Coolier - 新生・東方創想話

怠け死神の節句働き

2007/01/17 08:39:53
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 あらすじ:

ショパン 《前奏曲》作品28 第7番



♪♪♪♪♪



映姫「い~いお薬です。……胃潰瘍にも効きますか?」

永琳「月の科学は世界一ですから」



                       ――お求めは、イナバ薬局まで




ピアノ: リリカ・プリズムリバー










 ――無縁塚――

「おっしゃー! 今日もいい天気だねー!」

 無縁塚で元気良く曇天に吼えているのは、サボタージュの泰斗・小野塚 小町だった。
いつもなら、風が吹いたら遅刻して、雨が降ったら仕事をお休み(して上司にお仕置きされる)が
お約束の彼女が、今朝は違った。



 そもそも、仕事場に到着した時間がおかしい。普段なら、まだ布団から出てすらいない位に早朝だ。

次に、姿勢がおかしい。いつも以上に胸元が強調されているように感じるのは、背筋の伸びがいいからだ。

更に、行動がおかしい。手入れなんてした事の無い仕事用の舟を、ワックス艶が出るまで磨いたのだ。

挙句に、言動がおかしい。



「今日も、頑張って働くぞーっ!」



「Hataraku」とは、どんなサボり方なのか。彼女を知る者なら、思考が一瞬停止し、言葉の意味を考えてしまうだろう。

「まずは、映姫様に始業の挨拶に行くかね」

とん、と軽やかに舟に乗り込み、漕ぐ手も軽やかに、小町は上司のいる川の向こう岸に舟を漕ぎ出した。





 その頃――。
件の閻魔様は、登庁する時間を過ぎているのに、自室でくつろいでいた。

 今日は、年に2回の休養日。俗に言う「閻魔賽日」である。
仕事中毒な彼女が、唯一職場に出向かずに、体を休める公休日なのだ。

「さて、今日は何をしましょうかね……」

 せっかくの休養日なのだから、ゆっくり朝寝を楽しもうかとも思ったのだが、長年の習慣と気性で
そうそう寝てもいられず、結局はいつも通りの時間に目覚めてしまった。
いや、日曜日に早起きをしてしまう子供と同じで、今日を楽しみにしていて、ちょっぴり早く起きてしまったのだ。

「小町を誘ってどこかに――いえ、休みにまで上司につき合わせるのも可哀想ですね」

休日の過ごし方は、考えるだけで楽しい。しかし、そんな思いは、ノックの音で中断された。





トントン





「……? はい。どなたですか?」
『映姫様ー、あたいです。小町です』
「小町?ちょっと待って下さい」

思わぬ部下の来訪に、閻魔様は驚きながらもドアを開けた。





ギッ





「映姫様、おはようございます」
「お早う、小町。一体、どうしたというのですか?」

 突然の訪問に、四季は戸惑いながら問うた。

「いや、時間になっても四季様が執務室においでにならなかったんで、具合が悪いのかなーって思いまして」
「? 具合は悪くないですよ」



 今日も元気だ、胃壁が溶解。でも、いいんです。諦めているから。




「じゃあ、なんで登庁されないんですか?」
「……わかった。小町、貴女は今日が何の日か知らないでしょう」
「へ? なんかあるんですか?」

 肩をすくめてため息をつく四季を、小町は不思議そうに見やった。
相変わらず、小町はやる気に溢れ、目が生き生きと輝いていた。

「今日は、『閻魔賽日』ですよ」
「……あーっ!?」
「不真面目な勤務態度の貴女は、ある意味で年中の事でしょうが」
「いやいや、そこまであたいはひどくないですよ」
「まったく、しかし――」

 ため息を抑えて小町を見上げた映姫は、部下の「仕事がんばりますオーラ」に、違和感を覚えた。

「なんで今日に限って、そんなに熱心に仕事をしようというのです?」

その問いに、死神は首をかしげて答えた。

「なんででしょうねぇ。今朝は、物凄くやる気と熱意があるんですよ。働きたくって働きたくって……。
 あたいも、不思議だなぁーって思うんですが」

言って、からからと笑う小町に、映姫は優しく声をかけた。

「小町、貴女みたいな人を形容する言葉を知っていますか?」
「へ?」










「『怠け者の節句働き』というのです」








「えーっ!?」
「えーっじゃありません! そう言いたいのは私の方です! なんで、諺を貴女は実践するんですかっ!」

物騒な光がきらめく目で、映姫は小町を睨んだ。

「小町、年に2回の私の休みに、何のあてつけですか?」
「え、映姫様。あたいは別に悪気があったわけじゃ……」

しどろもどろで、小町は一歩引く。四季は一歩前へ出る。

「まさか、今日と7月16日にしか働かない気じゃないでしょうね」
「四季様に嘘は通じないんで、返事を拒否していいですか?」
「……私に、『嘘も方便』という説教をさせる気ですか」

さらに、小町は一歩引く。映姫は一歩前へ出る。

「明日から、その熱意で仕事に励みなさい」
「んー……明日は、その……きっと、朝から起きられない予感が……あっ――」

壁に背が着き、逃げ場が無くなった。それでも、映姫は一歩前へ出た。
逃げ場は、無い。

「お仕 置 き で す ね」
「アッ――」











 その日、罰として執務室を磨き上げるように命じられた死神と、見かねて手伝う閻魔の姿が見られ――
る事は無く、「おしおき」として映姫と遊びに行くよう言われ、嬉々として映姫と連れ立って飛ぶ、
死神の姿が見られたそうな。





















 ――翌朝――

「くー……すー……」

 始業時刻になっても現れなかった部下を見に来た閻魔様は、渾身の力で勺を振るい、その寝顔に叩き込んだのだった。


 プチを飛び出し、創想話の方にコンニチハ。こちらには初見参のPAL-BLAC[k]でゴザイマス。

 なんでも、本日1月16日は「閻魔賽日」なる日だそうで。地獄の釜も、1月と7月の16日には
お休みなんだそうです。

 あとわずか20数分で日付が変わりますが、こんな彼岸はいかがでしょうか(笑)。


1/20: ご指摘頂いた、不明瞭な言い回しを修正しました~。
PAL-BLAC[k]
http://www.smat.ne.jp/~pal
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コメント



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3.40雨虎削除
一つ勉強になりました。
>渾身で勺を
“渾身の力を込めた勺を”の方が表現的に合ってるかと。
失礼ながら、ふと違和感を感じたので指摘させていただきます。
20.90名前が無い程度の能力削除
お父さん!あたし知ってる!この映姫って人、ツンデレっていうやつでしょう!?
映姫さまラヴyyyyyyyy
21.無評価PAL-BLAC[k]削除
PAL-BLAC[k]でゴザイマス。お読み頂きありがとうゴザイマス(深々)。

 >雨虎さん
ご指摘、ありがとうございました。参考にさせて頂きました。
お盆には地獄の釜が開くっていうのは有名ですが、1月にも休みがあったそうです(笑)。

 >名無しさん
映姫様と咲夜さんのツンデレ&小町と中国のだらしなさは黄金律ですわw