人として、生きるということ。
そこに永遠など無い。
だから、人は永遠を求めるのか……。
雨が上がり、涼しげな香りが辺りに満ち始める時間。
気温が下がり、少し周りが明るくなって本を読むには良い時間。
こういった静かな一時が僕にとっての一番大事な時間だ。
とはいえ、この時間が続いた試しはない。
この、静かに香る時間は彼女
――魔理沙
によって悉く邪魔をされている。
魔理沙が来れば、店のモノを勝手に荒らし、
『払う意志のないツケ』で物を『買っていく』
(僕にしてみれば強奪に他ならないが、魔理沙は『買っている』と言い張っている)
「飽きたら返すぜ」
そう言って借りていく事もある。
……本当に気に入ったモノは返ってきた覚えが無い。
あの家で行方不明になって居るモノも多々ある。
――やっぱり強奪じゃないか。
そう言っても、聞いてはくれない。
自分が思ったことは貫き通す奴だ。
それが魔理沙の良いところであり、悪いところでもある。
それが、霧雨 魔理沙というものだ。
「昔は……」
昔はどうだったかと、思い返す。
もう、十年近く前。
「森近。これは私の孫娘でな・・・色々あって、今日から家で面倒を見ることになった。
ほら魔理沙、霖之助お兄さんだ。挨拶しなさい」
僕の師匠が連れてきたのは、一人の女の子だった。
……前々から、師匠に娘が居ることは聞いていたが孫まで居るとは思わなかった。
教えてくれても良かったのに。
――違う、そうじゃない。
聞いて無かっただけだ。
どうでも良かったのだ。
永遠、等という時間を持ってしまった僕にとっては、人間一人の事など。
どうでも、良かったのだ。
この時間を潰すのに使うには、人間の一生は短すぎるものだから。
魔法を覚えようとしたのも、時間潰しのためでありそれ以外の何でもない訳だし。
本当に、どうでも良い。
僕の時間は、凍っていた。
「・・・よろしく。」
うつむいた彼女が、今にも泣きそうな顔をしていることも。
小さく震えて居ることも。
僕にとってはどうでも良かった事のはずだ。
魔理沙を寝かしつけた師匠から、「娘の住んでいた村が妖怪に襲われてな……」
など色々聞かされた事も。
「色々と面倒を見てやってくれ。」
などと言われた事も。
第一、師匠の話は余計な脚色と無駄に細かな描写が相まって長いので、あまりきちんとは聞いていない。
――どうでも、良い。
どうせ、人間なんて長くは生きられない。
どうせ、僕を置いてすぐに居なくなる。
どうせ、時間は、あっという間に過ぎ去っていく。
二、三年経った。
どうやら、元々才能が有ったらしい。
それに、努力を惜しまない魔理沙はまるで砂漠に水を垂らすように知識を蓄えていった。
その頃、僕はといえばたしかマジックアイテムの作成に夢中になっていた気がする。
……まあ、そんなことはどうでも良い。
魔理沙は僕では敵わないくらいに強くなった。
「こーりんは私が守ってやるぜ。」
どうせ、僕を置いて居なくなるくせに。
そう思っていた。
――本当に?
本当は、嬉しかったんでしょう?
永遠とも等しい時間を生きても、そんなこと言われた事が無かったから。
不意にかけられた声で、現実に引き寄せられる。
振り返れば、出てくる気配も感じさせずに隙間妖怪。
「・・・心臓に悪いからせめて声をかけてから来てくれと言わなかったかな?」
確かに、そう言ったはずだ。
「あら、前にそうしたら、心臓に悪いからいきなり声をかけるな、って言ったのは誰だったかしら?」
そんなこともあったか。
……まあ、そんなことはどうでも良い。
「全く、君は昔から変わらないな。」
「……あら、そうかしら?」
うふふ、といつもの微笑みを崩さずに返してくる。
この、作り笑いも昔から変わってはいない……
「作り笑いじゃないわ。私は嬉しくて、いつも笑顔で居るんですもの」
どうやら、また自分と他人の境界をあいまいにすることで心を読んだらしい。
……下手すれば、僕と一つになってしまうのに。
「あなたとなら、一つになっても悪くないかもね。」
なんて、からかわれた事もあった。
「何がそんなに楽しいと?」
一応、聞いてやる。
否、是非聞きたい。
何故、何時も笑顔で居るのかを。
「・・・決まってるじゃない。今日も、幻想郷が幻想郷として存在している事が、よ。
貴方が、『霧雨魔理沙』が『霧雨魔理沙』として存在するのを喜びとする様に、ね。」
おかしな事を言う。
僕はそんな事を思っては居ない。
思ってないはずだ。
出来れば、物を持っていくのは止めてほしい。
「そんな事、大した問題では無いのでしょう?
彼女が、居てくれるだけで嬉しい。
そう思って居るのでしょう?」
「何時から君は心理分析学者になったんだい?」
なんとなく、心を見透かされたのが悔しくて憎まれ口をたたく。
本当は分かっている。
自分の想いくらいは。
「何千年も付き合っていればこの位は分かるわよ。」
彼女は云う
――それに、
「おーい、こーりん来てやったぜ」
……これで、静かな香りに包まれての読書時間は終わった。
今日も、魔理沙は魔理沙らしく騒動を起こすんだろう。
それが、彼女にとっての日常だと……
魔理沙が魔理沙として存在している、何よりの証とするかの様に……。
――それに、彼女を見守るため、同じ時を同じように感じ取るために貴方は『妖怪』で在ることをやめたのでしょう?
……長き時を捨ててまで、何故あの人間に固執するのかしら。
人間となった貴方に残された時間は少ししかない。後悔はしない様にね。
――後悔?するものか。
少なくとも、今は。
凍りついた時計は、動き始めたのだから
人として生きること。永遠にも等しい時を失うこと。
人として生きること。永遠にはない何かを得ること。
そこに永遠など無い。
だから、人は永遠を求めるのか……。
雨が上がり、涼しげな香りが辺りに満ち始める時間。
気温が下がり、少し周りが明るくなって本を読むには良い時間。
こういった静かな一時が僕にとっての一番大事な時間だ。
とはいえ、この時間が続いた試しはない。
この、静かに香る時間は彼女
――魔理沙
によって悉く邪魔をされている。
魔理沙が来れば、店のモノを勝手に荒らし、
『払う意志のないツケ』で物を『買っていく』
(僕にしてみれば強奪に他ならないが、魔理沙は『買っている』と言い張っている)
「飽きたら返すぜ」
そう言って借りていく事もある。
……本当に気に入ったモノは返ってきた覚えが無い。
あの家で行方不明になって居るモノも多々ある。
――やっぱり強奪じゃないか。
そう言っても、聞いてはくれない。
自分が思ったことは貫き通す奴だ。
それが魔理沙の良いところであり、悪いところでもある。
それが、霧雨 魔理沙というものだ。
「昔は……」
昔はどうだったかと、思い返す。
もう、十年近く前。
「森近。これは私の孫娘でな・・・色々あって、今日から家で面倒を見ることになった。
ほら魔理沙、霖之助お兄さんだ。挨拶しなさい」
僕の師匠が連れてきたのは、一人の女の子だった。
……前々から、師匠に娘が居ることは聞いていたが孫まで居るとは思わなかった。
教えてくれても良かったのに。
――違う、そうじゃない。
聞いて無かっただけだ。
どうでも良かったのだ。
永遠、等という時間を持ってしまった僕にとっては、人間一人の事など。
どうでも、良かったのだ。
この時間を潰すのに使うには、人間の一生は短すぎるものだから。
魔法を覚えようとしたのも、時間潰しのためでありそれ以外の何でもない訳だし。
本当に、どうでも良い。
僕の時間は、凍っていた。
「・・・よろしく。」
うつむいた彼女が、今にも泣きそうな顔をしていることも。
小さく震えて居ることも。
僕にとってはどうでも良かった事のはずだ。
魔理沙を寝かしつけた師匠から、「娘の住んでいた村が妖怪に襲われてな……」
など色々聞かされた事も。
「色々と面倒を見てやってくれ。」
などと言われた事も。
第一、師匠の話は余計な脚色と無駄に細かな描写が相まって長いので、あまりきちんとは聞いていない。
――どうでも、良い。
どうせ、人間なんて長くは生きられない。
どうせ、僕を置いてすぐに居なくなる。
どうせ、時間は、あっという間に過ぎ去っていく。
二、三年経った。
どうやら、元々才能が有ったらしい。
それに、努力を惜しまない魔理沙はまるで砂漠に水を垂らすように知識を蓄えていった。
その頃、僕はといえばたしかマジックアイテムの作成に夢中になっていた気がする。
……まあ、そんなことはどうでも良い。
魔理沙は僕では敵わないくらいに強くなった。
「こーりんは私が守ってやるぜ。」
どうせ、僕を置いて居なくなるくせに。
そう思っていた。
――本当に?
本当は、嬉しかったんでしょう?
永遠とも等しい時間を生きても、そんなこと言われた事が無かったから。
不意にかけられた声で、現実に引き寄せられる。
振り返れば、出てくる気配も感じさせずに隙間妖怪。
「・・・心臓に悪いからせめて声をかけてから来てくれと言わなかったかな?」
確かに、そう言ったはずだ。
「あら、前にそうしたら、心臓に悪いからいきなり声をかけるな、って言ったのは誰だったかしら?」
そんなこともあったか。
……まあ、そんなことはどうでも良い。
「全く、君は昔から変わらないな。」
「……あら、そうかしら?」
うふふ、といつもの微笑みを崩さずに返してくる。
この、作り笑いも昔から変わってはいない……
「作り笑いじゃないわ。私は嬉しくて、いつも笑顔で居るんですもの」
どうやら、また自分と他人の境界をあいまいにすることで心を読んだらしい。
……下手すれば、僕と一つになってしまうのに。
「あなたとなら、一つになっても悪くないかもね。」
なんて、からかわれた事もあった。
「何がそんなに楽しいと?」
一応、聞いてやる。
否、是非聞きたい。
何故、何時も笑顔で居るのかを。
「・・・決まってるじゃない。今日も、幻想郷が幻想郷として存在している事が、よ。
貴方が、『霧雨魔理沙』が『霧雨魔理沙』として存在するのを喜びとする様に、ね。」
おかしな事を言う。
僕はそんな事を思っては居ない。
思ってないはずだ。
出来れば、物を持っていくのは止めてほしい。
「そんな事、大した問題では無いのでしょう?
彼女が、居てくれるだけで嬉しい。
そう思って居るのでしょう?」
「何時から君は心理分析学者になったんだい?」
なんとなく、心を見透かされたのが悔しくて憎まれ口をたたく。
本当は分かっている。
自分の想いくらいは。
「何千年も付き合っていればこの位は分かるわよ。」
彼女は云う
――それに、
「おーい、こーりん来てやったぜ」
……これで、静かな香りに包まれての読書時間は終わった。
今日も、魔理沙は魔理沙らしく騒動を起こすんだろう。
それが、彼女にとっての日常だと……
魔理沙が魔理沙として存在している、何よりの証とするかの様に……。
――それに、彼女を見守るため、同じ時を同じように感じ取るために貴方は『妖怪』で在ることをやめたのでしょう?
……長き時を捨ててまで、何故あの人間に固執するのかしら。
人間となった貴方に残された時間は少ししかない。後悔はしない様にね。
――後悔?するものか。
少なくとも、今は。
凍りついた時計は、動き始めたのだから
人として生きること。永遠にも等しい時を失うこと。
人として生きること。永遠にはない何かを得ること。
文章そのものは、一読した限りでは読みやすい文章だと思いました。これからも頭の中で色々とキャラを動かしたりして、皆さんと一緒に名作のアイディアに知恵を絞ってみましょう。頑張って下さい。
アドバイス、ありがとうございました。