Coolier - 新生・東方創想話

カゴメカゴメ~夜開け前~

2006/11/08 23:24:05
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<朝の次は昼。昼の次は夜。そして夜が明けるとまた朝が来る。当然の事よね。でも、それは本当に当然の事?> 
                                    
                                                      パチュリー・ノーレッジ


「おー。いつみても、ここの家の風呂は壮大だな」
 無駄に広い館のせいで何回か道に迷ってそこら辺にいたメイドに風呂場への道を聞いたりもしたものの、概ね無事に私は脱衣場に辿り着いた。
 以前来た時に一度入ったことがあるが、ここの風呂はやたらと広い。恐らく風呂だけで私の家の敷地が全部すっぽり入るだろう。
 正確な数は分からんが働いてるメイド達の数を考えたら、当然なんだが、吸血鬼が主人の館で風呂が立派ってのは中々考えてみたら変わった話だ。
 つい感嘆の声を漏らすと、私の背中から声がかかった。
「そりゃそうよ。魔理沙の所と比較するほうが間違い」
「露天風呂には露天の良さもあるんだぜ。主に景色が見える?」
「何で疑問系よ」 
「答えは簡単だ、雨の日に入ると風邪を引くからな。ところで、なんでレミリアが私より来るのが遅いんだ?」
 無意味なやりとりも別に良いが、私の方が先に着いてるとは思わなかった。
 が、レミリアは言葉の代わりに軽く親指を後ろに向ける。
「ふぁああ……あれ? 魔理沙もお風呂? 一緒にはいろ、はいろ!」
「え!? ちょっとレミィ、私こんなの聞いてないわよ……!」
 飛びついてくるフランと、入り口で固まるパチェ。
 なるほど二人を呼んで来たのか。
「おぅ一緒に入るかフラン。で、パチェは一体何を固まってんだ?」
「……な……何でもない……わ。入るわよ」
 風呂はいる前に顔真っ赤にさせんでも良いと思うんだが。
 だが、私がそう言うより先に、パチェは一人脱衣所を抜けて浴場に向かおうとする。別にそれ自体に問題は無いんだが。
「おいおいパチェ、服着たまま入るつもりか?」
「え!? あ……」
 私が指摘してようやく気がついたのか、パチェは慌てて回れ右をした。


「いい湯だなー。風呂に入ると、本当ほっとするぜ」
 ただっぴろい風呂に浸かりながら、私は手足を思いっきり伸ばす。
 風呂の楽しみ方なんてのは人それぞれだろうが、余計なことを何も考えないで、ただぼへーっとしてられるこの瞬間が、私はとても気に入っている。
 しかし……なぁ。
「面子が面子だからしょうがないとは言え……見事に無いよな」
「? ないってなにがー?」
 目の前をフランが泳いで通り過ぎる。風呂場で泳ぐのは子供のやる事だろ……と言おうと思ったが、考えてみりゃどうみても子供だよな。
「まあ、うちじゃ概ね普通よ。咲夜も無いし」
「遠慮の話か?」
「確かにパチェ以外は、それも無いわね」
 こちらを見ず、天井を見上げたままレミリアが返事をした。
 そりゃ私も女だから、願わくば標準レベルくらいまで……とは常々思っちゃいるんだが、こればっかりは努力じゃどうにもならんらしい。咲夜を見てたら良く分かるが。
 改めて周囲を見渡してみる。
 フランとレミリアは外見が少女と言うよりは幼女に近いんだから当然だが、背中と『それ』の区別はほとんどつかん。そもそも気にもしてないんだろうけどさ。
 で、パチェと私は……似たり寄ったり五十歩百歩。でも……五十歩のほうが偉いよな、うん。
「牛乳飲めばいいって良く言うけどな。なあパチェ、あれって迷信だろやっぱ」
「…………え? なに、呼んだ……かしら……?」
 私の方を見ていたパチェに、私は話を振ってみる。
 が、しばらく無反応の後、パチェは顔を真っ赤にさせてようやく反応した。
「なんだなんだ、ひょっとして私の裸に見とれてたのか? ははは、パチェはえっちだなぁ……なんてなー」
 軽~い冗談のつもりで、私はからかい半分そんなアホな事を言ってみた。そんな訳ないでしょ、これだから黒白は……とか言われると思いつつ。
「……………………」
 って、おい何故そこで固まるよパチェ。
 そこから先はまるで漫画のように、ゆっくりパチェは湯船に沈んでいく。そして、ぶくぶくぶく、と泡だけが水面にあがってきた。
「ああもう、これだから黒白は恋愛係って言われるんだよ。パチェ、しっかりしなさい」 
「……むきゅー」
 私が呆気に取られている間に、レミリアがパチェを引っ張り上げる。
「ねぇねぇ魔理沙ー。背中、洗いっこしよ、しよ!」
 その時、泳ぐのを辞めたフランが私にひっついてきた。このままぼへーっとするのも悪くないが、入りすぎは確かにあまり宜しくない。
「おぅ良いぜ……って、ありゃ。タオル持ってくるの忘れてた」
 体を洗おうとして、ついうっかり忘れ物に気がついた。
「悪いちょっと取ってくる。あー、それとパチェ、のぼせたんなら早いとこ上がった方が良いぜ、いやマジな話」
 今だに目を回しているパチェに声をかけて、私はすぐ近場の、入ってきた時とは反対側の入り口から脱衣所に戻る。
「おー、あるある」
 タオル類だけを入れておく棚には、ぎっしりとタオルが積まれていた。すぐ横には、使ったタオルを放り込む場所もある。
 うーむ、これなら明日からでも温泉旅館に改装できるよな、これは。そんな事を考えつつ、私は浴場に戻る。が、私はそこでとんでもない物を見かけた。

「よーし! 大丈夫、気合さえあれば何とかなるさ、頑張れあたい!」
 入り口の先で、ふんと気合を入れて、今まさに戦場に突入するかのような意気込みで立っているのは誰あろうチルノだった。当たり前だがすっぽんぽん。
 あ、あのバカ……何考えてんだー!!
「だぁ! こらまてチルノ!」
「え? あ」
 呆気に取られるチルノに構わず、私は後ろからチルノを羽交い絞めにする。
 チルノの胸に思い切り手が当たって私はドキンとした。
 ああもう、んな事を気にしてる場合じゃないだろ、私!
「お前じゃ入れないってさっきも言っただろ、素直に戻れ戻れ!」
「やー! やーやー! 魔理沙と一緒だったら大丈夫だよ!」
 ジタバタとチルノが暴れまくる。
 いつもの攻撃がチルノから飛んできたが、この位ならば耐性が既についている自分がちょっと悲しいぜ。
「無理なもんは無理だ、素直に諦めろって!」
「やー!」
 なおも抵抗するチルノをずるずると引っ張っていく。そして、脱衣所の外まで連れて行くのにどうにか成功。
「はー……ったく。無茶するなってこないだも言っただろ、ああもう」
「……ごめん……」
 ガリガリと私は頭をかく。私自慢の金髪が何本か抜けた。
 ここ最近いらん苦労ばっかりしてる気がする気がするぜ、禿げたらどうすんだよ……。
「でもなんだって、そこまで風呂に入りたかったんだ?」
 てっきり素直に諦めたとばっかり思ってたが、まさか強行するとは思わなかった。
「えっと、その。私も最初は素直に待ってようって思ってたんだけど……。どうしてるかなって、ちょっと見にいったらすごい楽しそうな声が聞こえてきて……その……ええと……」
 手を胸の前に組んで、指を行ったりきたりさせながらチルノはポソポソと呟く。
 予想通り過ぎというか、チルノらしいというか、何と言うか……。
「わーかった、皆まで言うな私が恥ずかしい。要するに寂しかったんだろ……しゃあないな、だったら今日は私の部屋で一緒に寝るか?」
「え? でも……いいの?」
 本音で言うなら良いわきゃない。
 我が家でも噂になるのに、よりにもよって紅魔館でチルノと添い寝なんてやったら、またぞろ記事になりそうな気がするんだが……。
 だがこのまま放って置いて、チルノが素直に諦めるとも思えなかった。
「まあ……な。だからちゃんと部屋戻ってろって……」
「うんっ! あ……そういえば、私、裸だったんだ。…………ふ、服着てくるね……」
 ようやくすっぽんぽんなのを自覚したのか、顔をほんのり赤く染めて脱衣所に戻るチルノ。
「はーっくしょい! うぅ、風邪引いちまうぜ……とっとと入ってこよ」 
 私のでかいくしゃみが、室内に響き渡る。
 ちなみに私が戻るとフランが『魔理沙遅いー!』と不機嫌になっていたのは言うまでも無い。


******


「……すー」
 私の横でチルノが寝ている。軽く髪をなでると、くすぐったそうに目を細めて笑った。
 不意に思う。一年前、チルノと私の関係がこうなってるなんてのは考えもしなかった。
 きっかけは、私がやった軽い冗談。それがただの冗談じゃなくなったのは。こいつの寝顔がこんなに可愛いと思うようになったのは一体……いつからだったっけか。
「ちょっとだけ普通より親しい友達ってとこだ……か」
 それは他の連中に私とチルノの関係を聞かれた時の、私の返事だ。
 だが自分で口に出してみて。想像以上に嘘くさいなと思った。
 永遠亭の詐欺兎が聞いたらさぞかし笑うんじゃなかろうか。自分も騙せない嘘で他人が騙せるわけないじゃん、と。
 今更否定しても始まらないから、そろそろ少なくとも自分の中でくらいは認めておくべきだろう。
 私とチルノの関係は、間違っても友達じゃない。それよりも一つ上の所にチルノがいるのは間違いない。
 ただ、それが即、恋なのかと聞かれると……なぁ。否定は全然出来ないのが悲しいが、肯定するのもアレだというか何と言うか……つーかそもそも女同士だろ、という気まずさも普通に残っている。つか、それが完全に無くなったら大問題だろ人として。
 むぅ。
「便所行ってくっか……」
 いつまでも考えていてもしょうがない。
 チルノを起こさないよう、私はそっと体を起こす。チルノが側にいてくれるおかげで、夏場の暑さも寝苦しさも全く無かった。
 
「……真夜中の紅魔館……ね。お化けでも出そうだな」
 昼間と違い完全に真っ暗な屋敷内は、文字通りここが悪魔の住処なのだと強く実感させる物だった。ドアを開けたらまるで別の空間に飛ばされたかと、馬鹿な錯覚をする位に。ぞくっと、寒気がした。
 便所に行くだけなんだから当たり前だが、寝巻き姿で、箒も八卦炉もスペルカードも何も持たずに歩いていると、少々怖いものがある。今、何かに襲われたら私は確実にひとたまりもない。
 ひたひたひた、と素足で廊下を足早に歩いていく。大して遠い道のりでもない、往復でも1分あれば事足りる程度だ。

 が、その時。
 おかしな気配がした。私の真後ろに何かがいるような。
 ……いや待て、誰もいるわけがない。足音もしなかったし、妖気も無い。だが、私がさらに進んでも後ろの気配は全く消えようとしない。
 はははは、本当におばけとかはやめてくれよ。洒落にならん。
「……誰かいるのかよ!」
 耐え切れなくなって、私は振り返る。
 だが、そこには……誰も何もいなかった。
「……気のせい……って事にしておくぜ」
 気のせいじゃない、確かに何かがいた。だが、それ以上考えても私の精神衛生上極めて宜しくない。用をさっさと済ませて、私は部屋へと戻る。
 だが、ドアを開けるとき、私は一瞬嫌な感じがした。
 もしさっきドアを開けたときに、私が別の世界に飛ばされていたとしたら。
 開けてみて、チルノが仮にいないなんて事があったら。
 ……あほらしい。
 真夏の怪談なんかに用はないぜ、幾らタイムリーだって言ってもな。
 妄想を一笑に付して、私はドアを開ける。
「……すー……すー……」
 そこには、小さく寝息を立てて寝こけるチルノの姿。当たり前だが何も変わる訳が無い。
 ほら、やっぱり単なる妄想だったじゃないか。
「寝よ寝よ」
 先ほどの出来事をとっとと忘れ、私はベッドに潜り込む。
 眠るには最高の環境で、私はさっくりと意識を手放した。


 明けて翌朝、私はバタバタと忙しなく動き回る足音で叩き起こされた。
「なんだ一体……?」
「あ。魔理沙、おはよう~。ね、今日ちょっと廊下うるさいね」
 既にチルノは目が覚めて着替えも終わっていた。
 ドアを開けると、走ったり飛んだりするメイド達の姿が沢山見受けられた。そこらの一人を捕まえて聞いてみる。
「なんだなんだ一体? 随分と朝から騒がしいぜ」
「あ、霧雨魔理沙! えと、いいえ今はお客様でした……失礼いたしました」
 私の顔を見て一瞬臨戦態勢に入ろうとしたメイドだったが、すぐに頭を下げる。まあ普段から強行突破ばっかりやってるからなぁ……。
「で、一体何があったんだ?」
「それが館外警護隊から緊急連絡が入りまして、今、その事実確認を……」
「何をしている、無駄口を叩いている場合か? 早くレミリアお嬢様の所へ報告に行け」
「は、はいすいませんでした此花副長!」
 折角状況が分かるかと思った所に、咲夜と同じ位に長身のメイドが現れて指示を出すと一目散に去っていった。
「うおーい。緊急連絡って何だ?」
 しょうがないんで、此花とか呼ばれたメイドに改めて聞く。そういえば、こいつは確かフランドールの周辺警護役だった気がする。副長って事は、咲夜に次いで偉いのか。
「失礼した。ただお客様に話すには及ばない内容ですので」
 お客様お客様と連呼されて、私は少々むっとする。そんな部外者のように言うなよ、確かにこてこての部外者だが。
 が、私が不満を言うより先に、そのメイドはさっさと一礼していなくなってしまった。
 ちょっとした胸騒ぎがした。
「私はちょっと様子を見てくる。チルノはここにいるか?」
「……ううん。私は、魔理沙の側にいたい」
 何気ない問いかけに対して、ストレートに朝から一撃もらう。
「あーまあ、分かったぜ」
 館外警護で緊急連絡って事は、恐らく美鈴関係だろう。その位は私でも分かる。
 ただ、目下一番の侵入者な自覚がある私がここにいるって事は、だれか別の奴が来たって事になるんだろうが……一体誰だ?

 考えても始まらないので、まずは本人に直接聞きに行く。
 が、いつも立っているはずの定位置に門番がいない。
「……ここにいないって事は、自分の部屋か、或いはどこかに移動してるかだな」
 別に館の事なんか気にしなくても良いだろうに、と思いはしていたが、何故か私はこの時、気になって仕方が無かった。
 昨夜の変な体験が私を急かす理由なんだろう……それは否定しない。
 だが、美鈴の部屋の前に行くと、何十人のメイドやら美鈴の部下やらが集まっていた。
「……なあ、一体何があったんだよ。泥棒でも入られたのか?」
「…………」
 周囲にいた連中は、皆一様に押し黙ったまま何も喋らない。
 ……どういう事だ? いや、聞くよりも見てみた方が早い。
「ちょっと通してくれ」
「あ、いやだめです、ここは……」
 静止の声を無視して、私は構わず中に入る。
 そこは、あまり調度品や家具なんかは多くは無いが全体的に片付いている部屋だった。
 そしてそのベッドの上に美鈴が寝ていた。
「なーんだ、あれだけドタバタしてるから何かあったかと思ったけど……寝てるだけ?」
 チルノの陽気な声が周囲に響く。
 入ってすぐは、一瞬私もチルノと同じ事を思った。


 けれど決定的で、致命的におかしい事があった。
 身動き一つ。そして、息一つしてしない。
 普段と変わらないままで……文字通り、まるで眠るように。
「は、ははは。おーい美鈴、つまらない冗談やめようぜ。朝から人を驚かす為にこういう事やるのは、あまりよろしく無いと思うんだよ。ほれ起きろ起きろ」
 軽く肩をゆすろうとして、私はびくっと手を離してしまった。
 まるでチルノに触れたかのように、体が完全に冷たくなっていた。
「……! あ、ま、魔理沙……!」
「言わなくても聞こえてるぜ。とりあえず、ここから出るぞ……」
 ようやく事態に気がついたチルノの手を取って、部屋から出ようとしたときだった。
「何、門番が死んだって? そう。誰か適当に代わりを立てといたら」
 レミリアが姿を現し、開口一番こともなげにそう言った。
「な……おい、レミリア」
「なにかしら?」
 私の呼ぶ声に振り返ったレミリアは……ぞっとするほど、いつもと変わらなかった。
「何が起こったんだ? いや、違うぜ。何が起こってるんだ?」
「さあ。別に門番一人、生憎と私にとっては瑣末事だから気にしてないけど」
 冷たく笑うレミリア。
 その様子は、こいつが確かに悪魔だと思わせるものがあった。そんな言い草はないだろ、と言いたくなったが、それを私は押し止める。
 館の主人がおろおろしていては、周りの連中が落ち着く訳がない。それを考えてどっしりと構えてるんじゃなかろうか。案外こいつはそういうのを気にする性質だし。
 と、その時。ふと私はある違和感に気がついた。
 あるべきものがそこにない。一呼吸置いて、レミリアの側に咲夜がいない事に気がついた。
「おいレミリア。……咲夜はどうしたんだ?」
「ああ。いなくなった。昨日の夜から行方が分からないわ、神隠しでもあったのかしら」
 全くこともなげに、レミリアはそう言い捨てた。
 メイド達の間にも動揺が走り、ざわざわと騒がしくなる。が、さっきの副長が一喝すると一気に静かになった。
「十六夜殿がいない以上、館内の体制はどのようにいたしますかお嬢様」
「そうね。此花、副メイド長のあなたが咲夜の代理をやりなさい。門番の代わりは、あれの下にいた6人に任せれば」
「かしこまりました。皆、以上だ。各自持ち場に戻っていつもの仕事につけ」
 その言葉に、その場にいた全員が一斉に起立してレミリアに礼をするとあっという間にいなくなる。
 まるで、何事も無かったかのように……だ。
「じゃあ私は部屋に戻るわ」
 軽く欠伸をして、部屋に戻るレミリア。
 美鈴が原因も分からず急に死んで。咲夜がいなくなったのに。レミリアは普段と何も変わらない。
「……お前、レミリア……だよな」
 恐る恐る私は声をかけた。こいつは……本当に私の知ってるレミリア・スカーレットなんだろうか。
「見ての通りよ」
 私の方を振り返るとレミリアはそれだけ言って、そのままいなくなる。
「ねえ魔理沙……何が起こってるんだろ……」
「わからん」
 不安げに身を寄せるチルノの肩を抱きながら、私はそれだけを返すのが精一杯だった。


******


 大事なものがごっそりと欠けているにも関わらず、普段と変わらない紅魔館。
 目前にある大きな異変について、ベッドの上で私はしばらく考える。
 本当は、今日は素直に家に帰るつもりだった。だが、こんな異変をほったらかして帰れる訳が無い。
「すー……」
 戻って来たときはショックで顔が少々青ざめていたチルノだったが、しばらくして落ち着いた今は、軽く寝入っている。
「やっぱりパチェに聞いてみるべきだよな」
 そう決めると、私はチルノを起こさないようにそっとドアを閉めて図書館へ向かおうとする。
 だが、丁度その時、ばったりと廊下でパチェと私が鉢合わせした。
「……ようパチェ」
「あら……もう帰ったかと思ったけど。まだいたの」
「帰るつもりだったんだけど、急用が出来てな。……なあパチェ。何が……」
 何がどうなってるんだ?
 そう私が尋ねるよりも早く、パチェは私の言葉を手で制した。
「これは紅魔館内の出来事よ魔理沙。あなたには関係ない事、首を突っ込まないで素直に帰って」
 パチェは私に向けて、そう言い放った。
「おいパチェ、そんな問題か? 美鈴が……その、誰かに殺されたか何かした上に、咲夜まで行方不明になったんだぞ。こんな状況で帰れるわけないだろ!」
 私はパチェに向けて怒鳴る。冗談じゃない、私はそんな薄情者になんかなれるか。
 けれど、パチェは私に冷たい視線を向けた。

「だからなおの事よ。魔理沙には対岸の火事、下手に手を出すと大火傷……いえ、焼け死ぬ事になる。そうなる前にねずみは船から脱出すべきだわ」
「冗談じゃないぜ、浅い付き合いじゃない相手が2人もどうにかなったんだ。おいそれと帰れるかよ。私は残って調べるぜ」
 きっぱりと言い切る私に、パチェは目を見開いた。
「なんで……こんな事でそんな真剣になるのよ」
 小さくパチェは首を横に振る。
「こんな事だって!? 顔見知りが殺されたり行方知らずになる事が、そんなに軽い事かよ? ……見損なったぜパチェ、そんな言い方するなんてないだろ!」
 それはレミリアに対して言おうと思い、言えなかった言葉だった。
 けれどパチェは。
「……馬鹿……勝手にしたら……いいじゃない……!」
 ボロボロと涙を零しながら、走って行ってしまった。
 そして私一人が取り残される。
「なんで、泣くんだよ……」
 当然の事を言っただけだろ。私が泣くならまだしも、どうしてパチェが泣くんだよ。
 自問自答しても、答えは何も出てこなかった。

 部屋に戻ると、さっきのやりとりで起こしちまったのか、チルノがベッドの上で体を起こして座っていた。
「……魔理沙」
「すまんチルノ、起こして悪かった」 
 私の謝罪にチルノは小さく首を横に振る。
「魔理沙、帰ろうよ。その方がいいよ、きっと」
「おいおい。チルノまでそんな事いうのかよ……」
 私は小さく息をはく。 
「違うよ。私はただ、魔理沙が何か危険な事にまきこまれないか……心配なだけだもん」
 不安げにチルノの手がぎゅっと膝の上で組まれている。
 確かに危険な事はあるかもしれん。
 その時、私は思う。考えてみたらチルノをここにいさせるのはまずい。紅魔館が非常事態にあるのは間違いない訳で、チルノだけでもすぐに帰させた方が。

 そう思った時だった。
 バン、とドアが勢い良く開かれる。
「魔理沙さん、すいません! パチュリー様が!」
「なんだ小悪魔、そんな血相変えて」
 とその時、はっとした。
 まさかパチェにまで何かあったのか?
「昨日動きすぎて、パチュリー様は今朝からずっと具合が悪いんですが……。パチュリー様、つい先ほど妹様の所に行くって仰られて。私がお止めしてもダメなので、魔理沙さんにお戻りになるようお願いしたいんです!」
「具合が悪いだって……?」
 そういえば、普段から不健康だからあまり分からないが、確かに言われてみれば今日のパチェは顔色もあまり良く無かった気がする。
 でもなんでそんな体調の悪い時にフランの所に? レミリアの所ならまだしも。
「分かった、私もすぐに追っかける」
「あ、魔理沙待って!」
 箒に飛び乗ってフランの地下室まで飛ばそうとすると、後ろにチルノが座った。
「チルノは帰ってろ、本気で危険かもしれん」
 そう言って箒から降りるように言うが、チルノは無言でふるふると首を横に振るだけだった。
 ああ、もう頑固な奴だ。
「しゃあない、掴まってろよ!」





 よーあーけーのー ばーんにー

 つーるとかーめが すーべった

 うしろのしょうめん……
はね~~
[email protected]
http://www.geocities.jp/doublehane/index.html
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コメント



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>>挿絵4(冷たい視線のパチェ)
見える!
8.無評価はね~~削除
わーわーわーわー! 削除しました(汗)
11.100四分の一削除
×ただっぴろい ○だだっぴろい
漢字の間違いもぽつぽつあるので、自信無い単語は辞書を使うことをお勧めします。
でも、それを差し引いても大好きです!