メリー・クリスマス!
お祝いの声が聞こえる。
どいつもこいつもおつむが足りない、今日は何の日? クリスマス!
だからそいつは何なのさ?
んなこた誰も気にしない。
皆でわいわいドンチャン騒ぎ、飲むもの飲んで食うもの食って、
それで楽しきゃいいじゃない!
~~
「こんばんわー、こんばんわー、こんばんわー」
「あああ、何? こんな夜更けに戸を叩くのは誰?」
「博麗さんはご在宅でしょうか。あ、いた」
「3テンポほど遅いわね。って、あんたか」
「ああお久しぶりで。夜分遅くに。お元気でしたか。これはこれは」
「支離滅裂だわ。挨拶ぐらいどれか一つにまとめなさい」
「あい」
「で?」
「えーと、博麗さんはご在宅でしょうか」
「判っててやってるから性質悪いわねぇ、貴方の場合。いるじゃない、目の前に」
「あ、いた」
「そこから仕切りなおしたのね。
で、何の用? こんな時間、こんな雪の夜に」
「博麗さん、今日は何日かご存知です?」
「あーこれだから舶来ものは。知ってるけど?」
「はい、12月25日ですね」
「? 違うでしょ? ってもう夜か、じゃなくて外か。
あああ、忘れてたわ。用件はそれ?」
「はい」
「っていうと、何がもらえるのかしら。そういう日なんでしょ?」
「はい? 博麗さんは誰から何かもらえます?」
「もう、疲れる話し方ねぇ。結局そっちなのか。
でも、見たところ、今日は貴方も元気そうだけど」
「元気ですよ。雪が白いですし」
「ふーん。去年一昨年一昨々年とそれで風邪引いてた人もいるみたいだけど」
「あ、それ、私ですね」
「ああ疲れる。話が進まないってば。
あんたが元気で、私に良い箒をプレゼントしてくれるんでもなきゃ、何なのよ今日は」
「ええ、就労時間中ですので、働いてもらいたいのです。
そうだ! 労働する権利を与えます。プレゼントです。ハッピーですよ。良かった」
「貰えるものは貰うけど、間に合ってるわ。
既に十分働いてるもの、今も、布団の温もりを増すのに奮闘中だったの」
「その仕事も素敵だけど、もっと人の為になります」
「私の為にならなそうだわ」
「申し訳ありません。拒否権は袋の中に入っていないです」
「そうなんでもかんでも・・・って、そういう妖怪か。
めんどくさいなぁ。大体、あんたの手勢はどうしたのよ。今日は来てないみたいじゃない」
「使トナカイたちはいません。何故なら今日は目出度い日だからです」
「スト? 人望無いわねぇ」
「私が労働しない権利を与えました」
「職権を誤って濫用してるじゃないの。
ほら、他にもいるでしょ? 家族とか、立ってる者は親でも使う」
「眠いそうです」
「三年寝マリアね。どうしてあの手の妖怪は皆ぐうたらなのかしら。
いて欲しいときにいないし、いて欲しくないときにもいないわよねぇ」
「なのです。ですので、他にお目出度そうな人を探していました」
「それで私にお鉢が回ってくるのね。全く誰よ、ろくでもないことを吹聴してるのは」
「一人だけ、一生懸命働いている使トナカイがいます。
私の言いつけを守らずに、悲しい。裏切りです。不真面目だ。いつまでたっても」
「なるほど、そいつか。
確かに困った奴ね。お札を直接プレゼントしたくはなるわ」
「今は南米で・・・」
「判ったわよ。で、報酬は? 今まで何もくれなかったんだから、その分もツケて欲しいところね」
「ああ、では、何かプレゼントします」
「その袋に入ってるようなものはいらないわ、役に立たないし。
紫やアリスなんかは欲しがるかも知れないけど・・・あいつらは悪い子だし」
「ああ、では、いいものをあげます」
「まさか三年連続で、あんた達一派に働かされるとは思わなかったけど。
三年連続で、何もくれないかもしれないと思わないと思ったら、大間違いよ。
去年は誤魔化されたけど、あれは結局、年始の仕事を増やしてくれただけだったじゃないの」
「ですね。では、具体的に」
「具体的に?」
「私の血を、2リットルほど」
「帰れ」
「ちょ、ちょっと待って! 誰の血だって!?」
~~
「次官。次官宛てに小包が届いてますけれど」
「私宛て? カップ焼きそばじゃないだろうな」
「はい?」
「物騒な包みということだよ。洒落が通じないね君も」
「さっぱり判りかねます。それに、中身は安全ですよ」
「ほう、どうして言い切れる?
いくらココの設備が万全と言っても、絶対なんてのはありえないのだからね」
「もう開けましたから」
「・・・君は常識が通じないね」
「いえ。次官の仰る通り、絶対は無いんですよ。
だから僕が毒見役になる。一秘書が木っ端微塵になったって」
「急にそういう事を言い出すなよ。判っているよ、そんなことは。
それにしたって遠慮が要ると言ってるんだ、私の尊厳にも、君のたった一つの命に対してもね」
「はぁ、申し訳ありません。兎に角、中身は安全です」
「そうか。ついでに訊くが、何だった?」
「ご自分で確かめてくださいよ、横着しないで」
「君は方便が通じないな。何だか判っているから訊いてるんだよ」
「そうなんですか? 実は、僕には見ても何だか判らなかったのですが」
「うん、やっぱりそうか。要するに、政治的な処置だよ。賄賂とも言うな」
「へぇ? あれが・・・ふぅん、そういうのも・・・あるのかな」
「何だったね? 大きなものか、小さなものか」
「いえ、紙一枚でしたけれど。手紙です、封筒に入った」
「紙? 紙だって? 爆弾でもない、ただの手紙か?」
「あ、これですよ。ほら、小さなメッセージカード」
「何だって・・・信じられないな、悪戯じゃないのか、誰からだ?」
「それが差出人不明で。だから僕が開けたんですよ。防護服装備で」
「・・・こっちに寄越してくれ。なんだか、厭な予感がするよ」
「安全ですってば」
「何だか判らなかったと言ったね。つまり君には言葉が通じなかったのだろう。
ならそれは、私の故郷からの手紙だよ。それで差出人が判らないのだとすれば・・・」
「すれば?」
「判らないよ。だから寄越せと言ってるのさ」
「はい、どうぞ。端でお手を切りませんように」
「子供じゃないのだから・・・うん、間違いなく、これは私の、母国、・・・」
「次官?」
「・・・」
「どうなさったんです、次官」
「すまないが、少しの間、席を外してくれないか」
「はい? しかし、職務がありますが」
「いや、いい。後にしたまえ」
「でも、間も無く次官にご面会の方が・・・」
「責任は取るよ。頼む。ほんの数分でいいんだ。頼むよ・・・」
「・・・判りました。では、ご用が済んだら、お知らせください。外におりますので」
「ああ・・・ありがとう」
「いえ、その・・・手紙は・・・いえ、なんでもありません」
「後で、言える範囲までは、教えるよ。さぁ、行ってくれ」
「はい・・・では・・・」
「今日は・・・そうか、クリスマスか・・・」
「じ、次官!」
「な、何だね! 後にしてくれと言ったじゃないか! 君は意味が通じていないのか!?」
「外、外見てください、外!」
「こら、落ち着きたまえ! 子供か、君は!」
「外です、ほら!」
「全く何だというんだ・・・ん、雪か・・・、おお、雪か!
これは珍しいなぁ、この国でも降るものかね、冬には」
「いえ、全然です! 雪って、こういうものなんですねぇ!」
「うん・・・そうか、しかし君、そんなことで、私の言い付けを破ったのかね。
気持ちは判らないでも無いが、何と言うか、こう・・・いや、いいか」
「ご免なさい!」
「まぁ、君の子供らしいところを初めて見せてもらった気がするし、いいよ」
「いやー、本当に雪が見れるだなんて・・・。
いるんですねぇ、サンタって、本当に!」
「ん、ん? サンタだって? もしかして、君・・・君もなのか」
「靴下には、入りきりそうもないですけれどねぇ・・・はー」
「そうか・・・じゃあ、私も、そうしんみりするもんじゃなかったのかな。うん」
「あ、次官。用事は、雪だけじゃなくてですね」
「なんだそうか。それを先に言いなさい。頭ごなしにした私が馬鹿みたいじゃないか」
「もうしわけないです。それでですね。
次官の、今日から明日にかけてのご面会や会談のお仕事、全てキャンセルがかかったみたいなんです」
「な、何? どういうことだ?」
「それが、詳しい理由はご説明いただけてないようなんです、急用ができたとかで・・・」
「大事じゃないか・・・雪より・・・いや、急用?」
「今、うちの情報部とかが物凄い勢いで調べまわってるみたいなんですが、もう何が何だか・・・」
「そうか・・・判った」
「あ、ですからその、少しばかり予定に空きができてしまったのです。
勿論、その埋め合わせの為に、いずれ忙しくはなってしまうと思いますけれど」
「うん、いや、うん。・・・そういうことなんだな。判ったよ、よいしょっ、と」
「ええっと、次官? その、どうして外套を羽織られるんです?」
「何、今日はクリスマスさ。雪が降っているものだから・・・、
教会にでも行こうかと思ってね。時間が空いたのだし、平気だよ」
「えっ? でも、次官はブディストでしょう? ミサに参加したことなんてあるんですか?」
「いいんだよ、気の持ちようで。ここらに寺なんてありゃしないんだ、構わない」
「お寺・・・お参りで? どうして急に・・・さっきのお手紙ですか?」
「そういうところは鋭いな。そうだよ。父からの手紙だった」
「お父上って、小説家の。あれ、でも」
「ああ、今年の春先に亡くなったよ。
けれど、あの無骨な字は、見間違えようが無い、父の字だった」
「じゃあ、ご生前に書かれた?」
「それが妙なんだなぁ。数年間入院生活で、筆なんて持てる体じゃなかった筈なんだよ。
なら代筆かっていうと、どうも内容も変だ。
そっちは元気かとか書いてある。私がこっちに来たのはついこの間、夏頃だったってのに」
「それは・・・ええと」
「父の作品の元原稿は、母の意向で全部焼いてしまったんだな。
手紙はメールで済ませるし、年賀状なんかも書かない人だった。
だから筆跡を後から知ることはできない。記憶してるのは家族と長く担当されてた編集者さんだけだ。
誰か一人でも、私にこんな悪戯をして得をする人がいるだろうかね。うん、これは反語表現だな」
「となると・・・」
「最後にね、書き出し人と、差出人が書いてあったよ。前者は父、後者は、サンタさ」
「サンタクロース? やっぱり・・・悪戯では?」
「そうかもな。けどね君。サンタのすることと思えば、腹も立たないよ。
南国に雪を降らせるんだ。霊界からの手紙くらい、造作も無いと思わないかね?」
「そんな・・・」
「きっと各国のお偉いがたも、そう思ったんだよ。
だから、今日明日は休日にしようじゃないか。それに・・・」
「これらがプレゼントだとするならだね。
どうやら君も私も、まだまだ良い子でいられるということなんだよ。嬉しいじゃないか、んん?」
~~
「へーっくしょい! ただいまー」
「いちいち一匹帰ってくるたびにお帰りって言わせる気? 飽きたわよ流石に」
「ちっ、面白くない霊夢。折角手伝ってあげてるのにさぁ」
「というか、せめて長袖ぐらい着なさいよ。見てて寒々しいのよ、この雪の日に」
「ふん。風邪(ふうじゃ)なんぞにへこたれるほど、鬼はやわにできちゃいない」
「頭寒足熱も知らないの? 怒り心頭でとてもじゃないけど寝れないわ」
「寝ないでよー。お仕事なんだから」
「私は請けてないってば。萃香が欲ボケしたんでしょうに」
「またぁ。霊夢も飲みたいくせに、あの人の血」
「なんで私がレミリアみたいな真似しなくちゃならないのよ。
あんただって、普段血なんて飲まないじゃない」
「血吸いコウモリと同じにしないで!」
「何が違うんだか。血でしょう?」
「そりゃあ血だけど・・・ああ、知らないのね。それとも、霊夢はワイン嫌いだったかな?」
「別に、好き嫌いは無いけど。ぶどう酒でしょ? 普通に飲むわよ」
「じゃあ、折角の機会を棒に振ることはない。
魔理沙なんかも嫌がるかもしれないけど、多分、あの人の血は滅法美味しいよ」
「だから飲まないって」
「やっぱり、知らないんだ。
あの人の血はね、ぶどう酒からできているの。
勿論今はただの血だけど、私の力でぶどう酒に戻すことが出来る」
「へー」
「ポリフェノールいっぱいの、2000うん年ものよ。美味しくない道理が無いわ!」
「それ、腐ってない?」
「腐食は神の業よ。鬼の血だって、人間を何倍も強くする。
一神教の神なら、文字通り唯一無二の至高の味が得られるの! どう?」
「やっぱりいらないわ。雪見には洋酒よりも他のお酒がいいわね」
「勿体無い・・・まぁ、私が全部飲めばいいか。
あの血は、心配性の西洋の鬼には、ちょっと刺激が強すぎるからねぇ」
「仲悪いわね、あんた達。
にしても、ナザレさん、そんなもので動いてるのね。道理で変人だと思ったわ。
まぁ、血なんて通ってない妖怪もいるけど」
「霊夢が言う? そういうこと」
「何?」
「何でもないわ! しかし、忙しいのねぇサンタって」
「三太? 誰よ」
「職業よ、あの神の。こんなバイト、まともにはやってられないわ」
「そんなに大変? 適当に、ほいほい物配ってれば良かった気がするけど」
「でも、外の世界じゅうの良い子に配るのよ? 大変だわ」
「? あー、もしかしたら、騙されたわね、萃香」
「へ?」
「鬼は正直者ねぇ。世界中、なんて真に受ける奴も、実行する奴も、あんたくらいだわ」
「えー・・・」
「トナカイだってマリアだって、世界中配りに行くほど酔狂じゃない。
子供が捏ねる駄々になんて、見える範囲で付き合ってあげればいいのよ」
「そんなー。今も、一所懸命に、世界中飛び回ってる私に何て事を言うのよー」
「まぁ、いいんじゃん? それこそ、あんた自身が嘘をつきたくないのなら、そうするしかないわけだし」
「そうだけど、実績があると思ったからやるわけで」
「鬼の力を知らしめる、いいチャンスだとでも思っときなさいよ」
「巫女がそういうこと言ってていいのかなぁ」
「何言ってるのよ。どうして私が今年引き受けなかったと思うの?」
「?」
「私も、することがあったからよ。
ナザレさんが来るまで、すっかり忘れてたけど」
「ますます判らないわ。霊夢、何か用があったの?」
「だからね、つまりは」
「めりーくりすます、太古の鬼神」
「め、メリークリスマス、最新の巫女」
「・・・あーっ、そういうこと? 霊夢が? 幻想郷の?」
「ええ。あいつが言った通り、これほど簡単で、感謝される仕事は無いわ」
「なるほどねぇ、でも、プレゼントなんてあったの?」
「霖之助さんとか、魔理沙とか、輝夜の所で見繕ったわよ。あとはお札とか、適当に」
「あんまり変なのばっかり貰ってもなぁ、喜ばないと思うけど」
「? 喜ぶ?
何を言ってるの、クリスマスって、人の家にショッキングなものをこっそり持ち込んで驚かすイベントでしょう?」
「いや、・・・違うと思うけど」
「合ってるわよ。
去年のも一昨年のトナカイも、驚かすだけ驚かして帰ってきたんだから」
「・・・」
「普段、驚くことの少ない幻想郷の人間にとっては、なおさらよね。
あーあ、疲れた疲れた。お茶でも飲んで、あとは寝るだけね」
「うーん・・・」
「とか、霊夢は言ってたんだけど」
「ああ、仕方ないんじゃないかしら、それはむしろ大正解よ」
「そうかな」
「だって、自分の誕生日なんて覚えてる妖怪は珍しいわ。私も昔過ぎて忘れちゃったし。
誕生日を祝うなんていう習慣が、そもそも幻想郷には無いのよ。それに付き合えってのが無理ね」
「ああ・・・そうかもねぇ」
「それに、何よりね、萃香」
「ん」
「あの子は多分、生まれてこの方、本当に驚いたことなんて無いの。
そういう衝撃を受けない、無限に軽いフラクタルを生成する機構がある。
驚かすっていうことが、本当の意味では理解できないのよ。判る?」
「ああ、だから誰とも仲が良いように見えるのよね。妖怪を恐れないし、一人を寂しがらない」
「あの長い名前の彼も、他の妖怪も、私も貴女も、そういうところが好きなのよね?」
「まぁ、そうねぇ」
「そんな霊夢が、人を驚かそうとするっていうことはよ、萃香。
自然がそうであるように、外界がそうであるように、幻想郷も不変じゃないということなの」
「そりゃそうね。鬼だって神だって、いつまでも鬼だったり神だったりしてられるわけじゃないわ」
「そう、悪魔だって亡霊だって、いつまでもそうじゃいられない」
「隙間だって、いつまでも空いていられるわけじゃない、ものね」
「言うじゃない。でもその通りよ。私も、霊夢に驚かされたもの」
「紫が? へぇ、何をされたの?」
「だから、家に入られたのよ。とうとうバレちゃったわ。良く判らないキノコが枕元に」
「いや、それは自然発生したんじゃないの? 不摂生してるから」
「そうだとしたら藍の怠慢ね。私は式神想いな主だもの、信頼してるわ」
「あんたの狐はあんたの家がどこにあるのかは知らないじゃないの。呼ばれたら行くかもしれないけど」
「もう、判っていないわねぇ、萃香。大間違いよ」
「判るように喋れとは言わないけどさぁ・・・」
「どんな些細な、例えば少し厭な出来事ことでも」
「サンタのすることと思っておけば、幸せになれるのよ。自分がまだまだ、良い子でいられるんだと、判るからね」
その年でサンタさん信じt(スキマ
まぁ、純粋っつーのは良い事ですよ
サンタのおっさん・・・
毎年楽しみにしてましたが、今回のは特に好きw
良いプレゼントを本当にありがとうございますw
ちょっとぐっとくる場面もあるし。
あ、私には配達に来たそのちび萃香をそのままいたd(岩
そして、今年のお年玉は無しですか!?(ずずぃ
ほぼ一年遅れでめりーくりすます。