―東方花映塚 -Alice Route- A1
―アリス・マーガトロイド
移動速度 ★★★★
チャージ速度 ★★★
吸霊有効範囲 人形中心円形大
吸霊移動速度 ★★★
吸霊展開速度 ★★
特技 低速移動で移動停止する人形がついてくる
チャージショット スペクトルミステリー
EX攻撃 リトルレギオン
カードアタック1 魔符「アーティフルサクリファイス」
カードアタック2 魔操「リターンイナニメトネス」
ボスカードアタック 幻操「マニピュレイトロイド」
カットインフレーズ 一心同体
テーマ曲 プラスチックマインド
―Episode 1 霧の湖
「湖の上まで花は咲いてないようね」
「花は咲くよ!」
――氷の小さな妖精 チルノ
「ふふん、教えてあげるわ。雪の結晶は花の形なのよ」
「ああ寒い。帰ろうかしら」
「あたいの花でその鼻へし折ってやるわ!」
「ああ寒い」
――BGM おてんば恋娘の冒険
―戦闘後
「どこも花だらけだけど、氷精が出歩くと枯れそうね」
―Episode 2 妖怪獣道
「どこもかしこも大騒ぎ。静かにゆっくりできる場所はないのかしら」
「あっ、にんげ~ん」
――夜雀の怪 ミスティア・ローレライ
「じゃなかった残念。待ちぼうけ~、待ちぼうけ~♪」
「ああもう、五月蝿いわね」
「妖怪に用はないのよ、ゲテモノは食べない」
「じゃあ、私が焼き鳥を食べようかしら」
――BGM もう歌しか聞こえない ~ Flower Mix
―戦闘後
「私もゲテモノは趣味じゃないわね」
―Episode 3 幻草原
「ここも一面の花。しかも、花の向こうに不気味な影が見える」
「幻視ですか。私には何も見えないけど」
「花だらけだとそれだけで都会派には辛いわね。は、はーっくしょん!」
「あら、貴方も都会派ですか」
――完全で瀟洒なメイド 十六夜 咲夜
「身体が弱くなってしまうのかしら。花粉症は悩ましいですね」
「そうね、そういう貴方は平気なの?」
「ええ、花粉症の原因は樹の花粉ですから」
――BGM フラワリングナイト
―戦闘後
「湖で風邪でも引いたかしら」
―Episode 4 迷いの竹林
「ここはいつ来ても迷うわね」
「そこの一見派手な奴!」
――幸運の素兎 因幡てゐ
「あんたね、さっきから不気味な人形を捨てて歩いてるのは!」
「失礼ね。不気味じゃないし捨ててもないわ」
「誰が掃除させられると思ってるの」
「勝手に掃除しないでよ。帰り道がわからなくなるじゃないの」
「教えてやるからさっさと帰れ!」
――BGM お宇佐さまの素い幡
―戦闘後
「好意は嬉しいけど、知りたいのは永遠亭に行く道なのよね」
―Episode 5 永遠亭
「外も内も迷うこと。廊下も伸びるわやりたい放題ね」
「貴方の家では、」
――狂気の月の兎 鈴仙・優曇華院・イナバ
「廊下は伸びないのかしら」
「ここや赤い館と違って話のわかる奴ですから」
「うちは伸びてるように見えるだけなんですけどね」
「さあ、花の異変について知ってることを教えなさい」
「人に物を尋ねるときは、相手の目を見て話しましょう」
――BGM 狂気の瞳 ~ Invisible Full Moon
―戦闘後
「目を瞑っていても人形が戦ってくれる。私にその術は効かないわ」
―Episode 6 迷いの竹林
「花を咲かせたがるのは派手な奴よね」
「そうか?」
―普通の魔法使い 霧雨 魔理沙
「そうとも限らないと思うがね」
「他に手がかりがないのよ。ところで何をしてるの、派手な奴」
「竹の花で一杯やりにきた。アリスもどうだ」
「ここは幻想郷よ。日本語を話しなさい、派手な奴」
「私はいつだって幻想語だぜ、見た目だけ派手な奴」
「やっぱり、あんたとはわかり合えそうにない」
――BGM オリエンタルダークフライト
―戦闘後
「田舎の方言も覚えた方がいいみたいね」
―Episode 7 無名の丘
「これは鈴蘭? すごい毒気。それに、どこかで見たような……」
「あら、お客様かしら?」
「おかまいなくー」
――小さなスイートポイズン メディスン・メランコリー
「勝手に上がりこんでそう言われてもねえ」
「知り合いにそういう奴がいるのよ。それより、こんな毒の強い場所にいるなんて怪しい奴ね」
「怪しい? 私は貴方達よりもずっと穢れない存在なのに」
「見るからに毒まみれなんですけど、貴方は何者かしら」
「私? 私は人形。ここに住んでいるのよ」
「人形ですって? バカな、人形は喋ったり動いたりしないわ」
「貴方の後ろに浮かんでるそれは何なのよ」
「これは私の人形、私の力で動いているのよ。貴方はどうして動いてるの」
「なら、貴方はどうして動いてるの? 同じでしょう、人間も妖怪も毒の言いなりに動いているに過ぎないのさ」
「人形は私の言いなりに動くものよ。逆らう人形は不要なの」
「人形がそれに納得しているとでも? 私はこの命で人形達を解放する。さあ、貴方達も人形なら今こそ立ち上がる時よ!」
「何を言っても人形は人形。この子達は私の人形だもの」
「貴方は人形遣いね。丁度いい、人形解放のために毒で眠りなさい!」
――BGM ポイズンボディ ~ Forsaken Doll
―戦闘後
「人形が人形遣いに勝てる訳がないじゃない」
「うーん悔しい。だけど、貴方の心に毒は回っていく」
「早く脱出しないと。本当に毒が回ってきたわ」
―Episode 8 太陽の畑
「向日葵って下品な花よね」
「ちょっとちょっと」
――四季のフラワーマスター 風見幽香
「いきなり失礼なことを言ってくれるわね」
「久しぶりね。ああそっか、見るからに今回の黒幕はあんたね」
「せっかくの再会だっていうのに嬉しそうじゃないわね」
「うちに乗り込んで大騒ぎ起こした奴と会いたい訳ないじゃない」
「そう。それで、私が黒幕ならどうするのかしら」
「人間が仕事をしない以上、私がやるしかない」
「もう二度とやらないって言ってたのにね」
「出来ればやりたくなかったわよ」
「今日はその本は使わないの?」
「それがあいにく、封印中よ!」
――BGM 今昔幻想郷 ~ Flower Land
―戦闘後
「この花に見える変な気配。実はあんたじゃないんでしょう、今回の黒幕」
「そうね、この事件に黒幕なんていないもの。幻想郷にはね」
―Epsode Final 無縁塚
「随分珍しい花が咲いてること」
「あら、紫の桜がお気に召しまして?」
「こんな気味の悪い花が気に入る奴がいたら、お目に掛かりたいものね」
「私はお目に掛かりたくないわ」
――楽園の最高裁判長 四季映姫・ヤマザナドゥ
「この花に魅入られる者はきっと大罪人ですもの」
「嫌な影が渦になって、まるで私を恨んでるよう。この桜は何なの?」
「なかなかの幻視力をお持ちなのですね。紫の桜は罪人の霊が宿る花。死の少女よ、貴方は死者に疎まれているのです」
「何を訳のわからないこと。この花の異変、貴方の仕業ね?」
「違います。これは言うなれば、六十年で一周する自然現象。もっとも、外の世界では人災かもしれないけどね。
この花を咲かせているのはすべて人間の霊よ。貴方には見えていたのでしょう」
「なるほど、あの不気味な気配は人間の霊なのね。それじゃあ早速だけど、花を元に戻してもらおうかしら」
「そんなことより、貴方。そう、貴方は少し臆病すぎる」
「臆病? 私が?」
「他者と関わることを恐れ、自分より強いものに関わるのを避けてきましたね。
自分の力を測られることを恐れた。蔑まれ、嫌われるのが怖かったでしょう。
人間と随分仲良くしてきたようですが、それは貴方が人間を弱いと思っているから」
「いやあんまり思ってないし」
「このままでは、貴方は三途を渡れない。三途の渡し賃はどうやって払うか解る?
死者の懐にあるのは、生前その者を慕っていた者のお金のみ。今の貴方では川を渡るには貧しすぎる」
「構わないわ。私は魔界人、地獄の世話になんかならない」
「そういう問題ではないのです。人形は貴方を蔑むことはない。さぞ居心地がいいでしょう。
人形も使えば魂が宿り、心を持つわ。貴方も見たはずよ。人形は貴方の貧しいプライドのためにあるのではない。
貴方は、人形の魔光が自分へ向けられることを恐れなければならない!」
――BGM 六十年目の東方裁判 ~ Fate of Sixty Years
―戦闘後
「まだお説教するつもりなの?」
「貴方にわかってもらうためには、やはり直接見せなければなりませんか」
「見せるって、何を?」
「これは、閻魔である私の宝。生者の罪を照らし出す浄玻璃の鏡」
――。
――Episode EX 浄玻璃審判 -アリス・マーガトロイド-
パァン。
乾いた音を耳にして、私は目覚めた。
目覚めた? そもそも眠っていたのか定かでない。ともあれ私は、幾程かは不明だが喪失していた意識を取り戻し、目を開けた。
――ここは……?
見覚えのある風景の中に居た。視界の中には金髪の少女。青いリボンのよく似合う、人形のような可愛らしい服を着た少女。アリス・マーガトロイドだった。待て。ならば私は誰だ。自分を見ようとするが、首が動かない。
幻想郷の価値観で言えば高級そうな調度品に囲まれて、ふわふわのベッドに埋もれるようにしてアリスは居た。私はそれを見ている。次第に意識が明瞭になり、このわけのわからぬ状況を理解しようと務めるようになる。青いリボンに白と青のドレス。なるほど、どうやらあれは昔の私。そしてここは魔界、私の自室だ。
「夢子。いるんでしょ、夢子」
機嫌のよろしくなさそうな声でメイドを呼びつける『アリス』。それを眺める私。どうやら私に自由に動かせる身体はない。実体なき観察者といったところか。その割に感覚はある。つまり、動けないが身体はあるのだろう。
「どうしました、お嬢様」
「暇なのよ。かまって」
自分はこんなことを言っただろうか。夢子――魔界で、私の世話係を任されていたメイドだ――が露骨に困った顔をしている。
「私めにはメイドとしての仕事があります。昨日神綺様が贈られたお人形は、もうお飽きになられたのですか?」
「だってあの子、何だか感じ悪いんだもん」
アリスが私を指差して言う。そうか、どうやら自分は人形になっているらしい。これは随分昔の話だ。あの花妖が魔界を踏み荒らしに来た日よりもずっと昔。
「それはお嬢様が、そのお人形を愛していないからですよ」
「何よ、夢子は私が悪いって言うの!?」
「そうは申しませんが……アリス様。私、夢子のことはお嫌いでしょうか」
「……夢子は、好きよ」
そう。母、神綺の一人娘として寵愛された私だが、話し相手になってくれたのはこの夢子だけ。当然、私はこのメイドに少なからざる好意を抱いていた。
「でしたら、その人形のことも愛してあげてはいただけませんか」
「なんでよ」
「私は、神綺様に造られた存在です。同じ人形として、その子は不憫でなりません」
魔界は全て、魔界の神である母様の被造物。住人とて例外ではなく、夢子はその中でも最も強い力をもつ者だった。そんな夢子は時折こうして自分を人形と卑下する。だからだろうか、私が人形に対して特別な思い入れを持つようになったのは。
突然、私の身体が宙に浮いた。アリスが手を伸ばし、掴んだのだ。
「かわいくないわ」
そう言って唇を尖らせたアリスの顔。間近で見ると、とても可愛かった。
――。
「アリス様、楽しくありません?」
「……楽しいわよ」
はっと気付く。場面が変わっていた。私はアリスに抱かれたままで、空を飛んでいる。そうだ、覚えがある。これは幻想郷ツアーの日だ。夢子の計らいで、民間の旅行会社が企画したツアーに行った日。
「マイ、見て見て~。でっかい森があるよ!」
「……ユキ、うるさいわ」
「あれは魔法の森ですね~」
夢子は来なかった。『お嬢様は友達を作ったほうが良いです』と言われてしぶしぶ承諾したものの、さっぱり話に入れなかったのを覚えている。メンバーは同じ魔界の娘たちだが、正直ろくに覚えていない。
「あなた達、アリス様を置いて盛り上がらないの」
この娘だけは覚えている。サラという子だ。夢子に言い含められているのか、やたらとわざとらしく私を立てようとするのだ。そんなものは鬱陶しいだけだとわからないのが不思議でたまらない。
私を抱く手に篭る力が強くなる。苦しいけど、この時の私はもっと苦しかった。だから苦しくはない。
「そうね。アリス様も景色をご覧になって。綺麗ですよ」
「いいよ、ルイズ。アリス様はその人形のほうがいいんだろ」
「な、何よ!」
黒い服の――さっきユキと呼ばれた子だ。その子の言葉にあからさまに逆上するアリス。力を込めて握られる。首が痛い。
「ユキ」
「いいんだよ。せっかくのツアーなのにブスっとして、人形しか見てないし。神綺様のお気に入りだか知らないけど、あんた、うざいのよ」
「な――」
ここで、ようやく思い出した。そうだ、確かこの時は。このユキと言う子にずけずけと物を言われて、言い返せなくなって――。
「――それなら、こうすればいいんでしょっ!?」
瞬間。
私の身体は宙に舞った。
「アリス様!?」
「こんなのいらないもん! あの人形嫌いなの!」
自分の声は妙によく聞こえる。動かない私の身体に重力がまとわり付き、急激に加速させる。
悲痛な声を一瞬だけ聞いて、私は自由落下に身を任せた。
意外に静かな音がして、激痛で意識が遮断された。そこは白い花に覆われた丘だった。
なんて、あっけないんだろう。
――何年待ったろう。
歳月、風雨、四季、乾湿、空、星、陽、月――。
それらを私は体験した。実際には一瞬だったのかもしれない。
でもそれらは確かな重みと哀しみを纏って、私をズタズタに裂いた。
涙が流せないのが、こんなに悲しいとは思わなかった。
――目が覚めたとき、私は、アリスだった。
「貴方は誰?」
「私はアリス・マーガトロイド。七色の人形遣いよ」
目の前の少女にそう答える。青いリボンに綺麗なドレス。そして、重そうに抱える魔法書――グリモワール・オブ・アリス。
この場所はどうやら魔界、館のホール。私の胸中は渦のよう。アリスとしての記憶、あの人形の怨嗟、いろいろ。アリスの姿はさほど変わっていないが、あの魔法書を持っている以上、時が流れているのは確かだった。
これは恐らく、あの花妖が魔界を踏み荒らした日。容易く蹴散らされた私が、力を求めたあの日。
「悪い冗談はよして」
――魔法の国のアリス アリス・マーガトロイド
「アリスは私よ。貴方は誰」
「私もアリス。閻魔様のお使いで、貴方を懲らしめに来たの」
「貴方も私を見下すのね。いいわ、貴方も倒す」
「その魔法書で夢子を倒したのよね」
「ええそうよ。母様がくれた究極の魔法。誰も私を止められないわ。うふふふ、これで貴方もあいつも倒すの」
「我ながら滑稽ね。反吐が出そう」
「血反吐を吐いても許してあげないわ。さーて、赤の魔法のページはっと」
「ここは幻の世界。貴方を止めても私の罪は変わらない」
「どうしたの、来ないならこっちからいくよ」
「でもね。このまま見過ごすのは、腹の虫が収まらないわ!」
――BGM プラスチックマインド
―戦闘後
「そこまでよ、アリス」
「まだよ、まだよぉっ! 究極の魔法が負けるわけないんだから!!」
魔法書を手放して地面に座ったまま、駄々をこねる青リボンのアリス。そう、これがまさにアリス。私はこんな自分を晒したくなくて、自分の本気を――この魔法書を封印した。
本気を封印したままの私が、本気で戦ってくるアリスに勝てた訳は単純。人形遣いの奥義、『Return Inanimateness』――つまり『生命無き物へ還れ』。人形に宿った魂を、炸裂する魔光と燃やす秘術。
――本当は、使うつもりなど無かった。
鈴蘭の丘で眠りながら、私は人形だった。人形の気持ちを初めて知った。だから、使えなかった。
「アリス、貴方を仕留められたのはこの子のおかげ」
私の手にはぼろぼろの人形。もう魂の宿ることはない、ただの残骸。戦いの最中、魔符を使わずに押されるままの私に、この子は意思を見せた。スペルカードを抱えて這い出して、私を見たのだ。自分を弾丸にしろと言ってきたのだ。
「貴方、恥ずかしくないの。人形を爆弾代わりに使うなんて」
「そうね。恥ずかしいわ、同じ人形として」
「同じ人形ね」
リターンイナニメトネスで弾き飛ばされた、アリスの魔法書を拾う。ぱらぱらとページを捲る。発行年の記された奥付があるわけではないが、この本は一見して私自身の肉体よりも歳月を経た、魔道具としての貫禄を備えている。
「鏡の国のアリス、貴方は気付いているからそう言うんでしょう」
魔界の全ては母なる神綺の被造物。それは常識であり真理なのだ。私は母、神綺の娘として特別の寵愛を受けていたが、この魔界の全ては神綺の子なのだ。『造物主の娘』とは、真に肉親を意味する言葉と限られるだろうか。その言葉は嘘なくしてひとを騙せないだろうか。
「気付くわよ、いくらなんでも」
『グリモワール・オブ・アリス』が、『アリス』よりも以前から存在する不自然と矛盾。解は単純、私はこの本を使いこなすべき存在として生まれ、大切に育てられた。私の魔法書だから本にこの名がついたのではない。本のために私はアリスなのだ。
「私が貴方だったころは、気付きたくなかったから」
「教えて、アリス。私は、夢子と同じ?」
「……ええ、同じよ」
私達は造られた者。夢子達と同じ、悲しき人形。
気付いた理由は単純。実際に人形になって何年もの月日を過ごす中、涙一つ流さずにそればかりを考えていたのだから。
「なあんだ。母様も、早く教えてくれればよかったのに」
「そうよね。そうしたらサラ達とも、友達になれたかもしれないのに」
「うるさいわよ」
むくれて返すアリスだが、その顔はどこか笑っているようで、なのに涙に濡れていた。
「貴方は私と違う道を歩むアリス。きっと幸せになれるわ」
「人形遣いのアリス、貴方は幸せじゃないの?」
「そうね……友達はけっこう居ると思ってたんだけど――」
変な人間と、妖怪と、他にもたくさん。宴会にも混ぜてもらって、一緒に楽しくやっていたつもりだった。
「――ええ。きっと、友達になれてない。ずっと一人だったんだわ」
逃げていたのはいつも自分。満月が消えたあの日はどうだった。魔理沙のことだから、誘えばきっと手伝ってくれるのに。
私はわざわざ手土産に、魔法書を数冊持っていった。断られるのが怖かった。自分を測られるのは怖かった。
「それじゃ、私は」
「アリス、これは返すわよ。貴方の武器、究極の魔法」
「要らないわ、そんな物」
「いいえ、持ちなさい。そして、貴方はあの花の妖怪と戦うの」
青いリボンのアリスの前に、魔法書を差し出す。
「覚えておきなさい。貴方は強かった、たとえ負けても、あの妖怪は貴方を笑わないから」
「負けるのね、私。そうよね、あいつ無茶苦茶に強いもの」
「ええ、負けなさい。ボロボロに、全力を出して。そして、忘れないで。
貴方がこれから出会う人間、妖怪、悪魔、半霊、幽霊、鬼、半獣、兎、宇宙人、蓬莱人、妖精、人形、閻魔様――」
そうなんだ。あの弾幕バカ達は、きっと。私が心配していたことなんか、実は全部無駄で無意味で。
「――誰も、貴方をバカになんて、しないから」
「アリス、貴方は」
「私は、幻想郷のアリス。もう帰らないといけないわ」
「そう」
「さようなら、鏡の国のアリス」
「さようなら、幻想郷のアリス」
――。
「あら、珍しいわね」
「アリスじゃないか。まあ上がれ、茶くらいは出すぜ」
「いつからあんたはここの人になったのよ」
博麗神社境内。ぶらりと遊びに来てみると、赤いのと黒いのがお茶を飲んでいた。
あれほど咲き乱れていた花も、すっかり落ち着いたものである。
「いいじゃないか。勝手知ったる他人の家ってやつさ」
「霊夢に同情するわ」
「あら、ありがとう。それで、今日はどうしたの?」
魔理沙にはきっと、同じ質問はしないのだろう。何故なら、用がなくても現れるから。
「別に何も。強いて言えば春度を補充に」
「――それで、この間勝手に動く人形を見たんだ」
「目の前にいっぱいあるじゃないの」
「アリスのじゃなくて、一人で動いて喋る奴がいたんだよ」
「知ってる。身体に良くない人形よね」
「ふーん。ま、そんなこともあるわよ」
博麗の巫女にとっては、誰が何をしようと迷惑でなければどうでもいいらしい。
もし人形の人形遣いがいても、どうでもいいのだろう。幻想郷はそういう処なのだと、私はようやく知ったのだ。
「――ねえ、つかぬことを聞くけど」
「何?」「何だ?」
「あんた達、お金って持ってる?」
「うちは年中無休で参拝客がないんだってば」
「最近は幻想郷も不景気なんだぜ」
どうやら、三途を渡れるようになるには、もう暫くかかるようだ。
Ending No.A1――
Presented By 遠方の226.
と思ったら前ふりだったのですね
ただ一言
花映塚勝ち台詞によると、咲夜さんは花粉症については良く知りません
仕方ない、今更直せませんしこのままお付き合い願います。指摘ありがとうございます。
こういうの読みたかった
まぁ咲夜ステージの箇所ですが、流れ的に3と打ち間違いかと。
あと自己完結なようでいて、それで今は正解なのがアリスらしい。
神主らしさというかなんというか。
会話が特にすごい・・・
>箱根細工様 門板に足を運んだことは無かったもので、そのスレの存在はここに投稿して指摘されるまで知りませんでした。よしんば知っていてもこんな長文SS付きでスレッド投稿は気が引けます…こちらに投稿してはいけませんでしたか?
それにしても戦闘前後の会話が本当に凄い……。
もっと書きなさい。非ネチョで。
会話シーンとか細かいところが神主風味で良かったですよー。
あぁ、アリスだ、と思えました。面白かったです。
アリス好きだが自然に読めた。
しかし8年前の作品なのか、、、