この物語はゲーム「アーマードコア」と東方とのパロディ作品ですが、かなり私の妄想が入っています。
一部に不快な表現がありますのでご注意ください。
夕暮れ時、幻想郷のとある山道を、一人の若い男が、同年代ほどの女性の手を引いて歩いていた。
若い男はほっそりした体形で、彼が農作業を営む者ではないことは一目瞭然だった。
女のほうは、農夫の姿をして、ほっかむりをしている。二人ともどこかそわそわした雰囲気だ。
ほっかむりから動物のような耳がのぞく、彼女は人間と妖怪のハーフ。男が慌ててその耳を隠す。
「急ごう、沙霧。もうすぐ村が見えるよ」
「玲治さん、私、うまく暮らしていけるかしら」
「ああ、僕の村は人間と妖怪が共生してるんだ。大丈夫、保証するよ」
少し休憩して、二人は再び歩き出した。峠を越えれば故郷の村が見えるはずである。
「しかし、結社の影響力があんなに強いとはな。もう後戻りできないのかな、義明」
そう言って、男は歩いてきた道を振り返る。
男の名は叢雲玲治(むらくも れいじ)といった。彼は亜羽論谷に拠点を持つ商家の跡取息子で、今回
山を二つほど超えた愛作村に商圏拡大のチャンスを求めて滞在していた。しかし、結社の影響力が強いこの村で、妖怪と親交の多い亜羽論谷の人間が信用を得ることは難しく、この村での取引をあきらめて帰ろうとした矢先、結社に捕らわれていた沙霧と出会い、彼女を連れ出したのだった。
話は数日前にさかのぼる。彼はこのあまり裕福とはいえない村で一番大きな屋敷を訪れ、
若き村長であると同時に、結社のリーダーでもある九郎義明(くろう よしあき)に商談を持ちかけた。
「君たちの村は、幻想郷の人里が集中する地域からもっとも離れた場所にある。村同士の交易も、お世辞 にも多いとは言えない。そこで交易ルートを開き、我々と付き合ったほうがお互いの利益になると思う。」
義明の反応は冷淡なものだった。
「ご心配には及ばない。我々は自給自足が可能だ。それに君らの村へ歩いていくとなると、途中には人食 い妖怪の出没する場所がいくつかあるじゃないか」
玲治も根気よく説得しようとした。
「それなら僕たちの村の弾幕使いが護衛する」
「その弾幕使いも妖怪じゃないのか、第一、お前たちは人間のくせに妖怪と仲良くしすぎている。どんなに 友情を築いても、所詮妖怪は人間を襲う存在でしかないんだ」
「そんなことを言うな、義明、僕らは子供のころ、慧音先生の学校で一緒に学んだじゃないか、あの学校に は妖怪の子供もいた」
九郎は遠くを見るような目つきで子供時代を思い起こす。
「慧音先生か、懐かしい。あのころは良かったな、思想も、種族の差も意識せずに暮らしていたっけ」
「なら、もう一度そのころに戻りたくは無いのか、僕たちにならできるはずだ。小さいころ、お前が一番妖怪 と楽しく遊んでいたじゃないか」
義明の表情は一変し、次第に高ぶる感情を押し殺そうとする。
「でも、俺は現実を知ってしまった。1年前、俺の両親は妖怪に殺された。この世のものとも思えぬ表情で 二人の死に顔が俺を見つめていた。今でも夢に出る。必死に俺に助けを求める父さんと母さんの声。俺は 手を伸ばすが、届かない。わかっただろう。付き合えば付き合うほど、知れば知るほど、なおさら人間と妖 怪は異質の存在だということを痛感させられる。もうあのころには戻れないんだよ、玲ちゃん」
玲治はなおも説得しようとする。
「人を襲う妖怪を倒す。それなら博麗の巫女がいる。お前が動くことはないはずだ」
「確かに、両親を襲った妖怪は博麗が退治してくれた。だがすでに両親は殺された後だった。
その巫女も妖怪と酒を酌み交わしたりしているそうだ。もう博麗の巫女もあてにならん。俺は、これ以上
父さんと母さんのような犠牲を出したくない」
「僕もそうだ、だからこそ、妖怪とわかりあう努力を・・・・・・」
「お前の理想論は聞き飽きた。妖怪から人間を守るためには力が必要なんだ」
「義明・・・・・・」
「言い過ぎたな。はるばる来てくれたのに悪いが、ここにはお前の目にかなうような物産はないよ。
今日はゆっくり休んで、明日にでも帰ってくれ」
そこまで言われては玲治も黙るしかなかった。義明の勧めで今夜は屋敷に泊まることにする。
失意の中、玲治は眠りにつく。
次の日、玲治は義明に別れを告げ、帰る前にしばらく村中を歩き回ってみる。
自分の村と比べ、裕福とはいえなそうだった、畑を見ても、あまり肥えた土ではなさそうだ。
村の人々に話を聞いてみると、妖怪がそう頻繁に村を襲うということはないものの、妖怪さえいなくなればもっと暮らしが良くなるのにと言う人も少なからず居た。
村はずれに奇妙な小屋があった。屋根や壁、戸のいたるところに護符が張られ。武器を持った二人の男が警備しているのが見える。通りがかった農夫が言った。
「あんた、この辺の人じゃないね。あれは結社が捕まえた妖怪を閉じ込めているそうなんだよ」
「本当ですか?」
「ああ、何でも沙霧とか言う名の女の妖怪でね、最近ふらりとこの辺に住み付くようになって、別に人に危害を加えたりはしないんだが、結社が危険な存在だといって隔離したんだ」
「危害を加えないんなら、何故閉じ込めておくんだ」
「わからない、悪い妖怪を退治するっていうんなら分かるが、ああいう人畜無害なやつまで捕まえるというってのはちょっとねえ。けっこう子供と遊んでくれたりして、割と大人にも好かれていたんだけど・・・・・・
まあ、これ以上は結社の村じゃ言えねえ。話さなかったことにしてくれんか」
そう言って、農夫は少しおびえた表情で去っていく。玲治は義明の館へ引き返す。義明は結社の部下と何かの話をしている最中だった。
「ん? なんだ玲ちゃんか。まだ居たのか」
「あの村はずれの納屋に閉じ込められた妖怪を開放してやって欲しい、危害を加える者じゃないんだろう」
「なんだそんな事か。だめだ、あれは確かにおとなしい部類のやつさ。でも妖怪であることには違いない。そいつも人外魔境で育てば、人を喜んで食ったかもしれないんだ」
「もし、その妖怪に仲間がいて、仲間に知れればどうなる。それこそ危険だ。報復で村が襲われたらどうする」
「どうするだって。簡単さ、戦って撃退するまでだ。お前もいい加減村へ帰れ。結社の仕事を邪魔するなら
お前とて容赦せんぞ。」
「義明、復讐のために妖怪そのものを敵視することはない」
「俺は次の調査の打ち合わせで忙しい。お前たち、この方を外へ送って差し上げろ」
半ばつまみ出される形で門の外へ出た。こうなったら、と玲治は考えをめぐらせた。
「やあ、憎き妖怪をそこに閉じ込めてるんだって」
玲治は酒瓶を持って小屋の番人に話し掛けた。
「ん、 誰だあんたは? ここは立ち入り禁止だ」
刀剣を持った番人達は、一応凄味を利かせた声で威嚇しているが、どこか抜けた感じがしないでもない。
「やあ、美人の妖怪を捕まえているそうだから、ちょっと拝見させてもらおうと思ってね」
そう言って玲治は、交易のサンプル品として持ってきた酒を二人の門番に渡す。
急に門番の態度が変わる。玲治は
「お近づきの印さ、飲んでみなよ、美味いぞ。」
「でも今は仕事中だし・・・・・・」
「まあまあ、そう固いこといいなさんな、ほら」
杯を二人に渡し、酒盛りを始める。もともと堅固な意思の持ち主ではなかったようで、
すぐに警戒心を解いてしまう。
「この妖怪女は美人だぜ、それに綺麗な声で鳴きやがる。」
「そ、そうか」
「クックック、退屈な仕事を回されたんだ、これくらいは役得ってもんよ、あんたも味見しにきたんだろう? なにしろ夜は夜で、どんな武器が一番痛がるか実験されてるからな」
「で可哀想だから、昼は俺達が慰めてやってるのさ」
「なにせ九郎さんが、貴重な妖怪サンプルだから大切にしろって言うし」
二人の門番は下卑た笑いを浮かべた。何て連中だ、玲治は憤りを覚えたが、あくまで冷静さを装う。
「がぜん興味が湧いてきた、その妖怪と会わせてくれないか」
玲治は二人に紙幣の束を握らせた。
「なかなか気前のいい若旦那だ、じゃあ、楽しんでくれよ、ヒヒヒ」
薄暗い小屋に入ると、隅で一人の女がうずくまっている。白い着物をまとい、青みがかった銀色の髪、
肌は透き通るように白く、整った顔立ちだったが、おびえた表情がその容貌を台無しにしている。
玲治がそっと手を伸ばすと、女はひっ、と声をあげてその手を振り払う。
「君を助けに来た、怖がらないで」
「いやっ、来ないで」
彼女にそのような反応をさせるに至った経緯を想像し、しかもかつての親友が関わっていることに
玲治は憤りと哀しみを感じた。
「もう君を傷つけたりなんかしない、信じて欲しい」
「本当? もう痛いことしない?」
「ああ、もう大丈夫だ、僕の名は叢雲玲治、君は?」
「沙霧・・・・・・」
「そうか、沙霧、はやくこんな所は出よう」
なんとか女を立たせ、小屋の入り口へと向かう、二人の門番は酒を飲んで酔いつぶれていた。
妖怪との取引で手に入れた外界の薬「睡眠薬」の粉末を二人の杯にまぶしておいたのだ。
「義明、部下は選べよな」
玲治は一言つぶやくと、護符を破りすて、沙霧を外へ連れ出した。
彼女は全身に切り傷や刺し傷があった、おそらく『実験』とやらで付けられたものなのだろう。
しかし、妖怪の傷の治りは早いらしく、歩くのには問題なさそうだった。それよりも心の傷が問題だろう、
と玲治は思った。人間への信頼を取り戻してくれるか心配だ。
遠くで喧騒が聞こえる、気付かれたか、玲治は焦る。
「このままでは追いつかれる、どこかに隠れよう」
「それなら、あの家に・・・・・・」
二人はある洋風の一軒家に助けを求めた。煙突から出る煙が暖かさを感じさせた。
「すみません、連れのものが怪我をしているんです」
玲治の声を聞き、中年の男が。奥では妻と思しき女が編物をしていた。
「おじさん、会いたかった」
「おお、沙霧ちゃんじゃないか、生きていたんだな」
まるで親子のように再会を祝う二人だった。玲治は黙ってその光景を優しく見つめる。
タイミングを見計らって話を切り出す。
「この妖怪(ひと)は結社に捕らわれてました」
「ああ、最近見かけないと思ったら、どうも結社の連中が連れて行ったらしいという噂を聞いたんだが・・・・・・。体じゅう傷だらけだ、ひでえ事しやがる」
「どうか、彼女の傷が治るまでかくまってもらえませんか」
「よしてよあなた、結社に妖怪の仲間とみなされたら嫌よ、どだい妖怪との共存なんて無理なのよ」
男の妻が首を横に振る。沙霧が辛そうにうつむいた。
「でも由果、沙霧ちゃんをこのままほっとくわけにはいかねえだろう」
「せめて2~3日でも。ご迷惑はおかけしません。どうかお願いします」
「じゃあ、明後日までよ」
玲治は食い下がり、しぶしぶ由果と名乗る男の妻も了承する。
その後、結社の人間が二人を探そうと家にやってきたが、うまくごまかすことが出来た。
玲治はこの夫婦から事情を聞いた。 沙霧は張り詰めていた緊張が解けたのか、婦人の出してくれた布団の中で寝息をたてている。
「沙霧ちゃんは昔っからこの近所に住んでたんだ、この村はあんたんとこより裕福とはいえんけれど、
それでもそこそこみんな仲良くやってたんだ。でも、村長の九郎さんの親が妖怪にに襲われてから、いろいろ物騒な連中を雇うようになって、雰囲気が一変しちまったんだ」
「そうですか、大事にならないといいのですが」
玲治は暗澹たる思いに駆られる。義明、なんでこんなことになってしまったのだろう。
「でも、結社が出来て、若い人たちが活気付いてるのも確かなのよ。もう貧しい村で無為に過ごすのはうんざりだ、とか、俺たちは妖怪を幻想郷から追い払うべく神に選ばれた戦士だ、とかね。正直、村の人たちがあんな輝いた目をしてるのは見たことがないのよ」
「まあ家内の言うことももっともなんだよな、沙霧ちゃんに会えないのは寂しくなるけど。もうこの村を離れたほうがいいよ」
「そうですね、こんな事が続くようだったら、僕らの村も対策を練らなければ・・・。」
二日後の朝、二人は身支度を整え、亜羽論谷をめざす。
「じゃあ、お世話になりました」
「気をつけるんだよ。沙霧ちゃんも落ち着いたら手紙くれよ」
「おじさん、また会いにきます」
玲治は出発する前に、えさで1羽のカラスを呼び寄せ、足に手紙を結び付けて放つ。
本来ならこうせずに済ますつもりだったが、今朝になって嫌な予感がしたのだ。
沙霧が何をしているのかとたずねると、玲治は一言「おまじない」と言って笑顔を見せた。
生きる望みを求めて、沙霧は玲治とともに歩き出す。沙霧の表情はいくらか和らいでいた。
玲治は夕日を眺めながら、昨日からの出来事を反芻していた。
妖怪への憎しみですっかり変わってしまった旧友。虐待されていた妖怪。これから自分はどうするべきなのだろうか。義明をあくまでも説得するべきか、それとも、力づくで圧力をかけるような事態も想定すべきなのだろうか。いずれにせよ、結社が自分たちの生活を脅かすようになれば、何らかの形で戦うしかない。
ある意味、今までのように敵意をもった妖怪を、仲間の妖怪と団結して撃退するのと同じなのかも知れないが、それでも、人間同士の争いの可能性に玲治は気が重くなった。
「さあ、もうすぐだ、歩こう」
「ええ」
小休止を終え、再び歩き出す二人の正面から、一人の女が歩いてくる。
赤いワンピースを羽織り、スカーフが目元を覆っている。
およそ一人で峠を越えるには似つかわしくない格好。腰に差しているのは短銃だろうか。
二人は緊張し、黙って通り過ぎるのを待つ、女は二人をちらりと見た後、何の興味も示さずに歩き去った。
ほっと一安堵した瞬間、突如背中に声が突き刺さる。
「ちょっとお尋ねしたい事があるのだけど、良いかしら」
できるだけ緊張を悟られないように装う。追っ手か? 女の目元はスカーフで隠れていて見えない。
「ああ、なんだい」
「ちょっと、ある人に会いたくて旅をしているのですけど」
「どんな人だい、商売柄、自分の村以外にも知り合いはいるんでね、知っている人かもな」
女はにやりと微笑んだ。銃口をこちらに向けて。
「ええ、女性妖怪を連れ出した男の人を探してるんですよ、玲治さん、沙霧さん」
空気が凍りつく。動揺を隠しきれず、脂汗が玲治の額に浮かぶ。
「な、なぜここが分かった」
「あなた、峠の茶屋で休憩したとき、これで支払ったでしょ」
硬貨がばらばらと女の手から地面に落ちた。まずった、玲治は己の軽率さを呪った。
それは円や銭ではなく、主に妖怪との取引で使われる『紅夢』という通貨だった。
「こんな所で、紅夢なんて出す奴はあんたら以外考えられない、義明様からはあんたも拘束するように命令が出ているの、来てもらうわよ」
咄嗟に、玲治は女を突き飛ばす。よろめいた女の手を掴み、銃を奪おうともみ合う。
「玲治さん!」
「沙霧、逃げろ、助けを呼んできてくれ」
「でも、玲治さんを置いていけない」
「早く行け、僕はそう簡単にやられない」
「人のことより、自分のことを心配しな!」
玲治は女に投げ飛ばされ、頭を打って意識が一瞬飛ぶ。
「てこずらせるんじゃないわよ」
女は沙霧をにらみつける。
沙霧は当面の目標が自分になったのを確認すると全速力で走ろうとした。
妖怪としては強いほうではなかったが、普通の人間を振り切る自身はあった。
銃声。しかし弾は外れた。だが次の瞬間、何者かが行く手を阻む。
「やっと見つけたぜ、お嬢ちゃん」
「また可愛がってやるよぉ」
下品な笑い声、自分を閉じ込め、慰み者にした用心棒たちだった。
痛みと恐怖の記憶が鮮明な映像となって沙霧の脳裏によみがえる。
「あ・・・・・・ああああ」
あれほど逃げ出したいと思っていたのに、体が震えて動かない。息が苦しい。頭ががんがんする。
空と地面の境界が曖昧になってゆく。
乾いた破裂音と共に胸に激痛が走る。
「安心しな、これは対妖怪麻酔弾よ、まあ、銀の弾丸のほうが死ねて良かったかも知れないわね」
嫌だ、いやだ、イヤダ、もうあそこに戻りたくない。もう痛い事されたくない、モウワタシヲコロシテ・・・・・・。
声にならない声。沙霧の心に何度も何度も反響する。
玲治は朦朧とする意識の中で、何とか立ち上がって一矢報いようとする。
その玲治の頭を女の手が鷲掴みにする。信じられない怪力。
「言ったでしょ、あなたも拘束対象だって」
今日ほど自分の不甲斐なさを悔やんだ日はない。
お前ら、何故こんなことをする。沙霧が、あの弱い妖怪が何をしたというんだ。
もう日が暮れかかっていた、太陽が赤く輝く、黒点があった。二つ、なぜかはっきりと見えた。
運命を暗示しているのかもしれない。状況は絶望的だった。
「あれは・・・・・・?」
女は黒点に気付き、それから視線を自分がはめている指輪に向けた。
指輪がぼうっと光り、人語を発する。
―テキ セッキン キケン キケン キケン―
黒点は徐々に大きくなり、やがて人の形を取る。
「パチュリー様、見つけましたよ」
黒点のひとつが喋った。
「護衛対象を見つけたのはいいけれど、厄介なことになっているわね」
もうひとつの黒点が応じた。
―パチュリー リトル カクニン―
女は臨戦体勢を取る。それらが太陽黒点でないことは誰の目にも明らかだった。
「やっと来てくれたか」
玲治は力なくつぶやく。遅い、報酬減らすぞ、と心の中で言う。
パチュリーはゆっくりと地面に降り立つと、眉間にしわを寄せて愚痴る。
「まったく、依頼した人間もバカね、何が『何も起こらなかった場合でも報酬は払う』よ
そう書いたら何か起こるに決まってるじゃないの」
「そういうもんなんですか?」 とリトル
「物語の法則よ、法則。さてと、敵は誰」
魔道書が応える
―ランカー弾幕使い、月ヶ瀬ハルカを確認。オリキャラアリーナ所属。
及び、オリキャラゴロツキ二体です―
「まあ、そこそこの相手ね。一応言っとくわ、あなた達、弱い者いじめは止めてさっさと立ち去りなさい。
痛い目見るわよ」
「なんだと、ガキは帰って寝ろ」
「それとも、お前達も『サンプル』にされてえのか」
「やれやれ、本当に強い者は、自分より強い相手が分かるものよ」
パチュリーは軽く指を動かすと、二本のレーザーが用心棒の足元を焦がす。
その隙にリトルが急接近し、沙霧を救い出す。
「沙霧さんですね、もう心配要りませんよ」
リトルは笑顔で沙霧を抱きかかえ、パチュリーの後方へ瞬時に移動した。
玲治も隙を見て茂みに身を隠す。
「ひいっ、な、なんなんだ、あのガキども」
「か、敵わねえー、姐さん、頼みますぜ」
用心棒は我先に逃げ出す。
月ヶ瀬ハルカと名乗る弾幕使いはそれを横目で見ながら、パチュリーと距離を置いて対峙する。
(この女性は、少し厄介かもね)
「悪いけれど、痛い目に遭うのはあなた」 コルトガバメントの銃口がこちらを向く。
が二人は動じない。
「リトル、その女の子と男の人をお願い、私が戦う」
「わかりました、パチュリー様」
「義明様の敵は、排除する。銃符『シネマティックガンズ』」
ハルカの銃が火を噴く。パチュリーは魔法障壁で受け止める。
一丁の拳銃から、数十発の弾丸が途切れなく発射される。
「くっ、なんで弾切れにならないのよ」
「だから言ったでしょ『映画的な銃』だって」
魔法障壁で大ダメージは受けないものの、衝撃がかなりある。並みの妖怪なら気絶。人間なら衝撃だけで死んでいるだろう。
(ちょっと辛いわね)
パチュリーは空に浮かび、弾幕の間を縫うように避ける。
ハルカも空を飛び、さまざまな方向から絶え間なく銃弾を打ち込む。
しかし本気で避けるパチュリーには一発も当たらない。ただ一発がネグリジェを掠めたのみ。
「なんで当たらないのよ」 ハルカが苛立つ。
「やっぱり、吐き出される弾丸に比例して、主役にはなかなか当たらないようね、さすが物語世界の武具」
「ぎゃっ」
「ぐえっ」
流れ弾が逃げようとしていた用心棒に当たる。
「それでいて、雑魚には良く当たる。どうでもいいけど、仲間巻き込んでいるわよ」
流れ弾が容赦なく、まだ意識のあった用心棒の片割れに降り注ぐ。
「姐さん、そんな・・・・・・ぎゃああっ」
「敵前逃亡は銃殺だ、ってやつよ。それに、もともとあの二人は結社の品位を貶めてばかりいた。
当然の報い」
「趣味悪いわ」
「悪くて結構」
やがてスペルの有効時間が切れる。銃撃が止む。強気な表情を保つが、ハルカは肩で息をしている。
「やっぱ、紅魔館の弾幕使い、強い」
「もういっぱいいっぱい見たいね。降参したら?」
「そう、確かにもう派手な弾幕は出せない。だけど」
「だけど?」
ハルカは弾倉を落とし、すばやく予備の弾倉を再装填する。スペルではない。
「いまさらそれで私を撃つ気なの」
「ねえ、本気で殺すなら、弾はちょっとで良いという話知ってる?」
ハルカは後ろを振り向き、全弾をある方向に放つ。
「しまった!」
いつもの弾幕ごっこのノリになっていた、護衛の仕事であることをパチュリーは失念していた。
「リトル!」
(大丈夫です)
リトルは自分と玲治、沙霧を守る結界に向けて弾丸が発射されたことを感知していた。
しかしこの程度の物理的な攻撃は想定済み。
ご都合主義的な悪魔の動体視力で、弾丸が結界の障壁に突き刺さるのをリトルは見た。
一瞬後、金属的な音が響き、弾丸を跳ね返すはずだった。
「えっ」
弾丸が結界の障壁を貫き、その凶弾の行き先にいたのは・・・・・・。
「危ない」
沙霧が玲治をかばい、地面に伏せる。
「沙霧!」
「玲治さん、よかった」
リトルが沙霧の背中を見る。白い煙が彼女の背中からいくつも立ち昇る。
「義明様の新兵器。体内で法儀式済の銀の弾丸が砕け散り、破片が組織を破壊する」
その娘はもう助からない」
ハルカはポシェットからデリンジャーを取り出す。
「また逢いましょう」
空に向けて撃つ。弾丸がまぶしく発光し、一時的にパチュリーの視覚を奪う。
光が消えた時、すでに彼女の姿は無かった。
パチュリーは不覚と思いながら、リトルたちのもとへ駆けつける。
玲治が瀕死の沙霧を抱きかかえ、必死に励ます。
「沙霧! しっかりしてくれ。もうすぐ村だ、安心して暮らせるんだよ!」
「もういいの、あなたに恩返しできてよかった」
パチュリーとリトルが治癒の魔法を掛け続けるが、沙霧の肉体がぼろぼろと崩れ、
灰と化すのを止められない。声が徐々にか細くなっていく。
「ねえ玲治さん・・・・・・聞いて。怖いことをする人たちもいたけれど、最期に、あなたや、おじさん達、
優しい人たちに、たくさん逢えた・・・・・・私は人間を恨んでないわ、だから、だから玲治さんも、
あの村の人たちに、復讐なんて考えないで」
「沙霧!」
「不幸な目にあうのは、わたしだけで十分」
沙霧は眠るようにその瞳を静かに閉じた。
「沙霧、目をあけてくれ!」
「そんな、こんなのって理不尽です、私が絶対・・・・・・」
「リトル、もう止めなさい」
リトルは半泣きになって、なお治癒の魔法を続けようとする。
パチュリーはその手をそっとさえぎり、悲しげに首を横に振った。
「もう逝かせてあげなさい」
沙霧の全てが無へ還っていく。刹那、彼女の唇がかすかに動いた。
「あ・・・・・・り・・・・・・が・・・・・・と」
玲治は無言だった。その代わり、彼の中で何かが変化した。
翌朝、パチュリーは珍しくリトルより目が覚めた。
リトルはちゃぶ台に突っ伏して眠ったままだった。
酒瓶があちこちに転がり、そのまぶたは赤くはれている。
昨日の事がよほど応えたのだろう。
パチュリーは毛布をかけてやり、今日は休業ね、と独り言。
数日後、窓際に文々。新聞が届く。一面に玲治の事が載っていた。
結社に対する批判勢力の形成が必要だと語っていた。
「仕事、増えるかもしれませんね」 記事を読んだリトルがつぶやいた。
それは収入増を意味するはずだが、リトルは沈んだ表情だった。
―不幸な目にあうのは、私だけでじゅうぶん―
パチュリーは合理主義者なので、非論理的なものに自らをゆだねる事はしない。
だがこの日ばかりは、沙霧の願いがかなう事を天に祈らずにはいられなかった。
「結社の人々は、もはや愛する人を守るために妖怪を退治する、といった範囲を逸脱した
行動を行っています。先日、私は仕事で彼らの村を訪れました。
そこで見たのは、力の無い一人の妖怪を研究用のサンプルと称して監禁し、
数々の虐待を行った形跡でした。
私は、信頼できる人外と協力し、なんとか助け出そうとしましたが、力及ばず、その妖怪は亡くなりました。
これでは彼らがもっとも憎むはずの、人を襲う妖怪の姿そのものではないでしょうか。
彼らは、鏡に映った己の姿を抹殺するべく力を振るっているのです。
私は、この村に住む人間と、人間と共存できる妖怪の友人達を少しでも彼らの干渉から遠ざけるため、
今ここに、人妖連合を結成します(文々。新聞より転載)」
前回の感触がよかったので拝読しましたが、引き続いて楽しませていただきました。あと金の単位渋いですね、コームって。
純粋に作品としての評価で九十点。
個人的に意見ですが構造的には3のユニオンと企業のような感じですかね?
となると・・・と勝手に妄想が膨らむ状態なわけで続編楽しみにしてます。
記事におけるアジ具合なんかまさにAC!
若干シリアス分が重量過多な気がしましたが、地球暦の話はNXの2枚目でしか知らないことが原因なのかも。
いいんじゃない?