カグヤは蓬莱の薬を飲んだとして、どんな弁明も聞く耳を持たれなかった。
そもそも誰一人としてカグヤの味方をする者はいなかったのだ。永琳と同じように。
例え姫であっても、禁忌は犯してはならないことは重々承知していたはず。
もしあの爆発の際、そうでもしなければ助からなかったのだとしても、
それが禁忌を犯してはならないという理由にはならないとされた。
その上永琳が薬を完成させずに放置していたものを、カグヤは偶然にも完成させてしまった。
永琳も後で知ったことだが、カグヤには王家代々に伝わる永遠の力が備わっていたのだという。
それこそ永琳がついの最後まで見つけられなかった蓬莱の薬の要素。
蓬莱の薬はカグヤの力が加わったことで完成してしまったのだ。
それが罪をさらに重くされるという結果を招いてしまった。
当初カグヤは処刑が妥当な罰であるということで同意されていた。
しかし蓬莱の薬を服用した彼女を殺すことはできない。
何度どのような方法で死に至らしめられても、彼女はすぐに蘇った。
結果、カグヤはあの蒼い星へと星流しの刑を実行される運びとなったのである。
永琳は自分の所為でカグヤに辛い目に遭わせてしまったのだと酷く後悔の念に囚われた。
やはり禁忌の研究には手を出すべきではなかったのだ。
完成に至ることはできなかったとしても、結果不幸な者が出てしまった。
発端はカグヤの誘いだったのかもしれない。
だがそこから生まれた欲望を制することができなかったのは自身の弱さだ。
「永琳、入るわよ」
今日もイザヨイが様子を見に来てくれた。
カグヤの星流しが執行されてから、永琳はしばらく家にこもりきりになっていた。
研究所は新たな所が建つまでは研究はやむなく止められているが
そうでない用事ですら永琳は外出しなくなったのだ。
そんな永琳を心配してイザヨイは仕事が終わるとこうして会いに来る。
「大丈夫? もの凄く顔色が悪いわよ」
「……えぇ。一時的なものだと思うから」
「一時的でも悪いものは悪いでしょ。ほら、夕飯作ってあげるから。何が食べたい?」
まともに食事も摂らなくなった永琳。
イザヨイはそんな親友に、ただ世話を焼いてやるしかできないでいた。
どうにかして永琳に前のように笑ってもらいたい。
紅茶を淹れても、今の永琳の心の傷は癒えることはないだろう。
せめて負担を軽減させてあげられるくらいのことができれば……。
「ねぇ、全部を自分の所為にして落ち込むのは止めた方が良いわよ」
台所で夕飯の支度をしながら、イザヨイは意を決して話しかけた。
「……そう言われても」
「あなたは確かに出してはならない研究に手を出してしまった。
その結果未完成とはいえ蓬莱の薬を作ってしまい、それをどうやってか
姫は完成させて飲んでしまった。それで姫は罪人となって星流しにされた」
淡々と突きつけられる事実に、永琳は胸が締め付けられる思いがした。
「そうよ。そもそも私が研究しなければ」
「じゃないでしょ。そもそも蓬莱の薬なんてものがあるから悪いんじゃない」
原因を突き詰めていけば、結局最後はそこに行き着くのがオチだ。
どれだけ落ち込んだところで、終いは存在しなければ良かったに行き着いてしまう。
「でも、あっても手を出さなければ良かった問題なのよ」
「あったら手を出したくなるのが人間ってものでしょうが」
それが禁忌なら尚更のことである。
手を出してはいけないものほど手を出したくなるのは、欲をもつものの道理。
だから許されるという問題ではないのはイザヨイだってわかっている。
だがそれで自分一人に非があると責めるのはお門違いだと言っているのだ。
「ありがとう。でも私のことは放っておいて」
「永琳……」
それ以上永琳は何も言おうとはしなかった。
イザヨイも今日の所は諦め、夕飯を作るとそのまま自分の家へと帰宅した。
その頭上には、あの蒼い星が悠然とその姿を現していた。
☆
それから数年の月日が流れた。
歳月の経過は永琳の心境もだいぶ落ち着かせ、多少は外も出歩くまでに回復した。
しかしイザヨイとはあの頃から会っていない。
イザヨイの優しさが自分には辛かったのだ。
彼女の言葉は励ましにもなったが、反面さらに業の深さを認識もさせていた。
幾度となく助けてくれた親友。
だが永琳の心にはずっとカグヤの事が引っかかり続けていた。
いつまで経っても、そのことだけは忘れてはならない。
そんなとき、王宮からあるお触れが出回った。
罪人カグヤの罪が償われた為、月への帰還が決定し、その為の使者を募るというもの。
数年の月日をあの穢れた星で生活することは、万死に値する罰。
星流しになったものは罪期が切れる前に発狂して死に至ると言われるほどだ。
一度の生でもそれだけの地獄を味わうことになるのだから、
死ぬことのできないカグヤはその地獄を罪期の間ずっと味わわなくてはならない。
罪期が数年なのもそれだけの罰だということ。
死刑という極刑でも償うことのできない罪に対して施行される究極の刑罰だ。
そしてカグヤはその罪期を生き延びた。
だからこの度晴れて月への帰還を認められたのである。
この機会を永琳が逃すはずがない。
会ってどうするわけでもないが、今はカグヤと会わずにはいられなかった。
そして永琳は、使者としてカグヤを連れ戻す任に自ら名乗りを上げた。
☆
そしてついにその日がやってきた。
あの星から見て月が満ちるとき、月と地上は道が結ばれる。
それは月の民の目でなければ捉えることのできないもの。
だから地上人は追ってくることはできないのだ。
使者は作戦確認の為ブリーフィングルームへと集められた。
そこで永琳は意外な人物がいることに驚いた。
「イザヨイ……」
そこには何故か友の姿があった。
ここにいるということは彼女も使者として志願したということだろう。
しかしそれだけの理由が思いつかない。
何が待っているかわからない穢れた地へと向かうのはかなりの覚悟が必要だ。
「どうしてあなたが……」
混乱して立ちすくむ永琳。
だがイザヨイは別に永琳には気付いていないように座っている。
話しかけようかと思ったが、そこへ団長が入ってきたためそれはできずに終わった。
使者達は誰にも見送られることなく、静かに蒼い星へと飛び立った。
永琳は久しぶりのカグヤとの再会を複雑な心境で待っていた。
カグヤは自分をどう思っているのか。
一人罪に問われなかった自分を恨んではいないだろうか。
ここ数年の間にだいぶ落ち着いてきたはずの思いが、たったの数時間程度で蘇ってきた。
「そろそろだ」
どれだけの時間が経ったのだろうか。
辺りは仄暗く、いったいどうなっているのかわからない。
だがしかし体が感じる重力が、目的の地へと辿り着いたことを実感させていた。
「ここが……穢れた地」
誰かが呟いた瞬間、雲が切れその合間から白い光が差し込んできた。
見上げるとそこには青白い光を地上へと降らしている満月の姿が。
自分たちはあそこからやってきたのだと思うとなんだか感慨深いものがある。
しかし今はそんなうつつを抜かしている場合ではない。
自分たちは任務を背負ってここまで来たのだ。
それにここは穢れた地。油断していると何に巻き込まれるか分からない。
「まずは罪人の様子を見に行くぞ」
団長の指示に従い、夜の森を進む使者団。
月明かりのおかげで暗い夜道もしっかりと捉えることができる。
誰一人声を立てることなく歩を進め、そしてカグヤが現在住んでいるという屋敷が見える場所までやってきた。
少し小高い場所にある竹藪の中。
ここなら身を隠したまま向こう側の様子を見ることができる。
息を潜め屋敷を見張る使者団。
屋敷の周囲にはおびただしいまでの兵士の姿が見えた。
「どういうことだ。我々が迎えに行くことが事前にばれていたというのか」
「罪人が罪期のことを覚えていたのなら有り得る話ではあります」
「そうか。だがわからんな。穢れた地に残るつもりなのか」
月に帰れるならその方が良いと使者達は口々に言う。
だが永琳はあの裁判のことを思い出すと、どうしてもそうだとは言い切れなかった。
「団長、何者かが出てきました」
使者の一人が屋敷の庭先を指差す。
縁側へその姿を現したのは――
「罪人カグヤ、確認しました」
永琳の心がどくんと弾む。
後数十メートルともしない距離に、ずっと忘れることのできない者の姿がある。
地上人として転生させられたカグヤは長い黒髪を生やし、異星の衣装に身を包んでいた。
「何をしているんでしょうか」
「月を見上げているのようだな」
「やはり帰りたいのでしょうか……」
「それが当然だろう。もしかするとあの地上人達が帰そうとしていないだけなのかもしれん」
「だったらすぐにでも助け出さなければ。相手はこの地に住む者どもですよ」
そうだ。
自分たちの任務はカグヤを月へと連れ戻すこと。
例え何があろうとも月の民であるカグヤをこれ以上地上には残してはいけないのだ。
「それに道の時間もあります。早くしなければ我々も帰還できません」
「うむ……そうだな」
団長の決断が全ての結果を握っている。
一同はその命令が紡がれるのを今や遅しと待ちかまえていた。
「総員、罪人カグヤの救出および地上人からの攻撃をできる限り無効化せよ!」
☆
制圧は殆ど一瞬だった。
数だけで言えば地上の兵士達の方が何倍も多かった。
しかし数はこの際力の差を埋める要素にはなりえない。
それだけ使者団と地上人との間には力の差があったのである。
「罪人カグヤ。我々は命を受けお前を月へと連れ戻しに来た」
団長がカグヤの前に立ち用件を述べていく。
それに対してカグヤは何も言わずに、ただ視線を動かすだけ。
その時動いていたカグヤの視線が一点で止まり、そこに映っていたのは永琳だった。
とても複雑そうな顔をしている永琳に、カグヤは確かに笑った。
実際に表情が変わったわけではない。
だがその視線に込められていたのは、確かに笑顔だった。
「良かったわね」
ぽつりと呟かれた言葉。
気付くと隣にはイザヨイが立っていた。
「これで全部終わった。元通りになるには時間が掛かるだろうけど、きっと大丈夫よ」
イザヨイの言葉を聞いた後、再びカグヤへと視線を戻す永琳。
カグヤは団長の言葉を受け入れ、月へと帰ることに受諾する最中だった。
再び森の中を歩く使者団。
後は道が消えないうちに月へと帰還すれば任務も終了だ。
兵士達が待っているという不測の事態はあったものの、無事にカグヤを連れ戻すことはできた。
当初の目的が果たせたのならそれでよい。
それに地上人達は誰一人として殺してはいないのだ。
全て気絶程度で済ましている。
相手は殺気をびんびんに醸し出して襲ってきたが、だからといってこちらが殺しにかかってもしょうがない。
こちらの目的はあくまでもカグヤの連行なのだ。
「……永琳」
「なんですか、姫」
他の者がカグヤを罪人と呼ぶ中、永琳だけは姫と呼んだ。
「これから月に帰るのよね」
「そうです。これから月への道に乗り、地上を離れます」
するとカグヤはしばらく黙り込んだかと思うと、永琳二だけ聞こえる声でこう言った。
「ねぇ、地上に残ることはできないのかしら」
その言葉を永琳はすんなりと受け止めることはできなかった。
ここに残るとカグヤは言った。
「それは本気ですか」
「こんな時に冗談言えるほど私は余裕ないわよ」
「ですが……」
カグヤは少ない言葉だったが、その動機について話してくれた。
地上人達にも優しさや慈しみがあり、自分はそれを受けて育てられた。
確かに穢れた部分も多かったが、それと同じくらいの良さもあることを知った。
月に帰ったところで自分の罪が永遠に残り続け、永遠に罪を意識しながら生きなければならない。
それならいっそこの地に残りたい。
「でもこの地に残るにしても私一人じゃ無理。だから永琳に一緒に残って欲しいの」
穢れた地であることは数年も暮らしていたカグヤがよく知っている。
だから自分を助けてくれる誰かの存在が欲しかった。
そこにやってきたのが永琳だ。
昔から色々と自分を助けてくれた彼女にしか、こんなことは頼めない。
「……姫」
永琳はどうするべきか悩んだ。
カグヤは元々月の民だ。
今は地上人としての命であっても、その本質は月の民である。
それにここで残るという選択肢を選べば、使者の者達が許すはずはない。
(でも……月に帰ったところで……)
カグヤの言うように、彼女は永遠に禁忌を犯した者として月の民から蔑まれることだろう。
それはどれだけ代が変わっていっても、カグヤの存在が永遠に残り続ける限り消えることはない。
そんな思いをこの先永遠に背負っていかなければならいのは、星流しの刑よりもずっと苦しく辛いものだ。
それに、と永琳は再び自身の判決が言い渡されたときのことを思い出す。
月の民は地上を穢れた地だと蔑んでいるが、裏では穢い部分も隠し持っている。
それを垣間見たからこそ、永琳はカグヤの言っていることが現実になる気がしてならなかった。
なにより、今このような状況に置くことになったのも自分の所為だ。
カグヤが望むことならそれを叶えてあげたい。
「……わかりました」
例え誰がなんと言おうとも自分はカグヤに付き従おう。
無罪と言われようと、やはり自分は犯してはならない罪を犯した。
その結果カグヤを不幸な境遇に置いてしまった。
この罪を償うには最早これしか手段がない。
「団長」
突然永琳が大きめの声で先頭を行く団長を呼んだ。
いったい何事かと皆が振り返る。勿論イザヨイもだ。
身なの視線が自分に向けられる中、永琳はなんの躊躇いもなく言い切った。
「私と姫はこの地に残ります」
静かな森に響き渡る凛とした声。
だがその場にいた誰もが、その言葉をすぐには理解できないでいた。
「なにを言っている!」
一番に理解し反論したのは団長だった。
やはりそれだけの実力と判断力はもっていたということだろう。
「月の民である我々がこの地に残り続けることもまた禁忌。
お前達は蓬莱の薬を作ったという禁をすでに破っている。
その上さらに禁を犯し、罪を重ねようというのかっ」
「そう、私達はすでに罪を犯した。これ以上罪を重ねることになんら躊躇いはありません」
「貴様っ……」
淡々と告げる永琳とは対照的に、団長は憤怒に顔を染めている。
そのやり取りを聞いた他の使者達もようやく事態が深刻であることに気がついた。
「バカなことを言わずに俺たちと一緒に帰るんだ」
「そうだ。そんなことをして何になる!」
永琳は使者達に鋭い視線を向けた。
彼等は結局自分たちのことが可愛いのだ。
姫のこれからを考えるなら、多少の譲歩を考えても良いだろう。
だが連れ戻せなかったときの自分たちをことを思い浮かべてそう言ったのだ。
「これも姫の幸せのため。あなた達はそれをまったく考えていない」
言い換えされた二人はそれ以上の言葉は言わなかった。
返事の代わりに向けられたもの。
それは彼等の護身用の武器だった。
最早話の通じる相手ではないと気付いたのだろうか。
他の者達もそれに倣って武器を構える。
「くっ……こうするほかないか」
団長までがその手に武器を持つ。
永琳とカグヤは背を合わせるようにして立った。
使者達はすぐに二人を取り囲み、じりじりとにじり寄ってくる。
「姫。私はあなたの為に矢を放ちます」
「ありがとう永琳。でもこれは私自身の戦いよ。私もやるわ」
そう言ってカグヤは懐から宝石の如き玉が付いた枝を取り出した。
それは彼女がこの地で手に入れた宝具――蓬莱の玉の枝。
「わかりました。それでは行きますよ」
「えぇ」
永琳は背負っていた弓矢を瞬時に構えると、目にも留まらぬ速さで矢を放った。
しかもほぼ同時に三本。
それらは全て囲んでいた使者達に命中する。
「なんだ……アイツは薬師じゃなかったのかっ」
信じられないという表情で永琳を見る使者。
彼等は知らなかったのだ。
永琳は頭脳だけの天才ではなかったということを。
戦いにおいても彼女はその天才ぶりを発揮できるのである。
「私をこのまま放っておいてくれないというなら……仕方ないわよね」
カグヤは手に持った枝を一振りする。
すると無数の光の弾がそこから生まれ、向かってくる使者達へと襲いかかった。
予想外な上あまつさえカグヤの先天的な力が加わり、使者達には為す術もない。
先程の地上人との戦いと同じだ。
数の差など関係がない。
それだけの力の差が、両者の間には生じていたのだ。
「後は……あなただけね」
団長を含め、他の使者が絶命した後。
永琳は残る一人の使者と対峙していた。
「イザヨイ」
いつも自分を支えてくれた親友。
この任務にも、きっと自分を心配して付いてきたに違いない。
だがそんなイザヨイでも、今の永琳の決意を揺るがすことはできない。
「永琳。あなたは一度は助かった命をまた棒に振るつもり?」
「何を言っているの」
突然の話に永琳は首を傾げる。
だがすぐにその意味に思い当たることを思い出した。
無罪の判決が出たときに、裁判官が言っていたではないか。
『お前の頭脳は失うには惜しい。王にそう助言したものがいたそうだ』
その者がいなければ、今頃自分は死刑になっていた。
「まさか……イザヨイなの」
「必死に懇願したわ。あなたは薬を完成させていない。研究も途中で止めた――って。
でも王は取り合ってくれなかった。だから最後の手段としてあなたの有益性を語ったの」
「……それで王は納得したのね」
イザヨイは肯定の返事の代わりに首を縦に振った。
「月も汚れていたって訳よね」
「それが分かっているなら話が早いわ」
月もここと同じなのだ。
そんなところでカグヤが穏やかな生活を取り戻せるはずがない。
そしてカグヤ自身がこの地に残りたいと言っているのだ。
「イザヨイ、私は姫と共にこの地に残る。分かってちょうだい」
「永琳……」
イザヨイならきっと頷いてくれる。
良ければイザヨイも一緒に残って欲しい。
3人ならばきっと穢れた地でも希望をもって生きていける。
「それはできないわ」
しかしイザヨイの返事は永琳の期待していたものとは真逆のものだった。
「どうして……」
「姫はそれでいいかもしれない。でもあなたはどうなの」
「私だってっ」
「あなたは永遠の命をもってはいない。そんなあなたがどうやって姫を守りながら生きていくつもり?」
イザヨイの真剣な眼差しに永琳は圧倒されてしまっていた。
こんな目ができるのかと疑いたくなるほどに真剣な瞳。
だがそれで考えを改めるほど、永琳の決意も浅いものではなかつた。
「それでも……私は姫の側にいる」
キッとイザヨイを見ながら、永琳はすっぱり言い切った。
その目に今度はイザヨイが気圧される。
どちらも思いの強さは同じらしい。
「だったら……」
「力ずくしかないようね」
永琳はカグヤに手は出さないように告げる。
これは自分とイザヨイの戦いだ。
カグヤの望みを叶える為の先程の戦いとはまた違う戦い。
友を思う心。姫を思う心。その二つの思いが、互いの決意を貫き通すために戦うのだ。
しばらく様子を見合っていた二人。
勝負の始まりは二人が同時に地を蹴った瞬間に始まった。
永琳は弓を引き、矢の狙いを定める。
イザヨイは幾つもの短刀を取り出し両手で構えた。
距離を取り合って攻撃のタイミングを見計らう。
瞬時の判断で放たれた攻撃。
そのタイミングも完全に一致していた。
空中でぶつかり合う短刀と矢。
攻撃は互いに届く前に地に落ちた。
「そんなに強かったのね」
永琳は休む間もなく弓を構えながら話しかける。
「王家の従者は戦いもできなきゃいけないのよ」
イザヨイもさらなる短刀を取り出し構える。
そして再び二人は地を蹴った。
永琳の矢がイザヨイに向かって放たれ、イザヨイはそれを手に持った短刀で払い落とす。
そのまま手に持っていた短刀を投げつけた。
移動先を予測されて投げられた短刀を、永琳は瞬時の判断で避けきる。
目まぐるしく変化する攻防の嵐。
そんな中だというのに、二人の顔には笑みが浮かんでいた。
「アカデミー時代にやった大げんかを思い出すわね、永琳」
「そんなバカなこともやったかしら」
あの時も意地の張り合いが原因だった。
どちらも頑固で後に引かずに、終いに手の出る激しい喧嘩となってしまったのだ。
「あの時は結局どっちが勝ったんだったかしら」
「私よ。少し卑怯かとも思ったけど、永琳はそうでもしないと負かせられないもの」
「……まさか」
永琳はイザヨイから距離を取った。
あの時負けたのは確かだ。
しかしどうしてもその敗因がわからないままだった。
だが今なら分かる。
「遅すぎるわ」
永琳の周りに現れた無数の刃。
瞬きの刹那に突如として広がる信じがたい光景。
「もう降参して。怪我で済ませるつもりだけど、できればあなたに怪我なんてさせたくない」
イザヨイの指一本でこの刃達は自分に向かってくるだろう。
これで勝ちを確信したのか、情けの言葉までかけてくる。
「どこまで優しいのかしらね」
言って永琳は笑みを溢した。
何処までいってもイザヨイはイザヨイのままだ。
「でもお生憎様。私は決意を曲げない。勿論降参なんて以ての外」
永琳の言葉にイザヨイも笑った。
「言うと思ったよ。そこがあなたの凄い所なんだけどさ」
でも、とイザヨイの顔から笑みが消える。
永琳も口元を引き締めた。
「それは私だって同じ事よ!」
パチンと指が鳴らされ、空で止まっていた刃達が一斉に永琳に向かって牙を剥いた。
向かってくる刃の群れ。
しかし永琳は焦る様子など微塵も見せず落ち着いた様子で、
それでいて素早い動作で弓を引いた。
そして狙いを定めて一気に引き絞り、放つ。
夜の静寂を引き裂くようにして飛ぶ矢。
それらは向かってくる刃の幾つかとぶつかり地へと落とす。
だがその程度で防ぎきれる量ではない。
「永琳っ」
その様子を離れてみていたカグヤも思わず声を出した。
カグヤの視線の先、永琳は抵抗空しく刃の群れに迫られる。
最早これで決着かと思われた、次の瞬間――
「私に時間を与え過ぎよ」
凛とした声が響く。
永琳はなんとかすり傷一つなく立っていた。
「……まさかあの会話の間にそこまで考えていたとはね」
永琳は刃に囲まれた瞬間から、どうすればこの攻撃から逃れられるのかを考えていたのだ。
どのルートなら避けられるのか、そのためにどの短刀を落とし、
どのタイミングでそのルートへと突っ込むのか。
それら全てをあの短時間の内に導き出したのである。
「やっぱり永琳は凄いわね」
「イザヨイだってあんなことあなたくらいしかできないわよ」
互いのもてる力全てを出し切る消耗戦。
それも終局に入ろうとしていた。
永琳に残された矢は残り一本。
そしてイザヨイの手にも短刀は一つ。
「拾えば?」
永琳の申し出を断るイザヨイ。
あくまでも永琳とのハンデは作らないつもりらしい。
「そう、それじゃあお互い次の一撃が最後になるというわけね」
「そうね」
先程までの激しい攻防から一転、二人は向き合って立つとそのまま武器を構えて動かなくなった。
一瞬だ。
イザヨイもここにきて力を使うなどという卑怯な真似はするまい。
弓を引く指に汗が滲む。しっかりと持っていなければ。
相手もどうやら同じらしい。
離れているがわかるのだ。それは無論あちらとて同じだろう。
時間も空間も静寂が支配する。
須臾も今の二人には永遠のような長さに感じられる。
それでも二人は一切呼吸を乱すことなく、来るべき刻を待ち続けていた。
そして、その刻がやって――――
「この裏切り者があああっ!!」
なんと死んだと思われていた使者団の団長が生きていた。
団長は己の武器である銃を永琳に向けると、まったくの容赦なく発砲した。
カグヤが止めようにも場所が離れすぎている。
まったく予想外の出来事に、イザヨイも反応することができなかった。
団長はその直後に絶命したが、その銃弾が止まることはない。
「あぐうっ」
銃弾は永琳の右肩を貫いた。
鮮血が花弁のように散る。
「永琳っ!」
イザヨイは勝負のことなど忘れて永琳下へと駆け出す。
「あれ?」
イザヨイは突然胸に違和感を覚え立ち止まった。
視線を自身の胸元に動かす。
そこには一本の矢が突き刺さり、背まで貫いていた。
「イザ、ヨイ……?」
「永琳、私……これ、え?」
永琳もイザヨイも何が起きたのか理解できなかった。
全てを見ていたカグヤだけが一部始終を理解できていた。
団長が永琳の右肩を撃った瞬間、その衝撃で永琳は矢から指を離してしまった。
狙っていたのはイザヨイの腕。
だが、弓を持っていた右手を打たれその照準はずれてしまっていた。
永琳が撃たれたイザヨイは無我夢中で走り出す。
その目に永琳が誤射した矢は映っていなかった。
そしてずれた照準はイザヨイの胸を貫いてしまったのである。
「う、そ……でしょう」
目の前で崩れ落ちるイザヨイ。
その胸には紛れもなく自身が放った矢が刺さっている。
例え誤射であったとしても、自分が射たことに間違いはない。
「イザヨイ……ねぇ、イザヨイ」
話しかけてもイザヨイからの返事はない。
崩れ落ちたまま、ぴくりとも動かないイザヨイ。
「いや……いやよ」
ふるふると首を振り、目の前の現実から目を背ける永琳。
その肩からは大量の血が流れ出ているにも関わらず永琳はただ立ち尽くしていた。
「永琳! そのままだと死んじゃうわよっ」
「だって……イザヨイが、私の所為で」
永琳の目からは涙があふれ出ていた。
拭うこともせず泣き続けている。
このままでは本当に出血多量で命が危ない。
「永琳!」
カグヤはなんとしても永琳を歩かせようとするが、永琳の体は微動だにしない。
必死にカグヤは叫び続ける。
ここで永琳まで死んでしまったらどうすることもできない。
「私の為ならなんでもしてくれるって言ったのは嘘だったのっ!?」
「姫……」
その言葉にようやく永琳が反応を返してくれた。
カグヤはさらに続ける。
「そうよ、私にずっと付いてきてくれるんでしょう! だったらここで死ぬなんて許さないんだからねっ」
死なせるわけにはいかない。
死んで欲しくない。
死ぬわけにはいかない
死んではいけない。
「……姫、参りましょう」
「永琳……」
私は彼女を忘れない。
私は私の罪を忘れない。
☆
あれからどれくらいの月日が流れだろうか。
輝夜と共に山奥で暮らすようになって、生活は穏やかそのもの。
あの時の怪我を治してくれたのは姫の作り出した蓬莱の薬。
蓬莱の薬は永遠の力を持つ者が、その力を用いて作らなければならなかったのだ。
それを飲むのに何も怖くなかった。
生きなければならないと思ったのだ。
輝夜と共に生き続ける。
それが私の贖罪。
「師匠、準備が整いました」
長い耳をもった新しい家族。
ウドンゲこと鈴仙・優曇華院・イナバが私に話しかけてきた。
ウドンゲという名前はせっかく私がつけてあげたのに、この子は気に入ってないらしい。
姫なんて兎のことはすべて「イナバ」と呼ぶものだから区別も何もない。
まったくどうしてこの良さが理解できないのかしら。
「師匠?」
「なんでもないわ。それよりウドンゲ、本当にこれで良いの?」
ウドンゲはきょとんとした顔で首を傾げている。
この子はただの兎ではない。
月から落ち延びてきた月の兎なのだ。
地上人は月へと行く術を編み出したらしく、月はその侵攻を受けたのだという。
にわかには信じがたい話だったが、ウドンゲを信じるならそれは事実なのだろう。
でも月を捨てた私達にとってはそんなこと最早どうでも良い。
ウドンゲは姫のペットとして屋敷に置くことになり、それでまた生活は穏やかになるはずだった。
でも、そうそう甘い話ではなかったのだ。
ウドンゲの仲間という者から彼女に連絡があり、彼女を連れ戻しにやってくるという。
その瞬間、私の脳裏にはあの夜の出来事が蘇った。
同時にあの子の笑顔、そして最期のことを。
私は姫と共にウドンゲを使者から守ることにした。
私からしてみれば姫も守ることになる。
私達は使者を殺して今この地に住んでいる。
それは月にも知れ渡ったはずだ。
だからもし今回姫や私が生きていることがばれたら、またここを離れなければならない。
もうあんなことを繰り替えのは御免だ。
だから私達は地上から満月を消したのだ。
☆
そして本当の月が満月の夜。
永遠亭に侵入者が現れた。
まさか月の使者がやってきたのかと屋敷内は騒然となる。
永琳はすぐに輝夜を隠し、鈴仙を迎撃に向かわせた。
「遅かったわね。全ての扉は封印したわ。もう、姫は連れ出せないでしょう?」
侵入者は二人。
ここまでたった二人でやってくるとは中々のやり手らしい。
だがその相手は月の使者ではなかった。
見た目は幼いが感じる魔力は相当な吸血鬼。
そしてエプロンドレスに身を包んだ長身のメイド。
「貴方の仕業かしら? この月の異変は」
「怪しい感じね。特にその挑戦的な見た目とか」
見た目のことを言われてむっとなる鈴仙。
「あら、羽付きのあなた程ではないわ。ところで、こんな夜中に何の用?」
今日はこんな連中の相手をしている場合ではないのだ。
もしかすると月に連れて帰られるかもしれない重大な日。
なのに夜は止まっているわ、侵入者はくるわで大誤差なのである。
するとメイドがどこからともなくナイフを取り出して言った。
「それはもう凄い用よ。この月の異変は、貴方近辺の仕業でしょう?
嫌な臭いは元から断て、ってね。私は掃除が得意なの」
「月の異変? うーん、この術によく気が付いたわね。地上に這いつくばって生きるだけの、穢き民のくせに」
清ました顔で言うが、鈴仙は内心焦りつつあった。
師匠の術を見破るような奴らだとは思っていなかったのだ。
「あいにく、空に月と星しか見たことが無い汚れた生き物なんでね。月に変化があれば嫌でもわかるわ」
「お嬢様は夜型、ですものねぇ」
「さっさと地上に満月を戻すのよ」
それに比べて相手はかなり余裕に見える。
だがここで引き下がっては使者が来ても戦うことなど出来はしない。
鈴仙は勇気を持って言い返した。
「まだ、術を解くわけに行かないのよ!」
だが否応にも体は震えてしまう。
「あら、お迎えかと思ったら、ただの迷い妖怪? まぁ、お迎えが来れる筈が無いけど」
そこへ頼もしい声が届いた。
鈴仙の師匠、永琳が姫を隠し終えて戻ってきてくれたのだ。
「誰?」
「咲夜、悪いのはこいつよ。一発で判ったわ、この悪党面で」
吸血鬼の言葉に、永琳は言い得て妙だと心の中で自嘲した。
確かに自分は悪党なのだから。
「酷い言われ様ね。確かに、この地上の密室は私が作ったわ。でも、これも姫とこの娘の為」
正直にに自分がやったと認める永琳。
その言葉に相手のメイドが反応した。
「そうと決まれば、倒さないわけには行かないですわね」
刹那、永琳は彼女の顔を見てギョッとした。
いやまさか、そんなはずはない。
だってあの子はあの時。
しかし見れば見るほどうり二つ。
それにあの髪の色。
(だめよ永琳。今はとても大事なとき。私の精神が乱れたら術が解けてしまう!)
考えたいのを我慢して、永琳は目の前のことだけに集中した。
「うーん、でもまだ駄目。ウドンゲ、ここはあなたに任せたわ。間違っても姫を連れ出されないようにね」
「お任せください。閉ざされた扉は一つも空かせません」
鈴仙が頼もしく頷いたのを見ると、永琳は廊下の奥へと姿を消した。
「ふふふ。無事ついて来てるようね」
鈴仙は善戦するも敗れてしまったようだ。
自分の後を追いかけてやってくる二人を確認しながら永琳は偽の通路へと誘っていた。
しかしその顔を見る度に、心の中がかき乱されている。
「ほらほら。もう後が無いんじゃないのか?」
「でも、さっきから大分進んでいるけど……。この廊下、終わりが見えません!」
道を戻らないように追いつかせる。
相手はこれが偽の通路だとは思ってもいないようだ。
「さぁ、そろそろ鬼ごっこも終わりにしよう」
使い魔の蝙蝠と共に攻撃を仕掛けてくる吸血鬼。
永琳はそれを避けながら、さらに相手を煽るような言葉をわざと言う。
「鬼はあなたでしょう。吸血鬼さん」
「捕まえるのなら私にお任せください」
突然背後に現れたメイド。
一瞬のうちに背後を取られるが、永琳はすぐにその場から離れた。
(この力は……)
ますます永琳の心には波が立っていた。
背格好だけでなく、まさか力まで同じなどあろうはずがない。
永琳はかつて友と話した、あることを思い出していた。
☆
それはまだ永琳とイザヨイが互いの就職先に勤め始めて間もない頃。
二人は時間が合うと、時折どちらかの家で酒を飲んで語らっていた。
イザヨイは仕事が順調にいかないと愚痴をこぼし、永琳は苦笑を浮かべてそれを聞いていた。
「だからぁ、私はまだ慣れてないのよ~っ」
「でも王宮勤めのメイドでしょう。慣れる慣れない以前に大変そうなんだけど」
王宮のメイドとはかなり辛い仕事だと永琳は聞いていた。
そこに就職できるの王宮側から認められた者だけで、そこからさらに就職してからもふるいに掛けられる。
あまりにもの厳しさに自ら止めていく者が多いのだ。
それを乗り越えて初めて、その者は王宮勤めのメイドであることを許されるのである。
「む、それって暗に私がすぐにでもやめるって言いたげね」
「そんなことは誰も言ってないわよ」
「……ぬぅ」
酒のなくなったイザヨイのグラスに、新しい酒を注ぎながら永琳は微笑む。
イザヨイにはちょっと抜けているところがあるのも事実だが、
それ以上に努力家で意地っ張りであることを永琳は知っている。
どんなにやめる者が多かろうと、彼女はきっと意地と努力で残り続けるに違いない。
――と、それを本人に言うと顔を真っ赤にして――酒のせいかもしれないが――俯いてしまった。
「それで実際の所はどうなの?」
「うん、思っていた以上に厳しいのは確かよ」
「愚痴りっぱなしだものね」
「……ぐ。でもいざとなったら必殺技を使うから大丈夫!」
「ひ、必殺技?」
思わずずっこけてしまいそうになる単語。
しかも本人は至って大まじめに言っている。
「どうしたの? もう酔った?」
「違うわよ。そういえば永琳にもまだ教えてなかったわね」
「?」
するとイザヨイは自分の手の平を見るように言う。
訳が分からないまま永琳はイザヨイの手の平に視線を落とした。
「えっ」
一瞬のうちに手の平の上に現れたのは永琳の財布。
それは自分の鞄の中に入れておいたはずのものだ。
永琳はすぐに鞄の中を改める。
なんと鞄の中から財布が消えているではないか。
つまりイザヨイの手の上にあるものは紛れもなく自分の財布だということだ。
「ちょっ、どうなってるの」
手の平を返したり、握ったりという動作はなかった。
本当に一瞬のうちに現れたのだ。
「どう? 驚いたでしょう」
えっへんと胸を張るイザヨイ。
だがそれを見せられた永琳は目を白黒させるしかない。
「そうか……あなたの力って」
「もう気付くなんて流石は永琳ね」
永琳はイザヨイが持つ力の正体に気がついた。
それは時間操作。
時間を止めてその間に自分の鞄から財布を抜き取り、何事もなかったように見せれば
時が止まっていた自分には突然現れたように見えるという仕組みだ。
「正解。これがあれば時間がなくても時間を掛けてじっくりと作業に取り組めるというわけ」
「成る程ね。王宮からお達しが出るはずだわ」
「……なんだか引っかかる物言いね」
「そんなことないわよ」
永琳はにこにこと笑って真意を隠す。
イザヨイは納得できない様子で拗ねたようにグラスを傾けている。
「あ、そうだ。まさかあの時もその力を使ったんじゃないでしょうね」
「あの時?」
「ほら、アカデミーにいたとき凄い喧嘩したことがあったでしょう?」
「あぁ、あれか。……内緒」
「それは肯定と受け取るわよ」
じとーと見つめてくる永琳にイザヨイが堪らずに吹き出した。
あまりにもイザヨイが楽しそうに笑うので、永琳も微笑むしかなかった。
☆
その後は二人で朝が来るまで飲み明かし、翌日は二人とも痛い目を見たのも今では良い思い出だ。
だがあの時にイザヨイから聞いた彼女の力の話。
時間操作の力。
「夜を止めていたのは貴方達でしょう? そんなことして、姫の逆鱗に触れてなければいいけど……」
目の前のメイドは夜を止めることができるほどの時間操作能力者だ。
もはやこれで疑いようがない。
イザヨイはあの時死んでいなかったのだ。
あの時、実際には死を確認していない。
最早死んだものとばかり思っていたが、まだイザヨイは生きていたのだろう。
そして多分地上人に助けられ、そのままこの星で一生を終えたのだ。
少なくとも目の前の女性が蓬莱の薬を飲んだイザヨイでないのは確かである。
ということは、イザヨイはこの星で子を作り命を繋げたということになる。
そしてその地はこれまでもずっと受け継がれた来たのだ。
時折先祖返りということで、その身に眠る血の力をもって生まれてくる者がいるらしい。
きっとこの咲夜という少女は、イザヨイの力を先祖返りで受け継いだ子なのだ。
だから銀糸の髪を持ち、時間操作能力をもっている。
あくまでもこれは推測だ。
本人に聞いたところで一千年前の先祖のことなど知っているはずがないだろう。
だが彼女の存在は、確かにイザヨイがあの時死んでいなかったことを永琳に伝えていた。
まさかこんな縁で再会するとは思いもしなかった。
自身の手で友を殺してしまったという罪。
それを償うために永遠の命と共に生きてきた自分。
その罪は一千年の時を経て、ようやく償うことができたということか。
なんにしても永琳は心の奥が軽くなっていくのを実感していた。
(イザヨイ……もしかしてあなたがこの子を導いてくれたのかしら)
私は彼女を忘れない。
私は私の罪を忘れない。
千年にも及んだ贖罪。
もう、許してもらえるのですか?
《終幕》
私の中の咲夜と永琳の関係にまた新たな解釈が加わりました
ですが、正直言うと今までの貴方の物語に比べて『先が読めすぎる(王道という意味ではなく)』ように思います。
最初のあたりで、結末はともかく経過まで想像がついてしまいました。あえて意図してらっしゃるのかもしれませんが…
さて、身の程もわきまえず失礼な事を言ってしまい申し訳ありませんでした。
もし不愉快でしたのなら、貴方の一ファンの勝手な独り言とお聞き流し下さい。
長文失礼しました。
>私の中の咲夜と永琳の関係にまた新たな解釈が加わりました
そう思っていただけると嬉しいです。
あんまり見ない解釈ではあるかなと。
母娘説ではどうにも自分が納得できなかったものですから。
>正直言うと今までの貴方の物語に比べて
>『先が読めすぎる(王道という意味ではなく)』ように思います。
このように指摘してくださると、次回への改善点がよくわかるので
ありがたいです。確かに少し分かり易すぎたようにも思えます。
今回は原作設定に準拠さらつつも自分なりの解釈を加えるという
スタンスで書いたため、多少の安直さは仕方ないとは思っていたのですが、
もう少し後の方で話が分かるように工夫した方が良かったですね。
ありがとうございました。