Coolier - 新生・東方創想話

突撃!香霖堂へよーこそ!

2006/12/20 10:26:39
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「なぁ、香霖」
「ん……どうかしたのかい魔理沙?」
 霧雨・魔理沙と森近・霖之助は炬燵に入って向かい合っていた。
 霖之助の手には一冊の小説が、魔理沙の手には幾つもの蜜柑がある。
「……どうして蜜柑って四角じゃないんだろうな」
「……食べ物を玩具にしない」
 霖之助が小説から顔を上げて見れば、蜜柑を縦に積み上げようとしている魔理沙の姿。
 顔を上げた時に僅かに炬燵が揺れたのか蜜柑の塔はあっけなく崩れ去った。
「ちぇー」
 つまらなそうに唇を尖らせる魔理沙。
 霖之助は其れを見て苦笑すると、おもむろに炬燵から出て立ち上がった。
「?どうしたんだ、香霖?」
「面白い玩具がある。暇なら遊ぶだろう?」
 振り向いて魔理沙を見れば、その言葉を聞いたせいか目を輝かせている。
 よっぽど暇だったのだろうか。
「おー、やるやる!なんだなんだ?」
「遠い大陸のゲームらしくてね。名を【崩壊塔】というらしい」
「……なんか面白くなさそうな名前だな」
 表情を一片させ、半目で見てくる魔理沙。
 霖之助は其れを見て、なにが可笑しいのか口元をニヤリと歪める。
「ふふふ、それはこれを見てから言うんだね?」
「?」
 霖之助が棚から取りだしたのは何の変哲も無いただの木の棒だ。
 バラバラに解体できるのか所々に線が入っているが、端から見ればただの積み木みたいなものだ。
 しかし、これはそんじょそこらの積み木とは訳が違う。
「なんとこれは、どれだけ壊してもいくらでも再生する積み木だったんだよ!」
「ますたーすぱーく」
「うぼぁ――ッ!?」
 かなり出力を弱められた閃光が妙に濃い画調になった霖之助を包んだ。


   ○


 結果から言って、積み木は無事だった。店は半壊しかけたが。
「おー、本当に壊れないんだな。蓬莱の薬でも吸ってんのか、これ」
「僕は君に手加減という言葉を教えたい」
「手加減したぜ」
「そうかい」
 妙にむくれた黒コゲの霖之助を無視しつつも魔理沙は【崩壊塔】とやらに目を向ける。
 やはりなんの変哲も無いただの木の棒だ。
 しかし、魔理沙の魔術を喰らっても傷一つ付かないトコロから見て霖之助の話は本当なのだろう。
 これは面白い。
「なぁなぁ、香霖。これどうやって遊ぶんだ?」
「あぁ、これはだね―――」
 そんなこんなで、あの胡散臭い妖怪から譲り受けたとかなんとか話し始める霖之助。
 話の所々になんとなくノロケっぽいところとか色々混じっていた気もするが魔理沙は気にしない。
 むしろ、この目の前の積み木モドキ――【崩壊塔】の方が今は気になっていた。
「へー、それじゃあ、二人でやって、先に崩した方の負けってヤツなのか」
「まぁ、簡単に纏めるとそんな感じかな?」
「じゃあ、早速―――」
「すまない。霖之助殿、いるだろうか?」
 ふと女性の声が店内に響いた。
「おや、お客かな?」
「あの声は慧音だぜ」
「君は随分と記憶力がいいんだな」
「良く来る客の声ぐらい覚えておけよ。ま、早く行ってこーい」
 とっとと用事を済ませてこいとばかりに手を振り、すぐさま視線を戻して【崩壊塔】を弄り出す。
「帰ってきたらすぐやるからなー?」
「はいはい」
 霖之助が行くのを見送りもせず、輝きだしそうなほど楽しげな笑顔で【崩壊塔】を弄り続ける魔理沙。
 なんだかんだでまだまだ子どもなのであった。


   ○


「あぁ、霖之助殿。良かった、まだ開いていたか……」
「いらっしゃい。どうしたんだい、慧音さん?」
 店と自宅の境界線である暖簾を潜りつつ霖之助は目の前に立つ少女へと目を向けた。
 安心しきった表情。
 森に迷い、村の光を見つけた子どもの様な表情だ、と慧音の表情を判断する。
 霖之助と同じ色の長髪と頭に乗せた奇妙な形の帽子が特徴の霖之助よりも頭一つ分小さい少女。
 その少女――慧音はよっぽど急いでいるのかすぐさま表情を真剣なものへと切り替える。
 そして、霖之助へと足早に歩み寄り―――、
「良ければ今日から一週間ほど、泊めてくれないだろうか!?」
 唐突に、爆発危険物指定を喰らいそうな一言を放った。
 奥の部屋で盛大に積み木をぶちまけるような音が聞こえたが気のせいだろう。
「はぁ……落ち着いて。いきなり泊めてくれだなんて、何か理由が?」
「あ、あぁ、すまない。いや実は……」
 慧音は少し霖之助から離れるとゆっくりと事情を話し始めた。


 友人とちょっとした賭けをしているので暫く匿って欲しい。
 彼女の話した内容は大体そんなところだった。
「賭け?」
「まぁ、大した事は無い。一種の鬼ごっこの様なものでな」
「鬼ごっこ、ね」
 霖之助は鼻の上の眼鏡を指で持ちあげる。
 鬼ごっこと言うと真っ先に思い出すのはあの博麗神社に入り浸っている鬼の少女だ。
 しかし、この目の前の少女があの鬼と賭けをするという事はまず無いだろう。
 というよりも、あの生真面目で有名な上白沢・慧音が賭けをする。
 それだけで既に驚きに値するだろう。
「まぁ、私の友人に喧嘩っぱやいのが居てな……」
 思考に耽っていると慧音は遥か遠くを見るような目で店の天井を見上げた。
 なんだか目に光がなく、今にも天に還りそうな勢いだ。
「ソイツが喧嘩する度に家は燃えるわ。書物は燃えるわ。髪は燃えるわで……」
 うふふふ、と黒い笑みを虚ろな表情で漏らす慧音。
 ぶっちゃけかなり恐い。
 霖之助が身の危険を感じて身を引くと、慧音はいきなり笑顔で霖之助へ向き直った。
 なんだか霖之助の頭の中で警報が鳴り響いている。
 曰く、ピンチだと。
「一週間逃げ延びれたら暫く喧嘩を自粛すると言う約束をとりつけたのだ」
「それで、なんでまた僕の店に?」
「アイツが襲ってきた時、一番被害が出ても大丈夫そうだったからな」
「直球ー!?笑顔で言ってるけどメチャクチャ酷くないかい!?」
 叫ぶ霖之助を無視して、疲れたように溜息をつく。
「まぁ、里の方は霊夢に任せてある。住み込み、衣食住付きと言ったらすぐに来たよ」
「怠慢巫女め……って、博麗神社の方はどうするつもりなんだい?」
 霖之助は肩を竦め、やれやれといった感じで、
「流石に開けっ放しはまずいだろう」
「仙人亀と護り神に任してきたと言っていたから大丈夫だろう」
 老人亀と祟り神の間違いじゃないだろうか、と霖之助は店の窓から博麗神社の方向を見た。
 特別な目を持たない霖之助にも、気のせいか妙に空気が淀んで見える。
 あれで大丈夫か博麗神社。
「まぁ、そんなわけで泊めてくれ」
「君は最近、傍若無人な奴等に影響され過ぎていると思うのは僕の気のせいだろうか」
「駄目か……?」
「上目遣い攻撃なんて誰から教わったんだ」
「女の武器だってもこーが言ってた」
「教える立場だろう、君は」
 半目で突っ込む霖之助と対して笑顔の慧音。
 見た目的にはほのぼのなのだろうが、空気だけは妙にピリピリとしている。
 最後には音を立てて火花まで散り始めた。
 長い沈黙。
 それを先に破ったのは慧音の方だった。

「ダメカナ?」

「ダメダヨ♪」

 凄まじく良い笑顔の二人。
 一瞬だけ緩んだ空気だったが、すぐさま凍りつき、更なる沈黙を呼びこんだ。
 間。
 そして、何かを決意したのか、唐突に真剣な目付きに変わる慧音。
 
「掃除!洗濯!最後に――乙女の家庭料理でどうだぁーッ!」
「な、なにぃ!?掃除洗濯はともかく、最後のは……大きく来たね、慧音君!?」
「ふっ、伊達や酔狂で里の防人をやっているわけではない!」
 叫ぶ慧音。
 防人は関係ないが、確かに凄い気迫だ。
 霖之助は後退りつつ、緊張か焦りか一筋の汗を流す。
……拙い!このままでは僕の大人としての尊厳とかその他諸々が危うい……ッ!
 歯を噛み閉めるがそれだけでは状況は好転しない。
 何か策を考えなければ、と視線だけを動かした所で、
「……」
 ジト目で暖簾の隙間からコチラを見やる魔理沙を発見した。
「ジーザス!」
「ははは、諦めたか!さぁ、我が知力の前に屈するが……は―――」
 慧音も固まった。
 どうやら暖簾の隙間から見える魔理沙に気づいたようだ。
 此処で良い子の皆にもわかるように慧音の心境を説明するならば、
 テンションが上がりすぎて調子に乗って普段はしなかった様な馬鹿な事をやって
 後でやたらと羞恥心に苛まれる事態に陥るようなあれだ。
「……うん。まぁ、ゆっくりしていくと良い……」
 霖之助の瞳はもはや慧音を拒んではいなかった。
 むしろ親が子を見るような優しい瞳になっている。別名、生暖かい目。
「あ、うん……」

 慧音は後にこう語る。
『人間、謙虚さが必要な時は多々ある』


   ○


「で、結局しばらくこの店に泊まる事になったのか」
「その通りで御座います、姫」
 何故か魔理沙の目の前に土下座している慧音と霖之助。
 なんでこうなったんだろうかと言えば、魔理沙の表情を見てみればわかるだろう。
 無理に笑顔を作ろうとしているのかひくついた口元と額に浮いた青筋。
 下手に動けば恋色ビームで焼かれるのは必死だ。
 その辺は慧音もわかっているのか、キチンと合わせてくれている。
 やはり持つべきものは友だろう。
「……いや、まぁ、一週間なんだ。許してくれ」
「なんで私が許すんだ?此処は香霖の家だぜ」
 遠慮がちに言う慧音に答えた後、ふと何かを考えるかのように手を顎に当てて考えるポーズをとる魔理沙。
 それを見て慧音と霖之助は訝しげな表情を作るが、すぐにその顔も青ざめた。
 魔理沙が浮かべたのは、嫌そうな顔でも怒りの表情でもない。
 笑顔。
 まっことに恐ろしい程純粋な笑顔。
 人は腹黒くなり過ぎると逆に純粋になると言うが、まさにそれだ。
 黒は何者にも侵されない色って誰かが言ってた。
「んじゃ、私も暫くコッチに泊まるぜ」
「って、なんでそうなるんだ!?」
 魔理沙は、ツッコミを入れる霖之助に対して笑顔で、
「何か文句ある?」
「ごめんなさい、ありません」
 即座に土下座モードに戻る霖之助。
 それにしてもこの香霖ヘタレである。
 だって仕方ないじゃない、昔の口調で言われたんだもの。
 等と小さかった頃の魔理沙を思いだしつつ現実から逃避するが、そこまで現実は甘くない。
 幸せって言う字から一本線を抜くだけで辛いになるんだ。
「んじゃ、色々用意してくるからちょっと行って来るぜ」
「あ、あぁ」
 そう言うが否や、魔理沙は壁に立て掛けてあった帽子と箒を手に取ると店を出て行く。
 玄関が開け放たれるとすぐに魔理沙の姿は見えなくなり、後には寂しく冷たい風が吹いた。
「霖之助殿も大変なのだな……」
「それは言わない約束さ……」
 霖之助は、困ったような笑みを浮かべつつ扉から見える寒空を見上げた。
 冬真っ盛りといった感じだが、たまにはこういう賑やかなのも良いだろう。

 しかし、まさかあのような事態になろうとは――霖之助はまだ知らない。
 

    ○


「いよう、香霖。ただいま帰ったぜ」
「お邪魔します」
「おかえり、魔理沙、とアリスさん?」
「いやー」
 清々しい笑顔を浮かべて頭を掻く魔理沙。
 其の横には、魔理沙と同じ金色のセミショートの少女が立っていた。
 ただし魔理沙とは違い、その身振りからは気品というものが感じられる。
 しかし、その気品もも何故だか二人は煤の様なもので汚れて台無しになっていた。
「間違えてアリスの家に突っ込んじまった。というわけでアリスも泊めてくれ」
「えと、この馬鹿が言い始めたんですけど、いいんですか?」
 ふむ、と霖之助は顎に手を当てる。
 もう既に二人泊まる事が確定している。
 確かに香霖堂は何度か色々な者の手によって改修され、一人で住むというには広い程だ。
 その改修の間には聞くも涙、話すも涙の壮大な破壊劇があるのだが、今は割愛しておこう。
 霖之助は、それを踏まえた上で謙虚な態度のアリスを見て暫し考える。
……まぁ、もう二人も三人も一緒か。
 安易な考えだが、取り敢えずは頷きを一つ。
「まぁ、どうせだしゆっくりしていくと良い。女の子同士の方が楽しく過ごせるだろうしね」
「香霖は無口だからな」
「静寂を愛する男と言ってくれ」
「じゃあ……家が直るまで厄介になります。宜しくお願いしますね」
「まぁ、硬くなるなよ、アリス」
「アンタが私の家を壊したせいでしょーが!?」
 お辞儀した時の気品はどこへやら、魔理沙に向かって抗議を始めるアリス。
 其れを見て、やはり幻想郷に住む少女達はこうでなくては、となんとなく納得してしまう。
 ちなみに魔理沙は現在進行形でアリスに首を締められて天に昇りそうな感じだ。
「む、おかえり、魔理沙。っと、アリス殿も一緒か」
「あら、慧音さん?」
 声に気づいたアリスは魔理沙の首を締める手を緩め、暖簾を潜って来た慧音へと視線を向けた。
「まさか、アリス殿も?」
「え?アナタもこの馬鹿に家壊されたの?」
「いや、壊されてないが少々事情があってな……というかそろそろ魔理沙が死ぬぞ?」
「あら、本当」
 アリスが手を離すと同時に地面にドサリと音を立てて倒れ伏す魔理沙。
 同情するわけではないがなんだか不憫だ。
「それじゃあ、これから宜しく頼むよ、アリス殿」
「えぇ、こちらこそ宜しくね、慧音さん」
「……」
 和やかに挨拶をする二人。
 その足元では白黒の魔法使いが目を白くして倒れていた。
 霖之助は微笑みつつ、呼んでいた小説のページを捲る。
 騒がしくも和やかで楽しい冬の日々の始まりだった。


   ○


 夜。
 香霖堂周辺を包む暗闇に混じって一人の少女の影が空を躍る。
「午後八時なのかー」
 時刻は午後八時を告げていた。

「おや、もうこんな時間か」
「え?あらまー……」
 各々読んでいた本から顔を上げる霖之助とアリス。
 ところでアリスの読んでいる本『正しい釘の打ち方』というのは趣味だろうか。
 手伝いをするという事で一緒に本を読みつつ客を待っていたのだが、今日はどうやらお開きのようだ。
「お客さん、一人も来ませんでしたね」
「そうだね。ところでアリスさん」
 本を閉じると同時に店と家の境、そこに腰掛けたアリスへと椅子に座ったまま体を向ける霖之助。
「?なんですか?」
 キョトンとした表情でアリスは首を傾げた。
「敬語は――」
「そう。なら良いわね。んー、よかった。やっぱりこの口調の方がスッキリするわー」
「……」
 やー、と口を開けたまま霖之助の時が止まる。
 どうやら目の前の少女は中々に魔理沙に近いものがあるらしい。
 類は友を呼ぶとは誰の言葉だったか。
「おーい、二人ともそろそろ夕餉の準備が出来たぞ」
「あら、それじゃあ行きましょうか、香霖さん」
 慧音の声に立ち上がるアリス。
 前言撤回。口調は変わったものの物腰はそのままの様だ。
 魔理沙と同じように扱ってすまなかった、と心の中で霖之助は土下座する。
「それでは……」
「おーさむー!寒い寒い寒くて死ぬぜー。炬燵ー」
 突然扉をぶち上げて店内に遠慮なく入りこんでくる白黒。
 首にマフラーを巻いた姿だが、その特徴的なトンガリ帽子は間違いなく霧雨・魔理沙だ。
 暴君魔理沙は靴を乱暴に脱ぎ捨てた後、アリスの横を通って居間まで走っていった。
 どうやら炬燵に直行したらしい。
「あー……行きましょうか?」
「……そうだね」
 玄関を閉めて溜息をつく霖之助に苦笑しつつ声をかけるアリス。
 ある程度騒がしいのは覚悟していたが、約一名局地的台風の様な子が居るのを忘れていた。
 それを言ってしまったらいつも騒がしい事になってしまうのだが。
 アリスの後ろについて居間に行くと炬燵のに入った魔理沙がコチラを見上げた。
 ちなみに配置は居間の入り口から見るとすぐ正面。向かい合う形になる。
「遅いぜー」
「一回締め上げるわよ、コラ」
 笑顔で返すアリス。
 魔理沙は顔を蒼くしてガクガクと震えていた。
 霖之助はそんな二人を見てから苦笑しつつゆっくりと炬燵に入る。
 位置的には魔理沙の正面と言った所だ。
「さりげなく一番被害が少なそうな場所取ったわね……」
 アリスの低い声が聞こえたが霖之助は気にせず台所の方を見る。
 台所の方では割烹着に身を包んだ慧音が味噌汁のようなものの味身をしていた。
 霖之助はそれを見て頷きを一つ。
「やはりあれは良いものだ……っ」
「香霖、エプロンなら私も着てるぞ。ほれほれ」
「和風とか好きだからー!」
「貴女達何やってるの……?」
 呆れた様なアリスの声に我に帰る霖之助。
 危うくアッチの世界に素っ飛んで行ってしまうところだった。
「アリス君、君は命の恩人だ……ッ!」
「やっぱり魔理沙の兄代わり―――ッ!」
 涙を流してボケる霖之助に対して劇画調になって後退るアリス。
 雰囲気的には『香霖、恐ろしい子……っ!』と言ったところだ。
「僕にだって、ボケたくなる時ぐらいある……」
「「な、なんだってー!?」」
 アリスと魔理沙の声が重なる。
 なんだかこの居間がどこかのミステリー研究部の部室になってきたような気がした。
「なにをやっているんだ、お前達は」
「理由はいいからメニューを言えぇ―――ッ!簡潔に、簡潔に五文字以内でだ!」
「鍋」
「一文字!?」
 続いて勢いだけでボケる魔理沙をケロリとした表情で受け流す慧音。
 相変わらずの割烹着姿が輝いて見えた。
 その手は大きめの手袋のようなもので包まれており、その手で鍋の取っ手を掴んでいた。
「白米もきちんとあるぞ」
 霖之助がそこら辺から引っ張り出した新聞の上に鍋を置く慧音。
 其の時どこかで烏天狗が涙を流したような気がした。
 それを置いてすぐ、慧音は再び今から続く台所へと戻って行く。
 暫くして慧音は米が入っているであろう櫃を持ってきた。
「おー、ホッカホカー♪」
「こら、魔理沙左右に揺れない。行儀悪いわよ」
「いいじゃないか、これくらいー」
 魔理沙の左隣に座るアリス。
 端から見ているとなんだか魔理沙のお姉さんのようだ。
 となると慧音はお母さんだろうか。
「コラ、お前等、少しは静かにしないか。此処は紛いなりにも霖之助殿の家だぞ」 
「紛いなりにもって、どういう意味なのか問い詰めたくなったのだが」
「気にするな」
 貴女も大概僕が家の主と思ってないと思うのは気のせいでしょうか、と霖之助は密かに涙した。
「で、鍋なんだが……残ってる材料を使って良いと言われたので全部ぶち込んでみた」
「乙女の家庭料理は!?」
「なんというか……豪快な料理ね……」
「あぁ、漢気みたいなもんを感じるぜ……」
 叫ぶ霖之助。
 慄く魔理沙とアリス。
 ちなみに霖之助は燃え尽きたが如く真っ白に、しかし画調が濃くなっている。
「燃え尽きたぜ、とっつぁん……」
「霖之助殿」
「……?」
「乙女の家庭料理とは……心だ!」
 くわっと目を見開いて叫ぶ慧音。
 ぶっちゃけ勢いだけの言葉であったが、傷心中の霖之助にはそれが酷く響いた。
 震えながらも拳を握り締める霖之助。
 その表情は何かを悟ったかの様に清々しい感じがした。
「そ、そうだ……大事なのは心の篭った料理!」
「香霖、この鍋。私が取ってきた正体不明のキノコが入ってるんだが」
「え?」 

 霖之助は灰になった。


   ○

「それじゃあ、私らは風呂に入ってくるぞ、香霖」
「三人で入るのかい?しかし、家の風呂場は其処まで広く――」
「秘密で外に作った露天風呂を使うぜー」
「何時作ったんだ!?」
「秘密だぜー」
「それでは、暫し失礼する」
「それじゃ。……覗いちゃだめよ?」
 そう言いつつ魔理沙は慧音とアリスを引き連れて廊下を歩いて行った。
 去り際にアリスが茶化すように言って来るが、霖之助とてそこまで落ちぶれてはいない。
 これでも心は紳士なのだ。
「さて……少し睡眠をとらせて貰うとしようかな」
 今日はなんだかんだで魔理沙の襲来から慧音、アリスと続いて中々に騒がしい一日だった。
 そんな事を思いつつ笑顔で廊下を歩く霖之助。
 慣れた廊下は暗いが、目を閉じていても自分の部屋に辿り着ける霖之助にとっては苦でもなかった。
『ほれ、アリスもぬげー』
『コ、コラ、やめなさい!』
『風呂場では―――』
 なんだかどこからか桃色な叫びが聞こえたがあの子には羞恥心というものはないのだろうか。
……ないんだろうなぁ。
 と子どもの頃から彼女をしる霖之助は思う。
 そこも含めて裏表の無さが彼女の好かれるところであるのは確かなのだが。
 などと考えているうちに自分の部屋の前に着いてしまった。
 霖之助はすぐさま扉の取っ手に手をかけ――、

 開いた先に何故か桃源郷が広がっていた。
 簡潔に言えば色々大変な姿の少女達がじゃれあっていた。

「……」
「「「………」」」
「お……」

「魔砲―――」
「魔符―――」
「光符―――」

「お約束グゥレイトォオオオオオ――ッ!?」

「ファイナルスパァァァァァアアアアアクッ!」
「アーティフルサクリファァアアアアイスッ!」
「アマテラァァァァアアアスッ!」

「不可抗力だあああああああああああああああ!?」

 見事なまでの連携に焼かれ爆破され、最後にはレーザーにまで撃たれる始末。
 なんで僕の部屋が露天風呂への入り口にとか思う前に、反射的に香霖は叫んでいた。
「よりにもよって、爆破オチかぁー!」
 叫びつつ霖之助は星になるのであった。


   ○


「あら、流れ星」
「どうしましたかー、巫女様?」
「ん、なんでもないわ。でなんの話だったかしら」
「あ、ひどーい」
 とある民家の縁側。
 そこで夜空を見上げるおかっぱ頭の少女と赤いリボンを付けた黒い長髪が特徴の少女。
 そのリボンの少女こと、博麗・霊夢は流れ去った流れ星の方向に向かって目を閉じる。
 なんとなく、なんとなくにだが、柄でも無く祈ってみたくなったのだ。

―――どうか、この平和が幻想郷に続きますように。

 そんな少女の祈りを聞くかの様に流れ星が輝いた。



 【おまけ】
◇やどや こーりんどう その壱
「こーりーん、藍が行方不明なの。ご飯作ってちょうだいなー」
 いきなり目の前の空間が割れて隙間が開いた。
 中から出て来て唐突に飯を催促するのは胡散臭さナンバーワン、八雲・紫だ。
「さっき式神と一緒に君になにか送り物をするんだと言って意気込んで来たよ」
 霖之助は嫌そうな顔を隠そうともせずに、取り敢えずは事実を話す。
「あら本当?」
「僕はあまり嘘はつかない主義で有名だと自負している」
 それを聞いて扇子で楽しそうに口元を隠す紫。嬉しいのだろうか。 
「それは楽しみねー。で、ご飯」
「帰れ」


◇やどや こーりんどう その弐
 扉を開けたら蟲と花が抱きあっていた。
「……玄関の前で何をやっているんだい、君達は」
「「ささささ、寒くて、し、死ぬぅ」」
 あー、と霖之助は白い欠片を落とす空を見上げる。
 二日前から今日に至るまで雲は張り切って雪を降らせていた。
 店に泊まっている少女達にやらせるのも忍びないし、今日も雪かきが大変だ、と思っていたら――
「……まぁ、入りなさい。炬燵くらいは用意してあるから」
 どこか遠くを見るような慈悲の満ちた目で家への道を体をずらして開く霖之助。
 風見・幽香とリグル・ナイトバグは涙を流しつつ二人揃って万歳したのであった。


◇やどや こーりんどう その参
「香霖」
「なんだい魔理沙」
「今度は紅魔館を壊―――」
「わかった。もうなにも言うな」

 香霖堂は二度と普通の道具屋には戻れなかった。
 道具屋と宿屋の中間の店となり、永遠に幻想郷にあり続けるのだ。
 そして、やめようと思っても止める気はないので、
 そのうち香霖は考えるのをやめた。

 次の日、紅魔館のメイドやその主や魔女とかが雪崩込んでくる事となった。
書いている途中でこれなんてギャルゲ?と思えてきた今日この頃。
ウギギギギ。

始めまして、猫の転がる頃にです。
なんだか香霖のところで起こる事件と言ったら巻き込まれ系かなぁ、
などと思いつつ書いてみたりしました。

続くかどうかわかりませんが、それでは、これにて失礼を……。
では駄文でしたが、失礼いたしましたー。
猫の転がる頃に
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コメント



0.4290簡易評価
1.50翔菜削除
>「和風とか好きだからー!」
やべぇwwww超同意wwwww
3.無評価削除
ちょっと設定いじって名前を変えてみようか。一次創作に早変わりだぜ。
別に東方のSSである必要性を感じなかった。
次回作に期待。
最後に一応お約束で……こーりん殺す!
9.60名前が無い程度の能力削除
どう見てもギャルゲーです、本当にありがとうございました。
10.50名前が無い程度の能力削除
色々と混ざってるがまぁ良しと

それにしてもまだ「東方である必要が無い」とか言う輩がいるのか…
手軽すぎる言葉ってのも問題だな、考えなしに脊髄反射で言う馬鹿が増えて困る
18.無評価名前が無い程度の能力削除
それにしてもこの話、おバカすぎである


紅魔館の面子とこーりんの話が気になってしょうがない
19.70CACA100%削除
この魔理沙はその内、色んな物を壊して災難を呼びそうですね
そして、冬に凍えそうだったリグルとゆうかりんワロタw
20.90名前が無い程度の能力削除
左右に揺れるまりさに不覚にも萌えt(ファイナルマスタースパーク


東方だからこそまったりした雰囲気が似合う訳ですよ
22.60名前が無い程度の能力削除
割烹着をしたけーねだと!?
なんて眩しい
29.80名前が無い程度の名前削除
この組み合わせでの1週間とか見てみたいです。
意外とこーりんとアリスは仲良くやっていけると思うんだ。
作品評価で50点、私的イメージに近いアリスが居たから+30点で
34.無評価猫の転がる頃に削除
ぬおわっ!何時の間にかこんなにレスがっ!?
皆さんのレスに感謝感激ですよ、もうっ!それにしてもこの作者ノリノリである。

東方は意外に資料が少ないので喋り方以外は結構自己補完している部分が……。
一応ネット上の資料はかき集めてるのですが、調べてみると二次創作でイメージが固まった部分の多い事多い事。
一時創作の部分から抜き出すと脇役なんかの設定はほとんどないんじゃないかというくらいで。

そんなわけでオリジナル要素が多くなってしまったと思いますが、精進していきたいと思います。
これからも宜しくお願いいたしますですよー。

>割烹着を着たけーねだと!?
それが俺達のジャスティス。
36.70SSを読む程度の能力削除
こーりんのネタっぷりがKE○のギャルゲーみたいだ…

アリス最高!!
42.80ぐい井戸・御簾田削除
久々にこういう直球のバカ話を見た、うん大満足だ。
次も期待していますですよ。
65.80名前が無い程度の能力削除
まるでマンガを読んでるようなテンポの良さで、
読んでいて思い浮べてみて、色々と楽しかったです。
ただ、場面の描写、動き等
少し分かりづらいなと感じました。
67.90名前が無い程度の能力削除
ちょwwwアリスwwwww
「覗いちゃだめよ?」とかマジクリティカルwwww
そして香霖殺す!
75.80名前が無い程度の能力削除
なんだかんだでやっぱり勝ち組だなこーりん…
78.100bobu削除
>「和風とか好きだからー!」
激しく同意!

紅魔館編もみたいものですな。

>別に東方のSSである必要性を感じなかった。
そういうのをあえて東方でやるのも二次創作ではないでしょうか?
79.無評価bobu削除
↓失言失礼しました。以後気をつけます。
82.100名前が無い程度の能力削除
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ矢ほおおおおおおおおおおおおおおおお
89.90名前が無い程度の能力削除
私的にアリスが良い
これに尽きる
香霖は結構崩壊してるけど、まぁノリがいいのでおk
93.80子豚削除
拝見させていただきましたが
最後JOJOネタかよwww
ここでJOJOネタが見れるとは思わなかったので私的に高得点www
107.100名前が無い程度の能力削除
香霖は考えるのをやめた。ww