Coolier - 新生・東方創想話

突撃!香霖堂へよーこそ!~アリスと上海とバイオレンス魔界神~

2007/01/01 02:08:10
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※本作は作品集その36【突撃!香霖堂へよーこそ!】の続編です。







「……何かしら、これ」
 呟くのはセミショートの金髪に赤いカチューシャが特徴の少女――アリス・マーガトロイドだ。
 現在、自分の家をとある黒白に破壊されて香霖堂にお世話になっているアリス。
 彼女はそのお礼のため、倉庫の掃除に来ていたのだが、そこで思わぬ物を発見した。
「……人?」
 アリスよりも少し小さい位の背格好のメイド服を着込んだ少女。
 それが四肢をだらしなく床に投げ出してうつ伏せに倒れていた。
 正直、暗い倉庫の中に倒れていたので、発見した時は「うひゃっほー!?」などと、
 わけの分からない叫びを上げたものだが、今となっては恐怖よりも疑問の方が大きい。
 何故、こんなところに少女が倒れているのか。
 何故、この少女はうつ伏せに倒れているのか。
 というか、なんでこんなところにいるのか。
 全てを解決に導くのに数秒。
 アリスはその答えに頷き、そして思いきり息を吸い込み、

「香霖さんが幼女監禁を――ッ!」
「誤解だぁぁぁああああああああ!」

 叫ぶと同時、現れた褌一丁の男にストレートをぶちかましてやった。

   ○ 

「で、これは一体なんなの?」
「殴る前に聞いて欲しかったんだが」
 床に倒れるメイドを指差しながらアリスは唐突に言った。
 霖之助は風呂中だったために慌てて着込んでいた褌から元の服装に着替えたのだが、
 その顔は蜂に大量にさされた様に膨れ上がっていた。
「香霖さんは褌男ーってその辺に言いふらすわよ」
「ごめんなさい」
 即座に土下座。
 情けないにもほどがあった。
 だって仕方ないじゃない。なんだか言葉の端々に殺意が見え隠れしてるんだもの。
 アリスは溜息を一つ、地面に倒れたメイドを見て目を細め、
「まさか香霖さんにこんな趣味があったなんて知らなかったわ……」
「いやだから、それは誤解で。そもそもそれは人妖の類じゃないよ」
 何時の間にか元通りになった顔で霖之助は頷く。
 かくも不思議は人体の神秘か。半妖だけど。
「?」
 前提から覆され、思わずキョトンとした表情になるアリス。
 それを見て、霖之助は満足そうにされに頷き、
「これは外の世界の式神らしいんだ」
「式神?これが?」
 そう聞くなりアリスは、ふーん、と屈んでメイドをジーッと見やる。
 メイドの方はと言えば、やはりうつ伏せのままピクリともしない。
「まぁ、動かし方は僕にもわからない。あの隙間妖怪なら何か知ってるとは思うんだけどね」
 まぁ、彼女が教えるはずもないだろう、と霖之助は続ける。
「彼女がこれを最初に見た時、メイドロボ計画がなんとやらって言ってたけど――」
「メイドロボ計画……メイドはともかく、ロボってなんの事かしら?」
「さぁ?僕が聞いた時は『こーりん、それは聞いては駄目。貴方はそっちに走ったら駄目。ゼッタイ』とか言われたよ」
 考え初めてうーん、と唸るアリスを見ながら、同じ様に首を傾げる霖之助。
 やがてアリスは何かを思いついた様に両手を合わせ、
「そうだわ。メイドの事ならメイドよ」
「は?」
 立ち上がると同時、彼女は倉庫の出口へと向かった。
 それを霖之助はメイドを一瞥してから追いかけ、隣に並んで歩幅を合わせる。
「メイドっていうと……紅魔館かい?」
 霖之助がそう言うと、アリスは人差し指を口元に立てて当て、ウィンクを一つ。
「その通り。でも、この事は魔理沙には教えちゃ駄目よ」 
「?なんでだい?」
 出口を通り抜け外に出る。
 今日も晴れ晴れとした晴天で、大地を照らすように光が燦々と降り注いでいる。
「だって……」
 その光の源である太陽をアリスは虚ろな目で見上げる。
 そして、そのままの目で霖之助へと向き直り、
「あの子が知ったら、まず間違いなくまた騒動が起きるもの……」
「絶対に死守します」
 そりゃ、あんな今にも壊れそうな笑顔を向けられたら首を縦に振らずにはいられないだろう。
 というか、何をした魔理沙。
「それじゃあ、行って来るけど、後は宜しくね」
「あぁ、気を付けて」
「ありがとう。それじゃ」
 地面をトンと軽く叩き、空へと舞い上がるアリス。
 別段この幻想郷では不思議でもないことなので、霖之助はそれを笑顔で見送った。
 そこでふと思う。
「そういえば倉庫の掃除……」
 まだまだ、午前の仕事は終わりそうにない、と霖之助は溜息をつくのであった。

   ○

 ヴワル図書館。
 人外が集う紅魔館においてなお異彩を放つ巨大な敷地を持つ数多の本の保管所だ。
 そこでは現在、一人の魔女と一匹の悪魔が寛いでいた。
 魔女はテーブルについて本を読みふけっており、悪魔がそれに対してティーカップを差し出す。
 魔女はティーカップを受け取りテーブルに置くと、
「ありがと、小悪魔。それが終わったらA-2の本をとってきて頂戴」
「了解です、パチュリー様」
 パチュリーと呼ばれた魔女はあくまで淡々と、小悪魔と呼ばれた悪魔は羽を楽しそうに動かしつつ、
 それぞれ言葉を交わす。
 それが彼女達の穏やかと言える日常だった。
「ところで小悪魔」
「はい?」
「今日はあの白黒は来てないの?」
 パチュリーの問いに小悪魔は自身ありげに胸を張ると、こう言い放った。
「えぇ、勿論です。図書館中にこの前手に入れた怪しげな本に載ってた術をかけておきましたから」
 パチュリーはそれに対して目を細めて嫌そうな顔をすると、
「……後ではずしておきなさい」
「えぇー!?」
 小悪魔は心底信じられないといった風に叫ぶと、両腕をばたばたと振りながら、
「な、なんでですか?!あれですか!?ツンデレですか!?白黒が来ないと夜も眠れないんですか!?」
「なんでそこまで思考が飛躍するのかしら」
 溜息をつくパチュリーを小悪魔は凄い形相で勢い良く指差し、
「あっ!魔界人ナメてるな本の虫!いつもツンデレなアナタ様と違い、私達は一瞬で相手にデレまくるスキルを世界的に有している!意中の相手に手を握られた時、風邪の時体温を測ろうと額と額をくっつけた時。そして、思わず胸キュンした時そのスキルはシャキーンと発動するんですよ!いいですか!シャキーンですよシャキーン!相手が可愛らしい一面を見せた時なんてデレ力乱れ撃ちでEX化しますよ万歳デレてんごっ!?」
 小悪魔が突然前のめりに倒れ伏す。
 その後ろには金髪のセミショート
に赤いカチューシャを付けた少女が分厚い本を持って立っていた。
「相変わらずのテンションね……」
「あら、アリス、いらっしゃい」
「ええ、お邪魔してるわ」
 柔らかい笑顔で挨拶する二人。
 その足元では小悪魔が頭を本の形にへこませつつピクピクと痙攣していた。

   ○

「メイドロボ計画?」
「えぇ、ちょっと今お世話になってる下宿先で見つけたものなんだけど……」
「ふぅん……」
 パチュリーは訪れたアリスからテーブルで向き合いつつ話を聞いていた。
 香霖堂で見つけた謎のメイドロボという人型の事。
 その人型の謎にはメイドロボ計画というものが深く関わっているという事。
「ロボ……おそらくこれは外の世界で言う機械の事ね。まあ、香霖の言う通り式神みたいなものよ」
「それじゃあ動かせないの?」
 パチュリーは首を縦に振り、
「既存の術式ではまず無理ね。擬似的に動かすことは出来ても意志を持たす事は出来ないわ」
「そう……」
 残念そうに俯くアリス。
 その様子に意外と友達思いの称号を持つパチュリーはなんとかしてやろうと思うが、いい考えが思いつかない。
 しかし、ふと意志を持つというところで違和感を感じた。
 なにかを忘れてる。そういった違和感だ。
……意志を持つ……そういえば、アリスのところに付喪神みたいな人形が何匹かいたわね。確か……。
 そして、暫し考え込んだパチュリーが出した結論はこれだ。
「上海埋め込んじゃえばいいんじゃね?」
「あ、それありかも」
 それでいいのか知識人。

   ○
 
 太陽が中天に昇る正午。
 霖之助は倉庫の掃除をようやく終え、一休みしつつ肩を叩いていた。
「ただいま」
「あ、おかえり。ようやく倉庫の掃除が――って、パチュリーさん達も一緒か」
 声に振り返れば、三人の少女達が倉庫の入り口に立っていた。
「えぇ、お邪魔するわ」
「失礼しますねー」
 紫髪にモブキャップの様な帽子を被り、前を開けたガーディガンを羽織った少女――パチュリーが淡々と、
 黒いスーツの様な上着に同じく黒のロングスカートを履いた赤髪の羽を生やした少女――小悪魔が元気に、
 それぞれ挨拶してから瓦礫の上に座っていた霖之助の前を通り過ぎていく。
 目的はどうやら先程アリスが発見したメイドロボらしい。
「ちょっと少しだけ騒がしくなると思うけどごめんなさいね」
 申し訳なさそうに霖之助へと謝罪の言葉を放つアリスに対して、霖之助は苦笑いしつつ、
「まぁ、構わないさ。でも、魔理沙に勘付かれないかい?」
「あぁ、アイツなら大丈夫。そろそろホイホイに引っかかってる筈だから」
「ホイホイ?」
 首を傾げる霖之助に対してアリスは微笑を返すだけだった。

   ○

 その頃のヴワル図書館。

「ぎゃー!なんじゃこりゃあああああ!?」
「……ぱ、ぱちぇ、ひど……」
「お嬢様!今たす、って私もーッ!?」
「謹賀新年なのかー!?」
「咲夜さーん!お嬢様ー!?って、足がー!?」
 小悪魔の設置した全自動白黒迎撃餅機【白黒イヤン】が猛威を振るっていた。
 発動したが最後、縦横無尽に白く丸い粘着性のある龍達が飛び回り全てを飲み込む。
 紅魔館制圧まで後五十名。

 君は生き残れるか。

  ○

「おーい、霖之助殿」
「ん?どうしたんだい、慧音さん」
 店内の掃除も終わり、客を待ちつつ椅子に座り読書していた霖之助は声の方向に振り向く。
 そこには白い長髪に妙な帽子を乗せた割烹着姿の少女――上白沢・慧音が立っていた。
「いや、昼ご飯が出来たんだが、アリス殿や魔理沙はどこへ?」
 良く見れば彼女の両手には厚めの手袋のようなものがはめられている。
……鍋か。
 今日のメニューを連想し、昨日と今日、鍋しか食べてないんじゃね?とか思いつつも割烹着の素晴らしさに頷く霖之助。
 やはり和服美人は日本の心だ。
 取り敢えず一通りの賛歌を脳内で流した後、霖之助は店内に設置された窓の向こう側――倉庫を指差し、
「アリスさんはあっちだね。今なんだか実験中のようだから邪魔しないほうが良い」
「そうか。それじゃ、二人で食べるとするか。魔理沙はどうせどこかに行っているんだろう?」
 慧音は腕を組み、片目を閉じて微笑む。
 それに対して霖之助は本を閉じてテーブルに置き、
「あぁ、なんだか大変な目にあっているらしい」
 それを聞いた慧音は首を傾げ、
「ふむ……まぁ、仕方ない。それじゃあ、先に行っているよ」
「あぁ、僕もすぐに行くよ」
「ん」
 それだけ言うと慧音は手を振りつつ背中を向けて居間へと去っていってしまった。
 それを見届けてから、霖之助は手近な本棚に読んでいた小説を入れてから立ち上がる。
「さて、それじゃあ僕も――うおわっ!?」
「―――!」
 突然の爆発音。
 しかも、かなり近くからだ。 
 居間の方から「嗚呼!鍋がー!」などと叫び声が聞こえた。やっぱり鍋だったんかい。
 こけそうになった霖之助はテーブルに手をつくことでなんとか堪え、爆発音のした方向を見る。
「何事だ――って、倉庫がぁあああああっ!?」
 見やった方向には、見事に吹っ飛んで新地になっている倉庫跡があった。
 何事かと急いで扉を開け放ち、倉庫跡地へと向かう霖之助。
 その間も目まぐるしい思考が頭を流れて行く。
……何故。何が。アリスさん達は大丈夫なのか。和風美。鍋。倉庫。というか、倉庫の中身は!?
 実はかなり混乱しているが、そんなことには構わず倉庫跡地へと到着、瓦礫の山を目にして膝を折った。
「がっでむ!」
 最近の流行語大賞に乗りそうな勢いで使用頻度が増えている言葉を叫び、地面に頭をぶつける。
 そこには倉庫にしまっておいた霊夢用の振袖やその他諸々の残骸が無残に転がっていた。
 更にダメージを上乗せされて限界を超えた霖之助は、地面に倒れこむ。
「大丈夫よ!こーりん!私用の振袖はキチンと確保くさぁーっ!」
 取り敢えず隙間妖怪が隙間から叫んでいたのでその辺に落ちてた納豆を投げ込んでやった。
 そして、隙間から「目がー!目がぁぁあああ!」などと聞こえてきたその時だった。
 霖之助の体に影がかかったのだ。
「?」
 顔を上げて見れば、ちっこくなったアリスが瓦礫の上に立っていた。
「……はい?」
「ハーイ」
 純粋無垢といった笑顔を向けてビシッと手を挙げるチビアリス。
 それに対して、霖之助は良い笑顔で混乱するだけだ。
 そして、さん、はい、と両手を挙げて以前隙間妖怪につれられてやったラジオ体操の要領で息を吸い、
「アリスさんがロリータメイドになってしまったぁああああああああ!?」
 勢い良くチビアリスを指差して叫んだ。
「なってないわよ!?」
「ぬわぁっ!?」
「むきゅー」
「うふふふ、パチュリー様のお尻がー」
 唐突に瓦礫を蹴りでぶちやぶり登場するアリス。弾幕よりもあっちの方が強いんじゃないだろうか。
 その腰には紫魔女と尻愛で悪魔がくっついていたが、取り敢えずはチビアリスをもう一度見る。
 彼女も唐突に現れたアリス達を見て目を丸くしていた。
 アリスより少しだけ短い金髪に青いリボンを付け、メイド服を着込んだ少女。
 それだけなら分かるが、その少女はアリスをちょっとだけ幼くした様な顔立ちをしているのだ。
 つまり――、
「アリスさんには隠し子が――ッ!」
 瞬間、叫んだ霖之助の目の前に腰を捻った状態で目を危険な色に輝かせたアリスが現れ、
「衝撃のふぁーすとぶりっとぉおおおおおお!」
「かずやッ!?」
 回転力を加えた凄まじい勢いを持った蹴りが霖之助の腹に入る。
 なにかを砕くかのような音が響き、背景がスローモーションになっていく。
 嗚呼、これが高速の世界か、などと思いつつ霖之助は意識を手放す。

 しかし、それでも意識が落ちる寸前、小悪魔がパチュリーの尻に噛み付くの見逃さなかった霖之助であった。

   ○

「おぉ、気がついたか霖之助殿」
 気がつけば布団に寝かされていた。
 天井を見上げれば自分の部屋でない事がわかった。
「……知らない天井だ」
「それはもしかしてギャグで言っているのか?」
 隣を見れば今度は私服に着替えた慧音が布を両手で広げて座っていた。
 慧音の横にある桶を見るからにおそらく介抱していてくれたのだろう。
「うぅ、すまない、慧音さん」
「それは言わない約束だ。私の方がお世話になっている側なのだからな」
 このクールアンドビューティっぷりを魔理沙にも少し分けてあげたいと思う。
 霖之助は自分の妹分を思い出しつつ、頭を抱えた。
「うーん……さっきなにかえらい目にあった気がするんだけど……なんだったか」
「あぁ、アリス殿が謝りたがっていたぞ。思わず蹴ってしまったと」
 その言葉にようやく先程の出来事を思い出す。
「思わず放った蹴りにしては腰が入ってたような……まぁ、それでアリスさん達は?」
 慧音は布を一度桶の水に浸けてから絞りあげ、
「彼女達なら実験が成功したとかなんとかで上海と遊んでいるよ」
「上海と?」
「む?霖之助殿も会ってるはずだが……さすがにわからなかったか。あの小さいアリス殿が上海だそうだ」
 何気ない顔で結構な爆弾発言を言ってくれるお方。
「……へ?あのアリスさんの子どもがかい?」
「私も最初はそう言って蹴られそうになったが……どうやら倉庫にあった何かを利用して作ったらしいな」
 ああ、なるほど、と霖之助は手を打つ。
 恐らくはあのメイドロボに上海を埋め込んだのだろう。
 乱暴だが確かに案としては悪くないかもしれない。
 まだ二日だけだが、あの人形には助けられる事が何度かあった。
 しかも、持ち主である筈のアリスが命令していない時は自分自身で考えて行動している節まである。
 例えば店内の本を勝手に読んだり、壷を壁に投げつけて爆発させたり。
「……いかん、店がッ!?」
「落ち着け、霖之助殿。店番については平気だ。小悪魔殿がやってくれている」
 なにか心配のベクトルが違うような気がするが、取り敢えず霖之助は言われた通り心を落ち着かせる。
「ふう……取り敢えず倉庫はパチュリーさん達がいるから大丈夫だろうけど……」
 彼女はあれでもこの幻想郷でも一、二を争う魔女らしい。
 アレくらいの小さな倉庫の破壊ならばすぐに修復してくれるだろう。
 魔理沙も良く壊したものを魔法で修理しているし。
「パチュリー殿なら帰ったぞ。なにやら持病の喘息が発病したとか」
 希望が吹き消された。
 でも、まだ魔理沙やアリスが残っている。
「魔理沙は帰って来てないし、アリス殿は実験で魔力を使い果たしたらしい。大変な実験だったんだな」
 うんうん、と腕を布を広げて目を閉じて感慨深げに頷く慧音。
 一方の霖之助はなんだかモノクロになって背中が煤けている。
「まるで子を産むようなって、どうした、霖之助殿?おーい?」
 慧音が目の前に手をかざして振ってくるが、霖之助の反応はない。
 慧音は暫くんーっ、と困った後におもむろに胸から一枚の長方形の紙を出す。
 幻想郷で行われる弾幕ごっこで使われるスペルカードだ。
 その紙にはこう書いてあった。
――国符『三種の神器・剣』。
「よいしょ。せいっ」
「ほぼぁっ!?」
 突如、頭に響く振動。
 何事かと顔を上げてみれば古びた銅剣を持った慧音がニコニコと笑っていた。
「……何をするんだい?」
「いや、里ではボケはこうやると治るんだが……どうだ?」
「そんなことされて治るは――いえ、治ります。治りますから振り上げないでぇー!?」
 残念そうに剣を下ろす慧音。
 本当に里の守護者なのか疑わしくなってきたが、彼女は相変わらず微笑んでいる。
 どうやら悪気はないようだが、ある意味そちらの方が恐ろしい。
「それじゃあ、無理をせずに寝てるんだぞ。怪我人は大人しくだ」
 彼女は相変わらずの笑顔で部屋を出て行った。
「……といっても、店主が店を放っときっぱなしというもの、ね」
 霖之助は彼女が去ったのを確かめ、立ち上がって着替えを始める。
 思えば誰が着替えさせたのだろうか。
 まぁ、深く考えると危険の様な気もするので、霖之助はそこで思考を切った。

   ○

「アリース……おかあさん?」
「そうそう、上海えらいえらい~」

 それにしてもこの人形遣い親馬鹿である。

 そんなナレーションが流れそうなぐらいアリスは上海にデレデレであった。
 その様子を見るのは、店の番をしている小悪魔だ。
 彼女はその様子を微笑ましく眺めていたが、唐突に横から声が来た。
「やあ、小悪魔さん。すまないね、店番なんかやらせて」
 小悪魔が声の方向に振り向くと、廊下を歩いてくる霖之助の姿があった。
「いえいえ、ここには中々面白い品が多いですし。あの二人を見てると中々飽きません」
「あの二人?」
「ええ、ほら」
 小悪魔がアリス達のいる居間を指差すと、近づいてきた霖之助もそちらを覗く。
 そこには相変わらず上海に抱きついて頬擦りをしているアリスがいた。
「……なるほど」
「アリスさんの悲願――達成とは行きませんでしたが上々です。それにアリスさんは中々の子煩悩のようで」
「実験は、成功したみたいだね?」
「一応。まぁ、アリスさんは魔力を削られすぎて暫く空を飛ぶ程度しか魔法を使えないようですが」
「ふむ……じゃあ、今日はなるべく魔力回復に効く夕食の方が良いかな?」
 顎に手を当て考え込む霖之助。
 それを見て小悪魔は赤い長髪を揺らし、頭の羽を二、三度動かして人差し指を立てる。
「それならこの辺りに生息してるキノコがいいですね。本にも載っていましたが魔法の森にはその名の通り、
 魔力を充填するのに良いキノコが大量に生えているそうです。見分けるのは大変ですが、効果は抜群ですよ?」
 生き生きと語る小悪魔。
 図書館の司書としての性か、やはりこうして知識を披露出来るという事には嬉しいものがあるのだ。
「ふむ、それじゃあ、魔理沙にでも分けてもらおうかな……」
「あら、香霖さん……?」
 頭の青いリボンを揺らす上海を連れてアリスが居間から出てくる。
 上海の周りでは仲間の人形達が楽しそうに踊っていた。
 彼女は上海の頭を撫でるなり、小悪魔達へと満面の笑顔を見せ、
「可愛いでしょ?」
「ええ、とっても」
「うん、本当の親子のようだよ」
 えへへー、と笑顔を浮かべるアリスは本当に嬉しそうだ。
 一方、メイド服を着たままの上海は蓬莱人形を捕まえて頭の上に乗せていた。
「これで良い研究課題が見つかったわ。この子以外にもこうやって埋め込めれば……」
「ちびっこメイド軍団が――ッ!」
「違う!」
「はうっ!?」
 叫ぶ小悪魔にどこからともなく取り出したスリッパでツッコミを入れるアリス。
 そんなやり取りをしていると、唐突に店の入り口の方からノック音と一つの声が聞こえてきた。
 
「おーい、香霖開けてくれー」

 魔理沙の声だ。
 霖之助はその声に気づくと小悪魔達よりも早く玄関へと駆け寄り、扉を開ける。
「おかえり――って、どうしたんだい魔理沙。そんなベトベトになって」
「災難だったぜ……」
 その言葉通り魔理沙の体には白い粘着力の高そうな謎の物体が所々に張り付いていた。
 それを見て小悪魔は額に汗を流す。
……まさかあの罠を生きてかいくぐってくるだなんて――ッ!
 殺意全開っぽい思考だが、別に小悪魔は懲らしめてやろう程度にしか思っていないのであしからず。
「って、アリス。なんだ、そのチビアリスは」
 店の中に入ってくるなり首を傾げる魔理沙。
 どうやらアリスの隣に立つ上海を見て疑問に思ったようだ。
 それに対してアリスはあくまで笑顔で上海を抱え、
「上海よ。上海。ふふ、可愛いでしょ?」
「ほー、随分変わったけど……なんか昔のお前っぽいな」
「子は親に似るのよ」
「まぁ、私達が頑張って顔をつくみもざっ!?」
 無粋なツッコミを入れようとした小悪魔は神の裁きという名のスリッパ攻撃を喰らって素っ飛んで行った。
「なーなー、私にも抱かせてくれよー」
「いいけど……乱暴にしちゃだめよ?」
「なんの話ですか!?」
 一瞬で復帰する小悪魔。
 その様子を霖之助は微笑ましそうに見守っていたが、更に響くノック音に振り返る。
 小悪魔達は相変わらずギャーギャーと騒いでいるので仕方なさそうに彼は扉へと向かい、
「どちらさまでしょうか?」
「どうも、私が神です」
「歩いてお帰り」
 すぐさま扉を閉めた。
「ああっ!ちょっと待って!締め出しなんて酷いー!」
「魔理沙!つっかえ棒!つっかえ棒を持ってくるんだ!」
「って、今の声、お母さん?」
「おかあさん?」
 急にドタバタとし始める香霖堂一同。
 その中でアリスと上海だけが小首を傾げていた。
「どっせーい!」
 派手な爆発音と共にブチ破られる玄関周辺。
 瓦礫が舞うと同時に六枚の翼を生やした人影がその中から風を巻いて現れる。
 その人物は銀色の長髪を一房だけ頭の横で結いチョコンと飛び出させているといった髪型をしていた。
 埃のせいでその人物の顔は見えないが、なんだか本当に神のような荘厳な雰囲気を放っている。
 赤い外套の様な服装の背中から生えている六枚の輝く羽がただものではない事を見る者に知らしめてた。
「やっぱりお母さんじゃない」
「あ、アリスちゃん」
 女性の荘厳な雰囲気が一気に吹き飛ぶ。
 アリスと上海以外は全員盛大にこけた。
「って、お前かよ!?」
「魔界神様!?」
 素早く立ち直ったのは魔理沙と小悪魔だった。
 どうやら面識があるらしい。
「あら、魔理沙ちゃんと小悪魔ちゃんも久しぶりー。今日はアリスちゃんの様子を――あら……?」
 魔理沙と小悪魔に手を振るアリスの母親らしい女性――魔界神の動きがピタリと止まる。
 何事かと視線の先を見てみれば、そこには上海が立っていた。
「……えーっと、その子は?」
「あ、お母さんには紹介してなかったかしら?上海。私の愛娘よ」
 アリスが笑顔で告げた瞬間――、

 女性の周囲の空間が纏めて吹きとんだ。

「店がー!?」
「何事ですかぁーっ!?」
 響く霖之助の悲痛な絶叫。
 小悪魔は顔を腕でかばいつつなんとか隙間から状況を確認しようとする。
「って、こぁーっ!?」
 そこには修羅が居た。
 なんだかその修羅は背中の六枚羽を真っ黒に染めて異常な威圧感を放っていた。
「だ、誰が父親なのー!?」
 その修羅こと魔界神は凄まじいスピードでアリスの肩を掴んで揺らしまくる。
 アリスはというと、とっくに意識を失っているのか目を白くしていた。
「おかあさんー」
 上海が心配そうな顔でアリスへ駆け寄って来る。
 それと同時に魔界神はアリスの肩から手を離し、上海へとターゲットを移した。
 アリスがドサリと音を立てて倒れるが、魔界神は笑顔で上海と視線を合わせるように屈みこむ。
「しゃんはいちゃん、だったかしら?おとうさんは誰なのかなー?」
「おとうさん?」
「そう、お母さんと一番仲がいい男の人」
「……」
 んー、と言った感じで暫く考えこんでいた上海だったが、次の瞬間、笑顔を浮かべ、
「おとーさん!」
 と、霖之助を指差した。
 キリキリキリと音を立てて風圧に吹き飛ばされないように伏せていた霖之助の方を振り向く魔界神。
……ああ、そりゃ確かに香霖さんが一番仲良さげですけど――。
 地面に伏せつつ小悪魔は思う。
 自分は悪魔だし、暴走しているのは神だがこんな事――彼の冥福を祈ってもよいのだろうか、と。
……香霖さん、なむー……。
 絶叫が響いた。


   ○


「酷い目にあったよ……」
 あの後、色々酷い目に合わされた霖之助であったが、誤解を解いた魔界神に治して貰い一命をとりとめた。
 どうやらあの魔界神ことアリスの母親――神綺は娘の事になると周囲が見えなくなるらしい。
 その割には娘も締め落としていたが。
 お詫びにと置いて行った饅頭を見つつ霖之助は溜息を一つ。
 続いて、つい一時間ほど前に修復された店内を見渡す。
 すると、そこには一人の白黒が立っていた。
「どうしたんだい、魔理沙?」
 首を傾げるが魔理沙の表情は帽子に隠れて見えない。
「さっきは言いそびれてたんだが、実は私、紅魔館でちょいとした事件に巻き込まれたんだ」
「ふむ……それで?」
「で、それを解決するために孤軍奮闘したわけなんだ」
「ほう……君も人のためになる事をたまにはするんだね」
 そして、魔理沙は最後に飛びっきりの笑顔で、
「今度は紅魔館を壊―――」
「わかった。もうなにも言うな」

―――騒動は、まだまだ終わりそうになかった。





「おーい、鍋が出来たぞー?」
「「「また鍋かよ!?」」」
やっべ、カオスになりすぎたぁー!?

というわけでこんにちは、猫の転がる頃にです。
慧音先生はBADEND時とかに笑顔で迎えてくれる人だと信じて疑いません。
鍋しか出来ないけど……愛情は篭ってるんだ。

なんだか勢いで書いているようなので読みづらいとは思いますが――、
お母さんアリスが書きたかった。後悔はしていない。

それでは、また会うときがあればー。

※修正させていただきましたー!指摘に感謝を!
猫の転がる頃に
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コメント



0.3570簡易評価
13.90CACAO100%削除
良いなぁ!この上海!俺にもつくっt(ry
17.無評価名前が無い程度の能力削除
倉庫が爆発した辺りでの
今の方じゃなくて 居間の方じゃね?
後 前の話が有るならそっちについても触れておいた方がよくね?

話はGJ 続き期待してます
18.90名前が無い程度の能力削除
点をつけ忘れた~
25.80幸太郎削除
神綺様ktkr!!
次は明羅さんかな?魅魔様かな?岡崎夢美?北白河ちゆり?里香?玄爺?
もっと旧キャラ登場しないかなあ?
しかし上海マジ可愛いよ
30.90名前が無い程度の能力削除
割と積極的に場をかき乱すアリスは珍しいかも。足技万歳。

>玄爺
鍋ばっかり喰ってる所に出てくるのは死亡フラグだ!
博麗神社で逆さにして火に炙られている予感。
39.80名前が無い程度の能力削除
割烹着はやはり白がジャスティス…
てより鍋しかつくれないのかけーねおっかさんwww

次は紅魔館の皆さんが移住してくるわけですね
62.100時空や空間を翔る程度の能力削除
カモン、マイハウス「香霖堂」
楽しい仲間お待ちしています。
64.100名前が無い程度の能力削除
ロリスktkr
66.100bobu削除
幻想郷行きたい。
72.80名前が無い程度の能力削除
香霖がだんだん変態と化していって不安だ・・・
それにしてもこのアリスは可愛いな、勿論上海も