Coolier - 新生・東方創想話

『セラギネラ』 第一話 その4

2006/11/23 11:28:57
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 レミリア・スカーレットは開け放たれた窓の外に姿を現したバルコニーへと足を
運んだ。既に沢山のメイドが二列縦隊で空中に整列している。全員が手に手に
ランプや燭台、ガス燈などを持ち、あたかも光の道のようだった。
「お姉様、私も」フランドール・スカーレットが手を伸ばす。レミリアは特に迷う事も
無く微笑んで彼女に手を差し伸べた。二人がバルコニーから飛び立つと、光の道
があたかもモーゼが海を割ったように左右へと分かれていく。
 遠く光の先に、人間の魔法使いの姿が見えた。

 紅魔館に到達した霧雨魔理沙が図書館のある棟へと箒を向けた時、館の主と
その妹が目の前に立ちはだかった。
「おや珍しい。門番の次がいきなりラスボスとはな」魔理沙は不意を衝かれて多少
驚いたものの、普段と変わらない口調でそう言った。
「こんなに月の綺麗な夜だもの。遊ばない手はないわ」にっこりと微笑んで、永遠
に紅い幼き月はスカートの裾を摘んで優雅にお辞儀した。


BGM:亡き王女の為のセプテット
Border of duel appears
Curtain Fire Play
Start


「フラン、お前は私から離れぬがよいよ。しっかりつかまってなさい」妹を背中に
つかまらせ、姉は自分目がけて真っ直ぐに向かってくる白黒を見据えた。あわや
衝突という瞬間にふぅわりと舞い上がり回避すると背中から楽しそうな笑い声が
聞こえた。
 魔理沙が高速かつ直線的な機動とレーザーやミサイルといった高火力にもの
を言わせた弾幕スタイルを特徴としている事はこれまでの自分や館の住人の
経験から分かっている。それが自分の対手としてどの程度まで釣り合うかも凡そ
知っている。
 そして、紅美鈴に運気は操れないが、レミリア・スカーレットは運命を操れるのだ。
「どうした魔法使い、八卦炉は撃ち止めかい? 機を見るなんて似合わないから
さっさと使って御覧」
「おお、言われなくても今使うところだったのさっ!」レミリアからの弾幕を待って
いた魔理沙だったが、あっさりと挑発にのって八卦炉を構えた。

Power of Spiritual Border wake up
恋符「マスタースパーク」
Set Spell Card
Attack

 極太のレーザーが照射されてレミリアとフランドールを飲み込む一瞬前に、魔理
沙の視界を無数のコウモリが遮った。レーザーの光さえも覆い隠す闇が辺りを包
み込んだかと思うと、もう次の瞬間には二人の姿が目の前に無かった。
 左肩に誰かの手が置かれる。
「ねぇ魔理沙。お姉様ったらご自分がしょっちゅう服の前をこぼした血で汚してらっ
しゃるのにうちのメイドが前掛けを付けさせようとすると「そんなものはフランに着け
させるのがお似合いよ」って仰るのよ。私は頑張ってお姉様ほどこぼさないように
しているのにひどいと思わない?ねえ、まぁりぃさぁ~」耳朶に悪魔の妹の吐息が
かかる。
 フランドールよりさらに後ろ、僅か数センチのところでレミリアは符に手をかけた。

Power of Spiritual Border wake up
神鬼「レミリアストーカー」
Set Spell Card
Attack

 空間を埋め尽くすように無数のクナイ型の魔弾があふれ出し、更に全方位への
レーザーが照射される。高速の機動が身上の魔法使いは、しかし博麗の巫女と
は違って速度域は狭く低速時の運動能力も低い。自分の周りを取り囲まれるより
も前に離脱しようとする魔理沙からあっさり手をどけて、フランドールは再びレミリ
アの背後に戻った。


 さて、時間はやや前後する。
 墜落した紅美鈴が上半身を起こして目を開けると、目の前に十六夜咲夜の顔
があった。
「やられたわね」別に咎める風でもなく言う彼女のはるか頭上、紅い紅い月の下、
彼女達の主とその妹が今まさに館を出て行くところだった。
「・・・ああ、綺麗だなあ」美鈴はすっくと立ち上がると上を見たまま言った。こんな
に月が紅くては、魔理沙もただでは済まないだろう。
「その調子なら大丈夫、よね?言っておくけど今から二人で大急ぎで浴場の掃除
よ。お嬢様は勝つ気まんまんで、魔理沙が汚れるから風呂を沸かしておけって
命じたのよ」二人で館へと飛び戻りながら、咲夜は何故だか含み笑いを漏らした。

 紅魔館の浴場は、前述の通り館の主が風呂嫌いのためろくに使われる事が
ない。咲夜はたまに時を止めてこっそり一人で入浴したりもするが、そんな器用
な真似の出来ない美鈴は普段は庭の作業小屋で大だらいにお湯を張ってそれで
身体を洗うくらいである。
 レミリアの気まぐれで久しぶりに浴場が堂々と使える事になったため、二人は
てきぱきと清掃作業を進めた。いつの間にか巣を作っていたクモに退散してもらい、
大理石の浴槽を雑巾で乾拭きしたあと水をぶっかけて流し、壁や床面に丁寧に
ブラシをかけ、へちまたわしや石鹸や薔薇水その他を新品と取り替えて、ついで
に浴槽に浮かべる花びらも用意した。
「そろそろけりがつく頃かしら」水浸しのスカートの裾をしぼりながら咲夜が言っ
た。こちらは後は浴槽にお湯を張るだけである。と言っても浴槽を満たすほどの
お湯は短時間では沸かないから、水を張った後に魔法で適温にするのだが。
「さ、咲夜さんも水汲み手伝ってくださいよ」美鈴はさっきから一人で水桶を担い
で井戸と浴室とを往復していた。
「それくらい一人でやっても罰は当たらないでしょ。ここまで手伝ったんだもの、
感謝されてもいいくらいだわ」
「私まだ夕食たべてないんですよ~」
「あらご免なさい。今頃全部みんなの胃袋の中だわ」メイド長の薄情なお言葉
に、門番は大きくため息をついた。


 呆れるほどの粘り強さで、魔理沙は何とか持ち堪えていた。
「あははははははははははねえ魔理沙どうしたのいつもはもっと元気にトンボ
みたいにぶーんって飛ぶじゃない何でそんなによたよたと死にかけのハエみた
いに飛ぶのねえレーザーはまたさっきのレーザー撃ってよぶわぁって素敵じゃ
ないぶわぁっってうちのお庭の噴水の隣の小便小僧みたいにぶわぁっっって」
フランドールが笑顔でそうまくしたてた。彼女と彼女がつかまっているレミリア
の周囲は無数の弾幕に守られていて近付くのも容易ではない。
「悪いな、そっちはもう看板だ。代わりにこっちを食らいな」魔理沙はレーザー
を撃つのに飽きていたので別の手でけりをつけることにした。

Power of Spiritual Border wake up
魔符「スターダストレヴァリエ」
Set Spell Card
Attack

 魔法の箒から無数の星屑が流れ出し、元々の高速を更に加速する。つばの
広い真っ黒な魔女の帽子を片手で押さえ、とても目が追いつかない速さで白黒
が突っ込んできた。

「ああ、凄いスピードだ。惚れ惚れする」吸血鬼は目を細めてうっとりとした声で
そう言った。
「凄く遅くて蚊でも止まりそうじゃないか」目を見開いた彼女の手に紅い槍。

Power of Spiritual Border wake up
神槍「スピア・ザ・グングニル」
Set Spell Card
Attack

 手にしたそれを頭上にかざし、ぱっと手を放すと真っ赤な光を残して一瞬で見え
なくなった。翔け抜ける距離の長さなどまるで関係なく、次の瞬間にはもう魔理沙
の箒を僅かにかすっていた。ただそれだけの事で彼女の箒は操縦不能に陥り、
きりもみしながら墜落していった。
「楽しい時間はすぐに過ぎるね」
「やーられたーーっ!!」


Border disappears


 ところで、この日の夜の本当の見ものは此処からだった。
 魔理沙を捕まえて大勢のメイドに出迎えられて意気揚々と凱旋したレミリアは、
次の瞬間に浴室で素っ裸にされて咲夜に頭を洗われている自分を発見したので
あった。そこまで運命は操れなかったらしい。
「何てことを、するん、だ。ちょっと、咲、夜聞いてる」
「はいはいおとなしーくしてて下さいねお嬢様すーぐ済みますからね」泡だらけの
髪の隙間から、浴槽にはフランドールと魔理沙が仲良く浸かっているのが見えた。
「お前の姉ちゃんは風呂嫌いか。道理でまあいつ来ても館中香水くさいわけだ」
「えへへ、私は魔理沙が一緒に入ってくれるなら毎日でも大丈夫だよ」薔薇水を
垂らした上に薔薇の花びらまで浮かべて、二人ともご満悦の表情だった。
「はいお湯かけますよざばー。はい次はお背中流しますねちょーっと翼に触れ
ますよー」子供をあやすように(じじつ相手は子供だが)咲夜は言って、石鹸で泡
立てたタオルでレミリアの背中を擦った。起床時に濡れタオルで拭いた時とは
うってかわってごしごしと満遍なく洗ってゆく。紅魔館の主は先程までの上機嫌
も何処へやら、今はただぶんむくれた顔をして体中泡まみれにされるのに耐え
ていなければならなかった。

 次回で恐らく終わるはずです。蛇足を愛する性分でして毎回
無駄に話を長引かせてしまうため、余韻もへったくれもありま
せんがどうか最後までお付き合いください。
マムドルチァ
[email protected]
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コメント



0.1130簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
タイトルの第一話ってのが気になってたり

レミリアいいよレミリア
10.無評価マムドルチァ削除
 どうも、レミリアお嬢様を気に入っていただき正直ほっとしました。
彼女ほど強烈な個性のキャラクターを、はたして上手く描写できている
か不安でしたので。

 第一話とある以上第二話があるのでしょう。その際は是非また読んで
頂ければ私には最高の励みです。
21.無評価kagely削除
今までは美鈴を中心に話が進んでいた気がしますが、この回では色々なキャラがよく表現されていて楽しかったです
セリフの流れが凄く東方的