空にいる小鳥たちが、かすかに聞こえる少女の歌声に合わせて舞い踊る。幻想郷の深くて暗い森…そこは様々な人妖や動物,虫たちが棲む、生態系豊かな森(?)である。
さて、そんな森に棲む一人の少女ミスティア・ローレライが本編の主人公。夜雀である彼女は、この森の小鳥たちを束ねるいわば森の小鳥たちのボスだった。
まぁ現状を言うと、敬意をもたれている『ボス』というよりは、親しまれている『お姉さん』といったところであるが…それもまたボスとしてのありかたの一つかもしれない。
とまぁそれはさておき、彼女が最近心配している事があった。彼女になついているとある子雀が、なかなか巣立とうとしないのである。
「あのね、だからそろそろ巣立たないと大人になれないよ?」
私はいつも通り目の前にいるチュンスケを励ました。
毎年小鳥たちの面倒をみてきて、巣立とうとしない雛鳥たちはいつの年にもいるのだけど、この『チュンスケ(命名私)』は本当に筋金入りで、同じ巣にいた他の雛達が巣立った後も、全く巣立とうとする気配がない。
そして他の雛が巣立って一月が過ぎ、二月が過ぎすると、やがて親鳥たちもすっかり愛想をつかして面倒をみなくなってしまった。
だけど、そんなことをすればチュンスケはおなかを空かせて死んでしまう。そんなのは絶対に嫌だと思った私は、親鳥の代わりに餌を運んできて、そしてその度に説得を試みるのだけど…
「チュン!」
「う~ならなくていいって言ったって…」
返事はいつも変わらず『やだ』だった。
そんなこといったってなっちゃうんだよ?どうしたものかなーって、私はため息をついた。
そんな私にチュンスケは言う。
「チュンチュン!!」
僕ずっと巣にいるからいいもん?はぁ、それならちょっと脅かしちゃおう。
私は、ちょっとまじめな顔を作ってチュンスケに向き直る。チュンスケは、微妙に怯えた表情になってあとずさった。
「そんなこと言ってると、大食い亡霊とかサバイバル巫女に焼き鳥にされちゃうぞ~」
そう言って私はチュンスケを襲う真似をする。あの連中よく森に来て小鳥たちをさらおうとするの。私が防戦しているうちに大体は退避できるし、雛達の住む巣も巧妙な偽装でばれないけど、チュンスケみたいにこうも同じ場所に住んでいるといつばれてしまうかもしれない、巣から動けない小鳥なんて格好の獲物なのに…
「チュン!」
「巣立つ位なら食べられたほうがいい?あう~」
だけどチュンスケはちょっと怯えた目をしたけど、すぐに言い返した、もう私には説得の言葉がないよ~
「チュンチュチュン」
「お姉ちゃんごめんねって…君の問題なんだけどね~」
「チュン…」
気落ちする私を見て、すまなく思ったのかチュンスケが言った。
食事を運ぶたびに感謝してくれる素直な子…きっと巣立つ勇気がないだけなんだろうな、この子。うん、仕方がない、君が巣立つまでは面倒を見てあげるよ。
私は決意を新たにする、いつかはこの子もきっと巣立ってくれるはず、その時まで私が君を守ってみせる!
少女子雀雑談中…
「それじゃあまた明日ね、静かにして蛇とか鷹とか巫女とか亡霊とかに見つからないようにするんだよ」
しばらくチュンスケとお話した私は、最後にそう言って立ち上がった。
ちなみに、例の二人はもはや肉食獣扱い。ま、当然だよね。
「チュン!」
「それじゃっ」
元気よく返事をするチュンスケに手を振り、私はどんどん高度を上げた。
お日さまは足早に西を目指し、空を渡る風が心地いい。眼下に見える景色は、ゆるやかな夕方の日差しに照らされて本当にきれい。チュンスケ、君も早く仲間に入れたいな。
私は、そう思いながら先を目指した。
「ピー!」
「あ、なになに?」
「ピーピー!」
「ふんふん、えっそうなんだ?」
「ピー」
「へぇ~以外だったよ。ありがとっ!次は私も食べてみるね」
「ピー」
上空で出会った『ピーちゃん』と、美味しい木の実について情報交換をした後、私は自分の家へと進路を向けた。
いろいろと回っていたら、意外と時間をとられて夕ご飯がちょっと遅れそうだった。まぁそれ位いいんだけどね、みんなとお話してた方がずっと楽しいし…
「今日も楽しかったな」
だんだん暗くなる空の中、まっ先に顔を出した気の早いお星さまに私はつぶやく。
ずっと具合が悪かったパタスケの病気もよくなったみたいだし、今年はけっこうお天気がよかったから木の実も豊作だろうし、あとはあの子が巣立ってくれればいうことないんだけど…
夕闇せまる空の中、私は空中でう~っと伸びをすると、高度を下げ愛しの我が家へとむかっていった。
うねうねしたとねりこの大木の上に組まれた小屋、そこが私の自慢のお家だ。
ちなみに、木の下には商売道具の屋台が置いてある、我ながら合理的で快適よね。
トチ餅にきのこの味噌汁。それに粟と稗入りのご飯が今日の晩ご飯。
「トチ餅~♪トチトチ美味しいよ~♪」
昨日までに手間暇かけて作ったトチ餅に、あんこを入れ七輪で焼く。美味しそうな匂いが漂ってきた。
ちなみに歌を歌いながら料理するのが私の癖…というよりも、誰かと話している時以外は何か歌を歌ってないと落ち着かないんだよねー。
「できた~♪できた~♪ごはんっごはんっ♪晩ご飯っ♪」
「ピーピー!」
「チュンチュン!!」
私の歌につられたのかな?それともおいしそうな匂いにつられたの?
片方だけでもうれしいし、両方ならもっとうれしい、両方とも違っても、来てくれただけで十分うれしいな。
気づくと、近くにいた小鳥たちがだんだん集まってきた。
「「「チュンチュン」」」
食べたいな~って口々に言う小鳥達に、私はもちろんオッケーを出す。自分の作ったお料理を食べてもらえるのってうれしいよね。
「あはっ!いいよいいよっ、どんどん食べてね。あ、トチ餅だけはだめだよ?のどに詰ま…あああ~」
「ヂュンヂュン~!!」
って私が言いかけた時には、もうトチ餅をのどに詰まらせている小鳥が一羽、人の話は最後まで聞いてね…ってそんなこと考えてる場合じゃなかった!
私は慌てて小鳥の背中を叩いて、トチ餅を吐き出させた。
「もうっ!ほら、大丈夫?」
「チュン~」
「死ぬかと思ったって?はぁ、人の話はちゃんと聞こうよ~」
幻想郷ではなんでこうも人の話を聞かない人妖and動物が多いのかな、もう。
私は、心の中でちょっとだけぼやいたけど、その後みんなにのどに詰まらせないようなお料理をどんどん出していった…
「チュン!」
「あは、おいしい?作ったかいがあるよ」
「ピー!」
「あ、あの木の実食べられるんだ、知らなかったな。ありがとう、早速明日試してみるね」
「ピーピー!」
「え!?成功したんならいいけど…だけどあんまり無茶はしないでね。人里に行ってご飯をつまみ食いしてくるなんて、無茶もいいところだよ?」
「ピー」
「次からはやめる?うん、それがいいよ。君の焼き鳥姿なんて見たくないもん」
「チュン!」
「ええ~!?危機一髪だったね。う~ん、あの大食い亡霊の手から逃れたっていうのは本当に奇跡だよ。でもたぶん二度目はないよ?チューイ、今度は遭わないように気をつけてね」
「ピー」
「へぇ、西北の森ではドングリが豊作かぁ」
「ピーピー!」
「でも蛇も多い?みんな気をつけてね」
楽しくにぎやかな私の家、騒がしくも幸せな時間はどんどん過ぎていく…ごはんはやっぱり大勢で食べるのが一番だよね。
平和な一日が終わり、やってきた危険な夜。
森の入り口では、食料を確保すべく鳥たちの寝込みを襲わんとするサバイバル巫女と、鳥たちを護衛せんとする夜雀の、緊迫した睨み合いが始まっていた。
「急いでるの、通してもらうわよ」
「通すもんか!また小鳥達をさらっていくんでしょ!!」
威風堂々といった雰囲気で空中に立つ巫女に私は言い返す。少し身体は震えてるけど…こわいけど…みんなが逃げる時間を稼がなきゃ。
私は、震える自分の身体を叱りつけて威風堂々立つ巫女を見据える。
っていうか威風堂々としていても目的が目的だからな~もう!もうちょっと正義の為にその力を使えないのかしら。
そんな私に、巫女は『私が正義で立ちふさがるのが悪なのだ』と言わんばかりにふてぶてしく言い放つ。
「人聞きが悪いわね、食料確保って言いなさいよ」
「~っなお悪いってば!!」
あきれている私に、こんなことを堂々と言い放つこの巫女には『優しさ』っていうのがないのかな?野蛮よ、小鳥を食べるなんて!
だけど、頭を抱える私に巫女はなおも追い討ちをかけてきた。
「食料確保のどこが悪いのよ、私だって生きていかなきゃならないんだから。文句はお賽銭を入れない連中に言ってよね」
「あ~責任転嫁っ!」
一日一食のあなたの食生活に同情はするけど、何も愛らしい小鳥達を食べなくたっていいじゃない!
そう思った私は言い返した。でも…
「チキンヘッドのくせに四文字熟語を使うなんて生意気よ」
「言ってる事が無茶苦茶だよ~!!」
そもそも私チキンじゃない…でも、半泣きになって言い返す私に、この巫女は逆ギレしながらこんなことを言ってきたの。
「うるさいわね、あんたが邪魔するせいで私の補給線はずたずたなのよ。みんな逃げちゃうんだから!」
「みんなが逃げる時間を稼いでるんだから当たり前でしょ!」
「む、あんたから焼き鳥にしてやるわよ!!」
「あんたこそ鳥目にしてやるんだからっ!!」
売り言葉に買い言葉、説得は失敗しちゃった、最初から予想はしていたんだけど…
その時、巫女の力が一点に集中して…来る!敵意を感じた私はすぐに迎撃体制をとった。
強力な力が巫女の前面に集中して、続いて私に向かってきた…
「封魔陣!」
「夜雀の歌!!」
私と巫女の弾幕がぶつかり合い、相殺して消し飛んだ。森の木々が揺れる…みんな無事でいるといいのだけど…
野蛮な爆風が森を騒がし、やがておさまる。みんなを心配しながらも、私は爆煙の先を見据えた。
「へぇ、なかなかやるじゃない」
「そっちこそっ!」
予想通り悠然とそこにいる巫女、余裕綽々ね、腹立つな~。こっちなんてこんなこと言っていても、実はもう限界なのに…
でも、一瞬の静寂は巫女の一言で破られた。
「だけど私のご飯は譲らないわ!二重弾幕結界!!」
トンデモナイことをぬかしながらとんでもない弾幕を放つ巫女。
四方から襲いかかるその弾幕に、私も渾身の力を込めて応戦する。
「真夜中のコーラスマスター!!!」
二つの弾幕が激突した。私の渾身の一撃…
衝撃が周囲に伝わり、弾幕が激しくせめぎあう。
でも、力量の差は否めず、あっさり抜かれる私の弾幕。たちまち無数の弾丸が私を襲ってくる。
「きゃっ!?」
体中に巫女の弾幕が降り注ぐ。痛い!?強いよ~!!
全身を無数の弾丸に叩かれた私は、あっという間に戦闘力を失い、たちまち進路を地面に向けざるをえなくなった。
だんだん迫る森の土…
「ま…待って~」
衝撃を感じて全身に激痛が走った、薄れゆく意識の中で、巫女を止めようと私は手を伸ばしたけど、あいつはそんなこと気にもかけずに去っていく、悔しいよっ!!
「さようならお邪魔鳥~。こんばんわ~晩ご飯~」
巫女は楽しげに言うと、私が落ちるのも確認せず、余裕な態度で森へと進む…
「わーん!!待って~」
絶っ対、間違ってるよ~その言い方!みんなが…みんなが…
サバイバル巫女が森の奥目指し飛んでいってしまった時、私の全身を衝撃が襲い、たちまち私は意識を手放した。
翌朝
「ピーピー!!」
「チュン!」
「よかった~、みんな無事だったのね」
「チュンチュン」
「ミスティアが時間を稼いでくれたおかげ?そう言ってもらえると嬉しいよ!!」
私の家に集まってくれた小鳥達は、次々とお礼と、そしてお見舞いの言葉を届けてくれた。全身が痛いと同時に、なんかくすぐったい気分。
そしてみんなはどうやら無事だったみたい、傷だらけになった甲斐はあったなぁ。
「ピー!」
胸をなでおろす私に、チーちゃんがクルミを差し出してくれた。
「ありがとー。遠慮なくもらっておくね」
「チュン!!」
「チュン吉もくれるの?ありがとねっ」
「チュン!」
次から次へと、お見舞いの品を届けてくれる小鳥達に、私のおなかは膨らんで、心はもっと満腹だ…う~ん『心が満腹』ってなんか変だけど…まぁいいよねっ。
みんなの笑顔を見ていると、つらいのも痛いのもあっという間に吹き飛んだ。今日も楽しい一日になりそうだな~。
みんなの話を総合すると、私が防戦したおかげでみんなは危険に気付き、隠れたり逃げたりすることができたみたい。
巫女の方は「はぁ、また動物性タンパク質はなしかぁ、あの夜雀め。次に会ったら今度こそフライドチキンにしてやるわ」とかなんとか言いながら、木の実や山菜を抜け目無く集め、帰還していったそうだ。
「ぶるぶるっ!フライドチキンなんて恐いなぁ~」
巫女が呟いたという一言を聞いて、私は思わず震え上がった。そもそもチキンじゃないのに…
「チュンチュン!」
「ピーピー!!」
「うん、やっぱりみんなも恐いでしょ。ごめんね、私がもっと強ければいいんだけど…」
落ち込む私に、みんなが次々に励ましの言葉をかけてくれた。
「チュン!」
「ピー!!」
「あはっ、ありがとーね」
ミスティアは十分頑張ってるよ、おかげでみんな助かったよ…かぁ。でも次もそうできる保証なんてどこにもないからなぁ。
皆が去ると、私は再び空へと舞い上がった。ちょっと傷が痛むけど、やられ慣れているし小鳥達がくれた薬草が効いているみたいで、痛みはちょっとましになったみたい。
「ん~、そういえばチュンスケに今日のご飯届けてなかった」
目的地を決めずに、ひとまず空へと舞い上がった私は重要な事に気がついた。
チュンスケ…おなか空かせて待ってるだろうなぁ。私は、チュンスケのいる巣に針路を向けて、たちまち速度を上げた…
「こんにちわわわわっ~!?」
私は、チュンスケの巣を視界にとらえるなり大慌てで叫んだ。
そこで待っていたのはおなかを空かせたチュンスケと、同じくおなかを空かせた大蛇だった。
「チュンチュン!!」
「わかってるっ!しっしっ!!あっち行きなさいってば~!!!」
巣から飛び立てないチュンスケに、舌なめずりしながら迫る大蛇、私がぶんぶん手を振り回して追い払ったけど、あいつにこの巣の位置はばれてしまったみたい。
「チュン!!」
「うん、恐かったの。うん、もう大丈夫、大丈夫だよ」
がたがた震えるチュンスケ…仕方ないよね、危うく食べられちゃう所だったんだから…
私はゆっくりチュンスケを抱きかかえると、チュンスケが落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。震えがおさまって、安心した気持ちになれるまでずっと…
「チュン…」
「そっか…うん。巣の場所を移そ。この場所は危ないからね」
ここが怖いと言うチュンスケに、私もすぐに頷いた。一度位置がばれちゃうと巣の場所は変えなきゃ、四六時中見張ってるわけにはいかないし…
でも、私は決して自分の家には君の巣を入れないよ。
もしそんなことをしたら、えこひいきだと君が周りからいじめられたりするのはわかりきっているから。
ただでさえ君は巣立ちが遅れたせいで友達が少ないのに、これ以上孤立させるわけにはいかないの。
「ここでどう?」
「チュン!」
「うん、気に入ってくれたなら何よりだよっ!」
結局私が選んだのは、自分の家から少し離れたところにある古木の枝。ここならちょくちょく面倒を見に来られるし、皆からねたみそねみを買う可能性も低いだろし。
私の気持ちを知ってか知らずか、チュンスケは私を向いて笑ってる。
喜ぶ君の顔を見れて、私も嬉しいな。
「チュン!」
「うん、じゃあまた明日ねっ!!」
チュンスケと別れた私は、上空へと舞い上がる。
「はぁ、でもチュンスケ大丈夫かなぁ」
大蛇に襲われても飛び立てないなんて…何とかしないと…
悩む私だったけど、悩めば妙案が出るというわけでもなく、結局家に帰るまでに有効な解決策は思い浮かばなかった。
それから数日たった夜…
「ピーピー!!」
「えっ!?また来たの?うんわかった、すぐに上がるよ」
私がそろそろ屋台を出そうか準備を始めたときに急報が入った。
「我が森へ向け、サバイバル巫女が急速接近中!」
博麗神社の貧窮巫女霊夢が、先日捕れなかった小鳥を今度こそ捕獲すべく、再び森に来襲したのだ。
私は慌てて準備を整え、巫女を目指す…
「いたっ!かなり奥まで入り込まれてる…」
いつもよりかなり奥まで侵入している巫女…誰も捕まってないといいんだけど…
ちなみに、小鳥達の話を総合すると、今回、巫女は真っ先に邪魔者(つまり私)を撃破し、小鳥を確保すべく、左右にかまわず全速で森に突進してきたらしい。
だったら…小鳥達の心配は『今のところは』大丈夫かな?いつもは森の手前で魚を捕っていたりするので時間が稼げるのだけど…
私は必死に速度を上げ、巫女の前面へと進んでいった。
「通すもんか!」
立ちふさがった私に、巫女は表情を変えずに口を開いた。
「出たわね、今日は食糧確保兼迷惑な妖怪退治の日だから容赦はしないわよ。迷惑な妖怪」
うわ~無茶苦茶な事言ってるよ~っていうか食料確保が先なの?
巫女の傍若無人な言葉に、私は色々言いたいことはあったけど、ひとまず巫女をにらんでこう言った。
「させないんだから!」
そんな私を見て、巫女はこんなことを言ってきた。
「人の食料調達を邪魔するなんて…まさに迷惑な妖怪ね。覚悟しなさい!」
「食の亡者め~!あなたは鳥目にして森から死ぬまで出られなくしてあげる」
「あ、それなら森中の小鳥を食べ尽くさせてもらうわ」
「わ~間違い!!あなたは鳥目にしないで森から追い出してあげる」
冗談じゃない、そんな事にさせてなるもんか…ホントにやりそうなんだもん。
じゃなくて!弾幕以前に口で負けてどうする私!!
だけど、軽く自己嫌悪に陥った私に、巫女は言葉を重ねてきた。
「そうはいかないわ。あなたが邪魔したせいで鳥は捕れないし、最近なぜだか魚も釣れなくなってきたし(大食い亡霊が全部食べてしまったそうで)、今年はなぜだか動物を見かけないし(大食い亡霊が襲いまくったらしい)、手近な所にある木の実もなくなってきたし…(大食い亡霊が…以下略)、今日こそ私の生の源を確保させてもらうわ」
迫力はあるが切実な巫女の声に、私は一瞬たじろいだけど言い返した。
「さ…させるもんかっ!」
不覚…ちょっと同情して戸惑っちゃった。なんか涙目だし…ううん、私だってみんなを守らなきゃいけないんだから同情は禁物、頑張らなきゃ!
私は、心をちょっとだけ鬼にして巫女を睨んだ。
「今日こそは焼き鳥を…覚悟しなさい!」
「さ…させるもんか~」
すごい迫力…怖いよ~だけど…私が勇気を振り絞ろうとした瞬間、巫女のスペルカードが発動した。
それも…
「夢想天生!」
ラストワード!?
「えっ!?えっ!えええ~!!!」
いきなりラストワードなんてフェアじゃない!っていうか勝てない~!!!たちまち粉砕される私の勇気…
「ひ…きゃ~!!!」
私の眼前に、見ただけで強力さがわかるような弾幕が急速に迫る。
来た…来た…逃げなきゃ…避けきれない!?
私の頭は退避を促し、饒舌に固まる身体に文句を言うけど、恐怖でかたまった身体は動かない、口も悲鳴しか発声できない。
そうしている間にも、どんどん私に弾幕が迫る。そして…
「っ!?」
大音響とともに、私の身体にとてつもない衝撃が加わった…
「う…空腹で力が出ない…、ミスティアには悪いけど私も生きていかなきゃだめだから…食べさせてもらうわ!」
「う…あ…」
一瞬ふらついた巫女だけど、何かを呟いてそのまま森へと降り立つ、でも…私の身体は動かない、意識を保つだけで精一杯だった…
巫女は空中から森に降り立つ、と目の前にはおあつらえ向きに雀の巣、あそこはっ!?
「チュン!」
「う…子雀かぁ、良心の呵責が…。でもごめんね。私も生きていかなきゃならないから食べさせてね?」
「チュンチュン!!」
すまなそうに言う霊夢に、子雀は必死に叫ぶ。
どんなに優しく言ったって食べられるのは誰だって嫌だろう。子雀はじたばた必死にジタバタするが、こうなってしまうと飛べない鳥はただの鳥肉である。
霊夢の手が伸びる…
「させない!私の友達は食べさせないよ!!」
「えっ!?」
「チュン!?」
巫女の手が子雀を捕らえようとした刹那、私は叫んだ。
どこにこんな力が残っていたのか自分にもわからない、でも、立ち上がれた以上あの子は絶対に守りぬいてみせる!!
「う…私完全に悪役じゃないの…でもかくなる上はとことん悪になってやるわ!私だって死にたくないし」
必死に立ち上がった私を見て、一瞬たじろいだ巫女、だけどすぐさま態勢を立て直して叫んだ。
「博麗弾幕結界!!」
「来たっ!」
避ける!!
「あっ!?」
何とか避ける私、大丈夫、今度は身体がちゃんと動いている。でも、全弾は避けきれずに何発か被弾した。
痛い…でも頑張らなきゃ…私がやらなきゃ…やらなきゃ!
「真夜中のコーラスマスター!!」
今度こそ最後の一撃、私の弾幕が、巫女の方へと伸びていった…
「っ!?」
だけど…
「やるわね、だけど私の防御結界は破れないわ」
「あ…」
爆煙が収まったあとにすまなそうに立つ巫女、その体には傷一つついてなかった…全然、効いてない?
「あなたを倒さないと私の晩ご飯は確保できないみたいだから…ごめんなさいちょっと寝ててもらうわ」
「っ!?」
巫女は懐から符を取り出し力をこめる。だけど私は呆然と立ちすくむしかなかった。
ごめんチュンスケ…私の力じゃ…私はチュンスケの方を見た、せめて謝りたい…そう思って…
「えっ!?」
「なっ何~!?わ~ん、ちょっ…札返しなさ~い」
だけど、そんな私の眼前で繰り広げられていたのは驚くべき光景。
「チュンチュン!」
「待ちなさ~い!」
チュンスケが羽ばたき、巫女の札を加えて飛び回っている!?
巫女はチュンスケの思わぬ反撃に慌てて、チュンスケを追い掛け回していた。
「チュンスケ…やっと飛べれたんだ…って、感傷に浸ってる場合じゃない!?」
私の復活を横目で見たチュンスケは、符を地面に落とす。君の勇気…受け取ったよ!!
「あっ!はぁもう!!あいつめ~絶対に焼き鳥に…」
「させるもんか!!」
札を取り戻し、憎々しげにチュンスケを見る巫女、そんな巫女に私は叫んだ。
「え…あ!?」
「ブラインドナイトバード!!!」
「きゃ~!!!」
二度続けて起きた予想外の事態、チュンスケが作ってくれた一瞬の心の隙。
戸惑う巫女の背後から、私は今度こそ最後の力を振り絞り、ラストワードを放つ。
集中力の途切れた巫女の結界は容易く貫通され、たちまち多数の弾丸が巫女の体に叩きつけられた。
「きゅう…」
これには、さしものサバイバル巫女も耐えきれなかったらしく、ふらふらと地面に倒れ、沈黙した。
「や…やった!飛べたねチュンスケ!!」
「チュン!!」
私はチュンスケと抱き合いながら空で踊る。暗い森でも、私たちの周りはとても明るい雰囲気が満ちていた。
「飛べ飛べチュンスケあの世まで~♪大食い幽霊なんのその~♪」
「ヂュン!?」
「あ、間違った」
ごめんごめん、あの世まで飛んじゃまずいよね。
「飛べ飛べチュンスケ大空を~♪サバイバル巫女なんて怖くない~♪」
「チュン!」
自分の身に危険が迫っても飛び立てなかったチュンスケだけど、自分を散々世話してくれた私の危機は見過ごさなかった…
私の危機でやっと自由に夜空を飛び回ることができるようになったのね、本当…君は手がかかるんだから。
私は微笑んだ。
身体中に残る痛さと疲労感も、この喜びにはかなわない。私はチュンスケと飛び回って踊りまわった…と
「あ~もう!」
「え!?」
「チュン!?」
土埃を払い立ち上がる巫女!?え…え…私の弾幕、今度こそ直撃したはずなのに…!?
でも、事態をつかめない私たちに、胸を張って巫女は言った。
「あの程度の弾幕ならやられたりしないわ!結界で大分相殺できたし…さっき倒れたのは栄養不足での貧血よ!」
「そんな胸張って言われても~」
どう反応すればいいのかな…っていうかこの状況!
「今度こそ二羽まとめて焼き鳥に…」
「ひ…」
「チュン~」
そう言って凄む巫女に、私たちはがたがたと震え抱き合うしかなかった。
巫女が一歩二歩と近づく、全力を使い果たした私にはもはや抵抗の手だてはない、チュンスケも恐怖で飛び立てないみたい…
私たちは覚悟を決めた。どうかあの世には焼き鳥がありませんように…あれ?でもあの大食い亡霊の本拠って…あれ?
だけど、目をつぶった私たちに、疲れきった声が届いた。
「するのはやめておくわ」
「へ…」
あ、思わず変な声を出しちゃった…でも突然なんで?
「あ…と、どうして?」
そんな私の質問に、渋面を作って巫女は言った。
「あのねー、私だって鬼じゃないのよ!あんな光景見せられたら焼き鳥なんて食べられるわけないじゃない!う…せっかくの動物性タンパク質だと思ったのに…、しばらく焼き鳥なんて食べられないわ…」
そう言って黙った巫女の顔は、何だかとってもさびしそうだった…
そして、最後の方…半泣きだったのは気のせいだろうか…?
ちょっと…可哀想、よし
「あ…あの」
「何よっ!」
勇気を出して呼び止めた私を、巫女はきっと睨み返してきた。怖い~
「ひっ!?あ…あの、もしよければうちで晩ご飯なんかどう…?」
「へ…え?」
固まる巫女。あ…やっぱりまずかった!?下手な同情したと怒られるかも~!!藪蛇~!!!
「あ、いえ~ごめんなさ~い、嫌ならい…ひっ!?」
失敗した…と思った私は、慌てて先の発言を訂正しようとしたのだけど…そんな私の両手を、巫女は目にも止まらない速さでぎゅっと握りしめてきた。
凄い力…逃げられない!?
「ごめんなさ~い、(私を)食べないで~」
「チュンチュン!!」
慌てる私、そしてどうにかしようとじたばたするチュンスケ…でも。
「そうはいかないわ」
獲物は逃さないとばかりに、巫女がこっちを睨んだ。
「あう…」
その眼光は鋭く、私は抵抗どころか身動きすらとれなくなってしまう…
ああ、わたしはここで焼き鳥にされちゃうのかな。余計な事言わなきゃ…せめてあんまり痛くしないで~
だけど、覚悟を決めた私に巫女はこう言った。
「一度言った事はちゃんと守って、晩ご飯~!!」
闇夜に響き渡る巫女の叫び声、これは…もう魂の叫びね。
「は…え?」
あれ?食べられるのは私じゃなかったの?戸惑う私に、今度は表情をがらりと変えて巫女は言う。
「というわけで晩ご飯よろしくね」
にっこり笑って言う巫女、だけどその笑顔の裏には、絶対に拒否などさせないという強い意志が見えていたの。
「え…あ、うん。私が食べられなきゃいいよ、うん、そんな心配しないでも一杯食べさせてあげるから…だから私を美味しそうな目で見ないで、お願い」
こうして、私と巫女は愛しの我が家へと向かっていった。ちなみに、私が念のためチュンスケを待避させたのはいうまでもないわ。
私の家
テーブルに並べられた食事…それを片端から食べているのは言わずと知れた博麗神社の素敵巫女、霊夢さんだった。
「おいしいっ!おいしいよ~。お粥じゃないご飯なんて久しぶりだわ!しかも雑草もおがくずも混じってない!!」
霊夢さんは一口ごはんをほおばるたびに歓喜の叫びを上げていた。私は何か自分が食べられそうでそのたびに身をすくませていたの。
それにしても、普通のご飯でこんなに喜ぶ人…いや人妖…っていうか鳥まで含めても見たことない…
「あ、これ焼き魚?イワナっ!?あ…あ…はぐ!おいし~!!」
満面の笑みを浮かべる霊夢さん、どんな生活してるんだろうこの人…
だけど、そんな疑問は次の言葉で困惑に変わった。
「え、このご飯白米だけなの!?雑穀入ってないの!?何年ぶりかしら、白米100%のご飯食べるのなんて…」
訂正、どうやって生きてたのかな、この人?
「おかわりっ!いい?」
威勢よく言った後、上目遣いで私を見る霊夢さん。餌をちょうだいとねだる子雀みたい、そんな目で見られては断れない、もっとも、こんな事せんでもご飯くらいならいくらでもあげるのだけど…
私は、そんな霊夢さんにごはんを山盛りにしながらこう言った。
「うん、いくらでも。困ったときはお互い様だよ、だけど焼き鳥だけはやめてね」
そうそう、これだけは言っておかないとね。
「う…わかったわ、ありがとう。昨日まで散々争った私に、こんなごちそうをしてくれるなんて…、何か私にできることだったらなんでもするわ」
うるうるしながら言う霊夢さん。余程ご飯が美味しかったのかな…
「え…でも」
私は戸惑ったけどなんか幸せだった。
ここまで喜ばれるとうれしいなぁ、昨日の敵は今日の友ってやつだね。
「いいわよ、私は受けた恩くらい返すわ。魔理沙みたいに恩を仇で返したりしたりはしないの」
にこにこ笑って言う霊夢さんに、私は「たぶんここに魔理沙さんがいたら言い返すんだろうな~」とか思いながら、いいことを思いついた。
「う~と、じゃあね…」
私はそのお願いを霊夢さんにささやく。
「え?ええ、わかったわ。願ったりかなったりよ、任せて!」
霊夢さんはドンと胸を叩き、自信たっぷりに答えた。頼もしいなぁ。
「ありがとう。じゃあもう私たち友達だね、ささ、お酒だよ~」
「え…んぐんぐ」
「え?」
そして直後にますます素敵な笑顔を見せた霊夢さんに、私は一升瓶を口につっこまれたのだった…
一時間後…
「いっちばーん!ミスティアうたいま~す!!」
「わー!!じゃんじゃん!!」
「巫女巫女レイムッ!巫女巫女レイム~!!」
「いぇいっ!!」
そして、その夜、ミスティアの家からは、すっかり仲良くなってできあがった二人の声が、一晩中響き渡っていましたとさ、ちゃんちゃん。
数日後…
森に接近する二人組がいた…
「ねぇ妖夢、今日はどれくらい捕れるかしら?」
「はぁ、幽々子様、あまり食べすぎないで下さいよ。幻想郷の鳥を食べ尽くす気ですか?」
「もう、妖夢。食べるのは半分位よ?」
「幽々子様…」
「そろそろ森に…あら?」
森に接近する大食い幽霊とその庭師、だが、その二人の前に立ちふさがったのは他でもない霊夢である。
二人の前に立ちふさがった霊夢の顔は血色よく、生気があふれ出ていた。
「私の友達を殺させないわ、春の亡霊。亡霊は亡霊らしくお供物でも食べてなさい!」
「え、博麗の巫女…なぜ邪魔を…」
「そうよ、お供物っていったって何もないじゃない!」
「あのー幽々子様、論点が…」
「あんたたちの事情なんて知った事じゃないわ。この森の小鳥達を襲わせはしない、覚悟なさい」
「霊夢…あなた焼き鳥を独り占めにする気ね!妖夢、やっちゃって!!」
「え…あ、幽々子様それは違うと思うんですけど…ともかく、妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまりない!」
「よく喋る半分は幽霊ね、二重弾幕結界!」
「む…一念無量劫!」
二つの強力な弾幕が激突する。閃光が走り、轟音が響く。力と力がせめぎあい、たちまち周辺に爆風を撒き散らした。
森の中
「うん、大丈夫、急いで!あ…チュンスケ…」
森の小鳥たちを避難させていた私は、よく知った顔を見つけて一瞬手を止めた。
「チュン!」
そう、力強くはばたくその子の名は…チュンスケ、私の大切な友達だ。私に大丈夫?と尋ねるチュンスケに、私は自信満々こう言った。
「大丈夫、こないだ霊夢さんと話したら意気投合しちゃってね、お互い苦労してるんだな~って。それでね、霊夢さんご飯のお礼に今度は私たちを守ってくれるんだって。代わりに今晩も私の家の晩ご飯にご招待だけどね」
「チュン…」
「うん、だから大丈夫だよ、心配しないで。それじゃ私も行かなきゃいけないから、霊夢さん一人にに任せておくわけにいかないし…うん、一人で飛べるんだから大丈夫、あの大食い亡霊達を追い払ったらまた話そうね。じゃ」
それでも不安そうなチュンスケに、私は重ねて言って舞い上がる。
「チュンチュン!」
後ろから追ってくるチュンスケの声に励まされ、私はどんどん舞い上がる。目指す先では強力な弾幕が次々とぶつかっていたのだけど、私はそんなことには怯えない。
私を待つ霊夢さんの所へと、私は全力飛行で向かっていった。
『おしまい』
さて、そんな森に棲む一人の少女ミスティア・ローレライが本編の主人公。夜雀である彼女は、この森の小鳥たちを束ねるいわば森の小鳥たちのボスだった。
まぁ現状を言うと、敬意をもたれている『ボス』というよりは、親しまれている『お姉さん』といったところであるが…それもまたボスとしてのありかたの一つかもしれない。
とまぁそれはさておき、彼女が最近心配している事があった。彼女になついているとある子雀が、なかなか巣立とうとしないのである。
「あのね、だからそろそろ巣立たないと大人になれないよ?」
私はいつも通り目の前にいるチュンスケを励ました。
毎年小鳥たちの面倒をみてきて、巣立とうとしない雛鳥たちはいつの年にもいるのだけど、この『チュンスケ(命名私)』は本当に筋金入りで、同じ巣にいた他の雛達が巣立った後も、全く巣立とうとする気配がない。
そして他の雛が巣立って一月が過ぎ、二月が過ぎすると、やがて親鳥たちもすっかり愛想をつかして面倒をみなくなってしまった。
だけど、そんなことをすればチュンスケはおなかを空かせて死んでしまう。そんなのは絶対に嫌だと思った私は、親鳥の代わりに餌を運んできて、そしてその度に説得を試みるのだけど…
「チュン!」
「う~ならなくていいって言ったって…」
返事はいつも変わらず『やだ』だった。
そんなこといったってなっちゃうんだよ?どうしたものかなーって、私はため息をついた。
そんな私にチュンスケは言う。
「チュンチュン!!」
僕ずっと巣にいるからいいもん?はぁ、それならちょっと脅かしちゃおう。
私は、ちょっとまじめな顔を作ってチュンスケに向き直る。チュンスケは、微妙に怯えた表情になってあとずさった。
「そんなこと言ってると、大食い亡霊とかサバイバル巫女に焼き鳥にされちゃうぞ~」
そう言って私はチュンスケを襲う真似をする。あの連中よく森に来て小鳥たちをさらおうとするの。私が防戦しているうちに大体は退避できるし、雛達の住む巣も巧妙な偽装でばれないけど、チュンスケみたいにこうも同じ場所に住んでいるといつばれてしまうかもしれない、巣から動けない小鳥なんて格好の獲物なのに…
「チュン!」
「巣立つ位なら食べられたほうがいい?あう~」
だけどチュンスケはちょっと怯えた目をしたけど、すぐに言い返した、もう私には説得の言葉がないよ~
「チュンチュチュン」
「お姉ちゃんごめんねって…君の問題なんだけどね~」
「チュン…」
気落ちする私を見て、すまなく思ったのかチュンスケが言った。
食事を運ぶたびに感謝してくれる素直な子…きっと巣立つ勇気がないだけなんだろうな、この子。うん、仕方がない、君が巣立つまでは面倒を見てあげるよ。
私は決意を新たにする、いつかはこの子もきっと巣立ってくれるはず、その時まで私が君を守ってみせる!
少女子雀雑談中…
「それじゃあまた明日ね、静かにして蛇とか鷹とか巫女とか亡霊とかに見つからないようにするんだよ」
しばらくチュンスケとお話した私は、最後にそう言って立ち上がった。
ちなみに、例の二人はもはや肉食獣扱い。ま、当然だよね。
「チュン!」
「それじゃっ」
元気よく返事をするチュンスケに手を振り、私はどんどん高度を上げた。
お日さまは足早に西を目指し、空を渡る風が心地いい。眼下に見える景色は、ゆるやかな夕方の日差しに照らされて本当にきれい。チュンスケ、君も早く仲間に入れたいな。
私は、そう思いながら先を目指した。
「ピー!」
「あ、なになに?」
「ピーピー!」
「ふんふん、えっそうなんだ?」
「ピー」
「へぇ~以外だったよ。ありがとっ!次は私も食べてみるね」
「ピー」
上空で出会った『ピーちゃん』と、美味しい木の実について情報交換をした後、私は自分の家へと進路を向けた。
いろいろと回っていたら、意外と時間をとられて夕ご飯がちょっと遅れそうだった。まぁそれ位いいんだけどね、みんなとお話してた方がずっと楽しいし…
「今日も楽しかったな」
だんだん暗くなる空の中、まっ先に顔を出した気の早いお星さまに私はつぶやく。
ずっと具合が悪かったパタスケの病気もよくなったみたいだし、今年はけっこうお天気がよかったから木の実も豊作だろうし、あとはあの子が巣立ってくれればいうことないんだけど…
夕闇せまる空の中、私は空中でう~っと伸びをすると、高度を下げ愛しの我が家へとむかっていった。
うねうねしたとねりこの大木の上に組まれた小屋、そこが私の自慢のお家だ。
ちなみに、木の下には商売道具の屋台が置いてある、我ながら合理的で快適よね。
トチ餅にきのこの味噌汁。それに粟と稗入りのご飯が今日の晩ご飯。
「トチ餅~♪トチトチ美味しいよ~♪」
昨日までに手間暇かけて作ったトチ餅に、あんこを入れ七輪で焼く。美味しそうな匂いが漂ってきた。
ちなみに歌を歌いながら料理するのが私の癖…というよりも、誰かと話している時以外は何か歌を歌ってないと落ち着かないんだよねー。
「できた~♪できた~♪ごはんっごはんっ♪晩ご飯っ♪」
「ピーピー!」
「チュンチュン!!」
私の歌につられたのかな?それともおいしそうな匂いにつられたの?
片方だけでもうれしいし、両方ならもっとうれしい、両方とも違っても、来てくれただけで十分うれしいな。
気づくと、近くにいた小鳥たちがだんだん集まってきた。
「「「チュンチュン」」」
食べたいな~って口々に言う小鳥達に、私はもちろんオッケーを出す。自分の作ったお料理を食べてもらえるのってうれしいよね。
「あはっ!いいよいいよっ、どんどん食べてね。あ、トチ餅だけはだめだよ?のどに詰ま…あああ~」
「ヂュンヂュン~!!」
って私が言いかけた時には、もうトチ餅をのどに詰まらせている小鳥が一羽、人の話は最後まで聞いてね…ってそんなこと考えてる場合じゃなかった!
私は慌てて小鳥の背中を叩いて、トチ餅を吐き出させた。
「もうっ!ほら、大丈夫?」
「チュン~」
「死ぬかと思ったって?はぁ、人の話はちゃんと聞こうよ~」
幻想郷ではなんでこうも人の話を聞かない人妖and動物が多いのかな、もう。
私は、心の中でちょっとだけぼやいたけど、その後みんなにのどに詰まらせないようなお料理をどんどん出していった…
「チュン!」
「あは、おいしい?作ったかいがあるよ」
「ピー!」
「あ、あの木の実食べられるんだ、知らなかったな。ありがとう、早速明日試してみるね」
「ピーピー!」
「え!?成功したんならいいけど…だけどあんまり無茶はしないでね。人里に行ってご飯をつまみ食いしてくるなんて、無茶もいいところだよ?」
「ピー」
「次からはやめる?うん、それがいいよ。君の焼き鳥姿なんて見たくないもん」
「チュン!」
「ええ~!?危機一髪だったね。う~ん、あの大食い亡霊の手から逃れたっていうのは本当に奇跡だよ。でもたぶん二度目はないよ?チューイ、今度は遭わないように気をつけてね」
「ピー」
「へぇ、西北の森ではドングリが豊作かぁ」
「ピーピー!」
「でも蛇も多い?みんな気をつけてね」
楽しくにぎやかな私の家、騒がしくも幸せな時間はどんどん過ぎていく…ごはんはやっぱり大勢で食べるのが一番だよね。
平和な一日が終わり、やってきた危険な夜。
森の入り口では、食料を確保すべく鳥たちの寝込みを襲わんとするサバイバル巫女と、鳥たちを護衛せんとする夜雀の、緊迫した睨み合いが始まっていた。
「急いでるの、通してもらうわよ」
「通すもんか!また小鳥達をさらっていくんでしょ!!」
威風堂々といった雰囲気で空中に立つ巫女に私は言い返す。少し身体は震えてるけど…こわいけど…みんなが逃げる時間を稼がなきゃ。
私は、震える自分の身体を叱りつけて威風堂々立つ巫女を見据える。
っていうか威風堂々としていても目的が目的だからな~もう!もうちょっと正義の為にその力を使えないのかしら。
そんな私に、巫女は『私が正義で立ちふさがるのが悪なのだ』と言わんばかりにふてぶてしく言い放つ。
「人聞きが悪いわね、食料確保って言いなさいよ」
「~っなお悪いってば!!」
あきれている私に、こんなことを堂々と言い放つこの巫女には『優しさ』っていうのがないのかな?野蛮よ、小鳥を食べるなんて!
だけど、頭を抱える私に巫女はなおも追い討ちをかけてきた。
「食料確保のどこが悪いのよ、私だって生きていかなきゃならないんだから。文句はお賽銭を入れない連中に言ってよね」
「あ~責任転嫁っ!」
一日一食のあなたの食生活に同情はするけど、何も愛らしい小鳥達を食べなくたっていいじゃない!
そう思った私は言い返した。でも…
「チキンヘッドのくせに四文字熟語を使うなんて生意気よ」
「言ってる事が無茶苦茶だよ~!!」
そもそも私チキンじゃない…でも、半泣きになって言い返す私に、この巫女は逆ギレしながらこんなことを言ってきたの。
「うるさいわね、あんたが邪魔するせいで私の補給線はずたずたなのよ。みんな逃げちゃうんだから!」
「みんなが逃げる時間を稼いでるんだから当たり前でしょ!」
「む、あんたから焼き鳥にしてやるわよ!!」
「あんたこそ鳥目にしてやるんだからっ!!」
売り言葉に買い言葉、説得は失敗しちゃった、最初から予想はしていたんだけど…
その時、巫女の力が一点に集中して…来る!敵意を感じた私はすぐに迎撃体制をとった。
強力な力が巫女の前面に集中して、続いて私に向かってきた…
「封魔陣!」
「夜雀の歌!!」
私と巫女の弾幕がぶつかり合い、相殺して消し飛んだ。森の木々が揺れる…みんな無事でいるといいのだけど…
野蛮な爆風が森を騒がし、やがておさまる。みんなを心配しながらも、私は爆煙の先を見据えた。
「へぇ、なかなかやるじゃない」
「そっちこそっ!」
予想通り悠然とそこにいる巫女、余裕綽々ね、腹立つな~。こっちなんてこんなこと言っていても、実はもう限界なのに…
でも、一瞬の静寂は巫女の一言で破られた。
「だけど私のご飯は譲らないわ!二重弾幕結界!!」
トンデモナイことをぬかしながらとんでもない弾幕を放つ巫女。
四方から襲いかかるその弾幕に、私も渾身の力を込めて応戦する。
「真夜中のコーラスマスター!!!」
二つの弾幕が激突した。私の渾身の一撃…
衝撃が周囲に伝わり、弾幕が激しくせめぎあう。
でも、力量の差は否めず、あっさり抜かれる私の弾幕。たちまち無数の弾丸が私を襲ってくる。
「きゃっ!?」
体中に巫女の弾幕が降り注ぐ。痛い!?強いよ~!!
全身を無数の弾丸に叩かれた私は、あっという間に戦闘力を失い、たちまち進路を地面に向けざるをえなくなった。
だんだん迫る森の土…
「ま…待って~」
衝撃を感じて全身に激痛が走った、薄れゆく意識の中で、巫女を止めようと私は手を伸ばしたけど、あいつはそんなこと気にもかけずに去っていく、悔しいよっ!!
「さようならお邪魔鳥~。こんばんわ~晩ご飯~」
巫女は楽しげに言うと、私が落ちるのも確認せず、余裕な態度で森へと進む…
「わーん!!待って~」
絶っ対、間違ってるよ~その言い方!みんなが…みんなが…
サバイバル巫女が森の奥目指し飛んでいってしまった時、私の全身を衝撃が襲い、たちまち私は意識を手放した。
翌朝
「ピーピー!!」
「チュン!」
「よかった~、みんな無事だったのね」
「チュンチュン」
「ミスティアが時間を稼いでくれたおかげ?そう言ってもらえると嬉しいよ!!」
私の家に集まってくれた小鳥達は、次々とお礼と、そしてお見舞いの言葉を届けてくれた。全身が痛いと同時に、なんかくすぐったい気分。
そしてみんなはどうやら無事だったみたい、傷だらけになった甲斐はあったなぁ。
「ピー!」
胸をなでおろす私に、チーちゃんがクルミを差し出してくれた。
「ありがとー。遠慮なくもらっておくね」
「チュン!!」
「チュン吉もくれるの?ありがとねっ」
「チュン!」
次から次へと、お見舞いの品を届けてくれる小鳥達に、私のおなかは膨らんで、心はもっと満腹だ…う~ん『心が満腹』ってなんか変だけど…まぁいいよねっ。
みんなの笑顔を見ていると、つらいのも痛いのもあっという間に吹き飛んだ。今日も楽しい一日になりそうだな~。
みんなの話を総合すると、私が防戦したおかげでみんなは危険に気付き、隠れたり逃げたりすることができたみたい。
巫女の方は「はぁ、また動物性タンパク質はなしかぁ、あの夜雀め。次に会ったら今度こそフライドチキンにしてやるわ」とかなんとか言いながら、木の実や山菜を抜け目無く集め、帰還していったそうだ。
「ぶるぶるっ!フライドチキンなんて恐いなぁ~」
巫女が呟いたという一言を聞いて、私は思わず震え上がった。そもそもチキンじゃないのに…
「チュンチュン!」
「ピーピー!!」
「うん、やっぱりみんなも恐いでしょ。ごめんね、私がもっと強ければいいんだけど…」
落ち込む私に、みんなが次々に励ましの言葉をかけてくれた。
「チュン!」
「ピー!!」
「あはっ、ありがとーね」
ミスティアは十分頑張ってるよ、おかげでみんな助かったよ…かぁ。でも次もそうできる保証なんてどこにもないからなぁ。
皆が去ると、私は再び空へと舞い上がった。ちょっと傷が痛むけど、やられ慣れているし小鳥達がくれた薬草が効いているみたいで、痛みはちょっとましになったみたい。
「ん~、そういえばチュンスケに今日のご飯届けてなかった」
目的地を決めずに、ひとまず空へと舞い上がった私は重要な事に気がついた。
チュンスケ…おなか空かせて待ってるだろうなぁ。私は、チュンスケのいる巣に針路を向けて、たちまち速度を上げた…
「こんにちわわわわっ~!?」
私は、チュンスケの巣を視界にとらえるなり大慌てで叫んだ。
そこで待っていたのはおなかを空かせたチュンスケと、同じくおなかを空かせた大蛇だった。
「チュンチュン!!」
「わかってるっ!しっしっ!!あっち行きなさいってば~!!!」
巣から飛び立てないチュンスケに、舌なめずりしながら迫る大蛇、私がぶんぶん手を振り回して追い払ったけど、あいつにこの巣の位置はばれてしまったみたい。
「チュン!!」
「うん、恐かったの。うん、もう大丈夫、大丈夫だよ」
がたがた震えるチュンスケ…仕方ないよね、危うく食べられちゃう所だったんだから…
私はゆっくりチュンスケを抱きかかえると、チュンスケが落ち着くまで、ずっと抱きしめていた。震えがおさまって、安心した気持ちになれるまでずっと…
「チュン…」
「そっか…うん。巣の場所を移そ。この場所は危ないからね」
ここが怖いと言うチュンスケに、私もすぐに頷いた。一度位置がばれちゃうと巣の場所は変えなきゃ、四六時中見張ってるわけにはいかないし…
でも、私は決して自分の家には君の巣を入れないよ。
もしそんなことをしたら、えこひいきだと君が周りからいじめられたりするのはわかりきっているから。
ただでさえ君は巣立ちが遅れたせいで友達が少ないのに、これ以上孤立させるわけにはいかないの。
「ここでどう?」
「チュン!」
「うん、気に入ってくれたなら何よりだよっ!」
結局私が選んだのは、自分の家から少し離れたところにある古木の枝。ここならちょくちょく面倒を見に来られるし、皆からねたみそねみを買う可能性も低いだろし。
私の気持ちを知ってか知らずか、チュンスケは私を向いて笑ってる。
喜ぶ君の顔を見れて、私も嬉しいな。
「チュン!」
「うん、じゃあまた明日ねっ!!」
チュンスケと別れた私は、上空へと舞い上がる。
「はぁ、でもチュンスケ大丈夫かなぁ」
大蛇に襲われても飛び立てないなんて…何とかしないと…
悩む私だったけど、悩めば妙案が出るというわけでもなく、結局家に帰るまでに有効な解決策は思い浮かばなかった。
それから数日たった夜…
「ピーピー!!」
「えっ!?また来たの?うんわかった、すぐに上がるよ」
私がそろそろ屋台を出そうか準備を始めたときに急報が入った。
「我が森へ向け、サバイバル巫女が急速接近中!」
博麗神社の貧窮巫女霊夢が、先日捕れなかった小鳥を今度こそ捕獲すべく、再び森に来襲したのだ。
私は慌てて準備を整え、巫女を目指す…
「いたっ!かなり奥まで入り込まれてる…」
いつもよりかなり奥まで侵入している巫女…誰も捕まってないといいんだけど…
ちなみに、小鳥達の話を総合すると、今回、巫女は真っ先に邪魔者(つまり私)を撃破し、小鳥を確保すべく、左右にかまわず全速で森に突進してきたらしい。
だったら…小鳥達の心配は『今のところは』大丈夫かな?いつもは森の手前で魚を捕っていたりするので時間が稼げるのだけど…
私は必死に速度を上げ、巫女の前面へと進んでいった。
「通すもんか!」
立ちふさがった私に、巫女は表情を変えずに口を開いた。
「出たわね、今日は食糧確保兼迷惑な妖怪退治の日だから容赦はしないわよ。迷惑な妖怪」
うわ~無茶苦茶な事言ってるよ~っていうか食料確保が先なの?
巫女の傍若無人な言葉に、私は色々言いたいことはあったけど、ひとまず巫女をにらんでこう言った。
「させないんだから!」
そんな私を見て、巫女はこんなことを言ってきた。
「人の食料調達を邪魔するなんて…まさに迷惑な妖怪ね。覚悟しなさい!」
「食の亡者め~!あなたは鳥目にして森から死ぬまで出られなくしてあげる」
「あ、それなら森中の小鳥を食べ尽くさせてもらうわ」
「わ~間違い!!あなたは鳥目にしないで森から追い出してあげる」
冗談じゃない、そんな事にさせてなるもんか…ホントにやりそうなんだもん。
じゃなくて!弾幕以前に口で負けてどうする私!!
だけど、軽く自己嫌悪に陥った私に、巫女は言葉を重ねてきた。
「そうはいかないわ。あなたが邪魔したせいで鳥は捕れないし、最近なぜだか魚も釣れなくなってきたし(大食い亡霊が全部食べてしまったそうで)、今年はなぜだか動物を見かけないし(大食い亡霊が襲いまくったらしい)、手近な所にある木の実もなくなってきたし…(大食い亡霊が…以下略)、今日こそ私の生の源を確保させてもらうわ」
迫力はあるが切実な巫女の声に、私は一瞬たじろいだけど言い返した。
「さ…させるもんかっ!」
不覚…ちょっと同情して戸惑っちゃった。なんか涙目だし…ううん、私だってみんなを守らなきゃいけないんだから同情は禁物、頑張らなきゃ!
私は、心をちょっとだけ鬼にして巫女を睨んだ。
「今日こそは焼き鳥を…覚悟しなさい!」
「さ…させるもんか~」
すごい迫力…怖いよ~だけど…私が勇気を振り絞ろうとした瞬間、巫女のスペルカードが発動した。
それも…
「夢想天生!」
ラストワード!?
「えっ!?えっ!えええ~!!!」
いきなりラストワードなんてフェアじゃない!っていうか勝てない~!!!たちまち粉砕される私の勇気…
「ひ…きゃ~!!!」
私の眼前に、見ただけで強力さがわかるような弾幕が急速に迫る。
来た…来た…逃げなきゃ…避けきれない!?
私の頭は退避を促し、饒舌に固まる身体に文句を言うけど、恐怖でかたまった身体は動かない、口も悲鳴しか発声できない。
そうしている間にも、どんどん私に弾幕が迫る。そして…
「っ!?」
大音響とともに、私の身体にとてつもない衝撃が加わった…
「う…空腹で力が出ない…、ミスティアには悪いけど私も生きていかなきゃだめだから…食べさせてもらうわ!」
「う…あ…」
一瞬ふらついた巫女だけど、何かを呟いてそのまま森へと降り立つ、でも…私の身体は動かない、意識を保つだけで精一杯だった…
巫女は空中から森に降り立つ、と目の前にはおあつらえ向きに雀の巣、あそこはっ!?
「チュン!」
「う…子雀かぁ、良心の呵責が…。でもごめんね。私も生きていかなきゃならないから食べさせてね?」
「チュンチュン!!」
すまなそうに言う霊夢に、子雀は必死に叫ぶ。
どんなに優しく言ったって食べられるのは誰だって嫌だろう。子雀はじたばた必死にジタバタするが、こうなってしまうと飛べない鳥はただの鳥肉である。
霊夢の手が伸びる…
「させない!私の友達は食べさせないよ!!」
「えっ!?」
「チュン!?」
巫女の手が子雀を捕らえようとした刹那、私は叫んだ。
どこにこんな力が残っていたのか自分にもわからない、でも、立ち上がれた以上あの子は絶対に守りぬいてみせる!!
「う…私完全に悪役じゃないの…でもかくなる上はとことん悪になってやるわ!私だって死にたくないし」
必死に立ち上がった私を見て、一瞬たじろいだ巫女、だけどすぐさま態勢を立て直して叫んだ。
「博麗弾幕結界!!」
「来たっ!」
避ける!!
「あっ!?」
何とか避ける私、大丈夫、今度は身体がちゃんと動いている。でも、全弾は避けきれずに何発か被弾した。
痛い…でも頑張らなきゃ…私がやらなきゃ…やらなきゃ!
「真夜中のコーラスマスター!!」
今度こそ最後の一撃、私の弾幕が、巫女の方へと伸びていった…
「っ!?」
だけど…
「やるわね、だけど私の防御結界は破れないわ」
「あ…」
爆煙が収まったあとにすまなそうに立つ巫女、その体には傷一つついてなかった…全然、効いてない?
「あなたを倒さないと私の晩ご飯は確保できないみたいだから…ごめんなさいちょっと寝ててもらうわ」
「っ!?」
巫女は懐から符を取り出し力をこめる。だけど私は呆然と立ちすくむしかなかった。
ごめんチュンスケ…私の力じゃ…私はチュンスケの方を見た、せめて謝りたい…そう思って…
「えっ!?」
「なっ何~!?わ~ん、ちょっ…札返しなさ~い」
だけど、そんな私の眼前で繰り広げられていたのは驚くべき光景。
「チュンチュン!」
「待ちなさ~い!」
チュンスケが羽ばたき、巫女の札を加えて飛び回っている!?
巫女はチュンスケの思わぬ反撃に慌てて、チュンスケを追い掛け回していた。
「チュンスケ…やっと飛べれたんだ…って、感傷に浸ってる場合じゃない!?」
私の復活を横目で見たチュンスケは、符を地面に落とす。君の勇気…受け取ったよ!!
「あっ!はぁもう!!あいつめ~絶対に焼き鳥に…」
「させるもんか!!」
札を取り戻し、憎々しげにチュンスケを見る巫女、そんな巫女に私は叫んだ。
「え…あ!?」
「ブラインドナイトバード!!!」
「きゃ~!!!」
二度続けて起きた予想外の事態、チュンスケが作ってくれた一瞬の心の隙。
戸惑う巫女の背後から、私は今度こそ最後の力を振り絞り、ラストワードを放つ。
集中力の途切れた巫女の結界は容易く貫通され、たちまち多数の弾丸が巫女の体に叩きつけられた。
「きゅう…」
これには、さしものサバイバル巫女も耐えきれなかったらしく、ふらふらと地面に倒れ、沈黙した。
「や…やった!飛べたねチュンスケ!!」
「チュン!!」
私はチュンスケと抱き合いながら空で踊る。暗い森でも、私たちの周りはとても明るい雰囲気が満ちていた。
「飛べ飛べチュンスケあの世まで~♪大食い幽霊なんのその~♪」
「ヂュン!?」
「あ、間違った」
ごめんごめん、あの世まで飛んじゃまずいよね。
「飛べ飛べチュンスケ大空を~♪サバイバル巫女なんて怖くない~♪」
「チュン!」
自分の身に危険が迫っても飛び立てなかったチュンスケだけど、自分を散々世話してくれた私の危機は見過ごさなかった…
私の危機でやっと自由に夜空を飛び回ることができるようになったのね、本当…君は手がかかるんだから。
私は微笑んだ。
身体中に残る痛さと疲労感も、この喜びにはかなわない。私はチュンスケと飛び回って踊りまわった…と
「あ~もう!」
「え!?」
「チュン!?」
土埃を払い立ち上がる巫女!?え…え…私の弾幕、今度こそ直撃したはずなのに…!?
でも、事態をつかめない私たちに、胸を張って巫女は言った。
「あの程度の弾幕ならやられたりしないわ!結界で大分相殺できたし…さっき倒れたのは栄養不足での貧血よ!」
「そんな胸張って言われても~」
どう反応すればいいのかな…っていうかこの状況!
「今度こそ二羽まとめて焼き鳥に…」
「ひ…」
「チュン~」
そう言って凄む巫女に、私たちはがたがたと震え抱き合うしかなかった。
巫女が一歩二歩と近づく、全力を使い果たした私にはもはや抵抗の手だてはない、チュンスケも恐怖で飛び立てないみたい…
私たちは覚悟を決めた。どうかあの世には焼き鳥がありませんように…あれ?でもあの大食い亡霊の本拠って…あれ?
だけど、目をつぶった私たちに、疲れきった声が届いた。
「するのはやめておくわ」
「へ…」
あ、思わず変な声を出しちゃった…でも突然なんで?
「あ…と、どうして?」
そんな私の質問に、渋面を作って巫女は言った。
「あのねー、私だって鬼じゃないのよ!あんな光景見せられたら焼き鳥なんて食べられるわけないじゃない!う…せっかくの動物性タンパク質だと思ったのに…、しばらく焼き鳥なんて食べられないわ…」
そう言って黙った巫女の顔は、何だかとってもさびしそうだった…
そして、最後の方…半泣きだったのは気のせいだろうか…?
ちょっと…可哀想、よし
「あ…あの」
「何よっ!」
勇気を出して呼び止めた私を、巫女はきっと睨み返してきた。怖い~
「ひっ!?あ…あの、もしよければうちで晩ご飯なんかどう…?」
「へ…え?」
固まる巫女。あ…やっぱりまずかった!?下手な同情したと怒られるかも~!!藪蛇~!!!
「あ、いえ~ごめんなさ~い、嫌ならい…ひっ!?」
失敗した…と思った私は、慌てて先の発言を訂正しようとしたのだけど…そんな私の両手を、巫女は目にも止まらない速さでぎゅっと握りしめてきた。
凄い力…逃げられない!?
「ごめんなさ~い、(私を)食べないで~」
「チュンチュン!!」
慌てる私、そしてどうにかしようとじたばたするチュンスケ…でも。
「そうはいかないわ」
獲物は逃さないとばかりに、巫女がこっちを睨んだ。
「あう…」
その眼光は鋭く、私は抵抗どころか身動きすらとれなくなってしまう…
ああ、わたしはここで焼き鳥にされちゃうのかな。余計な事言わなきゃ…せめてあんまり痛くしないで~
だけど、覚悟を決めた私に巫女はこう言った。
「一度言った事はちゃんと守って、晩ご飯~!!」
闇夜に響き渡る巫女の叫び声、これは…もう魂の叫びね。
「は…え?」
あれ?食べられるのは私じゃなかったの?戸惑う私に、今度は表情をがらりと変えて巫女は言う。
「というわけで晩ご飯よろしくね」
にっこり笑って言う巫女、だけどその笑顔の裏には、絶対に拒否などさせないという強い意志が見えていたの。
「え…あ、うん。私が食べられなきゃいいよ、うん、そんな心配しないでも一杯食べさせてあげるから…だから私を美味しそうな目で見ないで、お願い」
こうして、私と巫女は愛しの我が家へと向かっていった。ちなみに、私が念のためチュンスケを待避させたのはいうまでもないわ。
私の家
テーブルに並べられた食事…それを片端から食べているのは言わずと知れた博麗神社の素敵巫女、霊夢さんだった。
「おいしいっ!おいしいよ~。お粥じゃないご飯なんて久しぶりだわ!しかも雑草もおがくずも混じってない!!」
霊夢さんは一口ごはんをほおばるたびに歓喜の叫びを上げていた。私は何か自分が食べられそうでそのたびに身をすくませていたの。
それにしても、普通のご飯でこんなに喜ぶ人…いや人妖…っていうか鳥まで含めても見たことない…
「あ、これ焼き魚?イワナっ!?あ…あ…はぐ!おいし~!!」
満面の笑みを浮かべる霊夢さん、どんな生活してるんだろうこの人…
だけど、そんな疑問は次の言葉で困惑に変わった。
「え、このご飯白米だけなの!?雑穀入ってないの!?何年ぶりかしら、白米100%のご飯食べるのなんて…」
訂正、どうやって生きてたのかな、この人?
「おかわりっ!いい?」
威勢よく言った後、上目遣いで私を見る霊夢さん。餌をちょうだいとねだる子雀みたい、そんな目で見られては断れない、もっとも、こんな事せんでもご飯くらいならいくらでもあげるのだけど…
私は、そんな霊夢さんにごはんを山盛りにしながらこう言った。
「うん、いくらでも。困ったときはお互い様だよ、だけど焼き鳥だけはやめてね」
そうそう、これだけは言っておかないとね。
「う…わかったわ、ありがとう。昨日まで散々争った私に、こんなごちそうをしてくれるなんて…、何か私にできることだったらなんでもするわ」
うるうるしながら言う霊夢さん。余程ご飯が美味しかったのかな…
「え…でも」
私は戸惑ったけどなんか幸せだった。
ここまで喜ばれるとうれしいなぁ、昨日の敵は今日の友ってやつだね。
「いいわよ、私は受けた恩くらい返すわ。魔理沙みたいに恩を仇で返したりしたりはしないの」
にこにこ笑って言う霊夢さんに、私は「たぶんここに魔理沙さんがいたら言い返すんだろうな~」とか思いながら、いいことを思いついた。
「う~と、じゃあね…」
私はそのお願いを霊夢さんにささやく。
「え?ええ、わかったわ。願ったりかなったりよ、任せて!」
霊夢さんはドンと胸を叩き、自信たっぷりに答えた。頼もしいなぁ。
「ありがとう。じゃあもう私たち友達だね、ささ、お酒だよ~」
「え…んぐんぐ」
「え?」
そして直後にますます素敵な笑顔を見せた霊夢さんに、私は一升瓶を口につっこまれたのだった…
一時間後…
「いっちばーん!ミスティアうたいま~す!!」
「わー!!じゃんじゃん!!」
「巫女巫女レイムッ!巫女巫女レイム~!!」
「いぇいっ!!」
そして、その夜、ミスティアの家からは、すっかり仲良くなってできあがった二人の声が、一晩中響き渡っていましたとさ、ちゃんちゃん。
数日後…
森に接近する二人組がいた…
「ねぇ妖夢、今日はどれくらい捕れるかしら?」
「はぁ、幽々子様、あまり食べすぎないで下さいよ。幻想郷の鳥を食べ尽くす気ですか?」
「もう、妖夢。食べるのは半分位よ?」
「幽々子様…」
「そろそろ森に…あら?」
森に接近する大食い幽霊とその庭師、だが、その二人の前に立ちふさがったのは他でもない霊夢である。
二人の前に立ちふさがった霊夢の顔は血色よく、生気があふれ出ていた。
「私の友達を殺させないわ、春の亡霊。亡霊は亡霊らしくお供物でも食べてなさい!」
「え、博麗の巫女…なぜ邪魔を…」
「そうよ、お供物っていったって何もないじゃない!」
「あのー幽々子様、論点が…」
「あんたたちの事情なんて知った事じゃないわ。この森の小鳥達を襲わせはしない、覚悟なさい」
「霊夢…あなた焼き鳥を独り占めにする気ね!妖夢、やっちゃって!!」
「え…あ、幽々子様それは違うと思うんですけど…ともかく、妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまりない!」
「よく喋る半分は幽霊ね、二重弾幕結界!」
「む…一念無量劫!」
二つの強力な弾幕が激突する。閃光が走り、轟音が響く。力と力がせめぎあい、たちまち周辺に爆風を撒き散らした。
森の中
「うん、大丈夫、急いで!あ…チュンスケ…」
森の小鳥たちを避難させていた私は、よく知った顔を見つけて一瞬手を止めた。
「チュン!」
そう、力強くはばたくその子の名は…チュンスケ、私の大切な友達だ。私に大丈夫?と尋ねるチュンスケに、私は自信満々こう言った。
「大丈夫、こないだ霊夢さんと話したら意気投合しちゃってね、お互い苦労してるんだな~って。それでね、霊夢さんご飯のお礼に今度は私たちを守ってくれるんだって。代わりに今晩も私の家の晩ご飯にご招待だけどね」
「チュン…」
「うん、だから大丈夫だよ、心配しないで。それじゃ私も行かなきゃいけないから、霊夢さん一人にに任せておくわけにいかないし…うん、一人で飛べるんだから大丈夫、あの大食い亡霊達を追い払ったらまた話そうね。じゃ」
それでも不安そうなチュンスケに、私は重ねて言って舞い上がる。
「チュンチュン!」
後ろから追ってくるチュンスケの声に励まされ、私はどんどん舞い上がる。目指す先では強力な弾幕が次々とぶつかっていたのだけど、私はそんなことには怯えない。
私を待つ霊夢さんの所へと、私は全力飛行で向かっていった。
『おしまい』
つまりなまくら刀ってことでしょうかw
ご指摘ありがとうございます、直ちに訂正いたしましたorz
何書いてるんだ私は…そして、こんなことやっておきながら思わず爆笑してしまった私は、とっとと斬られてきます。
ZANSYU!(何かが切られた音)
何が言いたいかというとみすちーかわいいよみすちー、そしてチュンスケかわいいよチュンスケ。
あと霊夢怖いよw
あと、実質的に餌付けされてる霊夢にちょっと涙が(w
>二人目の名前が無い程度の能力様
喜んでいただけたようで(?)幸いですww
>三人目の名前が無い程度の能力様
>近所によくやってくるリアル雀を見て和んでる自分にはみすちーとチュンスケのやりとりが克明なSE付きで再生されました。
うわー…こちらも和みます。頭の中に映像が…
>SETH様
>霊夢怖いよ
実は、『おにぎり持って遠足に』で貴方から以前頂いたご感想『霊夢ターミネーターみたい』が頭にあったりします(笑)あの恐怖が忘れられず…
>変身D様
>実質的に餌付けされてる霊夢にちょっと涙が(w
そりゃあみすちーは小鳥に餌付けするのには慣れているので霊夢なんて簡たげべっ!?
連絡が途絶えました。
みすちーかわいいよ。霊夢も飢えてても人情があってイイ。
ご感想ありがとうございます。
いつもいつも食べられているみすちーですが、こういうのもあっていいんじゃないかな…と思いましてww