幻想郷の湖べりには紅魔館という名前のごとく紅に塗り尽くされた館が聳えている。
そこは吸血鬼が治める館であり、中には無数の妖精メイドたちが縦横無尽に飛び回り、威厳と活気の双方を備えている。
知る者は少ないが、真夏のとある日に、レミリアが一週間も部屋から出られなくなってしまうような、そんな事件が起きた。
放たれるは新たなる領域 - Another Border
普段であれば、紅魔館の当主、レミリア・スカーレットの一日は、彼女の有能な従者である十六夜咲夜に揺り起こされる事で始まる。
しかし、今日に限っては別であり、レミリアの眼は普段起きる時分より1時間ほど早い朝7時には既に覚めていた。
レミリアはベッドから飛び起きると、興奮を隠せない様子で羽根を上下にゆらゆら動かしながら、昨晩に咲夜とともに香霖堂なる店で購入した衣服を取り出した。
それは上下とも外の世界ではきわめて一般的な服装であり、香霖堂の店主が外の妖怪から数点入手した、特に下に穿くものは幻想郷では極めて珍しい品であるそうだ。
名をば、上に着るものはワイシャツ、下に穿くものはジーンズという。
これを目に留めた瞬間から、レミリアの心はその2点の服に捕らえられてしまった。
珍しい物を好むレミリアにしてみれば、ジーンズなるものは非常に魅力的だったのである。
彼女は直ぐにも咲夜にこれらを買うよう命令し、白かったワイシャツの方は、友人のパチュリーに頼んで、ちょっとした魔法で紅く染めてもらった。
ジーンズの方は青と黒とがあり、レミリアは随分とどちらにするかを悩んでいたのだが、見かねた咲夜の「赤と黒などは様式美にのっとっておりよろしいのではないでしょうか」という進言により、黒を購入する事に決めたのである。
レミリアは手早く寝巻きを脱ぎ放り投げ(後に咲夜にくどくどとしかられる事になるのだが)、目をらんらんと輝かせ、その2点を身につけた。
ところが、いざジーンズを穿こうと思い立ったはいいものの、レミリアはあることで悩み始めてしまった。
ワイシャツを中に入れるか、外に出すか、である。
これには(当人曰く)決断力のあるレミリアも随分と悩み、結局コインを投げ、裏か表で決める事にした結果、表が出たため、ワイシャツは中にしまう事にした。
余談だが、ワイシャツは、咲夜が夜なべをして改造した(裁縫はあまり得意ではないようである)羽根を通せるレミリア特製仕様である。
さて、着てみたはいいものの、レミリアの部屋には鏡という物が存在しなかった。
これでは似合っているかどうかの判断がつきかねる。
困ったレミリアは、とりあえず彼女の従者を呼んでみることにした。
「咲夜ー」
すると、次の瞬間には彼女の目の前に長身のメイドが現れた。
知らない人間が見れば瞬間移動のようにも思えるかもしれないが、実際は時を止めてその中を動いているだけである。
……要するに瞬間移動である。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「どう?早速着てみたんだけど、似合ってる?」
興奮を抑えきれずに、はしゃいだ調子でレミリアは咲夜に尋ねた。
咲夜は上から下へと目を遣ると、急に顔を赤らめ、顔をそむけながらも、
「ええ、とてもよくお似合いですわ」
と答えた。
「咲夜、何故顔をそむけるの?」
もしかすると似合わなかったのだろうか、と不安に思い、レミリアは声を抑えて問い掛けた。
すると、咲夜は「しまった」というような顔をして、直ぐに取り繕った笑顔になり、
「それはお嬢様があまりにも愛らしいからですわ」
と世辞をこめて返した。
ところが浮ついていたレミリアは、それを額面どおりの言葉として受け取ってしまった。
加えて、咲夜が頬を赤らめながらちらちらとこちらの様子を伺っているのだから、レミリアのちょっとした勘違いは確たる物となってしまった。
レミリアは思った、咲夜はきっと、いつもと雰囲気が違う自分を見てかわいいと思ってしまったのだ……いや、もしかしたら惚れてしまったのかもしれない。
以前パチュリーのところで読んだ本曰く、服装や髪型という物は、少し変えるだけでも随分と違う印象を相手方に与えるらしい。
恐らくは、いつものフリルのスカートでは無くジーンズを穿いた私が醸し出す雰囲気は、咲夜の趣向とぴったりあってしまったのに違いない。
主に恋する従者……なんともむず痒くなるような構図ではないか。
気をすっかり良くしてしまったレミリアは、咲夜に外に一緒についてくるように命令した。
いつものスカートと違い、ジーンズならば飛行中に下着を見られる恐れもない。
氷精あたりに自慢してこようとレミリアは喜び勇んでいたのだが、咲夜の一言は彼女の期待を裏切る物であった。
「お嬢様、残念ながら、昨晩お嬢様がはしゃぎすぎた所為で、日傘が壊れてしまっています。それに、今日は例日より日差しもずっと強いですから、外出はお控えくださいませんか」
レミリアは思わず頭を抱えた。
そういえばそうであった。
はしゃぎすぎてたたんだ日傘を持って飛び回っていたとき、勢い余って日傘を樹にぶつけてへし折ってしまったのだ。
これでは外出のしようがないではないか。
意気消沈したレミリアは、咲夜に下がるように言付け、地下の大図書館にいる友人のパチュリーにでも自慢する事にした。
去り際まで、咲夜は顔を赤らめたままで、顔を逸らしつつもちらちらと目でこちらを伺う事をやめなかった。
主が吸血鬼という事もあり、紅魔館の廊下には窓が少ない。
あったとしても、さほど日光を取り入れるような方向にはついていないものが多く、レミリアは日中であっても廊下を悠々と歩く事ができた。
廊下は数多の妖精メイドたちで賑わっており、時々咲夜に叱責されながらも、不器用ながら己の任を全うしていた。
最も、大半は自分のことで手一杯であったが、中には有能なのもいて、そういったものたちは咲夜に命じられるまま廊下の掃除や厨房、果ては外の花壇の手伝い等も任されていた。
そういったわけで、レミリアの横を妖精メイドたちが慌しく通り過ぎていったのだが、その誰もが時に驚いたような表情で、時に珍しそうな表情で、時には頬を染めて、レミリアを一見しながら飛び去っていった。
普段であれば、妖精メイドたちはレミリアに対する畏怖と職務の忙しさで彼女には目もくれず飛び去っていくのであるが、今日は勝手が違ったようだ。
レミリアは彼女らの珍しい反応に大いに満足し、満足感と充足を新たに得、外出できないと知って落ち込んだ気分も取り戻し、勢い新たに友人の元へと向かったのであった。
***
紅魔館地下大図書館は、無限とも思える蔵書を備えた幻想郷随一の書庫である。
そこには貴重な魔導書が幾多も収められており、魔法使い達にとっては垂涎の逸品も数多く存在していた。
また、そこの実質的管理人である魔女パチュリー自身によって執筆された所も多く存在しており、貴重な知識の宝庫となっていることは疑うべくもなかった。
レミリアも時折図書館を利用しており、魔導書こそ読めないものの、これまた数多く存在する外の世界の本を読むのに重宝していた。
また、本を読む目的では無くとも、友人を尋ねるために3日に2回は訪れる場所であった。
レミリアは図書館の前に立つと、その重い扉を軽々と開いた。
外見年齢が幼く、一見ひ弱そうなレミリアだが、吸血鬼という種族に属する故に、その身体能力は非常に高い。
目にもとまらぬ速さで移動し、岩を軽々と砕くその腕力は、多くの種族から畏怖され、吸血鬼を強者足らしめていた。
図書館の中はとても埃っぽく、換気が必要なのは明らかであった。
しかし、地下に存在するが故に窓は無く、仮にあったとしても、パチュリーが日光を嫌っていたのでどちらにせよ塞がれていたであろうことは明白であった。
パチュリーの姿は図書館内では容易に捜すことができた。
魔力を辿っていけばよいだけだからである。
「パチェ」
レミリアは本に執心の様子の友人に声をかけた。
「昨日の服着てみたんだけどどうかな?」
パチュリー・ノーレッジは齢が100を超えていながらも、見た目は10代前半の少女だった。
長い紫の髪に、白く痩せた体が特徴的で、そんな彼女がほの暗い図書館の中で本を読む姿は一種幻想的ですらあった。
喘息持ちで時折咳き込んでいる事も、病弱な印象を与え、儚さという美しさを付与していた。
「あらレミィ、ご機嫌ね」
早口でぼそぼそとパチュリーは挨拶した。
この喋り方の所為で、咳き込まれると何を言っているのかが非常にわかりづらい。
レミリアは何度かもっとはっきりしゃべるといい、といってみたのだが、パチュリーは改善する様子を見せなかった。
「……思ったよりずっと似合ってるわね、驚きだわ」
パチュリーは咲夜がそうしたように、好奇の目でレミリアを観察し始めた。
レミリアはちょっと気恥ずかしさを感じ、
「どう?なかなか新鮮でしょう?」
などといって気を紛らわしていた。
すると、パチュリーも、咲夜がそうしたように、急に顔をそむけてしまった。
例によって頬は紅潮しており、パチュリーの場合は元が色素がかけたような肌だったため、それが余計レミリアの目に付いた。
「あら、どうしたの、パチェ?」
パチュリーは、はっとして気まずそうな笑みを浮かべた。
そして、顔を伏せ、やはりちらちらとレミリアの様子を伺いながら、
「……黒なのね、レミィ。似合ってると思うわ、確かに新鮮ね」
と控えめに、どことなく照れ臭そうに答えた。
レミリアはこの返答にとても気を良くして、それからはずっとパチュリーの元で雑談をしていた。
パチュリーは少しどぎまぎしながらも、いつもより饒舌にレミリアとお喋りをし、レミリアをさらに上機嫌にさせた。
時々レミリアの様子を、顔を本にうずめながらも目の端でちらちらと確認する事は怠らなかった。
***
さて、レミリアは寝室に戻ってからパチュリーの態度を咲夜時と同じように解釈した。
恐らく私の少し活発そうな服装をみて、私の魅力を再認識してしまったのだろう、と。
自分の友人にこのようなかわいらしい一面があったことに少しおどろくと同時に、パチュリーのいじらしい態度を思い出すと自然と顔がほころんだ。
それと同時に、自分の新たな一面を引き出してくれた服にも多大な感謝を与えた。
まさに、自分の新たなる領域が開かれたような気がして、レミリアは寝るまでの時間をずっと笑顔のまま過ごした。
さて、そろそろ眠くなってきたレミリアは咲夜に寝る旨を伝えてから寝ることにしようと思った。
言っておけば咲夜が間違えて部屋をノックする事もないだろう、以前、一度だけ寝巻きに着替えている最中に咲夜が入ってきてとても気まずい思いをした記憶があるのだし。
「咲夜ー」
そう言い終わるか言い終わらないかの間に、瀟洒なメイドはぱっと姿をあらわした。
最初は毅然とした表情をしていたが、それも一瞬の事で、また今朝のような態度に戻ってしまった。
今回はレミリアは自分なりに咲夜の態度の理由に関する結論を出していたので、心の中で笑みながら、用件を手早く伝えた。
「いまから着替えて寝るから、呼ぶまで入ってこないように」
咲夜は、「承知しました」と軽い礼をし、部屋から出て行こうとしたが、ふと思い当たる節があったのか、立ち止まり、振り返ってこういった。
「あの、大変申し上げにくい事があるのですが」
レミリアはなんだろうかと疑問に思った。
もしかすると、もしかするのだろうか。
告白、というやつなのだろうか。
確かに私は魅力的かも知れないし威厳もあるし……。
ああ、どうしよう、このまま従者と禁断の恋に……。
そんなレミリアの思考をさえぎるように、咲夜は顔を真っ赤にして、一息で要件を告げて、走り去った。
「ズボンのチャックが開いたままです!」
レミリアは生まれてはじめて、日光という弱点がありがたく感じられた。
そこは吸血鬼が治める館であり、中には無数の妖精メイドたちが縦横無尽に飛び回り、威厳と活気の双方を備えている。
知る者は少ないが、真夏のとある日に、レミリアが一週間も部屋から出られなくなってしまうような、そんな事件が起きた。
放たれるは新たなる領域 - Another Border
普段であれば、紅魔館の当主、レミリア・スカーレットの一日は、彼女の有能な従者である十六夜咲夜に揺り起こされる事で始まる。
しかし、今日に限っては別であり、レミリアの眼は普段起きる時分より1時間ほど早い朝7時には既に覚めていた。
レミリアはベッドから飛び起きると、興奮を隠せない様子で羽根を上下にゆらゆら動かしながら、昨晩に咲夜とともに香霖堂なる店で購入した衣服を取り出した。
それは上下とも外の世界ではきわめて一般的な服装であり、香霖堂の店主が外の妖怪から数点入手した、特に下に穿くものは幻想郷では極めて珍しい品であるそうだ。
名をば、上に着るものはワイシャツ、下に穿くものはジーンズという。
これを目に留めた瞬間から、レミリアの心はその2点の服に捕らえられてしまった。
珍しい物を好むレミリアにしてみれば、ジーンズなるものは非常に魅力的だったのである。
彼女は直ぐにも咲夜にこれらを買うよう命令し、白かったワイシャツの方は、友人のパチュリーに頼んで、ちょっとした魔法で紅く染めてもらった。
ジーンズの方は青と黒とがあり、レミリアは随分とどちらにするかを悩んでいたのだが、見かねた咲夜の「赤と黒などは様式美にのっとっておりよろしいのではないでしょうか」という進言により、黒を購入する事に決めたのである。
レミリアは手早く寝巻きを脱ぎ放り投げ(後に咲夜にくどくどとしかられる事になるのだが)、目をらんらんと輝かせ、その2点を身につけた。
ところが、いざジーンズを穿こうと思い立ったはいいものの、レミリアはあることで悩み始めてしまった。
ワイシャツを中に入れるか、外に出すか、である。
これには(当人曰く)決断力のあるレミリアも随分と悩み、結局コインを投げ、裏か表で決める事にした結果、表が出たため、ワイシャツは中にしまう事にした。
余談だが、ワイシャツは、咲夜が夜なべをして改造した(裁縫はあまり得意ではないようである)羽根を通せるレミリア特製仕様である。
さて、着てみたはいいものの、レミリアの部屋には鏡という物が存在しなかった。
これでは似合っているかどうかの判断がつきかねる。
困ったレミリアは、とりあえず彼女の従者を呼んでみることにした。
「咲夜ー」
すると、次の瞬間には彼女の目の前に長身のメイドが現れた。
知らない人間が見れば瞬間移動のようにも思えるかもしれないが、実際は時を止めてその中を動いているだけである。
……要するに瞬間移動である。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「どう?早速着てみたんだけど、似合ってる?」
興奮を抑えきれずに、はしゃいだ調子でレミリアは咲夜に尋ねた。
咲夜は上から下へと目を遣ると、急に顔を赤らめ、顔をそむけながらも、
「ええ、とてもよくお似合いですわ」
と答えた。
「咲夜、何故顔をそむけるの?」
もしかすると似合わなかったのだろうか、と不安に思い、レミリアは声を抑えて問い掛けた。
すると、咲夜は「しまった」というような顔をして、直ぐに取り繕った笑顔になり、
「それはお嬢様があまりにも愛らしいからですわ」
と世辞をこめて返した。
ところが浮ついていたレミリアは、それを額面どおりの言葉として受け取ってしまった。
加えて、咲夜が頬を赤らめながらちらちらとこちらの様子を伺っているのだから、レミリアのちょっとした勘違いは確たる物となってしまった。
レミリアは思った、咲夜はきっと、いつもと雰囲気が違う自分を見てかわいいと思ってしまったのだ……いや、もしかしたら惚れてしまったのかもしれない。
以前パチュリーのところで読んだ本曰く、服装や髪型という物は、少し変えるだけでも随分と違う印象を相手方に与えるらしい。
恐らくは、いつものフリルのスカートでは無くジーンズを穿いた私が醸し出す雰囲気は、咲夜の趣向とぴったりあってしまったのに違いない。
主に恋する従者……なんともむず痒くなるような構図ではないか。
気をすっかり良くしてしまったレミリアは、咲夜に外に一緒についてくるように命令した。
いつものスカートと違い、ジーンズならば飛行中に下着を見られる恐れもない。
氷精あたりに自慢してこようとレミリアは喜び勇んでいたのだが、咲夜の一言は彼女の期待を裏切る物であった。
「お嬢様、残念ながら、昨晩お嬢様がはしゃぎすぎた所為で、日傘が壊れてしまっています。それに、今日は例日より日差しもずっと強いですから、外出はお控えくださいませんか」
レミリアは思わず頭を抱えた。
そういえばそうであった。
はしゃぎすぎてたたんだ日傘を持って飛び回っていたとき、勢い余って日傘を樹にぶつけてへし折ってしまったのだ。
これでは外出のしようがないではないか。
意気消沈したレミリアは、咲夜に下がるように言付け、地下の大図書館にいる友人のパチュリーにでも自慢する事にした。
去り際まで、咲夜は顔を赤らめたままで、顔を逸らしつつもちらちらと目でこちらを伺う事をやめなかった。
主が吸血鬼という事もあり、紅魔館の廊下には窓が少ない。
あったとしても、さほど日光を取り入れるような方向にはついていないものが多く、レミリアは日中であっても廊下を悠々と歩く事ができた。
廊下は数多の妖精メイドたちで賑わっており、時々咲夜に叱責されながらも、不器用ながら己の任を全うしていた。
最も、大半は自分のことで手一杯であったが、中には有能なのもいて、そういったものたちは咲夜に命じられるまま廊下の掃除や厨房、果ては外の花壇の手伝い等も任されていた。
そういったわけで、レミリアの横を妖精メイドたちが慌しく通り過ぎていったのだが、その誰もが時に驚いたような表情で、時に珍しそうな表情で、時には頬を染めて、レミリアを一見しながら飛び去っていった。
普段であれば、妖精メイドたちはレミリアに対する畏怖と職務の忙しさで彼女には目もくれず飛び去っていくのであるが、今日は勝手が違ったようだ。
レミリアは彼女らの珍しい反応に大いに満足し、満足感と充足を新たに得、外出できないと知って落ち込んだ気分も取り戻し、勢い新たに友人の元へと向かったのであった。
***
紅魔館地下大図書館は、無限とも思える蔵書を備えた幻想郷随一の書庫である。
そこには貴重な魔導書が幾多も収められており、魔法使い達にとっては垂涎の逸品も数多く存在していた。
また、そこの実質的管理人である魔女パチュリー自身によって執筆された所も多く存在しており、貴重な知識の宝庫となっていることは疑うべくもなかった。
レミリアも時折図書館を利用しており、魔導書こそ読めないものの、これまた数多く存在する外の世界の本を読むのに重宝していた。
また、本を読む目的では無くとも、友人を尋ねるために3日に2回は訪れる場所であった。
レミリアは図書館の前に立つと、その重い扉を軽々と開いた。
外見年齢が幼く、一見ひ弱そうなレミリアだが、吸血鬼という種族に属する故に、その身体能力は非常に高い。
目にもとまらぬ速さで移動し、岩を軽々と砕くその腕力は、多くの種族から畏怖され、吸血鬼を強者足らしめていた。
図書館の中はとても埃っぽく、換気が必要なのは明らかであった。
しかし、地下に存在するが故に窓は無く、仮にあったとしても、パチュリーが日光を嫌っていたのでどちらにせよ塞がれていたであろうことは明白であった。
パチュリーの姿は図書館内では容易に捜すことができた。
魔力を辿っていけばよいだけだからである。
「パチェ」
レミリアは本に執心の様子の友人に声をかけた。
「昨日の服着てみたんだけどどうかな?」
パチュリー・ノーレッジは齢が100を超えていながらも、見た目は10代前半の少女だった。
長い紫の髪に、白く痩せた体が特徴的で、そんな彼女がほの暗い図書館の中で本を読む姿は一種幻想的ですらあった。
喘息持ちで時折咳き込んでいる事も、病弱な印象を与え、儚さという美しさを付与していた。
「あらレミィ、ご機嫌ね」
早口でぼそぼそとパチュリーは挨拶した。
この喋り方の所為で、咳き込まれると何を言っているのかが非常にわかりづらい。
レミリアは何度かもっとはっきりしゃべるといい、といってみたのだが、パチュリーは改善する様子を見せなかった。
「……思ったよりずっと似合ってるわね、驚きだわ」
パチュリーは咲夜がそうしたように、好奇の目でレミリアを観察し始めた。
レミリアはちょっと気恥ずかしさを感じ、
「どう?なかなか新鮮でしょう?」
などといって気を紛らわしていた。
すると、パチュリーも、咲夜がそうしたように、急に顔をそむけてしまった。
例によって頬は紅潮しており、パチュリーの場合は元が色素がかけたような肌だったため、それが余計レミリアの目に付いた。
「あら、どうしたの、パチェ?」
パチュリーは、はっとして気まずそうな笑みを浮かべた。
そして、顔を伏せ、やはりちらちらとレミリアの様子を伺いながら、
「……黒なのね、レミィ。似合ってると思うわ、確かに新鮮ね」
と控えめに、どことなく照れ臭そうに答えた。
レミリアはこの返答にとても気を良くして、それからはずっとパチュリーの元で雑談をしていた。
パチュリーは少しどぎまぎしながらも、いつもより饒舌にレミリアとお喋りをし、レミリアをさらに上機嫌にさせた。
時々レミリアの様子を、顔を本にうずめながらも目の端でちらちらと確認する事は怠らなかった。
***
さて、レミリアは寝室に戻ってからパチュリーの態度を咲夜時と同じように解釈した。
恐らく私の少し活発そうな服装をみて、私の魅力を再認識してしまったのだろう、と。
自分の友人にこのようなかわいらしい一面があったことに少しおどろくと同時に、パチュリーのいじらしい態度を思い出すと自然と顔がほころんだ。
それと同時に、自分の新たな一面を引き出してくれた服にも多大な感謝を与えた。
まさに、自分の新たなる領域が開かれたような気がして、レミリアは寝るまでの時間をずっと笑顔のまま過ごした。
さて、そろそろ眠くなってきたレミリアは咲夜に寝る旨を伝えてから寝ることにしようと思った。
言っておけば咲夜が間違えて部屋をノックする事もないだろう、以前、一度だけ寝巻きに着替えている最中に咲夜が入ってきてとても気まずい思いをした記憶があるのだし。
「咲夜ー」
そう言い終わるか言い終わらないかの間に、瀟洒なメイドはぱっと姿をあらわした。
最初は毅然とした表情をしていたが、それも一瞬の事で、また今朝のような態度に戻ってしまった。
今回はレミリアは自分なりに咲夜の態度の理由に関する結論を出していたので、心の中で笑みながら、用件を手早く伝えた。
「いまから着替えて寝るから、呼ぶまで入ってこないように」
咲夜は、「承知しました」と軽い礼をし、部屋から出て行こうとしたが、ふと思い当たる節があったのか、立ち止まり、振り返ってこういった。
「あの、大変申し上げにくい事があるのですが」
レミリアはなんだろうかと疑問に思った。
もしかすると、もしかするのだろうか。
告白、というやつなのだろうか。
確かに私は魅力的かも知れないし威厳もあるし……。
ああ、どうしよう、このまま従者と禁断の恋に……。
そんなレミリアの思考をさえぎるように、咲夜は顔を真っ赤にして、一息で要件を告げて、走り去った。
「ズボンのチャックが開いたままです!」
レミリアは生まれてはじめて、日光という弱点がありがたく感じられた。
パチュリーが見たのはアレですか?レミリアの下着がk(全世界ナイトメア
だめだ、最後で盛大に吹いてしまった
それにしてもいい紅魔館でした
この時点である程度ネタ予想ができた者です^^;
ですが、このネタをまさかお嬢様でやってしまうとは・・・
もしも外に出ていたら・・・も読んでみたかったかもしれません。
ネタ予想はできていたとはいえ、終始ニヤニヤ読ませて頂いたのでこの点数で・・・
実際に経験はあるのでなかなか・・・
誰も見ていなくても恥ずかしくなりますよね・・・w
お嬢様は黒p(全宇宙ナイトメア
レミリア様以外の紅魔館住人全員が喜んでおりました。
>SETH様
これからも当紅魔館をご贔屓に。
と咲夜さんが仰ってました。
>CACAO100%様
すみません、詳細については口止めされておりますのd(レッドマジック
>名前が無い程度の能力様
咲夜さんは瀟洒な乙女なので下着を1秒以上直視できないそうです。
>赫様
活発そうな格好をしたお嬢様も良いものです。
とは、晩年の咲夜さんの自伝の言葉です。
>スカーレットな迷彩様
詳細に関しては、是非紅魔館大図書館を訪れ下さい。
但し質問は当主がいない際に行うのがベストと思われます。
>名前が無い程度の能力様
すみません、この事件でレミリア様が着たワイシャツと引き換えに口封じを命じられましたのでその質問には答えかねまs(全世界ナイトメア
…こほんw
いや、ネタは読めてたんですが…やはりその、お嬢様にやられると。しかも黒。まったくすばらしい。