それは冬の寒い日の出来事……。
「おばあちゃん、またねーー」
若い、まだ少女とも言うべき年齢の女の子が私のほうを振り返ると、手を振って去っていく。
その姿を見送った後、部屋の中に戻る途中、古いアルバムを見つけた。
何気なく手にとってみる。
そこに残っていたのは、私がここにきた頃の物。
永琳様が趣味で作っていた中の一冊。
まだ若く、綺麗で輝いていた頃の写真。
楽しかった日々を綴った写真を見ながら、いままでのことを振り返ってみる。
……私がここにきてから随分月日が経った。
昔こそ珍しかったものの、今では月のウサギもそう珍しいものではなくなったし、あの頃着ていたセーラー服も今ではきっと似合わないだろう。
そんなことを考えながらアルバムをめくっていく。
……ー通り読み終えた頃だろうか。
雪が降って来たのは。
空から落ちていく白い雪。
限りなく降り積もる雪に、私の思い出を一つ一つ重ねていく。
私がここに来たこと……。
永琳様や姫様に出会ったときのこと……。
てゐやみんなと遊んだこと……。
永遠亭に霊夢達が攻め込んできたこと……。
幻想郷が花で覆われた日のこと……。
真っ白だった世界が、心の映像のままにいろんな色に染められていく。
そんな白くて……寒い、雪の積もる日に、私はゆっくりと目を瞑った。
「おばあちゃん、おばあちゃん……」
「私にとってあなたは最高の弟子だったわ」
「鈴仙ちゃん、ホント今まで楽しかったよ……」
「本当に長い間、お勤めご苦労様」
どこか遠くの方から聞こえる声を聞きながら目を覚ます。
……周りを見渡す。
大きな……とても大きな川の途中。
誰かが漕いでいる舟の上に私は居た。
「あんたがここに来るとは思ってなかったよ」
目を覚ました私に誰かが声をかける。
呼びかける声に反応して自分の姿と、そして自分の状況を確認していく。
ここは三途の川、姿は若いときの私のままで何故かセーラー服を着ていた。
どうやら死んでしまったらしい。
「確か、あんたは永琳様から蓬莱の薬をもらっていたはずだろう? どうして最期まで使わなかったんだい」
確かに、永琳様から薦められていたし、私の部屋にもちゃんと蓬莱の薬が置いてある。
けれど、何故かあの薬を使う気にはなれなかった。
だから、いろんな手で使おうとしていた永琳様の誘いを断り続けていたんだっけ……。
「私が今まで過ごして来た日々と、大切な日々が消えてしまうような……そんな気がしたから」
「ふうん……、まぁいいさ」
答えを聞いた小町は満足したように頷くと、手に持った鎌をくるっと回転させて永遠亭の様子を見せてくれた。
永遠亭では私の葬式を盛大に姫様たちが執り行っていて、いつも明るかった永遠亭も今日ばかりは黒く沈んだ様子になっている。
その様子を見ていると、自分が死んだことに対する実感と様々な思いで心の中が埋まっていく。
楽しかったこと……
寂しかったこと……
嬉しかったこと……
悲しかったこと……
伝えたかった思いと……
伝えられなかった思い……
…………。
今まで生きてきた細く長い道のりと同じだけの重さ、同じだけの深さが積もった思い。
そんな感情がとめどなく溢れてきて、知らず知らずのうちに目の端に涙が溜まっていく。
「あれだけ多くの人が泣いてくれてるんだ。多分、あんたは割と早いうちに勤めを終えて戻ってくるさ」
そんな様子を見てか、そうでないのか……ちょっと照れたようにそんなことを言う小町。
「またみんなに会えるかな?」
「きっと会える。私はそんな気がするよ」
「…………そっか……なら良かった」
さっきまで激しく溢れてきた感情がゆったりと戻ってきて、少しだけおさまった頃。小町が最後の一言を付け加えた。
「尤も、今まで生きてきた記憶は全て無くなってるけどね」
「例え記憶が全て無くなっても、てゐがいて、永琳様が居て、姫様がいて、他の新しい仲間達と一緒にまた新しく過ごせるなら、きっと素敵なことだから」
「そうかい、また同じように過ごしたいと思えるなら、あんたの一生は充実してたってことなんだろうな」
たった一言だけ聞こえたそんな声を最期に、舟はゆっくりと川の上を進んで行った……。
そうして、長い時間が経って、川の端が見えてくる。
「さて、三途の川もここがしまいだ」
終点を告げる小町の声を合図に、私は最後の一歩を踏み出した。
「みんな、行ってきます」
また会える日まで。
「おばあちゃん、またねーー」
若い、まだ少女とも言うべき年齢の女の子が私のほうを振り返ると、手を振って去っていく。
その姿を見送った後、部屋の中に戻る途中、古いアルバムを見つけた。
何気なく手にとってみる。
そこに残っていたのは、私がここにきた頃の物。
永琳様が趣味で作っていた中の一冊。
まだ若く、綺麗で輝いていた頃の写真。
楽しかった日々を綴った写真を見ながら、いままでのことを振り返ってみる。
……私がここにきてから随分月日が経った。
昔こそ珍しかったものの、今では月のウサギもそう珍しいものではなくなったし、あの頃着ていたセーラー服も今ではきっと似合わないだろう。
そんなことを考えながらアルバムをめくっていく。
……ー通り読み終えた頃だろうか。
雪が降って来たのは。
空から落ちていく白い雪。
限りなく降り積もる雪に、私の思い出を一つ一つ重ねていく。
私がここに来たこと……。
永琳様や姫様に出会ったときのこと……。
てゐやみんなと遊んだこと……。
永遠亭に霊夢達が攻め込んできたこと……。
幻想郷が花で覆われた日のこと……。
真っ白だった世界が、心の映像のままにいろんな色に染められていく。
そんな白くて……寒い、雪の積もる日に、私はゆっくりと目を瞑った。
「おばあちゃん、おばあちゃん……」
「私にとってあなたは最高の弟子だったわ」
「鈴仙ちゃん、ホント今まで楽しかったよ……」
「本当に長い間、お勤めご苦労様」
どこか遠くの方から聞こえる声を聞きながら目を覚ます。
……周りを見渡す。
大きな……とても大きな川の途中。
誰かが漕いでいる舟の上に私は居た。
「あんたがここに来るとは思ってなかったよ」
目を覚ました私に誰かが声をかける。
呼びかける声に反応して自分の姿と、そして自分の状況を確認していく。
ここは三途の川、姿は若いときの私のままで何故かセーラー服を着ていた。
どうやら死んでしまったらしい。
「確か、あんたは永琳様から蓬莱の薬をもらっていたはずだろう? どうして最期まで使わなかったんだい」
確かに、永琳様から薦められていたし、私の部屋にもちゃんと蓬莱の薬が置いてある。
けれど、何故かあの薬を使う気にはなれなかった。
だから、いろんな手で使おうとしていた永琳様の誘いを断り続けていたんだっけ……。
「私が今まで過ごして来た日々と、大切な日々が消えてしまうような……そんな気がしたから」
「ふうん……、まぁいいさ」
答えを聞いた小町は満足したように頷くと、手に持った鎌をくるっと回転させて永遠亭の様子を見せてくれた。
永遠亭では私の葬式を盛大に姫様たちが執り行っていて、いつも明るかった永遠亭も今日ばかりは黒く沈んだ様子になっている。
その様子を見ていると、自分が死んだことに対する実感と様々な思いで心の中が埋まっていく。
楽しかったこと……
寂しかったこと……
嬉しかったこと……
悲しかったこと……
伝えたかった思いと……
伝えられなかった思い……
…………。
今まで生きてきた細く長い道のりと同じだけの重さ、同じだけの深さが積もった思い。
そんな感情がとめどなく溢れてきて、知らず知らずのうちに目の端に涙が溜まっていく。
「あれだけ多くの人が泣いてくれてるんだ。多分、あんたは割と早いうちに勤めを終えて戻ってくるさ」
そんな様子を見てか、そうでないのか……ちょっと照れたようにそんなことを言う小町。
「またみんなに会えるかな?」
「きっと会える。私はそんな気がするよ」
「…………そっか……なら良かった」
さっきまで激しく溢れてきた感情がゆったりと戻ってきて、少しだけおさまった頃。小町が最後の一言を付け加えた。
「尤も、今まで生きてきた記憶は全て無くなってるけどね」
「例え記憶が全て無くなっても、てゐがいて、永琳様が居て、姫様がいて、他の新しい仲間達と一緒にまた新しく過ごせるなら、きっと素敵なことだから」
「そうかい、また同じように過ごしたいと思えるなら、あんたの一生は充実してたってことなんだろうな」
たった一言だけ聞こえたそんな声を最期に、舟はゆっくりと川の上を進んで行った……。
そうして、長い時間が経って、川の端が見えてくる。
「さて、三途の川もここがしまいだ」
終点を告げる小町の声を合図に、私は最後の一歩を踏み出した。
「みんな、行ってきます」
また会える日まで。
見たい!!! いやいや、違う!
前にも似た作品がありましたね。
上司でも無く、立場的にもしがらみの無い小町が
永琳『様』と呼ぶのはどうかと…三途の川の船頭という立場上『様』は無いでしょう。