~一日目~
「班長!前方に小石あり!!」
「パチュリー様には危険よ。もし転ばれたら、後で整備不良で難詰されるわ。清掃!」
「了解!」
「前方に倒木あり!」
「落ち葉が三枚落ちていました!」
「倒木は速やかに排除!落ち葉も直ちに回収なさい!!」
「本部よりです、パチュリー様及び小悪魔は現在E-3地点、到達予想時間は89分後。ストーキング中のレミリア様の到達までは95分の見込み」
「わかったわ、作業を急がせなさい。だけど発言には気をつけてねサナエ。きょうび、どこにメイド長直属の、レミリア様カリスマ維持委員の連中が潜んでいるのかわからないんだから」
「そ…そうですね、以前もI班の班長が、紅魔館機密漏洩罪で捕まりましたし…レミリア様が魔法図書館に入ろうとして、対侵入者用落とし穴に落ちたのを話したんでしたっけ」
「しっ、それは隊機よ。全く、メイド長が余計なことするから逆にカリスマ下がってるのよ」
「あああ班長!今の発言は危険です」
「そ…そうね、うかつだったわ。早く次の作業に…」
「いいえこれでおしまいですフヨウ班長。レミリア様カリスマ低下罪、及び司令部に対する反抗罪で指揮権を剥奪します。サナエ、あなたも同罪です」
「「ああっ!?」」
「もう司令部には通報しました。あなた方は懲罰室送りです、その身にレミリア様のカリスマと、メイド長に対する忠誠を刻み込んでもらいなさい」
「そ…そんな、タリアあなたが維持委員だったなんて…」
「ふふふ…迂闊でしたね班長。只今より私が指揮を代行します!各員、道を小石一つ、落ち葉一枚もないような状況になさい!パチュリー様かレミリア様になにかあったら、全員まとめて懲罰室送りよ!」
「ふむ…また来たか」
騒がしくなってきた小道を見つつ吾輩は呟く。見れば十数名のメイド連中が道を無駄にきれいにしつつ、前進していた。
紅魔館の連中だ、主が外出するとなれば毎回毎回この騒ぎ、過保護にすぎると思うのだが…何はともあれ、発見されると『敵性妖怪』だなんだと因縁をつけられ攻撃されることがある。
とっとと退避するのが賢明か、吾輩はゆっくりと水中に身を隠す、君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなしという奴だ。
さて、しばらく吾輩が目だけ水面上に出して様子を伺っていると、あまり見かけない二人組がやってきた。…ふむ、紅髪の方はたまに上を飛んでいるか。確か紅魔館の小悪魔とかいう奴だったな…
吾輩は、ひとまずその状態を維持しつつ、様子を伺う。この状態なら仮に見つかった所ですぐに潜ればいいだけの話だしな。
「パチュリーさま、今日はずいぶんと道がきれいな気がしませんか?」
「…普段私は出ないからわからないわ」
「あー確かに、でもパチュリーさまったらいっつも引きこもっているからそうなるんですよ。その内もやしになってカビが生えてキノコになりますよ?」
「私はもやしにならないしカビも生えないわ。カビが生えてるのはあなたの頭でしょう?」
「うっわー、こんな可愛い従者に対してなんてことを…私の頭は常にフル回転、パチュリーさまの事を考えておりますのに…」
「訂正を要求するわ、パチュリーさまに『いたずらをする』事、でしょう?」
「むーバレた」
「ばれるわ、やれやれ、どうしてこんなのを従者にしてしまったのか。来た頃にはあんなに可愛かったのに…」
「あ、ため息つきながらこっち見ないでくださいよー。パチュリーさまこそ、私が来た頃にはとっても優しかったのに、今じゃ紅茶に妙な薬を混ぜるわ、寝ている間に落書きするわやりたい放題しほうだいじゃないですか。この前なんて、おでこに『故悪魔、享年???歳』とか書かれてるの気付かないで外に出て、美鈴さんに大笑いされたんですよ!…まぁ後で『とっておきを使いました♪』って、差し入れの紅茶にとっておきの下剤混ぜておきましたけど。大体私がいなくなったら、パチュリーさまなんて本当にただのもやしになるじゃないですか」
「失礼ね小悪魔、それに、その日『むキュートパチュリー、只今変人募集中』とか顔に落書きしたのあなたでしょう。レミィに見られて大爆笑されたのよ…まぁ後で『面白い本があったからあげるわ』って、かみつく魔導書送っておいたけど」
「…それであの日咲夜さまが大騒ぎしていたのですね、お嬢様の柔肌がとかなんとかって。案外酷いですねパチュリーさま」
「あなたものね、小悪魔…あの日美鈴がトイレから出てこなかった理由がわかったわ」
「ひーどいんだひどいんだ、友人にそんな本(?)を送りつけるなんて」
「小悪魔に悪影響を受けたのよ?ホント、悪魔ね」
「あー他人のせいにしないで下さいよ!私だってこっちに来たときには一途で無垢な純情少女だったのに…こんな主に仕えたせいで…うう」
「どこがよ、それと嘘泣きはやめなさい」
ふむ、紅いのが小悪魔とすると…もう1人は動けない大図書館だかなんとかというあだ名の魔女か。
ひきこもりの根暗少女と噂だったのだが、なかなかどうして明るく楽しく歩いているな。やはり噂とはあてにならないものよ…
さて、吾輩がそんな事を考えていると、続いて木々の間を縫うように飛行する二人組と、それを地上から必死に追うメイド連中が見えた。
あれは紅魔館の主と従者か、少々危険だが…何やらこちらには無警戒だ、まぁあの二人に手を出すような輩はそうそうおるまいが…
「お嬢様、そんなに急がなくても大丈夫ですわ。あちらは徒歩、こちらは飛行、まず離されることなどありませんわ」
「そ、そうね。ちょっと焦ったかしら、本当、あの二人は私がいないと楽しそうに…きゃっ!?」
「お嬢様!?…考え事をしながらの飛行は危険ですわ。ああ、お嬢様の柔肌に傷が…傷は舐めれば治ると古来から…」
「咲夜、薬」
「そうですね、やはり不衛生ですしね。さすがはお嬢様、薬を用意なさい!…ちっ」
「了解!」
「ええ、それでは私が丁寧に塗りこませていただき…」
「あ、もう塗ったわ。…もう、パチェったら何で外出するのに私を誘ってくれないのかしら…友人っていうのはもっとこう…咲夜、行くわよ」
「はい、お嬢様…あ、そこのあんた。お嬢様に直接薬渡すなんて越権行為よ、こういうものは先にメイド長に渡すものなのよ。懲罰室送り」
「はい?えー!?」
「あ、それとお嬢様にぶつかりやがった木は原子に戻しなさい。木の分際でお嬢様と接触するなんて生意気よ」
「咲夜、何してるの、行くわよ」
「あ、はいお嬢様、少々お待ち下さい…いいわね」
「「「「了解!!」」」」
やれやれ、何やら複雑な人妖模様が繰り広げられているが…まぁいい、吾輩には関係のないことだ。
吾輩は、彼女らの行動が沼になんら被害を及ぼすようなものではないと知ると、深く静かに潜航していったのだった。
~二日目~
空はにわかにかき曇り、まがまがしい気配が沼へと接近していた。
吾輩は、沼に棲む生き物たちへと、可及的速やかに待避するように伝え、自分はその『気』の正体を確かめるべく水面ぎりぎりでその気配を待ち受けた。
やがて森の木々はざわめきをやめ、風すらもやんだ。太陽は雲の中へと姿を隠すが、その雲さえ何かを怖れて足早に逃げ去る。
今にも雨が降りそうな暗さの中にあっても、雨粒は地上に降りるのをためらい、遙か空の上にいるのみだった…
先ほどまでは、小鳥たちが慌てて空へと舞い上がっていたが、今はすべてが逃げ去り、静けさが戻ってきていた。
不気味に静まりかえった森の向こうから、ゆっくりと、だが着実に凄まじい圧力がせまってくる。幾百年生きてきた吾輩だが、これほどまでに恐ろしげな気配は感じたことがなかった。
「む…むう」
吾輩は呟き、いつもより深めに深度をとった。信じがたい事だが、この距離ですら思わず身をすくめたくなるような圧力が、吾輩へと迫っていた。
しかし、その反面、これほどの圧力を発するものが何なのか…知りたい気持ちもある。
我ながら軽率な気はしないでもないが、吾輩は深度を維持したままその気配を待ち受けた…
四半刻ほどが過ぎたであろうか…いや、実際にはその十分の一すらも過ぎてはいるまい。吾輩は、水中にいるにもかかわらず汗をかいていた。
「文字通りの『ガマの油』か…」
吾輩がつまらないことを口走った直後だった。森の向こうから不気味な声が聞こえてきた…
「木の実~キノコ~小鳥~動物~何でもいいから出てきなさいっ!!」
空気を震わせ、木々を震わせ、そして逃げ去ったであろう動物たちも震え上がらせんばかりの叫び声が森にこだまする。
残念ながら、木の実やキノコは呼んでも出てこないし、そもそも少しでも『恐怖心』というものを持っていたら、こんな声を聞いた刹那逃げ去るであろう。
残っているのは物好きか…さもなくば自殺志願者だけだ。
吾輩は、そう独語したのち、自分もその『物好き』であることに気がつき苦笑した、しかし、沼に何の影響も出ないとわかるまで、吾輩は後退するわけにはいかなかったのだ。 その時だった…
「みぃ~つ~け~た~晩ご飯っ!!」
「!?」
恐ろしい程の殺気を感じた吾輩は、急速潜航で水面下に我が身を隠した。
水面下に姿が隠れる直前、吾輩の体の上を殺意を帯びた風が通過していったが、あと数秒潜るのが遅かったら、おそらく吾輩は『何か』の直撃を受けてあえない最後を遂げていたに違いなかった。
そして、あの時『奴』と目を合わせなかったのが生死の境だったのだな…もしもあの時『奴』と目を合わせていたのなら、吾輩は間違いなく恐怖のあまり身動きがとれなくなっていただろうからな…
吾輩は、そのまま深度を下げ、沈底した。
暗く濁った水が吾輩の姿を完全に隠してくれ、いつもより若干激しい衝撃も水底の泥が吸収してくれた。
「このっ!出てきなさい!!…蛙の天ぷらは美味しいのよっ!!あんだけでかけりゃ干物にして一月は食いつなげたところだったのに…出てこい晩ご飯っ!!」
沈底した吾輩の頭上では、なにかをわめく『奴』がいた。
水中にいてはその声はわからないはずなのだが、何かが水を震わせて伝わってくるのだ。
深く暗い水の底まで奴がやってこられるとも思えないが、念には念を入れた方がよさそうだ。
吾輩は、隠れ家にしている横穴へ向かうべく、ゆっくりと移動を開始した。
葦が群生しているあの付近ならば、例え『奴』がきた所で発見はされるまい。『奴』が諦めてこの付近を去るまで、そこに退避しているのが賢明そうだった。
吾輩は、水底を這うように進み、自らの住処へと入った。
「…あくまでも出てこないつもりねっ!ならば新型の陰陽玉爆雷、受けてみなさい!!」
吾輩が横穴に入った直後から、突如水面を叩く音がして、続いて断続的な衝撃が水中を伝わってきた。
たちまち水中を泥が舞い、ただでさえ悪い視界をますます狭める。水中を伝わる衝撃は、吾輩の体へとなんどもぶつかってきた。
ここにいるからこの程度ですんでいるが、直撃を受けたなら吾輩もただではすむまい…
吾輩は、穴の奥へと下がり、この人為的な嵐が過ぎ去るのを待った。
うむむ、長く生きてきたが、まさかこの歳になって食料として襲われるとは思わなんだ。
「くっ!覚えてなさい!!今度来たときには必ず仕留めてやるわ!!」
あれからどれほどの時間が過ぎたのだろうか…沼を襲った『奴』の気配はやがて消え去り、沼に平穏が戻った。
用心に用心を重ね、それからさらに三刻の時間をおいて浮上した時、水面はあれほどの騒ぎが嘘であったかのように静かになり、そして森には生き物達の姿が戻ってきていた。
空はすっかり暗くなり、ただただ月のみが浮かんでいる…
何に怯えることもなく空に浮かぶ月を見ながら吾輩は独語する。
「これほどの威圧感を持つとは…一体どれほどの大妖怪なのか…やれやれ、長く生きてきたとは思っていたが、所詮井の中の蛙であったか」
九死に一生を得た吾輩の呟きは、その安堵とともに夜空へと吸い込まれていったのだった…
~三日目~
「よーし、公試運転だぜ!!行くぞ84号箒!!」
黒い彗星が幻想郷の上空を通過する。
そこから発せられた暴風は地を薙ぎ、夜雀の屋台を横転させ、里の小屋を飛散させ、空で遊ぶ妖精達を吹き飛ばしたが、それを動かす当人は、何ら悪びれることもなく加速させた。
「パチュリーの図書館から(強制的に)借りてきた本で設計して、香霖堂から(無理矢理)貰ってきた材料で作ったこいつなら…あの天狗を超えられるはずだ!!」
彼女が幻想郷最速の名を取り戻す為に製作した箒は、その期待に応えてぐんぐんと加速した。大量の試作箒(失敗作)の末に完成した箒は、彼らの分までその力をふるう。
それはまるで疾風の如し。ブン屋に最速の名を奪われて以来、その名を取り戻すべく努力を重ねてきた彼女の集大成である。
「いいぞ…こないだはケチって純度の低い魔力を使ったせいか、途中で花畑に不時着(墜落)しちまったけど…今日は最高純度の魔力を注入したし…もう問題はないはずだぜ!」
『お花畑』じゃなくてよかったぜと続ける彼女は、さらに箒を加速させる。
「いいぞ…いい調子だ」
箒はますますその速度を増し、同時に強烈な風圧が箒を襲う。
「ちっ!防御結界を張っているとはいえ…なかなかきついぜ。だが…私はやる!今度こそ幻想郷最速の名は私のもんだっ!行け84号!!」
箒はもはや常人の目には止まらないであろう速度に達していた。だが、彼女はまだ満足していなかった。
「もうちょっとだ…もうちょっと…」
さらに魔力を込められた箒は、加速しつつも振動を発し、操縦者に限界を告げる。だが…
「まだだ…まだ行けるはず!いっけー!!」
少女は諦めない。自分で自分に限界をひかないのが彼女の長所であり短所、彼女の辞書には『諦める』の文字はなかった
箒は激しく振動し、今にも砕け散りそうな雰囲気であった、が。
「…まだだ!まだ終わらないぜ!!私は…最速だぁっ!!!!!」
彼女が絶叫した直後、箒は加速すると同時に凄まじい振動を発し、その手綱を持ち主から奪い去った。
「くっ!どうしたんだ!!もっと…もっと速度を…私に…最速の名をっ!!!」
叫ぶ少女、だがその刹那、箒は巨大な衝撃と爆音を残し砕け散った…まるで見えない壁にぶつかったかのように…
箒は…星となった。
「…ん?何か悲鳴が聞こえた気がするが…」
何かで目が覚めた吾輩は、そう呟くと穴から出る。またあの妖怪が出たとなれば少々厄介だった。
直後、水面に衝撃を感じるが、その衝撃は一度で終わる。攻撃ではないようだが…
用心深く水面へ顔を出した吾輩の目の前に『あった』のは、大破漂流中としか表現できないような人間の少女だった。
先ほどの悲鳴と、それに続く衝撃はこの少女のものと見て間違いはないだろう。妖怪にでも襲われたのか…はたまた誤って沼に落ちたのか、どちらにしろこのまま放っておくのは寝覚めが悪い。
そして、ここで死なれて吾輩の沼を汚されるのも、沼の主としては避けたいところだった。
「ふぅ…」
吾輩はため息混じりに彼女を背に乗せ、落とさないように静かに岸辺へと移動する。背中からは少女の息づかいが聞こえる。生きてはいるようだ。
「やれやれ…」
岸辺に少女を押し上げた時、彼女はまだ眠っていた。気は強そうだが、反面素直そうな顔の少女…果たして何の因果でこんな所で浮かんでいたのかは知らないが、何はともあれ起きたときに姿を見られては、怖がられるばかりであろう。
そう思った吾輩は、少女を一瞥すると、ゆっくり水中へと戻っていった…
~四日目~
「よ~るだ夜中だ♪まっくらやみだ~♪」
暗い森の中、明るい歌声とごろごろという音が響いてきた。そして、何やら美味しそうな匂いも…
普段、吾輩は虫だのなんだので食事をしているのだが、このような匂いを漂わされてはさすがに気になってしまう。
吾輩は、誘われるように沼から出て、歌声のする方へと向かった。
「あっ!お客さん?いらっしゃい♪」
のそのそと歩いて行った先にあったのは、なぜか補修の跡が見られる屋台と、吾輩に笑顔を向ける少女の姿だった。
「ふむ…何屋さんかな?大層うまそうな匂いときれいな歌声に誘われてやってきたのだが…」
そんな吾輩の言葉に、少女は満面の笑みを浮かべて答えた。
「ありがとー!そんな風に言ってもらえると嬉しいよ♪ここは八目鰻のお店、焼き鳥撲滅キャンペーン中なんだ」
「なるほど…」
見れば少女の背には羽根があり、他の外見も合わせて判断すると、どうやら鳥の妖怪のようだった。
「何本か食べていかない?初めてのお客様だからサービスだよ」
「ふむ…頂こうか。だがただ食いも少々申し訳ない、代わりに沼で採れた蓮根を置いていこう」
明るく誘う少女に、吾輩は対価を払い、出来上がりを待つ。
「ふむ、家は遠いいのかな?」
慣れた手つきで串を手に取る少女、彼女を見てふと気がついた吾輩は声をかける。
「あ、うん。ちょっと今日は遠出してみようと思ったんだ。いろいろな人(?)に食べて貰いたいから♪」
それでこのあたりでは見かけなかったのか、成程と頷く吾輩へと、少女は串を差し出した。
「はい、出来上がり」
「うむ、いただこう」
「どうぞどうぞ♪」
口の中に入れられた(むろん串は抜いてある)その品は大層香ばしく、吾輩が今まで生きてきた中で最も美味しかったと言っても過言ではなかった。
「ふむ…美味なり。今日は歌に誘われて出てきて正解だったな、ありがとう嬢ちゃん」
吾輩の心からの礼に、彼女も顔をほころばせる。
「うんうん、やっぱりそう言ってもらえるのが一番の喜びなんだーどんどん食べてね。まだまだあるからさ♪」
「うむ」
森の木立の中、吾輩はしばし旨い料理と上手い歌に酔いしれていたのだった。
「…ふむ、人間が妖怪を襲うなどとは…不思議な世の中になったものよの」
いつの間にか吾輩と一緒に酒を飲み、顔を真っ赤にした少女に、吾輩は世間話をしていた。
なんでも、最近は森で狩猟採集をする人間がいるとかで、ずいぶん苦労をしているらしい。
「そうなの、そいつから小鳥達を守るためにいつも苦労してるんだけど、そいつったら強くてさ、私じゃ太刀打ちできないんだー。時間を稼ぐのが精一杯なの、下手したら私まで食べられそうになるし…はぁ」
やれやれといった表情の少女を見て吾輩は思う。時代も変わったものよ、人間が妖怪を食べるとはな。
「うむむ…先日は恐ろしいほどの圧迫感を持った妖怪に襲われたのだが、世の中恐ろしいのは妖怪ばかりではないか…」
吾輩は、つい先日起こった出来事を思い出しつつ少女に話す。
「えーっ!?大ガマさんよく無事でしたねっ!!」
大仰に驚く少女に、吾輩は頷きながら答えた。
「うむ、吾輩も幽明の境というものを久々に味わったわい」
「うーん、でもそいつとあの巫女をぶつけられれば上手くすれば相討ちに…」
そんな事を呟く少女を、吾輩は慌てて止める。そんな危険なことをさせるわけにはいかん、大体、この少女がそれであの妖怪と人間に食べられでもしたら、吾輩はどう償えばよいのか…
「いかんいかん、あの妖怪は余程腹を空かせていたらしい。今近づけば問答無用で腹の中に納められてしまうぞ?」
「え…そ、そっか、私もまだ小鳥達の面倒を見なきゃいけないし食べられるわけには…うん、やめておくよ」
「うむ、それが賢明な判断だろうな」
吾輩の真剣な忠告に、幸い少女の方も翻意してくれたらしい。
「色々怖いなぁ、実は、昨日も変な人間が起こした風のせいで屋台が倒れたんだ。お仕事休むのは嫌だし、そんなに派手に壊れなかったからすぐに直して出て来たんだけど…」
ため息をつく少女に言われ見てみれば、屋台の半面はあちこちに板を張り付けた跡がある。こんなに大きな屋台を倒すとは…どれほどの風を起こしたのか…
「うむむ…災難だったな、そういえば昨日は沼で人間の少女を助けたのだが、もしかするとその風に吹き飛ばされてきたのかもしれんな…」
ふむ、あんな所に人間が一人だけ…それも年端もいかぬ少女が…のこのこ来るとも思えんし、もしかするとその風に吹き飛ばされてきたのかもしれん。
「もう、人間にも妖怪にも迷惑な奴ね。森の小鳥達の巣も56戸が全半壊、一昨年の嵐以来の被害だったのよ。死んじゃった子がいなかったのが奇跡みたい」
吾輩が思考している間に、少女は思い出したように憤慨していた。
「全くだ、最近他人の迷惑を考えない輩というものが増えてきて困る」
腕をぶんまわし力説する少女に、吾輩も同調する。人の迷惑を顧みない人妖には困ったものだ。
「だよねっ」
高く昇った月の下、にぎやかに静かな暗い森、その中で吾輩達の夜は更けていった…
~五日目~
「ねぇねぇそこの大ガマさん」
日中、沼に異常がないかいつも通りの巡回路を航行していた吾輩は、突然声をかけられ停止した。
「…ふむ?何かな?」
見れば、岸辺からこちらをのぞき込む一人のウサギ少女がいた…もしや?
心当たりに気がつき、沈黙する吾輩をよそに、かがみ込んだ彼女は、どんどんと話を続ける。
「この沼をもっと棲みやすくしてみない?今ならスーパーイナバリフォームプランですぐに…」
「ふむ、すまないが吾輩は今のこの沼が気に入っているものでな。永琳亭の因幡てゐ殿」
言葉を遮る吾輩に、その少女…てゐはぺろりと舌を出して呟いた。
「なんだ、ばれてたんだ…でも永『琳』亭?」
永琳亭の兎詐欺師といえば、このあたりにもその名前が伝わってくる。…まぁあだ名の通り、ろくな噂ではないのだが…
「左様、まぁそういうわけでお引き取り願いたいのだが」
そう言った吾輩に、てゐはまだ不敵な笑顔を見せて続ける。
「まぁまぁ、私に会った時点で幸福になる…それが私の能力っていうのは嘘じゃないわー。だからその幸運をもうちょっと増やしてみれば…」
「てゐ~いるんでしょ!でてきなさ~い!!」
てゐがそう話し始めた時、森の方から彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。その声に、彼女は耳をぴょんこと立てて反応し、すぐに立ち上がる。
「げっ!?鈴仙!それじゃまたっ」
まさに『脱兎』という言葉が似合う速度で、声がしたのとは反対方向の木立へと、彼女は消えていった…
一体何がどうなったのか…状況をつかめずに呆然としている吾輩だったが、そんな吾輩へと、もう一人のウサギ少女が接近してきた。
「あのーすいません、なんかその…小さくてウサギの耳をはやした女の子、こっちに来ませんでしたか?」
丁寧な物腰で言うそのウサギ少女は、さっきのウサギ少女とは若干耳の形が違うようだったが…それ以上に何か苦労人といった雰囲気が漂っていた。
吾輩は、別段隠すこともないので先ほどの状況をかいつまんで説明した。
「あああ…こんな所にまでご迷惑を!?ごめんなさいごめんなさい、私の監督不行届です、本当にごめんなさい」
「ふむ…いや、実害もなかったし、そもそもお主が悪いわけでもあるまいて、まぁこれ以上妙ないたずらをしない内に捕まえてお説教するなり、閉じこめるなりするのがよろしかろう」
まさに平謝りといった様子で謝る彼女を見て、何かこちらの方がすまない気になってきたので、吾輩は速やかにてゐを追うように彼女を促した。
「あ…はい、ありがとうございます。本当にご迷惑おかけしました、それでは失礼します」
そう言うやいなや、こちらもかなりの快速をもって追いかけていく二人目のウサギ少女、吾輩は、そんな彼女を目で追いながら、その苦労を思っていたのだった。
何はともあれ、二人の来訪者(?)を見送った吾輩は、ゆっくりと回頭し、再び巡回につこうとした…のだが…
「ちょっと伺いますが、こちらに二羽ばかりウサギが来ませんでした?小さいのと大きいのが」
…ふむ、今日は来客が多いらしい。先ほどの二人とはうって変わって大人びた声に、吾輩は振り向いた。
そこに立っていたのは長身の女性、落ち着いた雰囲気を醸し出しつつ、油断ない雰囲気は相当の実力者かと思われた。吾輩は、彼女に目で方向を指し示しつつ言う。
「ふむ、その少女達ならば向こうに行ったよ。一人目がまず来て、それを追って二人目が来た。おそらく同じ方向に向かっているだろう」
吾輩の言葉に、女性は頷き、言った。
「ありがとう。ウドンゲったら…相手の行動を読まずに闇雲に追いかけても労力を消費するだけなのに…修行が足りないわね」
呟く女性の姿は既に遠く、しっかりとした足取りで森の中へと消えていった。
「ふぅ、本当に今日は来客が多いな」
彼女が立ち去ったのを見て、吾輩は独語した。
この沼にやってくる人妖などたかがしれている。しかし、今日はそんな中わいわいがやがやと千客万来だ。
…まぁ三人で千客万来というのも何だし、要は最初の一人を追ってきてこうなった訳なのだが。
そして、おそらく彼女らは竹林の奥にあるという『永琳亭』の連中だな。天災薬師として知られる永琳を筆頭にその弟子、そして兎詐欺師として名高いてゐを擁し、さらに麾下に多数の妖怪兎を持つという永琳亭の戦闘力は、幻想郷では紅魔館に次ぐとさえ聞く。
まぁ、手出しをしない限り向こうからは何もしてこないとの話つきだったが…
そして、少なくとも、あの様子を見る限り後者の噂は真実のようだな、なかなか仲もいいようだしな…
まぁいい、今度こそ巡回に戻ろう。二度あることは三度あると言うが、四度目はあるまいて…
「すいませ~ん、ここにイナ…兎が二羽と、黒っぽい看護士が来ませんでしたか~?」
「…黒っぽい看護士なら、小さな兎を追いかけてきた大きな兎を追いかけて向こうに行ったよ」
ふむ、熟語というものは時にあてになるが、時にあてにはならないようだな。吾輩は、四人目の来訪者の方を向きつつ思考した。
「成程、永琳ったらイナバ達と追いかけっこでもしているのかしら?私をさしおいて楽しそうね、まぜてもらおっと」
見ればずいぶんと『追いかけっこ』には不適そうな格好をした少女がぶつぶつと言っている。別に先の三人は追いかけっこをしていたわけではないと思うのだが…
しかし、そんな彼女は吾輩にちょこと頭を下げると、小さな兎を追いかけてきた大きな兎を追いかけていった黒っぽい看護士を追いかけ、喜々として森の中に消えていった。
それにしても、あの黒髪の少女は誰なのか…『永琳』と呼び捨てにするあたり、同格かそれ以上の立場もしくは実力者、永琳亭の者ではないのか…?
まぁいい、さしあたってこの沼に脅威にならないのであればかまう必要などない。吾輩は、そう判断すると、いつもの巡回路へと戻っていったのだった…
~六日目~
「む…何だこの邪悪な気配は?」
朝、じっとりとまとわりつくような不快感で目覚めた吾輩、怪しげな…いや妖しげな気配を感じて浮上した。
葦の合間から目だけ出してその『気配』の元を伺う、と…
「昨日てゐちゃんが通ったのはここなのね?間違いないのね?」
そこにいたのは物言わぬ人形に話しかける妖しげな少女の姿…不気味だ。一体何を話しているのかはここではわからないが、少なくともよからぬ相談をしていることに間違いはない。
何をするつもりかはわからないが、ひとまずこの沼に何か被害が及ぶ事をしないとわかるまで、監視を続けることにしよう。以前の大妖怪にはさすがに見つかってしまったが、基本的に、吾輩は気配を消すのは得意なのだ。
「…別にてゐちゃんに逢いたいんじゃないのよ、賽銭箱にお金を入れれば幸せになれるって聞いてたからそれで…」
うむ、尚も人形に話しかけている。もしかすると呪詛を込めているかもしれんな、その為にこんな人気のない所に来たとか…
ふむ、やはり油断はならん。
あれから五刻は過ぎただろうか、少女は尚も時折人形に呪詛を込めながら、あとの時間は沈黙して魔力の充填に力を注いでいるようだ。恐るべき精神力だな。
む…?動きが…?
「いい、上海、蓬莱、倫敦、仏蘭西、露西亜、あなた達はあちこちに展開しててゐちゃんの情報を集めなさい、残りはここで待機、いいわね」
なんと!少女が何事か囁くと、人形達はまるで命あるもののように空へと舞い上がった。やはり呪いの人形であったか…む?こちらに来た?
「全く、アリスときたらこんな下らない目的に私たちを酷使するんですからひどいものですね。だから友達いないんですよ」
「何を言うか上海!主命はいかなるものであってもそれを達するが部下の努めであろう。拙者は、命に代えてでもそのてゐなる者を仕留める所存」
「いや…殺しちゃまずい気がするんですけど蓬莱人形?」
「いやいや蓬莱人形、おそらくアリス殿は、てゐ殿に美しき恋心を抱いておられるのでしょう。汚れなき乙女の願い、それを達するのが紳士の努め」
「ええ、マドモアゼルの恋心ほどこの世に美しく儚いものはありません。そしてそれを遂げさせるのは私たちにとって至上の名誉ですな」
「珍しく意見があいましたな仏蘭西人形」
「ええ、乙女の恋心とは文明世界の共通語でありましょう倫敦人形」
「もっともですな」
「あ~汚れなきって思いっきり汚れてる気がするんですけど、しかも絶対恋心じゃないし…いいやもう」
「ひっく、乙女心よりも主命よりもウォットカだ。ウォットカがなくては弾幕も張れない」
なんと…人形が喋っておる。長く生きているとかように珍しい体験をすることもできるのだな。
吾輩は、珍しい光景にじっと見入っていた…のだが。
「!?」
人形と目が合う、いかん、見つかったか?まぁいきなり攻撃をかけてくることもないだろうし、そもそも人形に攻撃手段など…
「見つかってしまうとは…これでは主命を達することなどできないではないか!かくなる上は…」
「待て!蓬莱人形何をするつもりだ!?」
「…一命を賭して任務を達成するのみ!後は頼む!!」
「そんな澄み切った笑顔で頼まれても困りますってば!ストップ!!」
「蓬莱人形を止めろ!!いつもの自殺癖だっ!!」
「止めろったってどうすれば…」
「ジャパニーズ『カミカゼ』!?さすがサムライハラキリフジヤマっ!!」
「仏蘭西人形!はしゃぐな止めろ!!」
「ウォットカだウォットカ…カミカゼウォットカ、ひっく」
五体の人形、その編隊が崩れ、一体がこちらに突進してくる。
…いかん、急速潜航だ。吾輩は口を開け、水を一杯に飲み込み潜航をかける。
たちまち全身が水に浸かっていくのがわかる…だが、人形の接近も急だ、果たして間に合うか!?
「アリス・マーガトロイドに…」
「よせっ蓬莱人形!!」
突っ込んでくる人形の姿が完全に見える、後方では別な人形がやめさせようと叫んでいた。
「友人あれー!!!!!!」
「それ無理ー!!」
「ぬっ!?」
人形の絶叫(?)と、背後の突っ込みの声が聞こえた直後、背中をぬめるような感覚があり、吾輩はそのまま潜航した。
「あーもう、岸辺にめり込んじゃってる」
「仕方がない、引っ張り出そう」
「「「いっせーの…せっ!」」」
「ぶはっ…ああ、また死にぞこなってしまったか、かくなる上は切腹してお詫びを…」
「だからやめい!」
「ならば首を吊って…」
「もう放っておきません?」
「ひっく…ウォットカの沼だ、ひっく」
「露西亜人形!何処に行く気だ!?」
「そっちは沼…」
「あ…落ちた」
あれからどれくらいたったろうか、ひとまず、吾輩は例によって周囲の状況を確認し、危険がないことを確かめると浮上する。
そこに人形達の姿は既になく、沼には静けさが戻っていた。
それにしても、あの恐るべき人形はなんであったのだろうか…吾輩は、いつもより少しだけ涼しい背の感覚を感じつつ、あの恐怖を思い出していたのだった。
~七日目~
空は蒼く、晴れ渡っている。沼はいつも通り暗く澱んでいるが、その周囲の空気は素晴らしく澄んでいる…一部を除いて。
まぁ今日はのんびりと過ごせそうだな…
だが、そんな吾輩の希望的観測は、すぐに打ち砕かれることとなった。
「わー!?おっきい蛙っ!!」
「大ガマって言うのよ桜、この沼の主かしら?」
「捕まえようぜ!」
「無理よ、反対に食べられちゃうわ」
「不二くんおいしーの?」
「さぁ、少なくとも頭に中身は詰まってなさそうだけど」
「うるさい瑞穂!」
沼の畔にやってきて吾輩を見るのは人間の子ども達だ、はて、こんな所にまで人間の…それも子どもが来るとは珍しいな、まぁ風に吹き飛ばされたかどうかしたのか知らないが、こないだ沼で大破漂流していた少女はいたが…
ひとまず、いくら吾輩が非力とはいえ妖怪は妖怪、いくらなんでもあんな子ども達に後れをとるほどではない。
吾輩は、はしゃぐ子ども達をのんびりと眺めていた。
「お~い、皆急ぐな、何かあったら危ないだろう。まったく…」
と、その時もう一人誰かの声が聞こえ、頭に不思議なものをのっけた女性がやってきた。
ふむ、あれは…上白沢慧音とか言う半獣か…彼女は人間の味方で、妖怪と見ると情け容赦なく殺してまわるという噂を聞いている。
厄介なことにならない内に潜った方が良さそうだな。
「まぁ待ってくれそこの大ガマ殿、私に別段敵意はないんだ」
と、思ったら声をかけられた、はて…少々噂とは異なるな。それにしても一体何の用なのか…
潜航を中断し、話を聞く姿勢を見せた吾輩に、半獣は言った。
「いや、子ども達に蛙の生態について教えているんだが、できれば近くで観察させていただけるとありがた…」
「…それでは」
「わっ!ちょっと、ちょっと待ってくれ」
みなまで聞かず、失礼な…と、潜航を再開する吾輩を見て半獣は慌てだした。
「ああ、失礼なのは分かってるんだ。だけど蛙はなかなか近くで観察させてくれないし、すぐに動き出すし…頼む、この通りだ。話の通じる蛙などほとんどいないし…子ども達の為、協力してくれないか?」
「…やれやれ、仕方がない」
実力差で懸絶した相手に対し、頭を下げるその謙譲の精神に敬意を表して、少々つきあってやるとするか。吾輩は、再び浮上し、岸辺に上がる。
「ただ一つ条件があるとすれば…」
もったいぶって言う吾輩に、半獣は一瞬動きを止めた。
「と、言うと…?」
「…解剖なんぞはやめてくれよ」
一瞬の間をおいてにやりと笑った吾輩に、同じく半獣も笑って答えたのだった。
「ああ勿論だ、だって…子ども達が泣くじゃないか」
…こら待て。
「ははは…冗談だよ大ガマ殿」
…全く、やはり噂とはあてにならんな。吾輩は、目の前でにこやかに笑う半獣を見ながらそんなことを思っていたのだった。
「わーすごいすごい!ぬめぬめしてるのー」
「近くで見るとでっかいなー」
「…傷薬にちょっともらえないかな、買うと高いし」
「…う~む」
五分後、吾輩は安易な返答を後悔していた。
吾輩を取り囲んだ子ども達は、何の遠慮もなくべたべたと触り、吾輩を『観察』する。何か精神的に解剖されている気がしてきたぞ?
「あーこらこら、皆、あんまり失礼なことをしては駄目だぞ」
「慧音先生、でもこうしてる時点で既に失礼極まりない気がするんですけど?」
「あ…いや、その…って不二、乗ろうとしない!!」
「あー慧音先生誤魔化したー」
「のー」
「あ…いや、だからな」
半獣が子ども達を止めようとしているが、反対に言い負かされる始末で話にならない。やれやれ。
それにしても…不思議な光景だな。半獣の先生と人間の子ども達、そして妖怪の吾輩か…近い将来、人間と妖怪が共存する幻想郷というものができるかもしれないな。
子ども達に囲まれながら、吾輩はのんびりとそんなことを考えていた。
「いや、助かったよ大ガマ殿。ほら、皆もお礼を言いなさい」
「ありがとうございました」
「面白かったぜ」
「ありがとうなのー」
ずいぶん時間が過ぎ、太陽は足早に沈みつつあった。
半獣は、子ども達を並ばせるとお礼を言わせ、そして自分も続く。
「本当に助かったよ大ガマ殿。話の通じる蛙というものはなかなかいなくてね。だが、子ども達には違う生き物に興味を持ってほしかったんだ。自分と異なる者をそれだけで嫌悪するような人間には育ってもらいたくなかったからね…それは自分で自分の首を絞める行為であるとなぜ気がつかないのか…」
心当たりがあるのか、彼女は一瞬苦い顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
にっこりと笑った彼女の頬を太陽が夕陽が撫でた。既に子ども達は整列をやめ、わいわいと楽しそうに騒いでいる。
そして吾輩はふと思い当たった。
「さてはお主…『蛙の観察』ではなく『妖怪の観察』に来たのではないかな?」
吾輩の質問に、彼女は微笑と言葉を混ぜ、返した。
「…つい最近、この沼で何かに助けられたという奴がいてね、大層迷惑な奴なんだが…まぁそれはいい。そいつが、どうも意識を取り戻した時にでかい蛙を見たとか言っていたんだ。それでちょっと…ね」
答えになっていない答え、だがそれでいい。
「ふむ…まぁいい、吾輩は、自分とこの沼に危害を加えないのなら、妖怪も人間も気にせんよ」
今日は十分暇をつぶせた、ああいう風にかまわれるのは慣れていないが…まぁたまには悪くない。
夕陽を浴び、立ち去っていく半獣と子ども達を見ながら、吾輩は、今日は騒々しいがなかなかに楽しかったと呟いたのだった。
「いいなぁ、みんなでおでかけいいなぁ…」
最後の最後まで楽しい気分で今日を終えたいので、藪の中から聞こえてきたこの言葉は聞かなかったことにしよう。
吾輩は、ゆっくりと水の中に戻っていった。
~そして~
「てーいっ!」
どぼーん
「やーっ!!」
ぼちゃーん
「ていやーっ!!!」
どっぽーん
「…何事だ」
平和に午睡を楽しんでいた吾輩は、時ならぬ騒音にたたき起こされた。
どうも沼に石を投げ込んでいる輩がいるらしい、やれやれ、最近は行儀の悪い奴がいるものよ。
吾輩は、ため息混じりに独語し、その音のする方向へと向かった。
「はぁはぁ…もう一つ…」
見れば、小柄な少女が、やたら大きい石を必死に持ち上げようとしている。何をしようとしているのかまるわかりなので、ひとまず止めておくことにした。
「やめんか」
「えっ…!わっ!?きゃ!!」
とたんに、ぼと…ぐしゃ…としか表記のしようがない音が響き、少女は足を押さえてうずくまった。
…まぁ何があったかは言うまでもあるまい。
「~~~っ!」
「…大丈夫か?」
声にならない悲鳴を上げている少女に向かい、吾輩は声をかける。だが、とたんに彼女は顔を上げ、言った。なかなかの根性だ。
もっとも、顔が「大丈夫じゃない!」と言っているが…
「…はい…ええ、まぁ…辛うじて。で、私は九代目御阿礼の子稗田阿求と申します。ちょっと大ガマ様にお聞きしたいことがありまして…いたた」
そこまで言って、再びうずくまる少女、相当痛いようだな。骨が折れていないといいが…
だが、心配する吾輩をよそに、少女は続ける。
「…と、失礼しました。実は、幻想郷縁起をまとめるにあたり、こちらでも何か面白い出来事は起こっていないかと思って来たのです。派手な出来事でしたら私の耳にも入ってくるのですが…幻想郷も名のある妖怪ばかりではありませんので…」
「幻想郷縁起…?」
はて、どこかで聞いたな…ふむ…ああ。
吾輩は、深く濁った記憶の底からそれを取り出す。
「…稗田家か、幻想郷縁起は重宝させてもらっているよ。人間ばかりではなく、吾輩達のような力のない妖怪にとっても、強い妖怪への対処法等々は必要だからな」
しばしの思考の後、ようやくその記憶を取り出した吾輩は言った。
幻想郷縁起…それは人間の視点から見た幻想郷の歴史書である。
幻想郷の出来事を記録し、また、そこに棲む妖怪達の特徴や、彼らへの対処法も書かれてある、いわば初心者向けの『幻想郷案内書』といったものだろう。
実物が手元にないので詳細は知らないが、少なくとも他の妖怪から聞いた限りではそのようなものであった。
そして、それは吾輩のように力なき妖怪にとっても、なかなかに役に立つものなのだ。
「なるほど、ご愛読頂きありがとうございます。で、何か近頃面白いこととかはありませんでしたか?面白い人妖が来たとか…そこで何で私を見るんですか?」
「いやいや、わざわざ妖怪の所に来るお主のような者は面白いとはいえないのかな?」
吾輩の方を睨んできた少女に吾輩は笑いで返す。
「もう、慧音様が『あの大ガマ殿はなかなか話せる御仁だ』って言っていたから来てみたのに…」
そんな吾輩の態度に、プンと頬を膨らませた少女、さすがにからかうのはここまでにしておくか。
「…ごほん、まぁ最近起こった出来事というと、ふむ、色々あったな」
「え…なになに?何があったんですか?」
とたんに目を輝かせる少女に向かって、吾輩はここ一週間の間に起きた出来事を話して聞かせた。
紅魔館連中の『通過』(これだけでずいぶんな騒ぎだ)、名も知らぬ大妖怪の襲来、人間の少女を助けた事、うまい八目鰻を食わせる屋台、兎詐欺師の勧誘、神風人形、そして人間の少女と半獣の話…等々。
「成程、興味深いお話をありがとうございました。ふむふむ、いくつかネタができたなぁ…それにしても、あの事件はこっちではこんな感じだったのか…」
頷く少女へと、吾輩は言った。
「まぁそんな所だ、役に立ったかね?」
「ええ、面白いお話が色々と聞けました。…役に立ちそうな事とかも」
そう言って少女は続けた。
「完成したら一度見に来ませんか?面白い記事がたくさん載っていますよ?」
「いや、やめておくよ」
そんな少女に吾輩は即答した。不思議そうな顔をした彼女に、吾輩は続ける。
「吾輩は今までも、そしてこれからもずっとこの沼にいる。友人から聞くだけで十分さ」
「はぁ」
少女は、ため息を一つつく。そして言った。
「好奇心とは重要なものですよ?この幻想郷では好奇心がありすぎて困るような連中ばかりだというのに…でもまぁたまにはそんな妖怪がいてもいいかもしれませんね」
そこで笑顔を見せた少女へと、吾輩は言葉を返した。
「左様左様、世の中同じ連中ばかりではつまらんだろう。例えば蛙ばかりだったらゲコゲコうるさくてかなわんし、な」
笑う吾輩に、少女も笑い返し、続けた。
「そうですね、でもあなたを記事にしてみたい気もするんですけどね。何か事件を起こしてくれると、今からでも間に合いますよ?」
そう言って微笑みを向ける少女…だが。
「いやいや、吾輩はこの沼で何か起こらない限りは何もせんよ。そして、こんな沼で何かが起きるということもそうそうあるまいて…今までも、これからもな」
「はぁ、そうですか、では仕方がないですね。でも『これからも』何も起こらないとは限らないですよ?ここ何年かの間に、あちこちで大きな変化がありましたしね。…それでは」
ゆっくりと言った吾輩へと、少女はそう言葉を返し、ぺこりと頭を下げた。
「それではこれにて失礼いたします。九作めの幻想郷縁起の完成、お楽しみに」
「ふむ…ああそうだ、帰るときは来た道を帰るとよろしい」
立ち去ろうとする少女へと、吾輩は忠告を付け加えた。
「え…?」
不思議そうに言った少女へと、吾輩は続けた。
「なに、老ガマの勘というやつだ。だがまぁ勘というのもそれなりにあてになるものだぞ?」
「それはそれは…何か気になりますけど分かりました。別段することもないですし、今度こそ失礼しますね」
来た道を引き返す少女…これで妙なのには遭わんですむだろうな。神風人形とか。
少女を見送った後、吾輩は空を見上げた。
森の中にぽっかりと空いた穴…蒼い空。数百年もの間ずっと眺め続けてきた同じ景色。
この沼の中でずっと生きてきた吾輩に、果たして変化などあるものなのか…?
変化は望まない、吾輩はこの沼を守って、そして死んでいければ十分だ。
だが、そんな考えと同時に、今までのこの暮らしと違った暮らしへの憧れというものも出てきた。好奇心…か。
しばしぼんやりと時を過ごした後、吾輩はゆっくりと沼に戻っていった。
どうなるにしろ、今まで通り吾輩は生きていこう。何か変化があれば、その時に考えればいい。
そのまま暮らし続けるのもよし、その変化へと飛び込んでみるもよし…
吾輩は、そのまま住処へと戻っていく。
それは、吾輩がチルノなる妖精と、その友人たる大妖精なる妖精に出会う、ちょうど十日前の出来事であった。
『おしまい』
「班長!前方に小石あり!!」
「パチュリー様には危険よ。もし転ばれたら、後で整備不良で難詰されるわ。清掃!」
「了解!」
「前方に倒木あり!」
「落ち葉が三枚落ちていました!」
「倒木は速やかに排除!落ち葉も直ちに回収なさい!!」
「本部よりです、パチュリー様及び小悪魔は現在E-3地点、到達予想時間は89分後。ストーキング中のレミリア様の到達までは95分の見込み」
「わかったわ、作業を急がせなさい。だけど発言には気をつけてねサナエ。きょうび、どこにメイド長直属の、レミリア様カリスマ維持委員の連中が潜んでいるのかわからないんだから」
「そ…そうですね、以前もI班の班長が、紅魔館機密漏洩罪で捕まりましたし…レミリア様が魔法図書館に入ろうとして、対侵入者用落とし穴に落ちたのを話したんでしたっけ」
「しっ、それは隊機よ。全く、メイド長が余計なことするから逆にカリスマ下がってるのよ」
「あああ班長!今の発言は危険です」
「そ…そうね、うかつだったわ。早く次の作業に…」
「いいえこれでおしまいですフヨウ班長。レミリア様カリスマ低下罪、及び司令部に対する反抗罪で指揮権を剥奪します。サナエ、あなたも同罪です」
「「ああっ!?」」
「もう司令部には通報しました。あなた方は懲罰室送りです、その身にレミリア様のカリスマと、メイド長に対する忠誠を刻み込んでもらいなさい」
「そ…そんな、タリアあなたが維持委員だったなんて…」
「ふふふ…迂闊でしたね班長。只今より私が指揮を代行します!各員、道を小石一つ、落ち葉一枚もないような状況になさい!パチュリー様かレミリア様になにかあったら、全員まとめて懲罰室送りよ!」
「ふむ…また来たか」
騒がしくなってきた小道を見つつ吾輩は呟く。見れば十数名のメイド連中が道を無駄にきれいにしつつ、前進していた。
紅魔館の連中だ、主が外出するとなれば毎回毎回この騒ぎ、過保護にすぎると思うのだが…何はともあれ、発見されると『敵性妖怪』だなんだと因縁をつけられ攻撃されることがある。
とっとと退避するのが賢明か、吾輩はゆっくりと水中に身を隠す、君子危うきに近寄らず、触らぬ神に祟りなしという奴だ。
さて、しばらく吾輩が目だけ水面上に出して様子を伺っていると、あまり見かけない二人組がやってきた。…ふむ、紅髪の方はたまに上を飛んでいるか。確か紅魔館の小悪魔とかいう奴だったな…
吾輩は、ひとまずその状態を維持しつつ、様子を伺う。この状態なら仮に見つかった所ですぐに潜ればいいだけの話だしな。
「パチュリーさま、今日はずいぶんと道がきれいな気がしませんか?」
「…普段私は出ないからわからないわ」
「あー確かに、でもパチュリーさまったらいっつも引きこもっているからそうなるんですよ。その内もやしになってカビが生えてキノコになりますよ?」
「私はもやしにならないしカビも生えないわ。カビが生えてるのはあなたの頭でしょう?」
「うっわー、こんな可愛い従者に対してなんてことを…私の頭は常にフル回転、パチュリーさまの事を考えておりますのに…」
「訂正を要求するわ、パチュリーさまに『いたずらをする』事、でしょう?」
「むーバレた」
「ばれるわ、やれやれ、どうしてこんなのを従者にしてしまったのか。来た頃にはあんなに可愛かったのに…」
「あ、ため息つきながらこっち見ないでくださいよー。パチュリーさまこそ、私が来た頃にはとっても優しかったのに、今じゃ紅茶に妙な薬を混ぜるわ、寝ている間に落書きするわやりたい放題しほうだいじゃないですか。この前なんて、おでこに『故悪魔、享年???歳』とか書かれてるの気付かないで外に出て、美鈴さんに大笑いされたんですよ!…まぁ後で『とっておきを使いました♪』って、差し入れの紅茶にとっておきの下剤混ぜておきましたけど。大体私がいなくなったら、パチュリーさまなんて本当にただのもやしになるじゃないですか」
「失礼ね小悪魔、それに、その日『むキュートパチュリー、只今変人募集中』とか顔に落書きしたのあなたでしょう。レミィに見られて大爆笑されたのよ…まぁ後で『面白い本があったからあげるわ』って、かみつく魔導書送っておいたけど」
「…それであの日咲夜さまが大騒ぎしていたのですね、お嬢様の柔肌がとかなんとかって。案外酷いですねパチュリーさま」
「あなたものね、小悪魔…あの日美鈴がトイレから出てこなかった理由がわかったわ」
「ひーどいんだひどいんだ、友人にそんな本(?)を送りつけるなんて」
「小悪魔に悪影響を受けたのよ?ホント、悪魔ね」
「あー他人のせいにしないで下さいよ!私だってこっちに来たときには一途で無垢な純情少女だったのに…こんな主に仕えたせいで…うう」
「どこがよ、それと嘘泣きはやめなさい」
ふむ、紅いのが小悪魔とすると…もう1人は動けない大図書館だかなんとかというあだ名の魔女か。
ひきこもりの根暗少女と噂だったのだが、なかなかどうして明るく楽しく歩いているな。やはり噂とはあてにならないものよ…
さて、吾輩がそんな事を考えていると、続いて木々の間を縫うように飛行する二人組と、それを地上から必死に追うメイド連中が見えた。
あれは紅魔館の主と従者か、少々危険だが…何やらこちらには無警戒だ、まぁあの二人に手を出すような輩はそうそうおるまいが…
「お嬢様、そんなに急がなくても大丈夫ですわ。あちらは徒歩、こちらは飛行、まず離されることなどありませんわ」
「そ、そうね。ちょっと焦ったかしら、本当、あの二人は私がいないと楽しそうに…きゃっ!?」
「お嬢様!?…考え事をしながらの飛行は危険ですわ。ああ、お嬢様の柔肌に傷が…傷は舐めれば治ると古来から…」
「咲夜、薬」
「そうですね、やはり不衛生ですしね。さすがはお嬢様、薬を用意なさい!…ちっ」
「了解!」
「ええ、それでは私が丁寧に塗りこませていただき…」
「あ、もう塗ったわ。…もう、パチェったら何で外出するのに私を誘ってくれないのかしら…友人っていうのはもっとこう…咲夜、行くわよ」
「はい、お嬢様…あ、そこのあんた。お嬢様に直接薬渡すなんて越権行為よ、こういうものは先にメイド長に渡すものなのよ。懲罰室送り」
「はい?えー!?」
「あ、それとお嬢様にぶつかりやがった木は原子に戻しなさい。木の分際でお嬢様と接触するなんて生意気よ」
「咲夜、何してるの、行くわよ」
「あ、はいお嬢様、少々お待ち下さい…いいわね」
「「「「了解!!」」」」
やれやれ、何やら複雑な人妖模様が繰り広げられているが…まぁいい、吾輩には関係のないことだ。
吾輩は、彼女らの行動が沼になんら被害を及ぼすようなものではないと知ると、深く静かに潜航していったのだった。
~二日目~
空はにわかにかき曇り、まがまがしい気配が沼へと接近していた。
吾輩は、沼に棲む生き物たちへと、可及的速やかに待避するように伝え、自分はその『気』の正体を確かめるべく水面ぎりぎりでその気配を待ち受けた。
やがて森の木々はざわめきをやめ、風すらもやんだ。太陽は雲の中へと姿を隠すが、その雲さえ何かを怖れて足早に逃げ去る。
今にも雨が降りそうな暗さの中にあっても、雨粒は地上に降りるのをためらい、遙か空の上にいるのみだった…
先ほどまでは、小鳥たちが慌てて空へと舞い上がっていたが、今はすべてが逃げ去り、静けさが戻ってきていた。
不気味に静まりかえった森の向こうから、ゆっくりと、だが着実に凄まじい圧力がせまってくる。幾百年生きてきた吾輩だが、これほどまでに恐ろしげな気配は感じたことがなかった。
「む…むう」
吾輩は呟き、いつもより深めに深度をとった。信じがたい事だが、この距離ですら思わず身をすくめたくなるような圧力が、吾輩へと迫っていた。
しかし、その反面、これほどの圧力を発するものが何なのか…知りたい気持ちもある。
我ながら軽率な気はしないでもないが、吾輩は深度を維持したままその気配を待ち受けた…
四半刻ほどが過ぎたであろうか…いや、実際にはその十分の一すらも過ぎてはいるまい。吾輩は、水中にいるにもかかわらず汗をかいていた。
「文字通りの『ガマの油』か…」
吾輩がつまらないことを口走った直後だった。森の向こうから不気味な声が聞こえてきた…
「木の実~キノコ~小鳥~動物~何でもいいから出てきなさいっ!!」
空気を震わせ、木々を震わせ、そして逃げ去ったであろう動物たちも震え上がらせんばかりの叫び声が森にこだまする。
残念ながら、木の実やキノコは呼んでも出てこないし、そもそも少しでも『恐怖心』というものを持っていたら、こんな声を聞いた刹那逃げ去るであろう。
残っているのは物好きか…さもなくば自殺志願者だけだ。
吾輩は、そう独語したのち、自分もその『物好き』であることに気がつき苦笑した、しかし、沼に何の影響も出ないとわかるまで、吾輩は後退するわけにはいかなかったのだ。 その時だった…
「みぃ~つ~け~た~晩ご飯っ!!」
「!?」
恐ろしい程の殺気を感じた吾輩は、急速潜航で水面下に我が身を隠した。
水面下に姿が隠れる直前、吾輩の体の上を殺意を帯びた風が通過していったが、あと数秒潜るのが遅かったら、おそらく吾輩は『何か』の直撃を受けてあえない最後を遂げていたに違いなかった。
そして、あの時『奴』と目を合わせなかったのが生死の境だったのだな…もしもあの時『奴』と目を合わせていたのなら、吾輩は間違いなく恐怖のあまり身動きがとれなくなっていただろうからな…
吾輩は、そのまま深度を下げ、沈底した。
暗く濁った水が吾輩の姿を完全に隠してくれ、いつもより若干激しい衝撃も水底の泥が吸収してくれた。
「このっ!出てきなさい!!…蛙の天ぷらは美味しいのよっ!!あんだけでかけりゃ干物にして一月は食いつなげたところだったのに…出てこい晩ご飯っ!!」
沈底した吾輩の頭上では、なにかをわめく『奴』がいた。
水中にいてはその声はわからないはずなのだが、何かが水を震わせて伝わってくるのだ。
深く暗い水の底まで奴がやってこられるとも思えないが、念には念を入れた方がよさそうだ。
吾輩は、隠れ家にしている横穴へ向かうべく、ゆっくりと移動を開始した。
葦が群生しているあの付近ならば、例え『奴』がきた所で発見はされるまい。『奴』が諦めてこの付近を去るまで、そこに退避しているのが賢明そうだった。
吾輩は、水底を這うように進み、自らの住処へと入った。
「…あくまでも出てこないつもりねっ!ならば新型の陰陽玉爆雷、受けてみなさい!!」
吾輩が横穴に入った直後から、突如水面を叩く音がして、続いて断続的な衝撃が水中を伝わってきた。
たちまち水中を泥が舞い、ただでさえ悪い視界をますます狭める。水中を伝わる衝撃は、吾輩の体へとなんどもぶつかってきた。
ここにいるからこの程度ですんでいるが、直撃を受けたなら吾輩もただではすむまい…
吾輩は、穴の奥へと下がり、この人為的な嵐が過ぎ去るのを待った。
うむむ、長く生きてきたが、まさかこの歳になって食料として襲われるとは思わなんだ。
「くっ!覚えてなさい!!今度来たときには必ず仕留めてやるわ!!」
あれからどれほどの時間が過ぎたのだろうか…沼を襲った『奴』の気配はやがて消え去り、沼に平穏が戻った。
用心に用心を重ね、それからさらに三刻の時間をおいて浮上した時、水面はあれほどの騒ぎが嘘であったかのように静かになり、そして森には生き物達の姿が戻ってきていた。
空はすっかり暗くなり、ただただ月のみが浮かんでいる…
何に怯えることもなく空に浮かぶ月を見ながら吾輩は独語する。
「これほどの威圧感を持つとは…一体どれほどの大妖怪なのか…やれやれ、長く生きてきたとは思っていたが、所詮井の中の蛙であったか」
九死に一生を得た吾輩の呟きは、その安堵とともに夜空へと吸い込まれていったのだった…
~三日目~
「よーし、公試運転だぜ!!行くぞ84号箒!!」
黒い彗星が幻想郷の上空を通過する。
そこから発せられた暴風は地を薙ぎ、夜雀の屋台を横転させ、里の小屋を飛散させ、空で遊ぶ妖精達を吹き飛ばしたが、それを動かす当人は、何ら悪びれることもなく加速させた。
「パチュリーの図書館から(強制的に)借りてきた本で設計して、香霖堂から(無理矢理)貰ってきた材料で作ったこいつなら…あの天狗を超えられるはずだ!!」
彼女が幻想郷最速の名を取り戻す為に製作した箒は、その期待に応えてぐんぐんと加速した。大量の試作箒(失敗作)の末に完成した箒は、彼らの分までその力をふるう。
それはまるで疾風の如し。ブン屋に最速の名を奪われて以来、その名を取り戻すべく努力を重ねてきた彼女の集大成である。
「いいぞ…こないだはケチって純度の低い魔力を使ったせいか、途中で花畑に不時着(墜落)しちまったけど…今日は最高純度の魔力を注入したし…もう問題はないはずだぜ!」
『お花畑』じゃなくてよかったぜと続ける彼女は、さらに箒を加速させる。
「いいぞ…いい調子だ」
箒はますますその速度を増し、同時に強烈な風圧が箒を襲う。
「ちっ!防御結界を張っているとはいえ…なかなかきついぜ。だが…私はやる!今度こそ幻想郷最速の名は私のもんだっ!行け84号!!」
箒はもはや常人の目には止まらないであろう速度に達していた。だが、彼女はまだ満足していなかった。
「もうちょっとだ…もうちょっと…」
さらに魔力を込められた箒は、加速しつつも振動を発し、操縦者に限界を告げる。だが…
「まだだ…まだ行けるはず!いっけー!!」
少女は諦めない。自分で自分に限界をひかないのが彼女の長所であり短所、彼女の辞書には『諦める』の文字はなかった
箒は激しく振動し、今にも砕け散りそうな雰囲気であった、が。
「…まだだ!まだ終わらないぜ!!私は…最速だぁっ!!!!!」
彼女が絶叫した直後、箒は加速すると同時に凄まじい振動を発し、その手綱を持ち主から奪い去った。
「くっ!どうしたんだ!!もっと…もっと速度を…私に…最速の名をっ!!!」
叫ぶ少女、だがその刹那、箒は巨大な衝撃と爆音を残し砕け散った…まるで見えない壁にぶつかったかのように…
箒は…星となった。
「…ん?何か悲鳴が聞こえた気がするが…」
何かで目が覚めた吾輩は、そう呟くと穴から出る。またあの妖怪が出たとなれば少々厄介だった。
直後、水面に衝撃を感じるが、その衝撃は一度で終わる。攻撃ではないようだが…
用心深く水面へ顔を出した吾輩の目の前に『あった』のは、大破漂流中としか表現できないような人間の少女だった。
先ほどの悲鳴と、それに続く衝撃はこの少女のものと見て間違いはないだろう。妖怪にでも襲われたのか…はたまた誤って沼に落ちたのか、どちらにしろこのまま放っておくのは寝覚めが悪い。
そして、ここで死なれて吾輩の沼を汚されるのも、沼の主としては避けたいところだった。
「ふぅ…」
吾輩はため息混じりに彼女を背に乗せ、落とさないように静かに岸辺へと移動する。背中からは少女の息づかいが聞こえる。生きてはいるようだ。
「やれやれ…」
岸辺に少女を押し上げた時、彼女はまだ眠っていた。気は強そうだが、反面素直そうな顔の少女…果たして何の因果でこんな所で浮かんでいたのかは知らないが、何はともあれ起きたときに姿を見られては、怖がられるばかりであろう。
そう思った吾輩は、少女を一瞥すると、ゆっくり水中へと戻っていった…
~四日目~
「よ~るだ夜中だ♪まっくらやみだ~♪」
暗い森の中、明るい歌声とごろごろという音が響いてきた。そして、何やら美味しそうな匂いも…
普段、吾輩は虫だのなんだので食事をしているのだが、このような匂いを漂わされてはさすがに気になってしまう。
吾輩は、誘われるように沼から出て、歌声のする方へと向かった。
「あっ!お客さん?いらっしゃい♪」
のそのそと歩いて行った先にあったのは、なぜか補修の跡が見られる屋台と、吾輩に笑顔を向ける少女の姿だった。
「ふむ…何屋さんかな?大層うまそうな匂いときれいな歌声に誘われてやってきたのだが…」
そんな吾輩の言葉に、少女は満面の笑みを浮かべて答えた。
「ありがとー!そんな風に言ってもらえると嬉しいよ♪ここは八目鰻のお店、焼き鳥撲滅キャンペーン中なんだ」
「なるほど…」
見れば少女の背には羽根があり、他の外見も合わせて判断すると、どうやら鳥の妖怪のようだった。
「何本か食べていかない?初めてのお客様だからサービスだよ」
「ふむ…頂こうか。だがただ食いも少々申し訳ない、代わりに沼で採れた蓮根を置いていこう」
明るく誘う少女に、吾輩は対価を払い、出来上がりを待つ。
「ふむ、家は遠いいのかな?」
慣れた手つきで串を手に取る少女、彼女を見てふと気がついた吾輩は声をかける。
「あ、うん。ちょっと今日は遠出してみようと思ったんだ。いろいろな人(?)に食べて貰いたいから♪」
それでこのあたりでは見かけなかったのか、成程と頷く吾輩へと、少女は串を差し出した。
「はい、出来上がり」
「うむ、いただこう」
「どうぞどうぞ♪」
口の中に入れられた(むろん串は抜いてある)その品は大層香ばしく、吾輩が今まで生きてきた中で最も美味しかったと言っても過言ではなかった。
「ふむ…美味なり。今日は歌に誘われて出てきて正解だったな、ありがとう嬢ちゃん」
吾輩の心からの礼に、彼女も顔をほころばせる。
「うんうん、やっぱりそう言ってもらえるのが一番の喜びなんだーどんどん食べてね。まだまだあるからさ♪」
「うむ」
森の木立の中、吾輩はしばし旨い料理と上手い歌に酔いしれていたのだった。
「…ふむ、人間が妖怪を襲うなどとは…不思議な世の中になったものよの」
いつの間にか吾輩と一緒に酒を飲み、顔を真っ赤にした少女に、吾輩は世間話をしていた。
なんでも、最近は森で狩猟採集をする人間がいるとかで、ずいぶん苦労をしているらしい。
「そうなの、そいつから小鳥達を守るためにいつも苦労してるんだけど、そいつったら強くてさ、私じゃ太刀打ちできないんだー。時間を稼ぐのが精一杯なの、下手したら私まで食べられそうになるし…はぁ」
やれやれといった表情の少女を見て吾輩は思う。時代も変わったものよ、人間が妖怪を食べるとはな。
「うむむ…先日は恐ろしいほどの圧迫感を持った妖怪に襲われたのだが、世の中恐ろしいのは妖怪ばかりではないか…」
吾輩は、つい先日起こった出来事を思い出しつつ少女に話す。
「えーっ!?大ガマさんよく無事でしたねっ!!」
大仰に驚く少女に、吾輩は頷きながら答えた。
「うむ、吾輩も幽明の境というものを久々に味わったわい」
「うーん、でもそいつとあの巫女をぶつけられれば上手くすれば相討ちに…」
そんな事を呟く少女を、吾輩は慌てて止める。そんな危険なことをさせるわけにはいかん、大体、この少女がそれであの妖怪と人間に食べられでもしたら、吾輩はどう償えばよいのか…
「いかんいかん、あの妖怪は余程腹を空かせていたらしい。今近づけば問答無用で腹の中に納められてしまうぞ?」
「え…そ、そっか、私もまだ小鳥達の面倒を見なきゃいけないし食べられるわけには…うん、やめておくよ」
「うむ、それが賢明な判断だろうな」
吾輩の真剣な忠告に、幸い少女の方も翻意してくれたらしい。
「色々怖いなぁ、実は、昨日も変な人間が起こした風のせいで屋台が倒れたんだ。お仕事休むのは嫌だし、そんなに派手に壊れなかったからすぐに直して出て来たんだけど…」
ため息をつく少女に言われ見てみれば、屋台の半面はあちこちに板を張り付けた跡がある。こんなに大きな屋台を倒すとは…どれほどの風を起こしたのか…
「うむむ…災難だったな、そういえば昨日は沼で人間の少女を助けたのだが、もしかするとその風に吹き飛ばされてきたのかもしれんな…」
ふむ、あんな所に人間が一人だけ…それも年端もいかぬ少女が…のこのこ来るとも思えんし、もしかするとその風に吹き飛ばされてきたのかもしれん。
「もう、人間にも妖怪にも迷惑な奴ね。森の小鳥達の巣も56戸が全半壊、一昨年の嵐以来の被害だったのよ。死んじゃった子がいなかったのが奇跡みたい」
吾輩が思考している間に、少女は思い出したように憤慨していた。
「全くだ、最近他人の迷惑を考えない輩というものが増えてきて困る」
腕をぶんまわし力説する少女に、吾輩も同調する。人の迷惑を顧みない人妖には困ったものだ。
「だよねっ」
高く昇った月の下、にぎやかに静かな暗い森、その中で吾輩達の夜は更けていった…
~五日目~
「ねぇねぇそこの大ガマさん」
日中、沼に異常がないかいつも通りの巡回路を航行していた吾輩は、突然声をかけられ停止した。
「…ふむ?何かな?」
見れば、岸辺からこちらをのぞき込む一人のウサギ少女がいた…もしや?
心当たりに気がつき、沈黙する吾輩をよそに、かがみ込んだ彼女は、どんどんと話を続ける。
「この沼をもっと棲みやすくしてみない?今ならスーパーイナバリフォームプランですぐに…」
「ふむ、すまないが吾輩は今のこの沼が気に入っているものでな。永琳亭の因幡てゐ殿」
言葉を遮る吾輩に、その少女…てゐはぺろりと舌を出して呟いた。
「なんだ、ばれてたんだ…でも永『琳』亭?」
永琳亭の兎詐欺師といえば、このあたりにもその名前が伝わってくる。…まぁあだ名の通り、ろくな噂ではないのだが…
「左様、まぁそういうわけでお引き取り願いたいのだが」
そう言った吾輩に、てゐはまだ不敵な笑顔を見せて続ける。
「まぁまぁ、私に会った時点で幸福になる…それが私の能力っていうのは嘘じゃないわー。だからその幸運をもうちょっと増やしてみれば…」
「てゐ~いるんでしょ!でてきなさ~い!!」
てゐがそう話し始めた時、森の方から彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。その声に、彼女は耳をぴょんこと立てて反応し、すぐに立ち上がる。
「げっ!?鈴仙!それじゃまたっ」
まさに『脱兎』という言葉が似合う速度で、声がしたのとは反対方向の木立へと、彼女は消えていった…
一体何がどうなったのか…状況をつかめずに呆然としている吾輩だったが、そんな吾輩へと、もう一人のウサギ少女が接近してきた。
「あのーすいません、なんかその…小さくてウサギの耳をはやした女の子、こっちに来ませんでしたか?」
丁寧な物腰で言うそのウサギ少女は、さっきのウサギ少女とは若干耳の形が違うようだったが…それ以上に何か苦労人といった雰囲気が漂っていた。
吾輩は、別段隠すこともないので先ほどの状況をかいつまんで説明した。
「あああ…こんな所にまでご迷惑を!?ごめんなさいごめんなさい、私の監督不行届です、本当にごめんなさい」
「ふむ…いや、実害もなかったし、そもそもお主が悪いわけでもあるまいて、まぁこれ以上妙ないたずらをしない内に捕まえてお説教するなり、閉じこめるなりするのがよろしかろう」
まさに平謝りといった様子で謝る彼女を見て、何かこちらの方がすまない気になってきたので、吾輩は速やかにてゐを追うように彼女を促した。
「あ…はい、ありがとうございます。本当にご迷惑おかけしました、それでは失礼します」
そう言うやいなや、こちらもかなりの快速をもって追いかけていく二人目のウサギ少女、吾輩は、そんな彼女を目で追いながら、その苦労を思っていたのだった。
何はともあれ、二人の来訪者(?)を見送った吾輩は、ゆっくりと回頭し、再び巡回につこうとした…のだが…
「ちょっと伺いますが、こちらに二羽ばかりウサギが来ませんでした?小さいのと大きいのが」
…ふむ、今日は来客が多いらしい。先ほどの二人とはうって変わって大人びた声に、吾輩は振り向いた。
そこに立っていたのは長身の女性、落ち着いた雰囲気を醸し出しつつ、油断ない雰囲気は相当の実力者かと思われた。吾輩は、彼女に目で方向を指し示しつつ言う。
「ふむ、その少女達ならば向こうに行ったよ。一人目がまず来て、それを追って二人目が来た。おそらく同じ方向に向かっているだろう」
吾輩の言葉に、女性は頷き、言った。
「ありがとう。ウドンゲったら…相手の行動を読まずに闇雲に追いかけても労力を消費するだけなのに…修行が足りないわね」
呟く女性の姿は既に遠く、しっかりとした足取りで森の中へと消えていった。
「ふぅ、本当に今日は来客が多いな」
彼女が立ち去ったのを見て、吾輩は独語した。
この沼にやってくる人妖などたかがしれている。しかし、今日はそんな中わいわいがやがやと千客万来だ。
…まぁ三人で千客万来というのも何だし、要は最初の一人を追ってきてこうなった訳なのだが。
そして、おそらく彼女らは竹林の奥にあるという『永琳亭』の連中だな。天災薬師として知られる永琳を筆頭にその弟子、そして兎詐欺師として名高いてゐを擁し、さらに麾下に多数の妖怪兎を持つという永琳亭の戦闘力は、幻想郷では紅魔館に次ぐとさえ聞く。
まぁ、手出しをしない限り向こうからは何もしてこないとの話つきだったが…
そして、少なくとも、あの様子を見る限り後者の噂は真実のようだな、なかなか仲もいいようだしな…
まぁいい、今度こそ巡回に戻ろう。二度あることは三度あると言うが、四度目はあるまいて…
「すいませ~ん、ここにイナ…兎が二羽と、黒っぽい看護士が来ませんでしたか~?」
「…黒っぽい看護士なら、小さな兎を追いかけてきた大きな兎を追いかけて向こうに行ったよ」
ふむ、熟語というものは時にあてになるが、時にあてにはならないようだな。吾輩は、四人目の来訪者の方を向きつつ思考した。
「成程、永琳ったらイナバ達と追いかけっこでもしているのかしら?私をさしおいて楽しそうね、まぜてもらおっと」
見ればずいぶんと『追いかけっこ』には不適そうな格好をした少女がぶつぶつと言っている。別に先の三人は追いかけっこをしていたわけではないと思うのだが…
しかし、そんな彼女は吾輩にちょこと頭を下げると、小さな兎を追いかけてきた大きな兎を追いかけていった黒っぽい看護士を追いかけ、喜々として森の中に消えていった。
それにしても、あの黒髪の少女は誰なのか…『永琳』と呼び捨てにするあたり、同格かそれ以上の立場もしくは実力者、永琳亭の者ではないのか…?
まぁいい、さしあたってこの沼に脅威にならないのであればかまう必要などない。吾輩は、そう判断すると、いつもの巡回路へと戻っていったのだった…
~六日目~
「む…何だこの邪悪な気配は?」
朝、じっとりとまとわりつくような不快感で目覚めた吾輩、怪しげな…いや妖しげな気配を感じて浮上した。
葦の合間から目だけ出してその『気配』の元を伺う、と…
「昨日てゐちゃんが通ったのはここなのね?間違いないのね?」
そこにいたのは物言わぬ人形に話しかける妖しげな少女の姿…不気味だ。一体何を話しているのかはここではわからないが、少なくともよからぬ相談をしていることに間違いはない。
何をするつもりかはわからないが、ひとまずこの沼に何か被害が及ぶ事をしないとわかるまで、監視を続けることにしよう。以前の大妖怪にはさすがに見つかってしまったが、基本的に、吾輩は気配を消すのは得意なのだ。
「…別にてゐちゃんに逢いたいんじゃないのよ、賽銭箱にお金を入れれば幸せになれるって聞いてたからそれで…」
うむ、尚も人形に話しかけている。もしかすると呪詛を込めているかもしれんな、その為にこんな人気のない所に来たとか…
ふむ、やはり油断はならん。
あれから五刻は過ぎただろうか、少女は尚も時折人形に呪詛を込めながら、あとの時間は沈黙して魔力の充填に力を注いでいるようだ。恐るべき精神力だな。
む…?動きが…?
「いい、上海、蓬莱、倫敦、仏蘭西、露西亜、あなた達はあちこちに展開しててゐちゃんの情報を集めなさい、残りはここで待機、いいわね」
なんと!少女が何事か囁くと、人形達はまるで命あるもののように空へと舞い上がった。やはり呪いの人形であったか…む?こちらに来た?
「全く、アリスときたらこんな下らない目的に私たちを酷使するんですからひどいものですね。だから友達いないんですよ」
「何を言うか上海!主命はいかなるものであってもそれを達するが部下の努めであろう。拙者は、命に代えてでもそのてゐなる者を仕留める所存」
「いや…殺しちゃまずい気がするんですけど蓬莱人形?」
「いやいや蓬莱人形、おそらくアリス殿は、てゐ殿に美しき恋心を抱いておられるのでしょう。汚れなき乙女の願い、それを達するのが紳士の努め」
「ええ、マドモアゼルの恋心ほどこの世に美しく儚いものはありません。そしてそれを遂げさせるのは私たちにとって至上の名誉ですな」
「珍しく意見があいましたな仏蘭西人形」
「ええ、乙女の恋心とは文明世界の共通語でありましょう倫敦人形」
「もっともですな」
「あ~汚れなきって思いっきり汚れてる気がするんですけど、しかも絶対恋心じゃないし…いいやもう」
「ひっく、乙女心よりも主命よりもウォットカだ。ウォットカがなくては弾幕も張れない」
なんと…人形が喋っておる。長く生きているとかように珍しい体験をすることもできるのだな。
吾輩は、珍しい光景にじっと見入っていた…のだが。
「!?」
人形と目が合う、いかん、見つかったか?まぁいきなり攻撃をかけてくることもないだろうし、そもそも人形に攻撃手段など…
「見つかってしまうとは…これでは主命を達することなどできないではないか!かくなる上は…」
「待て!蓬莱人形何をするつもりだ!?」
「…一命を賭して任務を達成するのみ!後は頼む!!」
「そんな澄み切った笑顔で頼まれても困りますってば!ストップ!!」
「蓬莱人形を止めろ!!いつもの自殺癖だっ!!」
「止めろったってどうすれば…」
「ジャパニーズ『カミカゼ』!?さすがサムライハラキリフジヤマっ!!」
「仏蘭西人形!はしゃぐな止めろ!!」
「ウォットカだウォットカ…カミカゼウォットカ、ひっく」
五体の人形、その編隊が崩れ、一体がこちらに突進してくる。
…いかん、急速潜航だ。吾輩は口を開け、水を一杯に飲み込み潜航をかける。
たちまち全身が水に浸かっていくのがわかる…だが、人形の接近も急だ、果たして間に合うか!?
「アリス・マーガトロイドに…」
「よせっ蓬莱人形!!」
突っ込んでくる人形の姿が完全に見える、後方では別な人形がやめさせようと叫んでいた。
「友人あれー!!!!!!」
「それ無理ー!!」
「ぬっ!?」
人形の絶叫(?)と、背後の突っ込みの声が聞こえた直後、背中をぬめるような感覚があり、吾輩はそのまま潜航した。
「あーもう、岸辺にめり込んじゃってる」
「仕方がない、引っ張り出そう」
「「「いっせーの…せっ!」」」
「ぶはっ…ああ、また死にぞこなってしまったか、かくなる上は切腹してお詫びを…」
「だからやめい!」
「ならば首を吊って…」
「もう放っておきません?」
「ひっく…ウォットカの沼だ、ひっく」
「露西亜人形!何処に行く気だ!?」
「そっちは沼…」
「あ…落ちた」
あれからどれくらいたったろうか、ひとまず、吾輩は例によって周囲の状況を確認し、危険がないことを確かめると浮上する。
そこに人形達の姿は既になく、沼には静けさが戻っていた。
それにしても、あの恐るべき人形はなんであったのだろうか…吾輩は、いつもより少しだけ涼しい背の感覚を感じつつ、あの恐怖を思い出していたのだった。
~七日目~
空は蒼く、晴れ渡っている。沼はいつも通り暗く澱んでいるが、その周囲の空気は素晴らしく澄んでいる…一部を除いて。
まぁ今日はのんびりと過ごせそうだな…
だが、そんな吾輩の希望的観測は、すぐに打ち砕かれることとなった。
「わー!?おっきい蛙っ!!」
「大ガマって言うのよ桜、この沼の主かしら?」
「捕まえようぜ!」
「無理よ、反対に食べられちゃうわ」
「不二くんおいしーの?」
「さぁ、少なくとも頭に中身は詰まってなさそうだけど」
「うるさい瑞穂!」
沼の畔にやってきて吾輩を見るのは人間の子ども達だ、はて、こんな所にまで人間の…それも子どもが来るとは珍しいな、まぁ風に吹き飛ばされたかどうかしたのか知らないが、こないだ沼で大破漂流していた少女はいたが…
ひとまず、いくら吾輩が非力とはいえ妖怪は妖怪、いくらなんでもあんな子ども達に後れをとるほどではない。
吾輩は、はしゃぐ子ども達をのんびりと眺めていた。
「お~い、皆急ぐな、何かあったら危ないだろう。まったく…」
と、その時もう一人誰かの声が聞こえ、頭に不思議なものをのっけた女性がやってきた。
ふむ、あれは…上白沢慧音とか言う半獣か…彼女は人間の味方で、妖怪と見ると情け容赦なく殺してまわるという噂を聞いている。
厄介なことにならない内に潜った方が良さそうだな。
「まぁ待ってくれそこの大ガマ殿、私に別段敵意はないんだ」
と、思ったら声をかけられた、はて…少々噂とは異なるな。それにしても一体何の用なのか…
潜航を中断し、話を聞く姿勢を見せた吾輩に、半獣は言った。
「いや、子ども達に蛙の生態について教えているんだが、できれば近くで観察させていただけるとありがた…」
「…それでは」
「わっ!ちょっと、ちょっと待ってくれ」
みなまで聞かず、失礼な…と、潜航を再開する吾輩を見て半獣は慌てだした。
「ああ、失礼なのは分かってるんだ。だけど蛙はなかなか近くで観察させてくれないし、すぐに動き出すし…頼む、この通りだ。話の通じる蛙などほとんどいないし…子ども達の為、協力してくれないか?」
「…やれやれ、仕方がない」
実力差で懸絶した相手に対し、頭を下げるその謙譲の精神に敬意を表して、少々つきあってやるとするか。吾輩は、再び浮上し、岸辺に上がる。
「ただ一つ条件があるとすれば…」
もったいぶって言う吾輩に、半獣は一瞬動きを止めた。
「と、言うと…?」
「…解剖なんぞはやめてくれよ」
一瞬の間をおいてにやりと笑った吾輩に、同じく半獣も笑って答えたのだった。
「ああ勿論だ、だって…子ども達が泣くじゃないか」
…こら待て。
「ははは…冗談だよ大ガマ殿」
…全く、やはり噂とはあてにならんな。吾輩は、目の前でにこやかに笑う半獣を見ながらそんなことを思っていたのだった。
「わーすごいすごい!ぬめぬめしてるのー」
「近くで見るとでっかいなー」
「…傷薬にちょっともらえないかな、買うと高いし」
「…う~む」
五分後、吾輩は安易な返答を後悔していた。
吾輩を取り囲んだ子ども達は、何の遠慮もなくべたべたと触り、吾輩を『観察』する。何か精神的に解剖されている気がしてきたぞ?
「あーこらこら、皆、あんまり失礼なことをしては駄目だぞ」
「慧音先生、でもこうしてる時点で既に失礼極まりない気がするんですけど?」
「あ…いや、その…って不二、乗ろうとしない!!」
「あー慧音先生誤魔化したー」
「のー」
「あ…いや、だからな」
半獣が子ども達を止めようとしているが、反対に言い負かされる始末で話にならない。やれやれ。
それにしても…不思議な光景だな。半獣の先生と人間の子ども達、そして妖怪の吾輩か…近い将来、人間と妖怪が共存する幻想郷というものができるかもしれないな。
子ども達に囲まれながら、吾輩はのんびりとそんなことを考えていた。
「いや、助かったよ大ガマ殿。ほら、皆もお礼を言いなさい」
「ありがとうございました」
「面白かったぜ」
「ありがとうなのー」
ずいぶん時間が過ぎ、太陽は足早に沈みつつあった。
半獣は、子ども達を並ばせるとお礼を言わせ、そして自分も続く。
「本当に助かったよ大ガマ殿。話の通じる蛙というものはなかなかいなくてね。だが、子ども達には違う生き物に興味を持ってほしかったんだ。自分と異なる者をそれだけで嫌悪するような人間には育ってもらいたくなかったからね…それは自分で自分の首を絞める行為であるとなぜ気がつかないのか…」
心当たりがあるのか、彼女は一瞬苦い顔をしたが、すぐに笑顔に戻る。
にっこりと笑った彼女の頬を太陽が夕陽が撫でた。既に子ども達は整列をやめ、わいわいと楽しそうに騒いでいる。
そして吾輩はふと思い当たった。
「さてはお主…『蛙の観察』ではなく『妖怪の観察』に来たのではないかな?」
吾輩の質問に、彼女は微笑と言葉を混ぜ、返した。
「…つい最近、この沼で何かに助けられたという奴がいてね、大層迷惑な奴なんだが…まぁそれはいい。そいつが、どうも意識を取り戻した時にでかい蛙を見たとか言っていたんだ。それでちょっと…ね」
答えになっていない答え、だがそれでいい。
「ふむ…まぁいい、吾輩は、自分とこの沼に危害を加えないのなら、妖怪も人間も気にせんよ」
今日は十分暇をつぶせた、ああいう風にかまわれるのは慣れていないが…まぁたまには悪くない。
夕陽を浴び、立ち去っていく半獣と子ども達を見ながら、吾輩は、今日は騒々しいがなかなかに楽しかったと呟いたのだった。
「いいなぁ、みんなでおでかけいいなぁ…」
最後の最後まで楽しい気分で今日を終えたいので、藪の中から聞こえてきたこの言葉は聞かなかったことにしよう。
吾輩は、ゆっくりと水の中に戻っていった。
~そして~
「てーいっ!」
どぼーん
「やーっ!!」
ぼちゃーん
「ていやーっ!!!」
どっぽーん
「…何事だ」
平和に午睡を楽しんでいた吾輩は、時ならぬ騒音にたたき起こされた。
どうも沼に石を投げ込んでいる輩がいるらしい、やれやれ、最近は行儀の悪い奴がいるものよ。
吾輩は、ため息混じりに独語し、その音のする方向へと向かった。
「はぁはぁ…もう一つ…」
見れば、小柄な少女が、やたら大きい石を必死に持ち上げようとしている。何をしようとしているのかまるわかりなので、ひとまず止めておくことにした。
「やめんか」
「えっ…!わっ!?きゃ!!」
とたんに、ぼと…ぐしゃ…としか表記のしようがない音が響き、少女は足を押さえてうずくまった。
…まぁ何があったかは言うまでもあるまい。
「~~~っ!」
「…大丈夫か?」
声にならない悲鳴を上げている少女に向かい、吾輩は声をかける。だが、とたんに彼女は顔を上げ、言った。なかなかの根性だ。
もっとも、顔が「大丈夫じゃない!」と言っているが…
「…はい…ええ、まぁ…辛うじて。で、私は九代目御阿礼の子稗田阿求と申します。ちょっと大ガマ様にお聞きしたいことがありまして…いたた」
そこまで言って、再びうずくまる少女、相当痛いようだな。骨が折れていないといいが…
だが、心配する吾輩をよそに、少女は続ける。
「…と、失礼しました。実は、幻想郷縁起をまとめるにあたり、こちらでも何か面白い出来事は起こっていないかと思って来たのです。派手な出来事でしたら私の耳にも入ってくるのですが…幻想郷も名のある妖怪ばかりではありませんので…」
「幻想郷縁起…?」
はて、どこかで聞いたな…ふむ…ああ。
吾輩は、深く濁った記憶の底からそれを取り出す。
「…稗田家か、幻想郷縁起は重宝させてもらっているよ。人間ばかりではなく、吾輩達のような力のない妖怪にとっても、強い妖怪への対処法等々は必要だからな」
しばしの思考の後、ようやくその記憶を取り出した吾輩は言った。
幻想郷縁起…それは人間の視点から見た幻想郷の歴史書である。
幻想郷の出来事を記録し、また、そこに棲む妖怪達の特徴や、彼らへの対処法も書かれてある、いわば初心者向けの『幻想郷案内書』といったものだろう。
実物が手元にないので詳細は知らないが、少なくとも他の妖怪から聞いた限りではそのようなものであった。
そして、それは吾輩のように力なき妖怪にとっても、なかなかに役に立つものなのだ。
「なるほど、ご愛読頂きありがとうございます。で、何か近頃面白いこととかはありませんでしたか?面白い人妖が来たとか…そこで何で私を見るんですか?」
「いやいや、わざわざ妖怪の所に来るお主のような者は面白いとはいえないのかな?」
吾輩の方を睨んできた少女に吾輩は笑いで返す。
「もう、慧音様が『あの大ガマ殿はなかなか話せる御仁だ』って言っていたから来てみたのに…」
そんな吾輩の態度に、プンと頬を膨らませた少女、さすがにからかうのはここまでにしておくか。
「…ごほん、まぁ最近起こった出来事というと、ふむ、色々あったな」
「え…なになに?何があったんですか?」
とたんに目を輝かせる少女に向かって、吾輩はここ一週間の間に起きた出来事を話して聞かせた。
紅魔館連中の『通過』(これだけでずいぶんな騒ぎだ)、名も知らぬ大妖怪の襲来、人間の少女を助けた事、うまい八目鰻を食わせる屋台、兎詐欺師の勧誘、神風人形、そして人間の少女と半獣の話…等々。
「成程、興味深いお話をありがとうございました。ふむふむ、いくつかネタができたなぁ…それにしても、あの事件はこっちではこんな感じだったのか…」
頷く少女へと、吾輩は言った。
「まぁそんな所だ、役に立ったかね?」
「ええ、面白いお話が色々と聞けました。…役に立ちそうな事とかも」
そう言って少女は続けた。
「完成したら一度見に来ませんか?面白い記事がたくさん載っていますよ?」
「いや、やめておくよ」
そんな少女に吾輩は即答した。不思議そうな顔をした彼女に、吾輩は続ける。
「吾輩は今までも、そしてこれからもずっとこの沼にいる。友人から聞くだけで十分さ」
「はぁ」
少女は、ため息を一つつく。そして言った。
「好奇心とは重要なものですよ?この幻想郷では好奇心がありすぎて困るような連中ばかりだというのに…でもまぁたまにはそんな妖怪がいてもいいかもしれませんね」
そこで笑顔を見せた少女へと、吾輩は言葉を返した。
「左様左様、世の中同じ連中ばかりではつまらんだろう。例えば蛙ばかりだったらゲコゲコうるさくてかなわんし、な」
笑う吾輩に、少女も笑い返し、続けた。
「そうですね、でもあなたを記事にしてみたい気もするんですけどね。何か事件を起こしてくれると、今からでも間に合いますよ?」
そう言って微笑みを向ける少女…だが。
「いやいや、吾輩はこの沼で何か起こらない限りは何もせんよ。そして、こんな沼で何かが起きるということもそうそうあるまいて…今までも、これからもな」
「はぁ、そうですか、では仕方がないですね。でも『これからも』何も起こらないとは限らないですよ?ここ何年かの間に、あちこちで大きな変化がありましたしね。…それでは」
ゆっくりと言った吾輩へと、少女はそう言葉を返し、ぺこりと頭を下げた。
「それではこれにて失礼いたします。九作めの幻想郷縁起の完成、お楽しみに」
「ふむ…ああそうだ、帰るときは来た道を帰るとよろしい」
立ち去ろうとする少女へと、吾輩は忠告を付け加えた。
「え…?」
不思議そうに言った少女へと、吾輩は続けた。
「なに、老ガマの勘というやつだ。だがまぁ勘というのもそれなりにあてになるものだぞ?」
「それはそれは…何か気になりますけど分かりました。別段することもないですし、今度こそ失礼しますね」
来た道を引き返す少女…これで妙なのには遭わんですむだろうな。神風人形とか。
少女を見送った後、吾輩は空を見上げた。
森の中にぽっかりと空いた穴…蒼い空。数百年もの間ずっと眺め続けてきた同じ景色。
この沼の中でずっと生きてきた吾輩に、果たして変化などあるものなのか…?
変化は望まない、吾輩はこの沼を守って、そして死んでいければ十分だ。
だが、そんな考えと同時に、今までのこの暮らしと違った暮らしへの憧れというものも出てきた。好奇心…か。
しばしぼんやりと時を過ごした後、吾輩はゆっくりと沼に戻っていった。
どうなるにしろ、今まで通り吾輩は生きていこう。何か変化があれば、その時に考えればいい。
そのまま暮らし続けるのもよし、その変化へと飛び込んでみるもよし…
吾輩は、そのまま住処へと戻っていく。
それは、吾輩がチルノなる妖精と、その友人たる大妖精なる妖精に出会う、ちょうど十日前の出来事であった。
『おしまい』
慧音と里の子供たちのくだりが一番のお気に。
あと霊夢がやばい 妖怪扱いだよw
余り強くない妖怪だけど、長生きしていてしかも沼の主としての責任感がある。
大人だ。
アリスは霊夢を餌付けすれば友人ができるような。食べられるまでは。
>一人目の名前が無い程度の能力様
泰然…この言葉が大ガマには一番似合うと思うのです。
>二人目の名前が無い程度の能力様
>何度か出てきた「友人」はチルノと大妖精なんじゃ…と思いながら読んで
>たんですが、ハズレでしたw
ああ…成程です。言われてみると確かにそう読めるかも…って当人が言っちゃだめじゃんorz
>三人目の名前が無い程度の能力様
>慧音と里の子供たちのくだりが一番のお気に。
私もですww
今回は、ギャグからほのぼのまで色々と好き勝手に混ぜたのですが、大ガマに関するお話として、一番に考えていたのがこのお話だったのです。そう言っていただけるととても嬉しいです。
>月影蓮哉様
わわ…私のような者にそんな…とんでもないのですorz
…でもちょっと嬉しかったり(おい)
>翼様
>大ガマの魅力が私内上昇中。今度書いてみようかしら…
幻想郷の記憶…こと阿求さんがしっかりと読んでいらっしゃったので、もう逃れられませんよ(えー)ww
いつまでも楽しみにお待ちしております♪
>名前ガの兎様
ね、いいでしょう(自称大ガマ宣伝相)ww
>四人目の名前が無い程度の能力様
大ガマ改めダンディ大ガマというのはどうでしょう?…ダンディさが消える気がするorz
>ながれもの様
男と書いて漢と読む(両方とも漢字だよ…)そんな大ガマを目指しました。
>五人目の名前が無い程度の能力様
そう言って頂けると~♪
>SETH様
>大ガマのシブさは幻想郷一!
全力をもって同意いたします♪
>あと霊夢がやばい 妖怪扱いだよw
妖怪より妖怪っぽい人間…っていうことで<陰陽玉爆雷
>六人目の名前が無い程度の能力様
博麗神社の二桁出涸らし茶よりも渋い、それが大ガマクオリティなのです♪
>七人目の名前が無い程度の能力様
>余り強くない妖怪だけど、長生きしていてしかも沼の主としての責任感が >ある。大人だ。
私の抱いてるイメージもそんな感じです。力はなくとも皆から敬意を持たれる存在…そんな姿を考えて書きました。
>アリスは霊夢を餌付けすれば友人ができるような。食べられるまでは。
思いっきり笑いました。この霊夢だと容易に想像できるのが怖いですorz
>八人目の名前が無い程度の能力様
紅魔館は魔女の大鍋だ、誰も他人を救えない…と、とあるメイドが言っていたそうです。しかし、その後、彼女の行方を知る者はおろか、その名を口にする者すらいなくなったとか…
妙にハイテンションなアッザムがお送りいたしました。色々変になっていてごめんなさい、それでは。
>煌庫様
>長者のあるべき姿なのでは
心よりの同意をww
>九人目の名前が無い程度の能力様
紅魔館組は勝手に動いてくれるので助かるのです♪
冗談はさておき、これはいい近所のじいさんな大蝦蟇ですね。
しかし重たい石を両手で持ち上げてよろよろしつつ池に投げるあっきゅん想像したらなぜか萌えw
ご感想ありがとうございます♪
我が家では『てるよ』と打たないと『輝夜』と変換されないということはさておき(登録しろよ…)、>いい近所のじいさんな大蝦蟇…を想像して書いているので、そんな感じに受け取って頂けて幸いです。
>重たい石を両手で持ち上げてよろよろしつつ池に投げるあっきゅん想像したらなぜか萌えw
マンガ版求聞史紀を読んでいたら、どうしてもよろよろしながら本を運ぶあっきゅんを想像してしまい…orz
ご感想ありがとうございますww
そう言って頂けますと♪