バアァァン!
今、私の目の前にあるこのブツのご登場を音で表現するとすれば、この音がまさに適任と言えるだろう。具体的に言えば中国とかによくある大銅鑼を叩いたときに出る音。
しかし、勿論実際には鳴ってなんかいない。この音は私の頭の中だけで鳴り響いたのだから。
この状況に陥る数分前。今日の朝っぱらから門番が
「お、お嬢様ー! たたた大変大変たいへん、たい、へんたいですよー!? も、門の前に! 門の前にへ、変なゴガァッ!!!?」
と何やら騒がしく私の部屋をノックしてきた時は何事かと思った。「うるさいわねー」と言いながらドアを開けてみると美鈴は目を白黒させて言葉にならない声を発しながら口元を押さえていた。どうやらあまりにも慌てていたため、口の中を噛んでしまったようだ。
「中国、朝っぱらからテンション高すぎるわよ。……何? 変態がうちに攻め込んででも来たの?」
美鈴が大変な状態ではあったが、それでも私は冷静に話しかける。
当の美鈴はというと、半泣き状態で依然口元を押さえながら首をぶんぶん横に振って否と答える。
「ひ、ひがいまふ! ……はふー。あ、あれは誤報です。とにかく! すぐに門の前へ来てください!」
美鈴の慌てぶりは普通じゃなかった。それは単に言葉を間違えたり、口内を噛んだりする程度よりもっと事態は深刻なようだった。具体的に言えば、美鈴は今、間違えて履き物を中国靴と下駄を両足一足ずつ履いてしまっている。
普通に考えていくら慌ててるからと言って、靴をこんな風に履くような奴はいたとしてもマンガか小説ぐらいなものである。だから私は、それをつい犯してしまうほどの事態だと直感したのだ。
すなわちそれが意味するのは、私がついこの間に制定した紅魔館における、非常事態危険度レベル最大のカテゴリーファイブ並みの危険な事態と見て良いと私は事を重く見ていたのだ。
だから本当はもう寝る時間だったんだけど、この緊急事態のおかげでさっきから私の頭の中を取り巻いていた眠気の五分の三くらいは吹き飛んでいってくれた。
「……分かった。すぐ行こう」
こうして私は美鈴に促されて門の方へ向かうことにした。
門に向かう途中、美鈴がパチェと咲夜も呼んだほうがいいと提案してきたので、私は二人にも声をかけて連行することにした。
咲夜は声をかけた時点で既に身支度も済んでいたようで、呼んだらすぐに顔を出してきた。まだ朝だというのにさすがは完全で瀟洒で犬肉な従者だと言われるだけある風格を漂わせているのにはすごく感心した。
う~んさすがは私の従者ね。
一方パチェは最近「白黒魔法使いが一切の関与無く、自ずと向こうから想いを寄せてこちらに歩み寄ってくるようになる惚れ薬」とかいう訳の分からないものを開発しているらしく、昨日も深夜まで研究に研究を重ねていたらしい。
そのため、もともと病弱で色白な血色の良くない肌をしていた上に、さらに寝不足と極度の疲労によって出来たうつろ目にどす黒いクマなんか出ていて、いつも以上に余計ひょろっひょろになっていた。
そんな凄い状態を見せ付けた後、パチェはおもむろに右手から一体どこに隠し持っていたか分からない注射器を取り出し、いかにも怪しい色をした液体が詰まったその注射器を、平然と左腕に注入し出した。私たちは呆気にとられながらも見ていると、みるみるうちにパチェの血色が良くなり、目元のクマなんかもすっかり消えたではないか。
何その注入物。いつの間にそんな便利なもの作り出したんだか。と言うかそんなものはすぐ出来るくせに惚れ薬にどれだけ時間を費やしてるんだ?
……う~んさすがは私の友人ね。もちろん色んな意味で。
っとまあそんなこんなで、私は二人を連れてとっさに出てきた残りの五分の二の眠気を手で押さえながら歩いて行ったのだった。
そして今に至る。
「あー」
「あー」
「あー」
私含めて三人とも開いた口が塞がらない。「なんだこれわ?」それが初めに見た第一印象。
今までに見たことの無い図形であり、見たところ材質は多分石。いや、岩と言うべきか。結構大きいし。
んで岩の形状は、円柱状の岩を四個組み合わせて作ったような感じで内三本は足のようになっている。で、もう一本は上に突き出た形をしていた。
しかもその突き出た一本には、紅いリボンが巻かれており、いかにもプレゼントっぽくしてある。当然岩にリボンなんて似合うはずも無く、不釣合いなことこの上なし。何となくこの感覚は、思わずアレを思い出させられる。うんそう、アレ。
そんな岩がうちの門の前に堂々と居座っていたのである。こんなものがあったら誰が見ても口をあんぐりしてしまっても仕方がないだろう。
「私が夜間の門番をしている最中に、ついうつらうつらと眠……っじゃなくて! す、少しボーっとしてしまいまして、それで朝がきてだんだんと明るくなってきたらいつの間にかこれがドーンと置いてあったんですよっ!」
依然興奮気味で状況を説明する美鈴。
何か一瞬気になる言葉が出かかった気がするけど、どっちにしろ朝になるまで気づかなかったなんて、門番としての役割を果たしてない訳だし、後で咲夜に頼んで美鈴にお仕置きしておいて貰っておこうっと。
……ん? そんなことより、良く見ると岩に巻かれているリボンに何か挟まってるな。
「お、お嬢様?」
私がとっさにその未確認不審物体に近付いたことにより、咲夜が困惑の色を出したが、私は構わず挟まっているものに手を差し伸べた。
これは……手紙?
ピラッ
「『紅魔館の皆様へ』」
手紙と呼ぶにも相応しくないかも知れない。ヤスリのようにザラザラとした岩肌に少し表面が削られてしまった厚紙の表側には、たったそれだけしか書かれていなかったからだ。
本当になんだこれわ?
「レミィ、一体どうしたのそれは?」
今まで静かだったパチェが後ろからこちらに歩み寄りながら問いてくる。
口調からして、パチェは当然のように私に投げた言葉のようだったが、私にとっては少し意外な質問だった。私にはこのヘンテコな岩には全く覚えがない。だから原因はパチェだろうと薄々そう思っていたんだけど……。
「私は最初パチェが何かしたのかと思ったんだけど?」
だから私は思ったことをそのまま口にした。
だが、帰ってきた答えはやはり、
「……生憎だけど、これは私じゃないわね」
だった。
「じゃあ、咲夜――」
私は最後の砦と言わんばかりに咲夜の方を向いて尋ねようとしたのだが、咲夜は次に自分が聞かれるということを分かっていたのだろう。私が喋りながらそっちを向くと同時に、肩をすくめて両手を肘から上に小さく挙げる動作をしながら「さぁ?」とでも言っているような素振りをしていた。だから私はその後に言いたかったことも口に出来ずに、
「……でもないのね」
と、仕方なく言葉を終わらせるしか出来なくなってしまった。
あと聞いてないのは美鈴だけだったが、さっきあんなに慌てて私たちを呼んだくらいだ。美鈴じゃないのだけは最初から分かっている。
こうなってくると私が眉間にシワが寄らせて、片手で口元を押さえるような仕草をして「むー」と唸りながら考え込んでしまうのも無理はないと言えるだろう。
「その紙にはそれだけしか書いてないの? 送り主は?」
パチェが再び質問してくる。
私はそれに対して事実を忠実に答えた。
「いや、これしか書いてないんだ。一体どこのヒマなやつがこんなことしたんだか」
私は今度は頭を押さえながら大きく溜息を吐いた。
まずは誰がやったか、よりも取り合えず先にこれが何なのか知りたい。こんな見るからに怪しい岩が自然が作り出した偶然の産物だとは到底思えなかったからだ。
「む~う、パチェ。これが何だか分かるか? もしかして何かの魔道具か?」
「ん~、こんな形をしているような魔道具は本ですら見たことが無いわね。」
驚いた。うちの知識人にも分からないことがあるのだと。
「パチェでもこれが何だか分からないのか!?」
私はつい少し声を荒げて言ってしまった。
しかしパチェはしかめっ面な表情をしたまま私とは対照的に静かに答える。
「現時点では判断しかねるわね。あれ? でもまって。そう言えばこんなような岩のことが載っている本を、私の書斎のどこかで見かけたことがあるような気がするような……」
「それは本当かパチェ!?」
私はまたも声のトーンを高めでパチェに問いただした。
「ま、うろ覚えだから確かではないかもしれないけど、私の書斎で調べて見ればこの岩が何なのか分かるかも知れないわね。……それに私もこの岩が何なのかちょっと興味があるし、早速これから調べてみるわね」
そう言い放つとパチェはクルリと180度回転して、紅魔館の方へと歩き出し始める。
しかし、私はふと思ったことがあった為、パチェを呼び止める発言をする。
「いや、ちょっと待って」
確かにうちの図書館でなら何か分かるかもしれないけど、何せあの図書館は咲夜に空間を弄らせたせいもあって無闇に広すぎる。小悪魔なんか今でこそ慣れっこになったものの、初めのときは一回図書館内で行方不明になったことがあった。その時はメイド隊に図書館全体を隅から隅までくまなく捜索させたものだ。
そして小悪魔が遭難してから二日目の昼ごろ、本棚地区I‐24付近を捜索していたメイドの一人が、床に転がっていた何かにつまずき、盛大な前転をして前方の本棚にぶち当たった。崩れ落ちてきた大量の本と埃に埋もれ、やっとこさ這い上がってきたメイドが、一体何につまづいたのかとさっき歩いていたところをよく見てみると、それは全身に埃をかぶってしまったせいで、ほぼ床と同化しかかって倒れていた小悪魔本人だったと言う。午後1時49分23秒小悪魔を発見。
小悪魔は軽い脱水症状を起こしていたが、パチェの魔法によって治療が施され、次の日からはけろっとしたように本の管理が出来るまでに回復していた。
……そんな訳でそれくらい広い図書館だから、探したい本を見つけ出すのには相当時間がかかる。一応各分類ごとに種類分けしてあるようだが、石の事について書かれている本だけでも何百冊あるか分からない。その中から探すだけでも何十時間かはかかってしまうだろう。
それだったらもっと手っ取り早い方法を使った方がいい。私はそう思ってパチェを引き止めたのだ。
「それよりも未知のアイテムに詳しいアイツを呼ぼ――」
「却下」
「却下ですわ」
「却下でお願いします」
「…………」
まあ自分で提案した割には私もヤツを呼ぶのは気が引けていたし、当然といえば当然か。大体本当にあの変態に来られたりなんかしたら、今朝言ったことが現実になってしまうのはあまりにも哀れ過ぎる。
それにしても今日は何かとセリフを言い切れない日だなぁ。
◇ ◇ ◇
結局図書館であの岩について調べることになった私たちは、私とパチェの他に咲夜と小悪魔に手伝ってもらい、美鈴には再び門の護衛に戻らせておいた。
調べ始めてから数時間が経つが、だんだんと全身埃まみれになるにも関わらず相変わらずそれらしいことが述べられた本が出てこない。次第に疲労とどうしようもない憤りが溜まり始めてきていた。
一人埃一つ付いていないメイドは、時間を止めて埃が舞う前に一瞬で本を運んで来てくれるため、非常に作業効率が良くて助かる。
ただ、逆に内容を読む担当の私とパチェはいたって普通に見ていっているだけなので、それに見合うだけの速読力があるはずもなく、ひたすら未読の本が山積みになるばかりであった。
やっぱり咲夜を読む担当にしたほうが良かったかなぁ。
「ふー、これで大体五分の一くらいは持ってきました」
自分の顔がすっかり隠れるほど積み上げた分厚い本を抱えてよたよたと飛んできた小悪魔が、私たちが座っているテーブルの横にある山積みになっている未読の本の横に置いてから言った。
「じゃ、また持ってきますね」
そう小悪魔は言い残しまた本棚の影に隠れていく。小悪魔も弱音の一つも吐かないで黙々と同じ作業を何回繰り返している事か。つくづく真面目な子だなぁと感心する。
それに比べ私は……
「こ、これでまだ五分の一? あーパチェ、急用を思い出したわ」
そう言って私は席を立つ動作をする。
無論、そんなありがちな理由でこの場を見逃してくれるはずもなく、すぐにパチェからツッコミが入る。
「こら待ちなさい、まだ終わってないわよ」
それでも私は再びボケてみる。
「だってぱちぇ~、こんなのいつまでたってもみつからないじゃないのよ~ぅ」
「急に幼児化口調になるんじゃないの。今夜は新月じゃないわよ」
ここでもパチェは掛けている眼鏡のズレを直しながら的確に鋭いツッコミを入れてくれた。
と、こんな感じでボケとツッコミの会話をしているのも、全てはこの単調な作業をしているせいにある。少しくらいこういう会話が入らないと頭の中のモヤモヤしたものが溜まりすぎて、いつ発狂してこの本で埋め尽くされたテーブルをひっくり返してもおかしくなくなってしまうからな。
とは言えこれもただの気休め程度でしかなく、まだ山のように残っている本のことを思うと気がめいってきてしまう。
「ううぅ」
「お嬢様、きっともうすぐ見つかりますわよ」
突然私の背後から聞こえる咲夜の声。
どうやら先程までの会話を聞いていたらしい。
「咲夜ー。そこに居たんなら少し手伝ってよー」
私はこの憤りを咲夜にぶつけてみた。勿論本気ではなくこれもボケの一つでもある。
「さっきから手伝ってるじゃないですか。……なんでしたらパチュリー様ももうお疲れになられたでしょうし、お二方には少しお休みいただいてお茶をお持ちいたしましょうか? その方が効率も良くなりますし」
咲夜は顔に薄ら笑いを浮かべながら私たちに提案してきた。
……なるほどね。
「って、そういう手伝いじゃないってばー。あ、でもお願いするわね」
「ふふっ、かしこまりましたわ」
咲夜はそう言って丁寧にお辞儀をしたかと思うと、音もなく空気と混ざり合うようにして消えていった。
すると、ずっと本とにらめっこしていたパチェがいきなり声を張り上げる。
「あったわ! これよ! やっぱりあの岩は魔道具だったんだわ」
見るとパチェは厚さ5cmくらいの本の丁度中ほどを開き、何やら文字が書かれている中の一部分を指差していた。良く見るとその指の横にはあの岩の形をした絵が描かれている。
「まあ。やっと見つかったんですの?」
ティーポットとカップ数個と茶菓子等を乗せた鉄製のワゴンを押して、急に現れた咲夜がそうパチェに言い放った。
さっきから咲夜の登場の仕方にどこかデジャヴを感じながらも、私は構わずパチェに聞いてみた。
「なんて書いてあるんだ? パチェ」
「ちょっと待って。その前に眼鏡眼鏡っと。あれ? どこいったのかしら?」
パチェが本で散らかったテーブルの上を探っている。眼鏡がどこかに埋まってしまったみたいだ。
私もそれに応じて本を掻き分けて探してあげた。
「あれ? ふふっ、パチュリー様、頭、頭」
私は咲夜の方へ顔を向けると、何やら笑いながら指で自分のこめかみの辺りをぽんぽんと叩いていた。
すると、私と同じように咲夜を見ていたパチェが急に声を上げる。
「あ! あっはは、ごめんなさい」
見るとパチェの頭のところに探していた眼鏡が乗っかっているではないか。
そうか、どうりでさっきまで眼鏡を掛けているところを見ていたのに、無いのかと思っていたらそういうことだったのか。
「教えてくれてありがとうね咲夜」
「いいえ。これくらいのことで礼には及びませんわ。それより、もうお探しの本が見つかったのでしたらこの本はもう片しても構いませんよね?」
咲夜は散らかった本を眺めて、心なしかそわそわとしている。
差し詰め、お掃除魂に火がついたというところか。
「ええ、いいわよ。頼むわね」
「かしこまりましたわ」
そう言い終えると次の瞬間には目的の本を除いて、ここにあった全ての本が消えていた。
本当に便利だな。あの能力。
「ふう」
「お疲れ様。じゃ早速読むわね」
「ええ。お願い」
私は真剣になってパチェの方に耳を傾けていた。何せ今まで数時間をかけてやっと見つけた本だ。真剣にならないわけが無い。
「では、私はお茶をお淹れ致しますわね」
咲夜はパチェの横で人数分のカップをワゴンで一緒に運んできたトレイの上に並べ、コポコポとお茶を注いでいっていた。
そんな中、パチェが言葉を繋げていく。
「えーっと、『右の図のこの岩は主として――』」
「あれー? きゃっ!」
「わっ!」
「ん? って危ない!」
「えっ?」
ゴトン!
バシャッ!
カランカランカラン
トラブルは唐突にやって来た。いきなり咲夜の持っていたポットがパチェの読んでいた本の上に落ちてきたのである。薄茶色だった紙はこげ茶色に変色してしまったり、文字が滲んでしまったりと本は見るも無惨な状態になってしまっていた。
だが本の真上に落ちてきたのにも関わらず、その近くにいたパチェの元には『必然的』に及ぶことなく、ポットの熱湯を浴びて火傷を負うような事態には至らずに済んでいた。
「危ないところだったなパチェ」
「レミィ、あなたまさか……」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! いきなりぶつかってしまって」
一息つくまもなくに突然小悪魔の声が発せられ、懸命に咲夜とパチェに頭を下げてひたすら謝っている。どうやら原因は小悪魔らしい。
「大丈夫ですかパチュリー様? すみません!」
必死でパチェの顔を覗き込んで安否を尋ねる。
「この通りレミィのおかげでなんともないわよ」
本当になんともないことを証明するために、パチェは立ち上がって見せる。
「え? レミリア様のおかげで、ですか?」
小悪魔は意外な言葉を突かれて、間の抜けた声を出した。
「……『運命を操る能力』ですわね?」
横で聞いていた咲夜が確信したように口を開いた。
「よく分かってるな、咲夜は。まあとっさのことだったからパチェ以外のほうまで気が回らなかったんだけどね」
本は言うまでもなく、床やテーブルの上は紅茶でビシャビシャになり、辺り一帯に紅茶の香りが充満していた。
ポットに入っていた紅茶が今日はパチェも一緒に飲むとあって、私がいつも飲んでいる『紅茶』じゃなくてまだ良かった。
「いえ、それでも私を気遣ってくれたんだから、ありがとうと言わせてもらうわね」
「あ、ああ」
パチェに面と向かって礼を言われ、私は気恥ずかしくなった。
顔が少し赤くなってるかも知れない。そう思い、私は少し俯いて帽子で顔を隠す行動を取ることにした。
横でパチェがくすくすと笑い声が聞こえてくる。は、恥ずかしい。
「でもまあ、これがあったから別にどうってこと無かったんだけどねぇ」
パチェは懐から何かをチラッとこちらに見せつけ、何故かニヤニヤとしてる。
それってやっぱり……。
「い、いや、そういう問題でもないだろう! 私はパチェが……」
「ありがとうね」
パチェが持っていたのは、極度の疲労だろうが何だろうが何でも治すあの注射器だった。一体常に何個所持してるんだか。
「ふ、ふんっ! こ、小悪魔、いきなり何でぶつかっちゃったんだ?」
パチェは卑怯だ。私は顔を隠していたのに対し、それを顔が上がったとたんに礼を言うなんて。
私はさらに深く帽子を被り、真っ赤になっているであろう我顔を隠した。
またパチェが意地悪く笑っている。うう、パチェのそういうところは嫌だわ。
「ええっ! えーっとあの……。さっきまでここに本の山があったのに戻ってきたら急になくなってたので、呆気にとられて歩いていたら咲夜さんにぶつかってしまって……」
私が話を無理に変えて小悪魔に話をしたせいで、小悪魔は戸惑いながら答える。
ああなるほどね。そりゃあ今まで本がそこらじゅうにあったのに、急に無くなってたら誰でも呆気に取られるわね。
「あっ! いえ、本当に私が悪いんです。ごめんなさい!」
消極的に物を話す小悪魔は、咲夜と目が合ったとたん急に謝りだしてしまった。もしかしたら咲夜が怖いのか?
「あーいや、別に悪気が無かったんだし、それに本を片したのは私なんだからにも私にも責任が無いとも言えないからこちらこそ謝るわ。ごめんなさい」
そっぽを向いて頭を掻く咲夜。その頬は薄く色づいているようにも見えた。
咲夜が小悪魔に謝る光景も珍しい。それにしてもそっぽを向きながら謝るなんて、さっきの私じゃないが、もしかしたら一つの照れ隠しなのだろう。いつも冷静沈着な咲夜にもこんな可愛らしい一面もあるんだな。
「でも、今度から前はちゃんと見なさい」
「あ、はい……」
咲夜の顔はまたいつもの顔に戻った。冷たく残酷で何の干渉も受けつけないような、そんな顔だ。
小悪魔はそんな咲夜の顔を見て悲しそうな表情をし、しゅんと地面を見る格好となってしまった。
咲夜はふぅ、と一息吐いて喋り出す。
「さ、この惨事を処理するわよ。ほら、雑巾」
そう言い、いつの間にか握られていた雑巾を小悪魔に放る。
だが、小悪魔は下を向いたままだったためすぐに反応することが出来ず、そのまま雑巾が頭に被さってしまった。
「わっぷ! 咲夜さん酷いですよー」
「あっはは! 大丈夫よ。それは今日下ろしたばかりの新品だから」
咲夜の言うとおり、確かにその雑巾は見た目ナプキンのように綺麗なものだった。だから汚いということは無いはず。ただ気分的には嫌だろうけど。
「ほらっ、私も手伝うから」
咲夜の顔が綻ぶ。柔らかで、愛想が良くて、どこと無く優しさが溢れる顔だった。
小悪魔もその顔につられて、安心したように笑顔になる。
「あ、はい!」
「らしくないわね、咲夜。失敗した子の手伝いをするなんて」
小悪魔と同じく純白な雑巾を手にして、一緒に床を拭く手伝いをする咲夜に、私は声をかけた。
床を拭く動作をしたまま咲夜は答えた。
「ええ。確かにらしくないですわね。でも先にも述べたように、私にも非があるからってことでもあるんですが……」
「――ですが?」
「何でしょうね。今日はそんな気分、とでも言っておきましょうか」
「ははっ! 何よそれー」
こんな溌剌とした咲夜を見るのも久しぶりな気がする。咲夜が急にこんな行動をとった原因は、勿論私が能力を使ったせいではない。恐らくこの原因はもっと単純に、咲夜が私のような悪魔や妖怪の類であらざる、生粋の人間だからなのかも知れない。
人間の持っている優しさ、温もりは私たちにはとても真似出来る様なものではない。何故なら、人間は常に単体で生き続ける私たちとは違い、他の同類族と共存しながら生きて行くことが出来るため、それだけに他人を思いやる力というのが圧倒的に長けているのだ。
「さてパチェ、この変わり果てた本、どうするんだ?」
「どうするってこんなの大したこと無いわ。要は乾かせば元通りになるわよ」
……だが咲夜は以前、その生まれ持った能力ゆえに他人から酷く煙たがられ、私と同じように長きに渡って孤独の中で生き続けてきた。
とは言え咲夜が人間であることに疑いはない。うちに来たばかりの時は、まるで『妖怪』のように誰にも干渉されずに振舞ってきた彼女だったが、長い間ここに住まう内に徐々に自分は人間なんだということを思い出してきたようだ。
だから、いつもは『妖怪』のような彼女にも数時間に一度や二度は『人間』に還るときが来るのは必然な秩序なのである。
「そうか。じゃ早速頼むよパチェ」
「任せなさいって。えい! 日符『ロイヤルフレア』!」
因みに私も同じように、悪魔でありながら『人間』になろうとしている。何せこうして異種類の者たちと共に行動をしているのだからな。これは否定することは出来ない。
それに、最近は特に人間臭くなっているようにも感じる。多分咲夜に影響されているせいかも知れない。夜の王としてその名を馳せながら夜空を翔け回っていた以前の私では考えられない程の変わりようだ。
次第に変わっていく自分が嫌か? と聞かれたらそれをすぐに答えを出せるかどうか自分でも分からない。
だけどただ一つはっきりと言えることはある。
「パチェ! やり過ぎだ! 本が燃えて……ってアチャー!!」
「パチュリー様! 館内でのロイヤルフレアは禁止とあれほど……あー!! 周りの本まで一斉に燃え出して……うーんバタン!」
――『人間』というのも悪くはないな。
◇ ◇ ◇
「さて、コレ一体どうしましょうかしらね?」
あははー、といった具合に灰と化した本を見て、パチェが苦笑いをしながらこちらを向いて喋っている。
「パチェ、これやり過ぎ。どう見ても乾かし過ぎ。粉末になってるよ粉末に」
本だったものを指で持て余しながら私はパチェにきつくあたる。それもそうだ。パチェは私たちが数時間かけて探し出した貴重な本を灰に変えたのだから。それだけではない。この近くに置いてあった本も巻き添えにして、この本と同じくオダブツにしてしまい、そのせいでいつもここの管理をしていた小悪魔はショックで倒れ、先ほど咲夜に医務室に運ばれて行ったところなのだから。
「いやー相当酷く湿ってたもんだから、これくらいやらないと駄目かなーって思ったからつい」
「言い訳は良い。とにかく、この後どうするか考えるんだ」
「ご、ごめんなさい! 本当に反省するわ」
「もう気にするな。過ぎたことをいつまでも悔やむのは仕方ない。それより、さっきまで本を見ていたんだから内容を記憶していないのか?」
私の提案にパチェは顔を渋った。上を見上げて頭の中の記憶の糸を手繰っている様子。
「えーっと、確かあの岩に何とかって名前があったはずだけど忘れちゃったわ」
「別に名前はさほど重要じゃない。私が知りたいのはあの岩の説明だ」
私も一緒に記憶を探る手伝いをしたいが、それが出来るはずも無く、ただパチェの言葉を待つのみしか出来ないのにはどうにもじれったかった。
「説明? 記憶が曖昧だから大体の言葉でしか言えないけど確か『この岩は主として一方方向からの力を――』」
「お、お嬢様ー! また門がっ! また門が大変たいへん、たい、へんたいお嬢様ー!!?」
ドゴォ!!
ゴロゴロ……ドシン!
バサバサッ!
私の綺麗に決まった蹴りを受けて盛大に転がった美鈴は、そのまま前方の本棚にぶち当たり、そのせいで雪崩の様に落ちてきた本の灰の弾幕を一斉に浴びた。
灰で真っ白になった美鈴は涙目になったその目をこちらを向けて言う。
「うう。ゲホッゲホッ! い、痛いです。レミリアお嬢様」
「どこの教育の悪い門番が私の邪魔をするのかしら」
私はこれ以上ないってくらいの殺気を立てて美鈴を睨み付けた。
「わっ私じゃないアル! 私じゃないアルからその爪仕舞ってくださいー!!」
「全く……ハァ。冗談よ冗談。んで、一体今度は何なのよ?」
溜息をつきながら私は美鈴に尋ねた。
「お嬢様は冗談きつ……あいえ、何でもないです。また門の前が大変な状態になってるんですよ! パチュリー様もすぐ来てください!」
「分かった分かった。すぐに向かうわ。行くぞ、パチェ」
「え、ええ」
美鈴がそういうので私たちは再び門の前に行ってみることにした。もうなんかここまで来るとだんだん投げやりになってくる。
もうどうとでもなれ! そんなことを考えながら門の方へ歩いていったのだが、後から思えばそれがいけなかったのかも知れなかったと後悔した。
私は次第に門のほうに近づくにつれて、妙に門のほうがざわついていることに気が付いた。何か嫌な予感を感じながらも私は玄関の扉を勢いよく開け放つ。
「それにしてもでっかいなー、この石」
「これは石じゃないわ。岩よ。魔理沙」
「いやいや霊夢、これはどう見てもでっかいコンペイトウよ」
「幽々子様、決して食べないで下さいよ? 落ちたものを食べるなんてバッチイです」
「上のほうをかじるから大丈夫よ」
「それでも駄目です」
「いやそもそもコンペイトウじゃないから」
さて、一体なんでこんなことになってるのやら。いくら幻想郷の住人はいつも暇で持て余しているからと言って、こんな短時間でこんなにも大勢が集まるのはどう考えても不自然だ。
「さーさー、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。紅魔館の前に突如として現れたナゾの巨大岩! 一体誰がこんな事をやったのか? 今日の文々。新聞は号外だよー! 持ってけドロボウ!!」
アレが原因かっ!
私はつかつかと新聞を配りまわっている文にほうに向かって小走りで近寄って行って門の外に出た。
「いつも号外出してるくせに、今日だけ特別な言い方しないの」
「あははー霊夢さん。硬いこと言わない言わな……きゃっ」
私は後ろから文の後ろ襟を鷲づかみにして、そのままの今来た門の扉のほうに引きずっていった。
「あら? レミリア?」
「痛っ! 痛いですよレミリアさん! 首っ! 首が締まってもげ、もげる!!」
「ええいうるさい! いいから黙って来んかい!」
文がギャーギャーと騒ぎ出したが、私は構わず歩き続けた。そして扉の前でキョトンとしているパチェのいるところまでやって来て、ようやく文を開放してやった。
無理に襟首を引きずってきた為、文は最初軽く咳き込んでいたが、しばらしくしてだんだんと落ち着いてきたところで、襟首が乱れたことを気にし出し、綺麗に整えながら喋りだした。
「ケホッケホッ! いきなり何するんですかレミリアさん!」
「それはこっちのセリフだ。一体何だこの人だかりは!?」
私は人だかりになっている方向を指差しながら声を大にして文に怒鳴りつけた。
「えーっとですね。何か紅魔館の方で記事のネタになりそうな情報を耳にしたんで、すぐさまこちらのほうに飛んで来たら凄く面白いことになってたんで、早速記事にしちゃいました。ほら、これですよ」
文は持っていた新聞を私の目の前に差し出し、それを見るように促してきた。
見た目そんなに分厚くない新聞紙だった。
「ん、見せてみろ」
文から新聞を受け取って、私とパチェはその内容を見てみることにした。
なになに、『紅魔館の前に突如として現れたナゾの巨大岩! 宇宙からの隕石? それとも大自然からの贈り物? 今、真相が明らかに』だと?
新聞の記事の第一面には、そうでっかく書かれた記事のタイトルが堂々と居座っており、私はまずそれに目を引かれた。なんだこりゃ。たかが岩一つにここまで書くなんて少し大げさ過ぎるんじゃないのか?
しかもこれもう既に私や咲夜とかの顔写真入りでコメントが書かれているじゃないか。嘘っぱちもいいところだぞ!?
っておい! 私がいつ『やっぱり霊夢の腋は最高よね』なんてコメントしたー!? つかこれって岩と全っ然関係ないじゃないかっ!! なんて適当な新聞なんだ。
「……これは酷い新聞ねぇ」
「ちょっと、酷いとは酷いじゃないですかっ」
そんな嘘だらけの酷い新聞を一通り眺めたところで、私の中にある一つの疑問が浮かんできた。
「……あれ? おい文、これよく見ると岩の正体についての胡散臭い仮説がいくつも書かれてあったりするだけで、結局結論付いてない上に肝心のその原因みたいのが一切記述されてないじゃないか。」
「え? いやだなぁレミリアさん。もう本当の原因は分かってるじゃないですか~」
右腕を上から軽く振り下ろす動作をしながら、声の調子を急に変え、文はまるで物忘れが激しくなってきた年寄りを見ているかのような目で私に言ってきた。
「はぁ?」
何だこいつ? 一体何を言っているんだ?
私もパチェも意味が分からないまま困惑していると、文は再び言葉を続けてきた。
「あれ? ほんとに分からないんですか? もしかしてあの手紙ちゃんと読んでいなかったんですか?」
「手紙?」
手紙と言われてすぐに思いつかなかったのだが、しばらくして私は多分あの岩と一緒にあったあの手紙ではないかと考えていた。
「もしかして、岩にくっついてた手紙の事?」
「ああ、やっぱりあの手紙のことか。って何でそれをお前が知ってるんだ!?」
私とパチェの質問に、一間置いてやれやれと文が答えだした。
「ですから、あれは私が書いたんですよ」
「えっ?」
「何っ!?」
文のその言葉に空気が一瞬で凍ったのを感じた。私とパチェは顔を見合わせて、二人とも同じことを思っている事を共感する。
でもすぐに私の頭の中で疑問に思う部分が湧き出てきた。
「でも、あの手紙に差出人の名前が書いてなかったぞ? それにお前がこんな事をする理由が分からん」
「ああ、それでしたら……。えーっと、今その手紙お持ちしてます?」
「ここにあるわ」
パチェがポケットを探って、あの手紙を取り出す。文はそれを受け取り、何故か懐からマッチ箱を取り出した。
そのまま箱からマッチを取り出すと、何の気兼ね無しに火をつける。
「見ててくださいね」
そう言うと文は手紙を燃やしてしまわない様に慎重にマッチの火で炙り出す。
おい、まさかそれって……。
私の思った通り、手紙の端の方に茶色く焦げた部分が文字となり始め、だんだんとその全体が露になっていく。
「ほら『文より』って、ちゃんと書いたじゃないですか」
「「そんなの分かるかっ!!」」
「それと理由ですけど、最近記事にするネタがなくなっていて、困っていたんですよ。そこで考え付いたのが、私がこの岩をここに置いてそれを記事にしようって思ったんですよ」
「なんて迷惑な話だっ」
「そうすれば発行部数は上げられるし、記事を見た野次馬がここに来るから賑やかになるじゃないですか。ほら、最近紅魔館さんの来客が少ないようでしたので」
「「それなら神社でやれっ!!」」
二人して盛大に文に突っ込んでいると、その大声に気がついたのか私たちのところへ一人の人物が近づいてきた。
「よお、レミリア嬢にパチュリーに新聞屋じゃないか。何だ? 三人で威勢よく見事なボケとツッコミやってるけど今度の宴会の出し物の練習か?」
「んなわけないでしょ! それより何魔理沙まで記事に釣られて野次馬しに来てるのよ」
「まあ私も暇でしょうがなかったからな。それよりパチュリー、あの岩ってもしかして何かの魔道具とかじゃないのか」
魔理沙の言葉にパチェの眉がピクッと反応するのを私は見逃さなかった。
いきなり鋭いところを付いてきたな。さすがは伊達に普通の魔法使いをしていないな。
「……よく分かったわね。あれは確かに魔道具よ」
「やっぱりそうか! で、どんな魔道具なんだ?」
魔理沙の目が輝きを増す。まるで子供のように好奇心をむき出しにしてパチェに迫っていく。
あーあ、あれじゃパチェも大変だな。
「ええっ! ど、どんなって、ああ魔理沙がこんなに近くに……じゃなくてえーっとんーっと確か……」
「なんだよ、もったいぶらないで早く教えろよ」
「別にもったいぶってなんか……ってあっ、そうだ思い出したわ! 確かあれは『一方方向からの強い衝撃を打ち消す魔道具』だわ!」
急に声を上げてパチェは先程まで忘れかけていた事をやっと思い出した。でも、このタイミングで思い出したのは悪すぎたかも知れない。
「おお? それって私のマスタースパークみたいなものも打ち消すのか?」
魔理沙が挑戦的な発言をした。
「当然よ。マスタースパークなんて完全に打ち消してくれるはずだわ」
それに対して自信満々に答えるパチェ。
ちょっとまて、そんな風に言ったら……。
「よっしゃ! じゃ早速本当かどうか試してみようじゃないかっ!」
そういうと魔理沙は意気揚々と岩のあるほうに走って行き、霊夢たちに声をかけてそこを退くように指示する。
やっぱりそうなるだろうなぁ。
「おいパチェ、もしマスタースパークを打ち消し損ねたらうちを破壊されかねないぞ?」
「大丈夫よレミィ。あれはここより文明の進んだ外の世界にある魔道具よ? 打ち消し損ねるなんてことはないわ」
「それは本当なのか? あんな岩っころが本当にマスタースパークを打ち消してくれるか心配なんだけど」
「お~い。そこを退かないと危ないかもだぜ?」
私たちから見て、岩の向こう側に回り込んだ魔理沙が、門の前に居る私たちに声をかける。
あいつ、あそこから撃ってもし失敗したらそのまま門に当たるじゃないか。
「安心してレミィ。さ、横から見てましょ」
本当に大丈夫なのかなぁ? 凄ーく嫌な予感がするんですけど……。
パチェに手を引かれながら私はしぶしぶとそこをどいて、横からこれから行われる出来事を見物している事にした。
文も私たちの後を追ってくる。
「なんだか凄い事になってきましたね。私はあの岩については何も知らなかったんですけど、これでまた記事にするネタが増えますよっ」
文はカメラを手に持ちながら、その決定的瞬間を写真に収めようと張り切っている。人事だと思って……。
「よーし、それじゃいっくぜー! 恋符『マスタースパーク』!!」
凄い轟音と共に辺りは一瞬で光に包まれ、魔理沙の腕の先からお得意の極太凶悪レーザー、マスタースパークが放たれる。
強力な火力に満ちたその光の熱が、ここから距離が十分に離れているにも関わらず、空気を伝って私の顔面を撫で回して行った。
そして光は吸い込まれるようにあの岩へと一直線に衝突する。その後岩は飲み込んでいくかのように打ち消してくれるのかと思いきや……。
「うわっ!」
岩はマスタースパークを完全に受け止め切ることが出来ずに衝撃で宙に舞い上げられ、そのまま綺麗な放物線を描きながら門の正面玄関に激突した。
一方マスタースパークは複雑な形をした岩に反射して、様々な方向へと飛び散ってかなり危険だったのだが、館も人にも誰一人として被弾した者がいなかったのは幸いだった。だが……。
「あ゛ーーーー!!」
見事にぶっ壊れた門を見て、私は我が目を疑った。
横で放心状態になったパチェががっくりと肩を落とす。
「そ、そうだったわ……。あれは一個だけじゃ無意味なんだったわ」
「ぱぁぁちぇぇぇ!!」
私は今頃そんな大事な事を思い出したパチェに怒りの昇竜拳コマンド+Bをした。
身の軽いパチェが5メートルほど吹っ飛んで行くのを見届けた後、私は魔理沙の方を振り向く。
「魔理沙! 貴様一体何てことを――」
しかし、振り向いた先に魔理沙の姿は忽然と消えていた。
「って、居ねえぇぇーーー!!」
「魔理沙ならとっくに逃げたわよ」
「ええ何か『急用を思い出した。ズラかるぜ』とか言って」
私は頭の中が真っ白になって、今度は自分が放心状態となる。
再び大穴が開いた門のほうを眺めて、今一度その被害状態を確認する。よく見ると美鈴もその門の近くで挫折していた。
「あははー。本当に凄い事になっちゃったんで、私はこれで……」
この場をそそくさと逃げ出そうとしている新聞屋を、この私がこのまま見逃すはずもなく、
「待てぇーい!」
「ひー!」
めいっぱいの力を込めて文の動きを引き止めた。文は情けない声を出しながら見る見るうちに顔が青ざめていく。
「元はといえば貴様が余計な事をしなければこんな事にならなかったのよ!! 責任を取れー!!」
「そんなー!」
「つべこべ言ってないでさっさと来るんだっ!」
「あーー!」
その後、私は文に門の修理を手伝わせながら、しばらく住み込みでうちのメイドとして働かせる事にした。最初はメイド服を着るのも嫌がり、門の修理をするのもしぶしぶと行っていた彼女だったが、ある日を境に急に仕事を喜んでこなす様になっていった。
最初は少し不思議には思ったものの「何はともあれちゃんと仕事をするのは良い事だ」と思って、あまり気にする事はなかった。
……しかし、それにつれて最近入浴中に変な目線を感じたり、寝ているときにハァハァと荒い息遣いが聞こえたりするのは果たしてただの気のせいなのかなぁ?
でも、そういうの好きw
なんかワザと変な言い回しをされている節があるのでどこまでが指摘すべき間違いなのか判らないのですが…取り敢えず違和感が大きかったものだけ書いておきますね。もしワザとだったら気にしないで下さい。
>研究に研究をしていた
研究に研究を重ねていた or 研究をしていた
>見せ付けられた後、パチェは
見せつけた後、パチェは or 私が~見せつけられた後、パチェは
>五分のニの眠気
五分の二の眠気(漢字の「二」がカタカナの「ニ」になっちゃってます)
>変態が来られたり
変態に来られたり or 変態が来たり
あと、パチェのあやしい薬とかw
だがそれがいい。
文が何でテトラポッドを置いたのかを、ありきたりな理由ではなくもっとブッ飛んだものにしてたら100点でした。オチまでは非常に面白かったですよ。
では、コメント返させてもらいますね。
>館の前にテトラポッドがあるなんて強引な!
>
>でも、そういうの好きw
去年の夏にふと思いついてそれからちまちま書いていったネタだったんですが、気に入ってくれた様で何よりです。
しかし人事(?)だから面白く見えるものの、実際に自分の家の前にそんなものがあったらあったらかなり迷惑ですがね。特にご近所の目とかw
>適度に男前なレミリアのセリフが良い感じでした。面白かったです。
少し言葉が乱暴すぎるかも。とは思っていたんですが、自分的にはこれがレミリアのイメージだったので、こんな感じになりました。
ですが、某所ではその口調に違和感を持たれた方もいらっしゃったので、もしかしたらこれからはもう少しお嬢様っぽい感じになるかも分からないです。悪しからず。
>なんかワザと変な言い回しをされている節があるので~(少々長文の為勝手ながら以下略
それら全部ワザとではなく、単に私が誤字脱字をしていたり、文章を書きなれていないだけです。
ご指摘されたところは、読み直してみたら確かに違和感があるので、全て修正しておきました。ありがとうございました。
>レミ&パチェのノリツッコミが面白かった♪
>あと、パチェのあやしい薬とかw
ノリツッコミ……とはまた違う気がしますが、あえて気にしない方向でw
あの二人は普段からあんな感じの会話してるんだろうなぁ、とか思いながら楽しく書かせてもらいましたよ。
そんな薬がもし本当にあったとしたら、寝る間も惜しんで勉強する受験生に限らず、病気に苦しむ人たちに是非活用してもらいたいものです。ええ。
>タイトルの駄洒落だけやりたかったのかよw
そうですが何かw
いや、気に入ってくれたのでしたらこれ以上何も言いませんともw
>文が何でテトラポッドを置いたのかを、ありきたりな理由ではなく~(少々長文の為勝手ながら以下略
言われてみれば確かにそうですね。
も少し捻りを入れるべきでした。むぅ。
次はつい100点を入れたくなるような物が書けるように精進しますね。
皆様、コメントとご評価ありがとうございます。
どうせならフランドールも絡めばより良かったと思うのが少し残念。
文、何の為に炙り出し……?
タイトルが良いですね、つい読みたくなるw
ちょっと気になった誤字らしきものを
>パチェのそうところは嫌だわ
パチェのそういうところは嫌だわ
>いいから黙って来いかい!
いいから黙って来んかい!
>やっぱり霊夢の脇は最高よね
やっぱり霊夢の腋は最高よね
最後のは誤字という訳ではないですが創想話的にもっとも使われているのはこちらなので。
余計なお世話でしたらすみません。
誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
読者様の皆様には読みづらい思いをさせてしまい、申し訳ないです。
ご指摘されたところは全て修正かけておきましたので、ご確認ください。
「腋」もこっちの方が個人的にも好きなのでちゃんと直しておきましたよw
後、どうも誤字やらが多いようなので、先程私自身でもおかしな所が無いかチェックをしたところ、おかしな所が続々と出てきたので、それも色々と修正しておきました。
なので、前より幾分かは読みやすくなったのではないかと思います。
>どうせならフランドールも絡めばより良かったと思うのが少し残念。
>文、何の為に炙り出し……?
フランか……。
そう言えばみんなでわいのわいのと楽しんでいたのに、フラン一人だけ仲間はずれな感じになってしまっていましたね。
今度こんな感じの紅魔組を書くときはフランも一緒に登場させたいと思います。
天狗のする行動なんて、私たちには理解できないものなんですよw
……なんて苦しい言い訳に過ぎませんがw
いや、本編のレミ様は男っぽい言葉遣いも時々混じりますので、この言葉遣いの加減はよかったです。
おおうw
またカキコがw
きっちりコメント返させてもらいますね。
>いや、本編のレミ様は男っぽい言葉遣いも時々混じりますので、この言葉遣いの加減はよかったです。
そうですか?
それなら良かったのですが、この辺は色々と意見があるようなので難しいですね。むむぅ。
想像したら、何かものすごくシュールレアリズムな光景が浮かびました(笑)
>想像したら、何かものすごくシュールレアリズムな光景が浮かびました(笑)
私も改めてその光景を幻視してみたら思わず吹いてしまいましたw
私はシュールな笑いが好きなのですよw
最後に、返信が異常に遅くなってしまって申し訳ありませんでしたorz