Coolier - 新生・東方創想話

咲夜の人事異動 後編

2006/12/28 10:13:07
最終更新
サイズ
12.26KB
ページ数
1
閲覧数
820
評価数
4/21
POINT
1000
Rate
9.32
注・設定がかなり狂ってます。これは違うぞ!とか思っても無視してください。可能性の可能性みたいな話ですので、







とある田舎町だった。
小さな島国の更に山奥にある、高度な文化から乖離した町。
そこには陽が反射してプラチナ色に見える綺麗な銀髪に荒んだ眼をした少女がいた。
服はボロ切れ、誰か服を宛がってやればいいのに、誰も見てみぬふり。


少女、___咲夜の生まれてから少女に至るまでの生活環境は劣悪だった。
小さなレンガの家、暖炉として屋根に突き出した煙突から煙は出ない。

なぜなら、煙突の先には頑強に蓋が止められていて、暖炉に薪をくべて火をつけでもしたら一酸化中毒で死んでしまう。
悪戯の領域を超えた、迫害。

しかし、それだけではない。
町人総出で、咲夜を無視。話しかければ、眼を細め嫌悪感を込めた暴言を吐きながら逃げていく。
道を歩けば、石が当たる。
投げられた方向を見れば、路地裏から更に奥へと脱兎する少年少女の背格好と忍び笑い。
食料を買いに出ても、店には入れてくれない。
仕方なく、自宅の庭で野菜を育てるがすぐ誰かに荒らされた。
母親が病床に臥せて、咳き込む。薬が欲しい。
医者を探しても誰も答えてくれない。
隣町に行き、理由を話して無償で薬を貰ってきた。
自分の食うパンを残し、野良猫に餌をやったら、その猫は殺された。

殺した大人共の言い分はこうだ。
「魔女に使役される黒猫ほど縁起が悪いものはいない」

思考にポッカリと穴が開き、全てが白く見えて、私は狼の様に叫んだ。

気付けば、森に一人寝転がっていた。顔がヒリヒリと痛い。
あの大きな拳で殴られたのだ。
だけど、手に残る感触。
二人、殺してやった。

次の日には、より一層に弄ばれ虐められ嬲られることになったとしても、後悔はなかった。
血で血を洗う日々。
次第に町と関わりは消え、森で兎を狩るのが得意になっていた。



振り返れば、到底 幸せと言える過去じゃないけれど、


「嬉しい事はあったわね。咲夜」


それは母の声に聞こえたし、永琳の声にも聞こえて、だけど多分あの子の声だと思った。
こんな鳥のように澄んだ声、その声に最初に出会ったのは私が一番に苦しんでいた時だった。


母の頬が一層、痩せ扱ける。
咳には血が混じっていた。
死は近い。
母は死期を悟り、その日から咲夜が作った食事には多彩な色の野菜と新鮮な肉が含まれるようになった。
娘に苦労を掛けさせるのは苦しいのか、泣きながら湯気が立つスープを口に入れた。
咲夜は気にしないで欲しかった。
願いはただ、一つだけ。

一瞬でも長く、傍に居て欲しい。

そして、同時に無茶な願望を見出す。
時間が欲しい、
時間を延ばせたら、
時間を止められたら、
時間を操り支配できたら

私の時間はお母さんのもの。

どうか、生きてください。








太陽が真上に昇る時刻


森の中、不意に背後から話しかけられた。


「あれ?こんな所に人が居るの」


全身が強張る。心臓が躍動。
額に汗が浮かぶ。
咲夜にとって、他人は恐怖にしかなりえない。
だって、
すぐに殴る、蹴る、毒づく、罵る、死ねという、魔女と呼ぶ、殺そうとする、嗚呼、止めて来ないで話しかけないで
だから、決して振り返らない。
振り蹴れば、きっと沢山の大人が居て、私を殺すに違いない
理不尽に暴虐に殺すに違いない
嫌だ。
死にたくない、殺されたくない、死なせたくない、もう殺したくない

「ねぇ、貴女なんて名」

咲夜には聞こえない。
耳を塞いでいるから。
背後の誰かはきっと咲夜の肩に触れようと近づいたのだろう。
だけど、咲夜は身近に寄ってくる気配を感じ、逃げ出した。



「はっぁ、はぁ、はっ…」
荒い息遣いにようやく自分が走ってることに気がつく。
そこで立ち止まり、冷静に考える。
さっきの声は聞いた事がないくらい澄んでいた。
もしかして、隣町の子で仲良くしてくれたかもしれない。
しかし、自分の噂は届いている。
なら、どうして関わろうと?

その思考は唐突に中断された。

がバッ。
今日は快晴、太陽がよく見えていた。
しかし、その時は太陽は森の茂みから飛び出した何かに遮られて見えない。
奇妙な光景だった。
変な服を着た少女が両手足を真っ直ぐ伸ばして私を上から押し潰した。


「えへへ、つーかまえた♪」

満面の笑みで彼女は囁いた。
悪戯が成功したような嬉しげな声音に潰された痛みは感じない。
驚きだけが咲夜を満たしたのだ。

「あらあら。うふ、どんな人かと思ったらこんなに可愛らしいプリンちゃんだったなんて、お姉さん嬉しい」

「あ、はい、こんにちは」

おずおずと頭を頷ける咲夜。
お姉さんと称するも、咲夜は自分と大して変わらないじゃないと思った。
それに奇妙な服装に視線が行く。

なんだろう、この無謀な格好は?
交差した服の隙間から淡いピンク色の中心に若干膨らんだ胸が覗いている。

「嗚呼、着物ってこれだから嫌なの。胸見たわね?うふ、胸チラよ胸チラ。最近の流行ね」

「は、はぁ」

なんとも煮え切らない顔で咲夜はとりあえず返事をした。
どうせ、この場限り。
適当に取り繕って、さっさと帰ってもらおう。
まさか、そう思った相手が後に心友と呼べるぐらいに親しくなるとは、その時はまだ思いもしなかった。



「あ、そうそう。自己紹介が遅くれたわね。私の名前は凄いわよ」

人差し指を立てて、咲夜の眼前に顔を近づけて言う。
顔が近い近いと思いつつも、とりあえず言葉を返す。


「凄いって」


「多分、古典に詳しいなら知ってるかな。そう、私は蓬莱山 輝夜。よろしくね」



以前、博霊神社の宴会で見た、おてんば姫の少女がニッコリと微笑んだ。









がばっ、
夢から抜け出すように、咲夜は布団を押しのけ上半身を起き上げる。


「っ、ええっっーーーーーーーーー!?意味がわからない、夢だから?いや、でも確かに記憶はあるけど、…うーん?」

でも、確かに遊んだ記憶はある。
しかし、過去と、今の輝夜ではいささか背に差がある気がした。
永琳は分かる。
あの魔術師の『彼女』だ。
そして親友が輝夜?
記憶の情報が混然と感じれる。本当に意味が分からない。
そもそも、あんな閉鎖的な田舎に居る訳がない。
いや、幻想郷から抜け出て来た?何しに?


「……分からない。本当に全然、意味不明ね。だけど」

化け猫は言った。
分からないなら人に聞けば良い、と。










中々に騒々しい部屋がある。
咲夜はそっと襖を開けて中を覗くとかなり慌ただしい喧騒が耳に届いた。


魂魄 妖夢は凄く疲れた顔をしてる。
淡白色に金箔のアクセント、右腹部位には大きな朝顔の模様。
普段の服装とは違い、すこし大人びた感じに見えた。
それが、袖を巻くって、紐で縛っている。
雅さの欠片も無くなっていた。それに腰に掛けた二本の刀が忙しなくカチャカチャと騒々しい。
宴会の用意に長袖は不要ということか。

廊下の片隅でサボっている幽霊達の話によると、なぜか、永遠亭の人達と兎を御呼ばれする事になったらしく、作業量は単純に二倍増えてやってらんねー、だそうだ。


「っとうに、もうっ!ふざけるな」

妖夢はぶち切れる。周りに居た幽霊達はさっと逃げ出す。
顔が付いてないから憶測だが、きっと顔を引きつらせ怯えた眼だったに違いない。
そんな幽霊達を睨みつけ、刀を抜いた。


『畜趣剣「無為無策の冥罰」!!』

ぱたん。
瞬間的に襖を閉じる。
剣を抜いた妖夢の額に角が二本見えた気がしたからだ。


おらー、働けー、そこぉ、サボるとなます斬りだ!!
ぎゃー。
遅い、零すな、拭け!ああ、座布団足りない!お屋敷の奥間から持ってきて、
いやー。

阿鼻叫喚な地獄絵図。
過酷な労働環境はなにも紅魔館だけではないという事らしい。

不意にドタドタと力強い足音が襖の向こうから、次第に大きくなって聞こえてきた。
咲夜はなんとなく妖夢だと分かった。
落雷の鳴らすような音と同時に、襖が全開。

「「そこっ!成仏させられたくなけりゃあ、今すぐみりん、本だし、米と味噌三十キロ、うどん粉も、調理場に届けに逝け!!」」


廊下の片隅に居る幽霊の集団に鬼が叫ぶ。
多分、この妖夢は月の兎より紅い眼をしてる。
というか、酷い剣幕にまるで自分が怒られてるような気分で肩身が狭い。
縮こまっている咲夜に気づき、妖夢は角をしまい、口を開く。

「って、もう起きました?そういえば、起きたら幽々子さまと永琳さんが来るようにと言ってました」

「どこに?」

尋ねると、妖夢はニッコリと笑みを深め、上を指差した。






風に流され、袖を擦りあう樹の枝。
ざわざわと、静かな夜空を見上げる二人の姿。
其処は西行寺宅の屋根の上。

「そう、あの子は月の生まれ、地上育ち……。あの能力は封印した、つもりになってたわ」

月光に当てられ、プラチナ色に見える銀髪の女性はため息を吐いて、更に言葉を続ける。

「不死の薬で永遠の能力を身に付けた姫の身体はまだ御年十歳ぐらいだった。成長させるには意図的に時間を進めるしかなかったの。だから、生まれたての赤子に時間操作能力を覚えさせた。その赤子__咲夜だけど、彼女は能力を操作できなかった。だけど、漫然と流れ出る時間の影響で姫はすくすくと育ったわ」

隣に座る亡霊はただ、黙って彼女の懺悔を聞き届ける。
全ては終わった事、何かが変わるわけではない故に。

「それから姫が少女らしい体付きになった頃、他の月人に蓬莱の禁薬がばれて、姫は罪人になった。牢獄で何度も何度も様々な方法で殺し、嬲られ、燃やされ、壊され、犯され、潰され、……その不死性を証明された。で、穢れた地上に送られたの。その時、咲夜は、能力が暴走して時空の果てに消えた。姫を心配する中、ずっと探していた。見つけて、謝りたかった。あの子を見つけたのはごく最近。丁度今から二十年前。まさか、既に誰かに育てられてるとは思ってなかったわ」

「どんな人だったの?」

「…私とは違う、ただの人間の癖にえらく強く生きた女性ね。そして、彼女の死期が近い時、姫に関わってもらったの」

「ねぇ、その母親は助けられなかったの?」

「あれは老衰よ。彼女は八十歳を超えていた。おそらく、咲夜を見つけたときに、時空の狭間に足を踏み入れたの。その所為で若返り、町の人たちには異端扱いされてしまった。まぁ、彼女は最後まで幸せだったと思うわ。そして、『咲夜の壊れた記憶を改ざんして』、永遠亭に呼ぼうとした矢先、……貴女の親友」


親友といわれ、思い浮かぶのは一人。
なぜあの隙間妖怪の名前がその話に出てくるのか、不思議でしょうがないと亡霊は首を傾げる。

「神隠し。咲夜はそのまま、どこかに攫われ、次に逢えたときはあの永夜の事件だったわ……ねぇ、咲夜?」


二人の前に一枚のトランプがくるくると廻る。
次の瞬間、メイド服の少女は現れた。


「ええ、久しぶり。このマッドサイエンティスト」


咲夜の眼は赤い。それこそ、月人の証であり、過去に負った傷心の体現でもある。
瞬間、亡霊__幽々子は空高く跳躍した。

咲夜の口が狂気に歪み、「死んで死んで死になさい」唄うように口ずさむ。

永琳は無言で立ち尽くしている。


『傷魂「ソウルスカルプチュア」、っぃやああああああああはああぁあああああ!!』

悲鳴のような金切り声
幾千の紅いナイフの軌跡に屋根は吹き飛ぶ。
まるで局所的な嵐のような凄まじい斬撃。
隙間一つ見えない程の密度に明確な殺意が伺える。
さっきの話を咲夜は全て聞いていた。
言葉にすらならない、叫びでしか表せない怒りに身を焦がす。
まさに必殺の一撃
しかし。

「はぁ。本当に死ねないみたいね」

気の抜けた咲夜の声に、平然と永琳は言葉を返す。

「そりゃあね。でも痛みはあるの、見て。腕が無いし、腸もでてる。心臓が破けて、肺に肋骨が刺さってるわ」

確かに。
首から下は無残もいい所、腕はどっかに飛んで、血肉が千切れ、臓物はこぼれそうだ。
足場が永琳の周りだけ決壊している。周りだけ。
つまり、あの攻撃をその身一つで受けきったという事になる。

「ふん。自業自得」

軽やかに言うと、咲夜は背を向け、立ち去ろうとする。
背後で何か、躊躇いの雰囲気が感じられ、振り返ろうとするも先に永琳の独り言のように呟く。

「それで終わり?もっと殺さないの?」


やれやれ、と肩を竦めて振り返る。
柔らかい笑みと穏やかな黒色の眼を浮かべて。
咲夜は告げる。


「過去なんか興味ないわ。今をどう過ごすかが大切でしょ?それでは、失礼します。お母さん」


足を交差させ、スカートの端をつまみ、大きく広げて一礼。


「待っ、咲夜!」


咲夜は消えた。
ばたん。
一人、残された永琳はそのまま後ろに倒れる。

「あーあ……うふふ、さすが私の娘」

うふふふふ、と妙に嬉しそうな含み笑いは妖夢が呼びに来るまで続いた。




音も無く、咲夜は白木の門をくぐる。
その顔はどこか機嫌が良さそうだった。
今さら、お母さんと呼ぶつもりは無い。
自分の娘に異能をつけるあたり、その程度の覚悟は出来ていただろう。
そして、記憶の改竄。
全て思い出した。あの町は全滅した、させたのは私だ。
だから、ショックでそれを忘れた自分は町の人が見放したのだろうと思ったし、隣町もそんな姿勢で構えてると考えた。
あの辺域には自分と母親しか居なかったのだ。
そして、孤独になりそうだった私を救ってくれたのは、あのお節介な二人。
だから、怨むのは畑違い。

「そう、感謝してるのよ。私は、極端を言えばレミリア様に出会えたのも、永琳のお陰よ。そうでしょう?紫」


「ええ。そうね、友人に代わって私が今回の成り行きを見届けたわ。それにしても、あーあ」


前方の闇から滲み出るように現れたのは西行寺 幽々子。
亡霊らしい登場の仕方に、だけどその濃厚な気配は察していた。

「あんなに屋敷を壊しちゃって。本当なら宴会とかの用意を手伝ってもらうために呼んだのに。まぁ、元々あのケチな吸血ヒッキーがこんな日に貸してくれるとは思わなかったけど」

「なんか色々、突っ込みたいですが、とりあえず今日って何かありましたっけ?」

尋ねても、幽々子は微笑むだけで言葉を発しない。
この為にと一枚の手紙を袖口から取り出し、咲夜に手渡した。


『敬愛なる咲夜、こんばんわ。貴女をそんな辛気臭い所に行かせたのは一つの訳がある。
その理由は、今すぐ紅魔館に来れば分かるわ。帰路の道中、楽しみにして帰ってきなさい。レミリア・スカーレット』


「今日はクリスマス。だけど、貴女を祝うパーティみたいね。それでは良いお年を」


「それは大晦日よ。それじゃ、皆にも宜しく。御機嫌よう」


こうして、咲夜は空を駆けた。
紅魔館へと帰路を急いで。
その日、夜空を駆けるメイドという奇妙なものを見た人は少なくは無い。
そして、見た人が微笑むような嬉しそうな満面の笑みを浮かべた少女が、自分の家でどんな顔をしたのかは悪魔とその仲間しか分からなかった。
なんというか、ヤバイ位に混沌としてます。まさに自分世界。
前編の設定とか丸ごと無理やりに纏めたというか、すいません。
余り見られるものじゃないですが、書いた以上は投稿させてもらいます。
えーと、すいませんとしか言えない
設楽秋
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.700簡易評価
2.60nanashi削除
目敏くなってしまいますが、輝夜の「プリンちゃん」は「プリンみたいに~な子」なんでしょうけど(おいしそうと解釈しましたが)引っかかるところだと思います。「御呼ばれ」は受動です。
無闇に謝ろうとする必要はありません。読み手に諂ってる風に見えます。読みたい人は勝手に読ませて頂きますから。面白いお話でした。
3.80CACAO100%削除
まぁ、俺はこういう作品も一つの物語を『演じてる』という捕らえ方をするから良いけど、他の人はどうなんだろ?
まぁ普通になぁんにも考えず
6.60名前が無い程度の能力削除
私の時間はお母さんのもの…
原作のセリフとを考えて一言で当時の咲夜が現される呟きにしびれました。

面白いと思って読み終わった作品に、作者からのメッセージで(本人としては謙遜なのだろうけど)その作品を貶めるようなことを書かれると、楽しんで読んだ人間としては微妙な気分にさせられるというのはあります。まぁ、要するに謙遜はやぶ蛇になりがちかと。
8.無評価設楽秋削除
あー、いやホント悪い癖なので次からは気をつけます。
評価してもらったのは素直嬉しいです。
有り難うございます
14.100SETH削除
私 この話すきー