Coolier - 新生・東方創想話

紅い月夜に・・・

2006/10/12 09:19:27
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夜空に月が昇る。
大きな満月。
だがその満月は紅く怪しく光っている。
その夜空に影が三つ。
蝙蝠の翼の生えた小さな影と七色に光る翼の生えた小さな影、そしてメイドらしき影。
それらはある場所を目指して飛んでいる。
その場所は博麗神社。
外と幻想郷の境目。
三つの影はそこを目指して飛んでいる。

影達は音も無く神社へと降り立つ。
時刻は既に丑三つ時。
夜に動く妖怪や動物でなければ深い眠りの中にいる時間。
だがこの時間は彼女達の時間。
吸血鬼であるレミリアとフランドールにとっては今が昼間。
その従者である咲夜もまたこの時間が活動時間である。
しかし神社の主である霊夢は眠っている時間。
こんな時間に来ても起きているはずがない。
「ふふふ・・・霊夢・・・ついに貴女を私の僕にする時がきたわ・・・血の様に紅い月が昇る夜は吸血鬼の最も力の上がる日・・・」
「・・・そして同時に博麗たる私の力も上がる日でもあるわね」
笑うレミリアの前に現れる霊夢。
その目はどこかいつもの雰囲気とは違う。
「あら、起きてたのね。愛しの霊夢」
「ええ、とてもじゃないけれども寝ていられないわ。招かれざる客が三人も来ちゃね」
幼いながらも妖艶な笑みを浮かべるレミリアにあくまでいつもの調子で答える霊夢。
「フランはついでよ。この子の本命は魔理沙だもの。最も貴女も気に入ってるみたいだけれど貴女は私の物よ」
「それはありがたくて涙が出ちゃうわね」
見た目は子供と言えど同性でさえ欲情しそうな雰囲気を纏うレミリアに全く動じず霊夢は答える。
「咲夜、命令よ。霊夢を捕まえて私の所に連れてきなさい」
「イエス、マイマスター・・・」
「・・・やれやれ、咲夜も眷属にしたのね」
意思の無い瞳で咲夜が動き始める。
澄んだ青い瞳も今は紅く染まっている。
首には小さな穴が二つ。
口から時々ちらりと見えるのは牙。
ぼうっとした無表情のまま素早く動き出す。
「ねえねえお姉様、霊夢と咲夜の戦いも興味あるけど魔理沙襲ってきてもいい?
「構わないわ。行ってらっしゃい」
「わーい」
フランドールが魔理沙の家に向かって飛んでいく。
それを横目で見ながら霊夢は咲夜の攻撃をかわし続ける。
「余所見していると思わぬ伏兵にやられるわよ。美鈴」
「・・・イエス、マイマスター」
レミリアの声と同時に美鈴が現れる。
そして咲夜の攻撃を避けて体勢を崩していた霊夢をがっちりと捉えた。
「驚いた・・・全く気配を感じなかったわ・・・ついでにこの子も眷属にしたのね」
「美鈴の最も得意とするのは拳法でも弾幕でもない・・・どこへでも溶け込める隠密性こそ美鈴の特技よ。作戦の要だったから眷属にしたまでよ」
レミリアは笑いながらゆっくりと霊夢に近寄る。
「美鈴、良くやったわ。後で咲夜は好きにしていいわよ」
「ありがとうございます・・・マイマスター」
レミリアの言葉に美鈴は僅かだが嬉しそうな表情をする。
「さぁ霊夢、私と一緒に永遠の闇を生きましょう」
「残念だけどお断りするわ・・・『博麗幻影』」
霊夢の声と同時に激しい光が霊夢を包み込む。
「くっ・・・!」
「・・・・」
素早く後ろに跳び退るレミリア。
美鈴は反応が送れ弾き飛ばされた。
「「・・・さて、これからが本番よ」」
光が収まると同時に赤い霊夢と青い霊夢が同じ言葉を口にした。
「私が魔理沙のほうに行くわね。色が違うと驚くでしょうし」
「頼むわね私。こっちは私が引き受けるわ」
赤い霊夢が飛び去り、青い霊夢が残った。
「偽者ごときに私達が相手になるかしら?」
「あら?誰が偽者かしら?」
霊夢はお札を取り出す。
「教えてあげる・・・貴女が手を出した博麗霊夢という存在が一体なんなのかを」
「咲夜、美鈴、行くわよ」
「「・・・イエス、マイマスター」」
三人は同時に動いた。
「・・・『殺人ドール』」
「・・・『極彩颱風』」
「『ヴァンピリッシュナイト』!」
「・・・・」
咲夜、美鈴、レミリアはスペルカードを放つが霊夢はお札を構えたまま微動だにしない。
それどころか笑ってさえいる。
「無駄よ・・・」
霊夢から激しい光が放たれる。
それだけで全ての弾幕が消え、レミリア達を弾き飛ばした。
「今のは・・・!?」
「ただ霊力を放出しただけよ?今まで押さえていた霊力のほんの少しだけをね・・・」
その言葉にレミリアは青くなった。
紅い月のおかげで力が上がっているはずの自分の弾幕が全く効かなかった。
しかも相手は本気どころか何もしていないに等しいと言い切った。
勝てない。
勝てるわけが無い。
化け物を超える化け物に敵うわけが無い。
そんな思考がレミリアを支配する。
「さて・・・私もちょっと退屈してたのよね・・・一人で神社にいるのって結構味気無いのよね」
「ひぃ!」
ゆっくりと歩み寄ってくる霊夢にレミリアは悲鳴を上げて逃げようとする。
しかし腰が抜けて立てず、手にも力が入らないので無様に転ぶだけだった。
「フランドールのほうも終ったみたいだし・・・いいわね、妹を二人抱えるお姉ちゃんってのも」
「や・・・やっ・・・!」
レミリアは声を出そうとしたが喉が引き攣って声にならない。
そんなレミリアの顔を霊夢がそっと優しく撫ぜる。
「良かったわねレミリア・・・貴女の願い、叶えてあげるわよ」
次の瞬間レミリアは気を失った。
「さて、色々と調整するのが面倒ね。まず紅魔館の主は誰にしようかしら・・・紅って事で美鈴でいっか・・・咲夜はメイド長のままでいいわね」
「戻ったわよ。フランドールのほうも処置しておいたわよ」
赤い霊夢が気絶したフランドールを背負った状態で戻ってきた。
「ありがと、名前も和風にしておいたほうがいいわね」
「そうね・・・レミリアは紅夢、フランドールは彩夢ってのはどうかしら?」
「いいわね」
二人の霊夢は互いに頷きあった。
そして手を重ねあう。
「「幻想郷を管理する者、博麗が命ずる。我の思うとおりに全てを書き換えよ」」
二人から光が次々と飛び出していく。
光は幻想郷中に降り注いでいる。
そして近くで倒れているレミリアやフランドール、咲夜と美鈴にも降り注いでいく。
「「これでいいわね。後は・・・一人に戻るだけね」」
ゆっくりと光に包まれて霊夢は一人に戻った。
「『博麗幻影』は一人を二人にする究極の符。今日みたいな日でないと本当の力は発揮できないのよね~」
そんな独り言を呟きながら霊夢はレミリアとフランドール・・・いや、紅夢と彩夢をつれて神社へと入っていくのだった。
後にはいつの間にか首筋の痕も消え、ただすやすやと眠る咲夜と美鈴がいるだけだった。

「咲夜、出かけるからついてきて欲しいんですけど・・・」
「またなの美鈴?少しは紅魔館の頭首だって自覚を持って欲しいわ・・・」
「うう・・・努力します・・・」
呆れる咲夜に謝る美鈴。
これではどちらが紅魔館の頭首やら分からない状況だ。
二人は幼馴染で小さい頃は一緒に遊んだものだった。
現在美鈴は紅魔館の頭首として、咲夜はメイド長として立場が大きく離れてしまったがそれでも二人の友情は変わらなかった。
「それにしても少し博麗神社の二人に熱を入れすぎよ。メイド達が美鈴はロリコンなんじゃないかって噂してるわよ」
咲夜の言葉に美鈴は真っ赤になる。
「う・・・でもなんだかあの二人と一緒に居るととっても懐かしくて離れられないのよ・・・それに咲夜だっていつも猫可愛がりしてるじゃない」
「それは・・・そうだけど・・・」
美鈴の思わぬ反撃を受けて咲夜も赤くなる。
「あはははは・・・」
「うふふふふ・・・」
そして二人はお互いに見詰め合って笑い出した。
「それじゃあ行こっか?」
「ええ」
笑い終えた二人は連れ添って紅魔館を後にした。

「あら?また来たのね」
「また来ちゃいました・・・」
「度々邪魔するわね」
神社で掃き掃除をしていた霊夢に美鈴が恥ずかしそうに、咲夜がいつも通り冷静な口調で答える。
「まあいいわ。あの子達もあんた達を慕ってるもの。紅夢、彩夢、美鈴と咲夜が来たわよ~」
霊夢が声を張り上げる。
それと同時に小さな影が二つ飛び出してくる。
「美鈴お姉ちゃ~ん!」
「うわわ!」
「咲夜お姉ちゃん!」
「きゃっ!」
物凄い勢いで抱きつかれた二人は少しバランスを崩す。
「こらこら、大人しくしなさい」
「「だって~・・・」」
「だってじゃないの」
二人に抱きついたまま振り返る紅夢と彩夢。
「私たちは気にしてませんから」
七色の小さなリボンが沢山巻かれている彩夢の頭を撫ぜながら美鈴が微笑む。
「この程度なら大丈夫よ」
黒く大きなリボンが巻かれている紅夢の頭を撫ぜながら咲夜が答える。
「そう?でも二人共迷惑かけちゃだめよ」
「「は~い!」」
「全く・・・返事だけはいいんだから・・・」
元気良く返事する二人を見て溜息をつく霊夢。
「それじゃ今日は何して遊ぼうか?」
「「弾幕ごっこがいい~!」」
「いいわよ!私のナイフと美鈴のクナイ、全部かわせるかしら?」
楽しそうな声と共に始まる弾幕ごっこ。
それを見守りながら微笑む霊夢。
「ふふふ、全て上手くいってるわね。お姉ちゃんは大変だけれどこういうのも悪くないわね」
霊夢はただ微笑み続けている。
そして幻想郷は今日も平和だ。
昔からそうであったように、今日もまた平和なのだ。
「さて・・・平和を謳歌するのもいいけどそろそろ異変の一つくらい起こさせようかな・・・そうね・・・花が咲き乱れるのも面白いかもしれないわね」
全てを知る者は、この世にただ一人。
博麗霊夢というなの巫女、ただ一人だった。

end
ご意見、感想、誤字脱字指摘お待ちしております。
儚夢龍也
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コメント



0.680簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
送れ→遅れ
11.80月影 夜葬削除
今までとは違ったストーリーで驚きましたよ。
すべては霊夢の手のひらの上なんでしょうかね……