※幽々子・紫・こーりん(+1)の過去捏造SSです
――嗚呼、此処はは夢か。
そう、思った。
僕が居るのは此の場所には決して無いはずの場所。
流れる時と共に、外へ置いてきた場所だったから。
がたん、がたんと心地よいリズムで体が揺れる。
昔・・・まだ幻想郷が幻想郷として存在する前・・・
松山、という所で乗った汽車という奴だ。
五分も乗ってなかったとは思うが、珍しい体験だったから良く覚えている。
尤も、こんなに客室は広くなかったが。
マッチ箱、と表現していた青年も居た。
汽車は、走り続ける。
これが走り始めた頃・・・幻想郷が今の形に成った。
きっと、この『汽車』というのは幻想郷と外との境界の一つなのだろう。
だとすれば、これに乗っていれば外へ行けるのかもしれない。
一度くらいは今の外へも行ってみたい。
が、それは確実に戻れるという保証が有れば、だ。
やはり、僕は幻想郷が好きなんだろう。
時が止まったかにも思えるあそこが。
・・・しばらく、この揺れを楽しむ。
昔を懐かしむには、この揺れは非常に心地よい。
「失礼します。」
・・・しばらくして、僕の向かいに誰かが座った。
薄い、青色の服を纏った女性だ。
俯いてしまっているので顔を見る事は出来ないが、
きっと美しい人であろう事は雰囲気で分かる。
此処は、僕の夢。
だとすれば、僕の知っている人か?
それとも、僕の願望が見せる幻か。
だが、あんな桃色の髪の女性は知らない。
――なら幻の方か。
此処百年位は女性の夢を見るなんて無かったんだが・・・。
まあ、良い。そんな事もあるさ。
汽車は、走り続ける。
――嗚呼、此処はは夢か。
そう、思った。
僕が居るのは此の時間には決して無いはずの場所。
流れる時と共に、過去へ置いてきた場所だったから。
「お嬢さん、もうすぐ日が沈み始めます
そんなところで寝ていては危険ですよ?」
放っておけば良いものを。
全く、僕もお人好しだ。
「ふあ?・・・あらあら、ご親切にどうもありがとうございます。」
と、こちらを見る女性。
艶やかな髪。
絹の様な白い肌。
眠そうに、少し緩んだ瞳・・・
一目彼女を見た時、僕は恋に落ちた。
「どうかなさいまして?」
「あ、いえ。し、失礼しました!」
・・・貴方に見とれてました。
言えるか、そんな事。
まあ、だから僕と彼女の接点はこれだけ。
もう会う事もないだろう。
その時はそう思っていた。
「今日は、霖之助」
その日、僕に後ろから声をかけて来たのは八雲 紫。
かなりの力を持った妖怪だと巫女が言っていた気がする。
まあ、どうでも良い。
普通の人なら妖怪に声をかけられれば驚いて逃げ出すか気絶するかのどちらかだろうが、僕はもうなれた。
それに彼女が僕に危害を加えようとしている訳ではないのも分かっている。
「何か用か?」
声で紫だと分かったので、振り返りもせず聞く。
「この間貴方が真っ赤な顔で見とれていたお嬢さんの居場所を教えてあげようと思ったのだけれど?」
どうやら、隙間から覗いていたらしい。
全く・・・いつもこれだ。
「覗くな、って言わなかったっけ?」
「あら?そうだったかしら。」
「出会ったときから、ほぼ毎日ずっと同じ事を言っている気がするぞ?」
「気のせいよ。」
しれっとした顔で言う紫。
・・・出会ってから五年間、何度同じやりとりをした事か。
「ま、そんな些細な事はどうでも良いのよ。
で、聞きたいの?聞きたくないの?」
・・・聞きたい。
が、そんな事を言えばどうせからかわれるのは目に見えている。
ただでさえ最近は父上がうるさいってのに、
こんな人通りの多い場所で女性にからかわれてたなんて聞かれたら。
考えるだけで面倒だ。
どうせ、「お前は藩士の子としてだな・・・」って感じでお説教が続くに決まっている。
下級藩士のくせにプライドは一人前なんだから。
「ほらほらー、どうするの?」
紫の声で、道を外れ始めた思考が軌道修正される。
さて・・・どう答えるか。
あの女性を思い出す。
あの黒い髪を、白い肌を、透明な声を、澄んだ瞳を。
「――あら?聞きたいみたいね」
「マテ、僕はまだ答えていないぞ?」
「その顔を見れば分かるわよ。それとも聞きたくないのかしら?」
「む・・・」
まあ、教えてくれると言うんだ。
聞いておこうじゃないか。
「あの娘はね、西行寺 幽々子。西行寺家のお嬢さんよ」
聞かなきゃ良かった。
「西行寺家って・・・あの?」
僕の記憶では、確かかなりの良家のはずだ。
家みたいな下級藩士の家では会うどころか門に近づく事も許されまい。
「・・・そっか。」
「あら、それだけなの?」
「僕みたいな下級藩士の家の子ではね。」
ひょい、と肩を竦めてみせる。
・・・ショックなのがばれない様に。
「ま、それでも良いけどね。それじゃ、私は帰るわ。」
隙間を開く。
周りの人が驚いてこちらを見ている。
嗚呼、これでお説教は確定か。
「藩士の子が妖などと・・・」と怒りを露わにする父を想像して少しげんなりした。
その日は、真っ直ぐ帰る気にもなれずに僕は彼女と会った場所に来ていた。
そろそろ日が沈み始める。
妖の時間が来る前に帰らないと危険だ。
・・・それでも何となく、帰る気になれずに僕は寝ころんだ。
「暗くなる前に帰らないと危険ですよ?」
上の方から声。
目を開けると、この間の彼女が・・・
嗚呼、遂に妄想を見始めたか。
諦めろ――身分が違う。
「あの、聞いてます?」
――ああ、聞いてる。
君こそ暗くなる前に帰らないと危険じゃ無いのか?
大体、良家のお嬢様がこんな所に一人で来るわけ無いだろ。
自分の妄想を振り払おうとした。
「ああ、私は大丈夫なんですよ。
ちょっとした力がありまして。
幽霊、っていうんですか?あれを操れるんですよね
まあ、そのせいで両親からは疎まれているんですけど・・・」
――全く、たいした妄想家だな、僕は。
あろう事か、勝手な能力まで付加するなんて。
「もう・・・人の話は聞いてください!
仕方がないなあ。」
彼女が僕を引っ張り起こす。
――あれ?
「えっと・・・君、居るのかい?」
「何を言ってるんですか?」
我ながら間の抜けた質問だった。
居る――夢にまで見た彼女が此処に居た。
それが嬉しくて、次の言葉は紡げなかった。
その日彼女に送ってもらう、という何とも情けない事をしたせいもあり
父の説教は明け方近くまで続いた事を記しておこう。
その日から、彼女と僕(後、偶にくっついてきたり、出てきたりする紫)は時しばしば時間を共にするようになった。
彼女は紫を見たとき、驚いた様子だったけれど、その後にっこり微笑んで
「良いお友達になれそうね」と言った。
紫も、「ええ、本当に」と微笑んだ。
一年くらいしたら、彼女のお付きだという少年が一緒についてくるようになった。
僕らは、多くの時を四人で過ごした。
花火、蛍、藤、雪・・・
そう言えば、桜を見に行ったときには紫に何か手渡して、二人で笑っていた。
僕ら二人はきょとんとするだけだった。
そんな時間が、ずっと続くと思っていた。
二、三年くらいした頃。
彼女は青い顔で僕に告げた。
「人を、殺してしまった」と。
初めは冗談かと思っていた。
だが、すぐに噂は町中に広まった。
「西行寺の娘は、亡霊を操り人を死に誘うらしい」という噂が。
良家である西行寺家から、そんな妖の様な、娘を出すわけにはいかない。
彼女は、幽閉される事となった・・・。
紫が教えてくれなければ、きっと、ずっと知らずに居た事だろう。
そんな事を許すわけにはいかない。
そう思った。
だから、僕は、彼女を連れて町を出た。
家も友も、思い出もすべて捨て去って。
少年が付いて来てくれたのは嬉しい誤算だった。
剣の腕も立つし、何より大抵の事は何でもこなしてくれた。
第一、幽々子を救い出せたのは彼の力に寄るところが大きい。
旅は、続いた。
安息の地を求めて。
幽々子は、日に日に元気を無くしていったが、きっと旅の疲れだと思っていた。
安息の地を見つければ、また前みたいに笑ってくれると、そう信じていた。
幽々子が死んだ。
僕ら三人が目を離した隙に、剣で胸を突いて。
「私の力は、人が持っていてはいけないモノだから・・・。」
それが、最後の言葉だった。
僕は、気づかなかった。
人を簡単に殺める力・・・それが幽々子の心を縛り付けていた事に。
僕らは、幽々子の亡骸を一本の大きな桜の下に埋めた。
とても綺麗で、残酷な光景だった。
僕には、留まるなんて出来なかった。
幽々子の後を追おうとして、二人に止められた。
それから、しばらくの事は覚えていない。
確か、紫が色々と世話を焼いてくれた気はする。
少年が、いつの間にか居なくなっていた。
紫に聞いた所、幽々子の後を追うため紫に頼んで生者と死者の境界をいじってもらい霊界に旅立ったらしい。
幽々子の血を吸って霊力を持った剣を携えて。
・・・何故、僕の時にそうしてくれなかったのか、と聞いたら
「貴方は完全に死ぬ事を望んでいたでしょう?それでは戻ってこれないわ」と言われた。
それでも良かったのに。
あの桜は、もう咲いてはいなかった。
はっと、して目覚める。
どうやら、寝ていたらしい。
――夢の中で、夢を見るなんてな・・・。
そう思って、少し可笑しくなる。
あの後、たち直るのに大分かかった。
紫に勧められるまま、色々な所を見て回ったりするうちに少しずつ傷は癒えた。
幽々子の事も今では思い出として語れる。
ああ、そうだ。
世話をしてくれているときに何をしたのか、あれから僕は全然年をとっていない。
何代にも渡った幕府の統治する世が終わっても、なお。
汽車は走り続け、見事な桜の庭園に出た。
そういえば、目の前の女性の髪はこんな色だったなと思い、窓から彼女に視線を移す。
彼女が顔を上げる。
その顔は・・・。
「 」
「幽々子!」
叫ぶ自分の声で目が覚めた。
――夢なんて、所詮そんなモノだ。
僕だって、失われたモノが取り戻せない位は分かっている。
だから、前を向いて進むのだと。
一人の少女が教えてくれた。
だから、もう落ち込んだり悲しんだりはしない。
時は、動き続けるのだから。
家の窓から、桜の花が一本季節外れに咲いているのが見えた。
「・・・嗚呼、もしかしたらあの桜が呼んだ幻だったのかもしれないな。」
「幽々子様?そろそろ朝ご飯が・・・」
妖夢は、いつものように主人を起こそうとして異変に気付いた。
「ゆ、幽々子様!?な、泣いてたっしゃるのですか!?
どどど、どうしたんです?何処か痛いところとか!!!
あああ、お、お医者様は!えーりん、えーりーん!!!」
「ああ、違うのよ、妖夢。ただね、夢を見ただけ。」
「え・・・、夢・・・ですか?」
「ええ、良くは覚えてないのだけれど。とても懐かしい、夢・・・」
「紫様、今まで一体何処に?」
「ちょっと、約束を果たしにね。」
「約束・・・?」
「ええ、遠い、昔の約束。」
そう言って、一枚の文を取り出した。
『生まれ変わってももう一度、
紫と、妖忌と、霖之助さんに会えますように。
この桜に願いを込めて 西行寺 幽々子』
――嗚呼、此処はは夢か。
そう、思った。
僕が居るのは此の場所には決して無いはずの場所。
流れる時と共に、外へ置いてきた場所だったから。
がたん、がたんと心地よいリズムで体が揺れる。
昔・・・まだ幻想郷が幻想郷として存在する前・・・
松山、という所で乗った汽車という奴だ。
五分も乗ってなかったとは思うが、珍しい体験だったから良く覚えている。
尤も、こんなに客室は広くなかったが。
マッチ箱、と表現していた青年も居た。
汽車は、走り続ける。
これが走り始めた頃・・・幻想郷が今の形に成った。
きっと、この『汽車』というのは幻想郷と外との境界の一つなのだろう。
だとすれば、これに乗っていれば外へ行けるのかもしれない。
一度くらいは今の外へも行ってみたい。
が、それは確実に戻れるという保証が有れば、だ。
やはり、僕は幻想郷が好きなんだろう。
時が止まったかにも思えるあそこが。
・・・しばらく、この揺れを楽しむ。
昔を懐かしむには、この揺れは非常に心地よい。
「失礼します。」
・・・しばらくして、僕の向かいに誰かが座った。
薄い、青色の服を纏った女性だ。
俯いてしまっているので顔を見る事は出来ないが、
きっと美しい人であろう事は雰囲気で分かる。
此処は、僕の夢。
だとすれば、僕の知っている人か?
それとも、僕の願望が見せる幻か。
だが、あんな桃色の髪の女性は知らない。
――なら幻の方か。
此処百年位は女性の夢を見るなんて無かったんだが・・・。
まあ、良い。そんな事もあるさ。
汽車は、走り続ける。
――嗚呼、此処はは夢か。
そう、思った。
僕が居るのは此の時間には決して無いはずの場所。
流れる時と共に、過去へ置いてきた場所だったから。
「お嬢さん、もうすぐ日が沈み始めます
そんなところで寝ていては危険ですよ?」
放っておけば良いものを。
全く、僕もお人好しだ。
「ふあ?・・・あらあら、ご親切にどうもありがとうございます。」
と、こちらを見る女性。
艶やかな髪。
絹の様な白い肌。
眠そうに、少し緩んだ瞳・・・
一目彼女を見た時、僕は恋に落ちた。
「どうかなさいまして?」
「あ、いえ。し、失礼しました!」
・・・貴方に見とれてました。
言えるか、そんな事。
まあ、だから僕と彼女の接点はこれだけ。
もう会う事もないだろう。
その時はそう思っていた。
「今日は、霖之助」
その日、僕に後ろから声をかけて来たのは八雲 紫。
かなりの力を持った妖怪だと巫女が言っていた気がする。
まあ、どうでも良い。
普通の人なら妖怪に声をかけられれば驚いて逃げ出すか気絶するかのどちらかだろうが、僕はもうなれた。
それに彼女が僕に危害を加えようとしている訳ではないのも分かっている。
「何か用か?」
声で紫だと分かったので、振り返りもせず聞く。
「この間貴方が真っ赤な顔で見とれていたお嬢さんの居場所を教えてあげようと思ったのだけれど?」
どうやら、隙間から覗いていたらしい。
全く・・・いつもこれだ。
「覗くな、って言わなかったっけ?」
「あら?そうだったかしら。」
「出会ったときから、ほぼ毎日ずっと同じ事を言っている気がするぞ?」
「気のせいよ。」
しれっとした顔で言う紫。
・・・出会ってから五年間、何度同じやりとりをした事か。
「ま、そんな些細な事はどうでも良いのよ。
で、聞きたいの?聞きたくないの?」
・・・聞きたい。
が、そんな事を言えばどうせからかわれるのは目に見えている。
ただでさえ最近は父上がうるさいってのに、
こんな人通りの多い場所で女性にからかわれてたなんて聞かれたら。
考えるだけで面倒だ。
どうせ、「お前は藩士の子としてだな・・・」って感じでお説教が続くに決まっている。
下級藩士のくせにプライドは一人前なんだから。
「ほらほらー、どうするの?」
紫の声で、道を外れ始めた思考が軌道修正される。
さて・・・どう答えるか。
あの女性を思い出す。
あの黒い髪を、白い肌を、透明な声を、澄んだ瞳を。
「――あら?聞きたいみたいね」
「マテ、僕はまだ答えていないぞ?」
「その顔を見れば分かるわよ。それとも聞きたくないのかしら?」
「む・・・」
まあ、教えてくれると言うんだ。
聞いておこうじゃないか。
「あの娘はね、西行寺 幽々子。西行寺家のお嬢さんよ」
聞かなきゃ良かった。
「西行寺家って・・・あの?」
僕の記憶では、確かかなりの良家のはずだ。
家みたいな下級藩士の家では会うどころか門に近づく事も許されまい。
「・・・そっか。」
「あら、それだけなの?」
「僕みたいな下級藩士の家の子ではね。」
ひょい、と肩を竦めてみせる。
・・・ショックなのがばれない様に。
「ま、それでも良いけどね。それじゃ、私は帰るわ。」
隙間を開く。
周りの人が驚いてこちらを見ている。
嗚呼、これでお説教は確定か。
「藩士の子が妖などと・・・」と怒りを露わにする父を想像して少しげんなりした。
その日は、真っ直ぐ帰る気にもなれずに僕は彼女と会った場所に来ていた。
そろそろ日が沈み始める。
妖の時間が来る前に帰らないと危険だ。
・・・それでも何となく、帰る気になれずに僕は寝ころんだ。
「暗くなる前に帰らないと危険ですよ?」
上の方から声。
目を開けると、この間の彼女が・・・
嗚呼、遂に妄想を見始めたか。
諦めろ――身分が違う。
「あの、聞いてます?」
――ああ、聞いてる。
君こそ暗くなる前に帰らないと危険じゃ無いのか?
大体、良家のお嬢様がこんな所に一人で来るわけ無いだろ。
自分の妄想を振り払おうとした。
「ああ、私は大丈夫なんですよ。
ちょっとした力がありまして。
幽霊、っていうんですか?あれを操れるんですよね
まあ、そのせいで両親からは疎まれているんですけど・・・」
――全く、たいした妄想家だな、僕は。
あろう事か、勝手な能力まで付加するなんて。
「もう・・・人の話は聞いてください!
仕方がないなあ。」
彼女が僕を引っ張り起こす。
――あれ?
「えっと・・・君、居るのかい?」
「何を言ってるんですか?」
我ながら間の抜けた質問だった。
居る――夢にまで見た彼女が此処に居た。
それが嬉しくて、次の言葉は紡げなかった。
その日彼女に送ってもらう、という何とも情けない事をしたせいもあり
父の説教は明け方近くまで続いた事を記しておこう。
その日から、彼女と僕(後、偶にくっついてきたり、出てきたりする紫)は時しばしば時間を共にするようになった。
彼女は紫を見たとき、驚いた様子だったけれど、その後にっこり微笑んで
「良いお友達になれそうね」と言った。
紫も、「ええ、本当に」と微笑んだ。
一年くらいしたら、彼女のお付きだという少年が一緒についてくるようになった。
僕らは、多くの時を四人で過ごした。
花火、蛍、藤、雪・・・
そう言えば、桜を見に行ったときには紫に何か手渡して、二人で笑っていた。
僕ら二人はきょとんとするだけだった。
そんな時間が、ずっと続くと思っていた。
二、三年くらいした頃。
彼女は青い顔で僕に告げた。
「人を、殺してしまった」と。
初めは冗談かと思っていた。
だが、すぐに噂は町中に広まった。
「西行寺の娘は、亡霊を操り人を死に誘うらしい」という噂が。
良家である西行寺家から、そんな妖の様な、娘を出すわけにはいかない。
彼女は、幽閉される事となった・・・。
紫が教えてくれなければ、きっと、ずっと知らずに居た事だろう。
そんな事を許すわけにはいかない。
そう思った。
だから、僕は、彼女を連れて町を出た。
家も友も、思い出もすべて捨て去って。
少年が付いて来てくれたのは嬉しい誤算だった。
剣の腕も立つし、何より大抵の事は何でもこなしてくれた。
第一、幽々子を救い出せたのは彼の力に寄るところが大きい。
旅は、続いた。
安息の地を求めて。
幽々子は、日に日に元気を無くしていったが、きっと旅の疲れだと思っていた。
安息の地を見つければ、また前みたいに笑ってくれると、そう信じていた。
幽々子が死んだ。
僕ら三人が目を離した隙に、剣で胸を突いて。
「私の力は、人が持っていてはいけないモノだから・・・。」
それが、最後の言葉だった。
僕は、気づかなかった。
人を簡単に殺める力・・・それが幽々子の心を縛り付けていた事に。
僕らは、幽々子の亡骸を一本の大きな桜の下に埋めた。
とても綺麗で、残酷な光景だった。
僕には、留まるなんて出来なかった。
幽々子の後を追おうとして、二人に止められた。
それから、しばらくの事は覚えていない。
確か、紫が色々と世話を焼いてくれた気はする。
少年が、いつの間にか居なくなっていた。
紫に聞いた所、幽々子の後を追うため紫に頼んで生者と死者の境界をいじってもらい霊界に旅立ったらしい。
幽々子の血を吸って霊力を持った剣を携えて。
・・・何故、僕の時にそうしてくれなかったのか、と聞いたら
「貴方は完全に死ぬ事を望んでいたでしょう?それでは戻ってこれないわ」と言われた。
それでも良かったのに。
あの桜は、もう咲いてはいなかった。
はっと、して目覚める。
どうやら、寝ていたらしい。
――夢の中で、夢を見るなんてな・・・。
そう思って、少し可笑しくなる。
あの後、たち直るのに大分かかった。
紫に勧められるまま、色々な所を見て回ったりするうちに少しずつ傷は癒えた。
幽々子の事も今では思い出として語れる。
ああ、そうだ。
世話をしてくれているときに何をしたのか、あれから僕は全然年をとっていない。
何代にも渡った幕府の統治する世が終わっても、なお。
汽車は走り続け、見事な桜の庭園に出た。
そういえば、目の前の女性の髪はこんな色だったなと思い、窓から彼女に視線を移す。
彼女が顔を上げる。
その顔は・・・。
「 」
「幽々子!」
叫ぶ自分の声で目が覚めた。
――夢なんて、所詮そんなモノだ。
僕だって、失われたモノが取り戻せない位は分かっている。
だから、前を向いて進むのだと。
一人の少女が教えてくれた。
だから、もう落ち込んだり悲しんだりはしない。
時は、動き続けるのだから。
家の窓から、桜の花が一本季節外れに咲いているのが見えた。
「・・・嗚呼、もしかしたらあの桜が呼んだ幻だったのかもしれないな。」
「幽々子様?そろそろ朝ご飯が・・・」
妖夢は、いつものように主人を起こそうとして異変に気付いた。
「ゆ、幽々子様!?な、泣いてたっしゃるのですか!?
どどど、どうしたんです?何処か痛いところとか!!!
あああ、お、お医者様は!えーりん、えーりーん!!!」
「ああ、違うのよ、妖夢。ただね、夢を見ただけ。」
「え・・・、夢・・・ですか?」
「ええ、良くは覚えてないのだけれど。とても懐かしい、夢・・・」
「紫様、今まで一体何処に?」
「ちょっと、約束を果たしにね。」
「約束・・・?」
「ええ、遠い、昔の約束。」
そう言って、一枚の文を取り出した。
『生まれ変わってももう一度、
紫と、妖忌と、霖之助さんに会えますように。
この桜に願いを込めて 西行寺 幽々子』
しかも、なんだか目に見えて上達されているようで。
こういう過去捏造は読むのもするのもかなり好きです。
東方はそういう想像の余地がたくさんあるのがいいですよね。
では、最後に誤字の報告を。
言いお友達→良い(いい)お友達
何台にも渡った→何代にも、ではないでしょうか。
以上です、長々と失礼しました。
この発想はなかったわ、グッときた。