Coolier - 新生・東方創想話

最強兵器(前編)

2007/01/15 09:38:26
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 コタツ。冬に絶大な魔力を有するその物体。
八雲藍もまたその魔力に捕まっていた。
「ふへぇ~。」
天板にはミカンの山とおいしいお茶。
藍はコタツの天板に頬をスリスリした。至極の一時だ。
「藍様~。コタツって良いですね。」
コタツに首までどっぷりうつ伏せで埋まっている橙が
少し紅潮した顔で幸せそうな笑顔を浮かべる。
「うん、本当に幸せだな橙。」
「そういえばそろそろ夜ご飯の準備しなくても良いのですかぁ?」
藍はミカンを剥くと、丁寧に白いスジを取り除き、
ひょいっと器用に一房口の中に放り込んだ。
咀嚼した瞬間に口の中に広がる甘酸っぱい果汁。
コタツと火鉢で温まってはいるがまだまだ寒い室内の冷気で
絶妙な温度になっているミカンの極上の味わいだ。
藍は幸せそうな表情で両手を頬に当て、声を押し殺して悶えた。
「うぅううふぅうううう。おいしい~。夜ご飯はこれで十分でしょ。」
それもそのはず、藍はこの2時間でミカンを20個ほど食べている。
空腹など憶えているはずが無い。
「そーですね~ミカンおいしいですしねぇ~。」
橙も寝転んだまま皮を剥いたミカンを丸ごと口の中に押し込む。
「うにゅ~~~~甘くておいちぃ~。」
「ほらほら、寝転んだまま食べたらお行儀悪いぞ。」
「えへへごめんなさぁ~い。」
藍がにこにこ笑って橙に注意する。橙はもぞもぞとコタツから這い出すと、
藍の対面に座り、ミカンの山からミカンを一個手に取った。
「あったかいですね~」
「あったかいな~」
二人は幸せの絶頂を体感していた。

 白玉楼にもコタツは実装されている。
妖夢はコタツに座ったまま力なく天板に顔をべったりと付けていた。
その姿は普段の仕事を淡々とこなす姿ではなく、
完全にコタツの魔力に呑まれ、堕落し尽くした姿だ。
「ふぅ~~~~。」
ミカンを食べ過ぎた。ここ10日ほどミカンしか食べていない。
そういえばコタツに入ってからずっとこうしている気がする。
このままじゃだめだ。ここから出なければ…
そして幽々子様にご飯を作って差し上げて、
その後庭の掃除もしなければならないじゃないか。
妖夢はコタツから脱出しようと体を動かす。
すると布団と体の間から冷気が入り込み、彼女の温まった太ももを
ひやりと撫でた。
「ひぃ!寒い…うぅ~。もうちょっと…」
ごそごそ
そう言って妖夢はまたコタツの天板に顔を乗せた。
そして手探りでミカンを探し当て、もぞもぞと皮を剥き、
もそもそと俯いたままミカンを食べ始めた。

紅魔館の畔、チルノの意識は完全に混濁していた。
「あったかいねーチルノちゃん。」
大妖精はコタツに入ってニコニコ。対してチルノはグワングワンと頭を揺らしながら
意識を必死に繋いでいる。
その体は縄でぐるぐる巻きにされ、コタツに無理やり押し込まれていた。
「おねがい…出して…。」
チルノの搾り出すような懇願を、大妖精はにっこり笑って一刀両断した。
「だーめ。今日はチルノちゃんに暖かさの魔力を教えてあげるの。」
「私は…氷の妖精だから…寒い方が…。」
息も絶え絶えなチルノがかすれた声で必死に訴えた。しかし大妖精は首を横に振る。
「だめです!今日こそレティとかいう悪女の魔の手からチルノちゃんを救うのです!」
ちなみに大妖精は本気でチルノのことを心配して、全力で必死に真面目にやっている。
そんな余計なお世話な行為に対してチルノは心の中でこう思った。
『悪女はアンタだ!』
ガクッ
チルノの意識が無くなった。それを見て大妖精はにっこり笑った。
「ほら~あったかいと眠くなったでしょ?気持ちいいよね~コタツでウトウト~。」
そう言って大妖精はコタツから出ると、布団を取り出しチルノが冷えないようにその体にかける。
そして満足そうに微笑むと自分もコタツに入り、ミカンをひとつカゴから取り出して皮を剥いた。
「ん~おいしぃ。チルノちゃんが起きたら食べさせてあげよっと。」
はたしてチルノは目覚める事が出来るのだろうか。それは誰にもわからない。

 数日後、博麗神社。
霊夢は朝目覚めると、火鉢に火を入れ、景気良く雨戸を開けた。
「今日も晴れてるわはーーーー!」
がらっ!
そして飛び込んできたのは真っ青な青空、さんさんと輝く太陽、
スキマから半分はみだした死にかけの妖怪、縁側で行き倒れている幽霊、
そしてすすり泣く黒幕。
「何よあんた達。」
朝っぱらから景気の悪い来客だ。霊夢は頭痛を堪える様に頭を押さえて質問をした。
「藍と橙が…コタツでミカンに捕まってしまったの!一瞬だったわ…
一瞬で二人はヤツの魔力に侵食されていったの…。」
死んだ魚の目をした紫が力無く霊夢に手を差し伸べながら訴える。
「恐ろしい…あれは魔人よ…。私の妖夢も捕まってしまったわ。
抵抗も空しく妖夢はアイツのなすがまま…。」
立ち上がって真っ青な顔で自分の肩を抱く幽々子がガタガタ震えながら訴える。
「うぇ~んチルノちゃんが死んじゃうよぅ~」
子供のように涙を流して泣きじゃくるレティ。
霊夢はその報告を聞いてただ事では無い雰囲気を感じた。
レティは置いといて、むざむざと部下を奪われ、
ここまで衰弱した幽々子と紫を霊夢は見たことが無かった。
古龍泥未完(こたつでいみかん)、紫の言葉から漢字を予想したその妖怪、
その相手はかなり強力な妖怪と霊夢は予想した。
事態の重さを感じた霊夢は表情を引き締めると、自分の貧相な胸を叩いた。
「あんた達がここまで追い詰められるなんて…余程ね…。
安心して!博麗霊夢の名にかけて…この異変は必ず解決してあげるわ!」
ピカーーーーー
勇ましくそう宣言した霊夢の後ろから後光が差しているかのように三人は感じた。
「ありがとう霊夢!そうだ!取って置きのお酒をお納めさせて頂くわ!
これは『蓬莱姫の涙』と言ってコイン23枚もする銘酒よ。」
銘酒を差し出した紫が両手を祈るように組み、涙を流しながら頭を何度も下げた。
「霊夢。少ないけどこれを差し上げるわ!お願いだから…後生だから私達を助けて!」
幽々子は懐からコインが100枚は入った袋を霊夢に差し出した。
その表情は追い詰められ、衰弱しきっていた。
レティは泣きながら霊夢に頭を下げ続ける。
「お願い霊夢!チルノちゃんを…チルノちゃんを助けて!」
霊夢は大きく深呼吸をすると武者震いをした。そしてレティの両肩をしっかりと掴むと、
自信に満ち溢れた声でこう言った。
「大丈夫!私に任せて…そうだ…!」
霊夢は後ろを振り向いてコタツを指差して言った。
「今日は寒いわ!私が帰るまであそこで温まっていて!あ…レティは縁側の方がいいかしら?」
3人は霊夢の指す方向に視線を移すと、真っ青になってガタガタと震え始めた。
「ああああああああ、」
「うわああああああああああ!!!」
「ひぃいいいいいいい」
ブッ
三人が同時に気絶をした惨状に出くわした霊夢は、恐怖に震えた。
敵の攻撃はついに紫と幽々子、そしてレティまでを倒した。
私に倒せるのだろうか…。一人だけでは嫌だ。私だけでは無理だ。
頼るべきは友だ。
霊夢は気絶した三人を神社の中に入れて寝かせると、紫と幽々子は暖かくし、
レティは寒くしてその場をあとにした。

魔法の森、霧雨魔理沙邸
暖炉の炎が燃え盛り、部屋は暖かだった。
テーブルを囲み、魔理沙とアリス、そしてパチュリーが午後の紅茶を楽しんでいた。
「いやはやコタツもいいんだが、こうやって暖炉で暖めるのも良い物だろ?」
「そうね、でも、まさか私の家の暖炉が壊れちゃなんてねぇ…。」
アリスはそう言って魔理沙に擦り寄る。パチュリーは右手を小さく上げると
小さな声で訴えた。
「先生、昨日自分で暖炉破壊するアリスを咲夜が見たって言っていたわ。」
アリスはパチュリーを睨みつけると
真っ赤になって聞かれてもいないのに言い訳を始めた。
「べ…別に魔理沙の家にお泊りしたくて暖炉を壊したりしてないわよ!」
パチュリーは本で口を隠すと、無表情で一歩イスをアリスから遠ざけた。
「ストーカーは怖いわね。」
「そ…そういうアンタはどうなのよ?ヴアル図書館には暖炉があるでしょ?」
アリスがローズヒップティーをティーサーバーから注ぎながら言った。
動揺しているらしくカップがカタカタ震えている。
パチュリーは相変わらずの無表情で本を読みながら、しらっと答えた。
「ご生憎様、こちらは本当の故障よ。」
「じゃ…じゃあレミリアと一緒に館で…。」
パタン
パチュリーが本を閉じ、じろ~っとアリスを見て、眉を潜めて言った。
「貴方は美鈴と咲夜がいちゃつく現場を私に見ろと?幼女姉妹がいちゃいちゃする現場を一人で見ろと?」
「うっ…。」
アリスはぐうの音も出ない。ここで救いの手登場。魔理沙がにっこり笑ってパチュリーの頭を撫でた。
「おいおい、あんまりアリスを苛めてやるなよ。」
なでなで
魔理沙に頭を撫でられパチュリーは真っ赤になって俯くと、
「むきゅ~~~~」
と呟くしかなくなった。魔理沙は今度はアリスの頭をナデナデ。
「アリスも馬鹿だな。私は何時でもウェルカムだぜ?」
魔理沙の笑顔がアリスとパチュリーの乙女心をドロドロに溶かした。
さてこんな砂糖菓子を濃縮したような甘い空間を切り裂くように
切迫したノックの音が響いた。
「ん?」
クッキーを咥えたまま扉を開けた魔理沙の目の前に、緊張した面持ちの霊夢が立っていた。
「魔理沙、緊急事態よ…。八雲家及び白玉楼全滅…チルノとレティも倒れたわ。」
「なんだと…。」
カチャン
魔理沙の口からこぼれたクッキーが地面に落ちて乾いた音を立てて割れた。
「敵の名前は…えっと…。」
霊夢は全力でここまで飛んできたため記憶が混濁していた。
思い出せ。霊夢は頭を押さえて必死に記憶の欠片をかき集めた。
「敵の名はゴダツデミガンという妖怪よ!」
霊夢の真剣な表情に、魔理沙の顔も引き締まる。
彼女は後ろに下がり、霊夢を家の中に導いた。
「とりあえず詳しい話は中で頼むぜ…。」
魔理沙の背中を冷たい汗が流れた。
霊夢が本気だ、これはただ事ではない。
彼女の体中からあふれ出す真剣さが魔理沙を恐怖させた。
中に入った霊夢はアリスとパチュリーにも紫と幽々子の敗北を知らせた。
霧雨魔理沙邸はこの瞬間、幻想郷異変対策本部となった。

 数時間後、小悪魔の報告を聞いたパチュリーが真っ青な顔で言った。
「どの書物にもその妖怪の名は刻まれていなかったわ…。」
「どういうこと?」
霊夢の質問にパチュリーは震えながら答える。
ゆっくりと、自分で考えを整理するかのように。
「紫を倒せるほどの妖怪が最近生まれたとは考えられないわ。
ということは私の所有する書物よりさらに昔に生まれた妖怪、
もしかしたら妹紅すら生まれていない時代かも…。」
カップを持ったアリスの手が震える。そして怯え切った声で
ガタガタと震え始めた。
「無理よ…そんな妖怪…私達だけじゃ倒せないわ!」
「でも倒さなければならないわ…。」
霊夢が目を閉じたまま懐に手を差し込み札を数え始めた。
魔理沙はミニ八卦炉を弄り始める。出力は勿論最大だ。
パチュリーも複雑な魔方陣の研究を始めた。
皆戦うつもりだ。大事な友達を守るために、幻想郷を守るために。
アリスは涙を拭いた。震える体を沈めると人形達に声をかけた。
「上海…蓬莱…みんな…。もしかしたら…負けちゃうかもしれないけど…
私に力を貸して!」
「シャンハーイ!」
「ホラーイ!」
人形達が勇ましく可愛い手を上げる。アリスは人形達を抱きしめると
頷きながら涙を堪えた。泣いちゃだめだ。泣くのは勝ってからだ。
「ありがとう…みんなありがとう!」
「アリス…。私達も居るわ…。絶対大丈夫。」
霊夢が自分にも言い聞かせるようにそういった。
「アリス…大丈夫。私がついてるぜ。」
魔理沙がにっこりと微笑みかける。
「アリス…一時休戦ね。絶対に生き残って…。貴方に死なれて
魔理沙が私の物になっても意味は無いわ。」
パチュリーが本から視線をはずし、アリスをしっかりと見た。
「うん!」
アリスは身体の底から力が沸いてくるのを感じた。もう怖くない。
彼女の心から恐怖が完全に消え去った。
迫る戦いの時。4人の少女達の心は一つとなった。

『前編終了』



コタツが恋しい季節となってまいりました。

えーとコタツネタで一筆書いてみました。
真冬におけるコタツの魔力。
ほんとうにくだらないすれ違いから巻き起こった大騒動。
霊夢達はこの異変を解決できるのか。

というわけで後編に続くと思います。
感想や指摘などがあれば良ければコメントをよろしくお願いします。
腐姫
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コメント



0.1770簡易評価
10.80名前が無い程度の能力削除
チルノが!チルノが!!
12.10名前が無い程度の能力削除
オチに期待
13.70蝦蟇口咬平削除
ごめん、紅魔館の方が気になった
ま、チルノは危険だけどさ
17.50デバイ削除
大妖精がバカすぎる。
紅魔館を犠牲にして解決となるのでしょうか?
18.70名前が無い程度の能力削除
大妖精の優しさが痛いw
32.無評価名前が無い程度の能力削除
× >租借した瞬間
○  咀嚼した瞬間
33.無評価腐姫削除
租借→咀嚼
ご指摘ありがとうございます。
早速直させていただきました。
34.80名前が無い程度の能力削除
(勘違いストーリーをやる都合上とはいえ)霊夢の優しさに感動した!
40.50名前が無い程度の能力削除
大妖精よ、チルノになんて事してくれるんだ。