Coolier - 新生・東方創想話

咲夜不在の紅魔館と+a

2006/12/29 08:21:12
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紅魔館の廊下は赤く、そして広い。
見上げる天井に果ては見えず、眼に映る暗い闇。
それは廊下だけではない。
館を外から見ると、まあそれなりの大きさな癖に、館内に足を踏み入れてみると更に大きい。
いつ来ても色々な意味で感心させられる。

「おい、凄いぜ。あんな所にナイフが刺さってるぜ」

魔理沙は前方を歩く美鈴の後頭部を指差した。
話しかけられても、どこか霊夢は「ふーん」そっけない答えで返す。
その視線は魔理沙を一瞬見やり、次には壁に掛かっている高そうな画を見ていた。

そんな霊夢に魔理沙は言う。

「なんだ?さっきか挙動不審だな、なんか盗って帰りたいものでもあったか」

「それはアンタでしょうが。けど、本当に凄いわ、これって」

あっさりとした答えに魔理沙はそっぽを向いて口を尖がらせる。

「ええ、全部咲夜さんのおかげです」

「つまんねぇぜー」と、囁くも美鈴の声で霊夢の耳には届かなかった。


十六夜 咲夜。
完璧……と言ってもいいのか、若干迷うが、確かに有能な少女。
一家に一人欲しいと思えるぐらいだ。レミリアに相談してみよう。

まぁ、それはさておき。

いつもなら彼女が私達を案内するはずなのに、なぜか門番である美鈴が通している。


「へぇ。……そういえば、その張本人はどこに行ったの?」

美鈴は少し身体を硬直させるが、振り返り「なんでもないですよー」と手を振って笑う。
そこで初めて霊夢の視線が一箇所に留まった。
美鈴の眼に潜り込むつもりなのか、一心不乱に見つめる。
ただ見つめる。
ただ、ただ見つめる。

じー。

「えーっと。今回お呼びしたのはその事なんですよ」

美鈴は苦笑いし、追及を逃れるために前を向くと

「よう。今日は良い天気だな、鳥になってみないか?中国」

魔理沙がホウキを逆手に持ち、床を突く。
そして右手をズボンに突っ込み、何かを取り出した。
八角形の中心に円が書いてあり、そこからまた綺麗に沢山の線で模様付けしてある、八卦路だ。

「え、ちょ、待って待った落ち」

「かーめー○ーめ波ーーーー。悪い、嘘。ただのマスタースパークだったな」

爆発音が空気を裂いて耳朶する。
辺りが砂煙に包まれて、息がしにくい。それに髪と服が汚れてしまった。
しかめた面で霊夢は身体中を掌で叩いて払う。

「あっははは、撃ちたいもんだぜ。かめ○め波」

「ちょっと、魔理沙。どうしてくれんのこれ」

砂煙が収まり、徐々に視界が戻ってくると霊夢が不満を露にした。
当然だ。
今はまだ昼頃、それなのに着替えなければいけないほど全身砂だらけ。
そんな霊夢に魔理沙は驚愕の表情を浮かべ、叫んだ。

「霊夢、そんなことより、これはやばいぞ。私は、私は」

「?どうしたの、そんな慌てて」

珍しく焦った魔理沙に霊夢は何か気付いたのだろう。
いつもの無関心な口調ではなく、宥めるような声音で尋ねた。

「ああ、それがだな。そう、それは」

「それは?」

ごくり。
霊夢が喉を鳴らす。
魔理沙が霊夢の眼前に指を立てて呟く。

「俳句だぜ」

はっ?
眼と口を真ん丸く開き、意味が分からないと体現。
むしろ、それがどうした?と言いたげな顔に戻った霊夢を見て、魔理沙は叫ぶ。

「さっきの台詞が五・七・五だったんだぜ!!はっはーー、今日の私は運が良いーー!!」


五・七・五?
そして、さきほどの台詞を思い返すと

『あっははは、撃ちたいもんだぜ。かめ○め波』

確かにそれっぽい。
だから、霊夢は突っ込んでみたくなった。
怒髪天を衝く。
怒りに情熱を燃やしながら、お札を三枚懐から抜き取る。

「ねぇ、魔理沙」

静かな、だけど異様な迫力。今なら霊夢の背後に武神が見えてもおかしくは無い。

「な、なんだ霊夢?」

後退しつつも、逃げないで律儀に返答する。
魔理沙は知っている。怒った獣に背を向けるのは自殺行為だと。


「さっきのは、字余りよ。七じゃなくて、八文字じゃない」

「あ、ああ。うん悪かった、気をつけるさ」

かくん、と俯いた霊夢。
アリスの人形みたいな硬質な動きに、魔理沙の背筋を嫌な汗が流れた。

「それとね、魔理沙。………アンタの運勢は良くは無いわ。だって」

札を持った右手を天高く上げて、宣言。
魔理沙はホウキに跨って逃走し始めていた。
だが、霊夢相手にそれは致命的なぐらいに遅かった。



「私が最低最悪にしてあげるからぁっ!!夢想封印・集!!」

ぎゃああー。

七色の大玉が魔理沙を吹っ飛ばした。
経験値365獲得。資金マイナス お札三枚
霊夢はレベルアップ。
対、魔理沙・紫『ツッコミ』を憶えた。

「と、こんなところでレベル上げしてる場合じゃないわ」

たったったと歩き始める。
その背中が不意にズレた。砂漠で見る蜃気楼のように揺らめき、そして消える。

残ったのは死屍累々とした景色。

後から走ってきた美鈴はこの惨状を見て、青ざめていく。
そして、天に叫ぶ。


「いやーー!新スペルの実験体はもうヤダーー!!」







レミリア・スカーレットは椅子に背を預け、足を組んでいる。
皿から音を立てず、ティーカップをつまむ様に持って紅茶に口つける。
吸血鬼が呑む紅茶は真っ赤で、まるで血を飲んでいるように見えた。

「レミリア、それって美味いの?」

霊夢が珍しく興味津々に尋ねる。
そんな霊夢に、驚いた表情も隠さずレミリアは呟く。

「飲んでみる?」

「良いの?じゃあ、少し貰うわね」

手渡されたティーカップにレミリアを真似て音を立てないように口に含んで、

「どう?美味いかしら」

レミリアが身を乗り出し、尋ねる。

霊夢が真っ赤な紅茶を床に噴いた。
げほげほっ、咳き込む霊夢を見て、レミリアは「やっぱりね」と呟く。

「けほ、…やっぱりってどういう事よ。鉄の味がするだけの紅茶なんて美味いわけないじゃない」

「それはそうよ。私も美味いと感じない」

吸血鬼が血の味を不味いと否定した。
何かおかしい。
レミリアの顔色はどこか優れない。
容態がおかしいのか、それとも不快な事が起きたのだろうか。

「どうかしたの?」

霊夢の問いにレミリアの答えは含み笑いだった。
肩を震わせ、「くっくっくっ」と不気味な笑いも、次第に大きな哄笑に変わっていった。
いや、これは自嘲だろう。

「はぁ。こんなに咲夜に依存していたとはね。カルネ、これはもう良い。下げて」

カルネと呼ばれたメイドが部屋に入ってきた。
片手に抱いたお盆に無音でテーブルの上にある紅茶を片付けていく。
まだ並々に入ったカップを容易く片付ける手際に霊夢は呆然と感心するだけだった。
だけど、レミリアの眼は険しい。
無言だからこそ、伝わる事実がある。
カルネは一言、謝罪をして静かに部屋を出て行った。



静まり返ったロビーに霊夢がポツリと呟く。


「泣いてたけど?」

「そう。紅茶を注がせるにはまだ早かったわ。茶葉をね、苦味を抜いてポットに入れるの。それに適量の血を混ぜると紅魔館の紅茶は出来上がり。あの娘は分量を間違えて出したのよ」

「ふーん」

既に霊夢の眼には木籠に入った洋菓子しか映っていなかった。
そして、さっきのメイドを庇うような言葉を思いつき、レミリアに言ってみる。

「けど、このお菓子は美味そうじゃない。スコーンにかけてある赤いジャムは要らないけど」

「それは昨日、咲夜がつくったものよ。それにしても、霊夢がスコーンなんて知ってるとは思わなかったわ」

「はいはい。あんたの所の優秀なメイドさんに教えてもらったのよ」

「咲夜の入れ知恵か」

それっきり、レミリアの言葉は無かった。
気だるげな雰囲気に、そしてレミリアの様子から咲夜の偉大さが覗かせている。
なるほど。
じゃあ、その偉大な彼女は何処に居るのだろう。
美鈴の言葉から、今日呼ばれたのはそういう事らしい。
霊夢は一人納得した顔で頷く。

「そろそろ良いでしょ」

「霊夢、頭壊れた?」

レミリアの暴言を見事に流して、スコーンを口に放り込む。
さくさくした食感に、紅いジャムは木苺らしく、甘酸っぱい味が見事に合っている。
食べている合間に霊夢はどう切り出すか考えるが、彼女の思考回路は単純明快。
結局の所、単刀直入に聞くしかなかった。


「違う。ねぇ、咲夜が居ない理由に私達を呼んだ理由教えて」


しばしの無言。
眼を瞑り、腕を組んだ、無表情のレミリアがどうにも悩んでいるように見える。
重大な決断を下す前の相談ってこと?

霊夢は責任という言葉が大嫌いだった。
疲れるし、面倒だからだ。
それなら、境内の日陰で緑茶でも飲んでいたい。

だけど、霊夢は席を立たない。
結局、人とは他の存在と関わりで生ずる中でしか生きれないのだから。
それが人間であり、意志がある存在に共通すること。

せめて、人間らしく生きたいと願う、霊夢の意志だ。


「霊夢の親はどんな奴だった?」

唐突に話が飛んだ気がした。
しかも、人の親を『どんな奴』呼ばわりとは良い度胸だ。
文句を発する霊夢より早く、レミリアは再び口を開く。


「私は、咲夜の親になりたい」


その時、霊夢の顔はハニワになった。
いや、土偶でもいい。とにかく、途方も果ても無いぐらいに間抜けな顔を晒していた。
阿呆面をした霊夢を見て、レミリアは恥ずかしそうに俯く。


端から見れば、プロポーズしてるみたいだった。


少なくとも、扉の隙間から覗いている魔理沙と美鈴にはそう見えた。
なにせ、声が届かないのだ。
何を言ったのかは想像するしかない。

そんな二人の存在に気付かぬまま、レミリアは慌てて弁解の言葉を続けた。


「違う、そういう意味じゃなくて!」

「………。」


口から霊魂が抜けかけてる。
魂とは心で、つまり放心とは正に今の霊夢を指して言うらしい。

レミリアは苛立ち、霊夢の肩を掴んで揺さぶる。
吸血鬼は人間とは比べられないぐらいに力がある。
そしてレミリアは普段、ゆったりと暮らしてる分、力が有り余っていた。
余った力が許す限り、霊夢を思い切り押しては引いて、の繰り返し。


「ああ!いい加減起きろ、しっかり最後まで人の話を聞け!」


がくがくがく。
そんな不毛な争いは、いよいよ収拾が着かないぐらいに高まっていた頃、


「面白いわねレミィ。それはなんて遊びなの?」

何処からとも無く、パチェリーがふわふわと飛んできた。
そのまま空いたイスを引いて座る。
親友の言葉でようやく現実に帰還したレミリアと奇跡の蘇生を果たした霊夢は、落ち着きを取り戻す。


「ねぇ、決まったの?咲夜へのプレゼント」

パチェリーの興味無さそうな呟きに、レミリアは「あっ」と小さく喚き、霊夢は首を傾げる。

「プレゼントって何の話?」

状況把握の為に霊夢はパチェリーに尋ねる。
これ以上、レミリアの妄言は聞きたくなかったのだ。

「ええ、この館に勤めてから丁度、切りの良い月日だから。今日は館で咲夜の慰労式アンド仮初だけど誕生日会というのをしようとしてるの」

「で、主たる私から何か贈ってあげようと思ったんだ」

パチェリーの言葉を引き継ぐレミリア。
霊夢は、心から感心する。同時に羨ましいと思った。
その嫌がらせだろう。
霊夢の言葉は鞭で叩くように厳しい。



「じゃあ、なんでさっきキモイ事言ったの?」


「素朴な表情でキモイは止めろ、凄く傷つくから」


「ぷぷっ、えんこー吸血鬼のくせに傷つく?今まで何人の乙女を毒牙に掛けた分際でどの口が何をほざくの?ばーか、ばーか。お前の母ちゃん、テロリストー」


パチェリーは言葉の暴力を目前にして


「……」


スルーした。
巻き添えは嫌だと眉をひそめた表情から伺える。
仕方なくレミリアは酷く投げやりな感じ(人生を)に説明を始める。


「外界では親が真っ赤な服を着て泥棒の真似をしながら自分の息子や娘にプレゼントを贈る風習があるらしい。知ってた?ナマモノ霊夢、間違えた怠け者だ」

霊夢にとって初耳だ。
だけど、その話でよく分かった。レミリアの奇異な発言の意味が。
でも、気色悪い。

「ふうん、普通に渡せば良いじゃん。変態」

霊夢が最もな発言。
だけど、レミリアは訝しげに霊夢を見つめ、言う。

「今日はクリスマスだから、そういう趣が合って良いと思ったんだ。所で、今日はクリスマス。そこ重要。分かったら、家で巫女巫女ナ○スでも踊ってな」


しばらく、考え、気付く。
霊夢は不意打ちを食らったようによろめく。椅子に座ってるけど。


「ええ!?嘘よ嘘だ、だって私の家に有る日捲りカレンダーはまだ三月なのに、嗚呼だから魔理沙が来て、紫も来たのか。二人してケーキなんか持ってと思ったら。あと、お前殺す」

「そういうわけ。つまり、本当な今頃神社でワイワイしてたろうにね。まぁ、良いや。咲夜へのプレゼントって何が」

「忘れてた!!それじゃ、また来年!!」


爆砕に告ぐ破壊音と爆発音。壁と壁と窓をぶち壊す霊夢。
同時に巻き上がる煙を旋風と化した霊夢の姿が突っこんで消える。

レミリアの帽子が爆風に乗って攫われた。
しかし、呆然としたレミリアにパチェリーがボソっと呟く。


「それは大晦日よ、霊夢」





幻想郷ではさして珍しくも無い、巫女が空を飛んでいる風景。
紅魔館を出て、今は大きな湖の上を横切って帰宅中。
ただ、この季節。
寒冷の所為か、湯気に似た蒸気が視界を遮っていた。
そして、もう既に湖を横断できるぐらいには飛んでいる。
しかし、未だ湖上を少女飛行中。

「そういえば、なんで咲夜が居なかったのか聞かなかった、けど別にいっか」

そんな現状を気にもせず、霊夢は淡々と呟く。
返事が無い独り言だ。

「いや、白玉桜に行ってるみたいだぜ?」

背後からの声、この口調は二人ぐらいしか知らない。
つまり確立は二分の一で霊夢は振り向きもせず、彼女の名前を呼ぶ

「魅魔?」

「魔理沙だ、この野郎。師匠と、どうやれば間違えるんだよ?」

一瞬、速度を上げて振り切ろうとしたけど止めた。
単純な速度と魔力じゃ到底敵わないのだから。
仕方なく速度を緩めると、当然の顔でスー、っと霊夢の隣に付いた。

「それにしても、今まで何処に行ってたのよ。心配したじゃない、また余計な事をしてないかって」

霊夢の言葉を聞いた瞬間、魔理沙の額に血管が浮き出てぴくぴくと躍動した。
横目で見ると、魔理沙の服装が所々千切れてたり、穴が開いてたりと酷い有様だ。
その視線に気づいて、魔理沙は無い胸を張って誇らしげに語り始めた。
堂々として異様に偉そうなぐらいだから、霊夢の興味がくすぐられて耳を傾ける。

「ああ、どっかの巫女に霊撃食らったり、どっかの巫女のせいで覗き見がばれて吸血鬼に虐められた勲章だぜ」

ただの嫌味だった。

「まるで私が悪いみたいじゃない」

「私がって、当たり前だ。全てお前が悪いぜ」

一気に腹が立った霊夢は左足でずかずかと魔理沙を蹴りまくる。

「ちょい、待て。悪かったから、蹴るのをやめろ。ああ、地味に横っ腹突くのも止めて、マジで洒落にならないぜっ」


えらく可愛らしい魔理沙の顔により一層、加虐心が芽生えた。
紫とか幽々子の人をからかう気持ちが分かった気がする。
霊夢の悪戯は段々と酷くなっていく。
魔理沙はホウキに跨って飛んでいる。頑張っても一本の腕でしか対応できない。
しかし、霊夢は自身の能力で飛んでいる。両手両足が自由に使える。
その差だろう。
魔理沙の腰に足を這い回し、固定。右手で魔理沙の腕を抑える。
そして、残った一本で、喉下を触ったり、服の空いた隙間から手を突っ込んで脇を直接くすぐったり、耳に息を掛けたり。
端から見て、なんだこいつ等と思えるぐらいな光景。

「……」

実際に背後から、湖上で迷わせる悪戯が成功してチルノは嘲笑してたのだが、今は酷く落ち込んでいた。
今日はクリスマス。そしてチルノは一人。だけど、目前の二人はイチャついている。
チルノは馬鹿だとか言われてるが、自分が負けたと分かる程度の知能は持っていた。

「…帰る」

チルノのクリスマスは大妖精と大蛙に慰められて、それだけで終わった。




閑話休題。


背後の邪魔者が消えたと同時に霊夢の悪戯は更に更に熱を増していく。
魔理沙は喚き叫ぶ。
普段と立場が逆だ。

「落ち着け!それは、不味い、ぅっっとうに駄目だから、」

ぎゃーぎゃー。わーわー。
不意に魔理沙の眼に強い光が宿る。その様子には気づかない霊夢。
バランスを取るように身体をずらして、魔理沙は左手を離した。

「っ、やられっぱなしは私の趣味じゃないんだぜ」

がっ、と侵攻する右手を強く捕まれる。
霊夢は驚きと不利を感じ、ホウキから飛びのく。

「おわっ!?」

同時に魔理沙が霊夢の右手にぶら下がる。ホウキは落下していった。

「……」

ひゅー、ぽちゃん。
ぷかん。ぷかん。

「ホウキが沈まないで良かったわね」


「……、霊夢!あれは大事なモンなんだぜ!?愛用してるんだ!どうしてくれる?」


激しい剣幕に霊夢は悪い事をしたな、と思った。

ニヤリ。

口角を上げて、まるで悪役のラスボスみたいな深い笑みを浮かべる霊夢。

悪いなんて感じるわけが無かった。

「手、離したらどうなると思う?」

悪意が形をなしたら今の霊夢みたいになるだろう。
霊夢は別にふざけてない。大真面目に落とそうとしている。
魔理沙も、冗談じゃないと理解してるのか、懇願するように言う
彼女の眼には涙が溜まり始めている。


「あは、は。私達、友達だよなー?だから、そういう真似はちょっと控えよう、ぜ」

「キャッチ、アンド」

魔理沙は「キャッチアンド?」と反唱する。
けど、その続きはよく分かっていた。だから、時間稼ぎとはいえ、「分からないぜ」と告げると


「キャッチアンド………リリース♪」


手を離す。

「「この、鬼ぃがぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー、」」

凄いスピードで小さくなっていく魔理沙の姿とその声に。

「あっ、やば」

正気を取り戻した時は、既に大きな水しぶきが見えていた。







湯気が辺り一面を曇らせている。
そこは、博霊神社・霊夢宅の風呂。
決して大きいわけではないが、二人一緒に身を暖めるぐらいには広い浴場だった。

「ねー、お風呂出たらケーキ食べない?」

霊夢の声が反響する。
しかし、返事はない。
話しかけられた魔理沙はそっぽを向いている。
つまり、すねているのだ。

「それにしても、魔理沙。泳げなかったの?あはは、あんなにホウキにしがみ付いて」

ばしゃばしゃ、と必死に足で水を切り、慌てふためいてホウキにしがみ付いていた様子を思い出す。
冷たすぎる湖水につかり、逆に紅潮した顔の魔理沙は可愛かった。
暖かい風呂に入りながらも、霊夢は背筋にゾクゾクと心地よい冷たさを感じた。


「うっさいな!お前がしたくせに、そんな人を虐めて楽しいか!?」

魔理沙がざばっ、と立ち上がり叫ぶ。

「うん。楽しい」

霊夢が素直に頷いた。
一気に静まり返る風呂場。
魔理沙は呆れて、口が閉じないらしい。その口に霊夢はお湯を投げつける。

「ぺっ、ぺっ。くそ、マスタースパーク!」

何処からともなく、霊夢はお札を取り出す。

「夢境「二重大結界」」


極大レーザーをあっさりと封殺。
魔理沙は、それこそ投げやりな感じに、そのまま霊夢の近くに跳んだ。

「あ、ちょっと、耳に水が入るじゃない」

「へへ、ざまあみな。はぁ、やっぱり八卦路がなけりゃあ、こんなもんか。ってか、札がよく使えたな」

「あれ、防水性バツグンなの。あー、疲れた」

気だるげな声に伴って、霊夢は魔理沙に寄りかかる。

「なんか、今日変だな霊夢。なんかあったのか?例えばレミリアに虐められたとか」


遠まわしな気遣い。へそ曲がりな彼女らしい言葉に胸がキツく感じる。


「例えばレミリアにプロポーズされたとか、迫られたとか、告白されたとか」


「……は?」


「違うのか?あん時はハラハラしたぜ。いつ霊夢が襲われるのかとね」


「夢想封印・弱」

大玉が一つ。
魔理沙には御馴染みの爆音が轟いた。
ばしゃばしゃ、と吹き飛んだ水しぶきが雨のように降り注ぐ。
半分以上減った風呂に魔理沙が大の字で波に揺らめきながら浮いていた。

「口で言えよ」

「あっははは、違うに決まってるでしょ?」

笑いながら、口元で手を振って否定する。

「遅い。順番が逆だ」

魔理沙の的外れな言葉。聞きなれた声。
懐かしいと思いながら、きっとこれからも聞き続ける声と彼女に手を差し伸べる。

「はいはい、そろそろ上がって、貴女が持ってきたケーキでも食べましょ」







その頃、紅魔館にて。


レミリアは未だ悩んでいた。
腕を組み、ぱたぱたと蝙蝠の羽をはためかせながら館内を徘徊している。
咲夜を祝うパーティの準備のために、その本人を外出させることには成功したまでは良い。
部下のメイド達が順調に用意を重ねる中、ただ一人。
主たる自分だけが、何もしてないという事実。
取り残されたような孤独を感じる。
そもそも、プレゼントなんて洒落た物、人間が好ましいと思う物、自分が手に入る範囲で見つけなければいけないなんて難しい。

「う~~~」

悩みすぎて、前方からふわふわと飛んでくる親友の魔女には気がつかなかった。

「レミィ、悩んでるわね」

話しかけられ、面を上げるとパチェリーがいた。
なぜか、今のパチェリーが物凄く頼りに見える。
心なしか、いつも貧血で白い顔が神々しい。
今なら、この親友に、あの壷を買うと幸運になれる。三十万よ、とか言われても素直に従いそうだ。


「あれなんてどうかしら?」

あれ。
そう言われても、なんなのか分からない。

「ほら、あの懐中時計。壊れてるの、動かないけど咲夜にあってると思う」

紅魔館の総物庫に閉まってあった、銀の時計。
微弱な魔力を宿して、触れた人物の時間を狂わせる魔法道具。
確かに。
あれなら、咲夜のイメージに合うし、時間を繰る能力のプラスにもなるかもしれない。
まさに渡りに船。
レミリアの眼は輝き、颯爽と総物庫目指し、風を切って飛んでいく。

「ありがとーー、パチェリィー」

まさか、地上でドップラー効果を見れるとは思わなかったパチェリーは少し驚き、残りは戸惑いの表情で見送った。


「フランドールにも、教えたって言い忘れたわ」






螺旋の石階段を跳ねる様に音さえ殺してレミリアは駆ける。
その嬉々とした笑みは獲物を追い詰める獣に似ていた。

「ははっ、咲夜喜ぶかな?」

咲夜に銀の時計を手渡し、微笑む光景を妄想しながらレミリアはとある扉の前に立ちどまる。
その顔には今さっきの笑みはない。
鋭い眼つきに、爪を伸ばして目の前に居る、少女へ尋ねる。


「なんでお前がここに居る?」

「あははははははははは。この時計は私の物よ、お姉さま」

嘲笑。
金髪に紅い双眸、黒い骨組に七色の宝石が幾つも付いた翼。
ここに来て、まさか自分の妹が、フランドール・スカーレットが邪魔をするとは思わなかった。
内心、苛立ちながらも、表情には出さず。
冷静に言葉を繰り出す。

「ねぇ、私はお前に用は無いの。用があるのは、その」

「分かってる。でも、私もこの時計に用があるんですヨォ、げらげらげら」

狂った笑いに怒りが爆発しかけるが、なんとか抑える。
もし、襲い掛かって、時計が壊れたら大変だ。
フランドールの手に収まってるうちは安心できない。

「フランも咲夜に渡すつもり?」

不意に静寂が走った。
フランドールの顔には柔らかい笑み、誰かを好ましいと思っているのがよく分かる。

「結果的にはそうなるかな。私はこれが欲しい、お姉さまも欲しい。となればする事は一つでしょ?きゃはははは」

雰囲気が一変、大きく裂けた笑みにレミリアは言う。

「弾幕ごっこね。良いわ、だけど今は駄目。一時間後に表に来なさい」

不敵に笑うレミリアの顔を見て、フランドールの表情は固まった。
そんなフランドールを見向きもせず背を向けて優雅に階段を下りていく。
レミリアは凄く怒っている。
彼女に近しい者なら誰でも知っていること。
曰く。彼女の羽が大きく禍々しく変貌したら近づくな。

フランドールは小さく囁いた。

「こっちも本気、出すよ?」






一時間後

フランドールは紅い剣を手に待っていた。
しかし、その顔には恐怖と羨望が入り混じった泣き笑うような表情が浮かんでいる。


「お姉さま……?」

戸惑いの呟きにレミリアが、笑う。
卑怯なのは自覚してる。だけど、この瞬間がもの凄ーく、楽しい。

「さあ、いくわよフラン」


グングニル片手に、迫りかかろうと、重身をつま先に込めた前傾姿勢のレミリア。
ゆっくりと確実に後退していくフラン。

その間に、美鈴は飛び込んだ。フランを庇うように。

「ちょ、ちょっと待ってください、さすがに」

「退きなさい、中国。手加減しないわよ」

レミリアが美鈴の言葉を遮り、告げる。
ある意味、死刑宣告と同じだった。
フランも美鈴には退いて欲しいのか、叫ぶ。


「邪魔よ、早く退いて、雑魚妖怪!」

庇った相手にも酷い言われように、中国は悲しそうな顔をする。
そんな顔をしながらも、美鈴は叫ぶ。主人に逆らうことだと分かっているのだろうか?


「さすがに、そんな、そんな」

「何、?言いたいことがあるならはっきり言いなさい」


「……そんな、六対一は卑怯だと思いますっ!!」


美鈴の言葉にフランドールは地面に座り込む。
不敵に笑うレミリア。

の、背後。

何をどう言って連れてきたのか、妖怪が五人。
しかも、全員が全員、強大な妖怪ばかり。一人だけ人間。

八雲 紫と藍。
アリス。
風見 幽香。
藤原 妹紅。


幾ら四人に分身しようが、幽香のデュアルスパークで一掃。
フランの攻撃は、藍が防御、さりげに紫が手伝う。
アリスが攻撃の隙間を潰し、大きく隙を作って妹紅とレミリアが攻撃。


パチェリーはそんなイジメの現場を目撃して

「……いじめ、かっこ悪い」

小さな声で一応、注意した。
その後、フランドールは泣くまで一時間。たっぷりイジメられることになった。
気づくと陽が落ちている。







結局、無事?レミリアの手には懐中時計が納まり、後は咲夜を迎えるだけ。
しかし、既に飲み食い談笑は始まっており、普段は厳しいメイド達も今だけは楽しそうに笑っている。
わいわいと賑やかな会場の隅っこで、不釣合いにもどんよりと暗い影が見えた。
フランドールだった。体育座りで、泣きべそをかいている。
過ぎかうメイド達は、皆、見てみぬふり。


レミリアが前髪をかきあげて鼻で笑う。

「ふっ、これも試練よ。フラン」

「なにが試練なの、たんなるイジメじゃない。次、殺されても知らない。というか、一回殺されて上げなさい」

隣にいるパチェリーの口調は厳しい。
淡々とした無表情に見えるが、どうやら怒ってるらしい。
別にあんな妹と思うが、パチェはそう思わない。
心配してるのか、さっきからチラチラとフランを見ている。

「そんなに心配なら声でも掛けに行けばいい」

パチェリーは無言で首を横に振る。右手を伸ばし、指で何かを示す。
その先には門番の美鈴がいる。
片手に持った大きな皿に、沢山の料理を盛り付けフランドールに近づいていく。
フランドールの肩を叩き、話しかけた。
二、三言葉を交わし、だけど、フランドールは頷かない。
また美鈴が口を開き、何かを言うと、フランドールが不思議そうに眼を閉じて口を開ける。
その口に美鈴は皿にもってある料理の欠片を投げ込んだ。
フランドールが呆然と噛食、とたんに眼を輝かせて何か言う。
美鈴は微笑み、そのまま座る。持ってきた料理を二人で食べ始めた。



軽いショックだった。
いつの間に?

「まさか、」


「ええ。美鈴は、女たらしよ。その内、フランとデキて家庭内暴力のあげく、娘の給食費を馬券にあてるつもりよ」

レミリアはパチェリーを見る。パチェリーは明後日の方向に視線を向けた。


「……さり気なく、美鈴に嫉妬してる、とか?」

「……私の好きな生ハムホイップクリームチョコメロンだ。わーい」(棒読み)

パチェリーは図星を突かれて、逃げ出した。
言い知れぬ正体不明な悪寒にレミリアは肩を竦める。
パチェリー→フラン→美鈴?
職場の愛憎三角関係に、どうか咲夜が巻き込まれないことを祈った。
というか、美鈴次第で四角関係、五角関係にすらなることに。
半ば、本気で美鈴を退職させるか考えていると、会場内の喧騒が一気に静まり返る。


レミリアの目前で一枚のトランプがくるくると廻っている。
そこだけ、垣根を分けるように人が退いて行く。
そこに誰が現れるのか、知らない者は居ない。

予兆はない。
突然、トランプが消えて咲夜が直立していた。
真っ直ぐな視線でレミリアを見つめ、スカートの端をつまみ、広げて頭を下げる。
ポッケに手を突っ込んで懐中時計があることを確かめると、一つ息を呑む。
そこで咥内が乾いている、自分が緊張してる事に気づき苦笑。

「十六夜 咲夜」

鳥のさえずり、みたいな囁きで名前を呼ぶ。

「はい」

咲夜は答え、頭を上げる。
彼女の鈴のような凛とした声、整然とした雰囲気がとても懐かしい。


「おかえりなさい」


自然と微笑みが浮かぶ。
咲夜が清楚に笑い、会場の喧騒は一気に絶頂まで達したのだ。
従者らしく、レミリアの斜め後ろに付こうとした咲夜を止める。


「今日ぐらいは羽を伸ばしなさい。それと、コレをあげるわ」 

懐中時計を手渡す。
かちり、と小さな歯車の鳴らす音が聞こえた。

「この時計は今、動き始めました?」

咲夜を主人に認めたのかは、分からない。
だけど、その時計と咲夜が出会ったのは運命だろう。
魔法道具だろうが、心配はない。

「あの、レミリア様すいません。咲夜さん、ちょっといいですか?」

赤い前髪を垂らして両目をかくしたメイド、今日レミリアに紅茶を入れたカルネだ。
咲夜が主人を見る。
だから、今日ぐらいは良いと言うのに、律儀というか生真面目な奴。
仕方なくレミリアは一つ頷き、咲夜はカルネに尋ねる。

「私に何か?」

「はい、今度の休日に紅茶の煎れ方を私に教えてくださいっ!」

叫ぶように、言うと頭をさげた。
だから、羽を伸ばせって言ってるのに、こいつ等は、

「はぁ。真面目過ぎ、そんなんだと気疲れするぞ」

「「いえ、レミリア様の為なら平気です」」

異口同句。
見事なユニゾンについ笑ってしまう。

「ははっ、カルネ。期待してるわ。咲夜、今度休日あげるから、そうやって部下に色々教えて上げなさい」


二人から遠ざかり、距離をとって見渡す。
いつからこんなに賑やかになった?

紅魔館の門番として美鈴を雇った時か

旧友のパチェリーを館に招いた時か

咲夜を拾った時か

幻想郷に館を移した時か

霊夢と魔理沙が来て暴れた時か

おそらくは、咲夜や私、フランにパチェリー、美鈴が笑えるようになってからだ。
他の存在の感情は感染する。
時には呪いにもなり、安定剤にもなる。
笑顔を運んできたのは誰か?

考えるまでも無い。

レミリアは全員を見渡し、有り難うと呟いた。








追記


パチェリーが生ハムチョコレートDXリゾットをぐちょぐちょと掻き混ぜ、ねば~と伸ばしながら咲夜に尋ねる。

「ねぇ、あの猫の耳ってどうしたかしら?」

「え、あっ!すいません。多分、白玉桜のお屋敷に忘れてきました」

「そう、大変なことにならなければいいのだけど…」

「?」

「あれには、魅力の魔法が掛けてあって、付けた本人の魔力に比例して効果を発揮するのよ」

「……」

咲夜の顔が青ざめていく。
パチェリーはなんとなく、あの亡霊が付けたらきっと賑やかを通り越して狂乱の宴になる気がした。


後日
咲夜は妖夢に尋ねようとしたのだが、
「…なに?」

あまりに憔悴しきった顔に、結局答えは聞けずじまいだった。
幽々子と永琳、輝夜の三人だけはとても楽しいクリスマスと言うのだが、……。
前回の番外的な感じの話です。
別にこれ単体で読めますよ。あと、こっちはかなりギャグ風味。
書いてて霊夢がかなりイジメっ子…、まぁ良いや。
あと、チルノの待遇が酷すぎた、もっと凄い馬鹿なら助かったのにと思う。
今年はこれでおしまい。
それでは、また来年に。
設楽秋
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コメント



0.560簡易評価
5.無評価名前が無い程度の能力削除
場面が非常に把握し辛いのと
無理矢理ネタを絡ませて無理矢理に話を先に進めてる感じがしました

気になったトコとか誤字を幾つか

ズボン→スカート(?) この作品の中でパンツルックなのかな
「パチェリー」ではなく「パチュリー」です
「八卦路」ではなく「ミニ八卦炉」です
7.40名前が無い程度の能力削除
「白玉桜」…は「白玉楼」では?
雰囲気は悪くないと思いますがやや推敲が足りないかな、と感じました
9.70名前が無い程度の能力削除
確立→確率
最もな→尤もな
合って良い→有って良いor合う
本当な今頃→本当なら今頃
脇を直接→腋を直接
目前の二人→目の前の二人or眼前の二人
総物庫→宝物庫or倉庫?
囁いた→呟いた

…という感じで二人目の名無しさんと同じく推敲が足りてないとは思いましたし、一人目の名無しさんと同じく場面の説明が足りてないとも思いました。が、霊夢の空中セクハラには(*´Д`)ハァハァさせられましたし嗜虐心に共感できましたし、何よりフランの口調がすごく気に入りました。笑い方とか素敵です。誤字は直せばよいだけなのでノーカウント、場面説明の不足を差し引いて大体これぐらいの得点を付けたい程度に好きな作品です。
10.50名無し妖怪削除
場面背景の読み取りにくいところがポツポツ。
↓つまらんことですが脇は腋どちらでもよいかと