Coolier - 新生・東方創想話

ドクダミハザード1

2006/11/01 07:18:21
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・この作品は作品集32「スキマとしっぽのミステリー」、作品集33「ドクダミファンタジア」「キノコパニック」
 の設定をいくつか引き継いでおります。
・また作品集33「妖夢奪還大作戦」「永遠亭最終決戦」
 の正当な続編であり完結作に当たりますが、こちらは読んでいなくても問題ありません。
 どちらかというとリメイク作品に近い流れを持っています。内容は大分違いますが、大体大まかな流れは同じです。
・細かいことは作者コメントに書いてありますので、先にそちらを一読していただくのもアリかもしれません。
・以上のことをご了承の上、読んで下さる方はどうぞ本編へお進みください。



最後のドクダ巫女をお楽しみいただければ幸いです。当分先まで出ませんが……(オイ



『ドクダミハザード1-ドクダミイナバ育成計画-』


――薄暗い地下室。

それは永遠亭、永琳の部屋の地下室。
壁際の棚には色とりどりの怪しげな薬が並べられている。もちろんそれらは永琳が製造したものだ。
また、部屋のあちこちに見たことも無いような実験器具が置かれている、布を掛けてあるのやら掛けてないのやら。
布が掛かってないものは埃に強いからなのか、はたまた使用頻度が高いからなのか。
そしてその部屋の中央には手術台らしきものがあり……一人の少女がそこに縛り付けられている。

「やめろー! えいりーん!! やめろー!! 怒るぞーっ!!」

全体的に青っぽい格好、髪の毛も青、そして背には半透明の小さな翼。
それは氷精チルノであった。両手両足を器具で拘束され、妖術を使って逃げないように身体の各所に封印の札が貼ってある。
手術台の脇にはたくさんの怪しい器具、その側の机の上には怪しい薬品。そして傍らで永琳と鈴仙がチルノを見下ろしていた。

「やめろー! えいりーん!! ぶっとばすぞーっ!!」
「あらあら威勢が良い事、えいっ」
「んがっ!?」

チルノは永琳の手刀を首に打ち込まれて意識を失った。
手術台の上でぐったりしているチルノを見て、鈴仙は苦笑いを浮かべている。

「ししょ~……ちょっと可哀想です、こんなことして良いんですか?」
「少し実験台になってもらうだけよ、別に深刻な後遺症が残るようなことでもないし、良いじゃないの」
「後遺症……」

実は鈴仙やてゐも含めた永遠亭のイナバ達数匹が先に実験台にされていた。
確かに身体機能には大した異常は残らなかったのだが、精神的にはとても気持ちの良いものではなかった。
実験後しばらくは臭いが取れなくて皆に「臭っ!!」と言われたし、自分自身を臭いと知りながら生活するのは生き地獄だった。
断ろうにも、永琳がイナバ達よりも先にまず自分を被験者にしていたので……本人がそこまで身体を張った以上、
鈴仙としてはそれを断ることもできなかった。てゐや他のイナバは半ば無理矢理実験台にされたのだが。

「さて、この子に適性はあるのかしらね」
「師匠でも無理だったのに、そんな上手くは行かないと思いますけど……」
「1%の可能性でも諦めないことが科学の発展に繋がるのよ、そんな弱気なことを言わないの」
「はぁ~い……」

気の無い返事を返すと、鈴仙は側にあった器具をガチャガチャといじり始めた。
そして半透明の管が付いた酸素マスクのようなものを引っ張り出し、それをチルノの顔に装着する。
管の先には高さ百二十センチ、直径八十センチ程の巨大なタンクがある、何か薬液でも入っているらしい。

「準備は良いようね。それでは始めなさい、ウドンゲ」
「はい……」

鈴仙が緊張した面持ちでそのタンクの側面に手を当て、魔力を注ぎ込んだ。
するとタンクから管へと緑色の液体が流れ込み、みるみるうちにチルノへと迫っていく。

「D、チルノの口内へ到達しました!」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

緑色の液体は管を通ってチルノの口から胃袋へと流れ込む。
今のところチルノには特に異常は無く、されるがままに液体を流し込まれているだけであった。
気を失っているにも関わらずちゃんと飲んでいるのは、永琳が開発したと思われるこのポンプの仕様なのだろうか。

「チルノの妖力が急激に上昇しています」
「やはりこれは……しかしここまでは誰でも行くのよ、これからどれだけ堪えられるかが問題だわ」
「……そうですね」

永琳は先ほど『適性』と口にした。
そしてこの液体にはその者の持つ妖力、または霊力や魔力などを増強する作用があるらしい。
しかし許容限界があるのだろう、今までの実験台……永琳及び永遠亭のイナバ達にはそれほど適性はなかったらしい。
ちなみに毒も薬も効かない永琳も自身を実験台にした辺り、それが薬品ではないことを物語っている。

もちろんチルノがそんなことを知るわけもなく、相変わらず緑色の液体を投与され続けていた。

「意外ともってます、もしかするとチルノは二人目の適合者なのかも……?」
「いや……ウドンゲ、そろそろ止めなさい」
「なんでですか師匠? もう少しやってみましょうよ?」
「ダメよ、予想以上に妖力の上昇が激しい……っ!?」

突然チルノが目を見開き、拘束具を無理矢理外そうと暴れ始めた。
先ほどまでのチルノとは様子が違う、全身から放出されている妖気の量はもはや愛らしい氷精のそれではない。

「んがぁーっ!!」
「ひっ!?」
「バカッ! だから言ったでしょう、ウドン……ぐぇっ!?」

チルノは身体に貼られた封印の札を溢れんばかりの妖力で無効化し、瞬時に拘束具を凍らせて粉々に砕いた。
そしてマスクを取り去り両手で永琳の首を絞める。全身から放出される冷気により地下室の気温は一瞬で氷点下を割った。

「あわわわ……」
「だから……っ!! 上手くいくと復讐されっ……!! んぐーっ!!」
「うわぁぁぁっ!? あたい自身が臭いっ!? 何してくれたのよえいりーん!!」

永琳は先ほどからチルノの細い腕にタップし続けている。確かに首を絞められたままでは説明のしようもない。
本来なら鈴仙の狂気の瞳で十分毒気を抜いてから実験するべきなのだが、永琳はチルノの実力を侮りそれを怠った。
チルノは緑色の液体の力によって『愛らしい氷精』から『臭い大妖怪』への変貌を遂げた。
その戦闘力と引き換えに臭くなってしまった自分を嘆き、涙ながら永琳に怒りをぶつけている。

「そっ、その臭いはしばらくすれば取れますから!!」

鈴仙は永琳を助けるために、自分より二回りも小さいであろうチルノを引き剥がそうと全力なのだが、
チルノはまるで大地に根を張っているかのごとく微動だにしない。逆にその肌から伝わる冷たさで身体に力が入らなくなっていく。

「はばばばば……さむむむっ、ややや、やめてくださいチルノさささ……」
「何飲ませたのよっ!?」
「で……『D』ですすすす……」
「ででぃーですすすす? 何よそれ?」
「とととと、とりあえず、師匠から手を離してくださささ……」

地下室の中はとてつもない寒さだった。壁に掛かっている室温計は既に最低値に到達しており、正確な気温は不明だ。
これでは温度の変化に弱い薬品は使い物にならなくなってしまっているかもしれない。

「ででぃーですすすすって何よ!? 説明してよ!!」

鈴仙の口から出た謎の言葉に気を取られて、チルノの力が一瞬緩んだのを永琳は見逃さなかった。
タップしていた手を滑り込ませてチルノの頭を鷲掴みにする。チルノの腕より随分長い永琳の腕は一瞬でその頭に届いた。

「なっ!?」
「おバカさんね!! 天才の脳の重さを思い知りなさい!! 重脳『オモイカネクラッシャー』!!」
「痛ぁぁぁっ!!」

何のことはないただの頭突きだったが、永琳も永遠亭の裏番長として名高い大物である。
一瞬の隙を見てチルノの腕を振り払ってから、その額に強烈な一撃を見舞い、チルノを葬り去った。
チルノは大の字に倒れ、その頭の上ではチカチカと可愛らしい星が踊っている。

「ふぅふぅ……久しぶりに使ったわ、このスペルカード」
「そそそ、それスペルカードなんですかかかか?」
「あぁ寒いし臭い……早く適当なイナバに命じて湖に戻してらっしゃい、もう……薬も台無しだわ」
「そそそ、それれれ……スペルカカカ……?」
「うるさいわね、一撃必殺は弾幕の華でしょう。ほら早く、私は薬の点検するから」
「……はい……」

襟を正しつつ即座に薬の点検に移行する永琳。鈴仙はチルノを背負って階段を登り始めた。
気絶しているというのにチルノの冷たさは尋常ではなく、急がなければ皮膚が張り付いてしまいそうだった。
後ろからは永琳の悲鳴が聞こえてくる、随分と被害が大きかったらしい。

鼻水は出る側から凍る始末、鈴仙は一刻も早くチルノを誰かに任せてニンジン入りの温かい味噌汁でも飲みたいと思った。
鈴仙は階段を登りつつ、目に見える白い溜息を吐き出した。

そして地下室に一人残された永琳は呟く。

「予想以上ね……十分な下準備をすればきっと素晴らしい効果を発揮するわ」

永琳の目的は不明だが、どうやら確かな手ごたえがあったらしい。なにも失ったものだけではないようだ。
凍り付いてはいるものの、ポンプの中の『D』がその性質を変化させることもなかった。

「霊夢……私があの時のトラウマを克服するには、貴女を倒すしかないわ……毒をもって毒を制す……
 いや、この場合ドクダミをもってドクダ巫女を制す、かしらね……うふふふ、あはははははっ!!」

『D』――それすなわちドクダミ。

かつて八雲紫が永遠亭を気まぐれに襲撃し、鈴仙の耳を狙うという事件があった。
防衛についていた何匹もの下っ端イナバがスキマに放り込まれ行方不明になった。
それらの復讐として、永琳は紫の大好きな霊夢に嫌がらせをすることで間接的に仕返ししようとした。
そして博麗神社にほぼ不死身のドクダミを大量発生させ、その臭いで霊夢を苦しめたことがあるのだ。

ところが怒り狂った霊夢はドクダミの不思議な力を身に付け、疑わしい者を片っ端から抹殺し始めた。
霊夢は幾人もの無関係者をドクダミによる拷問でひねり潰した後、永琳が犯人であることを知り、同様に拷問した。

かくして永琳にとってドクダミと霊夢はトラウマになってしまい、今では夜中に一人でトイレに行けないほどだ。
あの角を曲がったら霊夢がいるかもしれない、トイレの中に霊夢が立っているかもしれない。そんな恐怖が頭をよぎる。
夜寝てみれば、その夢は霊夢に馬乗りされて揉んだドクダミを乗せられたり、ドクダミエキスをかけられたり。

「この『D』は私が何度も品種改良を加え、その不思議な力を最大限に引き出したドクダミの青汁よ……
 これで最強のドクダミ妖怪を作り上げ、それをコントロールして霊夢を打ち倒してみせるわ!」

ご大層な名前がついているくせにただの青汁だったらしい。
そりゃ永琳にも効くわ。

ともあれ、ここに八意永琳の復讐が始まる。



――『D』は一体誰が作っているのか?

永遠亭の離れ……日当たりの悪いそこには、独立した一棟の建物があった。
そしてその建物には『八意秘密ドクダミプラント』と書いた看板が堂々と付けられていた。これでは秘密もクソも無い。
裏には永琳特製の広大なドクダミ畑が広がっている、その量はかつて博麗神社を覆い尽くしたドクダミの量の比ではなかった。
しかも秋も深まってきたというのに、その葉は青々と輝いている。

ドクダミプラントの中では、九人のウサギ耳少女達が呻き声を上げながら作業をしていた。

「うぅ……くさい……」
「これはたまらない……」
「黄泉比良坂が見える……」

そう、ドクダミ絞りは下っ端イナバ達の仕事だった。ドクダミをみじん切りにし、ガーゼで包んで思いっきり絞る。
『D』にしてもそうだが、これまたご大層な名前が付いている割には工場らしい設備は何も無かった。
そこそこの広さに長机がいくつか並んでいて、その上にまな板と包丁とガーゼ、そして青汁を入れる容器があるだけだ。
『八意ドクダミ青汁工場』あたりに改名するべきである。やはり『秘密』は余計だ。『プラント』というのも格好良すぎる。

たくさんのドクダミを使ってもそれほどの量が取れるわけではないのに、イナバ達はあの大きなタンクを一杯にしなければならない。
チルノがあまりにも青汁を飲みすぎたせいで、補充しなければならない量は相当なものだったのだ。

そんな可哀想なイナバ達を不満げな表情で見下ろすウサギ少女。

「あーくさい。さっさとしなさいよ、監視するこっちの身にもなってよね」

自分は見ているだけだというのに一番文句を言うのがこのてゐだ。
イナバ達にしてみれば、ただでさえ地獄のようなこの『D』精製作業が、てゐのせいで何倍も辛かった。

「ちょっと、誰か舌打ちしたでしょ?」
「してませんよ……」
「あたしじゃないです……」
「皆、作業を中断して目を閉じなさい!!」

イナバ達は心底嫌そうな顔をしつつも、しぶしぶとてゐに従う。従ってさえいればそこまでは鬱陶しくないからだ。
なのにイライラしているからといって、たまにこういう余計な言いがかりをつけてくる。
実際に誰かが舌打ちをしたのかどうかはわからない、ストレスのあまりにてゐが幻聴を聞いた恐れもある。
何故鈴仙を配属してくれなかったのか……イナバ達の誰もがそう思っていることだろう。

「さぁ誰が舌打ちをしたの? 怒らないから手を挙げなさい!!」

既に怒っているし、手を挙げようものならどんな罰が待っているかわからない。
尻尾を蹴られる程度ならまだ良い、今イナバ達の目の前には『刻んだドクダミ』という危険物がある。
てゐのことだ、これを見逃すはずはないだろう……何か嫌な方法で使用してくるに違いない。
舌打ちをしたのに嘘をついているのか、はたまた、本当に誰も舌打ちをしていないのか。
真偽は不明だが誰も手は挙げなかった。イナバ達は強く目を瞑り、恐怖のあまりぶるぶる震えている。
耳や尻尾が小刻みに震えるその様子は傍から見れば可愛らしいものだが、本人達にしてみれば必死だ。

「おかしいわね? 私のこの自慢の耳が舌打ちを聞き逃すはず無いのに……そうね、嘘ついてるんでしょ?」

もちのような耳をぴくぴくと動かすてゐを見て「嘘つくのはアンタの特技だろう」と全てのイナバ達が思った。
普通なら、嫌がらせをするためにてゐが適当に言いがかりをつけたと考える方が自然だ。てゐはそれほどに腹黒い。

「じゃあもういいよ、全員に罰を与えればいつか必ず当たりを引くもんね。だから全員に罰を与えるわ」
「そんな!?」
「酷い! 言いがかオエッ!!」

最初に突っかかっていって大きく口を開けたイナバ、しかしそれは自殺行為と言う他ない。
てゐは驚異的な速さで刻んだドクダミを掴み取ると、刹那のタイミングでその口の中にネジ込んだ。
そのイナバはそのまま倒れこんでドクダミを吐き出し、痙攣し始めた。

「ひとーつ」
「ひ、ひぃぃぃ!!」

それを見た一人のイナバが恐怖のあまりにドクダミ工場からの脱出を試みる。しかし当然てゐがそれを許すはずもない。

「狡兎三窟!! イナバともあろうものが、そんな無防備な逃走を謀るものじゃないわ!!」

てゐは自分でスカートをめくって中に手を突っ込み、一枚のスペルカードを取り出した。
ワンピースという服の構造上仕方ないのかもしれないが、それでもスペルカードを入れている場所に大きな問題がある。

「エンシェントデューパー!!」
「わ、わっ!?」

てゐの弾幕によりあえなく道を遮られたイナバは、そのまま首根っこを掴まれて引きずり戻される。
イナバは恐怖のあまり泣きながらじたばたともがくが、てゐは鈴仙と共にイナバ達のツートップ。
弾幕はもちろん腕力でも下っ端を上回っている。周囲のイナバ達は「次は自分か」と気が気ではない。
皆なんとかして難を逃れる術はないかと思案に暮れていた。

「そんなにくさいのが嫌なら、鼻栓をしてあげるわよ」
「や、やめっ!! やぁぁぁぁっ!!」

捕まえたイナバを乱暴に地面に転がした後、てゐは馬乗りになってその鼻の穴にドクダミを詰め込んだ。酷すぎる。
そのイナバも先ほどと同様にビクンビクンと痙攣しながら、呼吸困難に陥って悶絶した。

「かふっ! かふっ!!」
「ふたーつ」

てゐの目が妖しく輝く。その目は普段以上に真っ赤だった。よほどこの仕事に回されたのが不愉快らしい。
その真っ赤な目でイナバ達を見回して次の獲物を探している。さてイジメ甲斐がありそうな奴はこの中のどれか。

「どーれーにーしーよーうーかーな、あべべのべ」

てゐは楽しそうにターゲットを選んでいる。その表情はまさに悪者のそれであった。
一人一人を順に指差していくてゐの指……イナバ達は震え上がる。



「何をしているの? イナバ達」



「え……?」

あまり聞き慣れてないが、確かに記憶にあるその声……てゐのターゲット選びの指が止まる。
恐る恐る振り返ると、ドクダミ工場の扉を開け、そこには永遠亭の当主である輝夜が佇んでいた。

「ひ、姫!? こんなところに何を!?」
「何って……暇だから散歩をしていただけ。別に永遠亭の敷地の中なんだから良いじゃない」
「そ、それはそうですが……こんな臭いところに……」
「そう? そんなに臭いかしら? ちょっと嗅ぎ慣れない臭いではあるけど」

輝夜はもの珍しそうに、その小さな鼻を鳴らしながらドクダミ工場の内部を見回している。
刻んだドクダミをつまみ上げて鼻に近づけてみたり、いろいろと興味があるようだ。
何はともあれ、下っ端達にしてみればこれ以上無いぐらいの助け舟である。輝夜には永琳でさえ逆らえないのだから。
可愛いペットのイナバ達が喧嘩なんてしていたら、ゲンコツをして注意することだろう。

「ん? どうしてこのイナバは倒れているの?」
「あ、あの……貧血で……」
「こっちのイナバは? 鼻にこの草が詰まっているようだけど」
「突然発狂して……」
「そう、大変なのね」

輝夜はてゐのミエミエの嘘にあっさりと騙された。流石世間知らずの箱入り娘。
そんな輝夜は倒れているイナバ達の頭を撫でると、再び工場内の見物を始めた。
そして工場の中央にある机に乗った大きい容器……精製したDを一時的に溜めておく容器に目を付けた。
その容器の大きさは輝夜の頭より一回り大きい程度、中にはイナバ達が一生懸命作ったいくらかのDが溜まっている。
丁度九つあり、これを全て満たしたときにイナバ達は永琳の地下室のタンクに補充しに行くのだ。
今はまだ一つ目が三分の一溜まった程度……作業能率は芳しくなかった。

「この草の汁は何に使うの?」
「ああ、これはとても身体に良いんですよ、永琳様が使うらしくて」
「飲むものなの?」
「飲んだり、お風呂にも入れたりするんですよ、お肌に良いとか」

てゐは健康に気を使って生きてきただけあって、ドクダミにも詳しかった。
しかしこれだけの嫌がりようである、知識としては知っていても実際に使ったことは無いだろう。
輝夜は腕を組んで、てゐの話を真剣に聞きながらうんうんと頷いている。

どうにも先ほどから輝夜の挙動には不審なところがあった。
工場内を見回す中でチラチラとてゐの表情を窺ったり……溜め込んだDを見る目にも何かしらの企みが垣間見える。
その胸に抱いているのは並の興味ではない、そんな気配が嗅ぎ取れた。
てゐの頭に嫌な予感が渦巻く、輝夜がこのDに何かしようとしているのでは……。

その予感は的中した。

「永琳には秘密にしてね」
「ん? ……ちょっ!?」

輝夜は少しわざとらしさを含んだいたずらな笑みを浮かべると、その容器を両手で持ち上げて口に近づけた。
容器のふちに唇を当て、容器を大きく傾ける……Dが輝夜の口の中に注がれていく。

「姫っ!? あーっ!!」
「んぐんぐんぐ……はぁ、美味しくはないけど我慢できないこともないわ。ね、これで妹紅にも負けない」

それをあっという間に飲み干した輝夜を見て、てゐは震えていた。
あんなきつい液体を平気で一気飲みしたことも驚きだが、あれはイナバ達が頑張って作ったDである。
ノルマ達成のためには一滴でも惜しいのに、その作業の辛さを知らない輝夜はそれを全部飲み干してしまった。
また一からやり直し……てゐは目眩を覚えた。何人かのイナバが失神し、長机にぶつかってガタガタと音がした。
輝夜は助け舟などではなかった、てゐもろともにイナバ達を地獄に突き落としたのだ、極めて無邪気に。

「あら……イナバ達随分貧血が多いのね、イナバ達もこれを飲むと良いわ」
「嫌です」
「……ん? 何やらものすごく力が湧いてくる。すごいのね、あの草」

普通のドクダミ汁ならば本来そういうことはない、霊夢の場合は別だが。
永琳特製のドクダミから作ったDだからこそ、余計な加工を加えずに特殊な効果を発揮するのだ。
輝夜には適性があったらしく、飲んだDはそのまま大きな魔力へと変換された。
てゐを含めたイナバ達は目の前の輝夜から発せられる膨大な魔力と威圧感と臭いでむせかえりそうだった。
特に臭い。

「ひ、姫……お風呂に入った方が良いです……その臭いは姫の威厳に関わります。ケホケホッ!!」
「そう? それじゃもう少しあの汁を頂戴、お風呂に入れるから」
「ダメですって! 余計臭くなりますよ!」
「むーっ」

輝夜は眉をしかめ、頬を膨らませた。本来なら可愛らしいその仕草も、輝夜から発せられるドクダミ臭が全てを打ち消す。
蓬莱人のくせに健康に興味があるらしい、だがDはけして健康のためだけのエキスではない。
言うなれば永琳が対ドクダ巫女決戦用に開発した生物兵器である。現に今の輝夜なら妹紅を簡単にいなすだろう。
だがDの臭いは風呂に入った程度でとれるものではない。それはてゐや鈴仙、その他実験台になった多数のイナバ達が実証済みだった。
自分は嗅覚麻痺を起こしてわからないのだが相当に臭いらしく、まさしく村八分状態に陥る。

皆でご飯を食べているときにD犠牲者がやってくると、誰もがそそくさと席を立った。
皆でお風呂に入っているときD犠牲者がやってくると、誰もが風呂桶を投げつけてきた。

それはDと共に歩んできた者達が刻んだ、悲しい歴史。

『さっさと永琳この研究やめてほしい』全てのイナバがそう思っている。

「それじゃしょうがないからお風呂に入ってくる。頑張ってね、イナバ達」
「はーい……」

輝夜は愛らしいペット達に元気良く手を振ると、上機嫌な様子でドクダミ工場から出て行った。
いくら臭いとはいえ輝夜は大体部屋に一人でいるのでおそらくそれほど心配はいらないだろう。
それよりもイナバ達の現実問題として、頑張って作ったDが空になってしまったというこの状況がある。

「頑張ろうか……」
「はい……」

もうてゐには言いがかりをつける気力すらなかった。さっさとこのドクダミ工場から出たい。
その一心でイナバ達の心は一つになったのだった。輝夜はイナバ達の喧嘩を止めたのだ。結果論に過ぎないが。

……工場でドクダミに触り続けているイナバ達の妖気が膨らんでいた。
しかし誰もが必死で気付いていない。



「永琳様ーっ! できましたよーっ!」

てゐ達の苦労があって、なんとか要求されていたDの量は確保できた。
途中何名ものイナバが臭いにやられて力尽きていった。その状況はまさに地獄絵図と呼ぶに相応しかっただろう。
容器五つ分、てゐの後ろに五名のイナバがくっついてそれを運んでいる。

「あらご苦労様、臭っ!!」

地下室の戸を開けた永琳は開口一番に暴言を吐いた。長時間ドクダミに触り続けていたイナバ達は実際かなり臭かったが、
コキ使っておいてそれはないだろうと、てゐを初めとした四名のイナバは全員腹を立てて不機嫌な表情になる。

「それはいくらなんでも酷くありませんか永琳様」
「ごめんなさいね、つい……さぁ、中に入ってタンクに補充してもらえるかしら?」
「はいはい」

後ろの方でもイナバが「へえへえ」「チッ!」などと不満そうに返事をした。
だが中に招き入れられた瞬間あるものが目に入り、四人全員の表情が青ざめた。

「んーっ!! んんーっっ!!」

また鈴仙が手術台にくくりつけられてDを投与されていた。全身を拘束され、必死な表情で涙を流しながらもがいている。
同じ者に何度か実験を繰り返したらどうなるのか……永琳はそんな疑問を抱いた。
そこで永琳のことを師匠と慕う鈴仙は、永琳の申し出を断ることができずに……再び実験台になったらしい。
てゐは鈴仙を羨んだことを撤回した、まだドクダミ絞りの方がマシだと思う。

「どうしたの? ほらもう無くなりそうなのよ、ウドンゲが結構堪えてるから、早く補充して頂戴」
「は、はい……」
「んーっ!!」

てゐが再び可哀想な鈴仙に目をやると、二人の視線がぶつかった。鈴仙の目は助けを求めている。
それをなるべく見ないようにしてタンクの蓋を開けると、既にその容積の三分の一ほどしかDは残っていなかった。
これでは作ってきたDを入れたところで一杯にはならない、恐らく更に追加注文されるだろう。

「ほら見て、ウドンゲの魔力を……思った通りよこの子、ずっとDの臭いを嗅いでいたから耐性がついたのね。
 Dの許容値が前回よりも格段に上がっている。新しい発見だわ……素晴らしいと思わない?」
(鈴仙……ごめん……)

思わぬ収穫を得て不気味な微笑を浮かべる永琳……確かに鈴仙の魔力はとてつもなかった。
全身に貼られた札、全身に取り付けられた拘束具もじきに破壊できるようになるだろう。その封印の厳重さはチルノの時の比ではなかった。
てゐの表情が歪む、執念深い永琳も、それに従う鈴仙も並の精神力ではない。
自分にはついていけない、確かにドクダミ絞り辺りが適任であろうと納得した。

とにかく実験台には絶対なりたくなかった。

持ってきたDをタンクに注いだが、一杯にするにはやはりまだ量が足りなかった。
イナバ達は往生際悪く容器を乱暴に揺さぶって最後の一滴まで注いだが、もちろんタンクは満たされない。
全員が目を見合わせて肩を落とし、溜息をつく。

「足りないわね、もっと作ってきて頂戴」
「……永琳様、少し休ませてはもらえませんか? 皆もう限界なんです」

てゐが代表して永琳に交渉を持ちかける。限界というのは肉体的なことだけではない、精神的にもだ。
イナバ達は気を抜いたら卒倒してしまいそうな状態を、根性で引き伸ばし引き伸ばしDを作っていた。
下っ端は替えがきくからともかく、D補充責任者であるてゐは休むことができない。
てゐを責任者に任命したのは永琳である。それは下っ端の扱いにかけて、てゐに一目置いているからだ。
情け無い表情で哀願するてゐを見て永琳は腕を組んで少しの間考え込むと、振り返って鈴仙の方を見た。
含み笑いの浮かぶ意味ありげな表情、永琳は顎を持ち上げて鈴仙に指示を出す。

「ウドンゲ、やりなさい」
「んーっ」

何事か、とてゐが鈴仙の方を向いた瞬間鈴仙の瞳が真っ赤に輝く。
直後、脳を直接鷲掴みにされるような不快感がてゐの頭を蹂躙した。

「うわぁぁっ!!」

Dの力により普段の何倍も強力になった鈴仙の狂気の瞳。それを直視し、てゐは目を押さえてうずくまる。
鈴仙の口元が少し歪んだように見えた、まるで「お前だけ楽しようなんて許さない」とでも言いたげに。
普段はしなだれている鈴仙の耳が、歓喜の表情を湛えてぴょこぴょこ上下している。

「良いわねてゐ、これは永遠亭の為なのよ?」
「は……い……」
「そして下っ端のイナバ達の変更は許しません。全員、一人たりとも変更せずに固定メンバーでやりなさい」
「はい……永琳様」

下っ端イナバ達も絶望する、誰にも代わってもらえないようだ。永琳は何を考えているのか。
霊夢討伐のための作戦は確実に進行しつつある。その筋書きは全て永琳の頭の中……月の頭脳に秘められている。
正気を失ったてゐに引き連れられ、疲れきった顔のイナバ達は空の容器を手に地下室を後にした。

(そう、もっと作ってきなさい、最強のドクダミイナバを作る為には大量のDが要る……)

永琳は鈴仙の方を見やった。既に峠は越えたらしく、暴れずにその身にDの力を蓄え続けている。
鈴仙はDを飲み続ける、最強のドクダミ妖怪としてのレールを歩み続ける。霊夢を打ち倒すための切り札として。

「まずはお前を強くする……そして更にドクダミ妖怪を増やすために、新たないけにえを探しに行くわ」
「んーっ」
「やってくれるわね? 私の可愛いウドンゲ……」
「んーっ!」
「風見幽香、八雲紫、スカーレット姉妹……適性のある者がどれぐらいいるかしら?
 十分な力を蓄えたら……霊夢をまたドクダミ漬けにした上で倒す、それで復讐は完了よ」
「んー……」
「大丈夫よウドンゲ……きっとお前を超える者はいないから、お前が霊夢と戦うことになると思うの。
 紆余曲折あったけれど、最終的にお前はDに選ばれた……頼もしいわ」
「んーっ」

鈴仙は嬉しそうに目を細めて呻き声を上げている。
今まではドジばかりやって散々永琳に迷惑をかけたが、今は期待をかけられている。それが嬉しかった。
Dは美味しくもなんともないし、むしろ飲むのはかなり辛いけれど……これも師匠のため。
Dには力と共に臭い、そして自信を与えて性格を屈折させる作用があるらしい。
以前霊夢が一定のストレスを感じた後、無敵のドクダ巫女に変貌したときのように……鈴仙の身体はDを喜んで受け入れ始めた。

――鈴仙の瞳はその名の通り狂気に満ち、紅く燃えて。

直視してしまった者はひとたまりもないだろう。

「今タンクの中にあるDが無くなったら、早速新たないけにえを捕まえに行きましょう。ウドンゲ、誰が良いと思う?」
「んんんんんんー」
「八雲紫、ね?」

鈴仙は言葉を発することはできないが、その意思はしっかりと永琳に伝わっているようだ。
永琳の言葉を聞いて何度も頷いている、鈴仙は慕っている師匠と心が通じ合っているようで嬉しかった。
永琳も鈴仙も紫には恨みがある、そういう個人的な憎悪の対象でもあるのだろう。

八雲紫……スキマ妖怪、神隠しの主犯、境目に潜む妖怪……幻想郷最強の妖怪として彼女の名を挙げる者は多いだろう。
その気になれば幻想郷を簡単に潰せるという噂も耳にする。底の見えない不気味な大物。
かつて輝夜達が月の使者を拒むために満月を偽物にすりかえたとき、霊夢と共に永遠亭やってきて計画をご破算にされた。
永琳も本気で戦っていたわけじゃないにしろ、紫も本気を出しているようには思えなかった。
互いに実力を悟られぬよう、探り合いながらの戦いだった。

「彼女に適性があったとしたら……とてつもないことになりそうね」

楽しみに思うと同時に、永琳の心の底に恐怖がにじり寄るのを感じた。
もしも適性があったとしたら……Dの力を得て暴走した紫を抑え切れなくなる可能性は否定できない。

だが今はドクダミ妖怪として鈴仙が熟成中である。きっと大丈夫であろう。
それほどまでにDの力は強大だった。最強の駒は永琳の手の内にあるのだ。

「ん……」
「まぁ……なんてこと、もう飲みつくしてしまったの?」

それまで緑色に染まっていたD注入の管は、最後の一滴まで鈴仙が吸収し元の半透明になっていた。
ついさっきイナバ達が補充したにも関わらず、タンクの中も空っぽだった。
膨張に膨張を重ねた鈴仙の魔力は地下室はおろか、その周辺広域に渡って包み込むほどに強大なものになっている。
地下に篭っている永琳達は気付いていないが、地上に居るイナバ達は得体の知れない魔力を感じて落ち着きを失っていた。

鈴仙はこれからどうしたら良いのか訪ねるように、首を起こして永琳に視線を送る。

「その拘束具、もう意味は無いでしょう……壊して見せなさい」

永琳の言葉を受けて一つ頷くと、鈴仙はさも当然のように拘束具を粉砕し、マスクとお札を一つ一つ外していった。
そして自らの身体を抱き、うつろな表情でぶるぶると震え出した。
震えていると言っても寒いわけではないらしい、顔を紅潮させて口の端を歪めている。

「ししょ~……」
「どうしたの?」
「身体が疼くんです、身体の芯が熱い……元気が有り余ってます」
「八雲紫には勝てそうかしら?」
「はい、以前のヤツが本気でなかったにしても……全く問題無さそうです」
「そう、ならば行きましょう……ドクダ巫女は想像を絶するわ、駒は一つでも多い方が良い」

鈴仙は台から降り、永琳と目を合わせるとゆっくり頷いた。その表情には自信が満ち溢れている。
永琳はかつての霊夢を彷彿として背筋が凍りつく思いだった、恐ろしいまでに雰囲気が似ている。
不敵な表情、真っ赤な瞳、漂うドクダミの臭い……そのどれもがドクダ巫女に酷似していた。

『てゐへ――出かけてくるので勝手に入ってDを補充なさい、他の機材や薬品には一切触れないこと――永琳』

地下室の扉にそんな張り紙をしておいて、永琳は鈴仙と共に幻想郷の境にある八雲邸へ向かった。
永琳はずっと全力で飛んでいたが、後ろにいる鈴仙が永琳の様子を窺いつつ速度を調整しているのがわかった。
本気の永琳はかなりの速度で飛んでいたが、それすら今の鈴仙には遅すぎるらしい。

――この子ならきっと八雲紫に勝てる。いや、ドクダ巫女すら敵ではないかもしれない――

永琳は確信する。にやける顔を引き締めるのが大変だった。



……ところがその頃、八雲邸では大変なことが起こっていた。

家の前に紫と藍が倒れている。衣服はぼろぼろで随所が焼け焦げていた。
付近も酷い状態で、地面があちこちえぐれ、木々は炭化して地面に横たわっている。
まさに「ペンペン草一本残らない」という様子であった。

「ら……ん……」

紫が地面を這って己の式神へとにじり寄る。藍は返事をせず、意識を失ってぐったりと倒れたままだ。
最強の妖怪と称する者も多い八雲紫が何者かに敗北し、その式神と共に無様な姿を晒している。
普通ならまず見られない光景だった、八雲邸で一体何が起きたのか。

「う……臭い……」

妙な臭いを感じて紫が背後を見ると、紫のスキマに大量の生ゴミが放り込まれたらしかった。
スキマの端に、綺麗に食べられた魚の骨が引っかかっている。しかも結構に熟成したものらしく、特有の腐臭を放っていた。
紫はそれに気付いて青ざめ、わなわなと震えながら目に涙を浮かべた。

「ひ、酷いわぁ……」

相手の美学をピンポイントで衝く嫌がらせ……。
移動手段や覗き見手段として便利なスキマがこれでは、紫の楽しみが激減してしまう。
これではスキマを通るたびに生ゴミの臭いが身体に付くし、スキマを覗くたびに生ゴミの臭いが鼻腔を直撃するだろう。
今まで無類の強さを誇って様々な相手に嫌がらせをしてきた紫……ついに報復されたようだ。

「藍……起きて……」

ぼやけた視界でなんとか藍の位置を捉え、紫はその震える手を伸ばした。
尻尾の辺り……紫は藍のふわふわな尻尾が大好きだった、それを触れば元気が出るような気がした。
しかし紫が掴んだ藍の尻尾の感触が妙だ、何やらざらざらしている。
はて、これは本当に藍の尻尾なのだろうか……ところが視界がぼやけていて確信が持てない。

「な、なに……?」

苦しそうな表情を浮かべて無理矢理に身体を起こした紫は、目をこすって藍をよく見てみた。
全身が痛む中、徐々に視界が鮮明になっていく。倒れている藍の姿が確認できる。

「いやぁぁぁぁぁ!? 藍っ!? 藍のふわふわ尻尾が!!」

大好きなふわふわ尻尾……抱きついたりほお擦りしたり……枕にしたり……。
九本もあるから、どれを可愛がったものか頭を悩ませるのがまた楽しかった。嬉しい悩みだった。
その抜け毛をこっそり集めて付け腋毛を作って、霊夢の腋にくっつけるのも楽しみの一つだった。
紫が尻尾好きなことを知って藍は丁寧に手入れしていたので、いつも石鹸の香りが漂っていた、その尻尾が……。

「毛、毛が!! 藍のふわふわ尻尾の毛が剃られているの!!」

藍の尻尾は、一本残らず綺麗に毛を刈り取られて痩せ細っていた。
紫は裸の尻尾を一本一本手に取り、毛が無くなってしまったことを惜しむように頬擦りしながらすすり泣いた。
美学へのピンポイント攻撃は何も紫のみに行われたものではなく、その所有物とも言える藍にまで及んでいた。
ことごとく紫の楽しみを奪う嫌がらせ……犯人は……。



「魔理沙ぁぁぁぁ!! 覚えていなさい!! このままで済むと思わないで!!」



犯人は魔理沙らしい。
しかし魔理沙といえば今まで散々紫の手で痛い目に遭わされてきた人物だった。
なのに、何があってか紫に報復する力を得たらしい。

「くっ! うぅっ! 魔理沙め……魔理沙めぇーっ!!」

紫が悔しそうに握りこぶしで地面を殴る。魔理沙に一体何があったのだろうか……謎は深まるばかり。



そして泣きっ面に蜂とでも言うべきか……直後にD鈴仙と永琳が襲撃してくることを紫は知らなかった。



――続く――
ええと、ドクダミシリーズの完結編になります。
全5話で既に完結させてありますので、あまりお待たせはせずに小出しにしていきたいと思ってます。
大した経験も積んでいないのに、5作目のドクダミファンタジアで目眩がするような高評価をいただいてしまい、
それからは迷走する時期が続きました。

そんな中『永遠亭最終決戦』は作者的には満足のいかない内容になってしまい……
それでも高評価をいただいてしまって、ありがたく思うと同時に半端なものを読ませてしまったと思う
申し訳なさが、ずっと心に残る羽目になってしまいました。

そういうわけで時間をかけて丁寧に、出せる力を出し切って締めくくりたいな、と。
これから4話も続く大分長い作品ですが、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
VENI
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コメント



0.3750簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
来たー!
15.無評価思想の狼削除
今年の年越し蕎麦は紫蘇(しそ)の代わりにドクダミを入れようかな…
(点数は完結するまではお預けという事で)
16.無評価名前が無い程度の能力削除
人の頭に餃子の皮とか乗せてるからこういう目に遭うのね……巻き添え食った藍さまが一番気の毒……
18.80名前が無い程度の能力削除
チルノに絞められる師匠にちょっと萌えたのは秘密
29.70名前が無い程度の能力削除
とりあえず弄られキャラと身体が頑丈そうなのに適正が
あるのはよくわかった。
30.無評価名前が無い程度の能力削除
↓そ、その理論だと紅魔館に凄いのがいそうな気がs
32.無評価名前ガの兎削除
何故か脳裏に ドクダミ染め褌・漢使用 なんてものが浮かんだ。
34.80名前が無い程度の能力削除
この容赦の無さが肝ですね。 まさかの紫沈没で一切先の読めない展開が次への期待を高めてくれます。
35.70名前が無い程度の能力削除
これは…
正直、今までの作品は勢いのみな印象が強かったのですが。
今回はかなり洗練されたように感じましたね。
46.無評価ながれもの削除
今年、最後にして最大のSSが来た…。
49.90ぐい井戸・御簾田削除
脇役好きの俺としては、次なるDに選ばれし戦士が誰か楽しみでなりません。
52.100名前が無い程度の能力削除
>抜け毛をこっそり集めて付け腋毛
つまり霊夢に金の腋毛。ブハッ(鼻血
71.100時空や空間を翔る程度の能力削除
「やめろー! えいりーん!! ぶっとばすぞーっ!!」
吹いた!!
仮面ノリダーですね。
私は知ってます、観てましたので。
79.100名前が無い程度の能力削除
紫の藍の尻尾へのこだわりがwww