Coolier - 新生・東方創想話

靈禽蓮々歌~Inevitable night~ 第一章

2007/01/14 07:11:26
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~1.幸福な日常~





トントントントントン




台所からリズムいい音が響いてくる。
茶の間とは壁一枚隔てているためその様子は分からないが、包丁で何かを切っているのだろう。
そして、間もなくその音が途切れたと思ったら、今度はグツグツと何かを煮る音が聞こえ始め、食欲を誘うおいしそうな匂いが漂ってくる。
今晩の夕食はどうやら煮込み料理か鍋料理のようだ。

「~♪~♪~♪」

そして、その音を伴奏に少女の鼻歌が始まる。
この歌は里で流行っているものだ。
外の世界から伝わってきた歌だそうだが、今で料理を待っている少女はこの歌はあまり好きではなかった。
しかし、台所の彼女が口ずさんだり鼻歌で歌っていたりする時だけは好きだった。
尤も、彼女が歌うなら何でも好きだというだけであるが。

この家は人里はなれた竹林の中にあるため、食事を作る音と鼻歌以外は何も聞こえてこない。
料理を待っている少女はこの時間が好きだった。
この時間が永久に続けばいいと何時も思うが、永遠に生きる彼女にとってもそれはかなわぬ願いだった。

何時ものように鼻歌はとまり、エプロン姿の少女が台所から現れる。
その少女は幼さを残す顔つきをしているのだが、その割には女性らしいプロポーションをしており、見た目もかなりの美人な部類に入るであろう。
だが、そんな容姿とは似合わず頭には闘牛を彷彿させる立派なツノが二本生えている。
そのうちのひとつにしてあるリボンを見ると女性であることを再確認されるが、それでもやはり奇妙な光景である。

「待たせたな、妹紅。最近寒くなってきたから里の人から習ったおでんを作ってみたんだが……意外にこれが難しくてな」[
「全然待ってないから大丈夫だよ。それに、慧音の料理が食べられるならどんなに待っても平気だしね」

慧音と呼ばれた女性は嬉しそうな申し訳なさそうな苦笑いを浮かべながらも手に持っていた鍋を卓袱台の上に置く。
それはとても初めてとは思えない見栄えで、先ほどからしていたおいしそうな匂いが瞬く間に茶の間に広がっていく。


ぐー……


その匂いについに我慢できなくなってか、妹紅と呼ばれた少女のお腹の虫が存在を主張するように可愛く鳴いてしまう。

「ははは……大分我慢させてしまっていたようだな」
「はうぅ……」

恥ずかしさで顔を朱に染めてしまう妹紅を見て微笑みながらも、慧音は手早に食器や箸などの準備を進めていく。
最後にエプロンをはずして側にたたみ、妹紅と向かい合うような位置に座る。

「さ、準備も出来たし食べるとするか。おかわりはたくさんあるから好きなだけ食べてもいいぞ」
「うん!今日も輝夜なんかにゃ負けられないからね。腹が減っては軍はできぬともいうしね」
「ああ。でもあまり無理はするんじゃないぞ?」
「分かってるって。それじゃ、いっただきまーす♪」

食卓に元気のいい声が響き、程なくして箸が鍋の中のものをつつきだす。



こうして、月に一度のちょっと遅めで何時もよりも楽しい食事が始まったのであった。





~2.変わらないやり取り~





時刻は草木も眠る丑三つ時。
空は雲ひとつなく空気は澄み切っており、満月の光が妖しく竹林を照らす。
本来ならこの時刻になると妖の類が跋扈しているのだが、月に一度、満月の晩だけはここら一体は無音の領域となる。
何故なら、ここでは満月の晩に殺し合いが行われるからだ。
いくら妖とはいえ、自らすすんで消滅を選ぶような者はいないようだ。
そんな中、慧音と妹紅は一言も話さずにたたずんでいた。


変化のほとんどない空間。
それは時間という概念をとりはらってしまった、一種の彫刻のようにも思える。
そのことが余計妖しさを引き立ててるのだった。


ざわざわ……


ほんの少し風が吹くだけで竹はお互いの葉を擦りあい、不気味な音を響かせる。
それと同時に、慧音と妹紅の体温を奪っていく。
まるでこれから起こる出来事を予兆しているかのように……


と、今までうつむいて目を閉じていた妹紅が目を上げる。

「……来たな」

その声には先ほどの食卓にあったあどけなさと可愛さは微塵も感じられない。

見ると竹林の奥から飛来してくる影が二つ。
一つは長く美しい黒髪を優雅に靡かせている、着物と洋服を足して2で割ったような独特な服を身にまとったまだ顔にあどけなさの残る少女。
もう一つは青と赤をベースにした風変わりな洋服に、黒地に赤の十字架を繕った看護帽を頭につけた女性。

二人は妹紅達から少し離れた場所に音もなく着地し、少女は余裕のある絵笑みを浮かべて妹紅を見る。

「今日は何時もより早いお出ましなのね。自ら進んで殺されに来るとは感心よ。」
「はっ、寝言はおねんねしてから言いな……と、輝夜は引きこもりだから朝と夜の区別もつかなかったな」
「ふっ……ただぐーたらにすごしてる貴女とは違って、私は姫として常に下の者を監視しているの。だから常に起きていなければいけないという使命が……」
「あ、口元に涎のあとがついてる」
「え!?」

妹紅の言葉にあわてて口を拭く輝夜。
その様子を見て妹紅は、くっくっくっ、と笑いをこらえる。

「嘘のつもりで言ったんだが本当に寝ていたみたいだな。やっぱりぐーたら昼間は寝ているただの引きこもりじゃないか♪」
「なっ……!?もう頭にきた!!もう許してって言われても許さないわよ!この貧乳!!」
「なっ……人が気にしている事を……っ!ま、まあ、女性は胸が全てじゃないから別にいいんだけどね」
「それでも胸は女性の象徴……豊かな方が殿方にももてるわよ?ま、お子ちゃまには分からないでしょうけどね」

輝夜は腕を組み、自らの胸を強調するようにして妹紅に見せ付けるようにする。
更に妹紅の胸元を見て見下すように、ふっ……、と笑みをこぼす。

「きぃぃぃぃっ!!もう殺す!!絶対殺す!!」
「臨むところよ!」

売り言葉に買い言葉。
先ほどの厳正とした雰囲気は、今やまったく感じられなくなってしまった。
しかし、これが彼女達のいつものやり取りであり挨拶でもあるのだ。

「今日も永遠に絶えることのない劫火で焼き尽くしてやるわ!」
「私の出す難題、貴女のお頭で解けるかしら?」

静かだった竹林に一瞬緊張が走る。
刹那、二人の間に膨大な魔力が生じ、爆音と共に辺りに飛散していく。

今夜もまた、騒がしくてはた迷惑なじゃれあいが繰り広げられていったのであった。





~3.変わらない風景~





不死の能力を持った者同士が全力でぶつかり合うとなると、その衝撃は計り知れないものとなる。
その能力故、いくら相手を傷つけ瀕死や必死の重傷を負わせても次の日には全部跡形もなく治ってしまう。
しかもお互い(形の上では)憎み合っているのだ。
そうなると容赦はいらないために自然に弾幕は激しさを増していき、最終的には弾幕の余波に晒されるだけで並大抵の妖は消滅してしまうほどの威力となってしまうのだ。



そんな激しい弾幕ごっこが繰り広げられているすぐ側で、不死の少女達の保護者はお互いにお茶を飲みながらのんびりとその様子を眺めているのだった。

「毎度の事ながらものすごいじゃれあいだな……永琳がいないと私も無事ではすまないよ」

そういいつつも、ずずっ、とお茶をすすり堪能する慧音。
言っていることと行動が全然かみ合ってないのは多分気のせいではないだろう。

先ほど輝夜と一緒に現れた永琳と呼ばれた女性は、その様子を見て苦笑しながらも、二人のじゃれあいの余波に自らの魔力をぶつけて相殺していく。

「それが姫達にとっての唯一の楽しみなのよ。それが本気で楽しめないと興醒めでしょう?二人ともそれを知っているからこのように全力を出し合っているのよ」
「なるほどな。そういう永琳はあのように暴れなくて平気なのか?」
「私はそのような相手もいないし、別の方法を持っているので大丈夫よ。ふふっ……」

そういって妖しい笑みを浮かべながらも、胸元から妖しい注射器を取り出す。
その笑みと注射器から本能的に危険を感じ取った慧音は、それ以上の詮索はしなかった。
全くもって正しい判断といえるだろう。
当の本人はもっと突っ込んで欲しかったらしいが、慧音がこれ以上詮索しないような雰囲気を感じ取ると少しつまらなさそうな表情で注射器を再び胸元にもどす。

慧音はずっと様子をみていたのだが、その仕草を見て、はぁっ、とため息をつく。

「どうしたの?何か悩みがあるならおねーさんが聞いてあげるわよ?」

そしてぽんと胸をたたく仕草。
本人は頼りがいのあるお姉さんを演じているのだろうが、その仕草は一層慧音のため息を誘う。
尤も、おねーさんというのは無理があるかもしれないが。

「いや……個人的なことだから気にするほどの事でもない」
「そぉ?ただ長生きしているわけじゃないし、分からないことはほとんどないわよ?」

どうやら彼女は自分の姫のじゃれあいより、慧音の悩みのほうに興味を持ってしまったようだ。

「だから本当に大丈夫だ……私だって歴史を扱うワーハクタクとしての知識は備えているしな」
「それでも悩みを他人に相談してすっきりすることも出来るのよ?」
「いや……そんなに大した悩みでもないから気にする必要もない」
「そういって小さな問題がどんどん折り重なって、最終的には自分を押しつぶしちゃうのよ?だからさっさと白状しなさい!さあ、さあ!」

最初は穏便だった永琳だが、どんどん息を荒くして詰め寄ってくる。

さすがに身の危険を感じ、慧音は距離を開けようとするも、一瞬早かった永琳の手によって肩をつかまれ逃げられなくなる。

「うふふ……おねーさんから逃げようと思っても無駄よ?」
「ちょっ……永琳!目が据わってるぞ!!」

もはやこれまでかと思ったその時、幸運の女神が慧音のもとへ舞い降りてきた。

「ふふっ。やっぱり母性的な女性の方が強いのよ♪」
「ううぅ……悔しいいいいい……」

その女神はずたぼろになっていたが。

じゃれあいの勝敗が決まったらしく、妹紅と輝夜がこちらに来たらしい。
慧音は永琳がその声に振り向いたその隙に拘束から逃れ、妹紅のもとへと駆け寄り肩を貸してやる。
しまった!という声が聞こえたのは多分気のせいだろう。


「も、妹紅!?大丈夫か!?」
「いててて……今日はなんだか調子が思うようにだせなくってさ……」
「調子じゃなくってこれが本当の力の差ってことよ♪」
「きぃぃぃぃぃぃ!!」

ふふん、と再び胸を強調して張る輝夜と悔しがる妹紅。
親と子は良く似るというが、保護者とその相手も似るものだろうか。

「まあまあ……でも、今回は見た感じそこまで酷い傷はないようだな」

慧音が見た感じでは、妹紅の治癒能力なら一晩で十分完治する程度の怪我だった。
口ではああ言い合っているが、やはり輝夜もしっかりと妹紅の事を考えてくれているのだろう。
逆もまた然り。
おそらく、このことを口に出すときっと二人は否定するだろうが。

「さて、今日の勝負はもうついたみたいだし帰るとするか。あまり無茶をすると明日に響いてしまうからな」
「姫もそろそろ帰らないと明日に支障が出ますよ」

それぞれの保護者の声に反応する輝夜と妹紅。
二人の保護者はそれぞれの相手を連れて帰路へと着く。


いつもと変わらない日常。

それが尊いものと感じるのは、それが手元から無くなってしまったときである。



「あ、そうそう。胸についての悩みだったらおねーさんが何時でも聞いてあげるから、何時でもいらっしゃいな」


永琳の言葉を聴いて、その日常が崩れてしまうのではないかと危惧を抱く慧音であった。




~4.些細な致命傷~





トントントントントン




今朝も台所からリズムのいい包丁の音が聞こえてくる。
時刻は日が昇る一刻ほど前。
台所で朝ごはんを作っているのはもちろん慧音である。
満月が地平線のかなたへと消えかかっている今の刻、慧音は昨晩のような角を生やしていない。
半妖である慧音が歴史を操れる妖、ハクタクでいられるのは月の魔力が最も地上に降り注ぐと言われている満月の夜のみなのである。
そのため今の慧音は完全な人間の姿であり、かわいらしいエプロンをつけて鼻歌を歌いながら料理を作る姿は、さながら愛する夫のために愛妻弁当を作っている若奥様のようである。
だが、夫に当たるであろう妹紅は未だに布団の中で夢を見ているのだが。

「ふう、こんなところかな。そろそろ時間だし里に戻るか……」

一通り朝食の下ごしらえを終えた慧音はエプロンをたたみ、妹紅の寝ている部屋に向かう。

慧音は人間の里の守護者であるため、彼女がハクタクに変身してしまう満月の夜にしか妹紅と一緒に過ごすことは出来ないのだ。
その為、朝日が昇る前に里に戻らないといけない。
しかし、妹紅は昨晩の輝夜とのじゃれあいの疲れから、ほとんどの場合、慧音が里に帰るまでに起きてくることができない。
そのため、いつも慧音が里に帰る時は寝ている妹紅に一言言って帰ることにしている。
例え妹紅が起きなくても、やはり一言言ってもらえると妹紅自身も安心するらしい。
大分昔に慧音が一言言い忘れて帰った時があったのだが、その時は妹紅が慌てた様子で里まで飛んで来たことがあったのだ。

逆に、慧音も朝ごはんを作っているために本当は一睡もしていないはずなのだが、ハクタクの姿でいるときは睡眠欲というものが消え失せてしまうため、眠らなくても平気になる。
つまり、満月であるこの日だけは一睡もしなくても日常生活に支障はないのである。

慧音は今日もいつも通り、妹紅の部屋へ彼女を起こさないようにそっと入っていく。



最初に異変を感じたのは部屋に入った直後の事だった。



時期はあと一月もすれば年が変わろうかという頃合。
それにもかかわらず、部屋の中はまるで夏の夜明けのように蒸し暑い
もちろん部屋には暖房なんて近代的な装置はない。


ならこの異常な熱気の発生源はどこだ?


慧音は布団で寝ているはずの妹紅のほうを見る。
そこには熱にうなされている妹紅の姿があった。

「妹紅!?」

慌てて駆け寄る慧音。
妹紅に近づくと明らかに先ほどよりも気温が高くなったのが肌に感じられる。

当の妹紅はというと、目が覚めてはいないのだが先ほどからぜえぜえと荒い息をして全身に汗をかいている。

「妹紅!大丈夫・・・つっ!?」

あまりの異常事態に動転してしまい慌てて肩を揺さぶり起こそうとするが、両手に衝撃が走り反射的に手を離してしまう。

「い、今のは……?」

衝撃は一瞬の出来事だったが、時間がたつにつれて段々と腕の感覚が戻ってくる。
脳に両手が焼けるほど熱いことが伝わってくる。

「けい……ね……?」

見ると、今ので妹紅が目を覚ましてしまったようだ。
しかし、その声は昨晩とは別人のように思えるほど弱りきっていた。

「妹紅……大丈夫か……?」
「慧音ぇ……体が熱いよぅ……燃え尽きちゃうよぅ……」

どうやら先ほど慧音が感じた熱さは気のせいではなかったようだ。
この異様な熱の発熱源は妹紅であり、妹紅も自身が発する熱に苦しんでいるようだった。

「大丈夫、大丈夫だからな、妹紅」

このように妹紅を安心させるように言葉をかけてやるが、実際のところ慧音にはこの異常な熱の原因も処置法も全く分からなかった。
普通の風邪なんかで高熱を出す場合の処置法は熟知していたが、いかんせん今回の場合は特殊すぎた。

とりあえず急いで氷水を用意し、タオルに浸してから妹紅の額に乗せてやる。
あまりにも妹紅の体温が高いために焼け石に水状態であるが、応急処置としては有効であろう。

「はぁはぁ……」

その効果が出たのか、妹紅の様子も少しは落ち着いてきたようだった。
しかし、落ち着いてきたとはいえ、依然妹紅の体は燃えるように熱く油断できない状況となっている。

「どうすれば……」

あてがないわけではなかった。
しかし、この方法は普段の妹紅だったら真っ先に否定するだろう。

「けい……ね……熱いよ……」

だが、今は状況が状況だった。

「妹紅、ちょっと辛いかもしれないがもう少しの我慢だからな」

慧音は覚悟を決めてから妹紅を慎重に背負い、分厚い雲が空一面を覆う中、昨晩共に話していた薬師の元へと飛び立った。









このとき、慧音は気づかなかった。









妹紅の腕にある一筋の紅い筋を。











そして、それが示す重要な意味を……














初めまして、初投稿の幽冥というものです。

慧音と妹紅について色々と想像していたらいつの間にか小説として出来上がっていたので投稿させてもらいました。
話の方はほぼ全部書き終えていますが、内容はシリアスでおそらく第4章くらいにまとめられるかと思います。
今回の章は導入部分なのでわりかし少な目の分量ですが、次からはだんだんと多くなっていくかと……

今までこういう投稿所に小説を投稿したことがないので色々とおかしなところがあると思いますが、ご指導の方よろしくお願いしますm(__)m
幽冥
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