いつの頃か、見慣れた風景の中にも少しだけ秋の色が現れ始めていた。時折強く吹く風にも肌寒さを感じるようになり、そろそろ籠もりの準備も考えねばな、と上白沢 慧音は思索にふけっていた。遠くでは虫の音もわずかに聴こえ始めている。この時間帯ならばまだ風流と思うこともできるが、これが夜ともなればなかなかそうもいかない。過ぎたるは猶及ばざるが如し。ここでは、慧音は常々そう考えている。件の音色に趣を見出した者は、一体どのような場所に住んでいたのであろうか、などと見ず知らずの風雅人に思いを馳せながら、慧音は帰路の道を急いだ。
ちょうど庵の姿が見えたところで、慧音の足が一旦止まる。庵の側に、見覚えのある後ろ姿を見つけたからだ。
「妹紅」
遠くながら、その背中に声をかける。地面に座り込みいそいそと何かに無心している妹紅は、手だけを上げて慧音に挨拶を返した。依然その顔は下に伏せられたままである。何をしているのだろうかと首を傾げながら、慧音はその場所に近づいていった。
「今日は、結構遅いんだね」
背を向けたまま、妹紅が言う。
「そうか? いつも通りだと思うがな。遅いと感じるのは、つまり、“あれ”じゃないかな」
「“あれ”って……? ……あぁ、わかった」
「そうそう。つまり……」
「「日が短くなったから」」
揃った声に、二人は思わず吹き出していた。
秋は日の長さの節目でもある。一日ごとに変わっていくそれに、人はなかなか追いついていくことができない。特に、このように“時間”という概念が欠落している場所では、それが非常に顕著であるのだ。こういった場所では、ある意味で体内時計の方が正確なのかもしれない。
「それでお前は何をしてるんだ、妹紅?」
肩越しに慧音が覗き込もうとすると、妹紅は背中でそれを遮った。
「まだ駄目。あとちょっとだから」
『あとちょっと』。それがどの程度であるか、慧音にはわからない。仕方なく、慧音は近くにあった手ごろな岩に腰を下ろした。
手持ち無沙汰ではあったが、こうやって楽しそうな妹紅を後から眺めるのもなかなかに乙だった。
「ねこねここねこまるめてこねこね~♪」
そんな調子外れな歌が、秋の風に乗って聴こえてきた。
夕日に照らされ、あたり景色は真っ赤に染まっていた。明るいうちにやっておきたい仕事もあるにはあったのだが、こうやってぼやぼやしていると、それらの事も自然と頭から離れてくる。ここでの暮らしは、時間も含めて全て自分の裁量で行われる。それに不便を感じることも確かにあるのだが、少なくともそれを悪く思ったことは無い。
まわりの景色を見渡しながら、煙管の一つでも持っていればな、と慧音は嘆じた。
「よし、完成!」
妹紅の威勢のいい声が聞こえてきた。慧音は山間に向けていた視線をそちらに向ける。
「へえ、何が出来たんだ?」
「うふふふ」
意味深げに笑いながら、妹紅がゆっくりと立ち上がる。その時、慧音は妹紅の手に何かが乗っていることに気がついた。
距離のせいで正確に視認をすることは出来なかったが、ぼんやりと映るシルエットから、それがある程度の大きさを持っているということはわかった。少なくとも、妹紅の両手いっぱいを食み出す程度には。
妹紅は、怪訝そうな表情を浮かべる慧音に駆け寄ると、両手ごとその物体を突き出してきた。
「はい、大事に扱ってね」
それを間近に見て、慧音は一瞬息を呑んだ。
何だ、これは。
真っ先に、そんな言葉が脳裏に浮かび上がってくる。
それは、赤ん坊の頭ほどの大きさもある“毛玉”だった。柔らかそうな体毛で全身が包まれており、時折吹く風にふわふわと微かになびいていた。慧音は、無機体であるはずのそれに、何故か有機体の息吹のようなものを感じてしまう。毬藻に抱くような感情、と言えばそれに近いのかもしれない。何にせよ、それが奇妙な物体であることに違いはない。その物体をまじまじと見つめながら、慧音は大きく首を捻った。
「……なあ、これは何なんだ」
「触ればわかるんじゃないかな?」
妹紅は楽しそうに慧音の様子を眺めていた。
「……むう」
顎を弄りながら慧音は思案する。
これは、一体何であろうか。見たところ飛びぬけて荒唐無稽なものとは思えないが、やはり用心に用心を重ねる必要はあるかもしれない。かといって、このまま手を出さなければ妹紅が気を悪くする可能性もある。少なくとも、妹紅に悪意は感じられないのだ。……いや、もしかしたら、それも策謀の一つで……いやいや、妹紅を疑うな。
などと、慧音があれこれ思索にふけっていると、目の前の物体が突然プルプルと動き始めた。それを見て、慧音は伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。
「ありゃりゃ」
残念そうに妹紅がそう呟くと同時に、その毛玉から、小さな頭がちょこんと飛び出してきた。
にー。
とろけるように甘い声が、慧音の耳朶を打った。
「……ああ、そういうことか」
それを見ながら、慧音の頬は微かに弛んだ。
「可愛いでしょ?」
妹紅の手の上では、子猫がぶるぶると首を振るっていた。
妹紅の手の上には、結局三匹の子猫が現われた。あれだけの大きさに“纏めて”いたのだ。それが妹紅の手腕なのか、それとも子猫達の懐の深さなのかはわからないけれども、慧音はとにかくそれに対して感嘆の声を漏らしていた。
子猫たちは、欠伸をしたり、耳を掻いたり、鼻を動かしたり等々、それぞれが思い思いの行動を取っていた。それでも、けして妹紅の手からは動こうとせず、その自重をしっかりと預けていた。
その様子を眺めながら、慧音はふとあることに気付いた。
「母猫はどうしたんだ?」
体躯を見る限り、子猫達はまだ乳離れをしているようには見えなかった。当然、どこかに母猫がいるはずであり、今この瞬間にももしかしたら子猫達を心配しているのかもしれない。しかしながら、今のところまわりに母猫がいる気配は無い――もしや、と慧音の頭に一瞬だけ悪い想像がよぎった。
……が、それも、妹紅が「んっ」と顎で示した先にあるものを見た時には、綺麗さっぱり払拭されていた。
幸か不幸か夕日に映えてしまう庵の軒下、そこに斑模様の太った猫がどっしりと鎮座していた。
「……あれが、母猫か?」
慧音と視線が合うと、猫はにゃあと一鳴きし、そうしてゆったりとした姿勢のまま自らの毛づくろいを始めてしまった。
「そっ。かなり日和ってるけどね」
妹紅のその表現に、慧音は苦笑いを浮かべた。
何も母猫に神経質になれというわけではない。自由気ままに暮らすのも、野良の醍醐味であることには違いない。慧音もそう思ってはいたのだが、あの母猫の反応には、さすがに肩透かしをくらってしまった。放任主義なのか、それとも興味自体無いのか、俗世の尺度では測れそうも無かった。
「まっ、長い目で見てあげようよ」
「それもそうだな…………と、待て待て」
そこで、慧音は先ほどから気になっていた違和を思い出した。
「そもそも、この猫達は、ここに住み着いているのか?」
猫達(妹紅含む)は、さも当たり前のように居座っているが、ここは間違いなく慧音の庵である。となれば、慧音自身、猫――それも、子連れという賑やかな所帯ならば尚更――の存在に気付くはずであるが、実際のところ、今日に至るまで慧音がその存在を認識することはなかった。
「……」
慧音の問いには答えず、妹紅は黙って地面に腰を下ろすと、その両手から子猫達を解放した。
降ろされた段階では、三匹とも妹紅の顔を不思議そうに見上げているだけだったが、妹紅が「ほら」と促すと、一度首を傾げた後、踵を返して母猫のいる方向に駆けて行った。その背中を、妹紅は曖昧な笑みを浮かべながら眺めていた。
「“流れ”なんだと思うよ」
ぽつりと、小さく妹紅が呟く。おそらく、それが先ほどの答えなのであろう。
「一日おきに宿を転々としてるみたいだね」
「……そうなのか」
庵の軒下では、一斉に押し寄せてきた子猫達に母猫がギョッとした表情を浮かべていた。その様子が妙に可笑しかったので、慧音も妹紅も声を上げて笑っていた。
「それじゃあ、明日は別のところにいるかもな」
「……うん」
慧音は、妹紅のその返答の声が、少しだけ沈んでいるように感じた。
「……猫、好きなのか?」
慧音のその問いに、妹紅は無言で頷く。夕日のせいか、その横顔は少し紅くなっていたようにも思えた。
「そうか」とだけ短く述べると、それ以降慧音は口を噤んだ。そのまま、会話の無い時間がしばらく続く。
少しだけ早い夕食に子猫達は夢中なようで、我先にと母猫の乳を兄弟同士で争っていた。数は十分あるはずなのになと、慧音は、団子になった子猫達を飽きない気持ちで眺めていた。細められた母猫の目は、まるで眉を顰めているようでもあった。
「慧音は、さ」
「うん?」
随分と間が空いていたので、妹紅のその一言に、慧音はとっさに反応をすることができなかった。その様子がおかしかったのか、妹紅は小さく口元を緩めると、一拍置いて、言葉を継いできた。
「慧音はさ、ネコ派? それともイヌ派?」
「おいおい、随分と唐突な質問だな」
「だって、気になったんだもん。ねえ、どっち?」
「どっちって言われてもなあ……」
難題であった。何故なら、そのような命題を、慧音は意識的に考えたことがなかったからだ。犬は嫌いじゃないし、勿論猫も嫌いじゃない。両方とも“嫌いじゃない”ということはわかっているのだ。でも、『どちらが好きか?』と問われると、たちまち答えに窮してしまう。片方を立てれば必ず他方は沈み、そこには否応無しに優劣がついてしまう。その決断をここで下せるほど、慧音の筋道はしっかりと立っていなかった。
「そ、そういうお前はどうなんだ?」
それは、どう見ても苦し紛れの一言だった。大体にして、さきほどからの妹紅の態度でその答えはわかりきっているのだ。
「んっ、ネコ派だよ。当然」
余裕たっぷりに、妹紅はそう答えた。その潔さを、慧音は少し羨ましく思う。
「猫ってさ、何かふわふわとしてるじゃない」
「ふわふわって、どういう意味だ?」
「うーん、どう言えばいいのかな。何かこう、捉えどころがないっていうか、何を考えているかわからないっていうか……」
「ふぅむ。わかるような、わからないような」
「そこは、わかって欲しいなあ」
たははと妹紅が笑う。
「だから、さ。慧音も猫が好きになってくれたら嬉しいなあって」
「おいおい、誰も猫が嫌いだとは言ってないぞ」
「今よりも、って意味だよ。私の好きなものを、慧音が同じぐらい好きになってくれたら嬉しいから」
慧音は、妹紅にそんな風に言われることが、正直嬉しかった。
だから、次のその一言には、きっと照れ隠しの意味も含められていたのだろう。
「で、でもなあ。だからといって犬を蔑ろにするわけには……」
それを聞いた妹紅は、「むー」と不満そうに唇を尖らせた。
「なーんか、妙に犬の肩を持つなあ。…………あっ、まさか」
妹紅の顔に、にやりといやらしい笑みが浮かぶ。
「んふふふふ。あのさ、慧音」
その楽しそうな声に、慧音は嫌な予感を感じた。
「私、猫派って言ったけどさ、それは、別に犬が嫌いってわけじゃないよ?」
初めのうちは、妹紅が何を言っているのか理解できず、慧音は呆けた表情を浮かべていたが、やがて閃くようにしてその言葉の意味を理解すると、顔いっぱいに渋面を作った。
「……何故、私の方を見ながらそれを言うのだ」
「犬は律儀だし、恩にも厚いし……」
「だから、何故私を……」
「んふふ。尻尾だよ、尻尾」
わざわざ一字一字強調しながら、妹紅は慧音の後ろをぴっと指さしてきた。慧音は条件反射で両手を後にまわしたが、感触らしい感触を掴むことはできなかった。その段になって、慧音は今日が満月でもなければ、そもそも夜でもないことに気付く。急いで顔を上げると、にやにやとこちらを見つめている妹紅と目が合った。どうやら、一枚噛まされたらしい。慧音は慌てて尻から手を離すと、ごほんと咳を一つ入れた。その顔は、ほんのりと紅潮している。
「あー、妹紅に一つ言っておくことがある」
「何?」
言いたいことはいろいろある。それでも、率先して主張しておかなければいけないことがあった。
「お前は何か勘違いしているみたいだがな、私の尻尾はけして犬の持つそれではなくて……」
「ふさふさだよねー、慧音の尻尾って」
ふさふさ
その一言は、慧音にとってまるで甘露のような言葉であった。
ふさふさ。
ふさふさ。
ふさふさ。
慧音の頭の中で、その単語が何度も何度も反響する。
慧音自身、自分の尻尾には少なからず矜持を持っている。絹のような艶、力強い張り、そして入れた櫛がスッと通るような滑らかさ、その三種を揃えた慧音の尻尾はまさに宝具のような存在であった。故にその手入れには多くの時間を要すため、慧音は満月の夜にしか生えてこないそれを歯がゆく思っていた。
ああ、この尻尾を毎日手入れする事が出来たら、それはどんなに幸せだろうか。まずは全体を軽く梳いて毛のもつれを取って、その後ゆっくりと時間をかけて水洗いをし、最後は水気を拭った後に夜風で静かに乾かすのだ。ああ、考えただけで涎が出てきそうだ。尻尾、尻尾に触れていたい……
……そこで、慧音はハッと気がついた。見ると、さきほどと同じように妹紅がこちらを見ながら――少しだけ呆れたような表情を浮かべて――にやにやと笑っていた。慧音は頭を振って邪念を追い払うと、自分の頬をぴしゃりと叩いて妹紅に向き直った。
「ああ、ふさふさだ。ふさふさだとも。自分でも誇らしくなるぐらいにな」
本心と自棄が入り交じり、自然と語気は強くなっていた。慧音は一旦そこで息を吸うと、溜めに溜めていた言葉を一気に吐き出す。
「いいか、よく聞け妹紅。お前は先ほどから大きな勘違いをしている。それが故意であるかどうか私にはわからん。わからん……が、この際それは端に置いておくとする。本題とは関係が無いからな。私が言いたいことは一つだけなのだ。一つだけだ、わかるな? つまり、無知により尻尾を混同するな、ということだ。確かに私の尻尾はふさふさだ。ああ、ふさふさだとも。ふさふさすぎて、一日中そこに顔を埋めていても飽きないぐらいだ。……ああ、話が逸れたな。思わず願望を述べてしまったよ。うん、閑話休題だ。結局のところの本題はだな、いくら同じ“ふさふさ”でも、ワーハクタクの尻尾を犬のそれと混同してもらっては困るということだ。そもそもワーハクタクとはな、古事にもその記述がある由緒正しき起源を持つ獣で、それが携える尻尾ともなれば…………」
と、そこで、慧音の高説がピタリと止んだ。妹紅が口を抑えながら、必死に笑いを堪えている様子が見えたからだ。慧音は少しだけ眉を顰めた。
「お前なあ。人がこれから説明するって時にそれは無いだろう?」
「あっ、ごめんごめん。だってさ、慧音って、とっても律儀なんだもん。馬鹿正直っていうか」
「……何が言いたい?」
「好きだよ? 犬のそういうところ」
「……」
慧音に返す言葉は無かった。見事にしてやられたと、そう思った。
「あはは。落ち込まないでよ、慧音。私は好きなんだからさ。だから……」
その時であった。甲高い鳴き声が風に乗って響いてくる。慧音と妹紅は、思わずその声の方向に顔を向けた。
どうやら声を上げているのは子猫の中の一匹で、母猫の腹の上でジタバタと忙しく暴れていた。おそらく昼寝の最中に目でも覚めてしまったのだろう。不機嫌になっているのだ。
「……ああ、やっぱりまだまだ子猫なんだね」
少し呆れたように妹紅が漏らす。
「みたいだな。母猫も大変だ」
母猫は子猫のそんな癇癪にも動じることなく、いつもと変わらぬ様子で子猫の顔をペロペロと舐めていた。相変らずの幸せ顔であった。
子猫の鳴き声は段々と尻すぼみになっていき、しばらくと経たない内に完全に止んでしまった。大したものだと慧音が感嘆を漏らす。母猫が、上手く宥めたのだ。
慧音の傍らでは、妹紅がその視線を猫達にじっと注いでいた。その横顔から何かを読みとることは難しかったが、慧音は妹紅が何を言いたいのかわかっていた。
慧音は妹紅にそっと近づくと、その頭に自分の手を添えた。
「わっ。な、何?」
よほど猫達の方に集中していたのか、突然の感触に妹紅はかなり慌てていた。慧音はそんな様子も微笑ましく思いながら、妹紅の頭にのせた手を右に左に動かしてみた。
「わっ、わっ。ど、どうしたの慧音?」
「んっ、いや、何となくな。気にするな」
「そ、そんなこと言われたってぇ…………あ、頭がクラクラする~」
「うん、ちょうどいいな。その頭で聞き逃してくれ。戯言だ」
「へっ?」
妹紅の耳に静かに唇を寄せると、慧音は小さな声で呟いた。
「私が、居るだろ?」
思わずといった風に妹紅が顔を見上げる。慧音は妹紅の頭から手を離すと、それに応えるように不敵に笑って見せた。
慧音のその言葉に、深い意味合いは無い。字面通りのシンプルな言葉であるのだ。でも、だからこそ心に届くのだと、慧音はそう思っていた。
妹紅はしばらく惚けた表情で慧音を見つめていたが、やがて咳を切ったように笑みをこぼし始めた。
「えへへへへへ」
「な、何だ、気持ち悪いな」
「……うんうん。いやいや、ねえ?」
バシバシと慧音の肩を叩きながら、妹紅はにんまりと口の端を緩める。
「なるほど、なるほど、な~るほど。慧音さんは、しっかり“お犬様”をやってるわけだ」
「なっ……!」
慧音の顔がかっと熱くなる。思わず妹紅に向かって手を伸ばしたが、それも虚しく空を切っただけだった。妹紅は、後ろ向きのまま軽快な足取りで距離を取ると、何か言いたそうに歯噛みをする慧音に対して軽く片目をつぶった。
「いやあ、ご苦労ご苦労。慧音さんは本当に律儀だなあ。あはは」
楽しそうにそう笑いながら、妹紅はくるりと慧音に踵を返した。顔が見えなくなる瞬間、わずかにその唇が動いたような気もしたが、それが何と言っているのか慧音の位置からは解読することができなかった。
「それじゃあ、晩御飯の材料探してくるね~」
短くそう言い残すと、急くように妹紅は飛び立っていった。その背中を見送りながら、慧音はやれやれと息を吐く。本当に疲れる奴だな、と。
「……ふわふわとして掴みどころが無い、か」
先ほどの妹紅の言葉を一人ごちながら、慧音はくっくっと笑った。
「はたして誰のことを言ってるのやら。……なあ?」
応えるように、軒下で母猫がにゃあと鳴いた。
end