愛(ラブ) ト
オオ イツマタハナサカム オオ薔薇 ナレノ九月ハ?
(さくそはな Huhediblu/P・ツェラン)
セラギネラ
太陽の光が朝靄を刺し貫いて、湿り気を帯びた緑の民族衣装に熱を届けてきた。
夜勤の終わりを交替の門番と確認した紅美鈴は、紅魔館の正門脇の小扉から中
に入り、たっ、と地を蹴り空中に飛び上がるとそのまま中庭を飛翔し館の大扉の前
に着地した。
博麗神社の巫女さんである博麗霊夢が、この家には窓が無いのかしら、と以前
洩らした事がある。実際には少しはあるのだがそれらは外からは見え辛いように
魔法で巧妙にカモフラージュされている。美鈴は横着をして窓から館に入りたいと
思った事が何度もあったが、それであまり窓の場所を他者に知られるわけにもいか
ずに急ぎの場合以外はこうして大扉から出入りしている。目的に照らして矛盾して
いるのではないかと時々思う事があるがあまり深く考えた事はない。
厨房では館のメイド長である十六夜咲夜が大テーブルの上でクッキーの生地と
格闘していた。お嬢様方の三時(午後三時ではなく午前三時)のおやつ作りである。
「お早うございます咲夜さん、私の朝食はどこですか?」背後から問いかける美鈴
に咲夜は、そこの戸棚の張り出しの上にあるわよ、と振り向きもせずに答えた。見
れば皿に載ったサンドイッチと彼女のマグカップが置いてあった。
美鈴はサンドイッチを食べながらポットの紅茶を自分のマグカップに注いだ。
「台所が片付かないからさっさと食べて部屋に戻りなさい」
「まだ食べ始めたばかりですよ。あと自分が猫舌だからってひとの紅茶までぬるく
するのはやめて下さい」ポットはわざわざ冷めやすいように蓋が開いていた。
咲夜は美鈴の抗議もどこ吹く風、私にも一杯頂戴、などと言ってくる。やれやれ
と思いつつも彼女のカップにポットの残りの紅茶を注ぎ、大テーブルの上にそっと
置いてやった。
美鈴はもう長いこと紅魔館で門番兼庭師をやっている。彼女の妖力はまあ中ど
ころといった程度で、この館の主であるレミリア・スカーレット以下の住人達の間で
は目立たないものである。門番として特に優秀というわけでもなく、殊に紅霧異変
と呼ばれた騒ぎの後では頻繁に招かれざる客がやって来るようになった為に、彼
女は手に余る相手とも度々戦わねばならない羽目になって難儀していた。
サンドイッチを食べ終え、大変美味しく頂きました、とお辞儀をし眠い目をこすり
つつ厨房を出て行こうとした時に、美鈴は館に迫る外からの気を察した。案の定
すぐに厨房にメイドが駆け込んで来、いつぞやの巫女がやって来ました、と叫んだ。
咲夜はそのメイドに、館の中で大声を出さないで、と嗜めた後で美鈴の方を向
いた。美鈴もまた彼女の方を見た。
「部屋に戻る暇は無さそうですねぇ」肩をすくめて言うと台所の換気用の窓を開け
て外を見た。既に光弾が飛び交うのが此処からでも見えた。
「勝ってから庭の作業小屋ででも寝ればいいでしょ」背後から咲夜の声がかかる。
無論勝てればの話である。負けたらどうなるかはあまり考えたくない。
「行きます。当然にして完全なる勝利をレミリア様の下に」
「レミリア様の下に」紅魔館戦勝の誓いを交わし、美鈴は窓から外へと飛び出した。
衣と袖が半ば分離した、肩口から二の腕の一部にかけて露出している特徴的
な巫女服がはっきりと見えた。正面に勇躍踊り出る。
「ここまでやって来るのは久しぶりね、食べてもいい人類。何の用?」
「その呼び方はやめてよ。あとあんたの所のお嬢様が私の家の鍋敷き持ってい
ったのを返して。用はそれだけよ」霊夢の言葉に美鈴はまたしょうもない事を、
と内心思わずにはいられなかった。
「何でまた鍋敷きなんだろう・・・」
「この前の花見の時に煮物の鍋を置くのに使ってたら、色合いがどうのとか言っ
てたから気に入ったんでしょ。あれがないせいで私はかまどからお味噌汁の鍋
がおろせないのよ」聞けば聞くほど呆れるようなお話だった。
「・・・正直同情するけどそれでもここを通すわけにはいかない。大人しく新しいの
を買うか自分で作るかしなさい」
「いい提案だわ。あんたを倒してからじっくり考えてみるわよ」
BGM:春色小径 ~Colorful Path
Border of duel appears
Curtain Fire Play
Start
美鈴は上昇して朝陽を背にできる位置を占位すると、そこから緩降下で霊夢に
襲い掛かった。待ってましたとばかりに撃ち上げてくる無数の針状の弾幕の僅か
な隙間を縫って接触、航過するまでの間にひたすら気弾を撃ち込む。背後から無
数の御札が追撃してくるのを連続ループで回避していると、今度は霊夢の方から
急降下で迫ってきた。
「大人しくやられなさいよ!」
「それはこっちの台詞だわ!!」クナイ型の気弾を放射状にばら撒いたが、巫女
は速度域の広さと低速時の抜群の運動能力とで緩急をつけてそれらを回避し、
怯む事無く猛追してくる。地面すれすれまでダイブしてそこから急激な引き起こし
で再度上昇する美鈴を、霊夢もまた同様に追い上げてきた。速度では美鈴の方
に僅かに分があるが、今や空中は彼我の放った無数の弾幕に埋め尽くされて
しまい決定打になるほどの差は出ない。
「くっ、ちょこまかとネズミみたいに。そっちが来ないならこっちから行くわよ!」
霊夢が巫女服の懐から符を取り出した。
Power of Spiritual Border wake up
霊符「夢想封印 散」
Set Spell Card
Attack
御札と陰陽玉が散弾のように美鈴目がけてばら撒かれる。右に左にと位置を
ずらして回避したが、御札と陰陽玉の速度差に注意を奪われてとても射点を確保
するどころではなかった。
「やれやれ、あんたのおかげで疲れ果ててぐっすり眠れそうだわ」そう軽口を叩く
と、彼女は一気に決着をつけるべく反撃に出る事にした。
Supernatural Border rising
Spiritual Short Bomb
Break
結界から解き放たれた桜吹雪が霊夢の放った弾を全て吹き飛ばした。
「森羅結界?ちょっとこれうちの神社の桜の花びらじゃない!」
「この前の花見の時に、私も杏酒持ってったわよ。忘れてるかもしれないけど」
霊夢の疑問に律儀に答えて、美鈴は怒涛の連続攻撃に移った。
Power of Spiritual Border wake up
虹符「彩虹の風鈴」
Set Spell Card
Attack
美鈴の周りを取り囲む様に色とりどりの気弾が無数に現れ、全体が暴風の
如く回転しながら辺りに振り撒かれた。一部が霊夢にも殺到する。
「これしき!」霊夢は弾雨の隙間を見つけるとそこに飛び込み、美鈴目がけ
て何度目かの突撃をかけた。
お返しとばかりに無数の針と御札が撃ち込まれてくる中、美鈴は臆す事無く
霊夢が迫り来るのを待ち構えた。符の効果時間が過ぎて風鈴が途切れた時
に巫女が辿りついた位置が、門番の予め狙っていたそれと符合した。間髪を
入れずひゅっ、と風をきって跳躍、距離を詰めた瞬間伸ばした足から弾幕を放っ
た。反撃も回避も間に合わずにそれらの気弾の直撃を受けて、霊夢は墜落して
いった。
「一昨日来なさい、ってね」
「お~ぼ~え~て~な~さ~い~~っ!」
Border disappears
咲夜は美鈴の数週間ぶりの勝利を見届け、私が出て行かずにすんだわね、
と独り言を言って完全に冷めた紅茶を飲み干すと、再びおやつ作りに専念する
事にした。
一方の美鈴は数週間ぶりの勝利に勝ち鬨をあげて、それからすぐに勝ち戦
の喜びより眠気の方が強くなって自分も着地した。庭の作業小屋は元々は
庭仕事の道具があるだけだったが、今では布団も水瓶もかまどまである美鈴
の第二の部屋だった。
小屋の近くまで来たところで、美鈴の耳に子供の笑い声が聞こえてきた。
途端にいやーな予感に襲われて再度飛び上がり上空から庭を俯瞰すると、
あろう事か一番手間隙をかけて育てている真っ赤な薔薇の花畑で二つの小さ
な人影が転げまわっているのが見えた。
「お~ま~え~ら~わぁあ~~ッ!!」宙を蹴って花畑に素早く降り立ち、美
鈴はその二人、宵闇の妖怪ルーミアと氷の妖精チルノの首根っこをひっ捕ま
えた。
オオ イツマタハナサカム オオ薔薇 ナレノ九月ハ?
(さくそはな Huhediblu/P・ツェラン)
セラギネラ
太陽の光が朝靄を刺し貫いて、湿り気を帯びた緑の民族衣装に熱を届けてきた。
夜勤の終わりを交替の門番と確認した紅美鈴は、紅魔館の正門脇の小扉から中
に入り、たっ、と地を蹴り空中に飛び上がるとそのまま中庭を飛翔し館の大扉の前
に着地した。
博麗神社の巫女さんである博麗霊夢が、この家には窓が無いのかしら、と以前
洩らした事がある。実際には少しはあるのだがそれらは外からは見え辛いように
魔法で巧妙にカモフラージュされている。美鈴は横着をして窓から館に入りたいと
思った事が何度もあったが、それであまり窓の場所を他者に知られるわけにもいか
ずに急ぎの場合以外はこうして大扉から出入りしている。目的に照らして矛盾して
いるのではないかと時々思う事があるがあまり深く考えた事はない。
厨房では館のメイド長である十六夜咲夜が大テーブルの上でクッキーの生地と
格闘していた。お嬢様方の三時(午後三時ではなく午前三時)のおやつ作りである。
「お早うございます咲夜さん、私の朝食はどこですか?」背後から問いかける美鈴
に咲夜は、そこの戸棚の張り出しの上にあるわよ、と振り向きもせずに答えた。見
れば皿に載ったサンドイッチと彼女のマグカップが置いてあった。
美鈴はサンドイッチを食べながらポットの紅茶を自分のマグカップに注いだ。
「台所が片付かないからさっさと食べて部屋に戻りなさい」
「まだ食べ始めたばかりですよ。あと自分が猫舌だからってひとの紅茶までぬるく
するのはやめて下さい」ポットはわざわざ冷めやすいように蓋が開いていた。
咲夜は美鈴の抗議もどこ吹く風、私にも一杯頂戴、などと言ってくる。やれやれ
と思いつつも彼女のカップにポットの残りの紅茶を注ぎ、大テーブルの上にそっと
置いてやった。
美鈴はもう長いこと紅魔館で門番兼庭師をやっている。彼女の妖力はまあ中ど
ころといった程度で、この館の主であるレミリア・スカーレット以下の住人達の間で
は目立たないものである。門番として特に優秀というわけでもなく、殊に紅霧異変
と呼ばれた騒ぎの後では頻繁に招かれざる客がやって来るようになった為に、彼
女は手に余る相手とも度々戦わねばならない羽目になって難儀していた。
サンドイッチを食べ終え、大変美味しく頂きました、とお辞儀をし眠い目をこすり
つつ厨房を出て行こうとした時に、美鈴は館に迫る外からの気を察した。案の定
すぐに厨房にメイドが駆け込んで来、いつぞやの巫女がやって来ました、と叫んだ。
咲夜はそのメイドに、館の中で大声を出さないで、と嗜めた後で美鈴の方を向
いた。美鈴もまた彼女の方を見た。
「部屋に戻る暇は無さそうですねぇ」肩をすくめて言うと台所の換気用の窓を開け
て外を見た。既に光弾が飛び交うのが此処からでも見えた。
「勝ってから庭の作業小屋ででも寝ればいいでしょ」背後から咲夜の声がかかる。
無論勝てればの話である。負けたらどうなるかはあまり考えたくない。
「行きます。当然にして完全なる勝利をレミリア様の下に」
「レミリア様の下に」紅魔館戦勝の誓いを交わし、美鈴は窓から外へと飛び出した。
衣と袖が半ば分離した、肩口から二の腕の一部にかけて露出している特徴的
な巫女服がはっきりと見えた。正面に勇躍踊り出る。
「ここまでやって来るのは久しぶりね、食べてもいい人類。何の用?」
「その呼び方はやめてよ。あとあんたの所のお嬢様が私の家の鍋敷き持ってい
ったのを返して。用はそれだけよ」霊夢の言葉に美鈴はまたしょうもない事を、
と内心思わずにはいられなかった。
「何でまた鍋敷きなんだろう・・・」
「この前の花見の時に煮物の鍋を置くのに使ってたら、色合いがどうのとか言っ
てたから気に入ったんでしょ。あれがないせいで私はかまどからお味噌汁の鍋
がおろせないのよ」聞けば聞くほど呆れるようなお話だった。
「・・・正直同情するけどそれでもここを通すわけにはいかない。大人しく新しいの
を買うか自分で作るかしなさい」
「いい提案だわ。あんたを倒してからじっくり考えてみるわよ」
BGM:春色小径 ~Colorful Path
Border of duel appears
Curtain Fire Play
Start
美鈴は上昇して朝陽を背にできる位置を占位すると、そこから緩降下で霊夢に
襲い掛かった。待ってましたとばかりに撃ち上げてくる無数の針状の弾幕の僅か
な隙間を縫って接触、航過するまでの間にひたすら気弾を撃ち込む。背後から無
数の御札が追撃してくるのを連続ループで回避していると、今度は霊夢の方から
急降下で迫ってきた。
「大人しくやられなさいよ!」
「それはこっちの台詞だわ!!」クナイ型の気弾を放射状にばら撒いたが、巫女
は速度域の広さと低速時の抜群の運動能力とで緩急をつけてそれらを回避し、
怯む事無く猛追してくる。地面すれすれまでダイブしてそこから急激な引き起こし
で再度上昇する美鈴を、霊夢もまた同様に追い上げてきた。速度では美鈴の方
に僅かに分があるが、今や空中は彼我の放った無数の弾幕に埋め尽くされて
しまい決定打になるほどの差は出ない。
「くっ、ちょこまかとネズミみたいに。そっちが来ないならこっちから行くわよ!」
霊夢が巫女服の懐から符を取り出した。
Power of Spiritual Border wake up
霊符「夢想封印 散」
Set Spell Card
Attack
御札と陰陽玉が散弾のように美鈴目がけてばら撒かれる。右に左にと位置を
ずらして回避したが、御札と陰陽玉の速度差に注意を奪われてとても射点を確保
するどころではなかった。
「やれやれ、あんたのおかげで疲れ果ててぐっすり眠れそうだわ」そう軽口を叩く
と、彼女は一気に決着をつけるべく反撃に出る事にした。
Supernatural Border rising
Spiritual Short Bomb
Break
結界から解き放たれた桜吹雪が霊夢の放った弾を全て吹き飛ばした。
「森羅結界?ちょっとこれうちの神社の桜の花びらじゃない!」
「この前の花見の時に、私も杏酒持ってったわよ。忘れてるかもしれないけど」
霊夢の疑問に律儀に答えて、美鈴は怒涛の連続攻撃に移った。
Power of Spiritual Border wake up
虹符「彩虹の風鈴」
Set Spell Card
Attack
美鈴の周りを取り囲む様に色とりどりの気弾が無数に現れ、全体が暴風の
如く回転しながら辺りに振り撒かれた。一部が霊夢にも殺到する。
「これしき!」霊夢は弾雨の隙間を見つけるとそこに飛び込み、美鈴目がけ
て何度目かの突撃をかけた。
お返しとばかりに無数の針と御札が撃ち込まれてくる中、美鈴は臆す事無く
霊夢が迫り来るのを待ち構えた。符の効果時間が過ぎて風鈴が途切れた時
に巫女が辿りついた位置が、門番の予め狙っていたそれと符合した。間髪を
入れずひゅっ、と風をきって跳躍、距離を詰めた瞬間伸ばした足から弾幕を放っ
た。反撃も回避も間に合わずにそれらの気弾の直撃を受けて、霊夢は墜落して
いった。
「一昨日来なさい、ってね」
「お~ぼ~え~て~な~さ~い~~っ!」
Border disappears
咲夜は美鈴の数週間ぶりの勝利を見届け、私が出て行かずにすんだわね、
と独り言を言って完全に冷めた紅茶を飲み干すと、再びおやつ作りに専念する
事にした。
一方の美鈴は数週間ぶりの勝利に勝ち鬨をあげて、それからすぐに勝ち戦
の喜びより眠気の方が強くなって自分も着地した。庭の作業小屋は元々は
庭仕事の道具があるだけだったが、今では布団も水瓶もかまどまである美鈴
の第二の部屋だった。
小屋の近くまで来たところで、美鈴の耳に子供の笑い声が聞こえてきた。
途端にいやーな予感に襲われて再度飛び上がり上空から庭を俯瞰すると、
あろう事か一番手間隙をかけて育てている真っ赤な薔薇の花畑で二つの小さ
な人影が転げまわっているのが見えた。
「お~ま~え~ら~わぁあ~~ッ!!」宙を蹴って花畑に素早く降り立ち、美
鈴はその二人、宵闇の妖怪ルーミアと氷の妖精チルノの首根っこをひっ捕ま
えた。
第一話という事は続編もある訳ですね?
期待してます
芋には代わりに(?)彩符「彩光風鈴」がありますね。あれもわりと見た目に
派手で良いと思いますよ。美鈴は見た目地味だなんて言われてますけどスペル
は目一杯鮮やかで好対照だと私は思います。
上記の通り弾幕STGは東方が初体験でして、後は昔ガンパレの
SSを書いていた事があって偶然知った式神の城くらいしか名前
が思い浮かびません。
緊迫感の薄い淡々とした掛け合いが東方感を醸し出していますね(褒め言葉)
幻想郷という非日常世界における日常というものを上手く書き表せれば、と思っています。
今から続きをゆっくりと読ませて戴きます