Coolier - 新生・東方創想話

お願い! 優曇華院☆

2006/12/28 07:07:26
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ボンジョルノ! 人間を幸運にする程度の能力でお馴染みの因幡てゐでっす!
突然ですが、こんなことわざを知ってますか?

『患部で止まって三日は便秘』

そう、たとえ望まなくても様々な出来事によって人の心は荒れてしまいます。勿論、ノーウェルカム!
この私と出会えたラッキーなあなたには、特別にとっても便利な兎を呼び出す呪文を教えちゃいますよ!








「えーんっ。自分の棲んでる家で迷うなんて、私ってまぬけ~」
永遠亭の無間回廊の扉を、半ベソかきながら一つ一つ開けては閉めてを地道に繰り返しつつ、ぼやく鈴仙。
「師匠ってば、急に永遠亭を無間回廊の檻にして、一体何事なんだろ?」
以前人妖が永遠亭に乗り込んできた時には、永琳と鈴仙は無間回廊の檻にする術と波長の位相をずらす術によって、永遠亭の廊下を催眠廊下へと作り変えた。
それは、あの時は姫を隠すため、地上を密室にするために偽物の月をでっちあげて、さらにそれを催眠廊下の檻に囲い保護するためだった。
…つまり、あの時は一つの目的にために事前に打ち合わせていたのだ。
けれど今回は違う。鈴仙が化粧室――要するに、トイレットルーム――に行く為に自分の寝室から出た途端、廊下は無間回廊になっていたのだった。鈴仙にとっては不意打ちもいい所。
勿論、鈴仙はトイレットルームどころか自分の寝室にすら戻れずに、今に至っている。
「いや、今はそれよりも私自身のエマージェンシーを解決しなくては…! メガネメガネ…じゃなかった、トイレトイレ」
トイレとメガネは一文字もあっていない。それは即ち、鈴仙が少し錯乱気味であることを表していた。
他者の狂気を操るという事は、自身の狂気を開放する事と紙一重なのよ。そのことをよく肝に銘じなさい。という永琳の言葉が頭を過ぎる。
けれども今は、鈴仙の中では、肝に銘じるよりも肝臓に逆流してくるのではないか、という不安の方が勝っていた。
「うぅ…ラグビーボールって、昔は豚の膀胱を膨らませたもので作ってたって知ってた? こんな時に心の支えになるトリビアよね…」
鈴仙は波長のずれた独り言を口走る。
ガラガラ…ガラガラ…と、一つずつ無間回廊の扉の封印を解いては中がトイレで無いことに落胆と絶望をしながら、それでも次こそはと襖の戸を開く。
「いつまでもこんなやや前屈みの私視線だと、品位が下がってしょうがないんじゃない? こんな状況にした師匠はどうせどこかに隠れているとして、因幡の皆やてゐちゃんは一体どこにいるのよ~」

全くその通りだと思うので、一方その頃因幡てゐはというと……




「えぇい! 私としたことが見つかってしまうなんてぇ」
総制作費600億ウォンを投入したような、派手な爆発を背後に無間回廊を駆け抜けるてゐ。
「待てやぁああ! こないだお前に貰った団子を食べてから、どーも調子が悪いと思ったらっ!! どうせ輝夜のお抱え薬剤師が作ったんだろ、あの団子!」
てゐの鬼の形相で追い抱えているのは妹紅だった。
100年に一度己が身を焼いて再生を繰り返す不死鳥をモチーフにした火の鳥を、自らが纏っている炎のような執念から発射させている。
その火の鳥が、爆炎が、総制作費600億ウォンのド派手な演出の凄まじさを物語っているかのようだ。
「まぁそうなんだけど……永琳様は、実は怖いからあんまり突っつかない方がいいと思うってば。何でかって? それは”ヤクザ医師”だから……どう!? 面白いでしょ、ククク」
「面白いかボケェ!! お前本当に人を幸運にする程度の能力持ってんのかぁ!?」
「えぇ~、そんなぁ!」
ズガガガガガガ……と火の鳥が大量発射され、その一匹がてゐの足元を掠めるも寸での所で跳躍する。

「まるで、今から一面ボスのビックコアが出てきそうなほどの噴火ね」
「ピロリロリン。呼んだ~?」
無間回廊の扉の一つが開き――何と! 驚くべきことにその先にはヴワル図書館があった――赤毛の小悪魔がてゐに話しかける。
「ビックこあじゃ無いわよっ! ビックコア!!」
「残念~。今ならフル装備にもなれたのに」
「え?」
小悪魔の影から、紅茶を持ったメイドの姿。
「この間、竹林で迷った時のお礼をしようと思いましたのに……コマンド入力時間終了ですわ」
パタン、とヴワル図書館への扉が閉まる。

ピロリロリン
時が動き出し、火の鳥達は再びてゐを乱暴に襲い始めた。
「…な、何だったのかしら。今の?」


狂気に当てられているのかもしれない。
何てったって、人を幸せにする筈の私のダジャレが通じなかったし。
どんな状況でさえ、私は自分の言葉が人間たちを楽しませ、その結果幸運にしてきた。
てゐの能力。人を幸運にする。
それは、てゐと出会い、てゐによって幸福な気分を与えられた人間に発現する”幸運”。
笑う角には福来る。というやつだ。

だから、私のダジャレがウケないなんてありえない! さっきの不思議な出来事といい、狂気が支配しているとしか思えないわ!
と言うことは、鈴仙ちゃんの仕業? …いや、でもそんなことは無い筈。鈴仙ちゃんは今頃布団の中でぐっすり寝ているに違いないもの。


「ピョンピョン逃げるなぁ! 私はここの薬師に解毒剤を作らせて、それからついでに輝夜を一発ぶっ飛ばして帰るだけなんだから、さっさと案内しろぉ…」
妹紅の語尾がややトーンダウンした。どうやら、腹痛を訴えているようらしく、前屈みになってお腹を押さえている。それでも、攻撃の手を緩めてはいなかった。
こ、このままじゃいつか焼きウサギになっちゃう! 仏教じゃないんだから、自ら火の中に飛び込むなんてゴメンよ!!
とはいえ、このままじゃあどうしようもない。ただ逃げるだけだ。せめて鈴仙ちゃんが盾になってくれたら。
布団の中ですやすやと寝ている鈴仙の、ちょっと憎たらしい寝顔を思い浮かべる。

……そういえば、鈴仙ちゃん。
そうだ、思い出した! 永琳様の新薬、十倍メッコールが美味しくなる薬が入ったメッコールを飲んで、鈴仙ちゃんは「新しい味に目覚めた」とか言って夕御飯の後に2リットルは飲んでいたわ。
”たった一つの真実見抜く、見た目はウサギ、頭脳は月人”の二つ名を持つ、この因幡てゐ様はそこである真実にたどり着く。


「鈴仙ちゃん、トイレを探しているわね」


…そして、説明が遅れたかもしれないが、要するに妹紅は私が渡した団子の薬の効果によって、便秘なのだ。
妹紅は姫様と反目しているみたいだけど、それでも私は人を幸運にする程度の能力を持っている。ここは、私の能力を使って気持ちよく妹紅に帰ってもらったほうが私も気持ちよく安眠できるというもの。
便秘の早期治療には、何が最も効果的か? そしてそれが実行可能なのは誰か? ディテクティブテウィには、簡単すぎる問題だった。






そう、どんな時でも、最後まで希望を捨ててはいけないわ。心強い見方、優曇華院が必ずあなたを助けてくれるはず!
さぁ、メモの用意は出来た? 呪文は正しく発音しないと効力を発揮しないから、くれぐれも注意してね!






「鈴仙至初地上極危険且冷酷対峙引篭造偽若其否翠星石其電髪眉剃時造偽若瞬獄殺鈴仙貴型月民不理解附異文化譬賤地尊月真理不可視二分世界処軋轢為貴無解須臾将存為愉咽且師匠言造偽若又色彩鈴仙時瞬獄酷……」



「うぅ~、もうだめもれるぅ。あんなにメッコール飲むんじゃなかった~」
と、口では言いながらも今日のメッコールには何だか不思議な、惹き付けられる様な新しい味があったと思う鈴仙。言うなれば、それは至高の味。
と、無間回廊の向こう側から何やら聴こえてくる。少し変わった波動域を使っていたので、チューニングする。

………。

「鈴仙ちゃんは、地球に来たばかりの頃はすっごくツンツンしてて、永琳様や姫様も冷たい態度だったわ。あれは、ツンデレなんてものじゃないわよ? 不良よ、チンピラよ、元ヤンなのよ。でも一度永琳様にコテンパンにやられた後に
『あなたは、典型的な月の民のようね。異なる文化や考え方を理解しようとせず、地球の民を賤しいもの、月の民を尊いものと思っている。世界を敵と味方に分けてしまっては何も見えないというのに。自分と違うと感じても、それを真摯に受け入れ、自分の中で咀嚼しようという姿勢が無ければ、どこに言っても争いは起こるわ。それよりも大切なことは、今を、今と言う須臾をどうやって楽しむかということよ』
と説教を受けて大泣きして以来、永琳様を師匠と呼ぶようになって表情も豊かになったわ。全く、あの時の鈴仙ちゃんの顔と言ったら、鼻水まみれで…」




「ちょぉぉっと待ったぁ! それ以上昔のことは言わないでてゐ!!」
「あ、来た来た! 鈴仙ちゃん、実はかくかくしかじかで助けて欲しいの」
出て来たパワーカプセルを全てスピードアップにつぎ込んだような(新聞屋でもそんな極端なことはしないだろう)スピードで飛んできた鈴仙に、てゐは待ってました、といわんばかりの期待の視線を浴びせる。
「かくかくしかじか?」
「とりあえず、あれ」
てゐは自分を追っている刺客を指差し鈴仙に紹介する。
「妹紅さんじゃないですか。悪いけれど、今は真夜中なのでお持て成しは出来ません。姫様と喧嘩するのは構いませんが、本日は帰って貰えませんか」
「鈴仙か。悪いがあんたには用は無いんだ。お構いなく。ただ、私が用が有るのはここの薬師と輝夜だけだから、そこに案内してもらえると嬉しいけど?」

二人は一言交わして気付く。お互いのとるポーズが似ていることに。

「ね、妹紅。実は鈴仙ちゃんは、永琳様の弟子をやってるのよ。それに、便秘のオーソドックスかつ確実で即効性の有る治療方法と言えば…」
「座薬か!」
「だから、座薬ってゆーな!」












永遠亭、無間回廊の終点。
永琳と輝夜は、三人のやり取りをモニターで見ていた。
「相も変わらず、妹紅もイナバも面白いわねぇ」
「姫の閃輝暗点(ひらめき)は、何時も流石ですわ」
永琳が言う、姫の閃輝暗点(ひらめき)とは、妹紅に便が硬くなる薬を投与させたり、ウドンゲに十倍メッコールが美味しくなる薬を投与したりすることを指している。
「ふふ……そうでしょう? って、その無理矢理な当て字はやめなさいって。ここ地上では流行らないわ。それにイナバ達が真似しちゃうじゃないの」
事実、永琳を師匠と崇める鈴仙は変な当て字をよく使いたがっていた。
「私は姫の心的圧力(ストレス)を心配しているのですよ。たまにはイナバ達を使って遊ばれるのが良いかと思いまして」
閃輝暗点とは、偏頭痛の時に現れる視覚障害であり、偏頭痛とは一般にストレスが原因であると言われている。
確かに輝夜は、不死の体で有るにも関わらず、しばしば偏頭痛や虚血性心疾患による胸痛を訴えたり、その他自律神経失調症等々多くの病を患っていた。
それらは、輝夜に投与する為に月の頭脳八意永琳が調合した如何なる薬を持ってしても完治出来ないでいるのだ。
「そうねぇ。ま、もっと強力にイナバが狂気を垂れ流しにしてくれたら、これももっと阿鼻叫喚としてより面白いわねぇ」
前屈みな鈴仙達が写ったモニターを指差し、けらけらと笑いながら輝夜は永琳に要求する。

他者の狂気を操るという事は、自身の狂気を開放する事と紙一重である、とは永琳がウドンゲに教えた事であった。
永琳は鈴仙と初めて出会った時に、彼女のことをとても珍しく、強力な能力を持った兎だと思った。だから、優曇華の花にちなみ、その名を付けた。
鈴仙の能力、それは有機物だろうと無機物だろうと、実在しているものだろうとしていないものだろうと、兎に角ありとあらゆる全ての波動を対象とし、その物理量である波長や振幅、周期を操る能力なのだ。
ただ、でたらめにしか操ることが出来ないので、結果として狂気を操っていることになっているだけなのだ。故に、永琳と出会った時の鈴仙は自分の生み出す狂気を制御出来ないでいた。
その紙一重の前者と後者を使い分けるための理屈を教えたのが、永琳だったのだ。鈴仙は未だ完全に永琳の言うことが理解できていないため、今日の様に取り乱すと自覚せずに狂気を自分や周りに撒き散らすことになる。

こうした背景を踏まえて輝夜は永琳に過ぎたる教育を責めたのだが、永琳はそのことをあまり顧みずに
「まぁ、あそこを汚されたら大変ですから。雑巾がけだけで何日かかる事やら。私は姫のお体を管理する身ではありますが、同時にこの永遠亭の管理もやっているのですから」
と反駁する。
「そうだったの?」
「そうですよ」
「それじゃ仕方ないわね。まぁ、いい暇つぶしにはなったわ。あっちはイナバの名探偵がなんとか解決してくれるだろうし、私達はそろそろ寝ましょうか、永琳」
無間回廊という、謂わば密室に名探偵が現れたということは、つまり誰かが死ぬと言うことではないだろうか、と永琳は思ったが、それは口にしない事にした。





永遠の生は苦痛であるが、須臾の歓びはそれでも生をかけがえの無いものであると実感させてくれることを、輝夜も永琳も知っているのだから。
地上に着たばかりの鈴仙のように、月と地上の出身の違いなんていう些細なことで世界を敵と見方に分け、心を痛めるなんて甚だバカらしい。
輝夜を苦しめる病苦の正体、それは永遠の生によってもたらされる、膨大な過去に対する後悔という重圧に因るもの。その治療法は、須臾の歓びによって重圧を忘れることしかない。

「姫、今夜は一緒に寝ましょうか。私は姫のた……」
「嫌よ、おやすみなさい」
しゅーん…
昔のことは気にせずに、今を楽しく生きていたい…。
CEn
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コメント



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15.50藤正削除
賢者の次はPICOMAGIですか。
このまま行くと次は奈落少女達ですか?
一応言っときます、あのネタは洒落になりませんよ?