Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷の賢者

2006/11/29 18:58:13
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春の幻想郷の夜は、予想以上に冷える。
勿論、元々この世界が存在した場所が、緯度の高い所にあったのが最大の理由だった。
そんな中、紅魔館の門番を担っている紅美鈴は、うろうろと門の周りを歩いていた。

基本的に、霧雨魔理沙という大泥棒の夜襲に対して警戒するためであるが、それが役に立ったためしは無かった。
夜行性ではない人間の魔法使いは、普段は白昼堂々と忍び込むのが普通であった。
美鈴の右手には、わずかな光を放つカンテラのみが握られていた。
そろそろ、通常業務終了である。

(…ああ、早く戻りたいなぁ)

眠くなりそうになって、あわてて美鈴は姿勢を直した。
目を擦り、周りを見る。
……その時である。何かの人影が見えた。
それは確かに人の形をしていた。真っ直ぐこちらに歩いてくる。
こんな夜中に一体誰か? 美鈴はその影を見ていた。

やがて、人影は確かな人間へと変化した。
シャッポを被り、左眼にモノクルをかけ、独特の形の口髭を蓄えている。
年は40…50代と言った所か。第一印象では、気品溢れる初老の紳士であった。

「Bonsoir...mademoiselle?」

紳士は突然美鈴に話し掛けた。

「……は、はい?」

いきなり聴きなれない言葉を言われ、美鈴は思わずそのような返答を行った。

「ああ…、これは大変失礼。こんばんわ、お嬢さん」
「は、はい。こ、こんばんわ…」

何処の誰なのだろうと美鈴は思った。
見た感じは本当に普通の初老の紳士。殺気も見当たらない。
異国の衣服を纏った男性を前にして、美鈴は何をすればいいのかわからなかった。

「私は……そうだねぇ、何故かわからないが、いきなり未開の土地に飛ばされたようでね…。
 何をどうすればいいのか全くわからず、ただひたすら歩いてみたのだが、…ここに人が住んでおられるようでね。
 それで、夜分遅くに申し訳ないが…、一晩の宿を提供させて貰えはしないだろうか?」

紳士は、美鈴でも理解できる言葉で淡々と話した。
彼の言っている言葉はわかる。
つまり、ここに泊めて欲しいというのである。

こういう場合、直截の判断を下すのは紅魔館当主たるレミリア・スカーレットであるが、
美鈴の立場からで最初に通すべきなのは、メイド長である十六夜咲夜であった。

「お待ち下さい。只今中の者に連絡します」
「…ふむ、その中の者とは、お嬢さんの後ろに立っているそちらのお嬢さんではないだろうか?」
「はい?」

紳士に諭され、美鈴は恐る恐る背後を振り向いた。
そこには、紅魔館のメイド長である十六夜咲夜その人が突っ立っていた。

「さ、さささささ咲夜さんっ!?」
「…別に怒りはしないわよ、美鈴。…で、そちらの殿方は?」

威厳溢れるとも言うべきか、いつものように醸し出す雰囲気で、咲夜は美鈴にたずねた。

「え、ええっとですね…。こちらの男性が一晩泊めてくれと…」

美鈴は非常に簡潔に答えた。
一応、言っている事は合っている。
咲夜はとても困った様子の美鈴と、さほど動揺を見せない紳士を見やる。

「わかりました。この寒い場所ではお辛いとこちらも考えます。
 まずは館を御案内致します」

と、咲夜は言った。
美鈴は何度も咲夜に頭を下げていた。紳士は、今度は何があったのかわからない表情をしていた。






紅魔館。
外観も紅い色で彩られているが、内装も目にはあまりよろしくない独特の色で装飾されていた。
至る所に紅い色が使用され、まるでそれは鮮血を所構わずぶちまけたようであった。

「…これはこれは、一面血の海のようですなぁ」

紳士は辺りを見やり、言葉を発した。
彼なりの感想であるが、先行する咲夜と美鈴の心中は、何処かいつもと違っていた。

「……あのスキマ妖怪より胡散臭い気がするわよ、私は」
「そんな事言いながら、館に通したのは咲夜さんでしょう?」
「そりゃそうだけど、年寄りを外で野垂れ死にさせちゃしめしがつかないでしょ?」

2人は紳士に聞かれないよう、小声で話していた。


やがて到着したのは、紅魔館の客人用応接間であった。
この館は外の世界で使われていた館がそのまま幻想の物となったものであるから、設備は実に充実している。
幻想郷には、幻想となった物がやってくる。
古風な建物は殆どが潰され、一定の確率で、潰された建物がまるごと幻想郷に転移するのも、珍しく無い話だった。

「…良い香りだ。アールグレイだね」

咲夜に命じられたメイドがカップを置くなり、紳士は言った。
カップに注がれた液体は、馥郁たる香りを漂わせる。

「おわかりになられますか?」

咲夜が言った。

「仕事柄、紅茶を飲みながら菓子をつまむ機会が多くてね…」

良いながら、紳士はテーブルに置かれたクッキーをひとつ、口に運んだ。

「申し送れてすまないね。私の名前はChristophe Jean-Jacques Saint-Laurent。
 大学で犯罪心理学を専攻し、博士課程を修了。今は地方大で未来の学者達に教えている立場だ。
 …もっとも、たまにマス・メディアに意見を訊かれるがね」
「犯罪心理学者なのですか?」

咲夜が言った。

「著書には天才犯罪心理学者と名乗っているがねぇ。はっはっはっは……」

奇妙な笑いを浮かべつつ、Christophe Jean-Jacques Saint-Laurentと名乗った紳士は紅茶を飲んだ。

「こほん、失礼した。私はつい調子に乗ってしまう癖があるようだ。
 …犯罪心理学というのは、犯罪や犯罪者について研究する学問。
 犯罪者の性格、パーソナリティー、気質、取調べに於ける証言、
 そして、出所までの矯正プログラムなども担当する」
「ならば、あのネズミの対処法を是非御教授して頂きたいわね」
「「パチュリー様!?」」

不意に現れた、紫色の髪をした女性。
ソファに座っていた咲夜と美鈴は、思わず座ったまま振り向いた。

「Patchouli? ふむ…、化粧水でも作るのかね?」
「そういう意味ではなくてよ、Mr.Christophe」

図書館を統べる魔女、パチュリー・ノーレッジは、紳士―――――Christophe Jean-Jacques Saint-Laurentに言った。
初対面ながら強気なのは、彼女があまりその手の人間を信用していないからであった。
しかし、その手の専門家なのであれば、意見を貰うのは悪くは無い。

「はっはっは。それは失礼した、mademoiselle。
 ならば話は早い。このChristophe Jean-Jacques Saint-Laurent、貴女の質問とやらを聞こう」
「話は単純明快。私が管理している図書館に泥棒が忍び込み、本を根こそぎ奪っていく、おしまい」
「………随分と短絡過ぎるように聞こえるが…よろしい、考えてみよう。
 ならば、まずその図書館とやらを見せて頂けないだろうか………」










紳士はパチュリーの案内により、彼女が管轄する大図書館に赴いた。
この図書館の蔵書は、その殆どが存在を幻想となったもの。
言えば、外の世界の歴史に屠られたか、あるいは燃やされたか。
故に、現在の外の世界では閲覧できない本が揃っていた。

「これはこれは、随分と立派な図書館だ。
 それで、その泥棒とやらは、どんな本を盗むのかね?」

犯罪心理学者として、紳士はパチュリーに言った。

「その泥棒は私と同じで魔法を扱うの。だから専ら奪う本は魔法関係ね」
「魔法…………魔法ねぇ」
「…どうかしたの?」
「いや、嘗て私が携わった殺人事件の犯人が、魔法を駆使したかのような存在だったからねぇ…。
 ちなみにRouenという都市だが、mademoiselle、貴女はわかるかね?」
「それくらい知ってるわ。Jeanne d'Arc火刑の地じゃないの」
「ほほう、御存知であったか。これは失礼…」

紳士は、好々爺のような表情を作って言った。

「それで質問だったねぇ。魔法関係書を根こそぎ奪っていく泥棒。
 その泥棒の特徴を、いくらか教えてくれないだろうか?」
「そうね、年は15歳くらいかしら? 性別は女。ホウキに乗る魔法使いよ」
「ウィッチというやつだね。子供の頃に絵本で読んだ記憶がある。
 しかし、随分とお若い泥棒だ。しかも、女の子と来た」

パチュリーは思った。
…この男、何かを感付いている。確実に。

「それで、彼女が犯行を繰り返す動機は、その魔法関係の書物以外に考えられるかね?
 例えば金目の物がある…そういうくらいだが」
「図書館に金品なんて無いわよ」
「…ふむぅ、ならば単純な窃盗容疑だね。彼女が魔法関係の書物を盗むのなら、
 それを売りさばいて金にするか、それとも魔法の研究に勤しむかどちらかだ。 
 殺人を犯すわけでもないし、この図書館に火を付けるわけでもないし―――」
「ふふふ、嘘はいけないですねぇ、パチュリー様…」

その時、またまた女性の声がした。
紅い髪に、頭と背中に黒い羽。
通称リトル、本名不明、呼び名小悪魔という女性は、ニヤニヤ笑いながら言った。

「リ、リトル!?」
「…おやおや、可愛いmademoiselle。嘘というのはどういうことかな?」
「ダンナ、聞いて下さいませ、この女はでぃすねぇ、こっそり詩なんて書いていやがるんですよ」
「ちょ、ちょっと!!!」

パチュリーは突然慌て出した。
同時、小悪魔はポケットから紙切れを取り出す。

「…………詩、とはねぇ」
「えっ? 何かお気づきな……よっと、点……しつこいですよパチュリー様……でも?」

紙切れを奪わんとするパチュリーの攻撃を回避しながら小悪魔は言った。

「いや、私が携わった事件の容疑者、手記に詩を書き残していてね。
 ちょっとその事を思い出して…。で、その詩には何て書いているのかね?」
「よ、よまないでぇ~」
「はい、読みます」
「よ、よまないでぇ~」

パチュリーの懇願もむなしく、小悪魔は口を開いた。







『遠い空の紅い月夜 
 そっとのぞく あなたの姿・横顔

 唐突にあらわれて そばで笑いかけて 
 わたしを冷たい篭からそっと放つ
 埃だらけの本から そっとときはなつ

 あなたが見たら 驚くように
 可愛い服 探してきて
 私のこと 忘れないでよ
 泣き出す前に ぎゅっとだきしめて』








すらすらと、小悪魔は詩を朗読した。

「……ほっほ、成程。そういうことか」

紳士は納得した様子で言った。

「………う、恨むわよ、リトル」
「くけけけけ。私は悪魔ですよ、パチュリー様」
「まあ、そんな話は良いのだがね。
 私が携わった事件は、篭ではなく檻から抜け出そうとしていたがね」
「…檻、ですか?」

小悪魔が言った。

「その通り。…だが、その事件の容疑者は、檻から抜け出せなかった。
 何故そんなことが断言できるかというと、我々もまた、容疑者と同じ檻の中にいるからだよ……。

 さて、その詩から読み取れるのは、その泥棒は、どうやら君が抜け出したい篭から、君を抜け出すような存在みたいだね。
 ならば、誤解を招く事を承知で、このChristophe Jean-Jacques Saint-Laurent、
 あえて公言しておこう。

 …その泥棒を捕まえるのも、黙って見過ごすのも、君の自由だ。
 mademoiselle、もし君がその篭から抜け出したいのならば―――――――――」






























「その泥棒も、篭に閉じ込めてしまえばいい。……ふぅん、そんな事言う奴がいるんだな」

数日後、図書館で大量の本を積み上げながら、大泥棒こと霧雨魔理沙は呟いた。

あの後、紅魔館にて一晩を明かした天才犯罪心理学者は、翌日、連絡先を残して消えていた。
まるで神隠しにあったように…、彼の姿は、いなくなっていた。

「で、紫の方は何も言ってないんだろ?」
「ええ、昨日は結界を弱めた事は無いって。…まあ、彼女のことだから本当かどうか、わからないけどね」

椅子に座りながら魔理沙に言うのはパチュリー・ノーレッジ。
あのあと、小悪魔に拳骨を加えたためか、右手には痛みが残ることになった。

「なぁ、パチュリー?」
「何よ」
「仮にな、私がお前が作った篭に閉じ込められたら、お前はどうする?」
「……さあね、…どうするもこうするも、私の勝手だしね………」










そんな少女の会話は聞かれることは無かったが、様子だけは知ることができた。
シャッポを被り、左眼にモノクルをかけ、独特の形の口髭を蓄え、
40…50代の紳士は、マントを翻して歩き出した。







「彼女達は、彼女達の道を歩いているようだね。 
 そう、それが理想系なのだよ。
 人の生きる道は、その人自身が決めるもの。
 偉大なる勝利も、破滅への敗北も、各々の選択によって決断されるものだ。

 ………そして、彼女達は、……………やがて第六の地平線へと足を進めるだろう………」
……………言い訳はミクシィで書くことにします。

ただ一言。幻想の中に幻想を創りたかった…。
月影蓮哉
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コメント



0.480簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
ギャー!ネタかぶったorz
19.-10名前が無い程度の能力削除
どう聞いてもじまんぐです。
本当にありがとうございました。
21.-30名前が無い程度の能力削除
うさんくさいな
24.30これは良い作品ですね削除
悪くはなかったのですが、元ねたがあるのかな? 言い訳とはまたおだやかじゃないですね。 差し支えなかったら是非元ねたをご教授願いたく。
29.無評価てきさすまっく削除
オリキャラ注意? それともクロスオーバー?
トップに一文あるだけでも読者の反応が違うと思いますよ。
また、「他所」で「言い訳」というのはネガティヴ方向にコメントを誘発する最右翼(でもないかな)かと思います。
本編は比較的悪くなかっただけに、惜しいかと。
34.100U.N.オーエン削除
「殺戮の舞台女優」の話ですか。
この歌大好きです。
あと、この犯罪心理学者も。
40.90名前が無い程度の能力削除
最初の挨拶の時点で感づきましたが……

まさか本当にじまんぐとはw

あの胡散臭さなら幻想郷でもやっていけそうです。
42.無評価名前が無い程度の能力削除
Sound Horizon!

Romanが発売されて一週間、だれかがやってくれると思っていました!
44.-30名前が無い程度の能力削除
これはひどいインスパイヤ
47.-30名前が無い程度の能力削除
混同してほしくなかった
48.無評価名前が無い程度の能力削除
あんまり言いたくない言葉ですが、こういう内容こそプチに投稿すべきだと思います。
人を選ぶネタですし、ね。

それと、後書きが非常によろしくありません。
言い訳があるならあるで結構ですから、MIXIのような閉鎖環境に書かずここで書いて下さい。
書き逃げと受け止められても仕方ありませんよ。
敢えてフリーレスで失礼。
49.70Louge削除
Sound Horizonの有名なあの人ですか。
本編の文章はそれなりに纏まっていてよし。
インスパイアしている感は特に感じなかったですが
最後の言い訳云々のあたりに若干の-を加えてこの点数としました。

個人的にはこういうのは好きですわ。

50.-30名前が無い程度の能力削除
批判はミクシィで書くことにします。
51.-30名前が無い程度の能力削除
脊髄反射でマイナスを入れたくなった。
読み直したらそれほどひどくもないかな、
と思ったけどやっぱり駄目だ。特に最後第六の地平線とかいってるのが
もうホントいや。今度はもっと上手くやってくれ。
53.-30名前が無い程度の能力削除
はいはい、お疲れ様
55.70とらねこ削除
 今日、Elysionを購入して聞きました。
 最近ACのみならずSHにもハマリつつある自分です。
 よく纏められていると思います。
56.50悠祈文夢削除
悪い文章じゃないと思うけど。やっぱり、あとがきが拙かったね。
ちなみに元ネタは知りません。
57.-30名前が無い程度の能力削除
これはひどいよ。
60.-30名前が無い程度の能力削除
第一に『言い訳はミクシィで書くことにします。』この姿勢がいけませんね。

てきさすまっくさんが先に述べられていますが、
クロスオーバーなら文頭に注意書き位書くべきです。

62.-30名前が無い程度の能力削除
これはダメだ。
ひどすぎる
64.70SDH削除
東方とSHのクロスオーバー。
自分的にはアリですが、このネタは人を選びますから注意です。
72.-20名前が無い程度の能力削除
……………感想はミクシィで書くことにします。
こうですかっ わかりませんっ ><
73.-30名前が無い程度の能力削除
東方とサンホラを絡ませる、という発想を悪いとまでは言えません。
ですが、それならばそれでもう少し、読者の目を意識した丁寧な文章(もしくは冒頭に注意書きを添えるなどの配慮)を心がけて下さらないと……。

最後のあとがきが、この作品のすべてを潰して下さいましたね。その無神経さに敬意を表して。
74.-30名前が無い程度の能力削除
76.100名前が無い程度の能力削除
元ネタ知らないけどマイナス点が多いから