* キャラクターがそれなりに(特に妹様は顕著)壊れております。注意してもしなくても、とかく読んじまえば目が潰れます。
お姉様が変態になった。
もともと危ない吸血鬼だったんだけれど、霧を張りめぐらせる事件の後からは得にひどかった。なんでも、腋を丸出しにした巫女、つまりは霊夢にぞっこんだという。なんでそんな露出狂を気にするのかな、なんてからかい半分につぶやいたら、いきなりぶん殴られた。
サニーパンチ、バーンナックル、ドラゴンキック三連弾、とか言ったような気がするけれど、タコ殴りにされた私はぶっちゃけそういうのを気にする暇すらなかった。ただ、お姉様の、白磁の如き滑らかな肌が紅潮しているさまが綺麗だとは思いながらも、私はお姉様の技をしっかりとその顔面で受け止めていた。
「な、なにィ・・・・・・! 私の・・・・・・技が・・・・・・効かないでい・・・・・・る・・・・・・?」
お姉様はひたすらにノリノリで、常識人たる私は、彼女の考えなどとかく分からない。とりあえず私がレーヴァンテインで反撃してやったら、お姉様は顔面から血を流しながら、なにやら叫んで倒れた。
「うっ・・・ぎゃああぁー! ごがっ、ごががぁっ!! い、いてぇぇーっ! おぐ、おぐぅ」
うるせぇよ、500年生き続けたロリババア。と言うより、どうして胴体を狙ったのに、わざわざ顔面から血を流すのかこちとら理解不能。最後の攻撃だけホア・ジャイにした代価だと思えばこんなの安かろうに、いっちょまえに悲鳴だけはプロレスシューズの男でいやがる。
なんていうことを私がつらつらと考えて油断していたせいだろうか。気付けば私の体は、お姉様のグングニルによって吹っ飛ばされ、館の壁を二枚ほどぶち破って吹っ飛んでいた。それなりに痛かったけれど、お姉様が「エターナルフォースブリザード!」とか叫んでいたことの方が、ぶっちゃけ精神的に痛かった。いくら厨キャラだとは言っても、邪気眼の力に惑わされるのはNGだと思う。
かように、私がバーニング・ダーク・フレイム・オブ・ディッセンバーな気分を味わっていると、最近さっきゅんとか言われて調子のってる家政婦が飛んできた。日に日にパッドを替えているのはいたしかたないとしても、その膨らみは明らかに詐欺だろう、と言われるような胸部のままで。
さくやー、またおっぱい大きくなったね。私が無邪気な幼女をよそおってそう声をかけたら、そのメイドはいきなり泣きながら私の頭をぶん殴りやがった。出会い頭パンチだとぉ!?
いや、ぶっちゃけ泣いたのならば殴る必要ないだろ。メロドラマとかでも、泣きながら主人公である男優をマジでぶん殴る女優なんて見たことねぇよ。泣くか殴るか、どっちかにしろよ。そんな玉虫色の選択ばかりしているから、未だにさっきゅんは胸が『なくてもいいけど、ちょっとはあった方が・・・・・・』止まりなんだよ。バスト占いでも微妙と言われる立場なんだよ、ゴルァ。
そんな私の思念が伝わったのかどうかは知らないが、突然咲夜は「このメイド、おめおめと引きさがりはせんぞー!」とか言って、ナイフでレーザーソードを作り出したからあら大変。私は顔面にバッテンの字を作られるように切り裂かれ、やはりというべきか館の壁を三枚ほどぶち破って吹っ飛んでいってしまった。咲夜の痛い人度数は、お姉様と同レベルだと思う。ぶっちゃけ、ふたりともカイザーウェーブでやられてください。
館からぶっ飛ばされた私は、門番のセックスアピールを無視して空を飛び、外の世界へ出た。雲ばかり出ている日だったから、日光は出る気配がなかったし、丁度良い散歩になると思ったからだ。と言うより、プロレスシューズをはいているお姉様が痛々しくて、口元から漏れる哄笑を隠すのが必死だった、というのも理由と言えば理由なんだけれど。
泉の近くでは氷精がなにやら大妖精とチョメチョメなことをしているし、新聞記者は空中であるというのにもかかわらず、カラスを使ってGなんぞをしている。
現在、幻想郷は春だ。でも、そこにいる連中の頭のネジは、ボルトもナットも塵芥よと構わずにぶっ飛ばすようなものであるし、それをダース単位でぶっ飛ばしているんだから、もう辺りは春爛漫、俺爛漫。だって、ちょっと目を横に動かせば、もうモザイク指定の光景が飛び込んでくるんだもの。
私の下着をデジカメで撮ろうとした、エロ天狗の顔面にサニーパンチを浴びせながら、私はとりあえず神社へとおもむいた。
「うっぎゃああぁ! ごが、ごががぁっ!」
うるせえ、パパラッチ。
私が神社へとおもむけば、やはりと言うべきか、そこには霊夢がいた。相も変わらずの腋出しルックスで。
「あら? フラン? 珍しいわね」
腋さえ出さなければ普通の婦女子である霊夢が、私の姿を見るなりそう言ってくる。黒髪を赤いリボンでまとめ、縁側に座ってお茶を飲むその姿は、素直に可愛らしいと思うが、私にとってはそれだけである。どうしてお姉様があそこまでファナティックな思考を持つまでに変化せしめたのか、それがどうにもこうにも分からない。
が、考えても詮無いことである。神社に飛んでいく途中で、謝罪の証左としてパパラッチから強奪せしめたおむすびをふたつ、霊夢に放ってやる。
瞬間。ぱくり、と音がしたかと思うと、そこには頬をハムスターよろしく膨らませた赤貧巫女がたたずんでいた。猛禽類を想起させるその目は、とかくぎらぎらと光って怖いったらありゃしない。お姉様いわく、霊夢を手なずけるのは食から、だそうだけれど、なるほどこれならば納得出来る。
「お手」
「あいよっ!」
やりやがったぜ、この巫女。食いもんのためには、プライドなんて路傍の石よ塵芥よとばかりに蹴っ飛ばすのか。
私の前に膝立ちになり、まるでかしずくようなたたずまいのままにお手をする霊夢は、ぶっちゃけ無様だった。けれど、まあ、ちょっと可愛いかな、と思ったりもしなくもない。お姉様みたいに暴走はしないけれど。
しかし、やることがない。お姉様や咲夜が暴走した際は、小一時間ほど待機しないと、ほとぼりがおさまらない。神社に行けば誰かがいると思ったんだけれど、予想に反して霊夢しかいないし。
仕方ない、と私は心の中だけでつぶやき、霊夢で遊ぶことにした。
「おすわり」
「あいよっ!」
「棒立ち」
「はいっ!」
「寝そべって」
「ういっす!」
「ジョジョ立ち」
「だが断る」
「逆らった!?」
すげぇ、すげぇよこの巫女! おむすびふたつだけでころころと動きやがる! 威厳ゼロだよ! ぶっちゃけ、巫女というより食の奴隷だよ! そういえば、神社の周りにある雑草が全てなくなっていたんだが・・・・・・まさか、ありえない、よね・・・・・・?
私がそんなことを考えていると、神社に飛んできた影がふたつ。ひとつは、黒白の衣装に身を包んだ魔法・・・否、魔砲使いである魔理沙。もうひとつは、孤独で友達がいないともっぱらの噂である人形使い、アリス。
知っている人が来てくれる、というのは素直に嬉しいんだけれど。ぶっちゃけこの状況じゃ喜べない。だってふたりとも、目がぎらぎらと輝いているんだもの。お姉様のアレを想起させるような、猛禽類の如き輝きを放つ双眸が、私の瞳をとらえて放さないんだもの。
素直に言っちゃえば、しょんべん漏らすくらいに怖い。今のふたりは、鬼気というものが全身に満ち満ちている。どことなく春色の香りがするのは、神社をとりまく桜のせいか、はたまた・・・・・・やめよう、これ以上考えると気が狂う可能性が高い。
「なあ霊夢、モッヂボールやろうぜ」
「帰れボケ」
魔理沙の誘いを、刹那の間に切って捨てる霊夢。その横ではアリスがいつの間にやら、人の面が浮かんだ球体を用意していた。なんか、五郎がどうたらこうたら、とか言っているけれど、私にはなんのことか分からないので無視しておいた。
魔理沙は、ちぇ、とつぶやくと同時、アリスと一緒にどこからともなく風呂敷包みを出す。ちょっとだけ芳醇な香りが、私の鼻腔をさした。
「まぁ、なんだ。差し入れをもってきたから一緒に食べないか、と言いたかったんだ」
「最初からそう言いなさいよ、全く・・・・・・」
「フランも一緒に食べるか?」
魔理沙がこちらを見ながらそう言ってきたけれど、私は首を横に振った。なんとなしに、なんとなしにではあるが、悪い予感がしたからだ。先程まで猛禽的双眸がぎらぎら輝いていたふたりが、瞬時にして聖母の如き慈愛に満ちあふれた笑顔を振りまくなんて、違和感がありすぎる。
私は丁重にお断りをして、神社から飛び去った。正直、このままここにいても何か良くないことが起こりそうだ、と私の脳味噌が警報を鳴らしていたから。
私が神社から逃げる際、背後でアリスがぶつぶつと「一緒に、友達と一緒にモッヂボールやるのが夢だったのに・・・・・・。いいんだ、どうせかみさまはわたしにしあわせをくれないんだ。だってそうよね、まりさもれいむもみんな、わたしがともだちだとおもっていても、むこうはそうとはかぎらないものねうへへへへぺぺぺぺぺぺぺ」とか言っていたような気がするけれど、振り向いたら負けかなと思っていたので振り向かなかった。ぶっちゃけ、背後からの鬼気が重すぎて、あと少しで下着に染みをつくるところだった。
「あら、桜餅じゃない。うん、美味しいわ・・・・・・ね?」
「かかったわね、霊夢! その桜餅は痺れ薬入りィィーー! 冬を越したから食料の備蓄もない貴女が、これぞとばかりに手に入れたタナボタ的幸せの中には、幾重にも織り込まれたトラップがかかっていたのよォーッ! ああ、あは、あはははハアハア・・・・・・! う、うごけない霊夢をやっちゃって、私、と、飛んじゃう! とんぢゃいますのォォォほォォォォーーーーッ!」
「そーいうことだ、悪く思うなよ。万年腋を丸出しにして、私たちが毎晩どんな想いでベッドのシーツを干しているのか、お前はいっつも知らない・・・・・・」
「いや、そんなの知りたくないっていうか、ちょ、やめれ、変なところ触んな、この七色全色桃色変態妖怪! プラス、黒白変態スケコマシィィィィィ!」
「さあ、お前の下腹部から流れ出る清らかで透明な液体で、私たちの官能的な曲線を更に淫靡にしてくれることを希求するぜぇぇぇぇぇっ!」
「ウヘ、ウヘへ・・・・・・! レイムレイムレイムレイムゥゥゥゥ・・・・・・!」
「うっぎゃぁああっ! 私は召喚騎士二式のボスキャラじゃねぇぇぇぇぇっ!」
あ、やっぱり逃げて正解だったわ。強く・・・・・・生きて、霊夢。願わくは、楽譜に記載されている記号、フォルテのように、強く。
「月代さぁぁぁぁぁん! 私に力を! サニーナックル!」
「「いや、誰そいつ・・・・・・うっぎゃぁぁぁーっ! ごが、ごががぁっ!」」
館に戻っても、暴走したお姉様に逝かされそうだったので、とりあえずとばかりに人里付近まで来た。あの歴史を食べちゃうワーハクタクが守っているところだ。
最初は、あの黒髪ニート姫がいるところでもいいかも、と思っていたんだけれど、よくよく考えてみれば、あのニートの従者はロリコンで変態だった。ちょっと前に『お医者さんごっこ』されそうになったし。ちなみにその時は、ちょっと分の悪い賭けだったけれど、スペルカード全力をゼロ距離でぶちかまして逃げた。ナンブ少尉の教えも、なかなか捨てたもんじゃないと思う。
私は現在、あるひとつの丘の上に腰を下ろして、里の人間が働いていくさまを長めている。くわを使って畑を耕したり、水汲みをしたりして、皆が目まぐるしく動いている。とても大変そうだけれど、皆の顔は全然嫌そうじゃない。多分、あのワーハクタクが守っているからだろう。だから皆、生き生きとしているんだろう。
私はしばしの間、彼らが働く様子を見ていた。時間を潰すにはちょっと退屈だったけれど、そこから離れたくなるほどでもない。お姉様と咲夜の心が落ち着くまで、のんびりと木陰に隠れながらまどろむのも良いだろう。
そう思った瞬間だった。
絹を引き裂いたような悲鳴が、里にこだまする。私は落ちかけていたまぶたを無理矢理に押し上げて、向こう側の光景を見てみる。
そこには、妖怪らしき影がひとつ。獣の顔を持ちながらも、四肢は人間にきわめて近しい、かような姿の存在がそこにあった。
私は思わず飛び出しかけたが、頭上にさしている傘の存在を覚え、たじろぐ。傘をさしながら戦闘することなど、無理難題にも程があろうというものだ。大体にして、この里を守るべき存在である、あのワーハクタクはどこに? 私がそう考えながら丘を降りるべく飛び出したその時だった。
「駄目だよ、慧音・・・・・・。こんな真っ昼間から」
「いいじゃないか妹紅・・・・・・。私をこんなにさせたお前が悪いんだからな」
「あ、けーねぇ・・・・・・」
こけた。
ズッシャァァァッ、と擬音が付きそうなくらい、私は盛大にこけた。別に他人の趣味にどうこう言うつもりはないんだけれど、妖怪ほっぽって乳繰り合うとは思わなかった。恋は盲目とかよく言うけれど、いや、これは盲目すぎるだろ。ぶっちゃけ駄目だ、こいつら駄目だ。ワーハクタクは不死のサスペンダー巨乳と乳繰り合っている、ときたもんだ。笑い話にもなりゃしねぇ。
「うっおーーーー! くっあーーーー! ざけんなーーーー!」
私は叫びながら丘の近くの竹林へ、弾丸よろしく突っ込み、ひとつの民家を見つけてそこにアタック。
案の定、そこでは、部屋の真ん中でハクタクとサスペンダーがひとつの布団の上でキャッキャウフフなことをしていたが、ぶっちゃけ穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚めた私にそんなことは関係ない。ハクタクとサスペンダーの横っ面をぶっ飛ばすと、妖怪が里に来たことを教えてやった。このフランドールに、無抵抗は武器にはならぬ!
ふたりは慌てて、半裸に近いままにどたばたと外に出て行ってしまい、民家に残されたのは私だけ。部屋の中は、なんというか、甘い匂いが漂っていた。どこか乳臭いながらも、花のように甘く、嗅いでいるだけで頭の中がぼうっとなって、思わず体の一部が切なくなるような・・・・・・、というところまで考えて、私は慌てて平静を取り戻す。
やはり、春の力なのだろう。あの生真面目なハクタクでさえ、下半身と脳味噌を直結させてしまったのだ。春の力、恐るべし、と言いたいところなんだけれど、幻想郷にいる大半が変態の素質を秘めているのも、原因といえば原因だと思う。
つーか、なんで私はこんな変態集団の中で生きているんだろう? 実の姉まで変態になっちゃったし、もう泣きたい気分でいっぱいになった。
気分を変えるべく、私は新たな場所を求めて飛んでいく。正直、後であのふたりに反撃されるのが怖かった、というのも原因と言えば原因なんだけれど。
私はふらふらと森の中をさまよい、ひとつの家屋の前までたどり着く。木造の、普通の小屋だ。その染み付いた壁からは、どこか歴史の匂いが感じられる。
とりあえず、とばかりに私はその家屋の扉に向かい、ノックを二回して、取っ手に手をかけて、開ける。
「やあ、見慣れないお嬢さんだね。ようこそ香霖ど」
バタン、と扉を反射的に閉めた。
見てない。
私は褌なんて見ていないし、あまつさえいい笑顔をした青年なんて見ていない。いやいや、ぶっちゃけありえないだろ。なんか部屋の内装からして、骨董品店みたいな雰囲気だったけれど、中はそれなりに清掃が行き届いていたけれど、でも、店主が褌一丁なんて絶対にありえないだろ。と言うより、それを見ていないことが前提であるからして、ディティールを話すのはこれ無矛盾製に反していると言えなくもないようで・・・・・・。
とりあえず念のため、怖いもの見たさでもう一度開けることにした。
がちゃり、と。
「フゥ・・・・・・いきなり退出するなんて、いけないお嬢さんだ。もしかすると、この肉体美に酔っちゃったのかな? かな? いやいや、みなまで言わなくて良い、僕のこの筋肉の素晴らしさたるや、他に比べるものが見つからないほどだろう。確かに女性らしき丸みを帯びた曲線の美しさは評価に値するが、男性は男性でこのように、筋肉という無骨ながらも官能的ですらある複雑怪奇なフォルムをその四肢のみならず胸にも腹にも存分に付けることが可能であり、こと美術という面においてはこれほどの流麗な線を」
閉めた。亜音速とかそういったレベルじゃなくて、二重の極みどころか十重二十重の極みにも匹敵するくらいの速度で、私は扉を閉め・・・・・・否、封印をかけた。
この瞬間、私が生きる中で最も恐ろしい季節は、春に決定した。同時に、ちょっと男性恐怖症になった。だって思い出せば褌、フンドシ、ふんどし・・・・・・。
私が気分を悪くし、えづきかけると、背後から『ガチャリ』という音が聞こえてきた。
つまりは。
「いきなり逃げるなんて、あーん、こーりん、困っちゃうぅ~!」
「ウッギャァァァァァァァァァァ嗚呼アアァァァァァァァッァアッァァァ亜ァァァ!!」
私は背後を振り返らずに、一目散に逃げた。それこそ、目にも留まらぬ速度で。
ああ、お姉様、今なら分かります。私を外に出さなかった理由。そりゃ、こんな魔境が幻想郷にあると知っていたんなら、可愛い妹を外に出そうとはしませんよね、アハハ、マジ死にてぇ。
私は半ば泣きながら紅魔館へと戻った。ふらふらと、頼りないさまで飛んで戻った。いや、春は怖いね、本当に怖い。
心身共に疲れ果てた私にとって、地下室へと戻るのはある意味安らぎの瞬間でもあった。ぶっちゃけ、春にはあまり出回りたくない。
私が憔悴しきった顔のままに、自室へと戻ろうとして廊下を歩いていれば、いつの間にやらお姉様が私の横にたたずんでいた。言葉をかける気力すら失った私は、うつろな瞳でお姉様に、何か用があるのかと問いかけてみる。
「フラン、ちょっと話があるの。地下室へ行きましょうか」
なんとお姉様は物凄く真面目な顔で私の方を見、有無を言わせぬ口調でそう言葉を紡ぎ、私の前を歩いていった。その表情からは、ついちょっと前まで霊夢霊夢と色ボケしていたような雰囲気は微塵も感じられず。
私は多少、訝りながらもお姉様の後ろを歩き、目的地にたどり着いた。薄暗い地下室は、昼も夜も季節も関係ない。けれど、あの春爛漫の光景よりかはいくぶんかマシである。お姉様はベッドに腰かけ、私もそれにならった。
話とはなんだろうか。そう考えていると、いきなりお姉様は私に向かって頭を下げてきた。それこそ、がばぁ、と音がしそうな勢いで。
「ごめんなさい、フラン。私は大局を見ていなかった。非常に、微視的だったわ」
いきなりそんなことを言うお姉様を見て、私は瞠目しながら小首をかしげるという、非常に奇妙な行動をとってしまった。
「私、駄目ね。春だからといって浮かれすぎたのよ。霊夢のことは確かに好きよ。けれど、それにかまけてばかりで、部下やその他の人たちとのコミュニケーションがおろそかになっていた。咲夜とのプレイも一週間に二度という駄目っぷりだし、中国の夕張メロンもいじっていないし、最近はパチェと新型媚薬の研究もしていなかった・・・・・・」
もうどこから突っ込んで良いのか分からなかった。お姉様は相変わらず変態のままだった。私に謝っている理由も分からないし、お姉様の考えは私に読めなかった。
しかし、その疑問はすぐに氷解する。
「最近は、貴女と遊んでいられる時間も減っちゃったし・・・・・・ね?」
「あ・・・・・・」
そう言われて、私はやっとのこと気付いた。お姉様は変態になってから、よく霊夢のいる神社へと遊びに行っていた。そこで熱烈なアプローチをして、全身を針と札だらけにして帰ってくるのが日常だった。
外出する、というのは、それなりに準備の時間がいる。お姉様はよく外出するあまり、館にいる時間も少なくなり、必然的に私のもとへ来る回数も減ることになった。
いくら咲夜や門番やもやしと遊ぶ私とは言えど、やっぱりお姉様は特別なのだ。姉妹水入らずで、ちょっとじゃれ合いたい時だってある時はある。最近、胸に感じる不満感は、もしかすると姉妹のやり取りが足りなくなっていたからなのかもしれない。
「だから、今から遊ぼうと思ったんだけれど、迷惑だったかしら・・・・・・?」
そんなことはない、と私は叫ぶように言い、腕と首をぶんぶんと横に振ってみせる。不安げな顔をするお嬢様を安心させたかったのもあるけれど、お姉様と姉妹の語らいが出来るということに、嬉しさを覚えたからだ。
だから私はにっこりと微笑んで、お姉様に言う。
「遊ぼう、お姉様」
対するお姉様は、私の言葉を聞くと、太陽のような笑みを浮かべ――
「・・・・・・ゑ?」
私をベッドに押し倒した。
「いいのね? いいのね、フラン? 遊んじゃうわよ、遊んじゃうわよ? 本当にごめんなさいね、いつも霊夢や咲夜やパチェばかりに構っていたせいで、私は大局を見逃していた・・・・・・! そう、やっぱり実の妹と『遊ぶ』ことこそ真実だと!」
あおむけになった私の上に、馬乗りになるようなかたちで、お姉様は豪語する。よだれも鼻血も垂れ流しにするその姿は、生半可なスプラッター映画の犯人よりも怖い。今のお姉様ならば、テキサスで起こったチェーンソー事件にも乱入出来そうだ。
私は、驚愕と恐怖と混乱のあまり、お姉様に押し倒されたまま動けなかった。それでも、なんとかお姉様に対して疑問を投げかける。
「いや、ちょっと、お姉様、どういうこと?」
「ああ、もう! 分かっているくせに! 私、霊夢の腋や貧乳やリボンに見とれて、あふれるパッションをもてあましていた・・・・・・。けれど、貴女が散歩に出てしまい、ふと下腹部を襲うキュンとした切なさに気付いた瞬間、私の心がエレクチオンしたのよ!
そう、やっぱり時代は、『妹萌え』よね! 義理の妹? なんスかそれは、美味しいんスか? やっぱり実の妹、という点が萌える訳よ! 分かる? 『駄目、お姉様、私たちは血を分けた姉妹なのよ・・・・・・?』『そんなこと関係ないじゃない、ふたりで楽しみましょう?』『ああっ、お姉様ぁ・・・・・・』という、禁断のプラグマティックエロスゾーン! 義理という関係は血が繋がっていないという点があるからこそ、踏み込みの速度が足りなくなり、背徳感なんぞ欠片もなくなる!
実の姉妹で遊ぶこと、それは、後ろ盾がない背水の陣プレイィィィッ! 超絶ロリータ姉妹が繰り広げる、百合百合な関係! しかも血を分けたことによる背徳感で、遊○王の強化カード並みの補正がかかることになる!
さあ、私の可愛い可愛いフラン! いっしょに楽しみましょおおおおぉぉーーー!!」
お姉様の魔手が迫るその光景を、私はスローモーションの世界で見ていた。これぞまさに、黄金体験。ゆっくりとお姉様の食指が、私の服のえりにかかる光景を見ながら、私はふと、とりとめもないことを考える。
つまり、お姉様は変態で、季節は春。霊夢によって開花した変態の度合いは、いつしか春という名の補正を受け、青空に舞い散る蝶の如く華麗な変化を遂げたということだ。とにもかくにも、外の世界も危険なんだけれど、お姉様自体も危険だということはよっく分かった。紅魔館にいる時点で、あなたもうアウトですからぁー! ざんねーん!
お姉様がもとから、妹萌え、なる素質をもっていたのか、私には分からない。ただひとつ、いや、ふたつ分かることがある。
この状況下、私は絶対に逃れられない、ということ。
それと、春の力は恐ろしいということ。
そんなことを考え、私は服を脱がされながらも、あらんかぎりの声で絶叫した。
「春なんて、だぁいっきらいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
(空を飛んでいたリリーがくしゃみをしたことを確認しつつ、終局)
お姉様が変態になった。
もともと危ない吸血鬼だったんだけれど、霧を張りめぐらせる事件の後からは得にひどかった。なんでも、腋を丸出しにした巫女、つまりは霊夢にぞっこんだという。なんでそんな露出狂を気にするのかな、なんてからかい半分につぶやいたら、いきなりぶん殴られた。
サニーパンチ、バーンナックル、ドラゴンキック三連弾、とか言ったような気がするけれど、タコ殴りにされた私はぶっちゃけそういうのを気にする暇すらなかった。ただ、お姉様の、白磁の如き滑らかな肌が紅潮しているさまが綺麗だとは思いながらも、私はお姉様の技をしっかりとその顔面で受け止めていた。
「な、なにィ・・・・・・! 私の・・・・・・技が・・・・・・効かないでい・・・・・・る・・・・・・?」
お姉様はひたすらにノリノリで、常識人たる私は、彼女の考えなどとかく分からない。とりあえず私がレーヴァンテインで反撃してやったら、お姉様は顔面から血を流しながら、なにやら叫んで倒れた。
「うっ・・・ぎゃああぁー! ごがっ、ごががぁっ!! い、いてぇぇーっ! おぐ、おぐぅ」
うるせぇよ、500年生き続けたロリババア。と言うより、どうして胴体を狙ったのに、わざわざ顔面から血を流すのかこちとら理解不能。最後の攻撃だけホア・ジャイにした代価だと思えばこんなの安かろうに、いっちょまえに悲鳴だけはプロレスシューズの男でいやがる。
なんていうことを私がつらつらと考えて油断していたせいだろうか。気付けば私の体は、お姉様のグングニルによって吹っ飛ばされ、館の壁を二枚ほどぶち破って吹っ飛んでいた。それなりに痛かったけれど、お姉様が「エターナルフォースブリザード!」とか叫んでいたことの方が、ぶっちゃけ精神的に痛かった。いくら厨キャラだとは言っても、邪気眼の力に惑わされるのはNGだと思う。
かように、私がバーニング・ダーク・フレイム・オブ・ディッセンバーな気分を味わっていると、最近さっきゅんとか言われて調子のってる家政婦が飛んできた。日に日にパッドを替えているのはいたしかたないとしても、その膨らみは明らかに詐欺だろう、と言われるような胸部のままで。
さくやー、またおっぱい大きくなったね。私が無邪気な幼女をよそおってそう声をかけたら、そのメイドはいきなり泣きながら私の頭をぶん殴りやがった。出会い頭パンチだとぉ!?
いや、ぶっちゃけ泣いたのならば殴る必要ないだろ。メロドラマとかでも、泣きながら主人公である男優をマジでぶん殴る女優なんて見たことねぇよ。泣くか殴るか、どっちかにしろよ。そんな玉虫色の選択ばかりしているから、未だにさっきゅんは胸が『なくてもいいけど、ちょっとはあった方が・・・・・・』止まりなんだよ。バスト占いでも微妙と言われる立場なんだよ、ゴルァ。
そんな私の思念が伝わったのかどうかは知らないが、突然咲夜は「このメイド、おめおめと引きさがりはせんぞー!」とか言って、ナイフでレーザーソードを作り出したからあら大変。私は顔面にバッテンの字を作られるように切り裂かれ、やはりというべきか館の壁を三枚ほどぶち破って吹っ飛んでいってしまった。咲夜の痛い人度数は、お姉様と同レベルだと思う。ぶっちゃけ、ふたりともカイザーウェーブでやられてください。
館からぶっ飛ばされた私は、門番のセックスアピールを無視して空を飛び、外の世界へ出た。雲ばかり出ている日だったから、日光は出る気配がなかったし、丁度良い散歩になると思ったからだ。と言うより、プロレスシューズをはいているお姉様が痛々しくて、口元から漏れる哄笑を隠すのが必死だった、というのも理由と言えば理由なんだけれど。
泉の近くでは氷精がなにやら大妖精とチョメチョメなことをしているし、新聞記者は空中であるというのにもかかわらず、カラスを使ってGなんぞをしている。
現在、幻想郷は春だ。でも、そこにいる連中の頭のネジは、ボルトもナットも塵芥よと構わずにぶっ飛ばすようなものであるし、それをダース単位でぶっ飛ばしているんだから、もう辺りは春爛漫、俺爛漫。だって、ちょっと目を横に動かせば、もうモザイク指定の光景が飛び込んでくるんだもの。
私の下着をデジカメで撮ろうとした、エロ天狗の顔面にサニーパンチを浴びせながら、私はとりあえず神社へとおもむいた。
「うっぎゃああぁ! ごが、ごががぁっ!」
うるせえ、パパラッチ。
私が神社へとおもむけば、やはりと言うべきか、そこには霊夢がいた。相も変わらずの腋出しルックスで。
「あら? フラン? 珍しいわね」
腋さえ出さなければ普通の婦女子である霊夢が、私の姿を見るなりそう言ってくる。黒髪を赤いリボンでまとめ、縁側に座ってお茶を飲むその姿は、素直に可愛らしいと思うが、私にとってはそれだけである。どうしてお姉様があそこまでファナティックな思考を持つまでに変化せしめたのか、それがどうにもこうにも分からない。
が、考えても詮無いことである。神社に飛んでいく途中で、謝罪の証左としてパパラッチから強奪せしめたおむすびをふたつ、霊夢に放ってやる。
瞬間。ぱくり、と音がしたかと思うと、そこには頬をハムスターよろしく膨らませた赤貧巫女がたたずんでいた。猛禽類を想起させるその目は、とかくぎらぎらと光って怖いったらありゃしない。お姉様いわく、霊夢を手なずけるのは食から、だそうだけれど、なるほどこれならば納得出来る。
「お手」
「あいよっ!」
やりやがったぜ、この巫女。食いもんのためには、プライドなんて路傍の石よ塵芥よとばかりに蹴っ飛ばすのか。
私の前に膝立ちになり、まるでかしずくようなたたずまいのままにお手をする霊夢は、ぶっちゃけ無様だった。けれど、まあ、ちょっと可愛いかな、と思ったりもしなくもない。お姉様みたいに暴走はしないけれど。
しかし、やることがない。お姉様や咲夜が暴走した際は、小一時間ほど待機しないと、ほとぼりがおさまらない。神社に行けば誰かがいると思ったんだけれど、予想に反して霊夢しかいないし。
仕方ない、と私は心の中だけでつぶやき、霊夢で遊ぶことにした。
「おすわり」
「あいよっ!」
「棒立ち」
「はいっ!」
「寝そべって」
「ういっす!」
「ジョジョ立ち」
「だが断る」
「逆らった!?」
すげぇ、すげぇよこの巫女! おむすびふたつだけでころころと動きやがる! 威厳ゼロだよ! ぶっちゃけ、巫女というより食の奴隷だよ! そういえば、神社の周りにある雑草が全てなくなっていたんだが・・・・・・まさか、ありえない、よね・・・・・・?
私がそんなことを考えていると、神社に飛んできた影がふたつ。ひとつは、黒白の衣装に身を包んだ魔法・・・否、魔砲使いである魔理沙。もうひとつは、孤独で友達がいないともっぱらの噂である人形使い、アリス。
知っている人が来てくれる、というのは素直に嬉しいんだけれど。ぶっちゃけこの状況じゃ喜べない。だってふたりとも、目がぎらぎらと輝いているんだもの。お姉様のアレを想起させるような、猛禽類の如き輝きを放つ双眸が、私の瞳をとらえて放さないんだもの。
素直に言っちゃえば、しょんべん漏らすくらいに怖い。今のふたりは、鬼気というものが全身に満ち満ちている。どことなく春色の香りがするのは、神社をとりまく桜のせいか、はたまた・・・・・・やめよう、これ以上考えると気が狂う可能性が高い。
「なあ霊夢、モッヂボールやろうぜ」
「帰れボケ」
魔理沙の誘いを、刹那の間に切って捨てる霊夢。その横ではアリスがいつの間にやら、人の面が浮かんだ球体を用意していた。なんか、五郎がどうたらこうたら、とか言っているけれど、私にはなんのことか分からないので無視しておいた。
魔理沙は、ちぇ、とつぶやくと同時、アリスと一緒にどこからともなく風呂敷包みを出す。ちょっとだけ芳醇な香りが、私の鼻腔をさした。
「まぁ、なんだ。差し入れをもってきたから一緒に食べないか、と言いたかったんだ」
「最初からそう言いなさいよ、全く・・・・・・」
「フランも一緒に食べるか?」
魔理沙がこちらを見ながらそう言ってきたけれど、私は首を横に振った。なんとなしに、なんとなしにではあるが、悪い予感がしたからだ。先程まで猛禽的双眸がぎらぎら輝いていたふたりが、瞬時にして聖母の如き慈愛に満ちあふれた笑顔を振りまくなんて、違和感がありすぎる。
私は丁重にお断りをして、神社から飛び去った。正直、このままここにいても何か良くないことが起こりそうだ、と私の脳味噌が警報を鳴らしていたから。
私が神社から逃げる際、背後でアリスがぶつぶつと「一緒に、友達と一緒にモッヂボールやるのが夢だったのに・・・・・・。いいんだ、どうせかみさまはわたしにしあわせをくれないんだ。だってそうよね、まりさもれいむもみんな、わたしがともだちだとおもっていても、むこうはそうとはかぎらないものねうへへへへぺぺぺぺぺぺぺ」とか言っていたような気がするけれど、振り向いたら負けかなと思っていたので振り向かなかった。ぶっちゃけ、背後からの鬼気が重すぎて、あと少しで下着に染みをつくるところだった。
「あら、桜餅じゃない。うん、美味しいわ・・・・・・ね?」
「かかったわね、霊夢! その桜餅は痺れ薬入りィィーー! 冬を越したから食料の備蓄もない貴女が、これぞとばかりに手に入れたタナボタ的幸せの中には、幾重にも織り込まれたトラップがかかっていたのよォーッ! ああ、あは、あはははハアハア・・・・・・! う、うごけない霊夢をやっちゃって、私、と、飛んじゃう! とんぢゃいますのォォォほォォォォーーーーッ!」
「そーいうことだ、悪く思うなよ。万年腋を丸出しにして、私たちが毎晩どんな想いでベッドのシーツを干しているのか、お前はいっつも知らない・・・・・・」
「いや、そんなの知りたくないっていうか、ちょ、やめれ、変なところ触んな、この七色全色桃色変態妖怪! プラス、黒白変態スケコマシィィィィィ!」
「さあ、お前の下腹部から流れ出る清らかで透明な液体で、私たちの官能的な曲線を更に淫靡にしてくれることを希求するぜぇぇぇぇぇっ!」
「ウヘ、ウヘへ・・・・・・! レイムレイムレイムレイムゥゥゥゥ・・・・・・!」
「うっぎゃぁああっ! 私は召喚騎士二式のボスキャラじゃねぇぇぇぇぇっ!」
あ、やっぱり逃げて正解だったわ。強く・・・・・・生きて、霊夢。願わくは、楽譜に記載されている記号、フォルテのように、強く。
「月代さぁぁぁぁぁん! 私に力を! サニーナックル!」
「「いや、誰そいつ・・・・・・うっぎゃぁぁぁーっ! ごが、ごががぁっ!」」
館に戻っても、暴走したお姉様に逝かされそうだったので、とりあえずとばかりに人里付近まで来た。あの歴史を食べちゃうワーハクタクが守っているところだ。
最初は、あの黒髪ニート姫がいるところでもいいかも、と思っていたんだけれど、よくよく考えてみれば、あのニートの従者はロリコンで変態だった。ちょっと前に『お医者さんごっこ』されそうになったし。ちなみにその時は、ちょっと分の悪い賭けだったけれど、スペルカード全力をゼロ距離でぶちかまして逃げた。ナンブ少尉の教えも、なかなか捨てたもんじゃないと思う。
私は現在、あるひとつの丘の上に腰を下ろして、里の人間が働いていくさまを長めている。くわを使って畑を耕したり、水汲みをしたりして、皆が目まぐるしく動いている。とても大変そうだけれど、皆の顔は全然嫌そうじゃない。多分、あのワーハクタクが守っているからだろう。だから皆、生き生きとしているんだろう。
私はしばしの間、彼らが働く様子を見ていた。時間を潰すにはちょっと退屈だったけれど、そこから離れたくなるほどでもない。お姉様と咲夜の心が落ち着くまで、のんびりと木陰に隠れながらまどろむのも良いだろう。
そう思った瞬間だった。
絹を引き裂いたような悲鳴が、里にこだまする。私は落ちかけていたまぶたを無理矢理に押し上げて、向こう側の光景を見てみる。
そこには、妖怪らしき影がひとつ。獣の顔を持ちながらも、四肢は人間にきわめて近しい、かような姿の存在がそこにあった。
私は思わず飛び出しかけたが、頭上にさしている傘の存在を覚え、たじろぐ。傘をさしながら戦闘することなど、無理難題にも程があろうというものだ。大体にして、この里を守るべき存在である、あのワーハクタクはどこに? 私がそう考えながら丘を降りるべく飛び出したその時だった。
「駄目だよ、慧音・・・・・・。こんな真っ昼間から」
「いいじゃないか妹紅・・・・・・。私をこんなにさせたお前が悪いんだからな」
「あ、けーねぇ・・・・・・」
こけた。
ズッシャァァァッ、と擬音が付きそうなくらい、私は盛大にこけた。別に他人の趣味にどうこう言うつもりはないんだけれど、妖怪ほっぽって乳繰り合うとは思わなかった。恋は盲目とかよく言うけれど、いや、これは盲目すぎるだろ。ぶっちゃけ駄目だ、こいつら駄目だ。ワーハクタクは不死のサスペンダー巨乳と乳繰り合っている、ときたもんだ。笑い話にもなりゃしねぇ。
「うっおーーーー! くっあーーーー! ざけんなーーーー!」
私は叫びながら丘の近くの竹林へ、弾丸よろしく突っ込み、ひとつの民家を見つけてそこにアタック。
案の定、そこでは、部屋の真ん中でハクタクとサスペンダーがひとつの布団の上でキャッキャウフフなことをしていたが、ぶっちゃけ穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚めた私にそんなことは関係ない。ハクタクとサスペンダーの横っ面をぶっ飛ばすと、妖怪が里に来たことを教えてやった。このフランドールに、無抵抗は武器にはならぬ!
ふたりは慌てて、半裸に近いままにどたばたと外に出て行ってしまい、民家に残されたのは私だけ。部屋の中は、なんというか、甘い匂いが漂っていた。どこか乳臭いながらも、花のように甘く、嗅いでいるだけで頭の中がぼうっとなって、思わず体の一部が切なくなるような・・・・・・、というところまで考えて、私は慌てて平静を取り戻す。
やはり、春の力なのだろう。あの生真面目なハクタクでさえ、下半身と脳味噌を直結させてしまったのだ。春の力、恐るべし、と言いたいところなんだけれど、幻想郷にいる大半が変態の素質を秘めているのも、原因といえば原因だと思う。
つーか、なんで私はこんな変態集団の中で生きているんだろう? 実の姉まで変態になっちゃったし、もう泣きたい気分でいっぱいになった。
気分を変えるべく、私は新たな場所を求めて飛んでいく。正直、後であのふたりに反撃されるのが怖かった、というのも原因と言えば原因なんだけれど。
私はふらふらと森の中をさまよい、ひとつの家屋の前までたどり着く。木造の、普通の小屋だ。その染み付いた壁からは、どこか歴史の匂いが感じられる。
とりあえず、とばかりに私はその家屋の扉に向かい、ノックを二回して、取っ手に手をかけて、開ける。
「やあ、見慣れないお嬢さんだね。ようこそ香霖ど」
バタン、と扉を反射的に閉めた。
見てない。
私は褌なんて見ていないし、あまつさえいい笑顔をした青年なんて見ていない。いやいや、ぶっちゃけありえないだろ。なんか部屋の内装からして、骨董品店みたいな雰囲気だったけれど、中はそれなりに清掃が行き届いていたけれど、でも、店主が褌一丁なんて絶対にありえないだろ。と言うより、それを見ていないことが前提であるからして、ディティールを話すのはこれ無矛盾製に反していると言えなくもないようで・・・・・・。
とりあえず念のため、怖いもの見たさでもう一度開けることにした。
がちゃり、と。
「フゥ・・・・・・いきなり退出するなんて、いけないお嬢さんだ。もしかすると、この肉体美に酔っちゃったのかな? かな? いやいや、みなまで言わなくて良い、僕のこの筋肉の素晴らしさたるや、他に比べるものが見つからないほどだろう。確かに女性らしき丸みを帯びた曲線の美しさは評価に値するが、男性は男性でこのように、筋肉という無骨ながらも官能的ですらある複雑怪奇なフォルムをその四肢のみならず胸にも腹にも存分に付けることが可能であり、こと美術という面においてはこれほどの流麗な線を」
閉めた。亜音速とかそういったレベルじゃなくて、二重の極みどころか十重二十重の極みにも匹敵するくらいの速度で、私は扉を閉め・・・・・・否、封印をかけた。
この瞬間、私が生きる中で最も恐ろしい季節は、春に決定した。同時に、ちょっと男性恐怖症になった。だって思い出せば褌、フンドシ、ふんどし・・・・・・。
私が気分を悪くし、えづきかけると、背後から『ガチャリ』という音が聞こえてきた。
つまりは。
「いきなり逃げるなんて、あーん、こーりん、困っちゃうぅ~!」
「ウッギャァァァァァァァァァァ嗚呼アアァァァァァァァッァアッァァァ亜ァァァ!!」
私は背後を振り返らずに、一目散に逃げた。それこそ、目にも留まらぬ速度で。
ああ、お姉様、今なら分かります。私を外に出さなかった理由。そりゃ、こんな魔境が幻想郷にあると知っていたんなら、可愛い妹を外に出そうとはしませんよね、アハハ、マジ死にてぇ。
私は半ば泣きながら紅魔館へと戻った。ふらふらと、頼りないさまで飛んで戻った。いや、春は怖いね、本当に怖い。
心身共に疲れ果てた私にとって、地下室へと戻るのはある意味安らぎの瞬間でもあった。ぶっちゃけ、春にはあまり出回りたくない。
私が憔悴しきった顔のままに、自室へと戻ろうとして廊下を歩いていれば、いつの間にやらお姉様が私の横にたたずんでいた。言葉をかける気力すら失った私は、うつろな瞳でお姉様に、何か用があるのかと問いかけてみる。
「フラン、ちょっと話があるの。地下室へ行きましょうか」
なんとお姉様は物凄く真面目な顔で私の方を見、有無を言わせぬ口調でそう言葉を紡ぎ、私の前を歩いていった。その表情からは、ついちょっと前まで霊夢霊夢と色ボケしていたような雰囲気は微塵も感じられず。
私は多少、訝りながらもお姉様の後ろを歩き、目的地にたどり着いた。薄暗い地下室は、昼も夜も季節も関係ない。けれど、あの春爛漫の光景よりかはいくぶんかマシである。お姉様はベッドに腰かけ、私もそれにならった。
話とはなんだろうか。そう考えていると、いきなりお姉様は私に向かって頭を下げてきた。それこそ、がばぁ、と音がしそうな勢いで。
「ごめんなさい、フラン。私は大局を見ていなかった。非常に、微視的だったわ」
いきなりそんなことを言うお姉様を見て、私は瞠目しながら小首をかしげるという、非常に奇妙な行動をとってしまった。
「私、駄目ね。春だからといって浮かれすぎたのよ。霊夢のことは確かに好きよ。けれど、それにかまけてばかりで、部下やその他の人たちとのコミュニケーションがおろそかになっていた。咲夜とのプレイも一週間に二度という駄目っぷりだし、中国の夕張メロンもいじっていないし、最近はパチェと新型媚薬の研究もしていなかった・・・・・・」
もうどこから突っ込んで良いのか分からなかった。お姉様は相変わらず変態のままだった。私に謝っている理由も分からないし、お姉様の考えは私に読めなかった。
しかし、その疑問はすぐに氷解する。
「最近は、貴女と遊んでいられる時間も減っちゃったし・・・・・・ね?」
「あ・・・・・・」
そう言われて、私はやっとのこと気付いた。お姉様は変態になってから、よく霊夢のいる神社へと遊びに行っていた。そこで熱烈なアプローチをして、全身を針と札だらけにして帰ってくるのが日常だった。
外出する、というのは、それなりに準備の時間がいる。お姉様はよく外出するあまり、館にいる時間も少なくなり、必然的に私のもとへ来る回数も減ることになった。
いくら咲夜や門番やもやしと遊ぶ私とは言えど、やっぱりお姉様は特別なのだ。姉妹水入らずで、ちょっとじゃれ合いたい時だってある時はある。最近、胸に感じる不満感は、もしかすると姉妹のやり取りが足りなくなっていたからなのかもしれない。
「だから、今から遊ぼうと思ったんだけれど、迷惑だったかしら・・・・・・?」
そんなことはない、と私は叫ぶように言い、腕と首をぶんぶんと横に振ってみせる。不安げな顔をするお嬢様を安心させたかったのもあるけれど、お姉様と姉妹の語らいが出来るということに、嬉しさを覚えたからだ。
だから私はにっこりと微笑んで、お姉様に言う。
「遊ぼう、お姉様」
対するお姉様は、私の言葉を聞くと、太陽のような笑みを浮かべ――
「・・・・・・ゑ?」
私をベッドに押し倒した。
「いいのね? いいのね、フラン? 遊んじゃうわよ、遊んじゃうわよ? 本当にごめんなさいね、いつも霊夢や咲夜やパチェばかりに構っていたせいで、私は大局を見逃していた・・・・・・! そう、やっぱり実の妹と『遊ぶ』ことこそ真実だと!」
あおむけになった私の上に、馬乗りになるようなかたちで、お姉様は豪語する。よだれも鼻血も垂れ流しにするその姿は、生半可なスプラッター映画の犯人よりも怖い。今のお姉様ならば、テキサスで起こったチェーンソー事件にも乱入出来そうだ。
私は、驚愕と恐怖と混乱のあまり、お姉様に押し倒されたまま動けなかった。それでも、なんとかお姉様に対して疑問を投げかける。
「いや、ちょっと、お姉様、どういうこと?」
「ああ、もう! 分かっているくせに! 私、霊夢の腋や貧乳やリボンに見とれて、あふれるパッションをもてあましていた・・・・・・。けれど、貴女が散歩に出てしまい、ふと下腹部を襲うキュンとした切なさに気付いた瞬間、私の心がエレクチオンしたのよ!
そう、やっぱり時代は、『妹萌え』よね! 義理の妹? なんスかそれは、美味しいんスか? やっぱり実の妹、という点が萌える訳よ! 分かる? 『駄目、お姉様、私たちは血を分けた姉妹なのよ・・・・・・?』『そんなこと関係ないじゃない、ふたりで楽しみましょう?』『ああっ、お姉様ぁ・・・・・・』という、禁断のプラグマティックエロスゾーン! 義理という関係は血が繋がっていないという点があるからこそ、踏み込みの速度が足りなくなり、背徳感なんぞ欠片もなくなる!
実の姉妹で遊ぶこと、それは、後ろ盾がない背水の陣プレイィィィッ! 超絶ロリータ姉妹が繰り広げる、百合百合な関係! しかも血を分けたことによる背徳感で、遊○王の強化カード並みの補正がかかることになる!
さあ、私の可愛い可愛いフラン! いっしょに楽しみましょおおおおぉぉーーー!!」
お姉様の魔手が迫るその光景を、私はスローモーションの世界で見ていた。これぞまさに、黄金体験。ゆっくりとお姉様の食指が、私の服のえりにかかる光景を見ながら、私はふと、とりとめもないことを考える。
つまり、お姉様は変態で、季節は春。霊夢によって開花した変態の度合いは、いつしか春という名の補正を受け、青空に舞い散る蝶の如く華麗な変化を遂げたということだ。とにもかくにも、外の世界も危険なんだけれど、お姉様自体も危険だということはよっく分かった。紅魔館にいる時点で、あなたもうアウトですからぁー! ざんねーん!
お姉様がもとから、妹萌え、なる素質をもっていたのか、私には分からない。ただひとつ、いや、ふたつ分かることがある。
この状況下、私は絶対に逃れられない、ということ。
それと、春の力は恐ろしいということ。
そんなことを考え、私は服を脱がされながらも、あらんかぎりの声で絶叫した。
「春なんて、だぁいっきらいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
(空を飛んでいたリリーがくしゃみをしたことを確認しつつ、終局)
それを差し引いても面白くないと思った。
2chネタは結構だがそもそもあなたの文章は下品だ。
-30どころか-100くらいつけたい。
最初から最後までニヤニヤできました。
ただまあ、肉虫さんに限らず、最近の創想話は
それこそ「春」過ぎると思うよ... ほんと。
あと、謙遜は大事だけど卑下は良くないし、ましてや
コメントにそれを書くのは反感を生むだけだと思う。
ネタが分かれば楽しめるのかはまったく解りませんが。
…ギャグよりシリアスに偏向したほうが良いのでは?
ですが、タイトルは変えた方がいいような気がします。
タイトルを基準に読むかどうか決める方もいるかも知れませんので。
他の方は思うところがあるようですが、他の方のパロディ作品の元ネタもほとんど分からない私からすればどう違うのだろう?という感じです。
つーか言うほど2chネタがあったようには思えないんだが…。
リアルタイムでボンボン餓狼読んでた僕としては吹き出す前にノスタルジーがあふれ出しそうで
私に得点をつける資格など無いので、
得点の方は控えさせていただきます。
ネタがマニアックすぎると思う。
他の方も指摘してましたが、メリハリがあると尚良いと思います。
終始ウルトラハイテンションなのもそれはそれでいいですが、合間合間で閑話を休題すれば破壊力が爆発的に高まるかと。弛緩と緊張の振れ幅が笑いの要ですよ。
無矛盾製→性ですかね。
数あるネタには笑わせていただいたので、そのあたり個人的によかったとは思いますが、少々「やりすぎ」感はあったとも感じております。
評価が難しいので、無換算にて失礼いたします。