その日、幻想郷のありとあらゆる所に初雪が降った。
雪は、普段白とは縁の無い場所も白銀の世界にし、全く異なった世界を見せてくれる不思議な天候。
今回はそんな白い世界となった、幻想世界の各地の日常を見ていこう。
-夢と現の境界線、博麗神社の一こま-
流石に日課といえども雪の中に埋まっていては掃除はできない、そう考えた霊夢は居間で炬燵に潜り、蜜柑を食べていた。
「いやぁ、こんな冬には炬燵と蜜柑ね、これ以上の組み合わせは私も知らないわー、まぁ何であんたがいるのかは知らないけど」
「そんな邪険にしなくてもいいじゃない、太陽も出てないから日傘だけ持って飛んできたわよ」
と、場所に相応しい巫女の霊夢と、場所の神聖さとは全く正反対の存在である悪魔のレミリアが、一つ屋根の下でのんびりしていた。
「しかしまぁ雪も降ったし、もう本格的に冬なのねー」
外気の寒さを身に染みて感じている霊夢はそんな事を呟く、が本人の服装がアレなので身に染みるのは当然といえば当然だろう。
「そんな服装してるからでしょ、私は別段何も感じないんだけどね」
レミリアは悪魔という種族柄、外気温という事をあまり感じない、それ故にでた発言だった。
「ある意味羨ましい体質ねぇ、お天道様に弱くなったりするのは嫌だけど」
「あら、私の体質もうまく付き合っていけばあまり問題にはならないわよ?少々慣れが必要だけど」
いつの間にか吸血鬼の体質談義になっているが、彼女たちなりに考え、楽しんでいるようだ。
某隙間妖怪の言うには幻想郷は全てを受け入れる、というがそれは割と正しいらしい、その本人はそれは残酷なことというが、ここだけ見ると、それも分からないものである。
「さて、炬燵で蜜柑に必須といえば緑茶ね、あんたも飲む?」
「私は基本的に紅茶しか飲まないけど、霊夢の好意とあっては断るわけには行かないし、頂くわ」
「全く、変な言い回ししなくても普通に飲みたい、って言えばいいじゃない、素直じゃないわねー」
人間と悪魔、種族的に相容れないと一般的には思われるが、幻想郷ではそんな交友がごく普通に成り立っている辺り、不思議な世界だ。
「はい、お待たせー、年越しに向けて貰ってきたお茶で貴重なんだから、しっかり味わいなさいよ」
「そうさせて貰うわ、貴重とあれば尚更よ」
そして霊夢曰く貴重な緑茶を飲みながら、体の芯まで温まるのを感じる二人であった。
-湖に浮かぶ真紅の館、紅魔館での一こま-
館の主、レミリアの性質上、窓が殆ど無いこの館だが、ただでさえ暗い館の中でも更に暗いところが一箇所存在する、それが図書館という場所だ。
その場所を管理している主の友人、パチュリーは体質上では普通なのだが、本人が本と髪が痛むから、という理由で太陽を嫌う、悪魔の友人にはつくづく変わり者が多いものだ。
「何?また来たの?」
「おう、また来たぜ、さて、今日はどんな本を読みますかねぇ」
そしてもはや日常と化した、魔理沙の訪問。
口と顔では邪険そうにしながらも、実はまんざらでもないのは本人及び、関係者には周知の事実だが、だからと言って素直に接するのは彼女にとって癪に障るらしい、それを魔理沙も理解しているため、特に何も思わないのである。
「パチュリー様、後は魔理沙さーん、珈琲を持ってきましたよー」
「うん、そこに置いておいて」
「おいおい、私は後でかよ、わりかし冷たいなー、小悪魔さんよー」
微弱な毒を含む小悪魔の発言だが、その程度を流せなければこの世界ではやっていけない、そんな毒を華麗にスルーしながら珈琲を楽しむ魔女二名。
しばらく優雅なティータイムを楽しんでいた一同、ただし何も無いとは誰も思っておらず、誰に何が起こるかお互いに腹を探る三名、すると・・・・・・。
「うぐぅ、ちくしょー、お前砂糖じゃなくて唐辛子入れただろーっ!」
「いえいえ、確かに別の調味料が入ってますけど唐辛子ではありませんよー」
どうやら今回は珈琲に辛子の類が仕込まれていたらしく、苦虫を噛み潰したような顔をする魔理沙。
「あら、今日の小悪魔はやけに素直じゃない、どうしたのかしら?」
「ふふーっ、今日の私は機嫌がいいのです、多分そのせいだと思います」
「機嫌がいいとか悪いとかは関係ないぜ、とりあえず水くれーっ!」
この場面ではいつも茶化して煙に巻く小悪魔だが、パチュリー曰く、今日は機嫌が良いらしく、いつも以上に素直になるという妙な性格のようだ。
もちろん、魔理沙にとってはそんなことは一切関係なく、とりあえず水、のようだ。
しばらくして、悪戯の騒動も収まり、雑談に興じる二名。
「そういえば来る時に雪が降ってたな、もうそんな季節だが、ここにいるとどうもそれを失念するぜ」
「そう、私は周りの精霊達の様子で天候位なら予想がつくわ、今日は水属性がかなり活性化してるわね」
「精霊魔法を扱える奴はそんなことまでわかるものなのか、全く羨ましいぜ」
季節と天候の話から魔法の話へ派生するのは、職業及び種族故の宿命か何かなのだろうか。
ただそんな魔法談義で彼女たちは一日を明かすことも少なくない、他者にとっての雑談の種がほぼ魔法という概念に固定されているだけの話である。
今日も今日とて彼女たちの「雑談」で一日が過ぎてゆくのだった。
-幽明境を異にした魂の集う地、白玉桜での一こま-
その日、珍しく冥界に雪が降ったため、ある意味の本業でもある庭の剪定の代わりに、屋根の雪掻きに追われている妖夢、もちろん彼女の主人である幽々子と、偶々来訪していた彼女の友人の紫は、下から眺めているだけだ。
「それじゃー、終わったらご飯もお願いねー」
「あら、それなら私もご馳走になろうかしら、まぁがんばって頂戴ね」
「分かりましたー、ではしばらくお待ちください、早めに終わらせますので」
二人そろって何を言ってるんですかこの人たちは、と思った妖夢だが、この人たちには何を言っても無駄だろうし、そもそも私が反論できる立場ではない、そう考えて黙々と雪掻きを始める。
が、不慣れな仕事のせいか彼女の予想以上に早く疲れが溜まり、ふと漏らす。
「雪掻きって予想以上に疲れるなぁ、誰か手伝ってくれてもいいのに」
(これは私達が幽々子様に命じられたこと、他人の助力を期待してどうするの?)
「うーん、それはそうなんだけど・・・・・・私は人間側だからこういう怠惰なことを考えちゃうのかな?」
(きっとまだまだ修行が足りないのよ、更なる高みを目指さないと怠け心が出るのは当たり前、ならやることは一つでしょ?)
「そうね、私はまだまだ修行を積んで、いつか師のように、いや、超える意気込みで行かなきゃっ!」
(そうそう、その意気、何事もまずは気持ちから、それがなければ何をしても意味無いわ)
いくら真面目な彼女といえどもそこは半分人間、その部分に怠惰な感情もあるということだが、半身と会話、というよりはテレパシーのような形で意思疎通、相談し、気合を入れなおす。
「あらあら、妖夢ったら物凄い速度で雪を落としてるけど・・・・・・、次はご飯もあるのに大丈夫かしら?」
「大丈夫なんじゃない?いつも誰かさんがあっちこっち走らせてる訳だし」
「それを言うなら紫もでしょ?たまに其方の式を見ると疲れた顔してるわよー?」
下では幽々子と紫が、上から続々と落ちてくる雪の塊を見ながら、お馴染みのように方向性の見えない会話を繰り広げている。
自分の従者自慢をしているように見えなくも無いが、実際は自分のことを棚上げしてお互いのことを皮肉っているだけだったりする。
そしてシャベルで雪をすくっては落としをかなりの速度で繰り返している妖夢と、その動きに習う半霊は、どりゃあぁぁぁっ!と叫びそうな程の気合を発揮し、残っていた雪を全て掻き落とす。
「ふぅ、ようやく終わった、次はご飯だご飯、急げーっ!」
半幽を人魂に戻し、そう言いながら屋根から飛び降り、台所へと向かう。
すると台所前に見慣れた影を見つける、向こうも妖夢のことを見つけたらしく声をかけてくる。
「おっ、妖夢じゃないか、そんなに焦ってどうしたんだ?」
「あぁ、藍さん、幽々子様と紫様がご飯の催促してきたもので急がないと何を言われるか・・・・・そういうことなので焦らないわけにもいかんのです」
「そういうことか、あのお二方が一緒になると確かに何をされるか理解できたものではないな、まぁ私でよければ助太刀しよう」
「あ、ありがとうございます、私は紫様の好みも分からないので助かります」
お互いに理不尽な要求をこなしている藍の好意と、妖夢の仕事の切羽詰った様子の成り行き上、二人で一緒に料理をすることになった。
流石に一家の台所を守る人物が二人も揃うと作業も早く、紫分の料理は完成に近づき、幽々子分も量と種類が暴力的に多いのだが、既にその殆どを作り終えていた、勿論、1回で運びきれる量ではないのだが。
「しかし、妖夢の主人は本当に食欲旺盛だな、亡霊って言うのはみんなあんなものなのか?」
「全てがそうというわけではないですが・・・・・・幽々子様が普通じゃないんです」
「そんなものなのか、こういう面ではうちは恵まれているんだなぁ、うん」
最後の仕上げをしつつ、膨大な量の料理を見てしみじみと話す藍と、複雑な心境の妖夢、そうした間にも主2人が今か今かと食事を待っているため、早々に仕上げを終わらせる。
そして後は運ぶだけとなったのだが如何せん量が普通ではなく、これを一人で運んでいる妖夢の気苦労を知り、唖然とする藍と、料理の山の前に立つ妖夢。
「さて、どう運ぶか・・・・・・って、何やってるんだ?」
「流石に二人では時間がかかりすぎてしょうがないので、もう一人呼ぶための、ちょっとした下準備をしてるんです」
「ふむ、そういうことか、ならば今のうちに少しづつ運んでおくとしよう」
何の下準備をしているのか、という疑問は残るが、運搬効率が伸びるのなら文句は言うまい、と思い、先に自分の主人の分をお膳に並べ、運ぶ藍。
しばらく歩き、紫と幽々子の待つ居間に近づいてきたところで、お膳5段分を持った妖夢が合流した。
「下準備とは何かと思ったがそういうことか、一人で二人分の労力、全く羨ましいな」
「まぁ確かに便利ですが、非常に消耗が激しいので長くは続かないんですよね、訓練ついでに日常生活の中でも活用してますが」
人側妖夢がそういうと、霊側妖夢もうんうんと頷く、しかし多大な消耗があるといっても便利な能力には変わりないです、と付け加える。
「それにしてもここで天候が変わるとは、世の中珍しいこともあるものだ」
「本当です、それで慣れない雪掻きなんてする事になるんだからいいのだか悪いのだか」
藍がしみじみと冬の風情を感じながら言った事を、呆れの中に笑いを含めながら妖夢が漏らす、が別段嫌と言う訳でもなく、冗談でも言うような顔で喋っていた。
その後、幽々子と紫の少人数ながらの大宴会に巻き込まれ、あっという間に酔い潰れた一同は夜明かしで騒ぎ続けたとか。
そのせいで参加した一同が二日酔いどころか五日ほど酔って悲惨な目にあったが、それは当事者達の秘密である。
-果てを失った姫の住まう館、永遠亭の一こま-
その日、輝夜は特にやることも無く、かといって既に周期化している妹紅と殺し合い、というのは名ばかりのじゃれ合いをする気も無く、ただ庭を眺めながらお茶を啜っていた。
何か良い暇つぶしは無いのかしら、と考えるが、何も思いつかず、結局のところ、ため息を一つつくばかりだった。
何時の人が言ったか知らないが、ため息をつくと運勢が逃げる、というが実際はどうなのだろうか、一日に百回位ため息をついてみれば、分かるのかもしれないが、試すのも面倒なのでやめた。
「しかし、ここまで暇な日もあの時の隠居生活以来ね、まぁあの時とは違って今は警戒心を持つ必要がほぼ無いから良いけど」
あまりに暇だった為、つい昔のことを思い出すが、すぐに目前の暇を如何にかすることに考えを切り替えた。
自分の時間は永遠に続く、そのため大切にするのは過去より今だ、と普段から考えている為だ。
「折角雪も降ってるし・・・・・・、雪を使う遊びって言うのは何かあるのかしら?ちょっと皆に聞いてみましょう」
月の世界では天候も変わらず、姫という身分故に娯楽などは川柳、短歌、俳句等、そういう室内用のものばかりで、それを数百年は続けているのでいい加減飽きてしまった。
最初は永琳に聞いてみた。
「雪を使ってできる娯楽・・・?何かあったでしょうかねぇ・・・」
何かしら知識が必要なときに頼ってみるのが彼女なのだが、こういう野外の娯楽に関しては疎いのは私と同じらしい。
「そういうことは、ウドンゲやてゐ当たりの方が詳しいと思いますので、聞いてみたらどうでしょう」
「そう言われて見ると一理ある気がするわ、ありがとう、一応参考になったわ」
そういって部屋を後にする私、その部屋からはまだ悩んでいるような唸る声が聞こえるが、次へ急ぎましょう。
お次はイナバに聞いてみた。
「えっ?雪を使った野外の遊びですか?そうですね・・・・・・私としては雪だるまを作ってみたりするのもいいな、と思いますが」
雪達磨?何かしらそれ、と問うて見る。
「あぁ、雪だるまはですね、里の子供がやってるのを見ただけですが、雪を転がして大小二つの雪球を作って、大きいほうを土台にして乗せるんです、お好みで木の枝とか小石とかで目や腕をつけるのもまた・・・・・・」
と、中々熱い説明をしてくれた。
ふむ、偶には馴れ合い以外で身体を動かしてみるのもいいのかもしれない、けどここで決めるのはまだ早計ね、と考えた私は、もう少し聞き込んでみるわ、と言って別れた。
最後にてゐに聞いてみた。
「雪を使う遊びですか?それなら自分は雪合戦をするのがいいと思います」
雪合戦?先ほどの雪達磨といい、冬の遊びは雪とかそういう文字がつくのが多いわね、と思ったがそれは無視して質問を進める。
「雪合戦は、雪球をお互いに投げてぶつけ合うって言う単純なものなのですが、チームで分かれてやる場合はかなり奥が深い競技に変わって、相手を出し抜いたときはもう・・・・・・」
此方もイナバの時と同じく、非常に熱い解説を聞かされた。
今回は身体を積極的に動かせる娯楽ということもあったのか、それともてゐの熱意に影響されたのか、最後まで説明を聞いていた。
「なるほどね、じゃあ今日はそれで行きましょうか、てゐはイナバに知らせてきて頂戴、私は永琳の所へ行くから」
「わかりましたー!」
結局、身体が動かしたいだけだったらしい輝夜は雪合戦でGOサインを出し、永琳を呼びに行った。
「永琳、いるー?」
「はい、私はここにいますが、何をするかお決まりになりましたか?」
「えぇ、色々聞いてみたけど雪合戦なるものに決めたわ、詳しいことはてゐが知ってるから庭で聞いて頂戴」
「分かりました、庭に行きましょう」
と、簡単に伝えた後、二人で庭へ向かった。
その後、お馴染みの四人と、誰かが連れてきたらしい兎が庭に集まった。
「やる前にとりあえず一つだけ、この時は私や永琳だからと言って遠慮はしない様に、積極的に来なさい、それだけよ」
と微笑みながら輝夜が言うと、その直後に雪球が飛び、早速その顔に命中した。
それをきっかけに、一同はだれかれ構わず雪球を投げたり投げられたりと、大乱戦と化した。
「折角の機会だし、多少引っかかる所があるけど、師匠ーっ!覚悟ーっ!」
「あらあら、ウドンゲったら、そんな単純な投げ方じゃ私には当たらないわよー?」
いつも散々からかわれたり弄られたりしているせいか、鈴仙は集中的に永琳を狙うが、すいすいと回避される。
が、その直後、永琳の頭に雪球が直撃する、一瞬面食らった顔をしていたが、すぐに意図を理解し、くすくすと笑う。
そう、見当違いな場所に、それも高く投げた雪球が当たったのだった、実際は適当に投げたら偶々罠の役割を果たしたのだが。
「永琳ったら、それくらい気づいても良かったんじゃない?」
「あら、そういう姫だって雪まみれじゃないですか」
頭に雪を乗せた永琳と、全身雪だらけの輝夜がお互いを皮肉りあう、がそんな隙を見せていて良いものか、と傍観していた鈴仙は思う。
「ほらほらお二人様、油断はいけないと思うけどねーっ!」
と、下っ端の兎と一緒に何処から持ってきたと突っ込みを入れたくなるような巨大雪球を二人に投げつける。
結局気づきはしたものの、回避が間に合わず、大玉に潰される二人。
「本当に油断はするものじゃないわね・・・・・・きゅー」
「後で覚えてなさーい、この事は忘れないんだからー」
そしてばたんきゅ~な状態の輝夜と、身動きの取れない永琳を見て、どっと笑いが起こる。
「あははははっ、師匠ー、そんな状態で怒ってもあまり怖くないですよー?」
「鈴仙ちゃーん、そんなことを言うと今はともかく後が怖いと思うよー?」
結局永琳、輝夜両名にとって初めての雪合戦はとんだ洗礼を食らって、お開きとなった。
その後、雪が新たに積もったのを見ては雪合戦を開き、そのたびに鈴仙やてゐを初めとする、ある程度なれた面子に滅多打ちにされる永琳と輝夜の姿があったとか無かったとか。
-おしまい-
雪は、普段白とは縁の無い場所も白銀の世界にし、全く異なった世界を見せてくれる不思議な天候。
今回はそんな白い世界となった、幻想世界の各地の日常を見ていこう。
-夢と現の境界線、博麗神社の一こま-
流石に日課といえども雪の中に埋まっていては掃除はできない、そう考えた霊夢は居間で炬燵に潜り、蜜柑を食べていた。
「いやぁ、こんな冬には炬燵と蜜柑ね、これ以上の組み合わせは私も知らないわー、まぁ何であんたがいるのかは知らないけど」
「そんな邪険にしなくてもいいじゃない、太陽も出てないから日傘だけ持って飛んできたわよ」
と、場所に相応しい巫女の霊夢と、場所の神聖さとは全く正反対の存在である悪魔のレミリアが、一つ屋根の下でのんびりしていた。
「しかしまぁ雪も降ったし、もう本格的に冬なのねー」
外気の寒さを身に染みて感じている霊夢はそんな事を呟く、が本人の服装がアレなので身に染みるのは当然といえば当然だろう。
「そんな服装してるからでしょ、私は別段何も感じないんだけどね」
レミリアは悪魔という種族柄、外気温という事をあまり感じない、それ故にでた発言だった。
「ある意味羨ましい体質ねぇ、お天道様に弱くなったりするのは嫌だけど」
「あら、私の体質もうまく付き合っていけばあまり問題にはならないわよ?少々慣れが必要だけど」
いつの間にか吸血鬼の体質談義になっているが、彼女たちなりに考え、楽しんでいるようだ。
某隙間妖怪の言うには幻想郷は全てを受け入れる、というがそれは割と正しいらしい、その本人はそれは残酷なことというが、ここだけ見ると、それも分からないものである。
「さて、炬燵で蜜柑に必須といえば緑茶ね、あんたも飲む?」
「私は基本的に紅茶しか飲まないけど、霊夢の好意とあっては断るわけには行かないし、頂くわ」
「全く、変な言い回ししなくても普通に飲みたい、って言えばいいじゃない、素直じゃないわねー」
人間と悪魔、種族的に相容れないと一般的には思われるが、幻想郷ではそんな交友がごく普通に成り立っている辺り、不思議な世界だ。
「はい、お待たせー、年越しに向けて貰ってきたお茶で貴重なんだから、しっかり味わいなさいよ」
「そうさせて貰うわ、貴重とあれば尚更よ」
そして霊夢曰く貴重な緑茶を飲みながら、体の芯まで温まるのを感じる二人であった。
-湖に浮かぶ真紅の館、紅魔館での一こま-
館の主、レミリアの性質上、窓が殆ど無いこの館だが、ただでさえ暗い館の中でも更に暗いところが一箇所存在する、それが図書館という場所だ。
その場所を管理している主の友人、パチュリーは体質上では普通なのだが、本人が本と髪が痛むから、という理由で太陽を嫌う、悪魔の友人にはつくづく変わり者が多いものだ。
「何?また来たの?」
「おう、また来たぜ、さて、今日はどんな本を読みますかねぇ」
そしてもはや日常と化した、魔理沙の訪問。
口と顔では邪険そうにしながらも、実はまんざらでもないのは本人及び、関係者には周知の事実だが、だからと言って素直に接するのは彼女にとって癪に障るらしい、それを魔理沙も理解しているため、特に何も思わないのである。
「パチュリー様、後は魔理沙さーん、珈琲を持ってきましたよー」
「うん、そこに置いておいて」
「おいおい、私は後でかよ、わりかし冷たいなー、小悪魔さんよー」
微弱な毒を含む小悪魔の発言だが、その程度を流せなければこの世界ではやっていけない、そんな毒を華麗にスルーしながら珈琲を楽しむ魔女二名。
しばらく優雅なティータイムを楽しんでいた一同、ただし何も無いとは誰も思っておらず、誰に何が起こるかお互いに腹を探る三名、すると・・・・・・。
「うぐぅ、ちくしょー、お前砂糖じゃなくて唐辛子入れただろーっ!」
「いえいえ、確かに別の調味料が入ってますけど唐辛子ではありませんよー」
どうやら今回は珈琲に辛子の類が仕込まれていたらしく、苦虫を噛み潰したような顔をする魔理沙。
「あら、今日の小悪魔はやけに素直じゃない、どうしたのかしら?」
「ふふーっ、今日の私は機嫌がいいのです、多分そのせいだと思います」
「機嫌がいいとか悪いとかは関係ないぜ、とりあえず水くれーっ!」
この場面ではいつも茶化して煙に巻く小悪魔だが、パチュリー曰く、今日は機嫌が良いらしく、いつも以上に素直になるという妙な性格のようだ。
もちろん、魔理沙にとってはそんなことは一切関係なく、とりあえず水、のようだ。
しばらくして、悪戯の騒動も収まり、雑談に興じる二名。
「そういえば来る時に雪が降ってたな、もうそんな季節だが、ここにいるとどうもそれを失念するぜ」
「そう、私は周りの精霊達の様子で天候位なら予想がつくわ、今日は水属性がかなり活性化してるわね」
「精霊魔法を扱える奴はそんなことまでわかるものなのか、全く羨ましいぜ」
季節と天候の話から魔法の話へ派生するのは、職業及び種族故の宿命か何かなのだろうか。
ただそんな魔法談義で彼女たちは一日を明かすことも少なくない、他者にとっての雑談の種がほぼ魔法という概念に固定されているだけの話である。
今日も今日とて彼女たちの「雑談」で一日が過ぎてゆくのだった。
-幽明境を異にした魂の集う地、白玉桜での一こま-
その日、珍しく冥界に雪が降ったため、ある意味の本業でもある庭の剪定の代わりに、屋根の雪掻きに追われている妖夢、もちろん彼女の主人である幽々子と、偶々来訪していた彼女の友人の紫は、下から眺めているだけだ。
「それじゃー、終わったらご飯もお願いねー」
「あら、それなら私もご馳走になろうかしら、まぁがんばって頂戴ね」
「分かりましたー、ではしばらくお待ちください、早めに終わらせますので」
二人そろって何を言ってるんですかこの人たちは、と思った妖夢だが、この人たちには何を言っても無駄だろうし、そもそも私が反論できる立場ではない、そう考えて黙々と雪掻きを始める。
が、不慣れな仕事のせいか彼女の予想以上に早く疲れが溜まり、ふと漏らす。
「雪掻きって予想以上に疲れるなぁ、誰か手伝ってくれてもいいのに」
(これは私達が幽々子様に命じられたこと、他人の助力を期待してどうするの?)
「うーん、それはそうなんだけど・・・・・・私は人間側だからこういう怠惰なことを考えちゃうのかな?」
(きっとまだまだ修行が足りないのよ、更なる高みを目指さないと怠け心が出るのは当たり前、ならやることは一つでしょ?)
「そうね、私はまだまだ修行を積んで、いつか師のように、いや、超える意気込みで行かなきゃっ!」
(そうそう、その意気、何事もまずは気持ちから、それがなければ何をしても意味無いわ)
いくら真面目な彼女といえどもそこは半分人間、その部分に怠惰な感情もあるということだが、半身と会話、というよりはテレパシーのような形で意思疎通、相談し、気合を入れなおす。
「あらあら、妖夢ったら物凄い速度で雪を落としてるけど・・・・・・、次はご飯もあるのに大丈夫かしら?」
「大丈夫なんじゃない?いつも誰かさんがあっちこっち走らせてる訳だし」
「それを言うなら紫もでしょ?たまに其方の式を見ると疲れた顔してるわよー?」
下では幽々子と紫が、上から続々と落ちてくる雪の塊を見ながら、お馴染みのように方向性の見えない会話を繰り広げている。
自分の従者自慢をしているように見えなくも無いが、実際は自分のことを棚上げしてお互いのことを皮肉っているだけだったりする。
そしてシャベルで雪をすくっては落としをかなりの速度で繰り返している妖夢と、その動きに習う半霊は、どりゃあぁぁぁっ!と叫びそうな程の気合を発揮し、残っていた雪を全て掻き落とす。
「ふぅ、ようやく終わった、次はご飯だご飯、急げーっ!」
半幽を人魂に戻し、そう言いながら屋根から飛び降り、台所へと向かう。
すると台所前に見慣れた影を見つける、向こうも妖夢のことを見つけたらしく声をかけてくる。
「おっ、妖夢じゃないか、そんなに焦ってどうしたんだ?」
「あぁ、藍さん、幽々子様と紫様がご飯の催促してきたもので急がないと何を言われるか・・・・・そういうことなので焦らないわけにもいかんのです」
「そういうことか、あのお二方が一緒になると確かに何をされるか理解できたものではないな、まぁ私でよければ助太刀しよう」
「あ、ありがとうございます、私は紫様の好みも分からないので助かります」
お互いに理不尽な要求をこなしている藍の好意と、妖夢の仕事の切羽詰った様子の成り行き上、二人で一緒に料理をすることになった。
流石に一家の台所を守る人物が二人も揃うと作業も早く、紫分の料理は完成に近づき、幽々子分も量と種類が暴力的に多いのだが、既にその殆どを作り終えていた、勿論、1回で運びきれる量ではないのだが。
「しかし、妖夢の主人は本当に食欲旺盛だな、亡霊って言うのはみんなあんなものなのか?」
「全てがそうというわけではないですが・・・・・・幽々子様が普通じゃないんです」
「そんなものなのか、こういう面ではうちは恵まれているんだなぁ、うん」
最後の仕上げをしつつ、膨大な量の料理を見てしみじみと話す藍と、複雑な心境の妖夢、そうした間にも主2人が今か今かと食事を待っているため、早々に仕上げを終わらせる。
そして後は運ぶだけとなったのだが如何せん量が普通ではなく、これを一人で運んでいる妖夢の気苦労を知り、唖然とする藍と、料理の山の前に立つ妖夢。
「さて、どう運ぶか・・・・・・って、何やってるんだ?」
「流石に二人では時間がかかりすぎてしょうがないので、もう一人呼ぶための、ちょっとした下準備をしてるんです」
「ふむ、そういうことか、ならば今のうちに少しづつ運んでおくとしよう」
何の下準備をしているのか、という疑問は残るが、運搬効率が伸びるのなら文句は言うまい、と思い、先に自分の主人の分をお膳に並べ、運ぶ藍。
しばらく歩き、紫と幽々子の待つ居間に近づいてきたところで、お膳5段分を持った妖夢が合流した。
「下準備とは何かと思ったがそういうことか、一人で二人分の労力、全く羨ましいな」
「まぁ確かに便利ですが、非常に消耗が激しいので長くは続かないんですよね、訓練ついでに日常生活の中でも活用してますが」
人側妖夢がそういうと、霊側妖夢もうんうんと頷く、しかし多大な消耗があるといっても便利な能力には変わりないです、と付け加える。
「それにしてもここで天候が変わるとは、世の中珍しいこともあるものだ」
「本当です、それで慣れない雪掻きなんてする事になるんだからいいのだか悪いのだか」
藍がしみじみと冬の風情を感じながら言った事を、呆れの中に笑いを含めながら妖夢が漏らす、が別段嫌と言う訳でもなく、冗談でも言うような顔で喋っていた。
その後、幽々子と紫の少人数ながらの大宴会に巻き込まれ、あっという間に酔い潰れた一同は夜明かしで騒ぎ続けたとか。
そのせいで参加した一同が二日酔いどころか五日ほど酔って悲惨な目にあったが、それは当事者達の秘密である。
-果てを失った姫の住まう館、永遠亭の一こま-
その日、輝夜は特にやることも無く、かといって既に周期化している妹紅と殺し合い、というのは名ばかりのじゃれ合いをする気も無く、ただ庭を眺めながらお茶を啜っていた。
何か良い暇つぶしは無いのかしら、と考えるが、何も思いつかず、結局のところ、ため息を一つつくばかりだった。
何時の人が言ったか知らないが、ため息をつくと運勢が逃げる、というが実際はどうなのだろうか、一日に百回位ため息をついてみれば、分かるのかもしれないが、試すのも面倒なのでやめた。
「しかし、ここまで暇な日もあの時の隠居生活以来ね、まぁあの時とは違って今は警戒心を持つ必要がほぼ無いから良いけど」
あまりに暇だった為、つい昔のことを思い出すが、すぐに目前の暇を如何にかすることに考えを切り替えた。
自分の時間は永遠に続く、そのため大切にするのは過去より今だ、と普段から考えている為だ。
「折角雪も降ってるし・・・・・・、雪を使う遊びって言うのは何かあるのかしら?ちょっと皆に聞いてみましょう」
月の世界では天候も変わらず、姫という身分故に娯楽などは川柳、短歌、俳句等、そういう室内用のものばかりで、それを数百年は続けているのでいい加減飽きてしまった。
最初は永琳に聞いてみた。
「雪を使ってできる娯楽・・・?何かあったでしょうかねぇ・・・」
何かしら知識が必要なときに頼ってみるのが彼女なのだが、こういう野外の娯楽に関しては疎いのは私と同じらしい。
「そういうことは、ウドンゲやてゐ当たりの方が詳しいと思いますので、聞いてみたらどうでしょう」
「そう言われて見ると一理ある気がするわ、ありがとう、一応参考になったわ」
そういって部屋を後にする私、その部屋からはまだ悩んでいるような唸る声が聞こえるが、次へ急ぎましょう。
お次はイナバに聞いてみた。
「えっ?雪を使った野外の遊びですか?そうですね・・・・・・私としては雪だるまを作ってみたりするのもいいな、と思いますが」
雪達磨?何かしらそれ、と問うて見る。
「あぁ、雪だるまはですね、里の子供がやってるのを見ただけですが、雪を転がして大小二つの雪球を作って、大きいほうを土台にして乗せるんです、お好みで木の枝とか小石とかで目や腕をつけるのもまた・・・・・・」
と、中々熱い説明をしてくれた。
ふむ、偶には馴れ合い以外で身体を動かしてみるのもいいのかもしれない、けどここで決めるのはまだ早計ね、と考えた私は、もう少し聞き込んでみるわ、と言って別れた。
最後にてゐに聞いてみた。
「雪を使う遊びですか?それなら自分は雪合戦をするのがいいと思います」
雪合戦?先ほどの雪達磨といい、冬の遊びは雪とかそういう文字がつくのが多いわね、と思ったがそれは無視して質問を進める。
「雪合戦は、雪球をお互いに投げてぶつけ合うって言う単純なものなのですが、チームで分かれてやる場合はかなり奥が深い競技に変わって、相手を出し抜いたときはもう・・・・・・」
此方もイナバの時と同じく、非常に熱い解説を聞かされた。
今回は身体を積極的に動かせる娯楽ということもあったのか、それともてゐの熱意に影響されたのか、最後まで説明を聞いていた。
「なるほどね、じゃあ今日はそれで行きましょうか、てゐはイナバに知らせてきて頂戴、私は永琳の所へ行くから」
「わかりましたー!」
結局、身体が動かしたいだけだったらしい輝夜は雪合戦でGOサインを出し、永琳を呼びに行った。
「永琳、いるー?」
「はい、私はここにいますが、何をするかお決まりになりましたか?」
「えぇ、色々聞いてみたけど雪合戦なるものに決めたわ、詳しいことはてゐが知ってるから庭で聞いて頂戴」
「分かりました、庭に行きましょう」
と、簡単に伝えた後、二人で庭へ向かった。
その後、お馴染みの四人と、誰かが連れてきたらしい兎が庭に集まった。
「やる前にとりあえず一つだけ、この時は私や永琳だからと言って遠慮はしない様に、積極的に来なさい、それだけよ」
と微笑みながら輝夜が言うと、その直後に雪球が飛び、早速その顔に命中した。
それをきっかけに、一同はだれかれ構わず雪球を投げたり投げられたりと、大乱戦と化した。
「折角の機会だし、多少引っかかる所があるけど、師匠ーっ!覚悟ーっ!」
「あらあら、ウドンゲったら、そんな単純な投げ方じゃ私には当たらないわよー?」
いつも散々からかわれたり弄られたりしているせいか、鈴仙は集中的に永琳を狙うが、すいすいと回避される。
が、その直後、永琳の頭に雪球が直撃する、一瞬面食らった顔をしていたが、すぐに意図を理解し、くすくすと笑う。
そう、見当違いな場所に、それも高く投げた雪球が当たったのだった、実際は適当に投げたら偶々罠の役割を果たしたのだが。
「永琳ったら、それくらい気づいても良かったんじゃない?」
「あら、そういう姫だって雪まみれじゃないですか」
頭に雪を乗せた永琳と、全身雪だらけの輝夜がお互いを皮肉りあう、がそんな隙を見せていて良いものか、と傍観していた鈴仙は思う。
「ほらほらお二人様、油断はいけないと思うけどねーっ!」
と、下っ端の兎と一緒に何処から持ってきたと突っ込みを入れたくなるような巨大雪球を二人に投げつける。
結局気づきはしたものの、回避が間に合わず、大玉に潰される二人。
「本当に油断はするものじゃないわね・・・・・・きゅー」
「後で覚えてなさーい、この事は忘れないんだからー」
そしてばたんきゅ~な状態の輝夜と、身動きの取れない永琳を見て、どっと笑いが起こる。
「あははははっ、師匠ー、そんな状態で怒ってもあまり怖くないですよー?」
「鈴仙ちゃーん、そんなことを言うと今はともかく後が怖いと思うよー?」
結局永琳、輝夜両名にとって初めての雪合戦はとんだ洗礼を食らって、お開きとなった。
その後、雪が新たに積もったのを見ては雪合戦を開き、そのたびに鈴仙やてゐを初めとする、ある程度なれた面子に滅多打ちにされる永琳と輝夜の姿があったとか無かったとか。
-おしまい-
>「下準備とは何かと思ったがそういうことか、
妖夢はどんな準備をしていたのか、藍は何に驚いたのか、何に納得したのか、妖夢はどうやって5つも運んだのか…など地の文で説明があった方が良いと思います。現状だと後ろに書かれたセリフからある程度推測できるのみとなってしまっています。(半身が気合いで3つ、半霊が背中に2つ、でしょうか?それとも大悟でしょすか?)
余計かもしれませんが、質問に私の回答を。
>妖夢はどうやって5つも運んだのか
これはお察しの通りです、人側が気合と根性と慣れで3つ、霊側が2つです。
最初は萃ストーリーの幽明の苦輪よろしく、本人+分身2という構図も考えましたが、それは無茶が過ぎる気がしたので今の形にしました。
>下準備
これはスペカに霊力を込めての発動準備ということです(全く描写無しでしたが)
どこかでスペカは対応スペルの下準備を霊力を込める事で簡略化できる、カップ麺みたいな物、見たいな話を聞いていたのでこんな感じに。
>藍は何に驚いたか
藍も妖夢が半人半霊ということは理解していたものの、分身まで出来るとは考えてなかったので、その為驚きと羨望?のような感覚を抱いたわけです。
>何に納得したのか
ほぼ上記の理由と同じ理由です、人海戦術(と言っても追加は一人分ですが)ということか、そんな風に考えての納得です。
本文ではうやむやになってた事項をお答えしてみましたが、それでも分かりづらかったら申し訳ありませんorz