「ん?」
―満月の夜、草木も夜雀も眠る丑三つ時、
彼女は違和感を感じていた。
魑魅魍魎が騒がしいのはいつも通りなのだが、しかし。
「何かを追っている・・・・のか?」
珍しく、というか、見えないことは初めてだった。
妖怪共の集団の気配を感じるのは感じるのだが・・・
―彼女は困惑しながらも、そこへ向かうことにした。
纏う風はやさしく舞い、その出で立ち、凛とたなびき。
―妖怪共の移動が止まり、彼女はそこへと風を速める。
よくはわからないが、良くない事がある気はした。
そしてそれは的中してしまった。
彼らは一本の木に群がっていた。
木の幹は赤く染まっていた。
根元は白と赤が散らかっていた。
それは人だと気づいた。
「貴様ら~!!」
―普段は大人し目の彼女だが、もう頭が沸騰していた。
「あん?ハンパモンがなんだってんだっつんだ!」
「ヒャハ、いいところに来たなぁ。早速力を試せるってもんだよなぁ!」
「おうおう。見せつけて――」
―目が眩むほどの光束は、彼らの上の半身と森の木十数本を持っていった。
―血の上った頭では会話もまともに聞いてやれないようだった。
これも満月の所為か?
「ふう、ふう、ふう・・・・・ふん。」
力をを余分に使い過ぎた。
修行が足りない。
―それでも彼女は律儀に唱えた。
「万事生きとし生けるもの、土より出で、土に還せ。」
―彼らの下は土に溶け、そこに花々が咲いた。
「はあ・・・。」
ふと目をやった。人間に。
たまたま見えなかったために、護れなかった。
たまたま、・・・なのか?
私が見れない過去なんて・・・
この人間、何かあるのだろうか。
そういえばさっき奴らが何か言っていたような・・・
「すー」
「!?誰だっ!」
―彼女はばっと周囲を見渡す。
が、勘違いをするもの無理はなかった。
その場には彼女以外に居ないはずだった。
「すー。」
まさか。
ありえないが。
その方向へ首を向けた。
人間は少女であると判るほどに戻っていた。
「なんということだ・・・」
人間だと思っていたモノが・・・・
いや、においは人間のものに違いなかったが・・・どういうことだ?
―賢明な彼女はそんな詮索は後回しだと考えた。
「あ、あぁうあ、はっ」
「大丈夫か!?おい!」
「う・・・」
まずは安全な場所に移動しなければ。
―彼女は少女を抱えてサッと飛び立った。
今日はやけに風が乱れる・・・・
少女を寝床に寝かせ、自分の体から作った服を少女に着せた。
それにしても・・・
「なんでこんな娘があんな場所に?」
少女がもともと着ていたであろう服の生地から察するに、家柄は悪くないはずだ。
わざわざ家を出る必要があったのだろうか?
いや、そもそもあんな所に人間が来れる筈がない。
人間なら――
「う・・・んんん・・・・・・ん?」
少女は目を覚まし、こちらを見た。
直接聞いた方が早いだろう。
―彼女は少女に懐疑的だった。
少女の過去も、未だ見れないでいた。
人間にしては、何か底が見えなかった。
「・・・ひっ」
少女はこちらを見てひどく怯えた。
「あ・・・そうか。驚かせてしまったね。」
―彼女はいつもの人間に戻った。
彼女にしては迂闊だった。
「私の名前は『上白沢慧音』という。あなたのお名前は?」
―彼女、慧音はなるべく警戒されないように努めた。
もっとも、その点では既に後手に回ってしまったが。
「・・・・・・・・」
「腹が減っているだろう?何か持ってこようか?」
「・・・・・・・・」
参った・・・
「そうか・・・でもそんなに恐がらなくてもいいよ。ここには誰も来ない。安全だ。」
「・・・・・・・・」
自分がうっかりしていたが悪かったのだ。仕方ない。
それに、多分・・・このままじゃ駄目だ。もっと心を開かなくちゃ。
―慧音は満月に身を晒し、じっと目を瞑って雑念を払おうとした。
―少女は角の生えていた人(?)をずっと見ていた。
月の光を浴びたその人は、とても綺麗だった。
見たことのない、青くひらひらした衣、それにとっても変わった烏帽子を被っていた。
もしかすると、実は凄く偉いお方なんだろうか?
「あ・・・・」
―少女は声をかけようとして詰まってしまった。
無礼な真似をした後で、おめおめと呼べるものか。
そんな行儀がよぎった。
「あ、起きても大丈夫?無理しないでね。」
そういって笑いかけてくれた。
さっきはあんな無礼なことをしたのに・・・・
「・・・藤原です。」
「え?」
「藤原の女にてございます。」
「ああ、あの藤原家の娘か。」
―慧音はそういった多少の知識も持っていた。
藤原家といえば良家だったはずだ。
ますますここに居る訳がわからない。
「私がすぐにでも送ってやれるが・・・・・」
「駄目。」
「?」
「駄目!」
―慧音は少女の急変に驚いた。
「・・・何かあったのか?」
誠意を持って聞いてやること、これが私にできることだろう。
どんなことも受け止めてやろう。
一切のあらましを少女から聞いた。
信じられないことだらけだった。
特に――
「三ヶ月も・・・歩き通しだったというのか・・・?」
「・・・・」
―そうでなくても、慧音を困惑させるキーワードがたくさん出てきた。
影子、月の人、そして蓬莱の薬。
それでも少女は真剣であったし、それに慧音は決めていた。
少女の震えた手は大きな両手に包まれていた。
「・・・辛かったね。」
「・・・・・・・信じるの・・・?」
「うん。」
たとえ不老不死でも、こんなにもか細い人間の女の子。
さっきの出来事だって一度や二度ではないという。
こんなことがあっていいものか。
―慧音は心の底から少女を憐れんだ。
そして不意に涙し、少女をぎゅっと抱きしめた。
「もう大丈夫だから。大丈夫。私が護るから。」
「!・・・・・・・・・・・・うぅ」
―表情に乏しかった少女の顔が歪んだ。
理解してくれる人がいた。
護ってくれる人がいた。
大切にしてくれる人がいた。
私は、私は・・・・
「うわああああああああああぁぁあん!!」
―二人は互いに抱き合った。
もう言葉は要らなかった。
そうしているだけで、心が通じ合うようだった。
温かい。
「ごめんなさい、わがまま言って・・・」
「いいよ。一人じゃ寂しいもんね。」
食事の用意をしようとしたが、付いていくと聞かなかった。
全く、大人しい子だと思ったら・・・・
―慧音は嬉しそうだった。
こんなふうに人間と手をつないで歩くことがあるなんて思ってもいなかったから。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったね。」
「え・・・・・」
「なんていう・・・・・・・!?」
なにか嫌な予感がした。
とてつもなく嫌な感じ。
―キイ――
「あら、こんなところで会えるなんて奇遇ね。」
「え?」
「!」
満月を背に、その人間(?)は宙に浮いた牛車に乗っていた。
なんなんだコイツは?顔に・・・・血か?
「姫様、お顔をお拭きになってくださいと言ったでしょうに。」
「蓬莱山・・・・!」
「あらあら・・・そんな獣とおそろいの服なんか着て。でもお似合いよ。らしいじゃない。」
ああ、そうか。コイツが月の人間か。
それにしても・・・・
「やっぱり不老不死になってもみすぼらしいものよね。そう思わない?永琳。」
「そうですね、姫様。」
「くっ・・・」
コイツは、
「折角会えたんだし、ここで1つ・・・・殺しちゃってもいいよね?永琳。」
「どうせ死にませんし、問題ないですよ、姫様。」
腹が立つ!!
「勝手なことを言って!この人間には指1本触れさせはしない!!」
「あ・・・」
―慧音は変化した。
本当に怒っていた。
「あら、妖怪風情がよく吼えるわ。いいわ。あなたも相手してあげる。」
「今夜は満月、私に敵うものか!」
―言うが早いか、慧音は右手に剣を呼び、浮いている人間へ向かった。
「ただし、永琳がね。ヨロシクね♪」
「かしこまりました、姫様。」
「格下がでしゃばるな!」
―永琳はぼそぼそと何かをしゃべった。
と同時に薬丸らしきものを顔目掛けて投げつけた。
「無駄!」
―軽く紙一重で交わし、慧音が右手を振り下ろす。
「あらそう?その割には・・・」
「な!?」
―永琳はさっと避け、足を引っ掛けた。
慧音が転ぶ先にはくぼんだ空気が口を開けていた。
「あなたはそこで全部見ていなさい。」
「くっ。この・・・」
またやってしまった。
自分の軽率さにこれほど後悔したことはなかった。
―永琳は式で蓋をし、さてとと後ろを振り返った。
「次はあなたよ?姫様に可愛がってもらいなさい。」
「何?もう終わったの。さすが永琳、仕事が早いのね。」
姫君は空飛ぶ牛車から身を降ろした。
「でもどっちかといえば・・・あなたが弱すぎね。」
私は姫君の顔の血糊をそっと拭いた。
姫は「ありがと♪」と礼を言った。
―はた目に見れば慧音は地面に這いつくばっていた。
というか、転がっているようだった。
「ぐう・・・!」
「はは、まるで犬ね。でももう構ってあげない。お預けよ。」
姫君はもう一人の方に視線を向けた。
「さて、どうしようかな~?」
「ひっ・・・」
―憎かった相手。
殺してやりたいと思った相手。
元凶。
なのに・・・・
「あら、怯えちゃって。・・・いいわ、こうしましょう。」
―少女にこの圧倒的存在は重すぎた。
そこにいるだけで、潰されてしまいそうだった。
「折角だし、長く楽しめるのが良さそうね。」
―右手の手のひらを少女にかざしてこういった。
「その性根、いっぺん死んで直しな。」
「あああ・・・・!」
―瞬間、少女の周りに、そして少女自身に、炎が注がれた。
「いやああああああああああああああ!!!!!!」
「やめろ!!やめろーーー!」
「ははははは!ほら、どうした!反撃しなよ!!さもないと・・・・」
姫君の手のひらから炎の矢が現れ、
そして、
「ぐぅ!??ああああ゛あ゛あ゛?あ゛、あ゛、あ゛・・・・・」
少女の体を貫き、内からも身を焼いた。
「どうしたんだよ!?早く来いと言ってるじゃないか!!来いよ!!!」
「・・・・・姫様。」
「何!?今いいところなんだから邪魔しないで!!」
「申し訳ありません。」
そうか、失敗していたのか。
名も無き少女、哀れなものよ。
「あ、、、あ、ぁ・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
気持ち悪い焼けるにおい、それももう感じない。
鼻も焼け落ちてしまった。
聴こえるのは炎の音だけ。
口も閉じられない。
扉を失った目は落ちてしまった。
もう声も出ない。
何も感じない。
何も感じないはずなのに、
私が無くなっていく感覚が良く解った。
どうか、
どうか、
早く無くして下さい。
早く失くして下さい。
早く亡くして下さい。
お願いだから。
刹那。
失ったはずの目に何かが映った。
遠くから来る何か。
羽ばたいてくる何か。
刹那。
「うう・・・うう・・・」
「・・・つまらない。もう帰る。」
―慧音は既に開放されていたが、ただただ耳を塞いで震えているだけだった。
「行きましょ、永琳。次に会ったときはまた教えてやらなくちゃ。」
「そうですね。」
―牛車に乗り込もうとする輝夜。
その背後にはもう灰しか残っていなかった。
―一陣の風が吹く。
灰は風に吹かれて赤くなった。
「!?姫様!」
「え?」
―灰を中心に熱波が広がった。
徐々に灰は赤みを増した。
「ああ・・・」
―慧音はもう思考が停止していた。ただそれを見ているだけだった。
―二回目の熱波で灰は全部吹き飛び、代わりに炎の塊が現れた。
炎は二対の翼に分かれ、中の少女は膝を抱えていた。
「ふふふ、お誕生日おめでとう♪」
―少女は胎児のように透けていた。
少女の、
いや、彼女の心臓と腹部が光っているのが見えた。
「・・・・・」
―体つきは既に第二次成長期位のものだった。
髪は黒ではなく、細く綺麗な銀色だった。
―やがて体は不透明になり、
ようやくゆりかごから舞い降りてきた。
「・・・・・・・・・・・唵。」
衣を炎から編み出し、身に纏った。
「慧音。」
微笑んだ。
「もう泣かせないから。もう、大丈夫だから。」
「ごめんね・・・護れなくって・・・・情けなくって・・・・・・・」
「あなた、食べたわね?」
「ええ、お陰様でおなかいっぱい。」
「そう、じゃあ代価を支払ってもらおうかしら?」
「あんたを殺して踏み倒してやる!」
「上等!望むところよ!!」
私には力がある。
もう傷つかない。
傷つけさせない。
「あまり理解できていないようね。」
「・・・・・・」
―永琳は一方的にしゃべりだした。
「彼女に羽が生えているとでも思っているんでしょ?」
「あれはね、不死鳥のものよ。」
「不死鳥の力を手に入れて、しかも頭を腹に入れている。」
―慧音は頭がうまく回っていなかった。
永琳の言葉をよく理解できていない。
「不死鳥には膨大な魔力と共に再生能力が備わっているわ。
今もその力を発揮している。
でもね、その力を全て彼女が吸収しているとすれば?
腹の中の頭を戻そうとしているその力を自分のものにすれば?」
「あ・・・」
「力に絶対値の制限はあるでしょうが、持久力に関してはほぼ無限でしょうね。」
―永琳はほくそ笑んでいた。
―罵声と怒涛が森に広がる。
―慧音は戦意を起こせずにいた。
自分でも不思議だったが、二人の戦いに見惚れていた。
「おい。」
「なあに?」
「お前ら、誰を殺した?」
「何の話かしら?」
「顔どころか牛車にもたくさん血が付いていたぞ。」
「ああ、そのこと。」
「まさか・・・」
「あなたの考えははずれよ。単なる同胞殺しよ。」
「当たったじゃないか。」
「殺しの部分だけでしょ。そんなの大したことじゃないわ。」
「何故殺す必要があった?」
「そんなこと・・・畜生に教えてやるほどお人好しじゃないわ。」
―時折周囲は昼間のように明るく輝いた。
「ねぇ?」
「なんだ?」
「なんで妖怪共は彼女を食べようとしたか解る?」
「・・・・・・・不老不死の肉を食べると強くなる?」
「そうね。でも妖怪共は何故彼女が不老不死だってわかったのかしらね?」
「・・・・・・・・・・・・・まさか」
「そっ。私達がね、広めたの。早く死ぬように、ね。」
―慧音は従者の首を掴んだ。
永琳は抵抗しなかった。
「あの子が・・・・どんな思いだったか・・・・・解っているのか!!月の人間んん!!」
「・・・・くす」
「なにが可笑しい!?」
「わかっていないのはあなたの方でなくて?」
―爆音と熱波と笑い声が広がった。
あれから一週間。
彼女と輝夜はまだ戦っていた。
待ちぼうけを食らっている私と従者――永琳はもずっとそこで待っていた。
敵同士なのに互いに何もやることはなかった。
きっかけはどうあれ、
不老不死の人間は一度身が滅べば強大な力が身に付くそうだ。
しかしあの子の場合、それこそ消滅するくらいでなければ力が得られなかったということになる。
輝夜はそれを解っていてやっていたのだという。
理解できなかった。
何故わざわざ敵を作る必要がある?
あの子に辛い思いをさせてまで!?
「ねぇ、あなた!名前、ないんでしょ!?本当に不憫よね!」
「お前に哀れんでもらう義理はないよ!
お前はなんだってそう見下す!?
姫様呼ばわりされていい気になっているだけのくせにっ!」
「あははは!本当にあなたはからかいがいがあるのね!
あなたとはずっと付き合っていけそうだわ!!
そうだ、あなたに名前をあげるわ!
あなたは今から『妹紅』よ!」
「お前なんかに名付けられたくなんかないよ!
お前が名付け親だと思うだけで胸くそ悪くなるっ!」
「ありがたく貰っておきなさい、よっ!!」
「そろそろ・・・か。」
永琳は言った。
まるで全て見通しているようだ。
悔しい。
程なくして、空の二人は私達の目の前に落ちてきた。
「いった~~い!」
「いたたた・・・」
「姫様、今回はこれまでにしましょう。」
「そ、そうね。」
「・・・・まて・・・」
「でも覚えておきなさい、またいつか殺しに来てやるんだから!」
「く・・・」
「またね、妹紅♪」
「~畜生!!」
「また来るのか・・・・・参ったな。」
「・・・・・・」
「ところで妹紅って?」
「・・・私の名前だそうよ。
全く、勝手に私を名付けて!何様のつもりよ!!
折角どんな名前がいいか考えていたのに!
一方的にも程があるわ!!ああ憎たらしい!!」
名前を持っていなかったのか・・・・
しかし『紅い妹』とは。
輝夜め、あれで姉妹のつもりか。
「でも、いい名前じゃない?」
「あなたまで何言っているの!?」
「だってさ、」
―慧音は妹紅をぎゅっとした。
「私の可愛い妹だもの♪」
「~~~~~い、いきなり何言って・・・・」
「駄目?」
「べ、べつにいいけど・・・」
―妹紅は耳まで赤くなったが、
でも、
悪い気はしなかった。
(家族。)
(家族、かぁ。)
「うれしそうですね。」
「ふふふ、わかる?」
「ええ。にやけてますよ?」
「あのね、妹ができたの♪」
「い、妹ですか。」
名は体を表す、ということでいいのだろうか。
「そうよ。だって同じ穴の狢だもん。」
・・・・当たらずとも遠からず、か。
そういえば、あのときに妹紅は「生まれた」んだな・・・。
だから歴史が見えなかったんだ。
―人から出ずることなく生を受けた人間、すなわち老いもせず、死にもせず。
生命の輪廻から外れてしまった永遠の存在。
一度死なねば真の不老不死になりえない・・・皮肉なものだ。
「何書いてるの?」
「ん?ああ、何でもない。ただの日記だ。」
「そう。それにしても今日の満月はまた異常ね。
いや、戻ったって言った方が正しいか。」
「そうだな・・・」
あの頃と同じ月。
今までそんなに気にはしていなかったが、
月をどうこうするなんて、あの従者以外にできる筈がないと思った。
何があったか知らないが、そんな大それたことなんかしなくても良さそうなものだが。
「・・・・」
妹紅も何か考えるところがあるようだった。
「来た。
強い力が2つ。こっちに向かってきている。」
「何!?もしや妹紅を狙ってきたのか!ちょっと行って追い返してやる!!」
「あ、ちょっと・・・・過保護だなぁ、全く。
・・・・・それに、なにかあった方が退屈しなくていいんだけどな。」
―妹紅は少し期待をしていた。
そいつらは慧音を打ち破ってくるのか。
そいつらは・・・・・
「あー忌々しい。」
―妹紅は期待した。
そいつらが慧音にやっつけられることに。
そいつらがもう一人の姉と無関係であることに。
今宵は満月。
草木も夜雀も眠る丑三つ時。
そして・・・・
「誕生日プレゼントにしては無骨よね。」
似たもの姉妹の妹君は結構ひねくれていた。
―満月の夜、草木も夜雀も眠る丑三つ時、
彼女は違和感を感じていた。
魑魅魍魎が騒がしいのはいつも通りなのだが、しかし。
「何かを追っている・・・・のか?」
珍しく、というか、見えないことは初めてだった。
妖怪共の集団の気配を感じるのは感じるのだが・・・
―彼女は困惑しながらも、そこへ向かうことにした。
纏う風はやさしく舞い、その出で立ち、凛とたなびき。
―妖怪共の移動が止まり、彼女はそこへと風を速める。
よくはわからないが、良くない事がある気はした。
そしてそれは的中してしまった。
彼らは一本の木に群がっていた。
木の幹は赤く染まっていた。
根元は白と赤が散らかっていた。
それは人だと気づいた。
「貴様ら~!!」
―普段は大人し目の彼女だが、もう頭が沸騰していた。
「あん?ハンパモンがなんだってんだっつんだ!」
「ヒャハ、いいところに来たなぁ。早速力を試せるってもんだよなぁ!」
「おうおう。見せつけて――」
―目が眩むほどの光束は、彼らの上の半身と森の木十数本を持っていった。
―血の上った頭では会話もまともに聞いてやれないようだった。
これも満月の所為か?
「ふう、ふう、ふう・・・・・ふん。」
力をを余分に使い過ぎた。
修行が足りない。
―それでも彼女は律儀に唱えた。
「万事生きとし生けるもの、土より出で、土に還せ。」
―彼らの下は土に溶け、そこに花々が咲いた。
「はあ・・・。」
ふと目をやった。人間に。
たまたま見えなかったために、護れなかった。
たまたま、・・・なのか?
私が見れない過去なんて・・・
この人間、何かあるのだろうか。
そういえばさっき奴らが何か言っていたような・・・
「すー」
「!?誰だっ!」
―彼女はばっと周囲を見渡す。
が、勘違いをするもの無理はなかった。
その場には彼女以外に居ないはずだった。
「すー。」
まさか。
ありえないが。
その方向へ首を向けた。
人間は少女であると判るほどに戻っていた。
「なんということだ・・・」
人間だと思っていたモノが・・・・
いや、においは人間のものに違いなかったが・・・どういうことだ?
―賢明な彼女はそんな詮索は後回しだと考えた。
「あ、あぁうあ、はっ」
「大丈夫か!?おい!」
「う・・・」
まずは安全な場所に移動しなければ。
―彼女は少女を抱えてサッと飛び立った。
今日はやけに風が乱れる・・・・
少女を寝床に寝かせ、自分の体から作った服を少女に着せた。
それにしても・・・
「なんでこんな娘があんな場所に?」
少女がもともと着ていたであろう服の生地から察するに、家柄は悪くないはずだ。
わざわざ家を出る必要があったのだろうか?
いや、そもそもあんな所に人間が来れる筈がない。
人間なら――
「う・・・んんん・・・・・・ん?」
少女は目を覚まし、こちらを見た。
直接聞いた方が早いだろう。
―彼女は少女に懐疑的だった。
少女の過去も、未だ見れないでいた。
人間にしては、何か底が見えなかった。
「・・・ひっ」
少女はこちらを見てひどく怯えた。
「あ・・・そうか。驚かせてしまったね。」
―彼女はいつもの人間に戻った。
彼女にしては迂闊だった。
「私の名前は『上白沢慧音』という。あなたのお名前は?」
―彼女、慧音はなるべく警戒されないように努めた。
もっとも、その点では既に後手に回ってしまったが。
「・・・・・・・・」
「腹が減っているだろう?何か持ってこようか?」
「・・・・・・・・」
参った・・・
「そうか・・・でもそんなに恐がらなくてもいいよ。ここには誰も来ない。安全だ。」
「・・・・・・・・」
自分がうっかりしていたが悪かったのだ。仕方ない。
それに、多分・・・このままじゃ駄目だ。もっと心を開かなくちゃ。
―慧音は満月に身を晒し、じっと目を瞑って雑念を払おうとした。
―少女は角の生えていた人(?)をずっと見ていた。
月の光を浴びたその人は、とても綺麗だった。
見たことのない、青くひらひらした衣、それにとっても変わった烏帽子を被っていた。
もしかすると、実は凄く偉いお方なんだろうか?
「あ・・・・」
―少女は声をかけようとして詰まってしまった。
無礼な真似をした後で、おめおめと呼べるものか。
そんな行儀がよぎった。
「あ、起きても大丈夫?無理しないでね。」
そういって笑いかけてくれた。
さっきはあんな無礼なことをしたのに・・・・
「・・・藤原です。」
「え?」
「藤原の女にてございます。」
「ああ、あの藤原家の娘か。」
―慧音はそういった多少の知識も持っていた。
藤原家といえば良家だったはずだ。
ますますここに居る訳がわからない。
「私がすぐにでも送ってやれるが・・・・・」
「駄目。」
「?」
「駄目!」
―慧音は少女の急変に驚いた。
「・・・何かあったのか?」
誠意を持って聞いてやること、これが私にできることだろう。
どんなことも受け止めてやろう。
一切のあらましを少女から聞いた。
信じられないことだらけだった。
特に――
「三ヶ月も・・・歩き通しだったというのか・・・?」
「・・・・」
―そうでなくても、慧音を困惑させるキーワードがたくさん出てきた。
影子、月の人、そして蓬莱の薬。
それでも少女は真剣であったし、それに慧音は決めていた。
少女の震えた手は大きな両手に包まれていた。
「・・・辛かったね。」
「・・・・・・・信じるの・・・?」
「うん。」
たとえ不老不死でも、こんなにもか細い人間の女の子。
さっきの出来事だって一度や二度ではないという。
こんなことがあっていいものか。
―慧音は心の底から少女を憐れんだ。
そして不意に涙し、少女をぎゅっと抱きしめた。
「もう大丈夫だから。大丈夫。私が護るから。」
「!・・・・・・・・・・・・うぅ」
―表情に乏しかった少女の顔が歪んだ。
理解してくれる人がいた。
護ってくれる人がいた。
大切にしてくれる人がいた。
私は、私は・・・・
「うわああああああああああぁぁあん!!」
―二人は互いに抱き合った。
もう言葉は要らなかった。
そうしているだけで、心が通じ合うようだった。
温かい。
「ごめんなさい、わがまま言って・・・」
「いいよ。一人じゃ寂しいもんね。」
食事の用意をしようとしたが、付いていくと聞かなかった。
全く、大人しい子だと思ったら・・・・
―慧音は嬉しそうだった。
こんなふうに人間と手をつないで歩くことがあるなんて思ってもいなかったから。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかったね。」
「え・・・・・」
「なんていう・・・・・・・!?」
なにか嫌な予感がした。
とてつもなく嫌な感じ。
―キイ――
「あら、こんなところで会えるなんて奇遇ね。」
「え?」
「!」
満月を背に、その人間(?)は宙に浮いた牛車に乗っていた。
なんなんだコイツは?顔に・・・・血か?
「姫様、お顔をお拭きになってくださいと言ったでしょうに。」
「蓬莱山・・・・!」
「あらあら・・・そんな獣とおそろいの服なんか着て。でもお似合いよ。らしいじゃない。」
ああ、そうか。コイツが月の人間か。
それにしても・・・・
「やっぱり不老不死になってもみすぼらしいものよね。そう思わない?永琳。」
「そうですね、姫様。」
「くっ・・・」
コイツは、
「折角会えたんだし、ここで1つ・・・・殺しちゃってもいいよね?永琳。」
「どうせ死にませんし、問題ないですよ、姫様。」
腹が立つ!!
「勝手なことを言って!この人間には指1本触れさせはしない!!」
「あ・・・」
―慧音は変化した。
本当に怒っていた。
「あら、妖怪風情がよく吼えるわ。いいわ。あなたも相手してあげる。」
「今夜は満月、私に敵うものか!」
―言うが早いか、慧音は右手に剣を呼び、浮いている人間へ向かった。
「ただし、永琳がね。ヨロシクね♪」
「かしこまりました、姫様。」
「格下がでしゃばるな!」
―永琳はぼそぼそと何かをしゃべった。
と同時に薬丸らしきものを顔目掛けて投げつけた。
「無駄!」
―軽く紙一重で交わし、慧音が右手を振り下ろす。
「あらそう?その割には・・・」
「な!?」
―永琳はさっと避け、足を引っ掛けた。
慧音が転ぶ先にはくぼんだ空気が口を開けていた。
「あなたはそこで全部見ていなさい。」
「くっ。この・・・」
またやってしまった。
自分の軽率さにこれほど後悔したことはなかった。
―永琳は式で蓋をし、さてとと後ろを振り返った。
「次はあなたよ?姫様に可愛がってもらいなさい。」
「何?もう終わったの。さすが永琳、仕事が早いのね。」
姫君は空飛ぶ牛車から身を降ろした。
「でもどっちかといえば・・・あなたが弱すぎね。」
私は姫君の顔の血糊をそっと拭いた。
姫は「ありがと♪」と礼を言った。
―はた目に見れば慧音は地面に這いつくばっていた。
というか、転がっているようだった。
「ぐう・・・!」
「はは、まるで犬ね。でももう構ってあげない。お預けよ。」
姫君はもう一人の方に視線を向けた。
「さて、どうしようかな~?」
「ひっ・・・」
―憎かった相手。
殺してやりたいと思った相手。
元凶。
なのに・・・・
「あら、怯えちゃって。・・・いいわ、こうしましょう。」
―少女にこの圧倒的存在は重すぎた。
そこにいるだけで、潰されてしまいそうだった。
「折角だし、長く楽しめるのが良さそうね。」
―右手の手のひらを少女にかざしてこういった。
「その性根、いっぺん死んで直しな。」
「あああ・・・・!」
―瞬間、少女の周りに、そして少女自身に、炎が注がれた。
「いやああああああああああああああ!!!!!!」
「やめろ!!やめろーーー!」
「ははははは!ほら、どうした!反撃しなよ!!さもないと・・・・」
姫君の手のひらから炎の矢が現れ、
そして、
「ぐぅ!??ああああ゛あ゛あ゛?あ゛、あ゛、あ゛・・・・・」
少女の体を貫き、内からも身を焼いた。
「どうしたんだよ!?早く来いと言ってるじゃないか!!来いよ!!!」
「・・・・・姫様。」
「何!?今いいところなんだから邪魔しないで!!」
「申し訳ありません。」
そうか、失敗していたのか。
名も無き少女、哀れなものよ。
「あ、、、あ、ぁ・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
気持ち悪い焼けるにおい、それももう感じない。
鼻も焼け落ちてしまった。
聴こえるのは炎の音だけ。
口も閉じられない。
扉を失った目は落ちてしまった。
もう声も出ない。
何も感じない。
何も感じないはずなのに、
私が無くなっていく感覚が良く解った。
どうか、
どうか、
早く無くして下さい。
早く失くして下さい。
早く亡くして下さい。
お願いだから。
刹那。
失ったはずの目に何かが映った。
遠くから来る何か。
羽ばたいてくる何か。
刹那。
「うう・・・うう・・・」
「・・・つまらない。もう帰る。」
―慧音は既に開放されていたが、ただただ耳を塞いで震えているだけだった。
「行きましょ、永琳。次に会ったときはまた教えてやらなくちゃ。」
「そうですね。」
―牛車に乗り込もうとする輝夜。
その背後にはもう灰しか残っていなかった。
―一陣の風が吹く。
灰は風に吹かれて赤くなった。
「!?姫様!」
「え?」
―灰を中心に熱波が広がった。
徐々に灰は赤みを増した。
「ああ・・・」
―慧音はもう思考が停止していた。ただそれを見ているだけだった。
―二回目の熱波で灰は全部吹き飛び、代わりに炎の塊が現れた。
炎は二対の翼に分かれ、中の少女は膝を抱えていた。
「ふふふ、お誕生日おめでとう♪」
―少女は胎児のように透けていた。
少女の、
いや、彼女の心臓と腹部が光っているのが見えた。
「・・・・・」
―体つきは既に第二次成長期位のものだった。
髪は黒ではなく、細く綺麗な銀色だった。
―やがて体は不透明になり、
ようやくゆりかごから舞い降りてきた。
「・・・・・・・・・・・唵。」
衣を炎から編み出し、身に纏った。
「慧音。」
微笑んだ。
「もう泣かせないから。もう、大丈夫だから。」
「ごめんね・・・護れなくって・・・・情けなくって・・・・・・・」
「あなた、食べたわね?」
「ええ、お陰様でおなかいっぱい。」
「そう、じゃあ代価を支払ってもらおうかしら?」
「あんたを殺して踏み倒してやる!」
「上等!望むところよ!!」
私には力がある。
もう傷つかない。
傷つけさせない。
「あまり理解できていないようね。」
「・・・・・・」
―永琳は一方的にしゃべりだした。
「彼女に羽が生えているとでも思っているんでしょ?」
「あれはね、不死鳥のものよ。」
「不死鳥の力を手に入れて、しかも頭を腹に入れている。」
―慧音は頭がうまく回っていなかった。
永琳の言葉をよく理解できていない。
「不死鳥には膨大な魔力と共に再生能力が備わっているわ。
今もその力を発揮している。
でもね、その力を全て彼女が吸収しているとすれば?
腹の中の頭を戻そうとしているその力を自分のものにすれば?」
「あ・・・」
「力に絶対値の制限はあるでしょうが、持久力に関してはほぼ無限でしょうね。」
―永琳はほくそ笑んでいた。
―罵声と怒涛が森に広がる。
―慧音は戦意を起こせずにいた。
自分でも不思議だったが、二人の戦いに見惚れていた。
「おい。」
「なあに?」
「お前ら、誰を殺した?」
「何の話かしら?」
「顔どころか牛車にもたくさん血が付いていたぞ。」
「ああ、そのこと。」
「まさか・・・」
「あなたの考えははずれよ。単なる同胞殺しよ。」
「当たったじゃないか。」
「殺しの部分だけでしょ。そんなの大したことじゃないわ。」
「何故殺す必要があった?」
「そんなこと・・・畜生に教えてやるほどお人好しじゃないわ。」
―時折周囲は昼間のように明るく輝いた。
「ねぇ?」
「なんだ?」
「なんで妖怪共は彼女を食べようとしたか解る?」
「・・・・・・・不老不死の肉を食べると強くなる?」
「そうね。でも妖怪共は何故彼女が不老不死だってわかったのかしらね?」
「・・・・・・・・・・・・・まさか」
「そっ。私達がね、広めたの。早く死ぬように、ね。」
―慧音は従者の首を掴んだ。
永琳は抵抗しなかった。
「あの子が・・・・どんな思いだったか・・・・・解っているのか!!月の人間んん!!」
「・・・・くす」
「なにが可笑しい!?」
「わかっていないのはあなたの方でなくて?」
―爆音と熱波と笑い声が広がった。
あれから一週間。
彼女と輝夜はまだ戦っていた。
待ちぼうけを食らっている私と従者――永琳はもずっとそこで待っていた。
敵同士なのに互いに何もやることはなかった。
きっかけはどうあれ、
不老不死の人間は一度身が滅べば強大な力が身に付くそうだ。
しかしあの子の場合、それこそ消滅するくらいでなければ力が得られなかったということになる。
輝夜はそれを解っていてやっていたのだという。
理解できなかった。
何故わざわざ敵を作る必要がある?
あの子に辛い思いをさせてまで!?
「ねぇ、あなた!名前、ないんでしょ!?本当に不憫よね!」
「お前に哀れんでもらう義理はないよ!
お前はなんだってそう見下す!?
姫様呼ばわりされていい気になっているだけのくせにっ!」
「あははは!本当にあなたはからかいがいがあるのね!
あなたとはずっと付き合っていけそうだわ!!
そうだ、あなたに名前をあげるわ!
あなたは今から『妹紅』よ!」
「お前なんかに名付けられたくなんかないよ!
お前が名付け親だと思うだけで胸くそ悪くなるっ!」
「ありがたく貰っておきなさい、よっ!!」
「そろそろ・・・か。」
永琳は言った。
まるで全て見通しているようだ。
悔しい。
程なくして、空の二人は私達の目の前に落ちてきた。
「いった~~い!」
「いたたた・・・」
「姫様、今回はこれまでにしましょう。」
「そ、そうね。」
「・・・・まて・・・」
「でも覚えておきなさい、またいつか殺しに来てやるんだから!」
「く・・・」
「またね、妹紅♪」
「~畜生!!」
「また来るのか・・・・・参ったな。」
「・・・・・・」
「ところで妹紅って?」
「・・・私の名前だそうよ。
全く、勝手に私を名付けて!何様のつもりよ!!
折角どんな名前がいいか考えていたのに!
一方的にも程があるわ!!ああ憎たらしい!!」
名前を持っていなかったのか・・・・
しかし『紅い妹』とは。
輝夜め、あれで姉妹のつもりか。
「でも、いい名前じゃない?」
「あなたまで何言っているの!?」
「だってさ、」
―慧音は妹紅をぎゅっとした。
「私の可愛い妹だもの♪」
「~~~~~い、いきなり何言って・・・・」
「駄目?」
「べ、べつにいいけど・・・」
―妹紅は耳まで赤くなったが、
でも、
悪い気はしなかった。
(家族。)
(家族、かぁ。)
「うれしそうですね。」
「ふふふ、わかる?」
「ええ。にやけてますよ?」
「あのね、妹ができたの♪」
「い、妹ですか。」
名は体を表す、ということでいいのだろうか。
「そうよ。だって同じ穴の狢だもん。」
・・・・当たらずとも遠からず、か。
そういえば、あのときに妹紅は「生まれた」んだな・・・。
だから歴史が見えなかったんだ。
―人から出ずることなく生を受けた人間、すなわち老いもせず、死にもせず。
生命の輪廻から外れてしまった永遠の存在。
一度死なねば真の不老不死になりえない・・・皮肉なものだ。
「何書いてるの?」
「ん?ああ、何でもない。ただの日記だ。」
「そう。それにしても今日の満月はまた異常ね。
いや、戻ったって言った方が正しいか。」
「そうだな・・・」
あの頃と同じ月。
今までそんなに気にはしていなかったが、
月をどうこうするなんて、あの従者以外にできる筈がないと思った。
何があったか知らないが、そんな大それたことなんかしなくても良さそうなものだが。
「・・・・」
妹紅も何か考えるところがあるようだった。
「来た。
強い力が2つ。こっちに向かってきている。」
「何!?もしや妹紅を狙ってきたのか!ちょっと行って追い返してやる!!」
「あ、ちょっと・・・・過保護だなぁ、全く。
・・・・・それに、なにかあった方が退屈しなくていいんだけどな。」
―妹紅は少し期待をしていた。
そいつらは慧音を打ち破ってくるのか。
そいつらは・・・・・
「あー忌々しい。」
―妹紅は期待した。
そいつらが慧音にやっつけられることに。
そいつらがもう一人の姉と無関係であることに。
今宵は満月。
草木も夜雀も眠る丑三つ時。
そして・・・・
「誕生日プレゼントにしては無骨よね。」
似たもの姉妹の妹君は結構ひねくれていた。