おやじ妖々夢

注１　　おやじ分多し
注２　　どうしようもない













「超まじぃーーーーーーーーーーーーーっ！！」


幽々子さまはソレを吹き出し、コップを放り投げて叫んだ。


「ちょっと、吹いちゃダメじゃないですか。ちゃんと全部飲んでくださいよ」
月のウサギが文句を垂れた。

集まっている一同が青ざめている。

テーブルの上に置かれた白い液体。

これから全員コレを飲むわけだが
あの大食漢がダメなんだから相当なモンだろうと。


ここは永遠亭。
そして今日は薬師による善意の幻想郷健康診断の日。


「ふん。なにが蓬莱の薬よえっらそーに。
天才が聞いて呆れるわ。
悔しかったらいちご味のバリウム作ってみろって言うのよ」

のっけから私の主人である亡霊嬢は
胃の検査に使う液体について薬師につっかかておりどうしようもない。
どう見てもえらそうなのは幽々子さまのほうです、
ほんとうにありがとうございました。
大体、月の頭脳と呼ばれてるらしい天才をつかまえてなにがいちご味のバリウムだよ。
しかもこの人、胃の検査あるから朝メシは食わないでくださいねって釘さされてるのに
ガマンできずに食ったあげくトドメにギョウザ食ってたからね。
ニオイでバレバレなのに薬師に食ってませんって言い張ってたから始末に終えない。

薬師は薬師で
「いいわ、そこまで言われちゃ黙っちゃいられないわ。
天才の力、見せてあげるわよ」
などと言って調合室に消えていった。
早くも雲行きが怪しくなってきた。

見守る一同に見知った顔がちらほらいたので声をかけてみる。



「紫さまも検査ですか？」
「あら妖夢、アナタも来てたのね。どう、調子は？」
「私はいつもの眼底検査ですが...
紫さまはどこか調子が悪いのですか？」
「そんなことはないのだけれど、一応念のためにね。
まあ、私は健康だから診断の必要なんてないのだけれど...」
「この人、睡眠時無呼吸症候群の検査ひっかかったんスよ。
いつも不自然なくらい眠たがったりしてたでしょ？」
「藍！どうしてすぐに言っちゃうのよ！」
式であるキツネは速攻でバラしていた。


「あ～あ、私も昔は九尾のキツネなんて言われて畏怖されたりしたのにね。
世間話とかで今なにしてるんですか？って聞かれて
幻想郷の大妖怪の式をやってますとか言うけどさ。
紫さまの冬眠の間、主の眠りを守るのが仕事って言えば聞こえはいいけど
実際は不自然にイビキが止まったりしないか監視するのが役目だなんて
カッコ悪くて言えねーっつーの。失礼しちゃうよホント」

うわひっどいねここの式も。
やさぐれちゃってどうしようもない。
ていうかアンタも大概失礼だよ。


などとスキマの抱える更年期障害についての愚痴を聞かされていると
退屈しのぎなのか、何やら集まっていた一同でゲームが始まっていたりした。
勝負事の好きな鬼の提案らしく
「一番先にゲップしたヤツが負け」などというくだらないゲームだった。
ガマン比べでも混ぜて気を紛らわしながら飲もうという趣向らしかったが...


「それにしてもマズイけど、少しずつ飲めばなんとかなるよ。
負けるの嫌いだしね。
まあ我慢比べなら断然鬼の私が有利だね............
..............................................
............................................ｹﾌﾟ」
「今ゲップした！」
「してない...」
「いいや絶対したねっ！！」
「してないっつってんだろブッころすぞマジでっ！！」


言い出しっぺの鬼は速攻で負けた上すごい逆ギレだった。
大体この鬼は肝機能障害予防のため「お酒は控えてください」って言われてるのに
明らかに飲んでいる。
そもそも聞いたら昨日は夜中２時まで飲んでたらしいし
普段「嘘はキライだ」なんて言ってるクセに
飲酒運転でつかまったドライバーのごとく
しゃあしゃあと「飲んでません」って言ったらしいからもうどうしようもない。


「こんな勝負しなくても胃に入るものなら霊夢が喜んで飲むだろ。
ほら、どうせまた何も食ってないんだろ？
コレ飲んでハラに貯めろよ」
炎上している鬼を横目に白黒が巫女に言った。
「そこまで飢えてないわよ！！」
「ウソはよくないぜ？お前が万年飢餓状態なのは周知の事実だ。
今更見栄はらなくてもいいだろ。
なにせ１２月２４日のイブなんかは何も予定ないクセに、２５日は売れ残って半額になった
ローストチキンとケーキ買い占めるのに忙しいって言ってただろ。
あ、コレ言っちゃいけなかったんだっけ？ワリィ」
「そんなこと言ってないっ！」
巫女が栄養失調なのはともかく、この白黒はホント口悪いよね。
おまけに手クセも悪いしどうしようもない。


「それにしても...
こんなもの、不摂生したりストレス貯めてる人が飲むもんでしょ？
私には必要なんかないわよ。
レミリアのとこの門番なんか一番...」
言いながら巫女は中華風妖怪を捜すが見当たらない。

「中国のことならここには居ないぜ？
さっき胃の検査以前に、尿検査で血尿が出たとかで即検査入院だそうだ。
な、咲夜？」
色々とどうしようもないねここも。

「.........なんで私に言うのよ...」
ハア、とため息を吐きながらメイド長が言った。
「だって、なあ......？」
一同が咲夜を見る目は明らかに”おまえが原因じゃね？”な視線だ。

「咲夜は有能だけれど少し...ね」
「お嬢様までっ！」
紅魔館の当主も認めてしまっていた。
それに白黒が追い討ちをかける。

「それ見ろ。みんな知ってんだよ。
お前がとんでもないサドだってな。」
「言いがかりだわっ！いいかげんなことばかり言うと許さないわよっ！」
「なにカマトトぶってんだよ、
いま化けの皮剥いでやる。
おまえちょっと決めゼリフ言ってみろ。３、２、１、ハイッ！」

「あなたの時間も私のもの。
　わたしの時間も私のもの」

どーしようもないねこのメイドも。
思いっきりサドじゃねーか。
この人仕事はできるんだけど部下の使い方は全っ然ダメだね。
庭師もつらいけどここの門番だけはマジで勘弁だよ。
「幽々子さまもアレですけど、これに比べれば一応、私たちなんかはマシなんですかね？」
横に居る月のウサギに言った。
「まあ、でもウチの師匠も時々ね...」
などと噂をしていれば
「待たせたわね、できたわよ。」
薬師が調合室から戻ってきて、高らかにソレを掲げて言った。

「これがいちご味の座薬よっ！！」
「おまえバカじゃねっ！？」
これだから天才はッ！！

そんなどうしようもないもの作られちゃいくらなんでも擁護できねえ。
大体バリウムはどこいった。
もう「キングオブどうしようもない」だ。



結局、
バリウムはこんなヤツに期待してたのかという不満や憤りと一緒に飲み込む結果となり
もう愚にもつかない思いだった。

ついでに閻魔で裁判長の緑色っぽいのは
ストレス性胃潰瘍が発見されたりした。
相当どうしようもない。


この後、健康診断はつつがなく進行し、
夜の王が吸血鬼のクセに血液検査にひっかかったり
問診で七色の魔法使いが鬱病の気があったり
氷精がバカだったりしたが概ね良好だった。

身体測定では主に胸囲で見栄や疑惑が渦巻いたりして多いに盛り上がったが
黒幕が体重計を破損させた所で打ち切りとなった。


そして全ての検査を終了し
とりあえず一旦集まって解散の準備となったわけだが...

「いやぁ～、兎にも角にもみんな大きな障害とか見つからなくてよかったな」
「油断しちゃだめよ。これからも健康に注意して健全な生活を送ることね」
「わかってるぜ」
白黒は薬師に釘を刺されたりしていた。
「よし、じゃあこれで一安心ってことだし、
幻想郷と弾幕少女のますますの健康と発展を願うってことで...
みんなで霊夢の所で一杯やって帰ろう！」


「...健全な生活は？」
「それは明日からにしよう」


ホント、どうしようもない。

飲兵衛が一番どうしようもない