは脳裏に焼き付いて離れない。
宴の真ん中で杯を持ってへらへら笑うあいつ。
目を瞑るだけで微笑みかけるあいつが忘れられないのである。
「今何しているのかな。」
「また来ないかな。」
それだけが霊夢の頭の中に繰り返される。
上の空になりながら湯飲みに手を伸ばし口へ運ぶ。
霊夢は口にふくむなり、顔を歪ませ噎せた。
さっき淹れたお茶がまた飲めない位に苦くなってしまった。
またため息を吐いて湯飲みの中の苦いお茶を雪の上へ捨てる。
冬は黄昏が早い。日没が早い。
それに合わせて霊夢は床へはいる。
夜にもあいつの虚像は霊夢から離れない。
考えている内に眠くなって、あいつのいる夢へと入っていく。
冬はあけぼのが遅い。冬は日の出が遅い。
それに合わせて霊夢は床から出る。
そして冷たくて硬い縁側へ座りお茶を淹れて、ため息を吐く。
毎日がこれの繰り返しである。
そんな毎日に終止符が付こうとしていた。
ふと目を閉じるとあいつの声がする。霊夢は目を開けた。
でも、どこにもその姿はない。刹那の喜びのあとの永劫の虚しさ。
また目を瞑ってあいつを想う。また声がする。
どうせ空耳だ。霊夢はそう思いながら頭の中で流れるあいつの声に耳を澄ました。
「おい、霊夢大丈夫か?」
空耳が大きくなる。おかしいと思った霊夢は目を開ける。
そう、あいつだった。
目の前にはあいつの顔がこんなにも近く目に映っている。
ビックリした霊夢はあいつを突き飛ばした。
さっきまであいつの影になっていた太陽が霊夢の強烈に照らし、目をくらませた。
霊夢は少しずつ目を開けて光に慣らす。
晴れる視界の中であいつは雪の中に埋もれていた。
まもなく、その人間は体を起こす。
白い雪の上ではとても目立つ黒い帽子と服。それに掛かった白い雪のようなエプロン。
金髪のゆるい方編み。
そう、それが霊夢の思っていたあいつ。
「いてて、なんだってんだよ。いきなり人をつきとばしやがって。」
服に付いた雪を払いながらこっちを睨む。
「いきなりって、ビックリしたんだからしょうがないじゃないの。」
霊夢は取って付けたような言い訳をする。
無論、素直に会いたかったなんて言うのは性に合わない。
霊夢はここに来た目的を訊く。
「そういえば何しに来たのよ、魔理沙。来ただけならお賽銭位入れて行きなさいよ。」
魔理沙は呆れたような顔をして言葉を返す。
「お賽銭?いやぁ、霊夢が私に会いたいんじゃないかと思ってきたんだぜ?」
霊夢は息を止めた。まさか自分のためにここへ来たなんて思ってもいなかったからである。
「それにしてもあれだな。まだ片付いていないなんて、霊夢にしては珍しいじゃないか。」
「あんたのせいよ。」
「え?」
境内を見回していた魔理沙は、唐突な言葉に驚き霊夢の方へ目を向ける。
霊夢の目には大粒の涙が一つ、流れるか流れないかの境地で揺れていた。
「え・・・どうしたんだよ。今日の霊夢おかしいぜ?」
「おかしくもなるわ。魔理沙がずっと来なかったから、こんな風になったんじゃない。」
霊夢の頬を一筋の涙が伝う、霊夢が涙を流す所なんて一度も見たことがなかった。
魔理沙は慌てふためく。どうすればいいのか分からなかった。
「あ・・・いや・・・」
もうどうすればいいのか魔理沙にも分からない。
アリスを面白がって泣かすのは度々あったが、霊夢とアリスは違う。
寧ろ、清楚に見える霊夢の方が言い訳に困るのである。
沈黙が辺りを包む。吹き抜ける冷たい風が魔理沙の頬を刺す。
「ご・・・めんな・・・?」
魔理沙はしどろもどろに霊夢に話しかける。
なぜだろう、謝る方が恥ずかしい。自分でも顔が赤くなるのが分かった。
また沈黙が流れる。
「分かったよ!私が何か悪いことをしたんだろ?何だって言えよ。なんでもしてやるから!」
半分投げやりになった魔理沙は勢いで口にした。
しまった。言った後に後悔を覚える。悪知恵の働く霊夢のことだ。きっと悪いことが起きるに違いない。
そう思っていた魔理沙であったが霊夢の口からでた言葉に唖然とする。
「ずっとそばにいて欲しい。」
何を言っているのか魔理沙は理解できなかった。
一週間に一度は必ず神社に来ているし、神社に泊まったりもした。
それなのに一体どういう事だろう。思考が定まらないまま魔理沙は早口で話す。
「あー、分かった、アレだろ?今年もよろしくってことだよな?そういや宴会の時に言ってなかったけ。」
そうでなければ困る。この後に続ける台詞がないからである。
魔理沙はドキドキしながら霊夢の返答を待つ。寧ろ、待ちたくないと言った方が良いかもしれない。
霊夢の涙が止まった。そしてクスッと鼻で笑った。
「まったく。色気のない恋の魔法使いね。」
霊夢が顔を上げると笑顔があった。これもまた一度も見たことがない優しく笑う霊夢。
魔理沙の胸が高鳴っていく。破裂しそうな心臓を魔理沙は必死に抑えていた。
「あんたは気付いていないかも知れないけどさっきまで乗ってたその箒、私のものよ。
正月の宴で酔っていたのか知らないけど、箒を間違えるなんてらしくないわね。」
「え・・・?あ・・・。ほんとだ・・・。」
「私も掃除しようと思っていたんだけど人の箒で掃除なんてできないじゃないの。だからあんたを待っていたのよ。」
魔理沙は話をすることも忘れ、霊夢の優しい笑顔にただただ釘付けになる。
「じゃあ魔理沙。間違えた罰として一緒に境内を掃除しましょう。」
霊夢は立ち上がるなり硬直した魔理沙の右脇に抱えられた竹箒を両手に携え、
境内の宴の歴史へと向かっていった。
「なんだよ、待っていたのは私じゃなくて箒か・・・。」
魔理沙は単純で、霊夢は悪知恵が働く。
霊夢は魔理沙には分からない、「好きだ」の気持ちを伝えたようである。
「ほら魔理沙、サボると許さないわよ。」
「あーあー。今行くよ。」
硬直の解けた魔理沙は縁側の柱に立て掛かる自分の箒を手にとって霊夢のほうへ走っていく。
晴れた冬空の下で吹く冷たい風が、いたずらに魔理沙の頬を撫でた。
アリスだって清楚だよ!!
箒に騙される魔理沙萌え
その点以外はえらく和みました´ω`
東方を深くかじってみると最初にグッと来たのが「霊夢×魔理沙」でした。
沢山のSS作家さんの霊夢×魔理沙を見、憧れて今に至ったわけです。
やはりまだ読者の方々に違和感を感じさせてしまうところもあるようなので
滑らかに読める創想話を書ければいいな、と思っております。
それでは、また何時か皆様にお会いできる日に
魔理沙はやっぱり鈍感なのか