Coolier - 新生・東方創想話

紅魔館で発見された手記

2006/11/02 09:01:57
最終更新
サイズ
9.36KB
ページ数
1
閲覧数
1396
評価数
7/51
POINT
2310
Rate
8.98
これから記す事は、決して嘘や冗談でも、頭のおかしい女の戯言でもありません。私がこの館で実際に経験したことをそのまま記したつもりです。
この呪われた館で、私はおぞましい経験をし、そして口にするも憚られる存在に追われてこの部屋に逃げ込んだのです。もう私はここから出られないかもしれません。だからせめてこの手記を残します。私の身に何があったのか、それを誰かに伝えたかったのです。
もしこれを読んだ人がいたら、すぐに荷物をまとめてここから出て行くことを勧めます……命が惜しければ。



私がこの呪われた館、紅魔館にメイドとして勤め始めたのは、半年ほど前でした。近くの村……近くと言っても歩いて1日ほどかかるのですが……で生まれ育った私は、家族を妖怪に襲われて失いました。
その妖怪がどんな妖怪で、その後どうなったのかはよく分かりません。小さな山村だった集落には妖怪に対抗できるほどの力を持った人間などおらず、村で生き残ったのはたまたま山に山菜取りに行っていた私だけでした。私が山から下りてきたときには、すでに村の住人は誰もいなかったのです。
頼る者はなく、惨劇の名残の残るこの村に残る気になれず、私は半ば絶望に苛まれながら、湖のそばの洋館にふらふらとたどり着いたのです。

森に囲まれたその洋館は、まるで血のように紅い色でした。村の惨劇を思い出して、私はここは人間の来る場所ではない、いていいのは死者と妖怪のみだと思ったのを今でも鮮明に覚えています。
私が踵を返そうとしたとき、不意に声をかけられました。
振り返ると、そこには緑色の服と帽子をかぶった赤い髪の女の人が私を睨みつけていました。
女の人(後で知ったのですが、この紅魔館の門番の紅美鈴さんという人……いや妖怪でした)は私に、この先は私有地だから立ち入りは許さない。もし侵入するなら積極的に排除する、ということを言いました。
この時点で彼女を人間だと思い込んでいた私は、久しぶりに見る人の姿にほっとしたのか、ここはどなたのお屋敷ですか、と聞いたのです。すると彼女は、ここは紅魔館よと言いました。
紅魔館の名前は聞いたことがありました。悪名高き吸血鬼「スカーレットデビル」ことレミリア・スカーレットのいる館。村の子供たちは親の言うことを聞かないと、スカーレットデビルに連れてかれるよ、と言って脅されたものです。かく言う私も母からよく言われ、その度に大泣きしたのですが。
ですがそのときの私には行くあてもなく、しかも美鈴さんのような人がいるんだから私がいても大丈夫だろう、という根拠のない確信があったので、村が妖怪に襲われて行くあてもないんです。この館で雇ってください。なんでもしますから、などと言ってしまったのです。
思えばこれがそもそもの間違いでした。このときにおとなしくここを立ち去っておけばこんな事にはならなかったのでしょうに。
私の申し出に美鈴さんは酷く驚いた顔をして、そんな事を言い出す人間なんて久しぶりだわ、と言いました。そして、メイド長に聞いてみるから、と私を館に招いたのです。
不安とわずかな期待を胸に足を踏み入れた紅魔館は、中も紅い館でした。中はものすごく広く、しかも単調なので、自分がどこにいるのかまったく分かりません。ですが美鈴さんはこの異様に広い館をまるですべて把握しているかのように歩いていきます。後で知ったことなのですが、この館は実際のの所そう広いものではなく、コツさえ覚えればそう迷うことはないのだそうです。ですがそんな事は露ほども知らない私は、正直この先本当にやっていけるのか不安になっていました。。

やがて、私は大きな部屋に通されました。この部屋だけで私が村で住んでいた家と同じくらいはあります。しかも中は見た事もないような豪華な調度品で飾り付けられ、いかにもお金持ちのお屋敷、というような雰囲気をかもし出しています。ただ、そんな雰囲気よりも、窓がないことが私の印象に残りました。
ここで、私はメイド長の十六夜咲夜さんと顔を合わせることとなりました。後に私の上司となる人です。
咲夜さんの第一印象は、有能だけどきつそうな人、でした。メイド服を一分の隙もなく着こなし、いつも懐中時計を持ち歩いていて、いかにも厳しそうな人というのがこのメイド長に対して抱いたイメージです。これはきわめて的を得た感想だったと思います。同僚のメイドから聞いた話では、咲夜さんは有能ですが、自分にも他人にも厳しく、しかも気がつくとどこからともなく現れるうえ、投げナイフの達人だという噂があり、メイドたちは懐中時計の音が聞こえるたびに震え上がったそうです。事実、メイドとなってから私も何度となく叱責され、そのたびに泣きそうになったものです。
美鈴さんがおずおずと、私がこの館で働きたいと言ってることを告げると、咲夜さんは私を一瞥し、ちょうど人手が不足してるから、不安要素は残るけどとりあえず雇ってみる、と告げたのです。
思ってもみなかった展開に、喜びと不安を感じている間もなく、この館に関する基本的な注意事項を告げられました。その中で特に厳しく言われたのが、館の北にある廊下には近付いてはいけない、という事でした。
なぜ近付いてはいけないのか、という事に関しては、一切教えてもらえませんでした。今になって思えば、このときにちゃんと理由を教えてくれれば、こんなことにはならなかったような気がします。
この日は自分用の部屋をあてがわれて、一日を終えました。緊張が解けたのか、ベッドに入るなり夢も見ずに眠ってしまいました。

翌日から、先輩のメイドについて、屋敷の掃除を手伝うことになりました。掃除は決して嫌いな方ではないですが、この広い屋敷を掃除するのはかなり骨の折れる仕事です。
掃除は館の中だけではなく外にも及びます。そのせいか、門番の美鈴さんとはよく顔を合わせました。
彼女はとても気さくでいい人……もとい妖怪でした(失礼な話ですが、あんまり妖怪らしくないのでつい人間と同じ感覚で接してしまいます)。
彼女は中庭の花壇の手入れもやっていて、よく真っ赤な薔薇ばかり植えられた花壇に水をやっているのを見かけました。声をかけると、新入り、頑張りなよ、と、妖怪らしからぬいい笑顔を見せるのです。
それに比べて、館の中にある図書館にいるパチュリー様は笑顔と言うものを見せたことがありません。
図書館には掃除のために入ることはないのですが、何かの用事で入ったときでも、パチュリー様はいつもむっつりした表情です。ほとんどしゃべることもありませんので、自然と図書館での用件は司書の方に取り次いでもらうことになります。
司書の方は小悪魔で、皆からはリトルと呼ばれています(本名かどうかは知りませんが)。
この方も結構気さくで、時間に余裕がある時などは軽く世間話をしたりもしました。図書館の本をこっそり貸してくれたこともあります。
掃除の途中で、館の主であるところのレミリア様に会うこともたまにありました。自分の見る限り、レミリア様は噂されるような恐ろしい方ではありませんでした。
なんと言うか、まるっきり子供です。我侭放題で、思いつきで物を言っては、メイドたちを走り回らせるのです。咲夜さんがいつもそばについているから、まだ何とか歯止めがかかっているようでしたが、そうでなければ、多分館のメイドはみんな仕事どころじゃないはずです。でも、これはこれで楽しかったりするのですが。

ですが、そんな日々も長くは続きませんでした。
私が館で働き始めて半年が経ったころです。夜中に手洗いに行った私は、一階から誰かの話し声がするのを聞きました。
よくよく耳を済ませてみると、それはレミリアお様とパチュリー様の声でした。二人が何を話していたのかはよく聞き取れませんでしたが、どうやら北の廊下の先に何か大切な物を仕舞っておられるような事を言っていました。
二人の声が聞こえなくなり、あたりに気配がなくなると、私は薄明かりの中、どうしたものかと階下を覗き込みました。問題の北の廊下が見えます。決して行ってはいけないと言われた禁断の廊下。その先を見てみたい、という衝動が私の中に捲き起こってきています。
幸い、今は誰もいません。何があるのか、それだけ見て戻ろう、そう思って私はそっと一階に降り、禁断の廊下に歩を進めました。
廊下は終わりがないのかと思うほどまっすぐ延々と続いていました。どう考えても館の幅よりも長いのです。そういえば誰かがこの館には空間を操る人がいると言ってたのを思い出しました。
本当に無限に続くのかと思われた廊下は、不意に下に降りる階段で終わりを告げました。薄暗いその階段に、一瞬だけ躊躇したものの、結局ゆっくりと降りていったのです。今思うと、なぜあの階段を下りたのか、自分でもわかりません。ひょっとすると、何かに誘われたのかもしれませんが、今となってはそれを知る事も叶わぬのです。
階段は、やがて一枚の扉に行き着きました。金属の、硬く重そうな扉でした。しかも、どこにもノブが着いておらず、開け方は全然わかりません。
あきらめて戻ろうとした時、扉の向こう側から声が聞こえました。地の底から響くような、恐ろしい声でした。

アソンデクレルノ?

その声は確かにそう言っていました。
その後は何があったのか覚えていません。気がつくと部屋の隅で泣きながらガタガタ震えていました。どこをどうやって帰ってきたのかすら覚えていません。窓から朝日が差し込んでいました。
その日の仕事はまったく手につきませんでした。あの声が耳に残って離れないのです。
それでも、時間が過ぎるうちに、あれは夢だったのではないか、と思いつつある自分がいました……ついさっきまでは。
部屋で寝ていた私は、大騒ぎする声で目を覚ましました。時間は深夜。何があったのかと部屋を出た時、あの声が聞こえてきたのです。

ネエ、アソンデヨ
アソンデヨ
アソンデヨ……

本能が危険を知らせていました。この声の主に会ってはいけない。会ったら最後、悲惨な最後を迎えるだろう、と。私は部屋に入って鍵をかけ、ありったけの家具で障壁を作りました。でも、それは気休めにしか過ぎないかもしれません。
今、あの声の主は二階の廊下を歩いているようです。私の身に何があったか、今のうちに記しておくことにします。
これを読んだ誰か。私はもう助からないかもしれません。もしこれを読んだなら、私と同じ過ちは犯さないでください。あの北の扉にだけは近づかないでください。
ああ、今扉の前に何かが来ました。きっとあの声の主です。扉を叩く音がします。

ミツケタ

来た……怖い。助けて、誰か助けて……お願いです、誰か助けてください。これが悪夢なら早く覚めて……嫌だ、怖い、怖いよ。

今扉が壊された。声の主が入ってくる。見てはいけない。見てはいけないのに……

異形の者がいる。冒涜的で名状しがたき羽、忌まわしく、紅よりもなお紅く燃える瞳。
ああ、気付いてしまった。暗き深遠から這い上がってきた悪夢の存在は、この忌まわしい館の主、レミリア・スカーレットの血をわけた妹なのだ。この世に産み落とされて以来長きに渡り地下室に封じられてきた狂気の落とし仔を、私は地上に解き放ってしまったのだ。

サァ、アソビマショウ

近づいてくる近づいてくるもう逃げられない助けて怖い怖いこわいああいまあいつがわたしのてをつかんで------------------------------------------------------







(この手記は紅魔館の荒れ果てた部屋で発見された。最後のページは途中で破れ、どす黒い染みが残っていた。手記を書いたメイドの消息は不明である)
ラヴクラフト調というか、クトゥルフ神話作品のノリで東方を書いたら、という実験です。紅魔館って図書館はあるし、地下室に閉じ込められた主の血縁の忌み子とか、どう見ても神話作品向けの舞台でしたし。ちなみにクトゥルーでなくクトゥルフなのはTRPGプレイヤーな自分的こだわりw
でも結果は……全然ラヴクラフト調にならなかった……って言うか、あの装飾過剰な文体真似るの無理ッ!

ちなみにもう一つ実験として、無名の人間……それも霊夢や魔理沙のような、下手すると妖怪より強い連中でなく、ごく普通の妖怪に食われるような弱い人間の立場から幻想郷を書いてみたかったので、それをちょっと試してみました。こっちがどうだったかはなんとも言えませんが。

……ちなみに最初に書き始めてから完成までに8ヶ月かかっているという事実はどうしたものか。
たわりーしち
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1840簡易評価
1.90削除
ヒィイイイ((((;゚Д゚)))

いや、「入ってはいけない場所に入ったら、どんな人でもどういうことになっても文句は言えない。理由が何であれ、そこは入ってはいけない場所」
というのも東方妖怪っぽい考えだと思うので、こう言うのは好きだったりします。
12.無評価名前が無い程度の能力削除
こ、怖えぇぇぇ……

いつどこで「かゆうま」がくるかと思ったら
13.80名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れました。
20.60復路鵜削除
これは おそろしい話だ!
ただ、文章的にやや読みにくいかなあと思われましたし、また手記調の文章にしては変にしゃちほこばっているように感じられて、今一歩の所で感情移入がしにくかったです。
26.40名前が無い程度の能力削除
ゴメンナサイ 名状しがたき羽まで コワーと思って結構入り込んでたんですが
そこで吹いちゃったもんで この点数になりました
32.無評価名前が無い程度の能力削除
マヨヒガ.Verを見た記憶が…
33.70名前が無い程度の能力削除
窓に!窓に!
41.50名前が無い程度の能力削除
書いてる暇があったら逃げろw
50.80名前が無い程度の能力削除
想像するに易し