貴女は違和感を感じている。
貴女は、貴女の母に何度かへその緒や母子手帳を見せてもらっている。
なのにそれをどこか信じられない。
「私はこの世界の人間だ」
本当に自信を持って言える?
今貴女が寝ているそのベッドは本物? ふと、それを認められなくなったとき……。
そのベッドは消え、貴女はそこから落ちる。そして、その床さえも信じられなくなる。
大地さえも、世界さえも、全てが嘘に見えて貴女は地の果てまで落ちる、ついには宇宙空間に放り出される。
それでも貴女は死なない、その宇宙空間すら信じられないから。ついには無の世界へと飲み込まれてしまう。
「そんなことあるわけない」
確かに、少し冗談が過ぎたかも知れない。
でもどこまでが冗談かしら。宇宙、星、地球、そこまでは実在しているの?
それは良いとして、どこまでが冗談に聞こえたかしら?
「全部」
そう、認められないの。でもわかってる、認めたくないだけだって。
貴女はこの世界から『はみ出し』ている。それを一番痛感しているのは自分のはず。
「貴女は誰?」
現実を捨てればわかる、いえ、捨てるのは幻想かしら。
――また会える?――
会えるわ、きっと。
けたたましく鳴っている目覚まし時計の頭を叩いて、私は時間を確認した。
午前七時十分、いつも通りの時間だ。階段を下りて洗面所に向かう途中、母に会って挨拶を交わす。
「おはよう」
「おはよう、酷い顔よ、寝不足なんじゃないの?」
「うそ?」
洗面所で鏡を見ると目の下に隈が出来ていた。夕べは一時過ぎに寝た。十分健康的な睡眠時間だと思うのだけど。
しかし悲観したってどうしようもない、今から二度寝とはいかないのだから。私は学校へ行かなければいけない。
疲れているのは夢のせいだろう。どうもあの夢を見た次の日は十分に寝たはずでも疲れが残る。
洗った顔をタオルで拭いた……隈は目の下にどす黒くぶら下がったまま。
「これも洗い落とせたら良いのに」
叶うはずも無い希望を呟きながら、髪の毛のセットに入る。
整髪料をつけて、梳かして、肩より少し下まで伸ばした髪の毛をポニーテールに結った。
髪の毛がスッキリすると余計に隈が目立つ、かと言って下ろしたままだと尚更不気味だし仕方がない。
「はぁ……」
そういえば隈もそうだが、近頃体調もあまり良くない。
三ヶ月ほど前に初めて見たあの夢は、いや、おそらくあれは夢ではないのだと思っている。
とにかく、それは時が経つにつれ頻度が上がり、今では週に三~四回は当たり前になってきた。
目に見えて体力が落ちているのがわかる、二階への階段を登るだけで軽い息切れを起こすほどだ。
かろうじて学校には通えているものの、授業中は寝てしまう。成績も下降の一途を辿るばかり。
「ふぅ……ふぅ……」
息を切らして二階にある自室への階段を登りきり、服をパジャマから制服へと着替える。
(これは実在してる?)
ふとそんな疑問を抱くことがある。悔しいことに、あの声の主は私の状況を完璧に察しているようだ。
手にしている制服の感触がどこか胡散臭い。一度も触ったことが無いもののように感じることがある。
『ゲシュタルト崩壊』という言葉を何かで見たことがある、テレビか何かだったか。
それまで当たり前に『それ』と認識していたものが、突然本当に『それ』なのかわからなくなること。
集合として認識していたもの、例えば人の顔、パーツごとにじっと見ていると知らない人に見えたりする。
これは実際に体験したことがあるので、私にもよくわかる。
だから言えるのは、今私が感じている違和感はそれとは絶対に違うものであるということ。
認識できなくなるなどという話じゃない、じっと観察したら目の前から消えてしまうのではないかという恐怖がある。
最近よく、
「人の目を見て話をしなさい」
だとか、
「目が泳いでるよ」
などと人に言われる。
「だって怖いんだから仕方がないじゃない。消えてしまいたいの?」
なんて言い返そうものなら即座に狂人扱いされてしまうに違いない。本当に狂っているのかもしれないが。
できることなら目を閉じて生活したい、しかし困ったことに触覚も疑わしい。
あの声に言われたように、突然何も無い空間へと落下し続けてしまうかもしれない。
嗅覚も、味覚も、聴覚も……いや、私がおかしいのではない、この世界が疑わしい。
「……っ!?」
最後にネクタイを締め終えて歩き出そうとした瞬間、私は足を踏み外して転んだ。
『現実』から、足を踏み外して転んだ。言いようの無い恐怖を覚えた。
(今……床が消えた……?)
目で見る分には確かに床は存在している。へたりこんだままそこを撫でると、やはりそこには床がある。
貧血を起こしたとかそういう感覚ではない、視界も意識もはっきりしていた。
――急がなければ――
混乱しっぱなしだが、そう思った。その思考の意味するところがわからない。
果ては自分さえも偽りの存在なのではないかと錯覚する。
「ちょっとー! また寝てるの!? 早くご飯食べて学校に行きなさい!!」
階段の下から聞こえた母の声で我に返った。
今のは一体何だったのだろうか……私は精神を病んでしまったのだろうか?
いや、それは違う。何故なら私はずっと前から他の人間とは違ったから。
全身が重い、食欲なんて湧かなかったが今食べなければ後で余計に体調が悪くなる。
呆けたような表情でトーストを食いちぎる私を、母が心配そうに見つめていた。
「あんた大丈夫? 熱でもあるんじゃないの? 学校休んだら?」
「ん、いいよ、行ける」
あの声は私が部屋に一人でいるときに話しかけてくる。どこから声が聞こえているのかはわからない。
出没するのは主に夜中だ、日付が変わった辺りから丑三つ時にかけて。寝ているときを狙って話しかけてくる。
起きた感覚はしっかりとある、だから時計を見て時間を確認しているのだ。部屋の中の様子まで確認できる。
声からして少女……のように感じるものの、その落ち着き払った口調や態度を少女の声と片付けてしまうのは安直すぎる。
聞くたびに声が違う気さえするのだ、まったく掴み所が無い。
砂糖もミルクも入れないコーヒーを一口啜った。この苦さは本物だろうか?
「もうちょっとしたら中間試験だからさ、最近成績下がってるし、休みたくないの」
「そう……無理はしちゃダメよ?」
「うん」
誰も私の変化に気づいてない、それこそ私が狂っていないことの証明だと思う。
狂っている人間に敢えて自然に接触しているような態度でもない。今もただの体調不良だと思われている。
そしてもう一つ狂っていないという証拠。私は本当に他の人間とは違うから。
私は触れたものを破壊する光の弾を作り出し、それを飛ばすことができる。
私は風や植物といった自然界の要素を操る力を持つ。
私は空を高速で飛ぶことができる、触れずに物を動かすことができる。その他にもたくさんのことができる。
幼い頃、嫌いな教師に光の弾をぶつけたことがあった。その教師は壁に叩きつけられ、あちこち骨折して入院した。
私は恐ろしくなった。人を傷つけてしまったという罪の意識と、どんな罰を受けるのかという恐怖。
しかしそれは謎の怪事件として処理された、誰も光の弾が見えていなかったらしい。
その他にも枯れた花を蘇らせてみたり、徒競走では自分だけに追い風を起こすといったズルをしたりした。
幼い頃は一度力を使うたびに酷く疲れたが今はそうでもない。手足を動かすように自然に行える。
もっとも部屋の中ぐらいでしか使わない。何故ならこの諸々の能力の危険さは先の教師の件で思い知っていたから。
そしてバレていないからこそ、周囲の人間に変な目で見られることも無い。外見上は至って普通の学生生活を送っていた。
しかし最近更に変な現象が起こるようになった。
夜に現れる少女もそうだが、不思議なもの……人に話したら笑われそうだが、言うなれば妖怪。それが見える。
そう頻繁には見ないが、天狗が空を飛んでいたり河童が川を泳いでいたり。お尻から狐の尻尾が生えた人だとか……。
幻覚だなんて思わなかった、何故なら彼らは私に近い存在だから。未知の力を持つ者達だから。
「ごちそうさま」
「よく全部食べたわね、気持ち悪くない?」
「大丈夫だよ、ちょっとお腹苦しいけどね」
本当は中間試験のことなど気にしていない。ただ部屋に一人でいるのが嫌だった。
思い腰を持ち上げて椅子から立ち上がると、私は食器を台所へ運んだ。
後ろでは母が「だるかったら無理せず早退するのよ」などと話しかけてくる。私は軽く手を振って洗面所へ向かった。
歯を磨きながら鏡を見つめていると、隈はまだ残っているが血色は少し良くなった気がする。
朝食は一日の活力源と言う、やはり多少無理にでも食べておいて正解だった。
――私を救えるのはあの少女だけ――
またノイズが入る。
しかし実際このままではまずい、いつか衰弱死しても不思議ではない。
(何が「私を救えるのはあの少女だけ」よ……あいつが私を苦しめてるんじゃない)
あれは妖怪だ。私を取り殺そうとしている悪魔だ、正常な私の脳はそう判断している。
このわけのわからないノイズだって私の悩みの原因の一つだ、そう簡単に信用してなるものか。
(姿を現したら懲らしめてやる)
歯ブラシを強く握り締めた。
全てがおかしくなったのはあの少女が現れてからだ。犯人は奴以外に考えられない。
口をゆすぎ、憎々しげにその水を吐き出してから鏡を睨みつけた。
(見てるわね?)
鏡に映る廊下の奥に、チラ、と……金色の長い髪が引っ込んだように見えた。
学生鞄が肩に重くのしかかる。いかに強力な力を使えるとはいえ、その身体は衰弱した少女そのもの。
私は体格もあまり良くない。平均身長より一回りも二回りも小さいので未だに小学生に間違われることもある。
学校は家から近い、徒歩でおよそ十分強といったところ。十五分はかからない。
下駄箱で靴をはき換えたり、教室へ向かう中で十五分ぐらいは経ってしまうが。
「おはよ、うわ何その顔?」
「あー、酷いでしょー」
教室の前に居た友達と挨拶を交わした、しかし第一声がこれとは……思わず苦笑してしまう。
「大丈夫なの? 顔色もあんまり良くないみたいだけど」
「最近ちょっと夜更かしする癖がついちゃってさ」
「あらー、夜更かしはお肌の大敵よ~」
「……あ、あはは……」
その友達はクネッと腰をひねって妙なポーズをする。
この歳でそんなこと気にしなくても肌なんて瑞々しいだろうに。いや、思春期だから余計に気にするものなのだろうか。
教室の中から彼女を呼ぶ別のクラスメートの声が聞こえ、彼女は私に手を振ると、教室の中へと引っ込んでいった。
冷静沈着ね。
(何の用よ)
廊下に備え付けてあるロッカー、その中の一つが少し開いている。
そこに真紅と漆黒の混ざり合った空間が蠢いていた、その空間から禍々しい赤い瞳がいくつも私を凝視している。
そしてその中の一つに……紫色の瞳が混ざっていた。
友達と話している途中から異様な気配は感じていたが、友達の手前態度には出さなかった。
私を狂人だと思わせないために。
ここは幻想的ね、とても。
(夜だけじゃ飽き足りなくなったの?)
早く気付くべきなの、本当の幻想というものに。
(そんなこと知らない、お願いだから学校にまで来ないで)
貴女が黙っていれば済む事じゃないの?
(何がしたい?)
有意義な人攫い。
(私を攫うと?)
そう、それが必然だから。
(馬鹿馬鹿しい、これ以上付きまとわないで)
貴女は間違った存在。
その言葉を聞いたとき、頭の中が熱くなった。
「キャーーーーーーーッ!!」
私は怒りのあまり、そのロッカーに光の弾をぶつけて木っ端微塵に破壊した。
周囲に居た数人のクラスメートが突然の出来事に悲鳴を上げる。破片で怪我をしてしまった者もいた。
(……しまった、なんてことを……)
これでわかったでしょう? 貴女は間違った存在だと。
(最初からこれが狙い?)
さぁ、お好きに解釈なさってよろしくてよ。
既にあいつが入っていたロッカーは無い、私が破壊したから。
しかしあいつはどこかに居る。どこか別の隙間へと移動したのがわかる、そしてかすり傷すら負っていないだろう。
(やられた……!!)
呆然と立ち尽くす私は、いくら友人に身体をゆすられても何も答える気にならなかった。
そして隙間の気配が消えた。
爆弾魔がどうのとすぐに大騒ぎになってしまい、私達生徒は全員家に帰らされた。
私は現場に居た事もあって取調べを受けたりしたが、警察にこの不可思議な現象を解明する力があるわけもなく、
「よくわかりません、突然爆発が起きたことしか……」という私の言葉を鵜呑みにしていた。
少し突っ込んだ質問をしてきた者もいたけれど、証拠なんて出てくるわけはないのですぐに疑いは晴れるだろう。
「怖いわねぇ……これから学校どうなるのかしらね?」
「どうなんだろ……よくわかんない」
「でもあんたが無事で良かったわ、すぐ側に居たっていうのに運が良いのね」
「うん」
母の目に若干の猜疑心が潜んでいる。しかしそれは私を犯人と疑うものではない。
「そんな事件を目の当たりにしたのに、なんでこの子はこんなに冷静なんだ」ということだろう。
ただ、見ようによっては放心しているようにも見えるだろうから、今更演技をすることもない。かえって不自然だし。
そして既に私の生活は破綻しかけている、全てあいつの思惑通りということだろうか。
「部屋でちょっと休むよ、疲れちゃったから」
「そうね、そうした方が良いわ。お昼の時間になったら起こせば良い?」
「いや、いいよ……食欲も無いし」
それなりに疲労しているらしい私から人間味を感じたのか、母はその表情に多少の安堵を浮かべた。
私は居間を後にして二階へと向かう。疲れているのは本当だが休むことが目的ではない。
あいつが出てきたとき、周りに人が居ると都合が悪いからだ。
部屋に着くとまずは制服から私服へと着替え、それから机に腰掛けて指を組み、そこに顎を乗せる。
あいつは「有意義な人攫い」と言った。意義なんて知ったことじゃないが、私を攫うつもりらしい。
攫うと言ってもどこへ? 妖怪達の住むところへ攫うとでも言うのか。
(間違った存在?)
最後に言われた一言。この言葉で私は冷静さを失って惨事を起こしてしまった。
普通ではない、人知れず社会からはみ出している、その力でたくさんの人を不幸にできる。
わかってはいたものの認めたくないことだった。それをはっきり言われて頭に血が昇ってしまったのだ。
――逆らわない方が良い――
(またか……)
時折頭に入ってくる雑音。
あいつの肩を持つような言葉が多いが、それが一体何を意味しているのかはわからない。
(もーわかんない……)
机から立ち上がり、髪を解いてからベッドの上に寝転がった。窓から入ってくる光が鬱陶しくてカーテンを閉めた。
(出てくるなら出てきなさいよ……)
現実と自分が噛み合わない妙な感触。私の持つ不思議な力。
それらの解決の糸口はあいつが握っているような気がする。悔しいけれど、きっとそうなんだろう。
だがあいつの態度は決して信用できるものではない。それにじわじわと追い込むような方法。
だから、やはり全てあいつが裏で糸を引いているという可能性は捨てきれない。
いくら普通じゃないといったって、普通の観念を教えられて育ってきた私にとって、あいつは簡単に受け入れられる存在ではない。
考えたいことはまだあったが私は心底疲れていたので、うとうととまどろんでそのまま眠りについた。
目を覚ますと既に夕方だった。緩慢な動作で時計を確認すると、その針は午後六時を指している。
余程疲れていたらしい、これでは夜寝ようと思っても寝られそうにない。
眠い目をこすりながら一階に下りると、母は出かけているらしかった。食卓に「買い物に行って来ます」という書置きがある。
作りかけの夕飯が中途半端な状態で放置されていた、食材が足りなかったことに気が付いて買いに行ったのだろうか。
「おはよう」
私は突然話しかけられて酷く狼狽した。台所の隅に少女が立っている、あいつだ。
迂闊だった、長い時間寝ていたせいで勘が鈍っていたらしい。
「今朝は無理して長く起きてしまったから、まだ少し眠いの」
起きてるのは暗い間だということだろうか。それならば主に深夜帯に現れるのも納得がいく。
少女の容姿を確認すると、まず見たことも無いような変な帽子をかぶっている。
その帽子の下では今朝ロッカーから覗いていた紫色の瞳がこちらを見つめていた。
腰まで届くような長い金髪には、必要以上にたくさんのリボンが結ばれ……紫色のワンピース、白い手袋。
不思議なファッションだった。悪趣味にも見えるのだが、良く似合っていて思わず目を見張るものがある。
――八雲紫――
「やくも……ゆかり?」
「あら……」
少女……いや八雲紫は少し驚いたような表情をしたが、すぐに元の不気味な笑顔に戻った。
少女とは言うものの、体格は私より一回り大きい。私が平均以下ということもあるだろうけれど。
「何よ、何しに来たの? コソコソと隠れて何かやっていたくせに、どんな心境の変化なんだか」
「いやぁ、貴女が思ったよりもしぶといものだから……作戦を変えようと思いまして」
「人攫いだっけ目的は。で、こうやって出てきたってことは、力ずくでやろうとでも?」
「まあまあ、そうカリカリしないの」
苦笑しながら八雲紫は、食卓の椅子を引いてそこに腰掛けた。
「最初はいつも通りやろうと思ったのよ、ところが何度貴女の周囲の空間に揺らぎを作っても……
貴女は自然にそれを回避してしまうから……様子見も兼ねて衰弱させてから料理しようと思ったのだけど」
「揺らぎがどうとかは知らないけど十分ヘトヘトよ。上手くいって良かったわね」
「身体はね……けど霊力は全く衰えていない。今朝は本当にびっくりしたわ、突然あんなことをするなんて酷いじゃない?」
「あんたの喋り方が挑発的だからでしょう」
「外界であまり派手にやり合うのもどうかと思うのだけど……虎穴に入らずんば虎子、ということかしら」
「外界って何よ?」
「言葉の通りなの……直接スキマを使って攫うのは少し品が無いけれど、そうするしか無いみたいね」
「隙間……? まぁいいわ、とにかく……もう一つあんた達の世界があると思って良いわけね?」
「良いわよ、あら……これからが良い所だったのに邪魔が入ったみたい」
玄関からドアの開く音が聞こえる、どうやら母が帰ってきてしまったらしい。
「普通の人には私の姿は見えないはずだけど……また今夜、今度は貴女を攫いに来るわ。待ち焦がれていてね」
「誰が」
八雲紫はクスクスと笑うと、腰の辺りから空間の裂け目を作ってそこへと入っていった。
それと入れ替わるように母が台所へとやってくる。
「あら、やっと起きたの?」
「うん、寝すぎちゃったよ」
「待ってて、すぐご飯にするから」
「お父さんは?」
「仕事で遅くなるみたい、先に食べましょ。お腹空いてるでしょ?」
「朝からずっと食べてないしね、ペコペコだよ」
力が抜けた、この場で尻餅をついてしまいそうな程に。
私が相手にしていた妖怪、八雲紫は相当な大物であることを肌で感じた。あれはあまりにも危険すぎる。
威圧感……いや、妖気とでも言うべきなのか、側に居るだけで肌が張り裂けそうなほどの圧迫感を覚えた。
表情はニヤけていたがこちらを威圧してたのは確実だろう。何が何でも思い通りにしようという気迫があった。
(今夜また来るのか……)
八雲紫の座っていた椅子に腰掛けると、恐ろしく冷たいものを背に感じた。残留した妖気だろうか。
しかし向こうも私の実力を随分高く見ているようだ、無理矢理に誘おうとすれば激しく抵抗されると思っているのだろう。
それで勝てるか勝てないかわからないが……いずれにせよ今夜で決着がつくようだ。
「ほら、ご飯を食卓に運ぶの手伝って」
「あ、うん」
母の作った夕食の良い匂いを嗅いでいると、胃が切なげに鳴いた。
それに気付いた母は苦笑しながら、
「もう、そんなに我慢してないで自分で何か作って食べたら良かったじゃないの」
「……お母さんほど上手じゃないし、さっき起きたばかりだもん」
「しょうがない子ねえ」
もう演技だ。空腹と腹の音だけは真実だけれど。
八雲紫から感じた気配は、恐ろしくもあったがどこか懐かしいような感触があった。もちろん残留妖気もだ。
生きている心地がして、自分の存在が真実であることを強く実感できた一時だった。だから攫われても良いというものではないけれど。
それと比べ、目の前の母の存在の嘘臭いことと言ったら無い。少し目を凝らしたら消えてしまいそうだ。
(ズレてる、確実に……)
そんなことを考えながら里芋の煮付けを運んでいたとき、また床が無くなった。
私は足を踏み外して里芋の煮付けと共に床に倒れこんでしまった。
「どうしたの!?」
里芋の煮付けは、それを盛った食器ごと床に叩きつけられて無残に散らかっている。
母は呆然とする私の両肩を掴み、私の全身をすぐに確認する。
「大丈夫!? 火傷はしてない!?」
「……してないよ」
母の目の中に悲しさと疑いの色が見えた。それは私の身体に一滴の汁もかかっていないから。
反射的に力を使って身体を守ってしまったから。母は今朝の事と言い、私を不審に思っているに違いない。
幼い頃、嫌いな教師を怪我させたときから勘付いていたのかもしれない。血の繋がった家族というのは侮れないものがある。
私は母の目を見ることができなかった。
「あんた……」
「……ないでよ……」
「え?」
「……そんな目で私を見ないでよ!!」
全てが信じられなくなりかけていたが、心のどこかに家族だけは信じ続けたい気持ちがあった。
母の見せてくれたへその緒、母子手帳、思い出の詰まったアルバム……たくさんの楽しい思い出。
そういうものが最後の心の拠り所だった、自分がこの世界にいるのだという既成事実だった。
私は母を突き飛ばし、二階へと駆け上がる。しかし階段を登っている最中、足元の段が消滅した。
――いけない――
(転げ落ちるっ!?)
そうはならなかった。私が勢い余って身体を打ち付けるはずだった階段も消滅したから。
そうなったらもうどうしようもなかった、世界の全てが崩れ落ち、真っ暗な空間へ飲み込まれていく。
「いやぁぁぁぁ!!」
もちろん、私も。
深い深い闇の中へ飲み込まれていく。
無の世界へ。
もうダメだと思った。このまま真っ暗な空間を自由落下し続けて餓死するんだろうか。などと思った。
飛ぶ能力はあるものの、こんなところどんなに上に昇ったって何もありそうにない。
真っ暗な空間なのだが、私の身体だけはくっきりとその色を映していた。
(誰か助けて……)
そう思ったとき体がふっと中に浮いた。いや違う、いくつもの腕に受け止められた感触だ。
見ると真っ暗な空間が裂けてそこから無数の手が伸びている、誰の手かはわからないが。
「ダメじゃないの、ちゃんと待っててくれなければ」
ミシミシと音を立てて隙間は更に広がり、そこから顔を出したのはやはり八雲紫だった。
八雲紫の隙間など含めた全ても、真っ暗な空間にくっきりと浮かび上がっている。
「く、来るな……来るな!! 来るな!!」
「まぁ酷い、助けてあげたのに」
八雲紫はわざとらしく、少し困ったような表情をしてみせる。
元はと言えば全部こいつが悪いんだ。こいつのせいで私は全てを失う羽目になったのだ。
あれだけの妖気を出せる奴なら、ああやって世界を消す事だってできるに違いない。
――違う――
「うるさい!!」
「錯乱してるわね……ちょっとやりすぎたかしら」
「やっぱりあんたが私の世界を消したのね!?」
「え? それは違うわよ? 濡れ衣だわ」
私を受け止めたいくつもの手を振り払い、自分の力で浮かんで、八雲紫に向けて手を構える。
「あら、飛べたの? 流石ね」
「あんたをやっつけて……元の世界へ帰らせてもらう!!」
「だから私じゃないってば~」
問答は無用。やることなすこと胡散臭い、こいつの言うことなんて信用するものか。
自分がパニックに陥ってるのはわかってる、けど今私の怒りをぶつけられる相手はこいつしかいない。
八雲紫に向けて突き出した右手に少し力を込め、たくさんの小さな花びらを召喚した。
「まぁ綺麗。似たようなことできる妖怪は見た事あるけれど……」
「本気よ……今朝使った光の弾なんかとは比べ物にならない破壊力がある、見た目に騙されないでよね」
「忠告ありがと……やはり、こうなってしまうのね」
八雲紫は億劫そうに空間の裂け目から這い出るとその上に腰掛けた。どういう原理なのだろうか。
その表情はにやけているが、ついさっき会ったときのように威圧感に満ち満ちていた。
(負い目を感じたら負ける……)
右腕を取り巻いている花びらを風に乗せる。それらがうねりをあげて八雲紫を包み込んだ。
だが、自分に向けて螺旋を描きながら迫ってくる花びらの群れを見ても、八雲紫は一切動じることは無い。
「綺麗な花吹雪だわ」
「黙れ!!」
刃と化した花びらは八雲紫の身体に届くことなく、一定の距離に達すると同時に発光し、炭と化した。
花びらのぶつかった辺りがその閃光を反射することで、結界の存在を強烈に知らしめている。
「大した威力だわ、本気で引いた結界ではないとは言え、一枚剥がされてしまった」
「う、嘘でしょ? 無傷!?」
「外界でここまで成長するなんて……やはり貴女は連れて行く、幻想郷三人目の守護者として」
「何なのよ!? わけがわからない!!」
私は大きく振りかぶり、そのままなぎ払った腕を体の前で交差させてX字型の真空波を起こした。
真空波は漆黒の世界を切り裂いて八雲紫へと襲い掛かる。命中すればバラバラに斬り刻まれるはずだ。
やれるだけのことはやらなければならない、正直な話……それでも勝てない予感があった。
予想通りの眩い閃光。渾身の力で放った真空波も八雲紫の結界に遮られ、霧となって弾け飛んだ。
「今度は二枚……素晴らしいポテンシャルなの」
「来ないで……来ないで!!」
怖い、怖い、怖い。こいつは何なの? ここまでやって傷一つ付けられないなんて。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
「……見たいわ、貴女の力。貴女の全て。見せて、見せて? 全て受け止めてあげるから」
「来るなぁーっ!!」
身体はしっかりと八雲紫へと向けたまま、全速力で遠ざかりながら無数の光の弾、真空波、花びらを八雲紫に向けて撃ち放つ。
八雲紫はくっきりとその姿を浮かび上がらせ、空間の裂け目に鎮座したままゆっくりと、しかし確実に迫ってくる。
ニヤけた顔が怖い、妖しく光る目が怖い……来るな、来るな、来るな。
「四重結界……今度は本気よ? うふふ、どのぐらいの時間で全て破壊されるか気になるわ」
八雲紫は怖がる私の様子を面白がりながら、堂々と真正面を切って突き進んでくる。
それがハッタリで無いことは、私の弾幕が一切その結界を突破できないことからも明らかだ。
「なんでよ!? なんで通用しないの!?」
「もっと思いを込めて……ふふふふ」
徐々に疲労が溜まってくる、私はこんな激しい戦いなんてしたことが無かった。
対等に戦える者もいなかったし、もちろん私より強力な力を持った者と戦ったこともなかったし。
しかし恐怖心と焦燥感に包まれているものの、心の奥底には僅かな歓喜が存在した。
こんな異常な力を持つ私を八雲紫は恐れていない、言葉の通り全てを受け止めている。
恐ろしいことに違いはない、けれど嬉しさも確実にある。
「もうどうなっても知らない!!」
「まぁ捨て身? 怖いわ」
更に密度を増す私の弾幕。それを見ても相変わらずニヤけたままで、思ってもいないことを吐く八雲紫。
そしてやはり次々に弾き返される私の弾幕……しかし、弾け飛ぶ位置が少しずつ八雲紫に迫っているように見えた。
八雲紫の身を守る結界を少しずつ剥がすことができているらしい。一枚、二枚、三枚……。
「このまま……っ!! 貫いてやる!!」
「うふふふ……結界を逐一引きなおすような無粋な真似はしないから、どうぞお好きなだけ……」
「近づかないで!!」
思いっきり距離を離すように全速力で飛んでいるのに、私と八雲紫の間合いは一向に変化しない。
もう攻撃するのも疲れてきた、積もり積もった疲労がじわじわと効いてくる。
しかし、諦めかけたときガラスが割れるような大きな音がして、私の攻撃が八雲紫の身体に届いた。
空間の裂け目に乗っていた八雲紫がバランスを崩して体勢を崩す。
「ンッ……!! 痛いわ……強いのね」
花びらが一枚八雲紫の脇腹に直撃した。そこから噴出す鮮血はすぐに闇に飲み込まれて消えていく。
だが、攻撃が直撃したにも関わらず私は焦りを隠せない。本来かすっただけで上半身と下半身が分かれてしまうはずなのに。
やはり八雲紫に常識は通用しない、確実にダメージにはなっているはずだが致命傷という風でもない。
そっと腹を撫で、指に付着した自分の血をこねくり回しながら楽しそうに眺めている。
「はぁはぁ……もうダメ……」
意識が朦朧とする、もはや光の弾一つ作り出す力すら湧かない。
最後の力を振り絞って宙に浮かんでいたが、それももう限界だ。これから暗闇の中に飲み込まれてしまうのだ。
――大丈夫――
力を失い暗闇の中へ飲み込まれそうになった私は……八雲紫の腕に抱かれて事なきを得た。
それはまるで母が我が子を抱きかかえるかのように……八雲紫が私を抱きとめていた。
「これだけ弱っていれば、苦労せずに連れて行けるわね……お疲れ様」
「……ゆか……り……」
「どうしたのかしら? もう抵抗しても無駄なのはわかっているわよね?」
そんなのは当然のことだ、今の私には素手で殴る力すら残ってはいない。
本当は声を出すのも楽ではないのだが、攫われる前にいくつか訊いておきたいことがある。
こいつはきっと私を攫うだけ攫って放り出すだろう、なんとなくそんな予感がするから。
「ここはあんたが作った世界じゃないとすれば何なの……? 私が住んでいた世界はどうなったの……?」
「そうねぇ、攫う以上はそれぐらい教えておいた方が後腐れが無いかもしれない」
そう言って八雲紫はクスクスと笑う。目線を下に落とすと既に傷も治っているようだ。
「普通ならいきなり攫って放り出すんだけど……貴女は特別だから教えてあげる」
「……どうも……」
「ここは貴女の『実と虚』の境界。貴女は自分の身の周りを否定しているつもりで、実は自分自身を否定していた」
「……そう……」
「ここに在る貴女こそが、貴女の最後の『実』……落ち続けていたら全てが虚に飲み込まれていたでしょうね」
「どういうことよ……」
「貴女の存在自体が無に還る、貴女は生まれていなかったことになる」
「そんな馬鹿なこと……いや、馬鹿なことじゃないわよね、実際私はここに居る」
「ふふ、物分りの良い人は好きよ。だから別に外界は何の変化も無いわ、誰も貴女の事を覚えていないかも知れないけど。
そこの度合いまでは私にもわからないの、興味も無いし……私は今貴女が腕の中に居ればそれで良いから」
少し安心した……家族や友達全員がこの世界に飲み込まれていたらと思うと恐ろしかったから。
八雲紫の妖気は相変わらず身が凍るほどに冷たいが、その身体から伝わってくる温もりは紛れもなく生物のそれだった。
酷く懐かしい……妖気の冷たさと八雲紫の身体の温かさが、同時に私を安心させている気がした。
「ゲホゲホ……あぁしんどい、でもまだ質問があるのよ……」
「欲張りねぇ、ま、良いわ」
「貴女、私に自分の名前を教えたりしてくれた?」
「ああ、それは私じゃないわ。貴女自身の……辿るべきだった道から外れて行き場を無くした……
その魂が経験するはずだった数々の知識、記憶よ……素晴らしい霊力ね、架空の記憶まで作り出すなんて」
「……ちょっと待ってよ、わけわかんないその説明」
私の辿るべきだった道? 経験するはずだった数々の知識と記憶? でも実際のことではないから架空?
それは今までの私の人生の中では聞いた事も無い、非常識な思考だった。
なんとなくはわかるのだが、こんなことをいきなり言われて納得できるわけがない。
「つまり、貴女は私達と同じ世界に生まれるはずが……手違い、いや神のいたずらとでも言うべきかしら?
ともかくそんなことがあってあの世界に生まれ落ちた。本来は私に会っているはずだった、戦っているはずだった」
「だから間違った存在だって言ったの?」
「そうね、正しい生き方と言うのも変だけれど、別の人生を送っていたはずのもう一人の貴女が話しかけていたのね」
「正しい生き方……じゃあ、今のこの私は何なの……?」
私はぐったりと八雲紫の胸にもたれかかった。今まで生きてきた人生は何だったんだろう。
間違った存在と言われ、親からも猜疑の目を向けられて、果てはこんな所に辿り着き……。
思わず目から涙がこぼれる、普通の人間に生まれたかった。少しは便利だけどこんな危なっかしい力も要らない。
気持ちは落ち着いているが、それと共に大きな虚しさが心の中に押し寄せた。
ならばせめて、最後にもう一つ質問を……。
「最後に一つ教えてよ……そしたらもう好きにして良いから」
「はいはい、何かしら?」
「あんたの目的を教えて」
「……ふふ、それは答えるより見せた方が早いの」
八雲紫は私を抱きかかえたまま空間の裂け目を開き、そこにズブズブと身体を埋めていった。
いくつもの赤い目が私を見ているが怖くはなかった。所詮これらは八雲紫にコントロールされている何かだろうから。
その主たる八雲紫が一緒にいるのだ、私に手出しをするはずはない。
薄気味悪い空間をずっとずっと潜っていくと、小さな光が見えた。
それは近づくと共に広がっていき、やがて私達はその光に包み込まれた。
広い広い花畑。遠くには木々が立ち並んでいる。空は夜ながら雲一つ無く、月明かりが辺りを照らしていた。
頬を撫でる風が優しい。自力で立っていられない私は、八雲紫に後ろから抱きかかえられていた。
「ここは天国? すごく気持ちが良い……」
「貴女はここで生き、ここを愛し、ここを守る存在のはずだった……そうさせるために連れてきたのよ。美しいでしょう?」
八雲紫がそっと私の顔に頬を寄せて語りかける。
目を閉じると全身が優しい風に癒されていくような気分だった。
「本当に綺麗な所……」
「気に入ってもらえたかしら? ここが貴女の『現実』、貴女は『幻想』を捨てた、もう戻れないわ」
「そっか、結局してやられたのか……はは」
悔しさも何も込み上げてこなかった。それは全身の細胞一つ一つまでもが、ここを安住の地であると認識したから。
「ここは幻想郷、貴女の現実」
「……幻想郷……」
しかし私は生きていけないような気がした。いや、生きる気力が失せてしまった。
いくらここが私の生まれ落ちるべき世界だったとして……外界で生きた記憶は消えはしないから。
確かに綺麗な場所だし、八雲紫の口ぶりから、ここだけに関わらずどこも同じように綺麗なのであろうことも予想できる。
だからと言ってこの世界でやりたいことなんて何一つとして思い浮かばなかった。八雲紫もそこまでは考えなかったのだろうか?
「ねぇ、私はここに生まれたらどういう生活を送っていたの?」
「いろんなことを伸び伸びとやっていたはずよ、平和を愛しながら」
「なんで知っているの?」
「貴女が寝ている間にもう一人の貴女がいろいろと教えてくれたの」
「どうやって私の事を知ったの?」
「別になんてことは無いわよ、外界を覗いたら異常に高い霊力を感じたから絡んでみただけ。
それがこんな素敵な拾いものとは思わなかったけれど」
「なんで……」
言いかけたところで、八雲紫に口を塞がれた。
「もう質問責めはいいわ、もう一人の貴女に訊きなさい。現実の貴女と幻想の貴女の境界を壊してあげるから」
――そう、一つになりましょう――
そうして頭に手を当てられると、不思議な感覚が私を包み込んだ。
神のいたずらでその存在を抹消された、もう一人の私が辿るはずだった記憶と、現実の私の記憶が溶け合っていく。
全て納得のいく答えが、頭の中にある。
「……あぁ、そうなの、ここ幻想郷は面白いところね」
「思い出した? って言うのも変かしら……ふふ」
「『神隠しの主犯』八雲紫……式神の八雲藍と、更にその式神の橙がいる」
「今は神隠しの犯行現場ね」
冗談っぽく呟いて、八雲紫はそっと私の身体を離した。
既に私は外界の私ではなかった、誰に支えられずともそこにある幻想の大地をしっかりと踏みしめている。
この大地には一欠けらの胡散臭さも無かった。
「さてやりたいことはやったし、そろそろ失礼するわ。今の貴女ならもう一人でも大丈夫でしょう」
「ええ、さようなら」
「さようなら……冴月麟」
八雲紫は最後に私の名前を呼んで一つ微笑むと、スキマを開いてそこへと潜り込んだ。
私は少しの間、八雲紫の居た場所を呆然と眺めていた。
(さて、これからどうしよう?)
きっと楽しいことが待っているだろう。
私は風に乗って、幻想郷の夜空へと舞い上がった。
――ようこそ、貴女と私の現実へ――
貴女は、貴女の母に何度かへその緒や母子手帳を見せてもらっている。
なのにそれをどこか信じられない。
「私はこの世界の人間だ」
本当に自信を持って言える?
今貴女が寝ているそのベッドは本物? ふと、それを認められなくなったとき……。
そのベッドは消え、貴女はそこから落ちる。そして、その床さえも信じられなくなる。
大地さえも、世界さえも、全てが嘘に見えて貴女は地の果てまで落ちる、ついには宇宙空間に放り出される。
それでも貴女は死なない、その宇宙空間すら信じられないから。ついには無の世界へと飲み込まれてしまう。
「そんなことあるわけない」
確かに、少し冗談が過ぎたかも知れない。
でもどこまでが冗談かしら。宇宙、星、地球、そこまでは実在しているの?
それは良いとして、どこまでが冗談に聞こえたかしら?
「全部」
そう、認められないの。でもわかってる、認めたくないだけだって。
貴女はこの世界から『はみ出し』ている。それを一番痛感しているのは自分のはず。
「貴女は誰?」
現実を捨てればわかる、いえ、捨てるのは幻想かしら。
――また会える?――
会えるわ、きっと。
けたたましく鳴っている目覚まし時計の頭を叩いて、私は時間を確認した。
午前七時十分、いつも通りの時間だ。階段を下りて洗面所に向かう途中、母に会って挨拶を交わす。
「おはよう」
「おはよう、酷い顔よ、寝不足なんじゃないの?」
「うそ?」
洗面所で鏡を見ると目の下に隈が出来ていた。夕べは一時過ぎに寝た。十分健康的な睡眠時間だと思うのだけど。
しかし悲観したってどうしようもない、今から二度寝とはいかないのだから。私は学校へ行かなければいけない。
疲れているのは夢のせいだろう。どうもあの夢を見た次の日は十分に寝たはずでも疲れが残る。
洗った顔をタオルで拭いた……隈は目の下にどす黒くぶら下がったまま。
「これも洗い落とせたら良いのに」
叶うはずも無い希望を呟きながら、髪の毛のセットに入る。
整髪料をつけて、梳かして、肩より少し下まで伸ばした髪の毛をポニーテールに結った。
髪の毛がスッキリすると余計に隈が目立つ、かと言って下ろしたままだと尚更不気味だし仕方がない。
「はぁ……」
そういえば隈もそうだが、近頃体調もあまり良くない。
三ヶ月ほど前に初めて見たあの夢は、いや、おそらくあれは夢ではないのだと思っている。
とにかく、それは時が経つにつれ頻度が上がり、今では週に三~四回は当たり前になってきた。
目に見えて体力が落ちているのがわかる、二階への階段を登るだけで軽い息切れを起こすほどだ。
かろうじて学校には通えているものの、授業中は寝てしまう。成績も下降の一途を辿るばかり。
「ふぅ……ふぅ……」
息を切らして二階にある自室への階段を登りきり、服をパジャマから制服へと着替える。
(これは実在してる?)
ふとそんな疑問を抱くことがある。悔しいことに、あの声の主は私の状況を完璧に察しているようだ。
手にしている制服の感触がどこか胡散臭い。一度も触ったことが無いもののように感じることがある。
『ゲシュタルト崩壊』という言葉を何かで見たことがある、テレビか何かだったか。
それまで当たり前に『それ』と認識していたものが、突然本当に『それ』なのかわからなくなること。
集合として認識していたもの、例えば人の顔、パーツごとにじっと見ていると知らない人に見えたりする。
これは実際に体験したことがあるので、私にもよくわかる。
だから言えるのは、今私が感じている違和感はそれとは絶対に違うものであるということ。
認識できなくなるなどという話じゃない、じっと観察したら目の前から消えてしまうのではないかという恐怖がある。
最近よく、
「人の目を見て話をしなさい」
だとか、
「目が泳いでるよ」
などと人に言われる。
「だって怖いんだから仕方がないじゃない。消えてしまいたいの?」
なんて言い返そうものなら即座に狂人扱いされてしまうに違いない。本当に狂っているのかもしれないが。
できることなら目を閉じて生活したい、しかし困ったことに触覚も疑わしい。
あの声に言われたように、突然何も無い空間へと落下し続けてしまうかもしれない。
嗅覚も、味覚も、聴覚も……いや、私がおかしいのではない、この世界が疑わしい。
「……っ!?」
最後にネクタイを締め終えて歩き出そうとした瞬間、私は足を踏み外して転んだ。
『現実』から、足を踏み外して転んだ。言いようの無い恐怖を覚えた。
(今……床が消えた……?)
目で見る分には確かに床は存在している。へたりこんだままそこを撫でると、やはりそこには床がある。
貧血を起こしたとかそういう感覚ではない、視界も意識もはっきりしていた。
――急がなければ――
混乱しっぱなしだが、そう思った。その思考の意味するところがわからない。
果ては自分さえも偽りの存在なのではないかと錯覚する。
「ちょっとー! また寝てるの!? 早くご飯食べて学校に行きなさい!!」
階段の下から聞こえた母の声で我に返った。
今のは一体何だったのだろうか……私は精神を病んでしまったのだろうか?
いや、それは違う。何故なら私はずっと前から他の人間とは違ったから。
全身が重い、食欲なんて湧かなかったが今食べなければ後で余計に体調が悪くなる。
呆けたような表情でトーストを食いちぎる私を、母が心配そうに見つめていた。
「あんた大丈夫? 熱でもあるんじゃないの? 学校休んだら?」
「ん、いいよ、行ける」
あの声は私が部屋に一人でいるときに話しかけてくる。どこから声が聞こえているのかはわからない。
出没するのは主に夜中だ、日付が変わった辺りから丑三つ時にかけて。寝ているときを狙って話しかけてくる。
起きた感覚はしっかりとある、だから時計を見て時間を確認しているのだ。部屋の中の様子まで確認できる。
声からして少女……のように感じるものの、その落ち着き払った口調や態度を少女の声と片付けてしまうのは安直すぎる。
聞くたびに声が違う気さえするのだ、まったく掴み所が無い。
砂糖もミルクも入れないコーヒーを一口啜った。この苦さは本物だろうか?
「もうちょっとしたら中間試験だからさ、最近成績下がってるし、休みたくないの」
「そう……無理はしちゃダメよ?」
「うん」
誰も私の変化に気づいてない、それこそ私が狂っていないことの証明だと思う。
狂っている人間に敢えて自然に接触しているような態度でもない。今もただの体調不良だと思われている。
そしてもう一つ狂っていないという証拠。私は本当に他の人間とは違うから。
私は触れたものを破壊する光の弾を作り出し、それを飛ばすことができる。
私は風や植物といった自然界の要素を操る力を持つ。
私は空を高速で飛ぶことができる、触れずに物を動かすことができる。その他にもたくさんのことができる。
幼い頃、嫌いな教師に光の弾をぶつけたことがあった。その教師は壁に叩きつけられ、あちこち骨折して入院した。
私は恐ろしくなった。人を傷つけてしまったという罪の意識と、どんな罰を受けるのかという恐怖。
しかしそれは謎の怪事件として処理された、誰も光の弾が見えていなかったらしい。
その他にも枯れた花を蘇らせてみたり、徒競走では自分だけに追い風を起こすといったズルをしたりした。
幼い頃は一度力を使うたびに酷く疲れたが今はそうでもない。手足を動かすように自然に行える。
もっとも部屋の中ぐらいでしか使わない。何故ならこの諸々の能力の危険さは先の教師の件で思い知っていたから。
そしてバレていないからこそ、周囲の人間に変な目で見られることも無い。外見上は至って普通の学生生活を送っていた。
しかし最近更に変な現象が起こるようになった。
夜に現れる少女もそうだが、不思議なもの……人に話したら笑われそうだが、言うなれば妖怪。それが見える。
そう頻繁には見ないが、天狗が空を飛んでいたり河童が川を泳いでいたり。お尻から狐の尻尾が生えた人だとか……。
幻覚だなんて思わなかった、何故なら彼らは私に近い存在だから。未知の力を持つ者達だから。
「ごちそうさま」
「よく全部食べたわね、気持ち悪くない?」
「大丈夫だよ、ちょっとお腹苦しいけどね」
本当は中間試験のことなど気にしていない。ただ部屋に一人でいるのが嫌だった。
思い腰を持ち上げて椅子から立ち上がると、私は食器を台所へ運んだ。
後ろでは母が「だるかったら無理せず早退するのよ」などと話しかけてくる。私は軽く手を振って洗面所へ向かった。
歯を磨きながら鏡を見つめていると、隈はまだ残っているが血色は少し良くなった気がする。
朝食は一日の活力源と言う、やはり多少無理にでも食べておいて正解だった。
――私を救えるのはあの少女だけ――
またノイズが入る。
しかし実際このままではまずい、いつか衰弱死しても不思議ではない。
(何が「私を救えるのはあの少女だけ」よ……あいつが私を苦しめてるんじゃない)
あれは妖怪だ。私を取り殺そうとしている悪魔だ、正常な私の脳はそう判断している。
このわけのわからないノイズだって私の悩みの原因の一つだ、そう簡単に信用してなるものか。
(姿を現したら懲らしめてやる)
歯ブラシを強く握り締めた。
全てがおかしくなったのはあの少女が現れてからだ。犯人は奴以外に考えられない。
口をゆすぎ、憎々しげにその水を吐き出してから鏡を睨みつけた。
(見てるわね?)
鏡に映る廊下の奥に、チラ、と……金色の長い髪が引っ込んだように見えた。
学生鞄が肩に重くのしかかる。いかに強力な力を使えるとはいえ、その身体は衰弱した少女そのもの。
私は体格もあまり良くない。平均身長より一回りも二回りも小さいので未だに小学生に間違われることもある。
学校は家から近い、徒歩でおよそ十分強といったところ。十五分はかからない。
下駄箱で靴をはき換えたり、教室へ向かう中で十五分ぐらいは経ってしまうが。
「おはよ、うわ何その顔?」
「あー、酷いでしょー」
教室の前に居た友達と挨拶を交わした、しかし第一声がこれとは……思わず苦笑してしまう。
「大丈夫なの? 顔色もあんまり良くないみたいだけど」
「最近ちょっと夜更かしする癖がついちゃってさ」
「あらー、夜更かしはお肌の大敵よ~」
「……あ、あはは……」
その友達はクネッと腰をひねって妙なポーズをする。
この歳でそんなこと気にしなくても肌なんて瑞々しいだろうに。いや、思春期だから余計に気にするものなのだろうか。
教室の中から彼女を呼ぶ別のクラスメートの声が聞こえ、彼女は私に手を振ると、教室の中へと引っ込んでいった。
冷静沈着ね。
(何の用よ)
廊下に備え付けてあるロッカー、その中の一つが少し開いている。
そこに真紅と漆黒の混ざり合った空間が蠢いていた、その空間から禍々しい赤い瞳がいくつも私を凝視している。
そしてその中の一つに……紫色の瞳が混ざっていた。
友達と話している途中から異様な気配は感じていたが、友達の手前態度には出さなかった。
私を狂人だと思わせないために。
ここは幻想的ね、とても。
(夜だけじゃ飽き足りなくなったの?)
早く気付くべきなの、本当の幻想というものに。
(そんなこと知らない、お願いだから学校にまで来ないで)
貴女が黙っていれば済む事じゃないの?
(何がしたい?)
有意義な人攫い。
(私を攫うと?)
そう、それが必然だから。
(馬鹿馬鹿しい、これ以上付きまとわないで)
貴女は間違った存在。
その言葉を聞いたとき、頭の中が熱くなった。
「キャーーーーーーーッ!!」
私は怒りのあまり、そのロッカーに光の弾をぶつけて木っ端微塵に破壊した。
周囲に居た数人のクラスメートが突然の出来事に悲鳴を上げる。破片で怪我をしてしまった者もいた。
(……しまった、なんてことを……)
これでわかったでしょう? 貴女は間違った存在だと。
(最初からこれが狙い?)
さぁ、お好きに解釈なさってよろしくてよ。
既にあいつが入っていたロッカーは無い、私が破壊したから。
しかしあいつはどこかに居る。どこか別の隙間へと移動したのがわかる、そしてかすり傷すら負っていないだろう。
(やられた……!!)
呆然と立ち尽くす私は、いくら友人に身体をゆすられても何も答える気にならなかった。
そして隙間の気配が消えた。
爆弾魔がどうのとすぐに大騒ぎになってしまい、私達生徒は全員家に帰らされた。
私は現場に居た事もあって取調べを受けたりしたが、警察にこの不可思議な現象を解明する力があるわけもなく、
「よくわかりません、突然爆発が起きたことしか……」という私の言葉を鵜呑みにしていた。
少し突っ込んだ質問をしてきた者もいたけれど、証拠なんて出てくるわけはないのですぐに疑いは晴れるだろう。
「怖いわねぇ……これから学校どうなるのかしらね?」
「どうなんだろ……よくわかんない」
「でもあんたが無事で良かったわ、すぐ側に居たっていうのに運が良いのね」
「うん」
母の目に若干の猜疑心が潜んでいる。しかしそれは私を犯人と疑うものではない。
「そんな事件を目の当たりにしたのに、なんでこの子はこんなに冷静なんだ」ということだろう。
ただ、見ようによっては放心しているようにも見えるだろうから、今更演技をすることもない。かえって不自然だし。
そして既に私の生活は破綻しかけている、全てあいつの思惑通りということだろうか。
「部屋でちょっと休むよ、疲れちゃったから」
「そうね、そうした方が良いわ。お昼の時間になったら起こせば良い?」
「いや、いいよ……食欲も無いし」
それなりに疲労しているらしい私から人間味を感じたのか、母はその表情に多少の安堵を浮かべた。
私は居間を後にして二階へと向かう。疲れているのは本当だが休むことが目的ではない。
あいつが出てきたとき、周りに人が居ると都合が悪いからだ。
部屋に着くとまずは制服から私服へと着替え、それから机に腰掛けて指を組み、そこに顎を乗せる。
あいつは「有意義な人攫い」と言った。意義なんて知ったことじゃないが、私を攫うつもりらしい。
攫うと言ってもどこへ? 妖怪達の住むところへ攫うとでも言うのか。
(間違った存在?)
最後に言われた一言。この言葉で私は冷静さを失って惨事を起こしてしまった。
普通ではない、人知れず社会からはみ出している、その力でたくさんの人を不幸にできる。
わかってはいたものの認めたくないことだった。それをはっきり言われて頭に血が昇ってしまったのだ。
――逆らわない方が良い――
(またか……)
時折頭に入ってくる雑音。
あいつの肩を持つような言葉が多いが、それが一体何を意味しているのかはわからない。
(もーわかんない……)
机から立ち上がり、髪を解いてからベッドの上に寝転がった。窓から入ってくる光が鬱陶しくてカーテンを閉めた。
(出てくるなら出てきなさいよ……)
現実と自分が噛み合わない妙な感触。私の持つ不思議な力。
それらの解決の糸口はあいつが握っているような気がする。悔しいけれど、きっとそうなんだろう。
だがあいつの態度は決して信用できるものではない。それにじわじわと追い込むような方法。
だから、やはり全てあいつが裏で糸を引いているという可能性は捨てきれない。
いくら普通じゃないといったって、普通の観念を教えられて育ってきた私にとって、あいつは簡単に受け入れられる存在ではない。
考えたいことはまだあったが私は心底疲れていたので、うとうととまどろんでそのまま眠りについた。
目を覚ますと既に夕方だった。緩慢な動作で時計を確認すると、その針は午後六時を指している。
余程疲れていたらしい、これでは夜寝ようと思っても寝られそうにない。
眠い目をこすりながら一階に下りると、母は出かけているらしかった。食卓に「買い物に行って来ます」という書置きがある。
作りかけの夕飯が中途半端な状態で放置されていた、食材が足りなかったことに気が付いて買いに行ったのだろうか。
「おはよう」
私は突然話しかけられて酷く狼狽した。台所の隅に少女が立っている、あいつだ。
迂闊だった、長い時間寝ていたせいで勘が鈍っていたらしい。
「今朝は無理して長く起きてしまったから、まだ少し眠いの」
起きてるのは暗い間だということだろうか。それならば主に深夜帯に現れるのも納得がいく。
少女の容姿を確認すると、まず見たことも無いような変な帽子をかぶっている。
その帽子の下では今朝ロッカーから覗いていた紫色の瞳がこちらを見つめていた。
腰まで届くような長い金髪には、必要以上にたくさんのリボンが結ばれ……紫色のワンピース、白い手袋。
不思議なファッションだった。悪趣味にも見えるのだが、良く似合っていて思わず目を見張るものがある。
――八雲紫――
「やくも……ゆかり?」
「あら……」
少女……いや八雲紫は少し驚いたような表情をしたが、すぐに元の不気味な笑顔に戻った。
少女とは言うものの、体格は私より一回り大きい。私が平均以下ということもあるだろうけれど。
「何よ、何しに来たの? コソコソと隠れて何かやっていたくせに、どんな心境の変化なんだか」
「いやぁ、貴女が思ったよりもしぶといものだから……作戦を変えようと思いまして」
「人攫いだっけ目的は。で、こうやって出てきたってことは、力ずくでやろうとでも?」
「まあまあ、そうカリカリしないの」
苦笑しながら八雲紫は、食卓の椅子を引いてそこに腰掛けた。
「最初はいつも通りやろうと思ったのよ、ところが何度貴女の周囲の空間に揺らぎを作っても……
貴女は自然にそれを回避してしまうから……様子見も兼ねて衰弱させてから料理しようと思ったのだけど」
「揺らぎがどうとかは知らないけど十分ヘトヘトよ。上手くいって良かったわね」
「身体はね……けど霊力は全く衰えていない。今朝は本当にびっくりしたわ、突然あんなことをするなんて酷いじゃない?」
「あんたの喋り方が挑発的だからでしょう」
「外界であまり派手にやり合うのもどうかと思うのだけど……虎穴に入らずんば虎子、ということかしら」
「外界って何よ?」
「言葉の通りなの……直接スキマを使って攫うのは少し品が無いけれど、そうするしか無いみたいね」
「隙間……? まぁいいわ、とにかく……もう一つあんた達の世界があると思って良いわけね?」
「良いわよ、あら……これからが良い所だったのに邪魔が入ったみたい」
玄関からドアの開く音が聞こえる、どうやら母が帰ってきてしまったらしい。
「普通の人には私の姿は見えないはずだけど……また今夜、今度は貴女を攫いに来るわ。待ち焦がれていてね」
「誰が」
八雲紫はクスクスと笑うと、腰の辺りから空間の裂け目を作ってそこへと入っていった。
それと入れ替わるように母が台所へとやってくる。
「あら、やっと起きたの?」
「うん、寝すぎちゃったよ」
「待ってて、すぐご飯にするから」
「お父さんは?」
「仕事で遅くなるみたい、先に食べましょ。お腹空いてるでしょ?」
「朝からずっと食べてないしね、ペコペコだよ」
力が抜けた、この場で尻餅をついてしまいそうな程に。
私が相手にしていた妖怪、八雲紫は相当な大物であることを肌で感じた。あれはあまりにも危険すぎる。
威圧感……いや、妖気とでも言うべきなのか、側に居るだけで肌が張り裂けそうなほどの圧迫感を覚えた。
表情はニヤけていたがこちらを威圧してたのは確実だろう。何が何でも思い通りにしようという気迫があった。
(今夜また来るのか……)
八雲紫の座っていた椅子に腰掛けると、恐ろしく冷たいものを背に感じた。残留した妖気だろうか。
しかし向こうも私の実力を随分高く見ているようだ、無理矢理に誘おうとすれば激しく抵抗されると思っているのだろう。
それで勝てるか勝てないかわからないが……いずれにせよ今夜で決着がつくようだ。
「ほら、ご飯を食卓に運ぶの手伝って」
「あ、うん」
母の作った夕食の良い匂いを嗅いでいると、胃が切なげに鳴いた。
それに気付いた母は苦笑しながら、
「もう、そんなに我慢してないで自分で何か作って食べたら良かったじゃないの」
「……お母さんほど上手じゃないし、さっき起きたばかりだもん」
「しょうがない子ねえ」
もう演技だ。空腹と腹の音だけは真実だけれど。
八雲紫から感じた気配は、恐ろしくもあったがどこか懐かしいような感触があった。もちろん残留妖気もだ。
生きている心地がして、自分の存在が真実であることを強く実感できた一時だった。だから攫われても良いというものではないけれど。
それと比べ、目の前の母の存在の嘘臭いことと言ったら無い。少し目を凝らしたら消えてしまいそうだ。
(ズレてる、確実に……)
そんなことを考えながら里芋の煮付けを運んでいたとき、また床が無くなった。
私は足を踏み外して里芋の煮付けと共に床に倒れこんでしまった。
「どうしたの!?」
里芋の煮付けは、それを盛った食器ごと床に叩きつけられて無残に散らかっている。
母は呆然とする私の両肩を掴み、私の全身をすぐに確認する。
「大丈夫!? 火傷はしてない!?」
「……してないよ」
母の目の中に悲しさと疑いの色が見えた。それは私の身体に一滴の汁もかかっていないから。
反射的に力を使って身体を守ってしまったから。母は今朝の事と言い、私を不審に思っているに違いない。
幼い頃、嫌いな教師を怪我させたときから勘付いていたのかもしれない。血の繋がった家族というのは侮れないものがある。
私は母の目を見ることができなかった。
「あんた……」
「……ないでよ……」
「え?」
「……そんな目で私を見ないでよ!!」
全てが信じられなくなりかけていたが、心のどこかに家族だけは信じ続けたい気持ちがあった。
母の見せてくれたへその緒、母子手帳、思い出の詰まったアルバム……たくさんの楽しい思い出。
そういうものが最後の心の拠り所だった、自分がこの世界にいるのだという既成事実だった。
私は母を突き飛ばし、二階へと駆け上がる。しかし階段を登っている最中、足元の段が消滅した。
――いけない――
(転げ落ちるっ!?)
そうはならなかった。私が勢い余って身体を打ち付けるはずだった階段も消滅したから。
そうなったらもうどうしようもなかった、世界の全てが崩れ落ち、真っ暗な空間へ飲み込まれていく。
「いやぁぁぁぁ!!」
もちろん、私も。
深い深い闇の中へ飲み込まれていく。
無の世界へ。
もうダメだと思った。このまま真っ暗な空間を自由落下し続けて餓死するんだろうか。などと思った。
飛ぶ能力はあるものの、こんなところどんなに上に昇ったって何もありそうにない。
真っ暗な空間なのだが、私の身体だけはくっきりとその色を映していた。
(誰か助けて……)
そう思ったとき体がふっと中に浮いた。いや違う、いくつもの腕に受け止められた感触だ。
見ると真っ暗な空間が裂けてそこから無数の手が伸びている、誰の手かはわからないが。
「ダメじゃないの、ちゃんと待っててくれなければ」
ミシミシと音を立てて隙間は更に広がり、そこから顔を出したのはやはり八雲紫だった。
八雲紫の隙間など含めた全ても、真っ暗な空間にくっきりと浮かび上がっている。
「く、来るな……来るな!! 来るな!!」
「まぁ酷い、助けてあげたのに」
八雲紫はわざとらしく、少し困ったような表情をしてみせる。
元はと言えば全部こいつが悪いんだ。こいつのせいで私は全てを失う羽目になったのだ。
あれだけの妖気を出せる奴なら、ああやって世界を消す事だってできるに違いない。
――違う――
「うるさい!!」
「錯乱してるわね……ちょっとやりすぎたかしら」
「やっぱりあんたが私の世界を消したのね!?」
「え? それは違うわよ? 濡れ衣だわ」
私を受け止めたいくつもの手を振り払い、自分の力で浮かんで、八雲紫に向けて手を構える。
「あら、飛べたの? 流石ね」
「あんたをやっつけて……元の世界へ帰らせてもらう!!」
「だから私じゃないってば~」
問答は無用。やることなすこと胡散臭い、こいつの言うことなんて信用するものか。
自分がパニックに陥ってるのはわかってる、けど今私の怒りをぶつけられる相手はこいつしかいない。
八雲紫に向けて突き出した右手に少し力を込め、たくさんの小さな花びらを召喚した。
「まぁ綺麗。似たようなことできる妖怪は見た事あるけれど……」
「本気よ……今朝使った光の弾なんかとは比べ物にならない破壊力がある、見た目に騙されないでよね」
「忠告ありがと……やはり、こうなってしまうのね」
八雲紫は億劫そうに空間の裂け目から這い出るとその上に腰掛けた。どういう原理なのだろうか。
その表情はにやけているが、ついさっき会ったときのように威圧感に満ち満ちていた。
(負い目を感じたら負ける……)
右腕を取り巻いている花びらを風に乗せる。それらがうねりをあげて八雲紫を包み込んだ。
だが、自分に向けて螺旋を描きながら迫ってくる花びらの群れを見ても、八雲紫は一切動じることは無い。
「綺麗な花吹雪だわ」
「黙れ!!」
刃と化した花びらは八雲紫の身体に届くことなく、一定の距離に達すると同時に発光し、炭と化した。
花びらのぶつかった辺りがその閃光を反射することで、結界の存在を強烈に知らしめている。
「大した威力だわ、本気で引いた結界ではないとは言え、一枚剥がされてしまった」
「う、嘘でしょ? 無傷!?」
「外界でここまで成長するなんて……やはり貴女は連れて行く、幻想郷三人目の守護者として」
「何なのよ!? わけがわからない!!」
私は大きく振りかぶり、そのままなぎ払った腕を体の前で交差させてX字型の真空波を起こした。
真空波は漆黒の世界を切り裂いて八雲紫へと襲い掛かる。命中すればバラバラに斬り刻まれるはずだ。
やれるだけのことはやらなければならない、正直な話……それでも勝てない予感があった。
予想通りの眩い閃光。渾身の力で放った真空波も八雲紫の結界に遮られ、霧となって弾け飛んだ。
「今度は二枚……素晴らしいポテンシャルなの」
「来ないで……来ないで!!」
怖い、怖い、怖い。こいつは何なの? ここまでやって傷一つ付けられないなんて。
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
「……見たいわ、貴女の力。貴女の全て。見せて、見せて? 全て受け止めてあげるから」
「来るなぁーっ!!」
身体はしっかりと八雲紫へと向けたまま、全速力で遠ざかりながら無数の光の弾、真空波、花びらを八雲紫に向けて撃ち放つ。
八雲紫はくっきりとその姿を浮かび上がらせ、空間の裂け目に鎮座したままゆっくりと、しかし確実に迫ってくる。
ニヤけた顔が怖い、妖しく光る目が怖い……来るな、来るな、来るな。
「四重結界……今度は本気よ? うふふ、どのぐらいの時間で全て破壊されるか気になるわ」
八雲紫は怖がる私の様子を面白がりながら、堂々と真正面を切って突き進んでくる。
それがハッタリで無いことは、私の弾幕が一切その結界を突破できないことからも明らかだ。
「なんでよ!? なんで通用しないの!?」
「もっと思いを込めて……ふふふふ」
徐々に疲労が溜まってくる、私はこんな激しい戦いなんてしたことが無かった。
対等に戦える者もいなかったし、もちろん私より強力な力を持った者と戦ったこともなかったし。
しかし恐怖心と焦燥感に包まれているものの、心の奥底には僅かな歓喜が存在した。
こんな異常な力を持つ私を八雲紫は恐れていない、言葉の通り全てを受け止めている。
恐ろしいことに違いはない、けれど嬉しさも確実にある。
「もうどうなっても知らない!!」
「まぁ捨て身? 怖いわ」
更に密度を増す私の弾幕。それを見ても相変わらずニヤけたままで、思ってもいないことを吐く八雲紫。
そしてやはり次々に弾き返される私の弾幕……しかし、弾け飛ぶ位置が少しずつ八雲紫に迫っているように見えた。
八雲紫の身を守る結界を少しずつ剥がすことができているらしい。一枚、二枚、三枚……。
「このまま……っ!! 貫いてやる!!」
「うふふふ……結界を逐一引きなおすような無粋な真似はしないから、どうぞお好きなだけ……」
「近づかないで!!」
思いっきり距離を離すように全速力で飛んでいるのに、私と八雲紫の間合いは一向に変化しない。
もう攻撃するのも疲れてきた、積もり積もった疲労がじわじわと効いてくる。
しかし、諦めかけたときガラスが割れるような大きな音がして、私の攻撃が八雲紫の身体に届いた。
空間の裂け目に乗っていた八雲紫がバランスを崩して体勢を崩す。
「ンッ……!! 痛いわ……強いのね」
花びらが一枚八雲紫の脇腹に直撃した。そこから噴出す鮮血はすぐに闇に飲み込まれて消えていく。
だが、攻撃が直撃したにも関わらず私は焦りを隠せない。本来かすっただけで上半身と下半身が分かれてしまうはずなのに。
やはり八雲紫に常識は通用しない、確実にダメージにはなっているはずだが致命傷という風でもない。
そっと腹を撫で、指に付着した自分の血をこねくり回しながら楽しそうに眺めている。
「はぁはぁ……もうダメ……」
意識が朦朧とする、もはや光の弾一つ作り出す力すら湧かない。
最後の力を振り絞って宙に浮かんでいたが、それももう限界だ。これから暗闇の中に飲み込まれてしまうのだ。
――大丈夫――
力を失い暗闇の中へ飲み込まれそうになった私は……八雲紫の腕に抱かれて事なきを得た。
それはまるで母が我が子を抱きかかえるかのように……八雲紫が私を抱きとめていた。
「これだけ弱っていれば、苦労せずに連れて行けるわね……お疲れ様」
「……ゆか……り……」
「どうしたのかしら? もう抵抗しても無駄なのはわかっているわよね?」
そんなのは当然のことだ、今の私には素手で殴る力すら残ってはいない。
本当は声を出すのも楽ではないのだが、攫われる前にいくつか訊いておきたいことがある。
こいつはきっと私を攫うだけ攫って放り出すだろう、なんとなくそんな予感がするから。
「ここはあんたが作った世界じゃないとすれば何なの……? 私が住んでいた世界はどうなったの……?」
「そうねぇ、攫う以上はそれぐらい教えておいた方が後腐れが無いかもしれない」
そう言って八雲紫はクスクスと笑う。目線を下に落とすと既に傷も治っているようだ。
「普通ならいきなり攫って放り出すんだけど……貴女は特別だから教えてあげる」
「……どうも……」
「ここは貴女の『実と虚』の境界。貴女は自分の身の周りを否定しているつもりで、実は自分自身を否定していた」
「……そう……」
「ここに在る貴女こそが、貴女の最後の『実』……落ち続けていたら全てが虚に飲み込まれていたでしょうね」
「どういうことよ……」
「貴女の存在自体が無に還る、貴女は生まれていなかったことになる」
「そんな馬鹿なこと……いや、馬鹿なことじゃないわよね、実際私はここに居る」
「ふふ、物分りの良い人は好きよ。だから別に外界は何の変化も無いわ、誰も貴女の事を覚えていないかも知れないけど。
そこの度合いまでは私にもわからないの、興味も無いし……私は今貴女が腕の中に居ればそれで良いから」
少し安心した……家族や友達全員がこの世界に飲み込まれていたらと思うと恐ろしかったから。
八雲紫の妖気は相変わらず身が凍るほどに冷たいが、その身体から伝わってくる温もりは紛れもなく生物のそれだった。
酷く懐かしい……妖気の冷たさと八雲紫の身体の温かさが、同時に私を安心させている気がした。
「ゲホゲホ……あぁしんどい、でもまだ質問があるのよ……」
「欲張りねぇ、ま、良いわ」
「貴女、私に自分の名前を教えたりしてくれた?」
「ああ、それは私じゃないわ。貴女自身の……辿るべきだった道から外れて行き場を無くした……
その魂が経験するはずだった数々の知識、記憶よ……素晴らしい霊力ね、架空の記憶まで作り出すなんて」
「……ちょっと待ってよ、わけわかんないその説明」
私の辿るべきだった道? 経験するはずだった数々の知識と記憶? でも実際のことではないから架空?
それは今までの私の人生の中では聞いた事も無い、非常識な思考だった。
なんとなくはわかるのだが、こんなことをいきなり言われて納得できるわけがない。
「つまり、貴女は私達と同じ世界に生まれるはずが……手違い、いや神のいたずらとでも言うべきかしら?
ともかくそんなことがあってあの世界に生まれ落ちた。本来は私に会っているはずだった、戦っているはずだった」
「だから間違った存在だって言ったの?」
「そうね、正しい生き方と言うのも変だけれど、別の人生を送っていたはずのもう一人の貴女が話しかけていたのね」
「正しい生き方……じゃあ、今のこの私は何なの……?」
私はぐったりと八雲紫の胸にもたれかかった。今まで生きてきた人生は何だったんだろう。
間違った存在と言われ、親からも猜疑の目を向けられて、果てはこんな所に辿り着き……。
思わず目から涙がこぼれる、普通の人間に生まれたかった。少しは便利だけどこんな危なっかしい力も要らない。
気持ちは落ち着いているが、それと共に大きな虚しさが心の中に押し寄せた。
ならばせめて、最後にもう一つ質問を……。
「最後に一つ教えてよ……そしたらもう好きにして良いから」
「はいはい、何かしら?」
「あんたの目的を教えて」
「……ふふ、それは答えるより見せた方が早いの」
八雲紫は私を抱きかかえたまま空間の裂け目を開き、そこにズブズブと身体を埋めていった。
いくつもの赤い目が私を見ているが怖くはなかった。所詮これらは八雲紫にコントロールされている何かだろうから。
その主たる八雲紫が一緒にいるのだ、私に手出しをするはずはない。
薄気味悪い空間をずっとずっと潜っていくと、小さな光が見えた。
それは近づくと共に広がっていき、やがて私達はその光に包み込まれた。
広い広い花畑。遠くには木々が立ち並んでいる。空は夜ながら雲一つ無く、月明かりが辺りを照らしていた。
頬を撫でる風が優しい。自力で立っていられない私は、八雲紫に後ろから抱きかかえられていた。
「ここは天国? すごく気持ちが良い……」
「貴女はここで生き、ここを愛し、ここを守る存在のはずだった……そうさせるために連れてきたのよ。美しいでしょう?」
八雲紫がそっと私の顔に頬を寄せて語りかける。
目を閉じると全身が優しい風に癒されていくような気分だった。
「本当に綺麗な所……」
「気に入ってもらえたかしら? ここが貴女の『現実』、貴女は『幻想』を捨てた、もう戻れないわ」
「そっか、結局してやられたのか……はは」
悔しさも何も込み上げてこなかった。それは全身の細胞一つ一つまでもが、ここを安住の地であると認識したから。
「ここは幻想郷、貴女の現実」
「……幻想郷……」
しかし私は生きていけないような気がした。いや、生きる気力が失せてしまった。
いくらここが私の生まれ落ちるべき世界だったとして……外界で生きた記憶は消えはしないから。
確かに綺麗な場所だし、八雲紫の口ぶりから、ここだけに関わらずどこも同じように綺麗なのであろうことも予想できる。
だからと言ってこの世界でやりたいことなんて何一つとして思い浮かばなかった。八雲紫もそこまでは考えなかったのだろうか?
「ねぇ、私はここに生まれたらどういう生活を送っていたの?」
「いろんなことを伸び伸びとやっていたはずよ、平和を愛しながら」
「なんで知っているの?」
「貴女が寝ている間にもう一人の貴女がいろいろと教えてくれたの」
「どうやって私の事を知ったの?」
「別になんてことは無いわよ、外界を覗いたら異常に高い霊力を感じたから絡んでみただけ。
それがこんな素敵な拾いものとは思わなかったけれど」
「なんで……」
言いかけたところで、八雲紫に口を塞がれた。
「もう質問責めはいいわ、もう一人の貴女に訊きなさい。現実の貴女と幻想の貴女の境界を壊してあげるから」
――そう、一つになりましょう――
そうして頭に手を当てられると、不思議な感覚が私を包み込んだ。
神のいたずらでその存在を抹消された、もう一人の私が辿るはずだった記憶と、現実の私の記憶が溶け合っていく。
全て納得のいく答えが、頭の中にある。
「……あぁ、そうなの、ここ幻想郷は面白いところね」
「思い出した? って言うのも変かしら……ふふ」
「『神隠しの主犯』八雲紫……式神の八雲藍と、更にその式神の橙がいる」
「今は神隠しの犯行現場ね」
冗談っぽく呟いて、八雲紫はそっと私の身体を離した。
既に私は外界の私ではなかった、誰に支えられずともそこにある幻想の大地をしっかりと踏みしめている。
この大地には一欠けらの胡散臭さも無かった。
「さてやりたいことはやったし、そろそろ失礼するわ。今の貴女ならもう一人でも大丈夫でしょう」
「ええ、さようなら」
「さようなら……冴月麟」
八雲紫は最後に私の名前を呼んで一つ微笑むと、スキマを開いてそこへと潜り込んだ。
私は少しの間、八雲紫の居た場所を呆然と眺めていた。
(さて、これからどうしよう?)
きっと楽しいことが待っているだろう。
私は風に乗って、幻想郷の夜空へと舞い上がった。
――ようこそ、貴女と私の現実へ――
みんな知っているのかな?トリビアな感じがしますけど
しかしナイスな発想とストーリーでした。
とんでもないパンドラの箱をこじ開けたな、アンタ…
あ"ーーバカバカ俺のバカーーーっ!!
だがなぜいつもこんなに面白いSSが書ける?
彼女も紫様も良い感じで、楽しく読ませて頂きました。感服。
いやはやそうくるとは思いませんでした
と思いきや・・・貴女ですか、なるほどなあ
というか麟の心理描写がとても素敵でした。
改めてお話を読み直してみたらより深みが増してますね、面白かったです(礼
いや、実に面白いひと時をすごせました!!
いやはやまさかこんなとこで麟に会えるとは!
コレは一本取られましたよ。