Coolier - 新生・東方創想話

青空の日

2006/12/31 07:21:16
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いつも通りの日常が繰り返されて終わるはずの日だった。
雲ひとつない、青空の日。

霧雨魔理沙は、いつものようにアリス・マーガトロイドの家で適当にくつろごうとしていた。
アリスの家は居心地がいい。自分の持ってない本もある、おいしいお茶も出る。何より──アリスがいる。
アリスの事が好きという感情。そして、きっとアリスも自分の事が好きだという感覚に近いもの。
だけどお互い踏み込まなくって、それがくすぐったくて、ある意味心地よくて、楽しかった。
ずっとこのままでいいとは思わなかった。だけどもうしばらくこのままでいたいと魔理沙は思っていた。いずれ踏み込もうと思いつつ。


..だけど、アリスの事を本当に理解しているのなら、もう少し早く踏み込むべきだった。






それは本当に唐突の事だった。






いつも通りにアリスの家に着いて、適当に結界を解除して入ろうか、という時、上からアリスの声の呼ぶがした。



玄関からは死角だったので、箒に跨ってアリスと同じ高さまで飛んだ。そこにいたアリスの表情を見たとき、魔理沙は背筋が凍りつくのを感じた。
「笑っている表情」というだけの顔。これを動詞で「笑っている」とは表せない。感情がくっついていない。
アリスは性格は素直ではないが本当に正直で、感情を隠せない。そんなやつだ。だから本当はこんな顔できない。
仮面を被ることなんてできないはずだ。

「おはよう、魔理沙。今日もいい天気ね。また読書にきたのかしら?」
「あ、ああ。そんなとこだな」

にっこりと瞼を閉じて笑っている表情のままで、とても優しい口調。
何もかもが初めてで、何もかもがおかしい状況に魔理沙は困惑した。
その魔理沙の様子を見て、アリスはくすりと笑った。

「ふふ、変な魔理沙ね。そういえば・・魔法の研究は進んでるかしら?」
「ま・・まあな。」
「何よ、その曖昧な返事は。何か隠してる研究とかあるの?」
「いっ、いや、無いぜ。」

実際そんな研究はない。だけど、アリスの雰囲気に圧倒されて、うまく言葉がでない。
アリスが言葉を重ねるたびに、どんどん重圧が高まってる気すらしてくる。

「ふぅん・・・じゃあ、隠してるかどうか、試してみないとね。」
「お、おい、アリス・・?」

アリスの手に大きな魔力が収束していくのを魔理沙は感じた。
そして、その手が自分の方向に向けられた瞬間、魔理沙は反射的に上に飛びのいた。

大砲のような轟音と共に、太い光線がアリスの手から放たれた。いつもアリスが使ってるそれとは格段に威力が違った。
避けなかったら自分の体が無くなってかもしれない。

「なっ・・、いきなり何するんだよ!この・・っ!」

体勢を立て直しながら自分も手に魔力を込め、アリスのほうに振り返った瞬間、
視界に飛び込んできたのは大きなランスを持ってこちらに突撃してくる上海人形だった。

「くそっ・・!」

体を思い切り右側に傾け、箒を軸にぐるりと回転するようにして上海の突撃を避ける。
そしてそのまま、箒に魔力を込めてアリスに向かって突撃をする。

「本当、魔理沙はいつもまっすぐよね・・。」

アリスがすっと腕を振ると、魔理沙の前に巨大な盾を持った人形が現れた。
がきん、と大きな金属音がして、魔理沙はその盾に弾かれてしまった。

「うぁっ・・!」
「チェックメイトよ。魔理沙。」

弾かれた先には上海と、剣を持った大量の人形。
魔理沙が体勢を立て直した頃には完全に包囲されてしまっていた。
これ以上どうしようもない事を悟った魔理沙は、両手をあげた。

「..私が本気を出せばこんなものなのよ。魔理沙なんて。」

アリスがまた腕を振ると、魔理沙を囲んでいた人形が散開した。

「だから、何だっていうんだ?」

魔理沙はほっと肩をなでおろしながら、悪態をついた。
本気を出したアリスに勝てないぐらいわかっていた。そもそもの種族差だ。
アリスの土俵の上で自分が戦って勝てるわけがないのだ。だがそんな事は普段は関係ない。
日常を過ごす上で、力の優劣は大した問題ではないし、もともとアリスは力を誇らず、相手の力量に合わせるタイプだ。
何故、いきなり。

「...あなたと私は違うってことよ。」
「なに・・?」

アリスは魔理沙に背を向けて、アリスの家の前へと降りていった。
それにあわせて魔理沙も降りる。

「あなたは所詮人間よ。体も弱い。魔力も弱い。寿命も、短い。私たち魔族より遥かに劣った存在よ。」
「...だから?」

魔理沙は少しだけいらだちを感じた。一体なのが言いたいのか。何のためにそれが言いたいだけに自分をねじ伏せたのか。
アリスはとことこと魔理沙に背を向けたまま歩いた。

「わからない?」
「わからないな。」
「...そう。なら教えてあげるわ。」

ぴたりと、アリスの歩みが止まった。
ふ、とアリスの周りのあった暗い雰囲気が薄れるのを魔理沙は感じた。

「人間なんかと、私が一緒にいたってしょうがないってことよ。私に何の利益もないわ。
ううん、あなたはむしろ私にとって害。勝手に本は盗むし。結界は破るし。人形たちにちょっかい出すし。」
「アリス・・。」

語りだしたアリスは、既にいつものアリスだった。
そして、いつものアリスは本音と違う事を言うとき、いつも背中を向けて言うことを、魔理沙は思い出した。

「あなたなんか、私に必要ないわ。あなたを必要としてくれる人は別にいる。
今私の家にあるものなら何を持っていってもかまわないから。持っていったらもう二度と私の前に現れないで。あなた、邪魔なのよ。」

(ああ・・そうか。)

かすかに震えているように見えるアリスの体を見て、魔理沙は理解した。
というより、確認した、というほうが正しいか。

(やっぱり、私の事が好き、なんだな・・アリス・・。)

魔理沙はそっと、足音を立てないようにアリスの方へと近づいていった。

「あなたみたいにっ、粗雑でっ。いいかげんでっ。何ひとつっ、いいところ・・なくて・・。」

無理して冷たい口調で。無理して本心と違う事言って。壊れそうなのに意地張って。
魔理沙には、そんなアリスの背中がとても小さく見えた。自分より背が高いはずなのに。
だから、そんな背中がとても愛らしくて、

「アリス」

魔理沙はそっとアリスを後ろから抱きしめた。びくん、と大きくアリスの体が跳ねる。

「..っっ!?なっ、なにするのよ!こんな事して、何のつもりよ・・・っ!」
「無理、しなくていいから。ごめんな、アリス。」
「なっ、なにが、よ・・。無理なんてしてないわ、無理なんてっ・・。」

じたばたとアリスが暴れる。ぽろぽろと目から大粒を涙を流しているのが、背中ごしからでもわかる。
魔理沙はゆっくり、ゆっくりアリスの髪を撫でた。

「ごめんなアリス。気づいてやれなかった。お前がここまで思いつめてるなんて。
 きっと、踏み込みたくても踏み込めなくなって、どうすればいいかわからなくなった・・そんな感じだろ?」
「なっ・・何が・・よ・・。踏み込む、って何が、よ・・。
 魔理沙に私の気持ちがわかるわけないじゃない!勝手なことっ・・言わないでよぉっ・・。」

また無理をするんだからな。魔理沙はそんなアリスが愛しくて、抱きしめる腕にもう少し力を込めた。
強気で勝気な事ばかりいってるくせに、自信が持てない事に関しては本当に本当に弱気で。だから、悩んで悩んで、悩みすぎて。

「じゃあお前の気持ち、当ててやるよ。アリスは・・私の事が好き、そう、だろ?」
「...っっ!!」

ぴたりとアリスの動きが止まる。
こんな告白の仕方、今まであっただろうか、と魔理沙はおかしくなって心の中で笑った。
アリスは素直じゃない。でも正直だ。だから本当に正しい事を言われれば、反論できない。本気の嘘をつけないから。

「..ずるいじゃない、そんな言い方・・。私、どうすればいいのよ・・。」
「そうだなあ、じゃあ私の気持ちを当ててくれ。」
「えっ・・えぇ・・?」

魔理沙はまたずるい事を言ってみた。ここで素直になれ、と言ってやればいいというのに。
だがこれは先ほどボロ負けした魔理沙の仕返しでもあったりした。

「ま、まりさは」
「うん」
「私の事が、好き、なの・・?」
「うん、好きだぜ。」
「~~~っ!!」

おそるおそる振り向きながら言うアリスに、あっさりと答えてやる。心の中は嬉しくてたまらないが、これも可愛いアリスを見るためだ。
アリスの体が一瞬固まり、ぶるぶると震えだす。きっと悔しいんだろうなあ、と魔理沙は心の中で笑った。

「ああああ、もうっ!」

突然、アリスは魔理沙の腕をひきはがして振り返り、すぐさま魔理沙に飛びつくように魔理沙の胸に飛びこんだ。
魔理沙はにこりと笑ってそれを受け止めて、アリスを抱きしめた。

「何でそうやってずるい事するのよ・・馬鹿・・っ」
「そうだな、アリスが可愛いからだな、きっと。」
「ぅっ・・ぁぁ、もう・・本当馬鹿、馬鹿魔理沙。」

魔理沙の胸に顔をうずめたままそう言うアリスが可愛くて、魔理沙はそのまま何度もアリスの頭を撫でた。

「私・・。」
「ん?」
「私ねっ・・。ずっと魔理沙の事想ってきてっ、だけど振り向いてもらうにはどうすればいいか全然わかんなくってっ・・。
 自信なくってっ・・。だけど、魔理沙がどんどんどんどん、私の心の中で大きくなって、溢れそうになって・・っ。
 でも、やっぱり、自信なくてっ、怖くてっ・・どうすればいいかわからなくって・・・・辛く・て・・。」
「独りに、なろうとしたんだな・・?」

胸の中でこくりと頷くアリスを、魔理沙はそっと撫で続けた。
辛いまま一緒にいられるほどアリスは強くない。
だから心配をかけたり迷惑をかける前に、嫌われる事によって別れて無理矢理気持ちにけじめをつけようとしたんだろう。
あくまで自分が悪役で。

「残念だったなぁ、アリス。これでもう独りにはなれないぜ。」
「..ふんだ。ずるい事ばっかする子なんてきっとすぐに嫌いになるわよ・・っ。」

そういう事を言うから、ずるい事したくなるということに気づかないアリス。
色々と魔理沙はたまらなくなって、またずるいことを思いついた。

「じゃあまたずるい事してみるか。アリス、こっち向け」
「え・・うん。って・・んっ!?」

アリスの顔が見えた瞬間に、魔理沙はアリスの唇に自分の唇を触れされた。



「...やっぱり、ずるいわよ・・。」
「嫌いになったか?」

アリスに魔理沙は笑いかける。
アリスは、魔理沙に言った。今まで見せた事の無い一番の笑顔で。

















「そうね、大嫌いよ。」

























ちょっと違う日常が始まった。
雲一つない、青空の日。
















初投稿のみずほです。
マリアリもの。最初は違う所に投稿したけどよく考えれば需要が違ったのでこちらに。

脳内で作られた魔理沙とアリスの関係です(笑)
なんとなくこんな感じがいいなあ、と。ちょっと魔理沙が男前過ぎ、アリスが乙女過ぎな気もしますが気にしない方向で。
次はあんまり甘くしないで普段の二人らしいものも書いてみたいなあとか。

最後まできちんと読めてもらえただけでもとても嬉しいです。
みずほ
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コメント



0.730簡易評価
3.70名前で呼ばれない程度の能力削除
カップリング系は賛否両方ありそうだな。紅白黒派の方やパチ百合派の方とか…。
でも、素直じゃないこの二人は個人的にお気に入り、かな。甘いけどw
4.50名前が無い程度の能力削除
あまあま~♪
10.-10名前が無い程度の名前削除
甘々なのは嫌いじゃないけど、唐突に始まって説明もないままに終わったようにしか見えません。
脳内で作られたとありますが「脳内のものをただ垂れ流した」としか評価できませんでした。
他者に読まれる事を意識した構成、展開などを考慮して欲しかったです。
11.90CACAO100%削除
もう何も言うまい、あめぇww糖尿がwww
13.70ぽい削除
王道アリマリって感じで甘々な雰囲気がいいですね~。アリ霊派の自分はちょっと嫉妬してしまう部分もありますが(笑)
ラストの締めもしゃれてるし、心地よく読めました~。
15.80名前が無い程度の能力削除
甘いぜ甘いぜ
20.100名前が無い程度の能力削除
マリアリ!ありがとう!
29.80名前が無い程度の能力削除
「何を持っていってもいいから」の辺りから
「何を持っていっても良いんだな?じゃあアリスを貰っていこうか。」
的な台詞が来るかと思ったけどこれもいい。

カルピスの原液よりも甘い。二人の魔女に幸あれ。