【真っ紅なアンテルカレール(追憶技工)】
さよなら も もう言えない
【藤色回顧Ⅰ】
あの夜、飛んでいく二人を見上げた。夜の終わりに、揺れていたのは金髪の魔法使いたち。
アリスと、魔理沙。
秋が来たのを、肌で感じた。
[Patchouli&Remilia]
夜明けが近かった、帰還した秋。パチュリーは魔法使い達が森へ飛んでいくのを見送った。
隣ではレミリアが「朝になる、なっちゃうってば。ねぇパチェ」としきりに何事かを言っていたが、そのうち諦めたのか静かになった。崩れなかった柱の影に入り込んで、東の方をちらちらと見ながら、羽をぱたぱたと震わす。
「二人乗りも出来たのね、あれ」
世間話というよりは、ただの感想なんだろう。そんな一言を、ぽつり漏らした。
「それにしても、仲悪いんじゃなかったの、あの二人?」
「…悪いわ」
「じゃあ、なんで送ってもらってるのよ、あの人形遣いは」
泊まっていったらどうかというレミリアの言葉に、魔理沙は首を横に振った。ぐったりと未だ眼を閉じたままのアリスに視線を向けたまま、たぶんアリスが望まないと、それだけを応えた。
「変な奴らね」
「そう?」
「魔力無いんでしょ?自殺行為じゃない」
「…そうね」
でも多分、その場合信用しているのは魔理沙の方だろう。零距離の相手に、背を向ける。その体制では、どう見ても無防備なのは魔理沙の方なのだから。
パチェ。レミリアがまた呼んだ。
「さすがに限界よ。もう陽が昇るわ」
「あなたの傘持ちは、未だ囚われの身?」
「眠りのね。だけど、すぐに起きることになるわ」
「勤勉ね。ネズミの捕獲にも、それぐらい気合いが欲しいわ…」
「咲夜は優秀なのよ。それに、主とその親友の諍いは、この館の者なら誰でも見過ごさないと思わない?」
「…何の話」
「茶番の話」
「お茶くみは、メイドの仕事でしょ?」
「パチェのところは、小悪魔でしょ?」
疲れ気味の魔女は、重い溜め息を吐いた。
「お茶で済むとは、思えないけど…」
「勿論。大掃除大会よ」
「レミィ。私は眠たいの」
「奇遇ね。私も眠たいわ。でも、ベットがないんだもの」
「貸すわ」
図書館のを、と魔女が言い。
「そうよ、そこまでは運命通り」
紅い悪魔が、満足げに頷く。
「そして眠る」
「惜しいわね。眠りの前にすることがあるでしょ」
「歯磨きかしら」
「またまた惜しい。磨くのは床よ。それから、ハタキもかけなきゃ」
「うがいを忘れちゃ駄目よね」
「だから掃除だってば」
「えーと。目の前の吸血鬼を…」
「それより、呪文よりも確実な朝がくるわ」
「それは大変。髪が傷むわ」
「そうよ。だからさっさと、茶番を始めなきゃ」
紅魔館の当主とその親友が図書館に着いたのとほぼ同時に、小悪魔はとある一室の扉を叩いた。
それは、秋の初めの帰還の日。
【武器だって特製です】
[Alice&Remilia]
扉を開けたのと同時に、何かを呪った。自分でも何を呪ったのかわからない。わからないから、きっとその呪いは届かないだろう。
まあたぶん、巡り合わせと呼ばれるものだ。
確かに、慣れた魔理沙の気配ではなかった。けれど敵意も感じなかったし、何よりとても弱い力しか関知できなかったのだ。おおかた、命知らずか大馬鹿者の人間が迷い込んで、暖かそうな灯りに、火に群がる羽虫のように引き寄せられたのだろうと思ったのだ。だから、まさか彼女とは予測していなかった。
それが。
「何を固まっているの?人形遣い」
なにをどう間違って、夜に怯える人間どころか、その人間を脅かしている吸血鬼なんかが、アリス・マーガトロイドの家の前にいるのか。
「神社の方向はあっちよ。それじゃあね」
「ちょっと、こら待て閉めるな」
一瞬で入り込まれた。吸血鬼の身体能力は、いろいろと規格外ではないだろうか。
「貴族は招待状を持たない場合、最低三日前に書簡を従者に持たせて出すんじゃなかったの?」
「世の中にはお忍びってものがあるのよ」
気配を抑えてまで来たらしい。
「移動中はたいていそうよ。じゃないと低級がうるさいわ」
気配は確かに抑えていたが、態度はやたら偉そうだった。そういうのは、メイドの前だけにしてくれないだろうか。
「そのまま静かに帰るといいわ」
「用がすんだら帰るわ」
「用?まさか人形製作でも見に来たとか?」
「別に見てもいいけど。面白いの?」
「魔理沙はグロテスクと言っていたわ」
「じゃあ見るわ」
「何でよ」
そういうわけで、レミリアが工房にいる。
いや、本当になんでいるのだろう。別に製作過程を見られたからと言って、こういった類の知識のない彼女だから、魔理沙みたいに秘術を盗まれるという心配はない(見ただけで実行出来るとは思えないけど)。しかし、アリスにはこの流れが理解できない。だいたい、抑えていたはずのプレッシャーが今はだだ漏れだ。人形たちに悪影響なので止めて欲しい。こっちだって肩が凝る。そうでなくても、なるべく関わりたくないのだ、このお嬢様とは。
という心情を、なるたけ表面上に出さないようにしながら、アリスは黙々と人形を製作していた。今回のは試験的に大きめのものを手がけているので、少し大変だ。植え込む髪の量も、いつもの1,5倍ある。およそ八十㎝ほどで、このサイズになると中に骨に似たものを埋め込まなければいけない。このバランスもまた難しいのだ。
レミリアはそんなアリスの作業を見ていたが、やがて髪を弄りだしたと思うと、つまらなそうに言った。
「飽きた」
じゃあ帰れ。しかし彼女はすぐには立ち上がらず、机に頬杖をついたまま、アリスに問うた。
「人形師。眼鏡は作れる?」
「もっと言葉を飾ってくれないかしら」
「目が悪い者を補助する道具、眼鏡が入り用だから、作れるんなら作れ」
「言い方が悪かったかしら。もっとわかりやすい説明が欲しいんだけど」
「つまり、パチェに眼鏡を作れるかってこと」
そういうことか。しかし、あれは本人に極力合ったものでなければ、かえって眼を疲れさせてしまう。当たり前だが、アリスの技術レパートリーには、そんなのない。あるわけない。
「なんで私が眼鏡なんて作るのよ」
「あなたの人形には、未来永劫眼鏡を付けた娘が加わる予定はないと?」
「生憎、そんな必要に迫られたことないわ」
「まぁ、人形だしね」
「そうよ。人形だもの」
人形の視力が落ちるわけがない。よしんば性能が落ちたとしても、代換えが利くのが人形の素晴らしさだ。その可愛い可愛い人形達の製作を、妨害されてるわけですが。気が散るから早く帰ってくれないだろうか。そうじゃなくても、あの件以外で彼女と話すのは気が進まない。気のせいか、胃も重くなってきた。いや、気のせいだけど。
「出来ないの?」
「やったことがないだけで」
「出来ないの?」
「出来るわよ」
思わずそう返してしまった。自分は馬鹿だろうか。だから、作業中に話しかけられると気が散るのだ。
「あら情報通り。たまにはあの白黒も役にたつわね」
そうか、また魔理沙か。いい度胸だわ。こんど、塩入の珈琲を御馳走してあげなくては。
「ところで人形遣い」
「なによ」
どうでもいいが、人形遣いなのか人形師なのか、どっちかで統一してもらえないだろうか。
「貴女の家には、知り合った者全てを模した人形があるって本当?」
本当だったらそれは是非見たいと宣った彼女を、アリスは全力否定という答えをもって、魂を削るほどの努力で追い出した。別に嘘ではない。全員ではないからだ。とりあえず、勝手に人の寝室に入った魔理沙には、塩入り珈琲など生ぬるいと言うことがよくわかった。
額を抑える。
「ああもう。やっぱり、部屋の件怒ってるんじゃないの…?」
あり得そうな話だった。考えてみれば、アリスのやった行為は、事態の露呈の度合いにもよるが、紅魔館でのレミリアの体面を傷つけたと言えなくもないものだ。しかし、原因はアリスにあったかもしれないが、直接手を下したのはパチュリーではないか。だいたい、あの一連の騒動については、お互い貸し借りだの言っていたらややこしくて仕方がない。いったいどれだけの思惑が、水面下に交わされていたと思っているのだ。アリスだって全ては知らないというのに。
それとも、まったく身に覚えがないが、何か不要な怨みというか怒りをかっているのだろうか。考えて、首を振った。どうせ、半分以上退屈しのぎにきたのだろう。
そうは言っても依頼は受けてしまった。厄介な縁が出来てしまった気がしなくもないが、こんな時のためにも、この国には素晴らしい格言がある。
「乗りかかった船、か。せいぜい泥船でも。豪華客船ではないことを願うわ」
寒くなってきたとはいえ、秋はまだまだ終わりそうになかった。
【BGN】
耳の中には、まだあの音が生きている。
なんどもなんども繰り返した。
手を止めてしまえば、恐ろしい何かに気づいてしまいそうで。
恐ろしい何かに、壊れてしまいそうで。
なんどもなんども繰り返した。
その度に、もう聞こえないはずのその声が、肌を撫でて、耳に食い込んで染みついた。
なんどもなんども繰り返した。
念入りに念入りに繰り返した。
その度に、唇から意図しない言葉が漏れてゆく。
悪いのは、自分じゃない。
自分のはずがない。
すべては、この化け物が悪いのです。
あの夜、か細いその声に耳を閉ざして、私は何度も手を振り上げた。
すべては、この化け物が悪いのです。
すべては、この化け物が悪いのです。
耳の中には、まだあの音が生きている。
【銀色回顧Ⅰ】
[Sakuya]
長い廊下を掃きながら、時々子ども時代のことを思い出す。
最近は、特に思い出す。それはつまり、もう子どもではないからだろう。そんなことは知っていたけれど。ずっとずっと、気づいていたけれど。
思えば子どもの頃、美鈴にはよく花で編んだ冠を乗せられ、広い野原中を引きずりまわされた。意味もなく酸欠でクラクラするほど走るなんて、今はもう出来ない。どんなテンションだ、それは。でも美鈴は今でも出来る、もといやるんだろう。そういう馬鹿げたことを。
そう言えば、その頃こうした遊びには全て、毒草を覚えるとか、基礎体力を身につけるとか、そんな適当な名目がついていた。非常事態に備えるために、野営の訓練ということで、庭先キャンプをやったこともあった。最初にナイフの使い方を覚えたのは(調理目的を別にすれば)この時だった気がする。
思い出そうと思えば、いちいち思い出すことができる。
メイド修行のはずが、最初に美鈴から教わったのは、この館の間取りと、効率の良い逃げ方だった。あの頃、スペルカードどころか『力』も満足に扱えなかった私の戦術は、もっぱら逃げることに重点を置いていた。遊びの隠れん坊が役にたつ日が来るなどと、まさか当初は思ってもいなかったが。
思い出そうと思えば、いちいち思い出すことができる。
ことあるごとに笑った彼女を。ああそうだ。火に関しては喧嘩もした。あの美鈴が、譲らなかった数少ない一つだ。そうだった。美鈴は大抵のことは折れてくれた。それは謙虚だと言うよりは、そうやって私を持ち上げることを楽しんでいた節があったように思う。
思い出そうと思えば、いちいち思い出すことができる。
今でも奇妙に思うのは、彼女が時々妙に当然そうに言った言葉。
―――――――― 子どもが一人で遊ぶのは、良くないことなんですよ
今の自分は、もう彼女よりきっとずっと大人だ。
【真っ紅な回顧録Ⅱ】
遠い遠い昔の夜に、彼女の声が歌い上げたあの音が、今でも耳奥で響いている。
その妖怪の名は、紅美鈴と言った。
満月の前の、その晩。レミリア・スカーレットは紅い館と紅い妖怪を、それぞれ一つずつ拾った。
どちらも自分の手元に置くのに相応しいと思ったからだ。
「ちょうど、新しい住処を探していたのよ。【こっち】に来て早々にこんなものを見つけるなんて、素晴らしいわ。そうでしょう」
紅い妖怪は、たぶんレミリアの言葉の意味をよく理解していなかったが、うんうんと頷いた。馬鹿みたいなのだが、レミリアも数時間のうちに、すっかりこれはそういうものなのだとわかったので、特に気にしなかった。つまり、これは花の世話していられれば満足らしかった。
「でも、なぜか扉が開かないわ。こんなぼろぼろなのに、少ない窓も壊れていないし」
かすかだが、魔力も感じる。けれど、探ろうとするととたん所在がつかめなくなる。花の香りのようだ。遠くに香りがゆくものほど、その出所が掴みにくいものなのだ。
「おまえは何か知って…いても役にはたたないわね」
紅い妖怪は申し訳なさそうに笑って、それからぽんっと手を打った。走り出す。
「あ、ちょっと」
飛んで後を追うと、そこは墓だった。
墓標に名はなく、ただ一文が刻まれていた。
レミリアはそれを読んだ。
この文字は、知っている。
「…空を」
空を愛した絵描き、ここに眠る
その言葉を口にした途端、淡い光りが炎のように目の前に灯り、凍るように固まって、掌に落ちた。
石の感触がした。
後に親友になるパチュリー・ノーレッジによれば、あの文字は誰にでも読める者ではないらしい。条件は何かと聞くと、彼女はつまらなそうに答えた。
――――――――それなりに力があって、人間じゃない者
永く一緒にいられる者が、条件だっただけなのだと、その時になって理解した。
その会話の時、石の存在は、なんとなくパチュリーには言いそびれて。以来、ずっと言わないでいる。だから、ひょっとすると彼女は、この館をレミリアが最初から所有していたのだと、実は思っているのかもしれない。
遠い遠い昔の夜に、彼女の声が歌い上げたあの音が、今でも耳奥で響いている。
【BGNⅡ】
古びたナイフが真っ直ぐと、抉るように落ちてくる。
優美な刀身。柄を握り込んだ手。
影が背負うのは、欠けた月。
十字架のように、それは心臓へと降ってくる。
あんな綺麗な死は、きっと他にはない。
あんな美しい死を、きっと誰も知らない。
これが終わりなら、存外に悪くもない気がして。
優美な刀身。柄を握り込んだ手。
柔らかい肉の感触が、銀色の刃からも伝わった。
傍で聞こえた押し殺して泣く声は、幻聴だったと、今でも思う。
だって彼女は、笑ってと頼まれたのだから。
【うたた寝】
[Marisa]
結論から言えば、別に散策でも何でも良かった。
心地よい微睡みに意識を預けながら、魔理沙はぼんやりと考えた。答えなんてシンプルで大雑把でいい。一人より二人で、二人より三人でいいじゃないか。とにかくこのぎこちない空気が少しでも改善するなら、誰の奸計でも乗ってしまえと思った。どうせ、悪巧みというよりは暇つぶしのお節介だ。複雑に拗れ込んだ思惑は、解くよりすばやく切って繋げてしまえば元通り。ほら、この方がずっと速い。
「速さは、重要だよな」
「何の話よ」
横でいつものように緑茶を啜っていた霊夢が、脈絡なく吐きだされた魔理沙の言葉に、訝しげに口を挟んだ。一緒に来たアリスはというと、すでに焼き菓子を置いて帰った。やりたいことがあるんだそうだ。霊夢がどことなくいつもより空気がゆるいのは、そう言った理由からだった。
「まぁ、こんなもん作ってる余裕があるなら、何の問題もないわね」
「心配なんてしてなかっただろ」
「それはあんたが平気そうだったから」
「私が?」
「魔理沙が泣きついて来たら、さすがにやばそうね」
それはそれで関わりたくないかもと、実に素っ気のないことを、博麗の巫女はのたまった。菓子まで貰っておいて、なかなか非情な奴だ。知っていたけど。こういうのは、直接目の前で泣かれないとわからないに違いない。
「請け負ったのは私じゃなかったからな」
「へえ、誰?」
「あ?なんだ、知りたいのか?」
「言いたいのかと思った。この前みたいに」
それは何故か、愚痴りたいのかと思った、と聞こえた。
「失礼な奴だ」
「何でよ」
「まったく。そんなんだから、霊夢は巫女なんだ」
「訳がわからない」
「とにかく私は人間なんだ。故に、幻想最速に飽くなき挑戦をしなければならない」
「ああ。眠いならそう言いなさいよ」
「眠い」
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
しょせんは奴は博麗霊夢。いくらでも浮いていればいい。この茶飲み友達兼異変解決趣味仲間に、そう多くは期待してはいけない。生まれながらの弾幕巫女め。幻想郷の法の一つ。やる気ゼロのお茶好きめ。
ああでも。
私の分の焼き菓子は、頼むから残しておいてくれよ。
無理かもなぁ、と。堕ちてゆく意識が苦笑した。
【小悪魔の憂鬱】
[LittleDevil]
もうあまり時間がない。けれど、最初は焦っていた気持ちは、今はむしろ穏やかになっていた。たぶん主人は、忘れているわけでも、その選択肢を選ぶ気でもないのだ。そうでなければ、あんなものを頼むわけがない。
つまり、彼女は勘違いしているのだ。おそらく、原因はあの時のことだろう。それ以外に、理が歪んだ理由が説明がつかない。自分だって、まさかそんな事が起きるとは思っていなかった。だから、つい最近まで忘れていたのだ。でも、自分は主人と違って、誤魔化しが利かないのだ。なにせ、誤魔化すも何も、現に影は消えてしまった。それは、すでに始まっているのだ。
「まったく。本ばかり見てるから、足下を見失うんですよ」
このことは、本来ならパチュリーに話すべきだと、小悪魔もわかっている。けれど、心配がないなら、むしろ放っておくのも一つの楽しみ方ではないだろうか。もちろん、危険がないわけではない。けれど、命にはかかわらないはずだし、館の内部も大分落ち着いた今なら、むしろ多少の刺激が必要だろう。
「そうだ。最初の予定通り、持ち逃げしてみようかな」
ただし、距離はずっと近くの、ちょっとそこまで。それは、とても楽しそうな企みだ。
なのに。
「うーん。何でしょう。落ち着きませんねぇ」
心躍るという意味ではなく。小悪魔の本分を全うしようとしているだけのはずなのに、この胸騒ぎはなんだろう。予知能力はないはずだが、何かを知っている気がしてならない。影が消えた所為だろうか。
「季節の変わり目だから、ですかねぇ」
自分でも全く信じていないことを、言ってみる。
秋はどんどん、深まっていく。
何かの期限まで、あと何夜?
【真っ紅な回顧録Ⅲ】
「こんばんは」
冷たいのにどこか無邪気で、それでいて澄ました気配を持つ、幼いようで優雅な声。
それが今日も、耳朶を打つ。
「今宵も、お話をしに来たわ」
――――――――よく、飽きないわね…
「だって楽しいもの」
――――――――あなた、変だわ
「そう?私から見れば、ずっと本を読んでいる貴女の方が変だけど。昼間も読んでいるんでしょ?」
――――――――起きている間は…
「よく飽きないわね」
先ほどの言葉を返して影がそう言うと、少女はやっと少し空気を和らげた。常人なら、きっと今は笑ったのだろう。
――――――――それで、今日はなんの世間話?
「言ってくれるわね。今日のは、貴女も興味を持たずにはいられないと思うけど」
とっておきなのだと、影は言った。
「さて、本好きな貴女にぴったりな話よ。移動する大図書館。世界中の魔術書が、刻一刻と増え続けていくという、不思議な図書館の話よ」
ついと。月を意味ありげに振りやって、影はベットの端に腰掛けた。
「今宵は、退屈だとは、言わせないわ」
見ると、その夜の月は、目もくらむほどの満月だった。
あと、誤字?の報告です
崩れたなかった柱の影→崩れなかった柱の影
作者様には謹んで「誤字大王」の名を進呈したい。
いや、冗談です。多分半分。
相変わらず気を持たせてくれる構成ですが、
焦らされるのも気持ちが良いです。
今はまだ、サラサラと流れて行く一本一本の意図たちが、
やがて交わり合い、絡まり合って物語を織り成す。
その瞬間を毎回楽しみにしています。
待つ楽しみがあるって良いなぁ…。
久し振りに霊夢見た気がするんですが…というか基本的に紅魔館組とアリ魔理の組み合わせのみ見てるんですがー。
パチェはいつか渡される眼鏡がアリスお手製だということに気付いた時どんなリアクションするのか楽しみ。