月の姫、蓬莱山輝夜
彼女は人間の常識では計ることのできないほどの長い年月を月の使者から身を守るため狭い籠の中で過ごしてきた。
とても窮屈な暮らしで気が滅入るものだったが、生まれてからの495年という歳月を自分の部屋で過ごした吸血鬼の少女がいると聞いたので、それを糧にいままで狭い世界で頑張ることもできた。
そう、ついこの間までは。
二人の人妖、博麗霊夢と八雲紫が自分のところまでやってきて弾幕ごっこをしたときはなんと楽しかったことか。
その二人がもう自分の中の狭い世界にこもることは無いと教えてくれたときはなんとうれしかったことか。
もう自由に空を飛べる。どんなことでもできる。私は自由になったのだ。
それから何ヶ月かたち、さてどこへ行こうかと悩んでいるときにちょうどいい来訪者がやってきた。
歴史の全てを知る半人半獣、上白沢慧音。
人里に薬が必要になので永琳に薬を定期的にもらいに来ているらしい。
そんなことも知らなかった自分に多少の嫌気がさしたが、それはすぐ消えて彼女に頼みたいことが頭に浮かんだ。
-ねえ、明日私が人里に行ってもいいかしら?-
私の言葉に慧音だけでなく永琳も驚いた。
何をしに行くのか、危害は加えないか、目立った行動はとらないか
様々な事を聞かれたが何もするはずは無い。
私はただ外へ出て外の世界を知ってみたい。たったそれだけのことなの。本当よ。
もちろん、普段から自分の友人と殺し合いばかりしている相手をすんなり信じる訳がない。
渋い顔をして悩んでいたので、何度も頭を下げた。
永琳に止められたが、ここは引くわけには行かないのだ。
せっかく外に出られるかもしれないチャンスをみすみす逃したくはない。
とうとう土下座までしようかと思っていたところで慧音にまで止められた。
-わかった。そこまで言うのなら本気なのだろう。私も監視をしたりはしないから存分に楽しむといい-
彼女の言葉に何度も感謝の言葉をはいた。ありがとう、ありがとうと
明日やっと外へ出られる。
実を言うと身分が身分なので買い物などは一度もしたことがないのだ。
とても楽しみだったので、この夜はなかなか寝付けなかった。
我ながら子供だなと思い苦笑いをして、やっとその日の安眠を手に入れた。
そしてこの日がやってきた。
普段着の十二単に着替えて、永琳にお小遣いをもらった。
屋敷から外へ出るまでの間も心が落ち着かない。ああ、なんてすばらしい日なのだろう。外へ出るというだけでこんなに心が騒ぐなんて
途中、行き交う因幡達に声をかけられた。
「いってらっしゃいませ、姫様」
「ええ、行って来るわ」
このやりとりを何度か繰り返し、屋敷の外へ出た。
屋敷の外へでて気づいた。
「……もう、冬なのね」
自分の部屋にいるときは全く気づかなかった。
枯れ葉の感触を一歩一歩踏みしめながら足を運んだ。
今日は飛んで一気に人里へ行ったりはしない。
歩いて感触を踏みしめたいと言うことと、飛んでいる姿を人に見られないため、そして何より-
「「あ」」
三つ目の願いは目の前のほぼ同年代の少女の出現によりうち砕かれた。
「ごきげんよう、輝夜。今日は誰かと殺し合い?」
目の前の少女、藤原妹紅が炎を纏う。
……どうやらやる気満々のようだ。が、
「ごきげんよう、妹紅。残念だけど今日はどうしてもあなたと殺し合いはできないの」
「あら?そうなの」
なーんだ、と言った風に炎を消し、私に問いかけてきた
「殺し合い以外であんたが外に出るなんて珍しいじゃない。今日はどんな用事?」
「ええ、今日は人里へ行くの」
「人里ぉ~?慧音が黙っちゃいないと思うけど」
「大丈夫。ちゃんと許可は取ったわ」
「へぇ、慧音が武力行使に屈するとは思えないから説き伏せたのね?やるじゃないの」
軽い感じに妹紅がグーの形になった手を出してくる。
それにあわせ、少し笑いながら同じように手を出して軽くぶつけた
「当然でしょ。お姫様は口が命なのよ」
「初耳ね」
「じゃあ私はそろそろ行くとするわ。じゃあね、妹紅」
「まあ待ちなさいよ」
再び歩を進めようとしているところに待ったをかけられた。うーん、時間は大切なんだけどなあ
「まだ何かあるの?」
「私は暇だから殺し合いをしようと思ってたが……気が変わった。お姫様のエスコートをしてやるよ」
「まあ、素敵」
妹紅と共に他愛のない昔話をしていると、あっという間に人里へついてしまった。
こういう関係も偶にはいいかもしれない。偶には、だが
「ようこそ、蓬莱山輝夜。……って妹紅もいるじゃないか。何をやっているんだ?」
「あらおはよう慧音。許可を下したって本当だったのね。ちなみに私は長い間引きこもらざるをえなかった姫君のエスコートよ」
よけいなお世話だ
「まああれだけ頼まれたら許可をしないわけにはいかないからな。まあ信用していないわけではないがお前がついてくれているのならば安心だ」
「私って信用無いのねえ。ちょっとショック」
「しょうがないだろう、普段が普段なんだから」
「それもそうね」
「そもそも普段からお前達がそういう関係だったらいらん疑いをかけなくてすむし、私も助かるんだが」
「あ、最後に少し本音が出たわね」
「普段からこういう関係ってのは無理な願いだよ、慧音。誰かさんが喧嘩を売ってくるし」
「聞き捨てならないわね。喧嘩をふっかけた回数が多いのはあなたの方じゃなくて?」
なにおう、と互いに言い張っていると、慧音が止めに入った。
「はいはい、そこまで。私が調べた歴史によると二人とも一万九千八百六十回で全く同じ回数だ。さっさと観光してこい」
恐らく妹紅も同じ事を思っているだろうが、歴史を調べたというのはずいぶん便利な言葉だと思う。
とりあえず比較的にぎやかなところへやってきた。恐らくここが都市部なのだろう
「さて、どこへエスコートしてくれるのかしら」
「そうだな……じゃあそこで団子でも食べながら考えるか」
なかなかいい案だ。ちょうど小腹もすいてきたし
団子屋の長椅子に腰掛け、自分のお腹と相談しながら食べる量を決めていた
「そうね。じゃあ私は3個お願いしようかしら」
「じゃあ私も3個だ。大将~!団子六つお願い~!」
はいよ~、と威勢のいい声が飛んできて、まもなく団子がやってきた。
「で、今後どうしたい?」
「あら、エスコートしてくれるんじゃなかったの?」
「行きたくないところに連れて行かれるよりましだろう」
それもそうだ
「服ねえ……お前十二単以外に似合う服装あるのか?」
「よけいなお世話よ。サスペンダー付きのもんぺに言われたくはないわ」
「言ったわね。半引きこもりのお姫様よりはセンスはましなはずよ」
「じゃあ、こうしましょう。お互いに今着ている種類以外のものを買ってそれが自分に似合っていた方の勝ち。審判は慧音と永琳にしてもらうわ」
「上等よ!じゃあ食べ終わり次第すぐ服を買いに行くわよ」
言うが否や、妹紅も私もものすごい速度で茶を飲み干して団子を食べ終えた。
大将から「いや、いいくいっぷりだねえ。よし、代金はサービスだ!」
と言われ、妹紅も私もうれしいやら悲しいやら複雑な表情だった。
店の前へたどり着いて、早速入ろうとしているところに妹紅に止められた
「一応ルールを決めておく。今は太陽を見る限り11時と言ったところだろう。店の中に時計があるからそれが12時になったらまたここへ集合」
「金額制限は?」
「無しだ。ここは高すぎるものも無ければ安すぎるものもない。制限をかける必要はないだろう」
「そうね、高すぎるものがあれば自動的に私が有利になるものね」
「お前……永琳にいくらもらったんだ?」
財布を妹紅に手渡すと、「重……」と言う声が聞こえてきた。
「流石お姫様ねえ……私はこんな金額みたのしばらくぶりよ」
……永琳はやっぱり私に対して過保護だと思う。
「も、もういいでしょ。さっさと始めましょ」
「ああ、じゃあ西から回るか東から回るかを決めるぞ。せ~の……」
「「東!」」
見事にダブってしまった。……となるとあれしかないようだ
「これをやるのも久しぶりね……腕はなまっちゃいないかしら?妹紅」
「お渡しの記憶が確かならばお前は3連敗していたはずだ。私の勝利に揺るぎはないよ、輝夜」
空気が張りつめ、気温が下がり、私の頭も冷えてくる。
冷えてくるが、同時に興奮もしてくる。……勝負は恐らく最初の一手で決まる。
「行くわよ……!」
「来い……!」
腕を思いっきり振りかぶり、相手にたたきつけるように手を出す……!
「「ジャンケンホイ!!」」
久々に私が勝った。
何であれ勝てるというのは気持ちのいいものだ。
あの妹紅の悔しそうな顔!なんていいものを見たんだろうか。これだけであと百年はネタにできる。
……大声でジャンケンをして通行人の注目を浴びて二人して恥をかいたのも事実だが……
さて、それはともかく服を選ぶとしよう。
着物、私の愛用している十二単など色々あるがここはやはり……
「あら?」
「お?」
「あ」
このまえ永琳と戦った魔法使いの二人組にあった。
そういえばこの前はあの二人以外にも様々な音に聞く人妖達がやって来た。
永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレット
完全で瀟洒な従者、十六夜 咲夜
天衣無縫の亡霊、西行寺 幽々子
半分幻の庭師、魂魄 妖夢
そして上記の四人……それと最初のあの二人にも迫る力を持つ自称「普通の魔法使い」霧雨魔理沙
そして七色の人形遣いであるアリス・マーガトロイドだ。
「何をやっているのかしら?こんなところで」
「それはこっちのセリフだ。買い物は全て永琳やうどんげ任せかと思ったぜ」
「確かに意外と言えば意外ね。あなたが外へ出るのも珍しいのにその上自ら買い物なんて」
ずいぶんとひどい言われようだが否定できないのでそのまま話を続ける
「引きこもっていた反動かもしれないわね。別に外へ出たくないと思っていたわけじゃないし、お買い物って経験したこと無かったのよ」
「へえ、そうなのか。なら私たちがエスコートしてやろうか?お代は本一冊だ」
「ちょっと、何かってに決めてんのよ。まあ異論はないけど」
「ありがたいけど私にはエスコートしてくれる人がもういるのよ。今は別行動中だけど」
「へえ?誰だい、そんな物好きは」
「物好き……失礼な言い方ね。昔も今もモテモテなのに」
「で、結局誰なの?私達の知っている人?」
「ええ、よく知っているはずよ。ヒントは私と同じ蓬莱人」
「永琳だな」
「永琳ね」
「残念、妹紅よ」
私が発言した瞬間、二人が硬直して変な空気が流れた。
……そんなに意外かしら
「……アリス、今日雪は降るっけ?」
「降らないはずだけど……今日に限っては頼りにならないわ」
「予定変更だ、アリス。防寒着を買うとしよう」
「いいわね、それ。なかなか悪くない選択よ」
「ひどいわね。偶にはそんな日もあるわよ。……って、こっちの質問にも答えてよ~」
「どんな質問だっけ?」
「今日の天気はどうなるの?じゃなかったかしら」
「違うわ、まじめに答えてよ。こうみえてあんまり時間はないのよ?」
「お前に言われると説得力皆無だな。で、何をしてるかって質問だったな。え~っと」
すぐにとぼけるのをやめて、何をしに来たかを思い出し始めているようだった。
……ひょっとして目的も忘れたのだろうか、と悩んだ瞬間に同時に声が聞こえた
「魔法に使える服を買いに」
「人形に使える服を買いに」
「正直ね~。正直なのはいいことだけど、素直にならないと」
「人のこと言えるのか?」
「同感ね」
「ふふふ、時間がないのは本当だから、私は行くとするわ。じゃあね」
「ああ、新年会も来いよ。あいつも一緒に」
「じゃあね、お姫様。またそのうちお話ししましょう」
別れの挨拶をして、二人とも互いに軽い悪態をつきながら服を選んでいた。
魔法に使える服を買いに来たということと人形に使える服を買いに来た。これは嘘ではないだろうが、そんなもの建前にすぎない。
友達同士で服を買いに来たのならばはっきりとそういえばいいのに。全く素直じゃない子達だ。
「ああそうか、私もね」
さっき言われた言葉を思い出しながら、服を選んでいった。
素直じゃないのだ、私もあの子も。
さて、あと十五分程度で集合場所へ集まらないといけないのでそろそろ服を買わないといけなかったが、実は最初の五分程度で何を買うかはほぼ決まっていたのだ。
サイズもぴったりだ。文句のつけようがない。
この勝負に勝つには手堅く行くのではなく、思いっきり勝負を仕掛けないといけないのだ。
そう思い手を伸ばすと、隣から病的に白い肌をした手とぶつかった。
「っとごめんなさい」
「あ、私こそ……って」
言葉と同時に目を向けるとそこには妹紅がたっていた。
なぜ同じ服を……
「これに先に目を付けていたのは私よ、妹紅。手を引きなさい」
「あら、私が先に手をつけたわ、輝夜。あんたが手を引きなさいよ」
またもや空気が張りつめ、気温が下がり、私の頭も冷えてくる。
冷えてくるが、同時に興奮もしてくる。……今回も恐らく最初の一手で決まる……!
「「じゃんけ……」」
「お客様、この服はもう一着ありますが」
店員の容赦ない一言に、妹紅も私も先ほど以上に頬が紅く染まった。
買い物を済ませ、村の飲食店へ入り、昼食をとることにした。
このとき妹紅がそんなにたくさんの金を持っているとは思わなかったので奢ろうかと提案したが、あんたに死んでも貸しをしたくはないと言われた。
素直ではないが妹紅らしい。
私はそうそう食べることのできないカレーライスを注文し、妹紅は消化にいいからと言う理由でうどんを頼んでいた。
私たちが今更健康に気を遣うのもどうかと思うが、妹紅はあくまで「人間」なのだ。
人間が人間らしくいるために健康に気を遣う。多少悲しい話と思えてきた。
「んで?これからどうするのよ」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、暢気に話しかけてきた。
「ええ、私のあこがれの人に会いに行きたいわ」
「そんな人いたのか」
妹紅は冗談を聞いているような表情で私に返してきた。
「ああ、冗談じゃなくて本当にいるわよ?」
「……誰?」
「フランドール・スカーレット」
「レミリアの妹のあの子?少し気が触れてるって言われてる」
「そんなこと言われてたのね。知らなかったわ」
「何で会いに行きたいと思った?下手したら死ぬほど痛い思いをするぞ」
「あら、私の身を案じてくれるのね。うれしいわ」
はぐらかそうと思ったが、妹紅の表情がそうさせてくれそうにはないのでとりあえずある程度本当のことははなすようにした
「私、ずっと閉じこもってたでしょ?月の使者におびえて」
妹紅はわりと真剣な表情で聞いてくれている。……助かる
「でね、何度も外に出たいと願ったの。こんな不自由な生活はいやだから」
妹紅との殺し合いはあくまで極力、妹紅の相手が私ということがばれないようにやっていた。
永琳の術などで弾幕が外からでは見えないようにしてもらったり……
「そう思ってたとき耳にしたのよ。生まれてから495年間外に出たことのない女の子の話を」
「それがフランドールか」
「ええ、年月自体は私の方が長いかもしれないけど……彼女は生まれつきなの」
「出ようと思えばある程度の自由はできる私と外に出ることさえできない彼女では、私の方がまだいい環境だったから……」
「この程度で音をあげてちゃ、彼女に失礼だと思ったの」
そう、実際あったことはないにせよ彼女は私にどういう形にせよ希望を与えてくれた。
だから何かしてあげたい、私も何か返したい。そう思って彼女に会いたいと思った
「そうか、理由はわかったよ。じゃあ……早速行こうか」
「ええ、早速行きましょう」
さっき何かを食べたとは思えないほどに、お腹が軽かった。
~紅魔館~
その当主の色を表した文字通り紅い館は、妖怪、人間など全てに存在だけで威圧感を与える恐怖の象徴。
その館で働くものは、それだけで恐怖の象徴となる。
ましてやそれが高い位についているとなると、ただの人間程度ならにらむ程度でその場で気絶すると言われている。
その館の門番長である紅美鈴も多少抜けた性格を知らないものにとっては恐怖以外に他ならない。
なので初対面であるのに急に攻撃を仕掛けてきたりましてや自分より位の高い者に会わせろ、などと言った要望はよほど腕の立つ者かよほどの命知らずしかいないのである。大抵がその二つを兼ね備えている者ばかりだが。
だから美鈴は困っていた。
十六夜咲夜に会わせろと言う要望はまだわかる。彼女は接客などもしているので呼ばれることは時々ある。
だが、ある意味当主以上に恐れられているその妹に会わせろなどと言った要望は前代未聞なのだ。
二人を門に待たせておいて、実質上のトップである十六夜咲夜に相談を持ちかけた。
「あ、咲夜さん」
「どうしたの美鈴、お客様?」
「う~ん、客というか侵入者と言うか……とにかく会ってください。私の判断ではとても決められません」
咲夜は門番長をつとめている美鈴の判断力や実力は評価している。
その美鈴が自分に仕事のことで意見を求めてくるというのはそうそうないことなのだ。
「わかったわ、行くわよ美鈴」
だから、自分の感が告げていた。
これはお嬢様に頼らなければならないかもしれない、と
いわれた場所へ美鈴とともにいってみると滅多に見ない顔が滅多に見ないツーショットで並んでいた。
「あら、お久しぶりね。あなた達が二人でいることも気になるけど、用件をいってちょうだい」
「レミリアの妹に会わせてほしいの」
輝夜が割と真剣な表情で大変なことを告げてきたので、咲夜は少々面食らった。
-お嬢様の判断が必要ね-
そう感じた咲夜は二人を当主の部屋の前へ連れて行った。
「お嬢様、咲夜です。お客様が相談をしたいそうなので入ってもよろしいでしょうか?」
大きな扉だと思った。
自分の住む永遠亭が和ならこの館はまさしく正反対の洋。
これはこれですんでみたい。
「ん、入りなさい」
扉が開き、最初に目に入ったのは真正面にいる永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットだった。
大きな紅い椅子に座り、肘掛けに肘をおいて顎に手を当てている。
椅子にもたれて足を組んでいて、どこか大きな椅子とはアンバランスな体に見えるが、不自然とは感じなかった
(なるほど、夜の王……ね)
輝夜は「生まれながらの王」と言う言葉に一番ふさわしい人物を見た気がした。
テーブルには本が置いてあり、咲夜が紅茶を注いでいる。行動が早いことだ。
「で、何のよう?お二方」
くすくすと笑うように言い放ち、威圧感と余裕が同時に存在している……そういった感じだ
「ええ、あなたの妹君に会わせてほしいの」
レミリアは私の言葉に少々面食らった様子だったが、目をつぶり何かを考え始めたようだった
「……なるほどね、事情はわかったわ。いいわよ、会ってらっしゃい」
今度は妹紅と私が驚く番だった。
「今のでわかったのか?」
私が言おうとした言葉を妹紅が先に言う。
二回言う必要もないので、レミリアの言葉を待つ
「ええ、妹に希望を与えてくれるんでしょう?素直に感謝の意を表しておくわ。咲夜、案内なさい」
「ただいま」
レミリアの気をつけなさい、と言う言葉を聞いた瞬間にどうやら地下室らしき部屋の前へ来ていた。
「ここが妹様の部屋よ」
扉の前に来てみると、言いようのない寒気が襲ってきた。
「案内ありがとうね、もういいわ」
「ええ、あなた達が何をするかは知らないけれど、妹様を楽しませてあげてね」
「まあ楽しませるのは主に輝夜だけどな」
三人で笑い会った瞬間、咲夜は「気をつけてね」という言葉と主に消えていた。
「さ、入るわよ」
「ああ、少し寒くなるだろうけどな」
手が少しふるえていたが、それを制して扉を開けた
入ってみると中はとても広い部屋だった。
レミリアの部屋よりも広いと思われる部屋の中には小さなレミリアににている少女が座っていた
「いらっしゃい、あなた達はだぁれ?」
無邪気な瞳で声をかけられる。
とても気が触れているようには見えないが、気をつけてねと言ったという事はそうなのだろう。
「初めまして、私は蓬莱山輝夜。……で、こっちは藤原妹紅。あなたと遊びに来たわ」
「本当!?うれしいわ魔理沙と遊んで以来他の人と遊ぶ機会がなかったから」
満面の笑顔で答えてくれる。
喜ばれたらこちらとしてもうれしいものだ。
「でも一つ聞いてもいい?」
「いいわよ、どうぞ」
「なぜ私と遊ぼうと思ったの?私は一応自分の能力の怖さはわかってる。今までどのくらいのモノを壊してきたかもわかってる。……いや、わかってきた……って言った方が正しいかな?」
さっきとはうってかわって理知的な話し方になっている。
……なるほど、こういうことか
「私が弾幕ごっこで夢中になったらどうしても能力が発動してしまうわ。ありとあらゆるモノを破壊する能力が」
「あなたも死んじゃうかもしれないのよ?それでもいいの?本当に?今なら逃げることもできるわ。私と遊ぶのはアイツ……お姉さまの頼みなんでしょ?」
「質問責めだな、輝夜」
くっくと笑いながら妹紅が私に言う。
……あんた何しに来たのよ
「じゃあ最初の問いから答えていくわね」
軽く深呼吸をして、言葉を整理する。
「まず最初の質問、一言で答えれば私は死ぬことはないわ。何があろうと」
「ああ、ちなみに私もね」
妹紅が付け足すように答える。
フランドールは驚いて、目を少し見開いた。
「だから全力でやっちゃってもいいわよ。で、次の質問」
さて、ここからが大事だ。
私の……蓬莱山輝夜の気持ちを伝えないと
「あなたと遊ぶと言ったのは私よ。あなたのお姉さまは何も命令しちゃいないわ」
「実は……私もしばらくの間自分の世界を出ることができなかったの」
「狭い狭い籠の中、それが何千年も続いて……そろそろ嫌になり始めたときにあなたの存在を知ったの」
「わたし?」
「ええ、あなたは……」
ここから先は果たして言っていいのだろうか、この子を傷つける結果にはならないだろうか。
そんな心配が一瞬頭をよぎったが、次の一言ですぐにそれはきえた
「ああ、私の事なら心配しなくていいわ。話して話して」
……頭の切れる子ね
「ありがとう、あなたは生まれながら495年間閉じこめられていたと知って、私がへこたれるようじゃあなたに失礼だと思ったの」
「あなたは私の希望だった。私はつい最近自由に外に出られるようになったからあなたに感謝したいと思ったの」
一言や二言で足りる感謝などではない。
「勝手に目標みたいに思われて迷惑かもしれないけど……私はあなたに希望を与えたい。私なんかでできることがあれば何でも言ってちょうだい」
……言えた
妹紅はよくやったと言った感じの表情をしていた。
「あなたの気持ちはわかったわ。私全力であなたと弾幕ごっこをしてみたい!」
「ええ、お安いご用よ。もし私が倒れたら後ろの妹紅に攻撃を仕掛けてもいいわよ」
げっ、と言った感じで固まる妹紅。
「本当にいいの?妹紅」
フランドールが妹紅に尋ねる。
断るはずがない。断れるはずがない。そういう性格だと言うことを私はよく知っている
「ああかまわないよ。輝夜が倒れたら全力で私に向かってくるといい」
笑いながら言って言葉では平静を保っていたが、一筋の汗が地面に落ちたのを私は見逃さなかった
「じゃあ行くよ?いっせーのーで!!」
突如現れた巨大な炎の大剣に私も妹紅も驚かずにはいられなかった。
何とか勝つことができた。
勝負が終わった後リザレクションのしすぎでしばらく体が動かなかったが、負けたはずのフランドールは私よりも元気だった。
……これじゃあどっちが勝ったかわからないわね。
妹紅は妹紅でレーヴァテインというスペルをフランドールに教えてもらっている。
ちゃっかりした奴だと思った。代わりにフランドールにお札の使い方を教えていたけど
「じゃあね、輝夜、妹紅。また来てね。次は絶対勝つから!」
「ええ、何度でも相手してあげるわ」
私ももうちょっと努力しないとね
「フランドール、次は勝つのよ?コイツはお札の攻撃が苦手だから」
「こら妹紅、余計なことを言うんじゃないの」
フランドールの方を向いて別れの言葉を放つ
「じゃあね、フランドール……いえ、フラン。外へ出られるようになったら弾幕ごっこ以外のことも楽しみましょう?」
「うん!私頑張るわ。いつか外へ出て自由に飛び回ってやるんだから!」
愛称で呼ぶのは多少くすぐったかったが、フランドール……フランが喜んでくれたので良しとしよう。
レミリアも恐らく、わかってくれるはずだ。
「ご苦労様」
最後にレミリアに挨拶と報告をしてから帰ろうと思って部屋に赴いたが、全て見透かしているようだった。
「全部、わかってる……いや、わかっていたって言った方が正しいか?」
妹紅の言葉にレミリアが返す
「ご名答。私は運命を視ることができるわ。それはともかく……」
レミリアが椅子から降りて、私たちの前へやってきた。
こうしてみるとフランドールと何ら変わらない小さな子供……そんなことを思っているとレミリアが言葉を発した。
「蓬莱山輝夜そして藤原妹紅、今日は私の妹と遊んでくれたことに紅魔館を代表して感謝するわ。本当にありがとう」
深々とお辞儀をし、面食らっている私たちをおいて話を続ける
「近い内にあの子が外を自由に飛び回ることができる日がやってくるわ」
「わかるのか?」
「運命は絶対なのよ」
「まあ、とにかく全てあなた達のおかげでうまくいきそうよ。何度も言うけど本当にありがとう」
レミリアは感謝の意を表しているが、一つだけ納得できない。
「妹紅、聞いた?」
「ああ、聞いた。『全てあなた達のおかげ』ってね」
突如雰囲気が変わった私たちにレミリアが狼狽える。
「な、なによ。何も変な事は言ってないでしょ」
「言ったな」
「言ったわ」
……こういうときは話がすぐあって助かる
「あの子が一番感謝してるのはあなたよ、レミリア」
「……へ?」
訳が分からない、といった表情でこっちを見るレミリア
「あなたは家族だもの」
「……訳が分からないわ」
「あなた、フランドールとよくお話してるんでしょう?」
「それがどうしたのよ……」
あー!もう!まだわからないの!
「結局ねえ、赤の他人より身近な人の話の方がうれしいのよ。あなたは家族だもの。一番うれしいに決まってるわ」
「つまりお前が支えてきたフランドールに私たちがきっかけをやったにすぎないのさ」
「ちょっと妹紅、決めセリフとらないでよ」
「五月蠅い。偶には私にもしゃべらせろ」
「……二人とも、喧嘩なら外でやってくれる?」
「わかったよ。ほら行くぞ輝夜」
「もとよりそのつもりよ妹紅。じゃあねレミリア、吉報を待っているわ」
返事は期待していなかった。
夜の王が泣いているのをばれるわけには行かないだろう。
フランドールもレミリアも素直になって本音を言い合うだけでいいのに。
それでお互いどれだけ救われることか。
……本当に幻想郷は
「素直じゃない奴ばかりね……」
聞こえない程度に呟き、妹紅一緒に外へ続く道を歩いていった。
外へ出ると白い結晶が降っていた
「あ、雪……」
妹紅は何か感じるものがあるのか、雪を見てうっとりしていた。
……あの二人は天気予報をした方がいいんじゃないかしら?
「ただいま~」
永遠亭へたどり着く。
今日は本当に疲れた。だが、あんな楽しいことはなかなかできないだろう。今日は記念日だ
「お帰りなさいませ、姫様」
「ええ、ただいま」
行くときと同じやりとり。
全く飽きることはない。いいことだ。
「ただいま、永琳!」
私は真っ先に永琳のところへ向かって、思いっきり跳んで永琳に飛び込んだ。
永琳は私を苦もなくキャッチして、そのままだっこしてくれた。
「お帰りなさいませ、姫様。今日は楽しかったようですね?よろしければお話をお聞かせください」
「言われなくてもそのつもりよ。食事の席でみんなが集まってから言うわ。
「楽しみにしておきます」
物思いにふけていると時間はすぐにたつものだ。
私は食事の席で前にたって子供のように興奮して話した。
妹紅と出会ったこと、妹紅と買い物をしたこと、悪魔の屋敷へ行ったこと、私の希望に会ってきたこと……
みんなが真剣に聞いてくれた。あの嘘吐き因幡でさえもだ。
話が終わった瞬間、質問責めにあった。
おお、みんなそこまで真剣だとは思わなかったわ
「妹紅とはもう戦わないんですか?」
「もう消火活動に励まなくてもいいいんですね!?」
「今日は人参パーティだ!」
ちょっとまてい。
妹紅関連ばっかかい。
「そんな分けないでしょ。アレとは犬猿の仲よ。明日からはまた元通り」
ええーーっ!と言う声が一斉にあがり、まるで怒号のようだった。
……蓬莱の樹海でいいかしら?
そんな事を真剣に考え始めたとき、やっとまともな質問が来た。永琳だ
「では姫様は私たちよりその少女の方が希望をくれたと言うんですね?」
くすくすと笑いながらからかうように永琳が言った。
……本当に素直じゃない奴が多い。
確かめたいなら直接聞けばいいのに。嘘がうまい奴。
「永琳、あなたは私の話をちゃんと聞いていなかったようね?」
「と、言いますと?」
今日は記念日なのだ。
少しくらい恥ずかしいセリフを言っても大丈夫……のはずだ
「言ったでしょう?」
さあ、もう後には引けないぞ、蓬莱山輝夜
「家族からの支えが一番うれしいってね」
言った瞬間、永琳に抱きつかれた
「ちょ、ちょっと永琳!」
顔が紅くなるのがわかる。……だれだ、ヒューヒューとかいったの。
永琳から鼻をすする音が聞こえる。
全くみんな涙もろい。
あ、私が罪作りな女だから?……なーんて
「みんなよく覚えておきなさい。永遠亭は全てに勝る家族よ。あなた達が生んだ子達は私が、永琳が、因幡が、ほかのみんなが世話を見てくれるわ」
そうよね、永琳と言うが、頭を上下にふって何も言わない。……全く
「だからみんな……」
何度も自分に言う。今日は記念日なのだ。
蓬莱山輝夜が初めて外に出た日。だからどんな恥ずかしいセリフも何度でも吐ける。
いっちゃえ、輝夜
「もっと家族を頼りなさい」
今日は暑い日だ。雪が降っているというのに。
彼女は人間の常識では計ることのできないほどの長い年月を月の使者から身を守るため狭い籠の中で過ごしてきた。
とても窮屈な暮らしで気が滅入るものだったが、生まれてからの495年という歳月を自分の部屋で過ごした吸血鬼の少女がいると聞いたので、それを糧にいままで狭い世界で頑張ることもできた。
そう、ついこの間までは。
二人の人妖、博麗霊夢と八雲紫が自分のところまでやってきて弾幕ごっこをしたときはなんと楽しかったことか。
その二人がもう自分の中の狭い世界にこもることは無いと教えてくれたときはなんとうれしかったことか。
もう自由に空を飛べる。どんなことでもできる。私は自由になったのだ。
それから何ヶ月かたち、さてどこへ行こうかと悩んでいるときにちょうどいい来訪者がやってきた。
歴史の全てを知る半人半獣、上白沢慧音。
人里に薬が必要になので永琳に薬を定期的にもらいに来ているらしい。
そんなことも知らなかった自分に多少の嫌気がさしたが、それはすぐ消えて彼女に頼みたいことが頭に浮かんだ。
-ねえ、明日私が人里に行ってもいいかしら?-
私の言葉に慧音だけでなく永琳も驚いた。
何をしに行くのか、危害は加えないか、目立った行動はとらないか
様々な事を聞かれたが何もするはずは無い。
私はただ外へ出て外の世界を知ってみたい。たったそれだけのことなの。本当よ。
もちろん、普段から自分の友人と殺し合いばかりしている相手をすんなり信じる訳がない。
渋い顔をして悩んでいたので、何度も頭を下げた。
永琳に止められたが、ここは引くわけには行かないのだ。
せっかく外に出られるかもしれないチャンスをみすみす逃したくはない。
とうとう土下座までしようかと思っていたところで慧音にまで止められた。
-わかった。そこまで言うのなら本気なのだろう。私も監視をしたりはしないから存分に楽しむといい-
彼女の言葉に何度も感謝の言葉をはいた。ありがとう、ありがとうと
明日やっと外へ出られる。
実を言うと身分が身分なので買い物などは一度もしたことがないのだ。
とても楽しみだったので、この夜はなかなか寝付けなかった。
我ながら子供だなと思い苦笑いをして、やっとその日の安眠を手に入れた。
そしてこの日がやってきた。
普段着の十二単に着替えて、永琳にお小遣いをもらった。
屋敷から外へ出るまでの間も心が落ち着かない。ああ、なんてすばらしい日なのだろう。外へ出るというだけでこんなに心が騒ぐなんて
途中、行き交う因幡達に声をかけられた。
「いってらっしゃいませ、姫様」
「ええ、行って来るわ」
このやりとりを何度か繰り返し、屋敷の外へ出た。
屋敷の外へでて気づいた。
「……もう、冬なのね」
自分の部屋にいるときは全く気づかなかった。
枯れ葉の感触を一歩一歩踏みしめながら足を運んだ。
今日は飛んで一気に人里へ行ったりはしない。
歩いて感触を踏みしめたいと言うことと、飛んでいる姿を人に見られないため、そして何より-
「「あ」」
三つ目の願いは目の前のほぼ同年代の少女の出現によりうち砕かれた。
「ごきげんよう、輝夜。今日は誰かと殺し合い?」
目の前の少女、藤原妹紅が炎を纏う。
……どうやらやる気満々のようだ。が、
「ごきげんよう、妹紅。残念だけど今日はどうしてもあなたと殺し合いはできないの」
「あら?そうなの」
なーんだ、と言った風に炎を消し、私に問いかけてきた
「殺し合い以外であんたが外に出るなんて珍しいじゃない。今日はどんな用事?」
「ええ、今日は人里へ行くの」
「人里ぉ~?慧音が黙っちゃいないと思うけど」
「大丈夫。ちゃんと許可は取ったわ」
「へぇ、慧音が武力行使に屈するとは思えないから説き伏せたのね?やるじゃないの」
軽い感じに妹紅がグーの形になった手を出してくる。
それにあわせ、少し笑いながら同じように手を出して軽くぶつけた
「当然でしょ。お姫様は口が命なのよ」
「初耳ね」
「じゃあ私はそろそろ行くとするわ。じゃあね、妹紅」
「まあ待ちなさいよ」
再び歩を進めようとしているところに待ったをかけられた。うーん、時間は大切なんだけどなあ
「まだ何かあるの?」
「私は暇だから殺し合いをしようと思ってたが……気が変わった。お姫様のエスコートをしてやるよ」
「まあ、素敵」
妹紅と共に他愛のない昔話をしていると、あっという間に人里へついてしまった。
こういう関係も偶にはいいかもしれない。偶には、だが
「ようこそ、蓬莱山輝夜。……って妹紅もいるじゃないか。何をやっているんだ?」
「あらおはよう慧音。許可を下したって本当だったのね。ちなみに私は長い間引きこもらざるをえなかった姫君のエスコートよ」
よけいなお世話だ
「まああれだけ頼まれたら許可をしないわけにはいかないからな。まあ信用していないわけではないがお前がついてくれているのならば安心だ」
「私って信用無いのねえ。ちょっとショック」
「しょうがないだろう、普段が普段なんだから」
「それもそうね」
「そもそも普段からお前達がそういう関係だったらいらん疑いをかけなくてすむし、私も助かるんだが」
「あ、最後に少し本音が出たわね」
「普段からこういう関係ってのは無理な願いだよ、慧音。誰かさんが喧嘩を売ってくるし」
「聞き捨てならないわね。喧嘩をふっかけた回数が多いのはあなたの方じゃなくて?」
なにおう、と互いに言い張っていると、慧音が止めに入った。
「はいはい、そこまで。私が調べた歴史によると二人とも一万九千八百六十回で全く同じ回数だ。さっさと観光してこい」
恐らく妹紅も同じ事を思っているだろうが、歴史を調べたというのはずいぶん便利な言葉だと思う。
とりあえず比較的にぎやかなところへやってきた。恐らくここが都市部なのだろう
「さて、どこへエスコートしてくれるのかしら」
「そうだな……じゃあそこで団子でも食べながら考えるか」
なかなかいい案だ。ちょうど小腹もすいてきたし
団子屋の長椅子に腰掛け、自分のお腹と相談しながら食べる量を決めていた
「そうね。じゃあ私は3個お願いしようかしら」
「じゃあ私も3個だ。大将~!団子六つお願い~!」
はいよ~、と威勢のいい声が飛んできて、まもなく団子がやってきた。
「で、今後どうしたい?」
「あら、エスコートしてくれるんじゃなかったの?」
「行きたくないところに連れて行かれるよりましだろう」
それもそうだ
「服ねえ……お前十二単以外に似合う服装あるのか?」
「よけいなお世話よ。サスペンダー付きのもんぺに言われたくはないわ」
「言ったわね。半引きこもりのお姫様よりはセンスはましなはずよ」
「じゃあ、こうしましょう。お互いに今着ている種類以外のものを買ってそれが自分に似合っていた方の勝ち。審判は慧音と永琳にしてもらうわ」
「上等よ!じゃあ食べ終わり次第すぐ服を買いに行くわよ」
言うが否や、妹紅も私もものすごい速度で茶を飲み干して団子を食べ終えた。
大将から「いや、いいくいっぷりだねえ。よし、代金はサービスだ!」
と言われ、妹紅も私もうれしいやら悲しいやら複雑な表情だった。
店の前へたどり着いて、早速入ろうとしているところに妹紅に止められた
「一応ルールを決めておく。今は太陽を見る限り11時と言ったところだろう。店の中に時計があるからそれが12時になったらまたここへ集合」
「金額制限は?」
「無しだ。ここは高すぎるものも無ければ安すぎるものもない。制限をかける必要はないだろう」
「そうね、高すぎるものがあれば自動的に私が有利になるものね」
「お前……永琳にいくらもらったんだ?」
財布を妹紅に手渡すと、「重……」と言う声が聞こえてきた。
「流石お姫様ねえ……私はこんな金額みたのしばらくぶりよ」
……永琳はやっぱり私に対して過保護だと思う。
「も、もういいでしょ。さっさと始めましょ」
「ああ、じゃあ西から回るか東から回るかを決めるぞ。せ~の……」
「「東!」」
見事にダブってしまった。……となるとあれしかないようだ
「これをやるのも久しぶりね……腕はなまっちゃいないかしら?妹紅」
「お渡しの記憶が確かならばお前は3連敗していたはずだ。私の勝利に揺るぎはないよ、輝夜」
空気が張りつめ、気温が下がり、私の頭も冷えてくる。
冷えてくるが、同時に興奮もしてくる。……勝負は恐らく最初の一手で決まる。
「行くわよ……!」
「来い……!」
腕を思いっきり振りかぶり、相手にたたきつけるように手を出す……!
「「ジャンケンホイ!!」」
久々に私が勝った。
何であれ勝てるというのは気持ちのいいものだ。
あの妹紅の悔しそうな顔!なんていいものを見たんだろうか。これだけであと百年はネタにできる。
……大声でジャンケンをして通行人の注目を浴びて二人して恥をかいたのも事実だが……
さて、それはともかく服を選ぶとしよう。
着物、私の愛用している十二単など色々あるがここはやはり……
「あら?」
「お?」
「あ」
このまえ永琳と戦った魔法使いの二人組にあった。
そういえばこの前はあの二人以外にも様々な音に聞く人妖達がやって来た。
永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレット
完全で瀟洒な従者、十六夜 咲夜
天衣無縫の亡霊、西行寺 幽々子
半分幻の庭師、魂魄 妖夢
そして上記の四人……それと最初のあの二人にも迫る力を持つ自称「普通の魔法使い」霧雨魔理沙
そして七色の人形遣いであるアリス・マーガトロイドだ。
「何をやっているのかしら?こんなところで」
「それはこっちのセリフだ。買い物は全て永琳やうどんげ任せかと思ったぜ」
「確かに意外と言えば意外ね。あなたが外へ出るのも珍しいのにその上自ら買い物なんて」
ずいぶんとひどい言われようだが否定できないのでそのまま話を続ける
「引きこもっていた反動かもしれないわね。別に外へ出たくないと思っていたわけじゃないし、お買い物って経験したこと無かったのよ」
「へえ、そうなのか。なら私たちがエスコートしてやろうか?お代は本一冊だ」
「ちょっと、何かってに決めてんのよ。まあ異論はないけど」
「ありがたいけど私にはエスコートしてくれる人がもういるのよ。今は別行動中だけど」
「へえ?誰だい、そんな物好きは」
「物好き……失礼な言い方ね。昔も今もモテモテなのに」
「で、結局誰なの?私達の知っている人?」
「ええ、よく知っているはずよ。ヒントは私と同じ蓬莱人」
「永琳だな」
「永琳ね」
「残念、妹紅よ」
私が発言した瞬間、二人が硬直して変な空気が流れた。
……そんなに意外かしら
「……アリス、今日雪は降るっけ?」
「降らないはずだけど……今日に限っては頼りにならないわ」
「予定変更だ、アリス。防寒着を買うとしよう」
「いいわね、それ。なかなか悪くない選択よ」
「ひどいわね。偶にはそんな日もあるわよ。……って、こっちの質問にも答えてよ~」
「どんな質問だっけ?」
「今日の天気はどうなるの?じゃなかったかしら」
「違うわ、まじめに答えてよ。こうみえてあんまり時間はないのよ?」
「お前に言われると説得力皆無だな。で、何をしてるかって質問だったな。え~っと」
すぐにとぼけるのをやめて、何をしに来たかを思い出し始めているようだった。
……ひょっとして目的も忘れたのだろうか、と悩んだ瞬間に同時に声が聞こえた
「魔法に使える服を買いに」
「人形に使える服を買いに」
「正直ね~。正直なのはいいことだけど、素直にならないと」
「人のこと言えるのか?」
「同感ね」
「ふふふ、時間がないのは本当だから、私は行くとするわ。じゃあね」
「ああ、新年会も来いよ。あいつも一緒に」
「じゃあね、お姫様。またそのうちお話ししましょう」
別れの挨拶をして、二人とも互いに軽い悪態をつきながら服を選んでいた。
魔法に使える服を買いに来たということと人形に使える服を買いに来た。これは嘘ではないだろうが、そんなもの建前にすぎない。
友達同士で服を買いに来たのならばはっきりとそういえばいいのに。全く素直じゃない子達だ。
「ああそうか、私もね」
さっき言われた言葉を思い出しながら、服を選んでいった。
素直じゃないのだ、私もあの子も。
さて、あと十五分程度で集合場所へ集まらないといけないのでそろそろ服を買わないといけなかったが、実は最初の五分程度で何を買うかはほぼ決まっていたのだ。
サイズもぴったりだ。文句のつけようがない。
この勝負に勝つには手堅く行くのではなく、思いっきり勝負を仕掛けないといけないのだ。
そう思い手を伸ばすと、隣から病的に白い肌をした手とぶつかった。
「っとごめんなさい」
「あ、私こそ……って」
言葉と同時に目を向けるとそこには妹紅がたっていた。
なぜ同じ服を……
「これに先に目を付けていたのは私よ、妹紅。手を引きなさい」
「あら、私が先に手をつけたわ、輝夜。あんたが手を引きなさいよ」
またもや空気が張りつめ、気温が下がり、私の頭も冷えてくる。
冷えてくるが、同時に興奮もしてくる。……今回も恐らく最初の一手で決まる……!
「「じゃんけ……」」
「お客様、この服はもう一着ありますが」
店員の容赦ない一言に、妹紅も私も先ほど以上に頬が紅く染まった。
買い物を済ませ、村の飲食店へ入り、昼食をとることにした。
このとき妹紅がそんなにたくさんの金を持っているとは思わなかったので奢ろうかと提案したが、あんたに死んでも貸しをしたくはないと言われた。
素直ではないが妹紅らしい。
私はそうそう食べることのできないカレーライスを注文し、妹紅は消化にいいからと言う理由でうどんを頼んでいた。
私たちが今更健康に気を遣うのもどうかと思うが、妹紅はあくまで「人間」なのだ。
人間が人間らしくいるために健康に気を遣う。多少悲しい話と思えてきた。
「んで?これからどうするのよ」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、暢気に話しかけてきた。
「ええ、私のあこがれの人に会いに行きたいわ」
「そんな人いたのか」
妹紅は冗談を聞いているような表情で私に返してきた。
「ああ、冗談じゃなくて本当にいるわよ?」
「……誰?」
「フランドール・スカーレット」
「レミリアの妹のあの子?少し気が触れてるって言われてる」
「そんなこと言われてたのね。知らなかったわ」
「何で会いに行きたいと思った?下手したら死ぬほど痛い思いをするぞ」
「あら、私の身を案じてくれるのね。うれしいわ」
はぐらかそうと思ったが、妹紅の表情がそうさせてくれそうにはないのでとりあえずある程度本当のことははなすようにした
「私、ずっと閉じこもってたでしょ?月の使者におびえて」
妹紅はわりと真剣な表情で聞いてくれている。……助かる
「でね、何度も外に出たいと願ったの。こんな不自由な生活はいやだから」
妹紅との殺し合いはあくまで極力、妹紅の相手が私ということがばれないようにやっていた。
永琳の術などで弾幕が外からでは見えないようにしてもらったり……
「そう思ってたとき耳にしたのよ。生まれてから495年間外に出たことのない女の子の話を」
「それがフランドールか」
「ええ、年月自体は私の方が長いかもしれないけど……彼女は生まれつきなの」
「出ようと思えばある程度の自由はできる私と外に出ることさえできない彼女では、私の方がまだいい環境だったから……」
「この程度で音をあげてちゃ、彼女に失礼だと思ったの」
そう、実際あったことはないにせよ彼女は私にどういう形にせよ希望を与えてくれた。
だから何かしてあげたい、私も何か返したい。そう思って彼女に会いたいと思った
「そうか、理由はわかったよ。じゃあ……早速行こうか」
「ええ、早速行きましょう」
さっき何かを食べたとは思えないほどに、お腹が軽かった。
~紅魔館~
その当主の色を表した文字通り紅い館は、妖怪、人間など全てに存在だけで威圧感を与える恐怖の象徴。
その館で働くものは、それだけで恐怖の象徴となる。
ましてやそれが高い位についているとなると、ただの人間程度ならにらむ程度でその場で気絶すると言われている。
その館の門番長である紅美鈴も多少抜けた性格を知らないものにとっては恐怖以外に他ならない。
なので初対面であるのに急に攻撃を仕掛けてきたりましてや自分より位の高い者に会わせろ、などと言った要望はよほど腕の立つ者かよほどの命知らずしかいないのである。大抵がその二つを兼ね備えている者ばかりだが。
だから美鈴は困っていた。
十六夜咲夜に会わせろと言う要望はまだわかる。彼女は接客などもしているので呼ばれることは時々ある。
だが、ある意味当主以上に恐れられているその妹に会わせろなどと言った要望は前代未聞なのだ。
二人を門に待たせておいて、実質上のトップである十六夜咲夜に相談を持ちかけた。
「あ、咲夜さん」
「どうしたの美鈴、お客様?」
「う~ん、客というか侵入者と言うか……とにかく会ってください。私の判断ではとても決められません」
咲夜は門番長をつとめている美鈴の判断力や実力は評価している。
その美鈴が自分に仕事のことで意見を求めてくるというのはそうそうないことなのだ。
「わかったわ、行くわよ美鈴」
だから、自分の感が告げていた。
これはお嬢様に頼らなければならないかもしれない、と
いわれた場所へ美鈴とともにいってみると滅多に見ない顔が滅多に見ないツーショットで並んでいた。
「あら、お久しぶりね。あなた達が二人でいることも気になるけど、用件をいってちょうだい」
「レミリアの妹に会わせてほしいの」
輝夜が割と真剣な表情で大変なことを告げてきたので、咲夜は少々面食らった。
-お嬢様の判断が必要ね-
そう感じた咲夜は二人を当主の部屋の前へ連れて行った。
「お嬢様、咲夜です。お客様が相談をしたいそうなので入ってもよろしいでしょうか?」
大きな扉だと思った。
自分の住む永遠亭が和ならこの館はまさしく正反対の洋。
これはこれですんでみたい。
「ん、入りなさい」
扉が開き、最初に目に入ったのは真正面にいる永遠に紅い幼き月、レミリア・スカーレットだった。
大きな紅い椅子に座り、肘掛けに肘をおいて顎に手を当てている。
椅子にもたれて足を組んでいて、どこか大きな椅子とはアンバランスな体に見えるが、不自然とは感じなかった
(なるほど、夜の王……ね)
輝夜は「生まれながらの王」と言う言葉に一番ふさわしい人物を見た気がした。
テーブルには本が置いてあり、咲夜が紅茶を注いでいる。行動が早いことだ。
「で、何のよう?お二方」
くすくすと笑うように言い放ち、威圧感と余裕が同時に存在している……そういった感じだ
「ええ、あなたの妹君に会わせてほしいの」
レミリアは私の言葉に少々面食らった様子だったが、目をつぶり何かを考え始めたようだった
「……なるほどね、事情はわかったわ。いいわよ、会ってらっしゃい」
今度は妹紅と私が驚く番だった。
「今のでわかったのか?」
私が言おうとした言葉を妹紅が先に言う。
二回言う必要もないので、レミリアの言葉を待つ
「ええ、妹に希望を与えてくれるんでしょう?素直に感謝の意を表しておくわ。咲夜、案内なさい」
「ただいま」
レミリアの気をつけなさい、と言う言葉を聞いた瞬間にどうやら地下室らしき部屋の前へ来ていた。
「ここが妹様の部屋よ」
扉の前に来てみると、言いようのない寒気が襲ってきた。
「案内ありがとうね、もういいわ」
「ええ、あなた達が何をするかは知らないけれど、妹様を楽しませてあげてね」
「まあ楽しませるのは主に輝夜だけどな」
三人で笑い会った瞬間、咲夜は「気をつけてね」という言葉と主に消えていた。
「さ、入るわよ」
「ああ、少し寒くなるだろうけどな」
手が少しふるえていたが、それを制して扉を開けた
入ってみると中はとても広い部屋だった。
レミリアの部屋よりも広いと思われる部屋の中には小さなレミリアににている少女が座っていた
「いらっしゃい、あなた達はだぁれ?」
無邪気な瞳で声をかけられる。
とても気が触れているようには見えないが、気をつけてねと言ったという事はそうなのだろう。
「初めまして、私は蓬莱山輝夜。……で、こっちは藤原妹紅。あなたと遊びに来たわ」
「本当!?うれしいわ魔理沙と遊んで以来他の人と遊ぶ機会がなかったから」
満面の笑顔で答えてくれる。
喜ばれたらこちらとしてもうれしいものだ。
「でも一つ聞いてもいい?」
「いいわよ、どうぞ」
「なぜ私と遊ぼうと思ったの?私は一応自分の能力の怖さはわかってる。今までどのくらいのモノを壊してきたかもわかってる。……いや、わかってきた……って言った方が正しいかな?」
さっきとはうってかわって理知的な話し方になっている。
……なるほど、こういうことか
「私が弾幕ごっこで夢中になったらどうしても能力が発動してしまうわ。ありとあらゆるモノを破壊する能力が」
「あなたも死んじゃうかもしれないのよ?それでもいいの?本当に?今なら逃げることもできるわ。私と遊ぶのはアイツ……お姉さまの頼みなんでしょ?」
「質問責めだな、輝夜」
くっくと笑いながら妹紅が私に言う。
……あんた何しに来たのよ
「じゃあ最初の問いから答えていくわね」
軽く深呼吸をして、言葉を整理する。
「まず最初の質問、一言で答えれば私は死ぬことはないわ。何があろうと」
「ああ、ちなみに私もね」
妹紅が付け足すように答える。
フランドールは驚いて、目を少し見開いた。
「だから全力でやっちゃってもいいわよ。で、次の質問」
さて、ここからが大事だ。
私の……蓬莱山輝夜の気持ちを伝えないと
「あなたと遊ぶと言ったのは私よ。あなたのお姉さまは何も命令しちゃいないわ」
「実は……私もしばらくの間自分の世界を出ることができなかったの」
「狭い狭い籠の中、それが何千年も続いて……そろそろ嫌になり始めたときにあなたの存在を知ったの」
「わたし?」
「ええ、あなたは……」
ここから先は果たして言っていいのだろうか、この子を傷つける結果にはならないだろうか。
そんな心配が一瞬頭をよぎったが、次の一言ですぐにそれはきえた
「ああ、私の事なら心配しなくていいわ。話して話して」
……頭の切れる子ね
「ありがとう、あなたは生まれながら495年間閉じこめられていたと知って、私がへこたれるようじゃあなたに失礼だと思ったの」
「あなたは私の希望だった。私はつい最近自由に外に出られるようになったからあなたに感謝したいと思ったの」
一言や二言で足りる感謝などではない。
「勝手に目標みたいに思われて迷惑かもしれないけど……私はあなたに希望を与えたい。私なんかでできることがあれば何でも言ってちょうだい」
……言えた
妹紅はよくやったと言った感じの表情をしていた。
「あなたの気持ちはわかったわ。私全力であなたと弾幕ごっこをしてみたい!」
「ええ、お安いご用よ。もし私が倒れたら後ろの妹紅に攻撃を仕掛けてもいいわよ」
げっ、と言った感じで固まる妹紅。
「本当にいいの?妹紅」
フランドールが妹紅に尋ねる。
断るはずがない。断れるはずがない。そういう性格だと言うことを私はよく知っている
「ああかまわないよ。輝夜が倒れたら全力で私に向かってくるといい」
笑いながら言って言葉では平静を保っていたが、一筋の汗が地面に落ちたのを私は見逃さなかった
「じゃあ行くよ?いっせーのーで!!」
突如現れた巨大な炎の大剣に私も妹紅も驚かずにはいられなかった。
何とか勝つことができた。
勝負が終わった後リザレクションのしすぎでしばらく体が動かなかったが、負けたはずのフランドールは私よりも元気だった。
……これじゃあどっちが勝ったかわからないわね。
妹紅は妹紅でレーヴァテインというスペルをフランドールに教えてもらっている。
ちゃっかりした奴だと思った。代わりにフランドールにお札の使い方を教えていたけど
「じゃあね、輝夜、妹紅。また来てね。次は絶対勝つから!」
「ええ、何度でも相手してあげるわ」
私ももうちょっと努力しないとね
「フランドール、次は勝つのよ?コイツはお札の攻撃が苦手だから」
「こら妹紅、余計なことを言うんじゃないの」
フランドールの方を向いて別れの言葉を放つ
「じゃあね、フランドール……いえ、フラン。外へ出られるようになったら弾幕ごっこ以外のことも楽しみましょう?」
「うん!私頑張るわ。いつか外へ出て自由に飛び回ってやるんだから!」
愛称で呼ぶのは多少くすぐったかったが、フランドール……フランが喜んでくれたので良しとしよう。
レミリアも恐らく、わかってくれるはずだ。
「ご苦労様」
最後にレミリアに挨拶と報告をしてから帰ろうと思って部屋に赴いたが、全て見透かしているようだった。
「全部、わかってる……いや、わかっていたって言った方が正しいか?」
妹紅の言葉にレミリアが返す
「ご名答。私は運命を視ることができるわ。それはともかく……」
レミリアが椅子から降りて、私たちの前へやってきた。
こうしてみるとフランドールと何ら変わらない小さな子供……そんなことを思っているとレミリアが言葉を発した。
「蓬莱山輝夜そして藤原妹紅、今日は私の妹と遊んでくれたことに紅魔館を代表して感謝するわ。本当にありがとう」
深々とお辞儀をし、面食らっている私たちをおいて話を続ける
「近い内にあの子が外を自由に飛び回ることができる日がやってくるわ」
「わかるのか?」
「運命は絶対なのよ」
「まあ、とにかく全てあなた達のおかげでうまくいきそうよ。何度も言うけど本当にありがとう」
レミリアは感謝の意を表しているが、一つだけ納得できない。
「妹紅、聞いた?」
「ああ、聞いた。『全てあなた達のおかげ』ってね」
突如雰囲気が変わった私たちにレミリアが狼狽える。
「な、なによ。何も変な事は言ってないでしょ」
「言ったな」
「言ったわ」
……こういうときは話がすぐあって助かる
「あの子が一番感謝してるのはあなたよ、レミリア」
「……へ?」
訳が分からない、といった表情でこっちを見るレミリア
「あなたは家族だもの」
「……訳が分からないわ」
「あなた、フランドールとよくお話してるんでしょう?」
「それがどうしたのよ……」
あー!もう!まだわからないの!
「結局ねえ、赤の他人より身近な人の話の方がうれしいのよ。あなたは家族だもの。一番うれしいに決まってるわ」
「つまりお前が支えてきたフランドールに私たちがきっかけをやったにすぎないのさ」
「ちょっと妹紅、決めセリフとらないでよ」
「五月蠅い。偶には私にもしゃべらせろ」
「……二人とも、喧嘩なら外でやってくれる?」
「わかったよ。ほら行くぞ輝夜」
「もとよりそのつもりよ妹紅。じゃあねレミリア、吉報を待っているわ」
返事は期待していなかった。
夜の王が泣いているのをばれるわけには行かないだろう。
フランドールもレミリアも素直になって本音を言い合うだけでいいのに。
それでお互いどれだけ救われることか。
……本当に幻想郷は
「素直じゃない奴ばかりね……」
聞こえない程度に呟き、妹紅一緒に外へ続く道を歩いていった。
外へ出ると白い結晶が降っていた
「あ、雪……」
妹紅は何か感じるものがあるのか、雪を見てうっとりしていた。
……あの二人は天気予報をした方がいいんじゃないかしら?
「ただいま~」
永遠亭へたどり着く。
今日は本当に疲れた。だが、あんな楽しいことはなかなかできないだろう。今日は記念日だ
「お帰りなさいませ、姫様」
「ええ、ただいま」
行くときと同じやりとり。
全く飽きることはない。いいことだ。
「ただいま、永琳!」
私は真っ先に永琳のところへ向かって、思いっきり跳んで永琳に飛び込んだ。
永琳は私を苦もなくキャッチして、そのままだっこしてくれた。
「お帰りなさいませ、姫様。今日は楽しかったようですね?よろしければお話をお聞かせください」
「言われなくてもそのつもりよ。食事の席でみんなが集まってから言うわ。
「楽しみにしておきます」
物思いにふけていると時間はすぐにたつものだ。
私は食事の席で前にたって子供のように興奮して話した。
妹紅と出会ったこと、妹紅と買い物をしたこと、悪魔の屋敷へ行ったこと、私の希望に会ってきたこと……
みんなが真剣に聞いてくれた。あの嘘吐き因幡でさえもだ。
話が終わった瞬間、質問責めにあった。
おお、みんなそこまで真剣だとは思わなかったわ
「妹紅とはもう戦わないんですか?」
「もう消火活動に励まなくてもいいいんですね!?」
「今日は人参パーティだ!」
ちょっとまてい。
妹紅関連ばっかかい。
「そんな分けないでしょ。アレとは犬猿の仲よ。明日からはまた元通り」
ええーーっ!と言う声が一斉にあがり、まるで怒号のようだった。
……蓬莱の樹海でいいかしら?
そんな事を真剣に考え始めたとき、やっとまともな質問が来た。永琳だ
「では姫様は私たちよりその少女の方が希望をくれたと言うんですね?」
くすくすと笑いながらからかうように永琳が言った。
……本当に素直じゃない奴が多い。
確かめたいなら直接聞けばいいのに。嘘がうまい奴。
「永琳、あなたは私の話をちゃんと聞いていなかったようね?」
「と、言いますと?」
今日は記念日なのだ。
少しくらい恥ずかしいセリフを言っても大丈夫……のはずだ
「言ったでしょう?」
さあ、もう後には引けないぞ、蓬莱山輝夜
「家族からの支えが一番うれしいってね」
言った瞬間、永琳に抱きつかれた
「ちょ、ちょっと永琳!」
顔が紅くなるのがわかる。……だれだ、ヒューヒューとかいったの。
永琳から鼻をすする音が聞こえる。
全くみんな涙もろい。
あ、私が罪作りな女だから?……なーんて
「みんなよく覚えておきなさい。永遠亭は全てに勝る家族よ。あなた達が生んだ子達は私が、永琳が、因幡が、ほかのみんなが世話を見てくれるわ」
そうよね、永琳と言うが、頭を上下にふって何も言わない。……全く
「だからみんな……」
何度も自分に言う。今日は記念日なのだ。
蓬莱山輝夜が初めて外に出た日。だからどんな恥ずかしいセリフも何度でも吐ける。
いっちゃえ、輝夜
「もっと家族を頼りなさい」
今日は暑い日だ。雪が降っているというのに。
すんなり読めて面白かったです。こういう輝夜もまた良し
良いお話でした。
いくつか文章におけるアドバイスを。私もそんなに偉そうな事は言えませんが・・・。
まず、読点(。←これ)があったりなかったり。少々気になりました。勢いがあるのはとても素敵ですが、書き上げてからじっくり見直すとなお良くなると思いますよ。
あとは台詞ですね。「」で区切られているのに、同じキャラが続けて発言している箇所がいくつか。どうにかして一つに纏めるか、間に地の文を一つ挟むだけでだいぶ読みやすくなりますよ。
余計なお世話かもしれませんが、参考になれば幸いです。
何はともあれ、次作も楽しみにさせて頂きますね。
二度目のジャンケンのオチがツボw
受験がんばってくださいね。
後日談のオチもよろしい様で。
ただあれかな、改行の辺りは少し気になったり。
あと発言かな?なんか「」が連続で使われてると違和感を少し感じたり
>「」で区切られているのに、同じキャラが続けて発言
海外小説の翻訳では良くありますね。
一息入れてから話すような、ある程度の間を表現する時に使われ、末尾の」は付けません。
やば、確かに腹筋が鍛えられそうだ!
良い雰囲気の読みやすい作品でした。
今後も楽しみにさせていただきますね。
面白かったです。
それでいて話は殺伐としておらず読んでいて気分がよくなりました
なるほど輝夜は利口なお嬢様なのですね
ただやはり、少しだけ誰かが発言しているのか分かり辛い箇所がいくつかありまして、そこは少し引っかかってしまった感じです。
でも、こんなにいいお話を、ありがとう。
いい雰囲気ですね
違和感なく、スムーズに動く話。
面白かったです。
作者様に感謝。
あったかくてよいですね。
もう少し読みやすいと、なおよかったです。