数日後、慧音の家に三人の男たちが集まっていた。彼らは皆里を守る術者である。
庭を見渡せる居間に円座を組んで座っている三人の男は、物忌無稽斎《ものいみむけいさい》、稲葉房助《いなばぼうすけ》、浦部雪之丞《うらべゆきのじょう》といった。
同僚であった二人が何者かに殺されたのは彼らとて知っている。だが、慧音が口止めされていた事もあり今まで何も言わずに来たのだが、内心では心穏やかではなかった。
すっと襖を開けて慧音が部屋に入ってくる。
「ああ、皆揃っているな。急に呼び出してすまない。呼び出したのはほかの儀じゃない」
慧音は一同を見まわした。
「他でもない。阿鳥とお琴の事だ」
男たちの顔にきっとしたものが流れた。
「二人をやったのは紅魔館の手の者だろう。目的はおそらく私の足止めだ」
ゆっくりと話す慧音の口調は重い。
「足止め? そもそも僕達が紅魔館の邪魔になっているとも思えませんが……」
慧音に疑問を述べたのは稲葉房助。
女をしてかくやと思わせる美貌に髪を立て、長身に白の小袖に胴羽織を着ているその姿は妖剣士という出で立ちである。顔に似合わず剣の腕も立ち、術の精通しているため一目置かれている。真面目を具現化したような性格のわりに融通も利くので人気が高い。
だが、人間というものは必ず欠点があるもの。彼であった。
あるとき、村に妖怪が現れた。その妖怪はせいぜい人を驚かすくらいしかできない低級であったため、慧音は脅かして森へ追い出せばいいと指示した。
しかし稲葉は腰の刀を引き抜くと、一足飛びに妖怪を袈裟斬りにした。その一撃で妖怪は絶命したのだが、稲葉はそのまま倒れた妖怪に何度も刀を振るい続けた。まさか稲葉がそんな行動に出るとは思わず、呆気に取られていた一同が稲葉を押さえつけるまでに妖怪は完全に肉片と化していた。
ただ狂っているわけではなく、ちゃんと仲間と連携を取る事もできたし、村の人間にその嗜虐性が向けられることもなかった。妖怪に対して敵意があるのに何故慧音と組めるのか。稲葉曰く「人間の敵は妖怪。人間に害を及ぼすなら慧音様でも斬ります。それに慧音様は言葉より行動で示してくれていますからね」ということらしかった。少なくとも彼の歪みはある程度制御されているということで黙認されているのだった。
「ああ、それは私の勇み足でな。元々の原因は私にあるのかもしれない」
慧音は単独で紅魔館へ向かったこと。そして説得に失敗したことを説明した。そしてジェリルの死の間際に聞いた情報も。
「なるほど。そういうわけでしたか。いやはや慧音様も水臭い。それならそうと一言いって貰えれば良かったのに」
あごをさすりながら豪快に応えたのは浦部雪之丞である。
丸太ほどもある太い腕と脚。突き出した頬骨と鼻。太い眉の下には栗のような丸い目。長年風雨にさらされたような灰色の衣服。一見野人かと思われる格好だが、随分と柔和な気を放つ男だった。
しかし、いざ戦いとなると真っ先に敵にぶちあたり、他の仲間の壁となるのだった。彼の魔力は弾幕という形では発現しているのではない。自らの身体にこそ魔力が発現しているのだった。その為浦部の体は鋼鉄の如き硬さを誇り、多少の弾幕は物ともしないのである。
それにただ壁となるだけではない。
以前塗り壁と相対した際には互角の押し合いを演じ、最後には投げ飛ばしたという武勇伝まであるくらいだ。
「ああ、その件はつくづくすまないと思っている。死んだ阿鳥とお琴にはいくら謝っても気が済まない」
「互いに残り四人。こちらはお琴が減り三人。いやいやここからが正念場かもしれんのう。皆の衆」
頭を染める長い白髪を総髪にまとめた老人が物忌無稽斎。
気難しい老人の典型というべきしかめ面に白い顎鬚。切れ長の目から発せられる眼光は鋭く、常人ではない精気を発していた。
そもそもこの老人、里の出身ではない。いつの頃か村へふらりと流れてきてそのまま居着いてしまった。とはいうものの、元々来る者拒まずであったし、何より老体に見合わず術を使え、腕前もなかなかの物なので、文句を言う者はない。
いずこからか村へ流れてきたという自覚の為か、普段は一歩引いた態度でいる事が多い。その口調は普段どおり重々しい。が、顎髭を弄っている手に隠れて口元には薄っすらと酷薄な笑いが浮かんでいた。それに気づくものがいたかどうか。
「あ、いやお琴を倒した輩はすでに私が倒したから互いに三人ということになるな」
妹紅の存在は村人には秘密の為、慧音が倒したと言う事にしてある。それは慧音というよりは妹紅の意向でもあった。お琴と接触を取った事は例外中の例外といってもいい。
「この様子だとすでに村に入り込んでいると考えるのが妥当でしょうか」
「だろうな。ええい、見た目でそれとわかれば幾らでも探しようがあるものを」
どんと悔しげに畳を叩く浦部。
「落ち着け浦部。今そんなことをすれば奴等の思う壺だ。何のために僕達がここに集まっているんだい」
浦部が吠え、稲葉がそれを制するといういつものやり取り。いいコンビである。
「まどろっこしい事はしておれん! 慧音様、こうなったら紅魔館へ乗り込みレミリア・スカーレットを叩きましょう! 大元を倒せば如何様にでもなるはずです!」
慧音に詰め寄る浦部。しかし、慧音は腕を組んで黙したまま何も語らない。
「だから落ち着けと言っているんだ。僕らが村を空にした間に暴れられたらどうする。それに僕らが行ったところで足手まといにしかならない。この間、夜雀一匹追い返すのにどれだけ苦労したか忘れたわけじゃないだろう」
村に紛れ込んできた夜雀を五人がかりでなんとか追い出したことがある。村人は食われこそしなかったものの、怪我人多数。稲葉達も大なり小なり怪我を負った。
普通の人間からみれば彼らは異能の極みであろう。しかし存在そのものが異能の妖怪からすれば、一般人に比べて毛が生えた程度なのかもしれない。
「ぬう。確かにそうだが……。しかし、このまま受け身でいるのは性にあわん!」
「ふむ。紅魔館へもう一度行くというのは案外ありかもしれないな」
考え込んでいた慧音が重く口を開く。
「慧音様、本気ですか!?」
「うむ。私達が紅魔館へ行くというのを大々的に宣伝すれば、刺客達も我々を狙ってくるだろう。目的は私とお前達三人だからな」
慧音の言葉に黙り込む三人。自らが狙われているという自覚が出たのだろう。
「……確かにそれは有効な手かもしれませんな。しかし、慧音殿に負担がかかりすぎますぞ」
黙っていた無稽斎が口を開く。
確かに慧音一人で三人を守りきるのは至難だろう。
「助っ人なら一人心当たりがある。それでも難しいかな?」
その助っ人とはいうまでもなく妹紅のことだ。存在を村人に周知させてしまうことになるが背に腹は変えられない。
「助っ人? いやそれは今はいいでしょう。とにかく考えの方向性は間違っておらんでしょう。敵は弾幕ではない特殊な能力を持った輩の様子。搦め手の相手は慧音殿も苦手だったはず。何かしら対策を講じねば我々も無駄死にするだけでしょうな」
搦め手は苦手という無稽斎の言葉に慧音は苦笑せざるをえない。
確かに慧音は真正面から弾幕使ってくる相手より、ゲリラ戦法といった脇から攻めてくる相手は苦手だったのだ。
「こういうのはどうかのう。儂が里に残る。慧音殿はそこの二人を連れて紅魔館へ向かうというのは」
「なるほど……。囮より戦力分散ですか。こちらには慧音様と助っ人がいる。そうそう負けはしない、と。しかしそれでは物忌老が危険ではありませんか?」
稲葉房助が不安げな顔で意見する。彼は老人と子供には優しい男だ。
「気にしてくれるな。どうせ老い先短い我が身じゃ。それに昔取った何とやら。ああいう搦め手の輩には慣れておる」
いつも黙っているこの老人にしては珍しく笑っている。よほど自信があるのか、それとも安心させる為の演技か。だが、ここまで自信満々に言われては反論しにくい。
慧音としてはこれ以上死人を出したくは無いと思っている。だが、物忌老のいう策以外にいい案が思い浮かばないのも確かだった。
「……是非もないか。物忌老、すまないがお願いする。だが先ほどの助っ人も村においていく。構わないな?」
「うぅむ……。まぁそれくらいなら仕方あるまい……」
無稽斎としては一人で残るつもりだったのだが、これ以上は平行線だと思い妥協した。
慧音は眉間に皺を寄せて渋い顔で頭を下げる。苦渋の決断だった。
「だが、決して無理はしないでくれ。物忌老もれっきとした里の人間。死なせたくはない」
「わかっておる。というわけじゃ、両人もそれでよいな?」
浦部と稲葉の方へ向き直る無稽斎。
「慧音様が決めたのなら僕はそれで構いません」
「おう。俺も異存はない。――話は決まったようだし。では……」
浦部が背後から酒の入った徳利を取り出し机に置く。
「おい浦部。幾らなんでもそれは不謹慎……」
言いかけて稲葉も気がつく。並べられた杯は六つ。この場にいる人数より二つ多い。
「ま、すぐにはちゃんとした葬式もしてやれてねぇしな。固ぇ事いうなよ。慧音様も問題ねぇでしょ?」
「――ああ、そうだな。今日くらいはよかろう」
四人は暫くの間、無言で酒を飲むのだった。
気がつけば時刻はすでに夕暮れ。
四人でちびちびやっていたのだがいつのまにかそんなに経っていたらしい。
「すいませーん。おじいちゃんいますかー?」
庭のほうからかわいらしい声が響く。姿をあらわしたのは銀色の髪をおかっぱに切りそろえた十五、六の少女だった。
「む、妖子。ここには来るなといっておいたであろう」
渋い顔をして応えたのは無稽斎であった。
「これはこれは。妖子ちゃんこんにちわ。おじいちゃんのお迎えかい?」
「あ、稲葉さんこんにちわ。そうなんですよー、今日は早く帰るっていったのにこんなに遅くなって。しかもお酒まで飲んでるー!」
縁側からずかずかと中に入ってくる。まだ幼さの残る子供の所以か遠慮がない。
「ああ妖子ちゃんか。おじいちゃんを迎えに来たのか。偉いな」
「いえいえそんなことないですよ、慧音様ー。おじいちゃんがダメだからあたしがしっかりしないとー」
けらけらと花のように笑う。その光景に皆頬が緩む。今までの寂寥たる雰囲気で飲んでいた慧音達にとっては、彼女の爛漫さは清涼剤のようなものだった。
「はっはっは。いやいや妖子ちゃんはきっといいお嫁さんになるに違いない!」
「もー、浦部さんったらー」
ちょっとばかりからかっただけだった。だが、ふと妖子と視線が合わさったその瞬間、浦部の世界から音が消えた。
慌てて体を動かそうとするがまったく動かない。視線の合わさっている妖子の瞳が妖しく金色に輝いている。吸い込まれそうなほど冥い瞳。視線をはずそうとしても体が動かない。動かない体から今度は感覚が抜けていく。妖子は巧みにこちらに視線を合わせたまま、皆と会話している。誰も気づかないのか。ここにこれだけの術士が揃っていてだ。
だが、浦部には妖子が刺客とは信じられなかった。里の人間ではないとはいえ、物忌老の孫娘だ。幾らなんでもそんな前から潜入しているとは思えない。
殺して入れ替わったにしても、無稽斎が気づかないのはあまりに不自然だし、自分で見ても偽者とは思えなかった。
感覚の麻痺が胸元まで上ってくる。麻痺が心の臓に達したとき自分は死ぬのだな、と自覚する。
せめて、せめて自分を殺した犯人を皆に知らせなければならない。妖子が偽者であるかどうかはこの際どうでもいい。頭のいい稲葉がきっとなんとかしてくれるだろう。だから、妖子の正体を掴まなければ!
持てる魔力をすべてを振り絞り体を動かす。きっと気づいてくれるはずだ。
心臓の音がゆっくりと止まって行く。薄れゆく意識の中で浦部の思考に残ったのは、無稽斎に娘なんていたのか、という疑問だけであった。
「ん? どうした浦部。さっきから黙ったままじゃないか」
稲葉は軽く肩を叩いただけだった。だが、あぐらをかいて座っていた浦部の体はそのままゆっくりと前に倒れ伏した。
稲葉が驚くより先に、無稽斎は突っ伏した浦部の側に膝をついていた。首の手をあてて、
「だめじゃ。死んでおる」
と、うめいた。
場は騒然となる。当然だ。全員誰もが見ている前でむざむざと殺されたのだ。
脈を取った無稽斎が死体を寝かせようとしたときだった。稲葉の手の人差し指がまっすぐ妖子に向かって伸びている。慌てて体勢を戻し、その指が差す方向を振り向く。
「な、何? おじいちゃん」
ありえんな、と首を振る。まさかあの子のそんな事ができるはずがない。妖子はれっきとした人間なのだ。
だが、浦部の残したダイイングメッセージと頭にかすかに残る違和感がどうしても気になって仕方が無い。
妖子は妖怪に殺された娘の子供だ。それを自分が引き取っていままで育ててきた。そこに紅魔館が介入する余地などどこにもない。
記憶の中の妖子は桜の花びらが舞い散る中で笑っていた。深く青い瞳の愛しい孫娘。しかし何故か顔を思い出せない。記憶に靄がかかったかのうな感覚に軽い頭痛がする。
もう一度確かめるように妖子を振り返る。
「さっきからどうしたのおじいちゃん。早く浦部さんを寝かせてあげないと……」
その瞳の色は深い青ではなく妖しく輝く金色。そして靄のかかっていた記憶が明確に思い出される。そうだ。自分の本当の孫娘は――。
浦部をその場横たえると、改めて妖子に向き直る。
「うぬの仕業だな、妖子」
浦部のダイイングメッセージには稲葉と慧音も気づいていた。
だが、とても妖子が犯人とは思えず、別の意味があるのかと考えていたところであった。
そこに無稽斎の「うぬの仕業だな」と妖子に対して言ったのに二人は仰天した。
「何を言っておられるのですか、物忌老。妖子はあなたの娘ではありませんか!?」
稲葉のその言葉に無稽斎は冷静に返す。
「ならば思い出してみよ。この村に儂がきて十数年。おぬしらも妖子と何かしら面識があってもおかしくはず。先日、儂の家で酒盛りした時に妖子はいたか? 村の子供達と遊ぶ妖子を見たか? ――どうじゃ思いだせんじゃろう」
言われてはっとする。確かに自分の記憶では無稽斎老に娘がいて、その娘は目の前にいる銀髪の少女であると認識している。しかし、その子との思い出となるとまったく思い出せない。無稽斎の家で酒盛りした記憶もある。だが、どうしてもその場に妖子がいたという記憶がない。
そしてそれは慧音も同様であった。
「そもそも、儂に娘がいるという事は、この村の誰にも話しておらぬ。その時点で気づかなんだのもおぬしの能力か。まんまと我が娘に化けてこの里に入り込んだな。どのような奇怪な術を使ったかは知らぬが、今ようやくそれが解けたわ。紅魔館の手の者か。おとなしく白状せい」
無稽斎の手刀が振りぬかれる。妖子はそれを横っ飛びで回避して、縁側から庭へ降り立つ。
「そこまで見抜かれているなら、隠してもしょうがない」
先ほどまでの天真爛漫な妖子の気配はかき消え、刺客としての顔がのぞく。
「魔眼石化睨。――いかにも私は紅魔館のメイド、ペトルーシュカ。術者浦部雪之丞は討ち取らせてもらったわ!」
妖しい笑い声に呼応するようにその髪が生き物の如くうねる。ペトルーシュカはメデューサの眷属であった。それにしても如何にして無稽斎に娘がいる事を知りすり替わったのか。そして稲葉達の記憶を操作していたのもこの少女の仕業なら恐るべき刺客と言わざるを得まい。。
「ティパール! 撤退するよ!」
もう一人潜んでいたというのか。どこへともなく声をかけて即座に庭を飛び出す。
それを阻止せんと慧音と稲葉が飛び掛ろうとするが、金色の眼に見つめられると体が固まったかのようになり、動くこともままならなくなる。。
「せっかくこのまま全員心の臓を石にしてやろうと思ったのに。無稽斎おじいちゃん――邪魔をした報いに死んでもらうよ!!」
そう言って振り返り様に、縁側に立っている無稽斎の瞳を見つめる。石化の視線。半端とは言え石化されている慧音と稲葉にはその視線を防ぐことはできなかった。数瞬の後視線を外すと、ペトルーシュカは裏の森へ跳躍して消えていった。
森を駆け抜けるペトルーシュカ。正体はバレてしまったものの、残り三人のうち二人を抹殺することができた。結果としては上々といってよかった。
記憶を操作する術をかけていたティパールも上手く逃げたはずだ。こちらは三人に対しあちらは一人。すでにこちらの勝ちは見えたも同然。
そう考えると口元に自然に笑みがこぼれるのも仕方ないところだ。だが、その笑みはすぐに凍りつくことになる。
疾走している森の中。行く手に佇む一つの影。その影の正体に気づくとペトルーシュカは間合いと取った上でその人影の前で立ち止まる。
「な、何で生きているのよ、あんた!!」
片手で刀をだらりと抜き身で下げたその人影は、さきほど石化させたはずの物忌無稽斎であった。
「確かにあんたには石化睨をかけたはず。なのになぜ生きているのよ!!」
自らの術に自信を持っていただけに、生きているのは信じられず激昂するペトルーシュカ。
「――魂符『幽明の苦輪』 相手が全て人間と思っておったおぬしのミスじゃな」
眼を瞑ったまま、静かに答える無稽斎。
「儂の名は物忌無稽斎ではない。それはあくまで人に紛れて暮らすための方便。しかし、ここまで儂の孫と似ているとはな。おかげでまんまと騙されたわい。偽りとはいえ、一時は娘として扱った娘。手にかけとうはないが、浦部も殺され、これ以上慧音殿に迷惑かけるわけにもいかん。すまぬが――成敗させてもらう」
眼をゆっくりと開く。
「ならもう一度、今度は本当に石にしてやるよ!」
ペトルーシュカがその瞳に魔力を集中させる。が、無稽斎の姿は消えていた。 気配を感じて背後を振り返る。
「それで逃げたつもり? それくらいじゃ私の石化睨から逃げられ――」
「妖子、いやペトルーシュカ。おぬしはもう死んでおるわ」
同時にペトルーシュカの腹部に黒い線が入ったかと思うと血があふれ出す。
「い、い、いつ?――き、きさ、ま」
「妄執剣『修羅の血』。たかだか蛇女如きに見切られる魂魄剣ではない」
ちりんと鍔鳴りの音がして、刀は鞘に戻っていた。
ペトルーシュカの体はどうと地面に転がると同時に、その体が二つに分かれた。
妖忌はペトルーシュカの死体に近づき、その顔を見下ろしてニヤリと口を歪めた。
「ふむ。――やはり妖夢のほうが可愛いの」
次楽しみにしてます。