Coolier - 新生・東方創想話

全ての敵で全ての味方、人それを中立と言う 1

2006/12/08 07:29:32
最終更新
サイズ
11.17KB
ページ数
1
閲覧数
758
評価数
1/36
POINT
1300
Rate
7.16
「おかしいわね・・・どこに仕舞ったのかしら?」
神社の裏手にある古びた蔵の中で霊夢は何かを探している。
普段使わない物を放り込んであるだけに色々と沢山あるが物が整頓されていないと落ち着かない性分な霊夢なので魔理沙の家のように混沌とはしていない。
「む・・・この散らかし方は魔理沙ね。全く、紅魔館だけじゃ飽き足らず家まで出没するようになったのね」
もはや害虫扱い(確かに行為そのものは害虫より酷いのだが)の魔理沙。
「もしかしたら魔理沙の奴が何か勘違いして持ってったのかも知れないわね」
霊夢が探していたのは予備のお払い棒だった。
前から使っていた物が少し無茶をして壊れてしまったので仕舞ってあるはずの予備を探していたのだ。
「しょうがない、魔理沙の家に行っても見つからないだろうし霖之助さんの所に行って新しいのを貰ってくるしかないわね」
やれやれと溜息をついた霊夢は戸棚の上に厳重に御札の貼られた小箱を見つけた。
御札が貼られている=何かが封印してあるという事なのだが霊夢は非常に中身が気になった。
「御札も古くなって破れかけてるし貼り直すついでにちょっとくらい見たって問題ないわよね」
建前半分で霊夢は埃だらけの小箱を手に取り蔵を後にする。

「さってと、まずは新しい御札を用意して・・・」
埃を丁寧に掃った小箱を床に置いて霊夢は新しい御札を何枚も取り出す。
そして古く所々破れている御札を慎重に剥がしていく。
たとえ中が見たいなどという不純な動機が含まれていようと再封印するのだから事を慎重に運ぶ必要がある。
「これで・・・最後・・・ね・・・」
一番下に貼られていた御札を剥がすと小箱からは強い霊力が発せられ始めた。
「この気配、多分強すぎる術具か何かを封印してあるのね。魔理沙に持ってかれなくて良かったわ」
もし魔理沙に持っていかれたら興味本位で封印を解かれ、興味本位で使われ、そして行方知れずになっていたであろう。
「中身は何かしら?」
霊夢が小箱を開けると中には霊夢が普段使用している陰陽玉より一回りほど小さな陰陽玉が入っていた。
それを見た霊夢は思わず唾を飲み込んだ。
「すごい霊力・・・神社に代々伝わる陰陽玉にも勝るとも劣らないわ・・・」
霊夢はその陰陽玉をそっと手に取る。
その瞬間陰陽玉から凄まじいほどの光が発せられた。
「え・・・?」
霊夢の意識は一瞬にして真っ白になった。

「今いっくわ~♪いっとしのれ・い・む~♪」
自作のレミリア愛のテーマを歌いながらレミリアが神社へとやってきた。
以前は日傘をさしていたのだが今はパチュリーの特別製日焼け止めクリームのおかげで日傘無しで活動できるのだ。
ちなみに咲夜には黙って出てきた。
「霊夢~、愛しの愛しのレミリアが着たわよ~」
シーンッ・・・。
普段であれば霊夢の呆れ声が聞こえてくるところなのだが神社は静まり返っている。
レミリアは自分の行動が空振りに終わった事に多少顔を赤くしながらもう一度霊夢を呼ぶ。
「霊夢~、居ないの~?」
しかしまたも返事がない。
「おかしいわね。いつもなら縁側でお茶を飲んでるはずなのに」
レミリアはそう言いながら母屋の中へと入っていく。
そこには目的の霊夢がぼーっと座り込んでいた。
「なんだ、居るじゃないの霊夢」
そう言ってレミリアが近寄ろうとした時だった。
「・・・す」
レミリアは一瞬の判断で障子を突き破り神社の境内へ飛び出した。
それを追う様に霊夢が飛び出してくる。
その目はどこか虚ろにレミリアを睨みつけている。
「・・・殺す・・・妖怪・・・殺す・・・人間の・・・敵・・・」
「あらあら、いきなり攻撃とは中々熱い愛情表現ね霊夢」
レミリアの手には数本のニードルが握られていた。
飛び出したレミリアを追撃してきたニードルを咄嗟に掴み取ったのだ。
レミリアの表情は既に色ボケ少女から夜の王に相応しい冷徹で妖艶なる表情へと変化している。
女の匂い乏しいはずの少女に同性ですら激しい欲情にかられそうな妖艶な笑み。
レミリアが本気を出した時にする表情である。
「・・・標的・・・吸血鬼・・・退治する・・・」
「たまには昼に踊るのも悪くないわね」
あくまで余裕の表情を崩さないレミリアだが内心はかなり焦っている。
本来の実力が発揮できない昼間、しかも霊夢からは異変の時でさえ感じた事の無かった殺気が放たれている。
(私・・・死ぬかも知れないわね・・・)
レミリアは一瞬そんな事を思い、直ぐにその考えを頭から消した。
「・・・死ね」
霊夢はそれだけ言うと攻撃を仕掛けた。
小型結界を射出する博麗アミュレット。
攻撃力を犠牲にして追尾能力に特化した霊夢の一番得意とする攻撃。
だが普段一重であるはずの博麗アミュレットは二重になっていた。
「くっ!」
レミリアは結界に全力を注ぎ込んだ。
ギィィィヤァンッ!
金属同士が擦れるような甲高い音を立てて博麗アミュレットとレミリアの結界が衝突する。
「なんて威力なの!まるで小型の二重結界が大量に飛んできているみたい!」
レミリアの結界が悲鳴をあげる。
だが辛うじて博麗アミュレットは結界を貫通していない。
「・・・無駄だ」
だが霊夢の次の攻撃であっさりとレミリアの結界は貫通された。
まるで一撃一撃がレミリアの放つスピア・ザ・グングニルのようなエクスターミネーションによって・・・。
「・・・逃がした」
霊夢はレミリアを仕留めた感触が無い事を感じ取りそう呟いた。

「く・・・紅魔館まで・・・もたないわね・・・」
ボロボロになったレミリアが湖の上を飛んでいる。
左腕は消え、肩の付け根から血を滝の様に流している。
「下は水・・・か・・・咲夜・・・パチェ・・・フラン・・・ちゅ・・美鈴・・・」
目の前が暗くなり飛ぶ力さえ失ったレミリアは湖に落ちていく。
流れる水は吸血鬼にとって猛毒に等しい。
普段のレミリアであれば力が吸い取られる程度で済むが今水に入る事は死を意味する。
親しい者の名前を呼びながらレミリアが水面に落ちようとした時だった。
ビギィン!!!!
ドシャッ!
「う・・・氷・・・?」
一瞬にして湖が分厚い氷に覆われレミリアは辛うじて水に落ちずに助かった。
最も凍っているのはレミリアの周辺でだけ大体半径10メートルほどだろうか。
「やったわ!これだけ一度に大量の水が凍るようになったわ!やっぱりあたいったら最強ね!」
妙に甲高い子供子供した声が辺りに響く。
氷精のチルノだ。
「ん?あんた確か湖の向こう側に建ってる子馬館とかいう館のレ・・・レ・・・レムリアだっけ?」
「残念だけど私は魔を断つ剣ではないわ・・・寧ろ断たれる方ね・・・子馬館じゃなくて紅魔館・・・レムリアじゃなくてレミリアよ・・・」
チルノの言葉を訂正しながらレムリア・・・ではなかったレミリアは何とか体を起こす。
「む!それくらい知ってるわよ!ってあんたどうしたのよ!?血が出てるじゃない!」
レミリアの様子を見てチルノが慌てて近寄る。
「ちょっとドジ踏んだのよ・・・それより・・・私を紅魔館まで連れて行ってくれたらお菓子あげるわよ」
「本当!?嘘じゃないわよね!」
「あの嘘つき因幡じゃあるまいし嘘はつかないわよ・・・」
「分かったわ!っと、確か大ちゃんに聞いた話だと血って出過ぎると危険なのよね?」
その言葉にレミリアは頷く。
吸血鬼であるレミリアは確かに通常の人間に比べれば遥かに丈夫で多少血が出たところで何の問題も無いが出続ければ危険である。
「ちょっと痛むかもしれないけど我慢しなさいよ!」
「くっ!」
チルノはレミリアの左肩に手を当てると強い冷気で血ごと凍らせ流血を止めた。
激痛に悲鳴を上げそうになるレミリアだが我慢した。
「待ってなさい!今大ちゃん呼んでくるから!私だけじゃ運べないわ!」
チルノは急いで森の方へ飛んでいくと緑髪の友人、大妖精を呼びに行った。

「・・・終ったわよ」
「パチュリー様・・・お嬢様の様子は・・・」
レミリアの部屋から出てきたパチュリーに椅子を勧めながら咲夜が尋ねる。
「あの氷精のおかげね。出血が少なかったから命に別状はないわ」
「良かった・・・」
咲夜はホッとした表情をした。
ちなみに現在チルノと大妖精は別室でメイド達からお菓子をもらったりしている。
「でも左腕の再生には時間が掛かるでしょうね。私が最初に見た時には左腕の細胞が完全に壊死していたわ」
「そんな!?」
吸血鬼の細胞が壊死する。
それはつまり恐ろしいほどの浄化の力によって傷付けられた事を意味する。
たとえ吸血鬼の弱点である銀のナイフで傷をつけても致命傷にはなっても壊死はしない。
「壊死した細胞を完全に取り除いたから今のレミリアはちょっと左肩がない状態ね」
パチュリーは相変わらずの単調な口調で喋る。
だがその表情には微かにだが腑に落ちない色が見て取れる。
「パチュリー様・・・それはつまり・・・」
「言わずもがなよ。この幻想郷でレミリアの細胞を壊死させれるほどの浄化能力を持つ人間がどれくらいいるかしら?」
質問に質問で返す返事。
だが答えはどちらも分かっている。
分かっているが故に答えを言わない。
言えない。
「・・・少しお嬢様をお願い致します」
「・・・どうするつもり?」
「返答次第では・・・例え親友であろうと、お嬢様の想い人であろうと切り刻みます」
咲夜の目は真剣だった。
彼女が激情すると瞳の色は澄んだ青から血のような赤に変わる。
レミリアの従者になる為に飲んだ一滴の吸血鬼の血の効果である。
「・・・そこまでの覚悟なのね」
パチュリーは暗に止めないと意思表示をした。
咲夜が準備の為自室へ向かおうとすると・・・。
「・・・でも私は止めるわよ・・・」
「お嬢様!?」
「レミィ、気がついたのね」
慌てて振り返る咲夜の目には左肩に包帯が巻きつけられたレミリアの姿がうつった。
だが咲夜は違和感を感じる。
左腕がないのも違和感だがそれだけではない。
普段肌がざわめくほどに感じていたあの威圧感は何処へ消え去ったのだ。
長い間レミリアに仕えてきたがあの威圧感だけは慣れる事はなかった。
だがそれは恐怖ではない。
絶対者への憧れと仕える事への喜びであった。
だが今のレミリアにはそれがない。
まるで見た目相応の子供より脆弱な、雨に濡れ震える子犬のような弱々しさ。
「咲夜、命令よ。霊夢には手を出さないで頂戴」
「霊夢を庇うつもりですか!」
普段から冷静に行動する咲夜にしては珍しく激しい怒りを露にする。
咲夜の心は怒りと憎しみに満ちている。
レミリアにあれほど慕われ、そしてこれだけ傷付けられようとも庇われる霊夢。
霊夢。
霊夢霊夢霊夢!
皆霊夢!
お嬢様も!妹様も!皆々霊夢!
もう咲夜の頭にはそれしかない。
忌み嫌われ、流れ流れて、人としての心を捨て、たどり着いた安息の居場所。
敬愛する主。
恐ろしくも愛らしい主の妹。
変わり者だが決して悪人ではない魔女。
そして幼い自分を面倒良く見てくれた最愛の人。
それが全て霊夢に奪われていく。
そんな被害妄想が彼女を支配する。
「違うわ・・・違うのよ咲夜・・・」
だがその思考は主の声で中断される。
霊夢ではなく、咲夜を気遣う声によって。
「霊夢の心配じゃないわ・・・貴女の心配よ・・・咲夜・・・行っちゃダメ・・・行ったら帰ってこれないわ・・・」
何かに怯えるような主の姿を見て咲夜はレミリアに駆け寄る。
「何が・・・あったのですか・・・」
「私にも話して頂戴。それと美鈴も呼んでくるわ。あの子もレミィの話を聞きたいでしょうし・・・」
レミリアは小さく振るえながら頷いた。

「ねえ三人ともあの日を覚えているかしら?私たちが霊夢に初めてあった日を・・・」
レミリアが三人に呼びかける。
「ええ、今でも鮮明に覚えていますわ。本気の私達が負けたあの日を・・・」
「・・・私も驚いた記憶があるわね・・・自慢の魔法が全く通用しないなんて・・・」
「私も覚えてます。直接的な戦闘なら失礼ですがお嬢様より強いと自負していた私をいともあっさりと気絶させた霊夢の事を・・・」
三者三様に答える。
「そう、私達はあの日霊夢に負けたわ。でもその時霊夢に殺気を感じた事はあるかしら?」
レミリアの問い掛けにまず美鈴が答える。
「・・・私はありません。実は休日の時などに彼女や妖夢などと手合わせした事があるのですが・・・明確な殺気を向けてくる妖夢に対し霊夢が殺気を放った事は一度もありません」
美鈴の答えを聞いてレミリアは頷く。
「・・・私もないわね。最も私が彼女と会った事は数えるほどしかないのだけれども・・・」
パチュリーは咲夜を見る。
この中では咲夜がレミリアに次いで霊夢との接点が多い。
特に異変の時など霊夢と協力した事のある咲夜ならば霊夢の戦う姿を一番知っている。
「・・・ありません。一度たりとも霊夢が殺気を放った事など・・・」
咲夜の答えを聞いてレミリアはゆっくりと口を開いた。
「私は今日初めて霊夢から殺気を感じたわ」
それを聞いた三人は目を見開いた。
「いいえ、殺気なんてものじゃないわね・・・あれは・・・感じ取った瞬間に射殺された気さえしたわ・・・」
レミリアは喋りながら怯えるように視線が泳ぐ。
「勝負が始まるどころか勝負にすらならない・・・感じ取った瞬間に心が折れた・・・虚栄を張ってみたけどそれは児戯より意味の無い行為・・・あの時レミリア=スカーレットは死んだわ・・・ここにいるのはその残りカスだけよ・・・」
レミリアの言葉に三人は言葉を失う。
あのレミリアが。
傲岸不遜で唯我独尊のレミリアがこんな事を言う。
それはレミリア本人が言うとおり。
レミリア=スカーレットが死んだと言う事だ。
「お嬢様・・・」
「咲夜・・・こんな私を見捨てないでくれるかしら・・・?」
咲夜はただ無言で主の抜け殻を抱きしめるのだった。
涙を流しながら・・・。

続く
久しぶりに投稿です。今回ちょっと続きます。誤字脱字等の指摘。感想をお待ちしております。
儚夢龍也
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1220簡易評価
18.80名前が無い程度の能力削除
魔理沙の家に言っても→魔理沙の家に行っても

私は今日始めて→私は今日初めて
19.無評価儚夢龍也削除
誤字の指摘ありがとうございました。修正いたしました。
24.無評価名前が有る程度の能力削除
とりあえず続きに期待