ここは冥界白玉楼。
いつか幻想郷中の春を集めた時のことを髣髴とさせるほどに、桜が狂い咲いていた。
その桜の下、気合の声が迸る。
庭師か。
否。
白玉楼の主人の声だ。
「やぁー!」
「遅い!」
破裂音。
妖夢が持っていた竹刀で、幽々子の竹刀を払い落とした音だ。
桜の花弁が雪のように降り積もった砂の上に膝をついた幽々子は、手を押さえて妖夢を恨みがましく見上げた。
「もう少し手加減してくれてもいいじゃない妖夢」
「手加減はしてますよ。これ以上したら剣の練習になりませんよ~」
「そうかしら」
「そうです。それに幽々子様は何も考えずに打ち込みすぎです。弾幕じゃないんだから、もっと考えて打ち込んできてくださいよ」
呆れ顔の庭師兼剣術指南役。
「あらあら、それはなんだか馬鹿にされているような気分だわ妖夢」
「いえ、いえ、決してそんなことは」
……そんなことは、少しだけありますよぅ。
にたり、と妖夢は半霊に哂わせた。
誰も気づかないが。
「もう、なんだってあたしが剣の稽古をしなくちゃいけないのよ」
「剣の稽古をしなくちゃいけないって言ったの幽々子様じゃないですか」
嘆息する庭師。
そう。
幽々子はいつも唐突だ。
昨日は変な物体を持たされて、「そのキノコを探してきなさい」と言われて、冥界中を探し回ったが見つからなかった。実はそれは外の世界の機械だったのだが(後で紫に教えてもらった)。泣く泣く帰ってみたら幽々子はあっさり「そんなこともあったわねぇ。おなか減ったわ」と言って怒っていた。
一昨日は「とびきり辛いものを食べたいわ」と言ったので、蓬莱人も死にそうなくらい辛いカレーを作ったら、最初に食べさせられた。その衝撃で半霊が黄色くなって、どこかに飛んでいった。妖夢の意識も飛んだ。目が覚めたらやっぱり「そんなこともあったわねぇ。おなか減ったわ」と言って怒っていた。
3日前は……思い出していたらキリがない。
とにかく、幽々子の発想力には恐れ入るくらいだ。
今日も昼に起きるなり、庭掃除をしていた妖夢に、開口一番こう言ったのだ。
「妖夢。あなた、剣術指南役なんだからもっとちゃんとしなさいよ。お陰であたしは一向に剣が上手くならないわ。あぁおなか減った」
ナニイッテルンデスカ。
もはや脊髄反射のようにその言葉を繰り出すと同時に、妖夢は庭の掃除を続けながら、今日の幽々子の我侭をどう処理しようか思案する。
ちなみに、妖夢が知っている限り、剣の練習をしている幽々子の姿を一度として見たことはなかった。
そうこうしているうちに、幽々子は食膳に並んでいる料理を平らげ、別の部屋から竹刀を2本持ってきていた。
「さぁやるわよぉ~! 今日は1日剣の稽古よ!」
「はや!」
あっという間の出来事だった。
さてそれから数刻。
「そりゃぁ!」
「ふん!」
乾いた音と共に幽々子の竹刀が冥界の宙に舞った。
「だから違うんですってば!」
「ええ~」
やや強い口調で妖夢は、幽々子に剣の指導をしていた。
まずは剣の持ち方。
振り方。足の動かし方。目線。呼吸。等々。
指摘するたびに困り顔になる幽々子を見て、妖夢は不思議な気分が心の中で頭をもたげているのを感じた。
「なんで幽々子様は口で説明しても分からないんですか」
「妖夢の教え方が下手なのよぅ」
「違います!」
「ひゃあ」
妖夢の怒鳴り声に頭を抱える幽々子。
「そうですね……」「
そんな幽々子を見ながら
「口で分からなければ身体に教え込むしかないようですね」
言いながら、妖夢は幽々子の腰を竹刀で優しく撫で上げた。
にたり。
サディスティックに半霊が哂う。
誰にも気づかれないけど。
「よ、妖夢それは反抗的よ」
「違いますよ幽々子様。これは剣術指南役としての義務です。ほら、さっき幽々子様もおっしゃったじゃないですか。『もっとちゃんとしっかりしなさいよ』って。わたしはその通りするだけです」
妖夢はにこりと笑って、落ちた幽々子の竹刀を拾い上げた。
「さぁ。続けましょうか? まさかもう止めるなんてことはありませんよね? まさかね。仮にも白玉楼の主が? ふふふ。そんなことをしたら幽々子はヘタレだって冥界中に言いふらしますよ」
「うぅぅ。何気に呼び捨てにされたわ」
泣く泣く幽々子は竹刀を取った。
(あぁ、何故か分からないけれど快感!)
妖夢は腰のあたりがゾクゾクするのを感じた。普段何かと理不尽に悩まされているのが、こんなところで仕返しができるなんて。
「あ、そうだ妖夢。庭師! あなた庭師でもあるのよ! 仕事はどうしたの?」
「終わりました」
きっぱりと言い放つ。
「それにもう1人の庭師がバッサバッサやってくれてるから安心です」
「あんなの雇うんじゃなかったわぁ」
「さぁ! 幽々子様! 今日はたっぷりみっちりこってり! くんずほぐれず剣の稽古に励みましょうね! 大丈夫! ちゃぁんと手加減はしますから! へへへ!」
「妖夢、ヘンな顔で涎を垂らしながら言っても説得力が無いわ!」
「へへぇ。まずは断命剣の型からですよぅ」
「え、あ、ちょっと」
妖夢が竹刀を振り上げて
「断命剣! 断命剣! 断命剣! 断命剣! だんめみゅぃけん!」
振る振る振る振る振る! ぴしぴしぴしぴし!
「いやぁ~! 痛い痛い痛いわ妖夢―! しかもちょっとセリフ噛んだでしょ妖夢―!」
ぴしぴしと頭を叩かれて逃げる亡霊姫。追う庭師兼剣術指南役。
「うるさい! 身体で覚えろぉ! 幽々子ぉ!」
「あぁ! 本格的に呼び捨てされたぁ!」
「そのピンクの頭ぁ修理してやる!」
追いかけっこは続く。
そんな光景を微笑みながら見つめていた十六夜咲夜は、淹れたてのお茶と茶菓子を盆の上に載せて、縁側に運んでくる。
「お茶、入りましたよ」
その声で、妖夢は竹刀を納めて、咲夜に振り返った。
「あ、すみません」
「いえいえ」
微笑みあう、妖夢と咲夜。
「じゃあ幽々子。お前はそこで素振り1000回だ」
「えぇ~! ずるいわ妖夢! 主人より先にお茶を飲むなんてさすがに許されないわよ!」
「いや違うぞ!」
妖夢は手のひらを幽々子に向けて言い放つ。
「今日は1日幽々子様はわたしの弟子。順序は逆。そう決めた」
「そんなぁ!」
ふっふっふと妖夢は意地悪く笑う。
「さっき『今日は1日剣の稽古よ!』って言ったばかりですからねぇ! でわ、いただきます」
「どうぞ」
妖夢は縁側にどかりと座ると、湯飲みと饅頭を両手に持った。
「まったく本当に困ったもんです幽々子様には。たまにこういうお灸も必要なんです」
「仲がよろしくて、結構なことですわ」
「咲夜~~。あたしの分も残しておいてね~~」
「はいはい」
半泣きで素振りをする幽々子を2人で見ながら、ゆっくりと過ぎる時間に身を任せる。
永いこと2人だけだった白玉楼。
そこに増えたもう1人の住人。十六夜咲夜。
今は3人で暮らしているのだ。
「本当に、桜が綺麗ですこと」
「えぇ。冥界広しといえども、ここまで見事なのは白玉楼だけでしょう。それも咲夜が庭師の仕事を手伝ってくれているお陰です」
「当然のことをしているまでですわ」
薄く微笑む咲夜。
「当然のことと言えば……」
妖夢は、腰に差している2本の剣に触れながら、
「また手合わせをお願いしたい」
「あら、少しは上達しまして?」
「少しだけ、ですが」
不敵な笑みを浮かべる妖夢。
たまに行う咲夜との模擬戦。
その戦績は、目下妖夢が大きく負け越していた。
「でわさっそく明日にでも」
「えぇ。お待ちしておりますわ」
「妖夢―! 1000回! 1000回終わったわよぉー!」
「まだ137回じゃないですか!」
「ちゃんと見てるのね……。うぅぅ! お、覚えてなさいよ! 妖夢!」
「はい。わたしは覚えてますけど、幽々子様が忘れてると思いますよ?」
「くううう!」
「さ、今晩の宴会の準備をしましょうか」
幽々子が騒ぎを起こして、妖夢がとばっちり。咲夜がそれを無難に治めて、時間が過ぎる。
それが、ここ最近の白玉楼のスタイルだった。
その夜の宴会で。
昼間、妖夢にしごき抜かれた幽々子は、文字通り死んだように布団の中で眠っていたが、冥界の霊が集まり始めた宵になるとムクムクと復活して、いつも通りに宴会を楽しんでいた。
まさに不死身。死んでるけど。
妖夢は呆れながら、遠くの席にいる幽々子を見ていた。
静かにお酒を飲んでいれば、可憐で美しいのに。どうして中身はアレなんだろう。不満顔で妖夢は杯を煽る。
「どうぞ」
「あ、どうも」
空になった杯に、咲夜が酒を注ぐ。
妖夢は礼を言って、咲夜の杯に酒を注ぐ。
魅惑的な幻奏曲が冥界の桜を揺らした。
珍しく来ていた騒霊ことプリズムリバー3姉妹だった。
奏でられる音楽に、霊たちも身を揺らす。
音楽って、ステキねぇ。そう言う幽々子の声が聞こえた。
「?」
妖夢が再び幽々子に視線を戻すと、
幽々子は、プリズムリバー3姉妹に何かを熱心に尋ねていた。
そんな光景を、妖夢はぼぅっと見ていた。
次の朝。
妖夢が咲夜と朝食を食べていると、いきなり襖が勢いよく開け放たれた。
「妖夢!」
「ぶひょい!」
ご飯粒を吹き出しかけながら、反射的に返事をして振り向く妖夢。
「ごほ、な、なんでしょう幽々子さ――」
ギュォン。鳴らされる音。
幽々子は、蝶の形を模したギターを持っていた。
「ナニヤッテルンデスカ」
見ての通りだろう。
唖然とする妖夢と咲夜を、口の端だけで笑いながら見る幽々子。
「妖夢! これからは音楽よ!」
ほら! ほら始まった!
「今日も始まりましたよお嬢様の気まぐれがー!」
「ごちそうさまでした」
「あ、ずるいぞ咲夜!」
すっくと立ち上がって食器を片付ける咲夜。
「妖夢ー? 昨日は剣術指南ありがとうね」
「うえ! 覚えてたんですか!?」
「当たり前じゃないの。妖夢の熱心な指導に感動すら覚えたわ」
がっしと肩を掴まれる。
逃げられないように掴まれる。
「そ、それで、今日は音楽ですか?」
「ロックよ!」
「ろっく?」
「宴会でプリズムリバーに教えてもらったのよ。だから昨日のお礼で、今日はあたしが妖夢にロックを教えるわ」
「い、い、い、いえいえいえいえいえいえ。遠慮しておきます幽々子様。あ、そうだお庭! お庭を――」
「お庭は優秀なもう1人の庭師がやってくれるわよ」
やばい。やばいぞ。これは確実に昨日の復讐だ。
幽々子の笑みに、今にも食べられそうになりながら、妖夢は必死に首を振る。
のーさんきゅー。のーさんきゅー。
「咲夜―!」
幽々子は咲夜の名を呼んだ。
「はい」
「おなかが減ったわ」
「かしこまりました」
すっと咲夜が幽々子の隣に『出現』すると、手に持っていた串ダンゴを幽々子の口に入れる。
「もっきゅもっきゅ。そんなに、遠慮、もきゅもきゅ、しなくていいわ、もっきゅもきゅ」
わんこそばの軽快さで次々と口に入れられ、引き抜かれる串ダンゴを咀嚼しながら幽々子は妖夢の肩から手を離し、ギターを抱えた。
「ごちそうさま咲夜」
「おそまつさまでした」
咲夜が微笑みながら、串が詰まれた盆を持って一歩下がる。
「えーと確かアレよね。妖夢は口ではなく身体に教え込ませるのが好きなのよね」
「いやいや! そんなことは!」
「そんなことはあるわよ! えぇあるわ。だって昨日あたし自身が身をもって実感したもの!」
「そ、それは!」
「問答無用! その身体に刻み込みなさいあたしのビート!」
ギューン!
ギターがかき鳴らされ、無数の光の蝶が乱舞した。
「弾幕じゃないっスか!」
「これがロックよ妖夢―!」
「あぁ! 幽々子様の背後にでっかい扇が!?」
ギュギュギュギュギュギョギュギョォー
ノリノリで、ちゃぶ台に片足さえかけてギターを叫ばせ続ける幽々子。
弦が震えるたびに大量の蝶型弾が渦を巻いて妖夢に殺到する!
「咲夜! 助けて!」
「仲がよろしいのは結構ですわよ妖夢」
「そうじゃないでしょ! そうは見えないでしょ!」
「うふふ! 咲夜はいい子ね!」
「ありがとうございます」
咲夜はぺこりと幽々子に頭を下げて部屋の掃除を始めた。
咲夜のその従順さ、そしてパワーバランスの見極めの上手さと立ち回りに、妖夢は軽く眩暈すら覚えてしまった。
もう咲夜はアテにできない。。
妖夢は咲夜に憎悪の視線を一瞬向けてから、庭へと飛び出した。
散る桜のカーテンを突き抜けて、庭に降り立つ妖夢。
「ヒョホーー!」
「うわぁ! 追いかけてきた!」
膝を折り曲げた姿勢のまま縁側からダイブしてくる幽々子。
ギターを振り上げていた。
「やるしかない!」
妖夢は2振りの剣を構える。楼観剣と白楼剣。決して折れぬ剣。
それが。
「ロッキュー!」
叩きつけられたギターによって嫌な軋みを上げた。
「バカな!?」
妖夢は自分から後方に弾き飛ばされ、幽々子との距離を――
「遅いわよ!」
「ひぃ!」
幽々子が目の前にいた。
当然のように、ギターが振りかぶられている。
「昨日はよくもやってくれたわね。妖夢ごときがあたしに屈辱を味合わせるなんて、その成長が嬉しい! 憎らしい!」
「やっぱり昨日のこと根に持ってましたね!」
笑顔で振り下ろされるギター。
「だんめいけん! だんめいけん! だんめいけーん!」
「ひゃ、た、助け……みょーーーん!」
冥界の澄み渡る空に、妖夢の悲鳴がどこまでもどこまでも吸い込まれていったそうな。
――そんな妖夢の悲鳴をたっぷりと吸い込んだ空が夕焼けに変わった頃。
白玉楼の3人は、春の風を感じながら、食卓を囲んでいた。
「妖夢も咲夜もお料理が美味しくて嬉しいわぁ」
これ以上ないくらい上機嫌な幽々子。
「それは、どうもありがとうございますねぇ!」
あちこちに包帯を巻いた仏頂面の妖夢。
それを笑顔で見る咲夜。
大体、普段の食卓だった。
「あら」
と、幽々子が何かに気づき、茶碗を食卓に置いた。
「?」
「……」
妖夢と咲夜も、気づく。
白玉楼の庭を、何者かが走ってここまで向かっているのだ。
「どなたでしょうか」
妖夢が腰を上げて、縁側に辿り着くと同時に。
「咲夜さん!」
赤い髪を持った妖怪が飛び込んできた。
「きゃわ」
「ぉわ」
正面衝突する妖夢と妖怪。
その姿に。
「美鈴!?」
咲夜が驚いた声をあげた。
「いたたた……。あ、咲夜さん!」
紅魔館の門番、紅美鈴だった。
「わー! 探しましたよ咲夜さーん!」
「あ、ちょっと美鈴! 抱きつかないの!」
美鈴と呼ばれた妖怪は咲夜に抱きついて、ぐるぐると回った。
それを見て、幽々子は「あらあら」といいながら、立ち上がる。
「待ち人来る、かしら?」
「……はい」
力強く頷く咲夜。
それを見て、妖夢は気づいた。
咲夜が白玉楼から去るのだ。
あれはいつだっただろう。
咲夜が独り、白玉楼を訪れて。
「ここで、人を待たせていただけますでしょうか」
と言ったのだ。
幽々子と妖夢は快諾し、今に至る。
ようやく、咲夜の待ち人が現れたのだ。
嬉しそうに笑う咲夜。
それを見て、妖夢も微笑む。
「……良かったな。十六夜咲夜」
妖夢の視線に気づき、咲夜は軽く頭を下げた。
それから4人で、夕食を取って。
「今までお世話になりました」
「咲夜さんがお世話になりました」
人間と妖怪はペコリと頭を下げる。
「それでは達者で」
幽々子は優雅に微笑み、手を振った。
妖夢は、何も言わなかった。
「じゃあ、行きましょうか。咲夜さん」
「そうね」
そして2人は飛んでいく。
それを少し見てから、妖夢は独り、白玉楼を出て、幽明の境へと足を向けた。
冥界の月の下。
妖夢は無言で飛んだ。
ほどなくして、巨大な結界が見えてくる。
妖夢は見上げるほどの結界の前で、大きく息を吐き出した。
その吐息は、僅かに震えている。
幽明を隔てる結界。
数十年前に、八雲紫によって完全に修復されたこの結果は、修復前のように、生きている者は、入ってこれない。
(また、知り合いがいなくなったな……)
妖夢は、胸を押さえて、咲夜と初めてあった、冬を思い出していた。
「泣いているのかしら。妖夢?」
「うわ」
だがいきなり掛けられた幽々子の声に驚いて、回想は中断されてしまう。
「な、泣いてなんかいませんよ幽々子様。ただ、思い出していただけです……」
「そう」
それだけ言って、幽々子は妖夢の肩を抱く。
「それなら、いいわ」
「はぁ……」
心地よい重み。
妖夢は幽々子の腕に、頬を当てて、幽々子に尋ねる。
「どうして……こんなに悲しくなるのでしょう」
知り合いがいなくなるたびに、尋ねた問い。
「それはあなたが生きているからよ妖夢」
お決まりの答えが返ってくる。
「そうですか……」
そしてお決まりの返事。
……そのまま、時間が流れて行った。
「さ、帰りましょうか妖夢」
「はい」
幽々子に促されて、結界を後にする――
と。
「ん?」
結界の向こう側から何かが飛んできた。
豆粒大の小さなそれはだんだん大きくなって。
それは。
「あー! もう! 死んじまったぜ! やっぱ寿命延ばしても人間はダメだな」
箒に乗った、霧雨魔理沙だった。
「なぁ!?」
なんであいつまで冥界に来るんだ。
「お! 妖夢! 幽々子も! どうしたんだ。私を出迎えてくれたのか。それは殊勝な心がけだぜ。褒美に私を白玉楼へ滞在させろ」
不敵に笑う普通の魔法使い。
「あらあら。またお客さんよ妖夢」
「あぁ……そのようですね。ただし、今度はやかましそうですが……」
「じゃあちょっとアリスが来るまで待たせてもらうぜ」
ノンストップで白玉楼の方角へ箒を進める魔理沙。
「あ、ちょっと勝手に!」
「妖夢。ぐずぐずしてると置いていくわよ」
「幽々子様も!」
気が付いたら、幽々子も飛んでいた。
妖夢は口を尖らせ2人を追う。
白玉楼はまた少し賑やかになりそうだ、と。
妖夢は困った笑みで、ため息を吐くのだった。
そんな最近の白玉楼。
冥界は死者の世界の筈なのに、なんでこんなに温かいんだろう……。