師走のある夜。マーガトロイド邸に霊夢と魔理沙が押しかけていた。
「もう年の瀬だっていうのに、あなたたちの食べっぷりを見てると全くしんみり出来ないわね」
「しんみりしたら栄養摂取能力が普通じゃなくなるぜ」
「全くね。年明けの大仕事に向けて今から蓄えないといけないし」
口々に言葉を並べるが不条理である。せめて自分たちで食事を用意してから言って欲しい。
「はぁ……蓬莱。席を外すからこの部屋を見張ってて。何か怪しいと思ったら即吊るすのよ」
「それが客に対する態度か。やれやれ、普通じゃない魔法使いはこれだから」
「全くね。毎回吊るされるほうの身にもなって欲しいもんだわ」
自業自得という言葉を身を以っても分からない馬鹿は本当に扱いに困る。
このまま相手をしていると部屋が壊れかねないので、さっさと部屋を出てキッチンへ向かう。
冷えてきたので酒を取りに行こうと思ったのだが、途中で後ろから大きな音がしたので急いで引き返す。
「何事!?」
「アリス、ちゃんを祝う日と聞いて……グフッ」
扉を開け放って部屋に入ると、蓬莱の手によって吊るされたのであろう母の姿があった。
「ちょ、蓬莱! その人を早く降ろしてあげなさい!」
指示を受け縄を切る蓬莱と、引力に引かれるまま床に落下する母。
「はぁ……アリスちゃんにその人って言われた……」
「そんなことで落ち込まないでよ……」
「母娘揃ってナイーブ過ぎるな。もっと普通の反応をお願いするぜ」
「全くね。そんなことじゃ幻想郷で生きられないわよ?」
きゅっ。とりあえず首を絞めて二人を黙らせる。
「あら? 誰かと思えばレイムにマリサ?」
「違うわよ。『普通人形』に『全く人形』」
「フツーウ……ゲフッ」
「マターク……ゴフッ」
「まぁ可愛い」
それにしてもこの三人。ノリノリである。
「で、最初に戻るけど今日が私を祝う日? 思い当たる節が全く無いんだけど」
「なんでも今日はクリスマスって言って、神の子を祝う日らしいの」
そんな話を聞いたこともあったが、うろ覚えなので本当かどうか判断しづらい。
「だから魔界の神である私の愛娘、アリスちゃんも祝われるべきかなと思って」
「やってられないな。私は家で普通に寝るとする」
「全くね。私も神社に帰ってゆっくり眠るとしますか」
「しつこいわね。いい加減にしないと吊るすわよ?」
そう言った途端に帰り支度を始める二人。その罰ゲームのような口調縛りを止める気はないようだ。
「去るもの追わず。聞いただけの慣習に則っていろいろ持ってきたから、今夜は母娘水入らずで楽しみましょうね」
いつのまにかテーブルに並んでいるワインにシャンパン、ローストターキーにケーキetc.etc.……。
「おっと霊夢。私はちょっと普通じゃない用事が出来たからこのまま留まるとするぜ」
そう魔理沙が言い終えるかどうかのタイミングで「おかーさーん」と言って母に抱きつこうとする霊夢一人。
だが、屈強な一房の毛が無情に延髄へと振り下ろされなす術もなく撃沈。南無。
「さて、静かになったところで……歌うのはハッピーバースディトゥーユー?」
「それは普通に違うと思うぜ」
「同感。それだけは違うわね。あと魔理沙、普通はいらないから」
「全くね。いい加減にしないと追い出されるわよ?」
「復活早々全くはいらないから。打撲痕に合わせて吊るすわよ?」
「今日のアリスちゃんは普通じゃなく嬉しそうね。全く可愛いんだから」
とりあえず母を吊るす。
「うぉ。アリスお前それは普通にひどいぞ……」
次いで魔理沙一丁。
「さすが魔界神の娘で死の少女。全くもって恐ろしい子ね」
トリオ完成。やったね。
「……真似したいお年頃なだけなのに……アフッ」
「今のは……普通って使うところだろ……エフッ」
「全くもってなら……セーフだと……オフッ」
それにしてもこの三人。依然ノリノリである。
母と霊夢は浮けることに気づいてからは平然としているが、魔理沙が青くなってきたので降ろしてやることにする。
「ゴホッ。う、歌は普通に飛ばしていいんじゃないか? おっと酒を忘れてたな」
「全くもって同意だわ。歌なんかより肉肉お酒肉ケーキ」
「全くもう。二人とも、私たちの分を残さないと普通に魔界行きだからね?」
吊るそうと思ったが縄のストックが切れてしまったようだ。この状況を縄なしでどう切り抜けようか。
「そもそも、どうして霊夢と魔理沙はそんなに普通と全くにこだわるの?」
「普通の魔法使いだから」
「色々なものが全く無いから」
「普通なところが全く無いから」
母まで便乗。どうしよう、色々な意味で泣きたくなってきた。主に霊夢のために。
「よし、アリスにも普通に何か考えようぜ!」
ちょっと嬉しいかもと思ったのも束の間、酒と肉とケーキを糧に生み出される単語はひどいものばかりだった。
「やれやれ。三人寄っても役に立たないときは何て言えばいいのかしら……」
「心外だな。よし、普通に『アリ』がつくものでいこうか」
「何その発想。大喜利と勘違いしてない?」
「全く、魔理沙はこういう時に頭が回るんだから頼もしいわね」
「え? 何? 賛同なの?」
「普通であればあるほどいいものだものね。全くもって恐れ入るわ」
「あーもうこれ以上付き合ってられないわ。疲れたから三人共もう帰って頂戴。ほら、おやすみなさいさようなら」
そう言った瞬間、三人がハッと顔を上げて目を輝かせ、
『
その日、私の拳は音速を超え深紅に染まった。そして三人は最後までノリノリであった。
こんなアリスも…大好きだぜ!
巫女と魔女と神の痛みがゆっくりになりっぱなし
まで読んだ。
>いいカオス
予想外の言葉ですが誉め言葉として受け取らせてもらいます。ありがとうございました。
えーっと、スラップスティックってことですよ……ね?
>こんなに強気なアリスが見れて嬉しいわ
>こんなアリスも…大好きだぜ!
率直な感想ありがとうございます。励みになります。
>こんなトリオ見た事無い、寧ろ縄のストックってwwwww
突飛な二次設定にも関わらず笑っていただけて嬉しいです。コメントありがとうございました。
>アリスに指差しながら『アリーヴェデルチ』と言ってる三人の姿を幻視した
私が思い描いたものと同じ光景を見てもらえたようでとても嬉しいです。
コメントありがとうございました。
>「おかーさーん」がツボったwwww
その部分は「やりすぎたかな?」と思った部分でしたが、笑ってもらえて安心しました。
コメントありがとうございました。
>そしてアリスの撲殺で
>巫女と魔女と神の痛みがゆっくりになりっぱなし
>
>まで読んだ。
痛みがゆっくり走る描写は長くなるので割愛しました……ってことで一つ。
コメントありがとうございました。