「外の世界でたくさんの人が死んだらしいのよ、理由はわからないんだけど。
で、それが幻想郷に迷い込んで花に乗り移っていたんですって、
死神が職務怠慢してるせいで処理が追いつかなかったみたいよ」
「ふーん、そうだったのか」
二人並んで座って……霊夢がいれてくれた茶をすすりながら、適当に相槌を打った。
風が吹きつける度にその枝が大きく揺れ、いくつもの花びらを撒き散らす。この調子ではすぐに散ってしまうのではなかろうか。
博麗神社の桜は見事なものだ、そりゃ確かに幽々子のところの妖怪桜に比べれば見劣りはするけれど。
でもこのちっぽけな神社の縁側でゆったりと眺める桜は好きだ。
「何よ、この手の騒ぎに敏感な割には随分そっけないじゃない」
「あー? 途中でお前さんにやられちゃったしな、まぁ解決したんなら良いじゃないか」
「変なの、魔理沙らしくないわ」
霊夢は私を見て物足りないような、面白くないような表情を浮かべる。
面白くないのはこっちの方だ、道中あっさりと人のことをのしておいてよくもまぁ飄々と語ってくれる。
幻想郷が霧に包まれたときだって、幻想郷の春が冥界に持って行かれたときだって、夜が明けなくなったときだって。
いつだって私の一歩先に霊夢が居て……時には直接対決も挑んだけど勝てたことは一度として無かった。
「今日はもう帰るぜ」
身体を乗り出して縁側から垂らしていた足を地面に下ろし、横に立てかけていた箒を手に取った。
「え? 一騒動落ち着いたから宴会でもやろうとしてたんじゃないの?」
「そう思ってたんだがあまり体調が良くない、帰って寝る」
「あらそう、なら引き止める理由も無いけど……じゃあね」
「ああ、それじゃ」
箒をまたいだとき突風が吹いて目に砂が入った。なんだか本当についてないというか。
ゆっくり上空へ浮かび上がると、風に吹かれて山全体の桜がざわざわと揺れていた。
箒に込める魔力を強めにしないと、姿勢の制御をするのも難しい。
いつもならさっさと神社の中に入っていくか縁側でのお茶を続行する霊夢だが、今日はまだこちらを見上げている。
さっきの嘘を真に受けて心配でもしてるんだろうか、そんなはずはないか。
十分な高度をとると、私は自宅に向けて箒を飛ばした。
(帰って寝たいな)
体調が悪いというのは嘘だったが、休みたいと思うのは本当の気持ちだった。
宴会を始めたらきっといつも通りに参加して、騒いでる間にいろいろとどうでも良くなってしまうだろう。
それもある意味では、一つの建設的なやり方なのかもしれない。でも悪く言えば現実逃避だ。
(なぁ霊夢よ、お前に怖いものってあるのか?)
悩みの種はここにある。自分を死の危険にさらす恐怖、というのとは違った意味合いでの『怖いもの』。
もっとも、霊夢にとっては死の危険を感じさせられるほどの強敵もいないのかもしれない。
だから、死などとは少し違う点での恐怖……恐怖というよりは脅威と言うべきかも知れない。
霊夢の誇りや信条、存在意義、存在理由、そういうものを脅かす奴がいるんだろうか?
自分自身の美学を守るために必死になって誰かを倒そうとしたことが一度だってあるんだろうか?
(幻想郷を守るって言うのは確かに崇高なことだが、だからって自分の考えを放棄してしまっていないか?)
おそらく、霊夢はそんなことすら考えてないのだろう。あいつはそういう人間だ。
博麗の巫女だっていう自覚はあるだろう、妖怪退治には積極的だ。ただ、そこまで深く考えてるとは思えない。
『博麗霊夢』という存在は簡単には掴めない、掴ませてくれない。
(ライバルって思ってる奴……いるのか?)
単なる自分勝手な願望だと思う。勝手にライバル視して、追いつこうと努力して……。
ライバルとして見られることに微かに期待している。霊夢を脅かす存在でありたいと思っている。
(お前にはプライドってあるのか?)
もし私に負けたら、泣いて悔しがってくれるんだろうか?
悲しいことにそんな姿は想像できない。霊夢は負けてもなんとなくそれはそれで終わるんだろう。
そして気付いたらなんとなく強くなってて、その次はまたも私を叩きのめすんだろう。
(不公平な話だぜ)
考え事をしている内に家に着いてしまった。
箒を立てかけ、脱いだ帽子を机の上に放り投げると、私はベッドの上に大の字に寝転がった。
乱暴に乗っかったせいか、スプリングがキシキシと音を立てている。
「はぁーっ」
私に限ったことじゃない、元々霊夢は他人に対してあまり興味を持たない。
長いこと一人でいたって寂しいとも何とも思わないらしいことも、見ていてわかる。
そんな状況が面白いかつまらないかと問えば、つまらないとは答えるだろうけど。
しかし人がたくさん集まったからって『ものすごく』楽しいとまでは思わないのではなかろうか。
(冷たいなー、お前は)
少し目を開いて窓の外を見ると、薄暗くなってきていた。
もうすぐ宴会が始まるんだろうか、準備の早い奴ならもう博麗神社に来ていることだろう。
私が宴会のメンバーを呼び集めることが多いが、そうでなくても集まるときは集まる。
特に今は花の異変が片付いた直後だし、博麗神社には季節外れの桜が満開だ。宴会にはこの上ない状況。
(レミリア達が用意してくる酒ってうまいんだよなー)
あれを飲めないのは少し残念だが、今日の私には関係無い。
悩んでるときに酒は良い、過剰に酔えばストレスが言葉の形を成して体外に排出される。
すっきりして心が軽くなる、それ以上に飲めばその記憶まで無くなってしまうが。
(だが、こいつは吐き出すわけにはいかんぜ)
霊夢の本質が見えてきた気がする。今までは同じ人間だと思って対抗心を燃やしていたが、それではいけない。
人間にだって格がある、霊夢はきっとその格がとんでもなく高いのだ。でも私だって低くはないはずだ。
しかしながら、自分の格を乗り越えて更に上に行くというのは簡単なことではない。
仮に霊夢の格を『A』、私の格を『B』としよう。
今まで、それなりに霊夢を追い詰めたことはあるが勝った事は無い。努力はしている。
単純な話、私はどんなに努力をしても『B+』にしかならなかったということだ。
努力するたびに『+』の数が増えることはあっても、格自体が上がってないのなら『A』には届かない。
ラッキーで勝つなんて可能性はあるが、こと霊夢については卑怯なまでの強運の持ち主なのでありえない。
(どうすれば良いんだ?)
そこをこれからしっかりと考えなければならない。
しかしさっきから意識が混濁し始めている、霊夢以外の取り留めのないことも頭に浮かんで思考の邪魔をする。
(今日はこのぐらいにしておくか)
考え事をやめた途端、私は夢の中へと引きずり込まれていった。
霊夢と話しながら山を登る夢を見ている。飛べるのにも関わらず二人とも徒歩で山を登っている。
夢の中ながら意識がはっきりしていた、夢は意識の世界だがその世界の中の私にさらに意識があった。
霊夢は笑顔だった、笑顔でいろんなことを話している。
「私が小さな頃にね……」
そうして聞かされる話はどれもこれも他愛の無いことだった。
言葉を喋り始めたのはいつだったらしいとか、初めて巫女装束を着たのはいつだったとか。
「そうだったのか、珍しいなお前がそんな昔の話するなんて」
「今までちゃんと話したことなかったじゃない? 友達なんだから、もっと私のこと知って欲しいと思ったの」
くだらない。霊夢が恥ずかしげも無くこんなことを言うものか。馬鹿げすぎていて呆れてしまう。
生憎と私の視界には霊夢とその背景に山らしきものがおぼろげに確認できるだけだが、
もし地面に木の枝でも落ちてたら思いっきり踏みつけてへし折ってやりたい気分だった。
「初めて妖怪を退治したときはね……」
だが考えてみれば、確かにこれらの話は実在していておかしくない。
現実の霊夢の姿からは想像し難いが、別に何もあのままの姿でいきなり生まれ落ちたわけではない。
博麗の巫女という特殊な立場だから、一般的な家庭とは違った育ち方はしているかもしれないが、
生まれてすぐ喋れたわけがない、巫女装束を着て生まれてきたわけがない、胎内で妖怪退治をしていたわけもない。
「霊夢、お前……怖いものってあるか?」
「怖いもの?」
夢の中の霊夢の答えなんて腹の足しにもならない。だがどんな答えが帰ってくるのか少し気になる。
せっかく夢の中で意識がはっきりしているのだから、これぐらいやってみても良い。
だが霊夢は答えなかった、二人でガサガサと獣道を歩く音だけがしばらく続く。
「怖いものって言うよりは、お前にとっての脅威、かな」
「脅威ねぇ……」
今の沈黙は『怖いものは無い』という意味だったのだろう。だから私は言い方を変えた。
しかしそれでも霊夢は考え込んでばかりで一向に答えようとはしなかった。
下を向いて、少しでも歩きやすそうな道を探るばかりだ。
「魔理沙が私にとっての脅威だわ、会う度に強くなってる気がして」
「そうか、面白く無い。所詮夢は夢だな」
何のことはない、この霊夢は私がコントロールできるからそう答えさせてみただけの話。
それでもコントロールできなければ……なんて期待したが、この薄っぺらな霊夢はあっさり私の意思に従った。
こんなものは霊夢じゃない、まったく面白くない。
望み通りの答えが帰ってきたら多少気分が良いかと思ってああ言わせたが、余計虚しくなっただけだった。
「大分登ってきたわね」
「そうだな」
途中、コマ送りのように何度も場面が飛んだ。その度に高い位置に登ってきた事を実感した。
見晴らしの良いところで少し立ち止まって周りを見てみると、どこまでも青々とした森林が続いている。
それは地平線まで青々と、生気に満ち溢れているはずなのに全て死んでいるようにも見える、気味の悪い景色だった。
視線は上に向けよう、まだ頂上は見えないがそれでも登ってみよう。下を見るよりは良い。
「レミリア達と戦ったときはね……」
霊夢の話は段々現在に近づいてくる。
「幽々子達と戦ったときはね……」
山を登るにつれ段々と。
「輝夜達と戦ったときはね……」
そこで私は躓いて転んだ。起き上がろうと思ったのだが全身に力が入らない。
そういうものなのだと身体全体が理解しているのを感じた。夢の中なのに思い通りにいかない。夢の中だからか?
今度は転んでいる自分を上から見下ろした視点だった、身体のあちこちに傷がある。
それにしても酷い怪我だ、気付かない内に枝やら何かに引っかかって負傷していたのだろうか。
声すら発することができない。それでもなんとか呼吸だけはしているようで、背中が弱々しく上下している。
(そうか、なんとなくわかっていたが、そういう夢だったのかやっぱり)
霊夢は倒れた私に気付かず更に山を登っていく。そうだ、それでこそ霊夢だ。
だからこそ追いつきたくなる。霊夢、お前はそれでいい。
この山は寝る前に考えていた『格』そのものを表しているのだろう。
私ではこれ以上登ることができないんだ、悔しくて仕方ないがそれが今の私の実力だ。
(なら、次はもっと高いところまで登ってやる)
ここまで登ってこれたのがそもそも奇跡なのだ、見ろこの傷を。どれだけの無理をすればこうなる。
服はあちこち裂け、白いエプロンは真っ赤に染まり、足も腕も傷だらけだ。髪の毛はボサボサで見る影も無い。
僅かに開いた目から涙がこぼれる。
(悔しいな……)
相手にすらされない悔しさ、全力なのに手が届かないもどかしさ。絶望感。
でも、それを糧にしてここまで登る力を身に付けたのは事実。
(そうだ、だからこれでいい……)
お世辞にも立派とは言えない惨めな感情だが、これが私の活力だ。
いつか脅かしてみせる、嫌でも霊夢の意識に入り込んでやる。
もう霊夢はずっと高いところまで登っているだろう、私が居なくなった事に気付かず何かを語りながら。
「魔理沙、何してるの?」
心底驚いた、一度は登っていったはずなのに霊夢は戻ってきたらしい。
不思議そうな顔をして私を見下ろしている。なんて綺麗な格好なんだろう、ここまで登って傷一つついていない。
でも私は声を発することすらできなかった。
(良いよ、先に行け……いつか追いつく)
「魔理沙、一緒に登りましょうよ。ここの頂上はとても良い景色なのよ?」
(そんなこと知るか……私はお前の背中を追うだけで必死だっていうのに)
「魔理沙、一緒に登りましょうよ……一人で登るの嫌なの、寂しいのよ」
上から見下ろしていた視点は、いつの間にか霊夢の正面からの視点に変わっていた。
霊夢は今にも泣き出しそうだった、こんな顔現実じゃ絶対に見られない。
しかしとても生々しかった。そんな霊夢は私の手を取って起こそうとする。
(やめろ、痛い、痛い!!)
さっきから霊夢が私のことを無視して先に行くようにイメージしている。そうコントロールしようとしている。
なのにまったく言うことを聞いてくれない、強引に私を背負って山を登ろうとしている。
霊夢が私を背負って一歩踏み出すたびに私の傷が増える、服が裂け皮膚が裂け、アザが増える、血が噴出す。
歩みと共に全身のあちこちに激痛が走る。だが呻き声すら出すことができない。既に呼吸できていない。
(痛い!! やめてくれ!! これ以上は私には相応しくないんだ!!)
それでも霊夢は歩みを止めようとはしない。背中に私が乗っているのが嬉しいようで、笑顔さえ浮かべている。
人一人背負っているというのに、その足取りは驚くほど軽やかに荒れた山道を踏み越えていった。
突然目が覚めた。驚くほど意識がはっきりしている、間違っても二度寝なんてできないだろう。
全身汗びっしょりだった。服が重く感じるぐらい大量に汗をかいたらしい。
「こ、こいつはしんどい夢を見た……」
額に手を当て、息を整える、呼吸まで大きく乱れていた。
「そう思って起こしてあげたのよ」
「……うわ! なんだよ、びっくりした……」
傍らに紫が立っていた、なるほどこんな奴が夢枕に立ったんじゃ悪夢を見るわけだ。
大方、私の睡眠と覚醒の境界をいじって、無理矢理強烈な覚醒状態まで持っていったのだろう。
しかし一度も招いたことが無いのに家の場所を知ってるなんて。それに何の用があってここに来たのかわからない。
身体を起こしてベッドに腰掛けると、枕元にある、腰の高さぐらいの本棚の上のランプを手に取った。
点けると寝室がぼんやりと明るくなり、紫の頬が少し赤く染まっている。やはり宴会は開かれたのだろう。
「宴会を抜けてきたのか?」
「いえ、もう宴会は終わったの」
「そっか……今何時だ?」
「夜中の二時よ」
随分寝てしまったらしい、寝始めたのが夕方だから十時間近く寝たことになるだろう。
相変わらず息も荒いし汗も止まらない、濡れた服が身体にまとわりついてかなり気分が悪い。
「これ、使う?」
「……いや、いらん」
紫が差し出したハンカチを断った、ハンカチ一枚でどうにかなる汗の量でもないし。
それならば風呂に入ってきた方がよほど良いだろう。
「どんな夢を見たの? 興味あるわ」
「残念ながら話してやれないな、かなり酷い夢とだけは言っておくが」
「あら、残念」
「そんなことより何しに来たんだ? こんな時間に非常識だぜ」
「霊夢に聞いて……少し様子を見ておこうと思ったの。体調が優れないらしいじゃない」
「見ての通りだよ……まぁ眠いだけだったんだけどな」
「よく眠れたの?」
「見ての通りだよ」
何が面白いのかわからないが、紫は不気味に微笑んでいる。
なんだか全て見透かされているみたいで気持ちが悪い、どうもこいつは苦手だ。
こんなだからこいつと普通に接することができるのなんて霊夢ぐらいのもので、他の連中は煙たがっている。
「寝酒なんてどうかしら?」
「よく言うぜ……自分で無理矢理起こしておいて」
紫は宴会の残り物であろう酒をスキマから取り出した、あの瓶はブランデー、レミリア達が持ってきたものだろう。
私の好みを知ってるらしい、いつも飲む安酒の焼酎もお気に入りだが、たまにしか飲めない分このブランデーは貴重だ。
嬉しそうな顔でブランデーの瓶をランプの光に当てる紫、瓶の中には四割ほど中身が残っていた。
瓶の中で染められた光が、紫の表情を妖しい紅褐色に彩っている。
「体調の悪い寝起きの人間に酒を勧めるとは、乱暴な奴だな」
とは言うもののこれだって口先だけのこと、たっぷり寝て今はとても体調が良い。
だが正直飲みたいとは思わない。宴会だって断ったぐらいなのになんで家で、しかもこいつと飲まなきゃいけないんだ。
本当に何を考えているのか理解できない。こいつは何が面白くてこんなことをしているのだろう。
「宴会に貴女がいないことを皆不思議がっていたし、少し残念そうだったわよ?
もちろん私もそう。だから我慢できなくなってここに来てしまったの。ね、飲みましょうよ?」
この大酒飲みめ、私にはお前がその程度の量で満足するとは考えられん。
しかしなんとなくこいつの目的がわかってきた、何か言いたいことがあるんだろう。
そしてそれは私の心情を見抜いてのことだろう。茶化しにきたのかなんなのか動機はわからないが。
でも悩みを聞いてその解決に協力するような殊勝なやつとも考えにくい。
「わかった、わかったよ、帰れと言っても帰らないんだろう」
「もちろん」
「随分はっきり言うな。よしわかった、潰してやるぜ。居間に来い」
「あら、それは楽しみ」
居間のランプも点けて、紫を招く。もやもやしてるときに腹の立つ奴が来たのはある意味じゃ好都合だ。
間違っても聞き上手な奴じゃないが、元々愚痴るつもりなんてありはしない。
ベロベロに酔っ払ってかっこ悪いところの一つでも見られれば大収穫。
こっちはベストコンディション、向こうは既に宴会で大分飲んできたはずだ。勝機はある。
だがあのブランデーだけではお話にならない、私は台所へ行き、お気に入りの安酒を取り出した。
「飲み足りないんだろう、こいつもご馳走してやる。とっておきの安酒だぜ」
「まぁ本当、なんて素晴らしい安酒なの」
「だけど少し待て、服が汗ばんでて気持ち悪いから着替えてくる」
「急いでくれないと待ちきれないかも」
「良い子だから少し待て、いいな」
「良い子だから少し待つわ」
なんとなく扱いやすい、まともに相手をしないのがコツなのかもしれない。紫は心底面白そうだ。
私は濡らしたタオルを片手に寝室へと向かった、本当なら風呂に入りたいが沸かすのに時間がかかるし。
それに紫が居るんじゃおちおち入浴もしてられない、適当に潰して帰らせてからにすればいい。
どうせあと2時間もすれば紫は『おねむ』の時間だろう。酔ってるからもっと早いかもしれない。
(うぇ……)
服を脱ぐと下着まで汗ビッショリだった。流石にこれは酷い、このままにしてたら過剰に身体を冷やしたかもしれない。
まずは顔、そして首、腋、腕……多く汗をかく部分から順に拭いていく。汗と共に熱も奪っていってくれるのが心地良い。
だがタオルはもう少し湿らせておいた方が気持ち良かったかもしれない。拭いている内に乾いてきてしまった。
(まぁ応急処置としちゃ十分だろ)
下着までも取り替えると、風通しが良くて身が軽くなった気がした。
実際汗に濡れた服は少し重いのだろうが、そういうことではなく気分的な意味合いで、だ。
脱いだ衣服を適当にタオルで包んで小脇に抱え、居間へと向かう。紫は食卓で頬杖をついて待っていた。
「まさか本当に待ってるとは、流石良い子だぜ」
衣服の包みを脱衣所の方に放り投げ、私も食卓の椅子を引いて腰掛けた。
「貴女は悪い子ね。あんながさつに服を投げっぱなしにしておくなんて」
「ごちゃごちゃ言うなよ、お前が片付けるわけじゃないだろ」
「でも貴女も片付けないんでしょ? この家の中の汚いことといったら……」
「うるさいなぁ、式にやらせてる奴が偉そうに言えるのかよ」
「さあグラスを頂戴。まさかラッパ飲みなんて言わないわよね?」
「都合が悪くなると話を変えるんだな……まぁいいや」
食器棚を開けてグラスを取り出すと、丁度二つしかなかった。
七つぐらいあったはずなのに、割ったり無くしたりしてここまで減ってしまったらしい。
かつては賑やかだった食器棚の中が今は閑散としている。
「がさつだなぁ、私は」
「ん?」
「いや、なんでもない。そういやお前はどうやって飲むんだ?」
「あらやだ、いつも宴会で見てるでしょうに」
「いつもは咲夜とか妖夢が準備するからお前のことなんか見てないんだ」
「口で飲むに決まってるじゃないの、妖怪をバカにしているの?」
背を向けてるので見えないが、きっと今紫はニヤニヤとほくそ笑んでいるのだろう。
思わず溜息を漏らす。笑えもしないような冗談を飛ばすのはやめてほしい。
「そうじゃなくて……水割りとかストレートとかあるだろ」
「やあねえわかっているわよ。ロックで」
「お前はストレートの方が似合うからストレートで良いな?」
「選択肢は無いの?」
「選択肢じゃなくて氷が無いんだ、私はストレートしか飲まないし」
「豪快なのね、まるで貴女のスペルカードみたいに」
「スペルカードは体を表すんだ、お前の胡散臭いスペルカードもそうだろ」
「せめて『非常識』と言ってほしいわ」
グラスを両手に食卓に戻る、一つ渡してやると紫は嬉しそうな表情を浮かべて両手で受け取った。
しかしそれをランプの光に透かして観察すると、少し不機嫌そうな表情に変わる。
「汚れているの」
「バカ言うなちゃんと洗ってるぜ。それはそういう柄なんだ、ハイカラだろ?」
「そうなの、素敵ね」
「さて、そろそろ核心に迫るか」
「唐突ね」
グラスをブランデーで満たしながら。
グラスの三分の一ぐらい注いで飲むのが上品に見えるのだろうが、ちびちび飲んでいては紫に飲みつくされてしまう恐れがある。
これ見よがしになみなみと注いだ、紫のグラスには半分ぐらい注いでやる。
そのままぐいっと三割ぐらい飲み込むと、食道から空っぽの胃袋まで焼け付くように熱くなった。
「はぁ……すきっ腹には効くな。よし、何しに来た? 本当の目的を言え」
「本当に飲みに来ただけよ?」
「そんな嘘が通じると思ってるなら、それは私を侮りすぎてるぜ」
「仕方ないわね……相談に乗ってあげようと思って」
「何の相談だよ」
「天才と凡才の境界について」
「興味が無いな」
予想通りだ。本心はわからないが、こちらの状況はある程度察しているらしい。
だからって別にこいつの力を借りようとは思わないし、努力や苦悩を人に見せるのは嫌いだ。
自分の力で何とかしようと思っている。
「なら言っておくわ、独り言として」
「なんだよ、独り言なら独りのときにやれよ」
「霧雨魔理沙は天才ねぇ」
「……はぁ?」
クスクス笑いながらそう呟くと、紫はブランデーの瓶を傾けた。
これについては予想外だ、てっきり私と霊夢を比べて、私が平凡と言うつもりだと思っていたから。
紫は私のグラスにもブランデーを注いでその瓶を空にした。紅褐色の雫がグラスの表面に波紋を作る。
「天才と凡才の違いなんてそんなものなの」
「待て待て、さっぱりわからん」
「これは独り言なので、質問には答えられません」
「ふん、こっちだって独り言だ、答えてもらうつもりはないぜ」
「でも霧雨魔理沙は凡才でもあるの」
「でもってなんだ?」
「自分と周囲を見比べない者こそ、天才と呼ばれるわ」
「ああ、うまいなこの酒」
「霊夢は本質的にいつだって独りよ。だから彼女は一番にしか成り得ない、誰をも脅威と見なさない。
それを後押しするように博麗の力は強大すぎるの。だからこそ彼女は自由で独りなのね」
「博麗の結界に穴開けるやつがよく言うぜ」
「でも……」
今までベラベラと話し続けていた紫が口ごもった。言おうと思ったがやめた、という様子で。
そして鋭い目付きを私に向ける。暗闇の中で禍々しく輝く妖怪の目、私はそれに少し恐怖を感じた。
「なんで来たかを言うつもりは無いけれど」
「相談に乗るんじゃなかったのか?」
「なんで相談に乗ろうと思ったかを言うつもりは無いけれど」
「言い直したな」
「貴女の存在は、ものすごく重要なの」
「ほう、ようやく認める気になったのか」
「ええ、素晴らしいわ」
紫は豪快にブランデーを飲み干した。
目的が叶ったのか、言いたいことは言ったのか、満足げな表情を浮かべている。
「良い夜だわ、安酒もいただいていい?」
言うが早いか既にその手は安酒にかかっていた、制止してもやめる気などありはしないのだろう。
ねちっこく言及されたわけでもなく、わけのわからないことをはっきり言って終わってくれたので、
後は普通に酒を飲んでみるのも良いだろう。一緒に飲む相手がこいつだけというのが気に入らないが。
少し残っていたブランデーを空にすると、私もグラスを持つ手を伸ばし、無言で酒を催促した。
「グラスを洗わないでそのまま飲むの?」
「ブランデーの焼酎割りだ、いや、焼酎のブランデー割りか?」
「ストレートが好きなのでは?」
「いいよもう、めんどくさい」
普段から安酒ばかり飲んでいるのに、うまい酒がどうとかなんてよくわからない。
レミリア達の持ってくるブランデーはうまいと思うが、それだって『高いからうまいんだろう』という思い込みの域は出ていない。
安いものと高いものの味の違いぐらいはわかるが、何をもって高い方をうまいと言えばいいのかはあまりよくわかっていない。
要するに、別種の酒と混ざったってよくわからない。口に合うか合わないかの問題でしかない。
「随分とご機嫌そうだな、良いことでもあったのか?」
「お酒は楽しく飲むものじゃない」
「そりゃそうだが、私とたった二人で飲んでるんだぜ」
「それでも、よ」
「さっきのやりとりのあとからだと思うんだがな、目に見えて機嫌が良いのは」
「語らなくても良いことってあるの」
「そりゃそうだが」
天才と凡才の境界……周りと自分を見比べるかどうか……そんな安いものなのか?
チルノが霊夢みたいな性格なら天才なのか? 特に戦闘に関して、あの程度で天才とは名乗れないのでは?
どうも紫の発言には含みが多い、私を天才と呼んだことに関してもその根拠が全く明らかでない。
霧雨家は確かに魔法使いの家系で、そういう意味では血統書付きの魔法使いと言えるだろう。
だからといってそれを理由に天才と言ってしまうのは安直ではないか。
魔法使いの家系だから優秀な魔法使いになるわけではない、実際に霊夢に散々辛酸を舐めさせられているわけだし。
「あーもうっ」
「どうしたのよ突然?」
「お前がわけのわからないことを言いまくるせいで混乱しているんだよ」
「そんなに難しかったかしら?」
「お前の思考を基準に物事を語るな」
「うーん……人間って難しいのねぇ」
「種族の差じゃないだろ、お前自体がわけわからないんだよ」
わけがわからないと言えば、こいつだってとんでもない大妖怪で、言い方を変えれば天才と言えるんじゃなかろうか。
「待てよ」
「何を待てば良いの?」
「天才って……」
「あら、まだそのことを考えていたの?」
「他人がそう呼ぶようになって、初めて『天才』ってなるよな?」
「そう、自分で言うほど安っぽいものはないわね」
「そうかわかった、だからそこに明確な境界なんて無いと、お前は言いに来たんだな?」
「それはどうかしら?」
完全な正解ではないが、そういうことを伝えたかった部分はあるんだろう。
紫はわざとらしく目をそらしてちびちびと飲んでいる。
「にしても、やっぱり霊夢はよくわからないな……本当に修行してないように見えるんだが、何故ああも強い?
いくら博麗の巫女だからって言って、力の使い方を覚える程度の修行は必要なんじゃないか?」
「そのぐらいはさせられるのよ、前の代の巫女に。これは本当」
「それもそうか……でもやっぱりそれだけであそこまで強いのはおかしいと思うんだが」
すきっ腹に酒を入れているものだから、幾分か早めに饒舌になってしまったようだ。
悩みの種を少し吐き出してしまっている。
「本当にわからないの?」
「え?」
「霊力そのものは確かに先天的な要素が大きいし、身体の成長と共に変化しているの。だからそれは置いておいて。
いくら戦闘のセンスがあったからって、何もせずにそれが伸びることはないでしょう?
ましてあの性格よ、普段から戦いのことばかり考えているわけもない」
「そりゃお前みたいな迷惑な妖怪を退治する中で自然に養ってるんだろう」
「もちろんそれもあるけど」
紫はもどかしそうに頭をかいた。
「でも、その辺まったく自覚が無いのね。霊夢は……いつだって自然体なの。
なんで自分がそこまで強くなってるのかもきっとわかっていないし、知ろうともしないでしょうね」
「なんだよ急に話を変えて」
「今日の霊夢の様子が少しいつもと違ったから、貴女の様子も見に来たらやはり貴女の様子もいつもと違った」
「?」
「もうすぐ夜も明けそうだから、今日はもう帰るの」
「はぁ? ちょっと待て!!」
「さようなら」
いきなり話を切り上げて、紫はスキマの中へと消えていった。
何も解決していないじゃないか、私は両手で乱暴に頭をかきむしった。
結局何がしたかったんだあいつは。
「天才だとか凡才だとか、そんな風にくくるのは好きじゃないぜ」
グラスに残った安酒を一気に流し込んで、私は風呂を焚く準備に取り掛かることにした。
結局酔い潰すのは無理だったか、怪物め。
さっき投げ捨てた汚れ物を洗濯籠に放り込んでから、私は湯船に湯を張り始めた。
酔ったまま入浴するのは身体に悪いらしいが、そんなことは今気にすることじゃない。
(私が重要な存在?)
どういう意味だろうか。
湯を張っている最中、ずっと考えていた。
お湯で簡単に汗を流して湯船に浸かると、自然に溜息がもれる。
「はぁ~……」
外が少し明るくなり始めている、小鳥達のさえずりも聞こえ始めている。
ふと『これは朝風呂に分類されるのだろうか』などとつまらないことを考えた。
両手でお湯をすくって顔を洗い、タオルで拭いてからもう一つ溜息をつく。
(霊夢の様子もおかしかったのか)
いかに霊夢が冷静な性格の持ち主であるとはいえ、努めてそうあろうとしているわけでもあるまい。
だから何かしら不思議なことが起これば、取り乱したり態度が変わったりするのは自然な流れだ。
逆にそういった状況になっても、すぐに元の調子に戻る辺りが霊夢の特徴でもあるのだろう。
(原因があるとすれば昨日のことだろうなぁ)
宴会にも参加せずにさっさと帰った私を見て不思議に思ったのだろう。
理由がよくわからずに、そのことを考えていたから少し違った様子に見えた可能性はある。
帰ると言った私をいつまでも見守り続けていたあたりから、少し『らしく』なかった。
とはいえそこまで深刻にも考えてはいないはずだ。ちょっと気になった日常的な変化、と言った程度なはず。
(よく考えたら、意外とわかってないな霊夢のこと)
今日一日……紫とも話して出てきた結論はそれだった。
本当に努力せずに強いのだろうか、本当に他人に関心が無いのだろうか、無重力なんだろうか。
それはわからない。私も紫も、わかったつもりになって話していただけだったのかもしれない。
(掴めないなー)
湯船の中で手を開いたり閉じたりしてみた。お湯は自然に指の間から逃げていく。
しかしお湯は、湯船の中に入っている間は確実に身体に密着し、温もりを与えている。
案外、人付き合いと言うのもこういうものなのかもしれない。理由も無くそう思った。
(さて、次はどんな技であいつに挑んでやろうか)
頭でばかり考えていても仕方が無い、とりあえず霊夢は強くて変な奴だと結論付けよう。
僅かずつでも努力さえ続けていれば、きっといつか脅かせるはずだ。
結局行き着いた答えはいつもと同じ。私自身だって、無理して変わったところで良い結果が生まれるとは限らない。
自分のやり方を信じて続けてみよう。
(しかし、どうやって食って掛かったものかな)
喧嘩するにも理由がいるな。なんて考えつつ、私は湯船から出て身体を洗うことにした。
風呂から上がった私は、ベッドの上に座り、今日……いや、昨日? あったことをまた反芻してみることにした。
もう朝になってしまっている。今日は晴れるだろう、随分と明るい。
これからまた寝る私は、夜明けを認めたくないかのように、カーテンを隙間無くきっちりと閉めた。
霊夢のことについてはもういい、実際に接触しなければ見えない部分が多すぎる。
紫が言ったいくつかの台詞がまだ消化できていない、問題はそこだ。
私は天才でもあり凡才でもあり、そして重要な存在だそうだ。
重要と言われて悪い気はしないが、何を理由にそう言ってるかが問題になってくる。
(天才凡才ももういいか……誰がどう見るかによるしな)
洗いたての顔を撫でながら。ツルツルした顔を撫でると綺麗になった実感があって嬉しい。
今考えたことは本音だ。自分が凡才で霊夢が天才、だなんて事実があったとしてもどうしようもないし。
仮に自分が天才と呼ばれるに相応しいと思えたって、そんなことに興味は無い。
私はベッドに横になり、くしゃくしゃになっていた掛け布団を胸の辺りまで引っ張り上げた。
(何が重要なんだろうなぁ)
宴会のムードメーカー? いやそんなことをわざわざ言いにはこないだろう。
異変に際して霊夢が動かなかった場合は私がそれを解決する……これは考えられなくもないか。
でも紫だってその気になれば異変を解決するぐらいの力はあるはずだ。どうも説得力が無い。
(あーもういいや、重要ったら重要なんだろ。幸せ者だぜ、私は)
いくらなんでも長いこと頭を使いすぎて疲れた。私は考えることを放棄して布団に包まった。
近いうち……今日起きてからでも、霊夢にちょっと喧嘩をふっかけてみよう。
酔ったままじゃ話にならない、少し寝て酒気をさまさないと。
――ガサガサ――
夢の中、また霊夢と二人で獣道を歩いている。前回の夢の続きだとでも言うのか?
意識がはっきりしていて、これが夢だとわかるあたりはまったく前回と同じだ。
(続きじゃないな……やり直しってところか?)
見覚えのある風景が続く。獣道、岩地、この辺ならまだ平気で突き進める。
霊夢の話の内容が前回とは若干食い違っているが、その辺は夢なので細かく気にしても仕方が無い。
便利なもので、コントロールのできる夢と言うのは若干の早送りも可能らしい。
早く進め、と思うたびに場面が次々移り変わる。
そしてあの見晴らしの良い場所まで来た。
やはり不気味な風景だった、地平線まで森林が続いている。入ったもの全てを飲み込んでしまいそうな威圧感を感じる。
もう少し登ればまた前回と同じように躓いて、その先へは進めなくなるのだろう。
「レミリア達と戦ったときはね……」
輝夜のあたりまで聞いて躓いたんだったな、前回は。
「幽々子達と戦ったときはね……」
また痛い思いをするのか、夢の中だから別に良いが、汗だくになるのは困りものだ。
「輝夜達と戦ったときはね……」
だが私はそこで躓くことはなかった。視点が上から見下ろしたものに切り替わったが、全身綺麗なものだ。
まだ行ける。なら行けるところまでついていこう。霊夢は相変わらず話し続けている。
横を歩く霊夢の様子をチラチラ確認しながら、私はさらに山道を進んでいった。
「霊夢、一番厄介だった敵って誰だ?」
なんとなくそんなことを問いかけてみる。もちろん夢の中の霊夢の答えなんて当てにはならない。
要はそれだけ私の方にも余裕があるということだ。ペースを崩さず山を登っているが、まったくダメージは無い。
「紫や永琳あたりかしら……底の見えない不気味さがあったわ。勝てたけど」
「ああ、あいつらは不気味だな、そこのところは同感だ」
霊夢が本当にそう考えてるとは思えない、私の意識の中でそう思っただけなのかもしれない。
『霊夢が苦戦したのはあの辺だろう』と。やはり信憑性に欠ける。
しばらく沈黙が続き、ついには山の頂上が見えてきた。こんなに簡単に登りきれて良いのだろうか。
私の身体には、やはり傷は無い。
「ほら見て魔理沙、良い眺めでしょ?」
(……そうかなあ)
さっき見た不気味な景色とそう大差は無い。遠近感の違いしか無いように私は感じた。
かえって視野が広がった分余計不気味にさえ感じるぐらいだ。こんなものでは納得できない。
「もっと上まで登りたかったな、正直なところ、私はこの景色があまり良いとは思わないぜ」
「え、そう……?」
「あれ、霊夢……?」
なんてことだ。自分の身体ばかり心配していて……霊夢の変化に気が付かなかった。
大分ボロボロになっている、裾が落ちて白い腕が露出してしまっている、そこから血が流れている。
頭の大きなリボンをどこかに落としてきたらしい、髪の毛もボサボサだ。
だるそうに息を切らしながら……霊夢は地面に腰を下ろし、うつろな表情を彼方へと向けていた。
(どういうことだ……)
当然、これが現実での格の違いに直結するものではあるまい。
寝て起きて酒飲んで、風呂入ってまた寝ただけだ。その間に私が霊夢を遥かに超えてるなんてありえない。
――認めない――
「霊夢……」
「……なに?」
「まだ先はあるんだぜ、こんなところでへたばっててどうする」
私は山の頂上に向けて手をかざした。すると一瞬霧がかかり、それが晴れた後、頂上が見えないほど山は高くなった。
この先は私も無事には済まないだろう、だがいつか踏破しなければならない。
「私はここまでよ……あとはあんただけで行って……」
「バカ言え、私を置いてって悔しい思いさせるのがお前の役目だろ。へこたれた姿なんか見たかないぜ」
息も絶え絶えな霊夢の腕を掴み、立ち上がらせる。
「離してよ! なんでこんなことをするの!?」
「なに、本当のお前なら軽々と登っていけるさ」
「なんでそんなことがわかるのよ」
「お前は偽者だからな」
「はぁ?」
霊夢の手を引いて山を登る。
気分が高揚した、きっと前回の霊夢はこんな気持ちだったんだろう。
少しすると霊夢は抵抗しなくなった。前回の私と同じで、動くことすら満足にできなくなったようだ。
更に進むと霊夢を引きずってしまっていることに気が付いた。だから背負ってやった。
「苦しい思いをさせて悪いな、まぁ夢なんだからひとつ許してくれ。さっきの仕返しでもある」
驚くほど身が軽い。霊夢の重さなんて感じない程に。
前回の夢で、霊夢は動けなくなった私を見て今にも泣き出しそうな悲しい顔をした。
(お前が先に居ない人生なんて、面白味が無いぜ)
こういうことだろう。私とは逆に霊夢は追ってきてほしかったのだ。夢の中の偽者ではあったけれど。
だから私も進めなくなるまで進んで、少し前に霊夢を置いてやろう。
「周りを飛び回るハエぐらいにしか思ってないのか、いつまでも追跡してくる不気味な敵と思っているのか……。
それは私にはわからんが、いつまでも追っかけ回してやるぞ、霊夢」
ふっ、と背中が軽くなった。
「上等よ、あんたなんか視界に入らないぐらい高いところまで登ってやるから」
目の前には、不敵に微笑む霊夢がいた。
ボロボロだった巫女装束は新品に換わっている、白い布地が眩しい。
身体の傷も完治している、その表情からは気だるさが消え、活力に満ちている。
「上等、そっくりそのまま返すぜ」
「あんたをライバルだなんて、一生思ってやらない」
「なら、力づくでもそう思わせてやるよ」
「やれるものならやってみなさい」
全力で山を駆け上っていく霊夢を、同じように全力で追いかけた。
霊夢の脚は随分早かった、気を抜いたら見えなくなってしまいそうだった。
愉快だった、ただ追いかけてるだけなのに……霊夢が先に先に登っていくのが面白くて仕方なかった。
この楽しさを忘れてしまっていたのだ、ライバルがいるという充実感を。目標があるという喜びを。
向こうが私をライバル視してるかどうかはこの際重要なことではない。
だがきっと、追いかけ続けていれば嫌でも目に入るはずだ。もしかしたらもう既に……という可能性もある。
「ぐぅっ!!」
二度目の感覚。躓いて転んだ……反射的についた手が砂粒や小石で削られ、しびれるような痛みを感じる。
そして起き上がれない。ここが今の私の限界か。私は力を振り絞って寝返りを打ち、天を仰いだ。
「あ、あー……」
まだぎりぎり声は出るようだ。大きく息を吸い込むと全身が痛む。
そんな私の気も知らずに太陽は燦燦と照りつけている。温かくて心地良いなんてものじゃない、皮膚を焼かれて痛い。
(やっぱり霊夢はもっと先に行ったか……)
涙がこぼれる、けれどそれが悔し涙なのか嬉し涙なのかがよくわからない。
実のところ、先に霊夢がへこたれたときが一番悲しくて泣きそうだった。
それに比べれば悔しいぐらいなんてことない、まだいくらだってやりなおせる。
でも自分の顔が歪むのがわかった、悔しいんだろう、もっと霊夢を追いかけたかった。
――ジャリ――
「あー、霊夢か……ひっく」
「泣いてるの魔理沙?」
「違う、高山病だ……ひっく」
「あら大変」
夢の中とはいえ負けるのは悔しいものだ。起きてる間は考え込んだり酒を飲んだりしていて忘れていたが。
そんな私の泣き顔を霊夢が覗き込む。やめろ見るな、かっこ悪いじゃないか、くそっ。
「もっと追いかけてきなさいよ……面白くないじゃない……」
「なんだお前……フッ……アハハハハ!!」
やっぱり、追いかけてほしかったんだな。また泣きべそをかいてる、夢の中の霊夢は可愛いなぁ。
「らしくないぜ、やっぱりお前は偽者だ」
不思議と手を動かす力が湧いた、私は霊夢の頬をつねってやった。
「ん~……っ!!」
身体を起こして背筋を伸ばす。汗ばんではいない、実に良い目覚めだ。
時計に目をやると午前九時。いつもと比べると寝坊気味だが、昼まで寝なかったのが幸いだ。
良い気分だった、昨日一日中かかっていたもやが全部晴れた気がする。
頭で理解したというものではなく、感触として確かにそういう手応えがあった。
朝食を摂るのも面倒だ、すぐ霊夢に会いたい。飯もたかってやろう、白米と梅干ぐらいはあるはずだ。
「もう、夢の中の偽者霊夢はたくさんだぜ」
顔を洗う為に洗面所へ向かう。急いでいてもその辺の身だしなみは忘れない。
(結局のところ、行動を起こさなきゃ何も変わりはしないさ)
歯もちゃんと磨く……かっこいい台詞、決め台詞になるか捨て台詞になるかはわからないが、
それを謳っているときに酒の臭いがプンと漂っては締まらない、これも重要なことだ。
(私は私、あいつはあいつだ。努力するしか道が無いなら、それが私の道だ)
着替えもしっかりと、リボンは可愛らしく結ばなければならない。ファッションでも負けたくないから。
お気に入りの帽子についているアクセント……リボンは真正面に向けた方が几帳面に見えるが、
少し横にずらしてみるのもセンスが良い、と思う。まぁ今日の気分は一直線、真っ直ぐにしよう。
(馬鹿の考え休むに似たりか……だが休んだおかげで体力は十分、私はその言葉を前向きに捉えるぜ)
準備に急いでバタバタと家の中を走り回った。積み上がっているコレクションの山のいくつかが音を立てて崩れた。
けど直す気も起きない。崩れたら崩れたままで良い、適当に積み上げているのと大差無い。
「待ってろ霊夢ーっ! 今行くぞー!」
お気に入りの帽子が吹き飛ばされないように片手で押さえながら……
私は箒にまたがって、最高速度で博麗神社へと飛んだ。
私が博麗神社に到着したとき、霊夢はのんびりと庭掃除をしていた。
ぼーっと地面を見つめて、散った桜の花びらを箒でかき集めている。
私はこれ見よがしに霊夢の目の前に着陸して、手を上げて挨拶した。
「よー霊夢、上の空って顔だな」
「あら魔理沙……体調はもう良いの?」
「霊夢、飯」
「はぁ?」
「飯食えば完全だ、飯」
「なんなのよもう……」
縁側に箒を立てかけ、どっかりと座り込んだ私を見て霊夢は眉をひそめたが、意外と素直に従った。
集めた桜の花びらを草むらに掻き出すと、その箒を私の箒の横に立てかけて神社の奥へと歩いていく。
「霊夢ー! 良い感じに男尊女卑だぞー! お前は立派な昭和のお嫁さんだ!」
「どっちも女でしょうが!!」
「そのツッコミにはもう一ひねり欲しいところだな!」
「ど、どっちも……」
私のペースだ、悪くない。
「今は女の方が強い時代なのよ!!」
「ひねってきたな、だが60点、単位修得はぎりぎりだぜ」
それにしても随分と食いついてくる、いつもなら「馬鹿じゃないの?」と一言で済まされてしまいそうなのに。
ああ、楽しいなこのやりとり。これから始まる戦いの前哨戦だ。霊夢は感じているのだろうか。
縁側に座ると、短くて地面に届かない脚をぶらぶらさせ、桜を見ながら霊夢を待った。
昨日の激しい風はもう止んで、優しい風が静かに桜の花びらを揺すっている。
「あんたに食べさせるご飯なんて無いって言いたいけど、病み上がりだから特別よ。はい」
「おーすまんな、苦しゅうない」
「……ほんとに病み上がりかしら?」
「いただきまーす」
朝食の残りだろう、白米、味噌汁、漬物、梅干……白米と梅干で十分と思っていた私には贅沢なメニュー。
白米は……よく炊けてる、輝いてるぜ。
味噌汁は……うん、霊夢の味だ、味薄いな。
漬物は……味薄い、霊夢は味薄いの好きだもんな。
梅干は……酸っぱい、通好みだ。
「随分食欲あるじゃないの」
「お前が私の為に持ってきたと思うと気分が良いぜ」
「嫌な性格ねぇ……」
「私が和食派だって知ってて和食を持ってきてくれたんだな?」
「私も和食派なだけよ」
「素直じゃない奴」
「素直よ」
意味の無い話をしながら、私は霊夢の持ってきた朝食を次々に口の中へ運んだ。
よく考えたら、昨日博麗神社に来る前に家で食事を摂ったきり何も食べていなかった。
食欲も無かったし、作る気力も無かったし。道理で腹が減っているわけだ。
食べ物が胃に流れていく度、力が湧いてくるような感覚があった。
私はそれらをあっという間に食べ尽くしてしまっていた。
「あーうまかった、ごっそさん」
「はいはい、お粗末さまでした」
「霊夢、お茶」
「あんたね、そろそろ殴るわよ?」
「お茶!!」
「……」
「なんだその顔はー、食後のお茶のうまさをお前は知っているんだろう? 何故私の気持ちがわからない?」
「……わかったわ、私もお茶を飲むから、そのついでにいれてあげる」
縁側から脚を垂らしたまま、私は仰向けに寝転がった。スカートからはみ出た脚に降り注ぐ太陽光が心地良い。
台所はそう近くないのに、霊夢がかちゃかちゃと食器をいじる音が聞こえる、そのぐらい静かだった。
「ほんと偉そうねあんた。ほらお茶よ、これで文句無いでしょ」
湯飲みを受け取って、一口啜ってから。
「なー霊夢、風呂、飯、の次ってなんだ?」
「風呂? あんたお風呂まで入るつもり?」
「いや、風呂は家で済ませてるから良い」
「それじゃ何よ?」
「風呂、飯、の次はもちろんお前だ、決着をつけるぜ、今日こそ」
「……病み上がりとは思えないわね」
「仮病だし」
「やっぱり」
できるだけ落ち着いて茶を啜る、もう気持ちが高ぶって仕方がない。
食後すぐの激しい戦いは脇腹が痛くなるかもしれないが、今日の私はそれさえも厭わない。
ただ茶の熱さのみが私の逸る気持ちに抵抗した。熱くてすぐには飲みきれない、うまいけど早く飲み終えて戦いたい。
少し前に突っかかって負けたときから特に修行は積んでいないが、気持ちの面で成長した……気がする。
ああもういい、とにかく戦いたいんだ、夢だけじゃ満足できない。
「よーっし飲んだ! さー早速行くぜ霊夢!」
「あんたねぇ、そういうけど理由も無いじゃないの、それに私はまだ飲み終わって……」
「てーい!」
「あっつぅ!? 何すんのよ!!」
霊夢の湯飲みの底を平手で突き上げる。
湯飲みと霊夢の歯がぶつかる音と同時に、まだ湯気の立つお茶が霊夢の顔にかかった。
霊夢の目がつり上がり、その手が袴に差し込んでいたお払い棒に伸びた。
「あんたね!! いきなり来て無茶苦茶やりすぎよ!! いくらなんでも限界だわ!!」
「ははは、喧嘩の理由ができたな霊夢!! 計算通りだぜ!!」
――さて、博麗神社を壊さない程度にしないと――
箒を手に取ると、私も臨戦態勢をとった。
「ぜぇ、ぜぇ……懲りた!? まったく……いつにも増してしつこかったわね今回は……ふぅふぅ……」
「きゅう……」
私は仰向けに倒れていた……ああ、空が青いなぁ、この青空の美しさは敗者だけのものだぜ。
いつも通り……いや、いつもよりは粘った。霊夢も肩で息をしている、上々だろう。
そんな情け無い私の鼻の頭に、風に流された桜の花びらが乗った。くすぐったいが取り除く気力も起きない。
「霊夢ー……」
「何よ?」
「随分疲れてるようじゃないか……」
「あんたとの戦いが一番疲れるのよ!!」
胸が、トクンと鳴った。
「しつこいし、何度も挑んでくるし、その度に強くなってるし……ああもう、なんでそんなに私を目の仇にするのかしら」
目に涙が滲む。
「あー、でもあれだわ、あんたに勝った後が一番スカッとするのよ、なんでかわからないけど」
目を閉じる。涙を搾り出す。
「私だって……お前に負けるのが一番悔しいよ……」
泣き顔を見られないように、うつ伏せになった。
鼻の頭に乗っていた桜の花びらが、ひらひらと地面に落ちる。
「なんか言った?」
「……何も……」
涙声になってる、だから発言は最小限に留めた。
肩を震わせないように、嗚咽を漏らさないように、必死に耐えた。
認められていることを知った喜びと、やっぱり勝てない悔しさが胸を押し潰す。
ああ、現実の霊夢は良いなぁ、私を満足させてくれるなぁ。
「魔理沙……?」
「……ばーか、ばーか、ばか霊夢」
「な、なによ……頭来るわね」
最後まで抵抗してやるぜ。ばーか、ばーか、ばか霊夢。
とりあえずこっちに来るな、お前に泣き顔を見られるのが一番の屈辱なんだ。
――だから頼む……あっちに行ってくれよ……これ以上、無様な負け犬に構わないでくれよ――
願いが通じたのかどうか、霊夢が遠ざかっていくのがわかった。
少し頭を持ち上げて真っ赤になった目で辺りを見回すと、霊夢が居ない。神社の中に行ったのだろうか。
「うぅっ……うぁぁぁっ!! 悔しい!! くぅっ!! うぅぅうぅぅっ!!」
うつ伏せになったまま、脚で大地を蹴り続けた。
失っていたのはこういう気持ちだったのかもしれない、負けたことを素直に悔しがる気持ち。
どこか達観して……いや、諦めていたのかもしれない。霊夢を天才、自分を凡才と決め付けて。
昨日から今日まで、何度も反芻してきたが……実際に負けることでしか得られない気持ち。
頭だけで理解できるものじゃなかったんだ、霊夢の弾幕の痛み。霊夢の涼しい態度、頭に来る台詞。
(追いかける……どこまでも……)
強く心に誓う。
――そうだ、この気持ちを味わうために今日ここに来たんじゃないか――
明日からまた修行をしよう。
人知れず一人で、霊夢の背中を追いかけて。
「魔理沙」
「っ!?」
身体がビクッと跳ねる。突然の呼びかけにびっくりした、集中しすぎていて霊夢の接近に気が付かなかった。
良かった、バタバタ暴れている最中じゃなくて……見られずに済んだ。
「なんだよ……?」
頬に、熱いものが触れた。
「お茶にしましょ」
私の頬に湯のみを押し付けた霊夢の顔は、驚くほど穏やかだった。
「おや、どうしたんですか紫様? こんな早起きなんて」
「おはよう藍。霊夢と魔理沙が戦っている頃かしら、と思ってスキマから覗いていたの」
「ほう、どうですか?」
「霊夢が勝ったわ」
「そうですか、やはり」
「ま、どっちが勝っても良かったのだけどね、別に」
「ん? ならば見る必要は無いのでは?」
「そうなのだけどね……彼女達の戦いそのものに意味があるとは思わない?」
「どういうことです?」
「鈍いわねぇ……ああやって魔理沙がしつこく絡んでいくことは、それすなわち霊夢の修行になるのよ」
「一理ありますね」
「霊夢の潜在能力は大きいけれど、あの子はそれを自分から伸ばそうとしない……なのに段々強くなる」
「それは魔理沙がいつまでも霊夢に挑戦し続けるから、と、そういうわけですか」
「そして魔理沙は、そんな霊夢を超える為に更に修行を積む、その繰り返しなの」
「どちらもとんでもない怪物ですね。自然に強くなる霊夢に、いくら負けても折れない魔理沙」
「やっぱり藍もそう思うわよねぇ~」
「こうやっているうちは博麗大結界も安泰と言うことですか」
「あぁ、でもいたずらで穴を開けられないぐらい結界が強力になってしまっては面白くないわ」
「いくらなんでもそれは心配しすぎでは……」
「藍、貴女も最近努力が足りないのではないかしら? 昔はしつこく私に食って掛かってきたわよね?」
「何を仰りたいのか、理解できますが理解したくないですね」
「つまらないの」
「いたずらする力を鍛える為に私がいるわけではないのですよ」
「そうよね、所詮藍は掃除してご飯作る程度の能力なの」
「修行してきます」
「いってらっしゃい、私は二度寝するわ……おやすみ」
で、それが幻想郷に迷い込んで花に乗り移っていたんですって、
死神が職務怠慢してるせいで処理が追いつかなかったみたいよ」
「ふーん、そうだったのか」
二人並んで座って……霊夢がいれてくれた茶をすすりながら、適当に相槌を打った。
風が吹きつける度にその枝が大きく揺れ、いくつもの花びらを撒き散らす。この調子ではすぐに散ってしまうのではなかろうか。
博麗神社の桜は見事なものだ、そりゃ確かに幽々子のところの妖怪桜に比べれば見劣りはするけれど。
でもこのちっぽけな神社の縁側でゆったりと眺める桜は好きだ。
「何よ、この手の騒ぎに敏感な割には随分そっけないじゃない」
「あー? 途中でお前さんにやられちゃったしな、まぁ解決したんなら良いじゃないか」
「変なの、魔理沙らしくないわ」
霊夢は私を見て物足りないような、面白くないような表情を浮かべる。
面白くないのはこっちの方だ、道中あっさりと人のことをのしておいてよくもまぁ飄々と語ってくれる。
幻想郷が霧に包まれたときだって、幻想郷の春が冥界に持って行かれたときだって、夜が明けなくなったときだって。
いつだって私の一歩先に霊夢が居て……時には直接対決も挑んだけど勝てたことは一度として無かった。
「今日はもう帰るぜ」
身体を乗り出して縁側から垂らしていた足を地面に下ろし、横に立てかけていた箒を手に取った。
「え? 一騒動落ち着いたから宴会でもやろうとしてたんじゃないの?」
「そう思ってたんだがあまり体調が良くない、帰って寝る」
「あらそう、なら引き止める理由も無いけど……じゃあね」
「ああ、それじゃ」
箒をまたいだとき突風が吹いて目に砂が入った。なんだか本当についてないというか。
ゆっくり上空へ浮かび上がると、風に吹かれて山全体の桜がざわざわと揺れていた。
箒に込める魔力を強めにしないと、姿勢の制御をするのも難しい。
いつもならさっさと神社の中に入っていくか縁側でのお茶を続行する霊夢だが、今日はまだこちらを見上げている。
さっきの嘘を真に受けて心配でもしてるんだろうか、そんなはずはないか。
十分な高度をとると、私は自宅に向けて箒を飛ばした。
(帰って寝たいな)
体調が悪いというのは嘘だったが、休みたいと思うのは本当の気持ちだった。
宴会を始めたらきっといつも通りに参加して、騒いでる間にいろいろとどうでも良くなってしまうだろう。
それもある意味では、一つの建設的なやり方なのかもしれない。でも悪く言えば現実逃避だ。
(なぁ霊夢よ、お前に怖いものってあるのか?)
悩みの種はここにある。自分を死の危険にさらす恐怖、というのとは違った意味合いでの『怖いもの』。
もっとも、霊夢にとっては死の危険を感じさせられるほどの強敵もいないのかもしれない。
だから、死などとは少し違う点での恐怖……恐怖というよりは脅威と言うべきかも知れない。
霊夢の誇りや信条、存在意義、存在理由、そういうものを脅かす奴がいるんだろうか?
自分自身の美学を守るために必死になって誰かを倒そうとしたことが一度だってあるんだろうか?
(幻想郷を守るって言うのは確かに崇高なことだが、だからって自分の考えを放棄してしまっていないか?)
おそらく、霊夢はそんなことすら考えてないのだろう。あいつはそういう人間だ。
博麗の巫女だっていう自覚はあるだろう、妖怪退治には積極的だ。ただ、そこまで深く考えてるとは思えない。
『博麗霊夢』という存在は簡単には掴めない、掴ませてくれない。
(ライバルって思ってる奴……いるのか?)
単なる自分勝手な願望だと思う。勝手にライバル視して、追いつこうと努力して……。
ライバルとして見られることに微かに期待している。霊夢を脅かす存在でありたいと思っている。
(お前にはプライドってあるのか?)
もし私に負けたら、泣いて悔しがってくれるんだろうか?
悲しいことにそんな姿は想像できない。霊夢は負けてもなんとなくそれはそれで終わるんだろう。
そして気付いたらなんとなく強くなってて、その次はまたも私を叩きのめすんだろう。
(不公平な話だぜ)
考え事をしている内に家に着いてしまった。
箒を立てかけ、脱いだ帽子を机の上に放り投げると、私はベッドの上に大の字に寝転がった。
乱暴に乗っかったせいか、スプリングがキシキシと音を立てている。
「はぁーっ」
私に限ったことじゃない、元々霊夢は他人に対してあまり興味を持たない。
長いこと一人でいたって寂しいとも何とも思わないらしいことも、見ていてわかる。
そんな状況が面白いかつまらないかと問えば、つまらないとは答えるだろうけど。
しかし人がたくさん集まったからって『ものすごく』楽しいとまでは思わないのではなかろうか。
(冷たいなー、お前は)
少し目を開いて窓の外を見ると、薄暗くなってきていた。
もうすぐ宴会が始まるんだろうか、準備の早い奴ならもう博麗神社に来ていることだろう。
私が宴会のメンバーを呼び集めることが多いが、そうでなくても集まるときは集まる。
特に今は花の異変が片付いた直後だし、博麗神社には季節外れの桜が満開だ。宴会にはこの上ない状況。
(レミリア達が用意してくる酒ってうまいんだよなー)
あれを飲めないのは少し残念だが、今日の私には関係無い。
悩んでるときに酒は良い、過剰に酔えばストレスが言葉の形を成して体外に排出される。
すっきりして心が軽くなる、それ以上に飲めばその記憶まで無くなってしまうが。
(だが、こいつは吐き出すわけにはいかんぜ)
霊夢の本質が見えてきた気がする。今までは同じ人間だと思って対抗心を燃やしていたが、それではいけない。
人間にだって格がある、霊夢はきっとその格がとんでもなく高いのだ。でも私だって低くはないはずだ。
しかしながら、自分の格を乗り越えて更に上に行くというのは簡単なことではない。
仮に霊夢の格を『A』、私の格を『B』としよう。
今まで、それなりに霊夢を追い詰めたことはあるが勝った事は無い。努力はしている。
単純な話、私はどんなに努力をしても『B+』にしかならなかったということだ。
努力するたびに『+』の数が増えることはあっても、格自体が上がってないのなら『A』には届かない。
ラッキーで勝つなんて可能性はあるが、こと霊夢については卑怯なまでの強運の持ち主なのでありえない。
(どうすれば良いんだ?)
そこをこれからしっかりと考えなければならない。
しかしさっきから意識が混濁し始めている、霊夢以外の取り留めのないことも頭に浮かんで思考の邪魔をする。
(今日はこのぐらいにしておくか)
考え事をやめた途端、私は夢の中へと引きずり込まれていった。
霊夢と話しながら山を登る夢を見ている。飛べるのにも関わらず二人とも徒歩で山を登っている。
夢の中ながら意識がはっきりしていた、夢は意識の世界だがその世界の中の私にさらに意識があった。
霊夢は笑顔だった、笑顔でいろんなことを話している。
「私が小さな頃にね……」
そうして聞かされる話はどれもこれも他愛の無いことだった。
言葉を喋り始めたのはいつだったらしいとか、初めて巫女装束を着たのはいつだったとか。
「そうだったのか、珍しいなお前がそんな昔の話するなんて」
「今までちゃんと話したことなかったじゃない? 友達なんだから、もっと私のこと知って欲しいと思ったの」
くだらない。霊夢が恥ずかしげも無くこんなことを言うものか。馬鹿げすぎていて呆れてしまう。
生憎と私の視界には霊夢とその背景に山らしきものがおぼろげに確認できるだけだが、
もし地面に木の枝でも落ちてたら思いっきり踏みつけてへし折ってやりたい気分だった。
「初めて妖怪を退治したときはね……」
だが考えてみれば、確かにこれらの話は実在していておかしくない。
現実の霊夢の姿からは想像し難いが、別に何もあのままの姿でいきなり生まれ落ちたわけではない。
博麗の巫女という特殊な立場だから、一般的な家庭とは違った育ち方はしているかもしれないが、
生まれてすぐ喋れたわけがない、巫女装束を着て生まれてきたわけがない、胎内で妖怪退治をしていたわけもない。
「霊夢、お前……怖いものってあるか?」
「怖いもの?」
夢の中の霊夢の答えなんて腹の足しにもならない。だがどんな答えが帰ってくるのか少し気になる。
せっかく夢の中で意識がはっきりしているのだから、これぐらいやってみても良い。
だが霊夢は答えなかった、二人でガサガサと獣道を歩く音だけがしばらく続く。
「怖いものって言うよりは、お前にとっての脅威、かな」
「脅威ねぇ……」
今の沈黙は『怖いものは無い』という意味だったのだろう。だから私は言い方を変えた。
しかしそれでも霊夢は考え込んでばかりで一向に答えようとはしなかった。
下を向いて、少しでも歩きやすそうな道を探るばかりだ。
「魔理沙が私にとっての脅威だわ、会う度に強くなってる気がして」
「そうか、面白く無い。所詮夢は夢だな」
何のことはない、この霊夢は私がコントロールできるからそう答えさせてみただけの話。
それでもコントロールできなければ……なんて期待したが、この薄っぺらな霊夢はあっさり私の意思に従った。
こんなものは霊夢じゃない、まったく面白くない。
望み通りの答えが帰ってきたら多少気分が良いかと思ってああ言わせたが、余計虚しくなっただけだった。
「大分登ってきたわね」
「そうだな」
途中、コマ送りのように何度も場面が飛んだ。その度に高い位置に登ってきた事を実感した。
見晴らしの良いところで少し立ち止まって周りを見てみると、どこまでも青々とした森林が続いている。
それは地平線まで青々と、生気に満ち溢れているはずなのに全て死んでいるようにも見える、気味の悪い景色だった。
視線は上に向けよう、まだ頂上は見えないがそれでも登ってみよう。下を見るよりは良い。
「レミリア達と戦ったときはね……」
霊夢の話は段々現在に近づいてくる。
「幽々子達と戦ったときはね……」
山を登るにつれ段々と。
「輝夜達と戦ったときはね……」
そこで私は躓いて転んだ。起き上がろうと思ったのだが全身に力が入らない。
そういうものなのだと身体全体が理解しているのを感じた。夢の中なのに思い通りにいかない。夢の中だからか?
今度は転んでいる自分を上から見下ろした視点だった、身体のあちこちに傷がある。
それにしても酷い怪我だ、気付かない内に枝やら何かに引っかかって負傷していたのだろうか。
声すら発することができない。それでもなんとか呼吸だけはしているようで、背中が弱々しく上下している。
(そうか、なんとなくわかっていたが、そういう夢だったのかやっぱり)
霊夢は倒れた私に気付かず更に山を登っていく。そうだ、それでこそ霊夢だ。
だからこそ追いつきたくなる。霊夢、お前はそれでいい。
この山は寝る前に考えていた『格』そのものを表しているのだろう。
私ではこれ以上登ることができないんだ、悔しくて仕方ないがそれが今の私の実力だ。
(なら、次はもっと高いところまで登ってやる)
ここまで登ってこれたのがそもそも奇跡なのだ、見ろこの傷を。どれだけの無理をすればこうなる。
服はあちこち裂け、白いエプロンは真っ赤に染まり、足も腕も傷だらけだ。髪の毛はボサボサで見る影も無い。
僅かに開いた目から涙がこぼれる。
(悔しいな……)
相手にすらされない悔しさ、全力なのに手が届かないもどかしさ。絶望感。
でも、それを糧にしてここまで登る力を身に付けたのは事実。
(そうだ、だからこれでいい……)
お世辞にも立派とは言えない惨めな感情だが、これが私の活力だ。
いつか脅かしてみせる、嫌でも霊夢の意識に入り込んでやる。
もう霊夢はずっと高いところまで登っているだろう、私が居なくなった事に気付かず何かを語りながら。
「魔理沙、何してるの?」
心底驚いた、一度は登っていったはずなのに霊夢は戻ってきたらしい。
不思議そうな顔をして私を見下ろしている。なんて綺麗な格好なんだろう、ここまで登って傷一つついていない。
でも私は声を発することすらできなかった。
(良いよ、先に行け……いつか追いつく)
「魔理沙、一緒に登りましょうよ。ここの頂上はとても良い景色なのよ?」
(そんなこと知るか……私はお前の背中を追うだけで必死だっていうのに)
「魔理沙、一緒に登りましょうよ……一人で登るの嫌なの、寂しいのよ」
上から見下ろしていた視点は、いつの間にか霊夢の正面からの視点に変わっていた。
霊夢は今にも泣き出しそうだった、こんな顔現実じゃ絶対に見られない。
しかしとても生々しかった。そんな霊夢は私の手を取って起こそうとする。
(やめろ、痛い、痛い!!)
さっきから霊夢が私のことを無視して先に行くようにイメージしている。そうコントロールしようとしている。
なのにまったく言うことを聞いてくれない、強引に私を背負って山を登ろうとしている。
霊夢が私を背負って一歩踏み出すたびに私の傷が増える、服が裂け皮膚が裂け、アザが増える、血が噴出す。
歩みと共に全身のあちこちに激痛が走る。だが呻き声すら出すことができない。既に呼吸できていない。
(痛い!! やめてくれ!! これ以上は私には相応しくないんだ!!)
それでも霊夢は歩みを止めようとはしない。背中に私が乗っているのが嬉しいようで、笑顔さえ浮かべている。
人一人背負っているというのに、その足取りは驚くほど軽やかに荒れた山道を踏み越えていった。
突然目が覚めた。驚くほど意識がはっきりしている、間違っても二度寝なんてできないだろう。
全身汗びっしょりだった。服が重く感じるぐらい大量に汗をかいたらしい。
「こ、こいつはしんどい夢を見た……」
額に手を当て、息を整える、呼吸まで大きく乱れていた。
「そう思って起こしてあげたのよ」
「……うわ! なんだよ、びっくりした……」
傍らに紫が立っていた、なるほどこんな奴が夢枕に立ったんじゃ悪夢を見るわけだ。
大方、私の睡眠と覚醒の境界をいじって、無理矢理強烈な覚醒状態まで持っていったのだろう。
しかし一度も招いたことが無いのに家の場所を知ってるなんて。それに何の用があってここに来たのかわからない。
身体を起こしてベッドに腰掛けると、枕元にある、腰の高さぐらいの本棚の上のランプを手に取った。
点けると寝室がぼんやりと明るくなり、紫の頬が少し赤く染まっている。やはり宴会は開かれたのだろう。
「宴会を抜けてきたのか?」
「いえ、もう宴会は終わったの」
「そっか……今何時だ?」
「夜中の二時よ」
随分寝てしまったらしい、寝始めたのが夕方だから十時間近く寝たことになるだろう。
相変わらず息も荒いし汗も止まらない、濡れた服が身体にまとわりついてかなり気分が悪い。
「これ、使う?」
「……いや、いらん」
紫が差し出したハンカチを断った、ハンカチ一枚でどうにかなる汗の量でもないし。
それならば風呂に入ってきた方がよほど良いだろう。
「どんな夢を見たの? 興味あるわ」
「残念ながら話してやれないな、かなり酷い夢とだけは言っておくが」
「あら、残念」
「そんなことより何しに来たんだ? こんな時間に非常識だぜ」
「霊夢に聞いて……少し様子を見ておこうと思ったの。体調が優れないらしいじゃない」
「見ての通りだよ……まぁ眠いだけだったんだけどな」
「よく眠れたの?」
「見ての通りだよ」
何が面白いのかわからないが、紫は不気味に微笑んでいる。
なんだか全て見透かされているみたいで気持ちが悪い、どうもこいつは苦手だ。
こんなだからこいつと普通に接することができるのなんて霊夢ぐらいのもので、他の連中は煙たがっている。
「寝酒なんてどうかしら?」
「よく言うぜ……自分で無理矢理起こしておいて」
紫は宴会の残り物であろう酒をスキマから取り出した、あの瓶はブランデー、レミリア達が持ってきたものだろう。
私の好みを知ってるらしい、いつも飲む安酒の焼酎もお気に入りだが、たまにしか飲めない分このブランデーは貴重だ。
嬉しそうな顔でブランデーの瓶をランプの光に当てる紫、瓶の中には四割ほど中身が残っていた。
瓶の中で染められた光が、紫の表情を妖しい紅褐色に彩っている。
「体調の悪い寝起きの人間に酒を勧めるとは、乱暴な奴だな」
とは言うもののこれだって口先だけのこと、たっぷり寝て今はとても体調が良い。
だが正直飲みたいとは思わない。宴会だって断ったぐらいなのになんで家で、しかもこいつと飲まなきゃいけないんだ。
本当に何を考えているのか理解できない。こいつは何が面白くてこんなことをしているのだろう。
「宴会に貴女がいないことを皆不思議がっていたし、少し残念そうだったわよ?
もちろん私もそう。だから我慢できなくなってここに来てしまったの。ね、飲みましょうよ?」
この大酒飲みめ、私にはお前がその程度の量で満足するとは考えられん。
しかしなんとなくこいつの目的がわかってきた、何か言いたいことがあるんだろう。
そしてそれは私の心情を見抜いてのことだろう。茶化しにきたのかなんなのか動機はわからないが。
でも悩みを聞いてその解決に協力するような殊勝なやつとも考えにくい。
「わかった、わかったよ、帰れと言っても帰らないんだろう」
「もちろん」
「随分はっきり言うな。よしわかった、潰してやるぜ。居間に来い」
「あら、それは楽しみ」
居間のランプも点けて、紫を招く。もやもやしてるときに腹の立つ奴が来たのはある意味じゃ好都合だ。
間違っても聞き上手な奴じゃないが、元々愚痴るつもりなんてありはしない。
ベロベロに酔っ払ってかっこ悪いところの一つでも見られれば大収穫。
こっちはベストコンディション、向こうは既に宴会で大分飲んできたはずだ。勝機はある。
だがあのブランデーだけではお話にならない、私は台所へ行き、お気に入りの安酒を取り出した。
「飲み足りないんだろう、こいつもご馳走してやる。とっておきの安酒だぜ」
「まぁ本当、なんて素晴らしい安酒なの」
「だけど少し待て、服が汗ばんでて気持ち悪いから着替えてくる」
「急いでくれないと待ちきれないかも」
「良い子だから少し待て、いいな」
「良い子だから少し待つわ」
なんとなく扱いやすい、まともに相手をしないのがコツなのかもしれない。紫は心底面白そうだ。
私は濡らしたタオルを片手に寝室へと向かった、本当なら風呂に入りたいが沸かすのに時間がかかるし。
それに紫が居るんじゃおちおち入浴もしてられない、適当に潰して帰らせてからにすればいい。
どうせあと2時間もすれば紫は『おねむ』の時間だろう。酔ってるからもっと早いかもしれない。
(うぇ……)
服を脱ぐと下着まで汗ビッショリだった。流石にこれは酷い、このままにしてたら過剰に身体を冷やしたかもしれない。
まずは顔、そして首、腋、腕……多く汗をかく部分から順に拭いていく。汗と共に熱も奪っていってくれるのが心地良い。
だがタオルはもう少し湿らせておいた方が気持ち良かったかもしれない。拭いている内に乾いてきてしまった。
(まぁ応急処置としちゃ十分だろ)
下着までも取り替えると、風通しが良くて身が軽くなった気がした。
実際汗に濡れた服は少し重いのだろうが、そういうことではなく気分的な意味合いで、だ。
脱いだ衣服を適当にタオルで包んで小脇に抱え、居間へと向かう。紫は食卓で頬杖をついて待っていた。
「まさか本当に待ってるとは、流石良い子だぜ」
衣服の包みを脱衣所の方に放り投げ、私も食卓の椅子を引いて腰掛けた。
「貴女は悪い子ね。あんながさつに服を投げっぱなしにしておくなんて」
「ごちゃごちゃ言うなよ、お前が片付けるわけじゃないだろ」
「でも貴女も片付けないんでしょ? この家の中の汚いことといったら……」
「うるさいなぁ、式にやらせてる奴が偉そうに言えるのかよ」
「さあグラスを頂戴。まさかラッパ飲みなんて言わないわよね?」
「都合が悪くなると話を変えるんだな……まぁいいや」
食器棚を開けてグラスを取り出すと、丁度二つしかなかった。
七つぐらいあったはずなのに、割ったり無くしたりしてここまで減ってしまったらしい。
かつては賑やかだった食器棚の中が今は閑散としている。
「がさつだなぁ、私は」
「ん?」
「いや、なんでもない。そういやお前はどうやって飲むんだ?」
「あらやだ、いつも宴会で見てるでしょうに」
「いつもは咲夜とか妖夢が準備するからお前のことなんか見てないんだ」
「口で飲むに決まってるじゃないの、妖怪をバカにしているの?」
背を向けてるので見えないが、きっと今紫はニヤニヤとほくそ笑んでいるのだろう。
思わず溜息を漏らす。笑えもしないような冗談を飛ばすのはやめてほしい。
「そうじゃなくて……水割りとかストレートとかあるだろ」
「やあねえわかっているわよ。ロックで」
「お前はストレートの方が似合うからストレートで良いな?」
「選択肢は無いの?」
「選択肢じゃなくて氷が無いんだ、私はストレートしか飲まないし」
「豪快なのね、まるで貴女のスペルカードみたいに」
「スペルカードは体を表すんだ、お前の胡散臭いスペルカードもそうだろ」
「せめて『非常識』と言ってほしいわ」
グラスを両手に食卓に戻る、一つ渡してやると紫は嬉しそうな表情を浮かべて両手で受け取った。
しかしそれをランプの光に透かして観察すると、少し不機嫌そうな表情に変わる。
「汚れているの」
「バカ言うなちゃんと洗ってるぜ。それはそういう柄なんだ、ハイカラだろ?」
「そうなの、素敵ね」
「さて、そろそろ核心に迫るか」
「唐突ね」
グラスをブランデーで満たしながら。
グラスの三分の一ぐらい注いで飲むのが上品に見えるのだろうが、ちびちび飲んでいては紫に飲みつくされてしまう恐れがある。
これ見よがしになみなみと注いだ、紫のグラスには半分ぐらい注いでやる。
そのままぐいっと三割ぐらい飲み込むと、食道から空っぽの胃袋まで焼け付くように熱くなった。
「はぁ……すきっ腹には効くな。よし、何しに来た? 本当の目的を言え」
「本当に飲みに来ただけよ?」
「そんな嘘が通じると思ってるなら、それは私を侮りすぎてるぜ」
「仕方ないわね……相談に乗ってあげようと思って」
「何の相談だよ」
「天才と凡才の境界について」
「興味が無いな」
予想通りだ。本心はわからないが、こちらの状況はある程度察しているらしい。
だからって別にこいつの力を借りようとは思わないし、努力や苦悩を人に見せるのは嫌いだ。
自分の力で何とかしようと思っている。
「なら言っておくわ、独り言として」
「なんだよ、独り言なら独りのときにやれよ」
「霧雨魔理沙は天才ねぇ」
「……はぁ?」
クスクス笑いながらそう呟くと、紫はブランデーの瓶を傾けた。
これについては予想外だ、てっきり私と霊夢を比べて、私が平凡と言うつもりだと思っていたから。
紫は私のグラスにもブランデーを注いでその瓶を空にした。紅褐色の雫がグラスの表面に波紋を作る。
「天才と凡才の違いなんてそんなものなの」
「待て待て、さっぱりわからん」
「これは独り言なので、質問には答えられません」
「ふん、こっちだって独り言だ、答えてもらうつもりはないぜ」
「でも霧雨魔理沙は凡才でもあるの」
「でもってなんだ?」
「自分と周囲を見比べない者こそ、天才と呼ばれるわ」
「ああ、うまいなこの酒」
「霊夢は本質的にいつだって独りよ。だから彼女は一番にしか成り得ない、誰をも脅威と見なさない。
それを後押しするように博麗の力は強大すぎるの。だからこそ彼女は自由で独りなのね」
「博麗の結界に穴開けるやつがよく言うぜ」
「でも……」
今までベラベラと話し続けていた紫が口ごもった。言おうと思ったがやめた、という様子で。
そして鋭い目付きを私に向ける。暗闇の中で禍々しく輝く妖怪の目、私はそれに少し恐怖を感じた。
「なんで来たかを言うつもりは無いけれど」
「相談に乗るんじゃなかったのか?」
「なんで相談に乗ろうと思ったかを言うつもりは無いけれど」
「言い直したな」
「貴女の存在は、ものすごく重要なの」
「ほう、ようやく認める気になったのか」
「ええ、素晴らしいわ」
紫は豪快にブランデーを飲み干した。
目的が叶ったのか、言いたいことは言ったのか、満足げな表情を浮かべている。
「良い夜だわ、安酒もいただいていい?」
言うが早いか既にその手は安酒にかかっていた、制止してもやめる気などありはしないのだろう。
ねちっこく言及されたわけでもなく、わけのわからないことをはっきり言って終わってくれたので、
後は普通に酒を飲んでみるのも良いだろう。一緒に飲む相手がこいつだけというのが気に入らないが。
少し残っていたブランデーを空にすると、私もグラスを持つ手を伸ばし、無言で酒を催促した。
「グラスを洗わないでそのまま飲むの?」
「ブランデーの焼酎割りだ、いや、焼酎のブランデー割りか?」
「ストレートが好きなのでは?」
「いいよもう、めんどくさい」
普段から安酒ばかり飲んでいるのに、うまい酒がどうとかなんてよくわからない。
レミリア達の持ってくるブランデーはうまいと思うが、それだって『高いからうまいんだろう』という思い込みの域は出ていない。
安いものと高いものの味の違いぐらいはわかるが、何をもって高い方をうまいと言えばいいのかはあまりよくわかっていない。
要するに、別種の酒と混ざったってよくわからない。口に合うか合わないかの問題でしかない。
「随分とご機嫌そうだな、良いことでもあったのか?」
「お酒は楽しく飲むものじゃない」
「そりゃそうだが、私とたった二人で飲んでるんだぜ」
「それでも、よ」
「さっきのやりとりのあとからだと思うんだがな、目に見えて機嫌が良いのは」
「語らなくても良いことってあるの」
「そりゃそうだが」
天才と凡才の境界……周りと自分を見比べるかどうか……そんな安いものなのか?
チルノが霊夢みたいな性格なら天才なのか? 特に戦闘に関して、あの程度で天才とは名乗れないのでは?
どうも紫の発言には含みが多い、私を天才と呼んだことに関してもその根拠が全く明らかでない。
霧雨家は確かに魔法使いの家系で、そういう意味では血統書付きの魔法使いと言えるだろう。
だからといってそれを理由に天才と言ってしまうのは安直ではないか。
魔法使いの家系だから優秀な魔法使いになるわけではない、実際に霊夢に散々辛酸を舐めさせられているわけだし。
「あーもうっ」
「どうしたのよ突然?」
「お前がわけのわからないことを言いまくるせいで混乱しているんだよ」
「そんなに難しかったかしら?」
「お前の思考を基準に物事を語るな」
「うーん……人間って難しいのねぇ」
「種族の差じゃないだろ、お前自体がわけわからないんだよ」
わけがわからないと言えば、こいつだってとんでもない大妖怪で、言い方を変えれば天才と言えるんじゃなかろうか。
「待てよ」
「何を待てば良いの?」
「天才って……」
「あら、まだそのことを考えていたの?」
「他人がそう呼ぶようになって、初めて『天才』ってなるよな?」
「そう、自分で言うほど安っぽいものはないわね」
「そうかわかった、だからそこに明確な境界なんて無いと、お前は言いに来たんだな?」
「それはどうかしら?」
完全な正解ではないが、そういうことを伝えたかった部分はあるんだろう。
紫はわざとらしく目をそらしてちびちびと飲んでいる。
「にしても、やっぱり霊夢はよくわからないな……本当に修行してないように見えるんだが、何故ああも強い?
いくら博麗の巫女だからって言って、力の使い方を覚える程度の修行は必要なんじゃないか?」
「そのぐらいはさせられるのよ、前の代の巫女に。これは本当」
「それもそうか……でもやっぱりそれだけであそこまで強いのはおかしいと思うんだが」
すきっ腹に酒を入れているものだから、幾分か早めに饒舌になってしまったようだ。
悩みの種を少し吐き出してしまっている。
「本当にわからないの?」
「え?」
「霊力そのものは確かに先天的な要素が大きいし、身体の成長と共に変化しているの。だからそれは置いておいて。
いくら戦闘のセンスがあったからって、何もせずにそれが伸びることはないでしょう?
ましてあの性格よ、普段から戦いのことばかり考えているわけもない」
「そりゃお前みたいな迷惑な妖怪を退治する中で自然に養ってるんだろう」
「もちろんそれもあるけど」
紫はもどかしそうに頭をかいた。
「でも、その辺まったく自覚が無いのね。霊夢は……いつだって自然体なの。
なんで自分がそこまで強くなってるのかもきっとわかっていないし、知ろうともしないでしょうね」
「なんだよ急に話を変えて」
「今日の霊夢の様子が少しいつもと違ったから、貴女の様子も見に来たらやはり貴女の様子もいつもと違った」
「?」
「もうすぐ夜も明けそうだから、今日はもう帰るの」
「はぁ? ちょっと待て!!」
「さようなら」
いきなり話を切り上げて、紫はスキマの中へと消えていった。
何も解決していないじゃないか、私は両手で乱暴に頭をかきむしった。
結局何がしたかったんだあいつは。
「天才だとか凡才だとか、そんな風にくくるのは好きじゃないぜ」
グラスに残った安酒を一気に流し込んで、私は風呂を焚く準備に取り掛かることにした。
結局酔い潰すのは無理だったか、怪物め。
さっき投げ捨てた汚れ物を洗濯籠に放り込んでから、私は湯船に湯を張り始めた。
酔ったまま入浴するのは身体に悪いらしいが、そんなことは今気にすることじゃない。
(私が重要な存在?)
どういう意味だろうか。
湯を張っている最中、ずっと考えていた。
お湯で簡単に汗を流して湯船に浸かると、自然に溜息がもれる。
「はぁ~……」
外が少し明るくなり始めている、小鳥達のさえずりも聞こえ始めている。
ふと『これは朝風呂に分類されるのだろうか』などとつまらないことを考えた。
両手でお湯をすくって顔を洗い、タオルで拭いてからもう一つ溜息をつく。
(霊夢の様子もおかしかったのか)
いかに霊夢が冷静な性格の持ち主であるとはいえ、努めてそうあろうとしているわけでもあるまい。
だから何かしら不思議なことが起これば、取り乱したり態度が変わったりするのは自然な流れだ。
逆にそういった状況になっても、すぐに元の調子に戻る辺りが霊夢の特徴でもあるのだろう。
(原因があるとすれば昨日のことだろうなぁ)
宴会にも参加せずにさっさと帰った私を見て不思議に思ったのだろう。
理由がよくわからずに、そのことを考えていたから少し違った様子に見えた可能性はある。
帰ると言った私をいつまでも見守り続けていたあたりから、少し『らしく』なかった。
とはいえそこまで深刻にも考えてはいないはずだ。ちょっと気になった日常的な変化、と言った程度なはず。
(よく考えたら、意外とわかってないな霊夢のこと)
今日一日……紫とも話して出てきた結論はそれだった。
本当に努力せずに強いのだろうか、本当に他人に関心が無いのだろうか、無重力なんだろうか。
それはわからない。私も紫も、わかったつもりになって話していただけだったのかもしれない。
(掴めないなー)
湯船の中で手を開いたり閉じたりしてみた。お湯は自然に指の間から逃げていく。
しかしお湯は、湯船の中に入っている間は確実に身体に密着し、温もりを与えている。
案外、人付き合いと言うのもこういうものなのかもしれない。理由も無くそう思った。
(さて、次はどんな技であいつに挑んでやろうか)
頭でばかり考えていても仕方が無い、とりあえず霊夢は強くて変な奴だと結論付けよう。
僅かずつでも努力さえ続けていれば、きっといつか脅かせるはずだ。
結局行き着いた答えはいつもと同じ。私自身だって、無理して変わったところで良い結果が生まれるとは限らない。
自分のやり方を信じて続けてみよう。
(しかし、どうやって食って掛かったものかな)
喧嘩するにも理由がいるな。なんて考えつつ、私は湯船から出て身体を洗うことにした。
風呂から上がった私は、ベッドの上に座り、今日……いや、昨日? あったことをまた反芻してみることにした。
もう朝になってしまっている。今日は晴れるだろう、随分と明るい。
これからまた寝る私は、夜明けを認めたくないかのように、カーテンを隙間無くきっちりと閉めた。
霊夢のことについてはもういい、実際に接触しなければ見えない部分が多すぎる。
紫が言ったいくつかの台詞がまだ消化できていない、問題はそこだ。
私は天才でもあり凡才でもあり、そして重要な存在だそうだ。
重要と言われて悪い気はしないが、何を理由にそう言ってるかが問題になってくる。
(天才凡才ももういいか……誰がどう見るかによるしな)
洗いたての顔を撫でながら。ツルツルした顔を撫でると綺麗になった実感があって嬉しい。
今考えたことは本音だ。自分が凡才で霊夢が天才、だなんて事実があったとしてもどうしようもないし。
仮に自分が天才と呼ばれるに相応しいと思えたって、そんなことに興味は無い。
私はベッドに横になり、くしゃくしゃになっていた掛け布団を胸の辺りまで引っ張り上げた。
(何が重要なんだろうなぁ)
宴会のムードメーカー? いやそんなことをわざわざ言いにはこないだろう。
異変に際して霊夢が動かなかった場合は私がそれを解決する……これは考えられなくもないか。
でも紫だってその気になれば異変を解決するぐらいの力はあるはずだ。どうも説得力が無い。
(あーもういいや、重要ったら重要なんだろ。幸せ者だぜ、私は)
いくらなんでも長いこと頭を使いすぎて疲れた。私は考えることを放棄して布団に包まった。
近いうち……今日起きてからでも、霊夢にちょっと喧嘩をふっかけてみよう。
酔ったままじゃ話にならない、少し寝て酒気をさまさないと。
――ガサガサ――
夢の中、また霊夢と二人で獣道を歩いている。前回の夢の続きだとでも言うのか?
意識がはっきりしていて、これが夢だとわかるあたりはまったく前回と同じだ。
(続きじゃないな……やり直しってところか?)
見覚えのある風景が続く。獣道、岩地、この辺ならまだ平気で突き進める。
霊夢の話の内容が前回とは若干食い違っているが、その辺は夢なので細かく気にしても仕方が無い。
便利なもので、コントロールのできる夢と言うのは若干の早送りも可能らしい。
早く進め、と思うたびに場面が次々移り変わる。
そしてあの見晴らしの良い場所まで来た。
やはり不気味な風景だった、地平線まで森林が続いている。入ったもの全てを飲み込んでしまいそうな威圧感を感じる。
もう少し登ればまた前回と同じように躓いて、その先へは進めなくなるのだろう。
「レミリア達と戦ったときはね……」
輝夜のあたりまで聞いて躓いたんだったな、前回は。
「幽々子達と戦ったときはね……」
また痛い思いをするのか、夢の中だから別に良いが、汗だくになるのは困りものだ。
「輝夜達と戦ったときはね……」
だが私はそこで躓くことはなかった。視点が上から見下ろしたものに切り替わったが、全身綺麗なものだ。
まだ行ける。なら行けるところまでついていこう。霊夢は相変わらず話し続けている。
横を歩く霊夢の様子をチラチラ確認しながら、私はさらに山道を進んでいった。
「霊夢、一番厄介だった敵って誰だ?」
なんとなくそんなことを問いかけてみる。もちろん夢の中の霊夢の答えなんて当てにはならない。
要はそれだけ私の方にも余裕があるということだ。ペースを崩さず山を登っているが、まったくダメージは無い。
「紫や永琳あたりかしら……底の見えない不気味さがあったわ。勝てたけど」
「ああ、あいつらは不気味だな、そこのところは同感だ」
霊夢が本当にそう考えてるとは思えない、私の意識の中でそう思っただけなのかもしれない。
『霊夢が苦戦したのはあの辺だろう』と。やはり信憑性に欠ける。
しばらく沈黙が続き、ついには山の頂上が見えてきた。こんなに簡単に登りきれて良いのだろうか。
私の身体には、やはり傷は無い。
「ほら見て魔理沙、良い眺めでしょ?」
(……そうかなあ)
さっき見た不気味な景色とそう大差は無い。遠近感の違いしか無いように私は感じた。
かえって視野が広がった分余計不気味にさえ感じるぐらいだ。こんなものでは納得できない。
「もっと上まで登りたかったな、正直なところ、私はこの景色があまり良いとは思わないぜ」
「え、そう……?」
「あれ、霊夢……?」
なんてことだ。自分の身体ばかり心配していて……霊夢の変化に気が付かなかった。
大分ボロボロになっている、裾が落ちて白い腕が露出してしまっている、そこから血が流れている。
頭の大きなリボンをどこかに落としてきたらしい、髪の毛もボサボサだ。
だるそうに息を切らしながら……霊夢は地面に腰を下ろし、うつろな表情を彼方へと向けていた。
(どういうことだ……)
当然、これが現実での格の違いに直結するものではあるまい。
寝て起きて酒飲んで、風呂入ってまた寝ただけだ。その間に私が霊夢を遥かに超えてるなんてありえない。
――認めない――
「霊夢……」
「……なに?」
「まだ先はあるんだぜ、こんなところでへたばっててどうする」
私は山の頂上に向けて手をかざした。すると一瞬霧がかかり、それが晴れた後、頂上が見えないほど山は高くなった。
この先は私も無事には済まないだろう、だがいつか踏破しなければならない。
「私はここまでよ……あとはあんただけで行って……」
「バカ言え、私を置いてって悔しい思いさせるのがお前の役目だろ。へこたれた姿なんか見たかないぜ」
息も絶え絶えな霊夢の腕を掴み、立ち上がらせる。
「離してよ! なんでこんなことをするの!?」
「なに、本当のお前なら軽々と登っていけるさ」
「なんでそんなことがわかるのよ」
「お前は偽者だからな」
「はぁ?」
霊夢の手を引いて山を登る。
気分が高揚した、きっと前回の霊夢はこんな気持ちだったんだろう。
少しすると霊夢は抵抗しなくなった。前回の私と同じで、動くことすら満足にできなくなったようだ。
更に進むと霊夢を引きずってしまっていることに気が付いた。だから背負ってやった。
「苦しい思いをさせて悪いな、まぁ夢なんだからひとつ許してくれ。さっきの仕返しでもある」
驚くほど身が軽い。霊夢の重さなんて感じない程に。
前回の夢で、霊夢は動けなくなった私を見て今にも泣き出しそうな悲しい顔をした。
(お前が先に居ない人生なんて、面白味が無いぜ)
こういうことだろう。私とは逆に霊夢は追ってきてほしかったのだ。夢の中の偽者ではあったけれど。
だから私も進めなくなるまで進んで、少し前に霊夢を置いてやろう。
「周りを飛び回るハエぐらいにしか思ってないのか、いつまでも追跡してくる不気味な敵と思っているのか……。
それは私にはわからんが、いつまでも追っかけ回してやるぞ、霊夢」
ふっ、と背中が軽くなった。
「上等よ、あんたなんか視界に入らないぐらい高いところまで登ってやるから」
目の前には、不敵に微笑む霊夢がいた。
ボロボロだった巫女装束は新品に換わっている、白い布地が眩しい。
身体の傷も完治している、その表情からは気だるさが消え、活力に満ちている。
「上等、そっくりそのまま返すぜ」
「あんたをライバルだなんて、一生思ってやらない」
「なら、力づくでもそう思わせてやるよ」
「やれるものならやってみなさい」
全力で山を駆け上っていく霊夢を、同じように全力で追いかけた。
霊夢の脚は随分早かった、気を抜いたら見えなくなってしまいそうだった。
愉快だった、ただ追いかけてるだけなのに……霊夢が先に先に登っていくのが面白くて仕方なかった。
この楽しさを忘れてしまっていたのだ、ライバルがいるという充実感を。目標があるという喜びを。
向こうが私をライバル視してるかどうかはこの際重要なことではない。
だがきっと、追いかけ続けていれば嫌でも目に入るはずだ。もしかしたらもう既に……という可能性もある。
「ぐぅっ!!」
二度目の感覚。躓いて転んだ……反射的についた手が砂粒や小石で削られ、しびれるような痛みを感じる。
そして起き上がれない。ここが今の私の限界か。私は力を振り絞って寝返りを打ち、天を仰いだ。
「あ、あー……」
まだぎりぎり声は出るようだ。大きく息を吸い込むと全身が痛む。
そんな私の気も知らずに太陽は燦燦と照りつけている。温かくて心地良いなんてものじゃない、皮膚を焼かれて痛い。
(やっぱり霊夢はもっと先に行ったか……)
涙がこぼれる、けれどそれが悔し涙なのか嬉し涙なのかがよくわからない。
実のところ、先に霊夢がへこたれたときが一番悲しくて泣きそうだった。
それに比べれば悔しいぐらいなんてことない、まだいくらだってやりなおせる。
でも自分の顔が歪むのがわかった、悔しいんだろう、もっと霊夢を追いかけたかった。
――ジャリ――
「あー、霊夢か……ひっく」
「泣いてるの魔理沙?」
「違う、高山病だ……ひっく」
「あら大変」
夢の中とはいえ負けるのは悔しいものだ。起きてる間は考え込んだり酒を飲んだりしていて忘れていたが。
そんな私の泣き顔を霊夢が覗き込む。やめろ見るな、かっこ悪いじゃないか、くそっ。
「もっと追いかけてきなさいよ……面白くないじゃない……」
「なんだお前……フッ……アハハハハ!!」
やっぱり、追いかけてほしかったんだな。また泣きべそをかいてる、夢の中の霊夢は可愛いなぁ。
「らしくないぜ、やっぱりお前は偽者だ」
不思議と手を動かす力が湧いた、私は霊夢の頬をつねってやった。
「ん~……っ!!」
身体を起こして背筋を伸ばす。汗ばんではいない、実に良い目覚めだ。
時計に目をやると午前九時。いつもと比べると寝坊気味だが、昼まで寝なかったのが幸いだ。
良い気分だった、昨日一日中かかっていたもやが全部晴れた気がする。
頭で理解したというものではなく、感触として確かにそういう手応えがあった。
朝食を摂るのも面倒だ、すぐ霊夢に会いたい。飯もたかってやろう、白米と梅干ぐらいはあるはずだ。
「もう、夢の中の偽者霊夢はたくさんだぜ」
顔を洗う為に洗面所へ向かう。急いでいてもその辺の身だしなみは忘れない。
(結局のところ、行動を起こさなきゃ何も変わりはしないさ)
歯もちゃんと磨く……かっこいい台詞、決め台詞になるか捨て台詞になるかはわからないが、
それを謳っているときに酒の臭いがプンと漂っては締まらない、これも重要なことだ。
(私は私、あいつはあいつだ。努力するしか道が無いなら、それが私の道だ)
着替えもしっかりと、リボンは可愛らしく結ばなければならない。ファッションでも負けたくないから。
お気に入りの帽子についているアクセント……リボンは真正面に向けた方が几帳面に見えるが、
少し横にずらしてみるのもセンスが良い、と思う。まぁ今日の気分は一直線、真っ直ぐにしよう。
(馬鹿の考え休むに似たりか……だが休んだおかげで体力は十分、私はその言葉を前向きに捉えるぜ)
準備に急いでバタバタと家の中を走り回った。積み上がっているコレクションの山のいくつかが音を立てて崩れた。
けど直す気も起きない。崩れたら崩れたままで良い、適当に積み上げているのと大差無い。
「待ってろ霊夢ーっ! 今行くぞー!」
お気に入りの帽子が吹き飛ばされないように片手で押さえながら……
私は箒にまたがって、最高速度で博麗神社へと飛んだ。
私が博麗神社に到着したとき、霊夢はのんびりと庭掃除をしていた。
ぼーっと地面を見つめて、散った桜の花びらを箒でかき集めている。
私はこれ見よがしに霊夢の目の前に着陸して、手を上げて挨拶した。
「よー霊夢、上の空って顔だな」
「あら魔理沙……体調はもう良いの?」
「霊夢、飯」
「はぁ?」
「飯食えば完全だ、飯」
「なんなのよもう……」
縁側に箒を立てかけ、どっかりと座り込んだ私を見て霊夢は眉をひそめたが、意外と素直に従った。
集めた桜の花びらを草むらに掻き出すと、その箒を私の箒の横に立てかけて神社の奥へと歩いていく。
「霊夢ー! 良い感じに男尊女卑だぞー! お前は立派な昭和のお嫁さんだ!」
「どっちも女でしょうが!!」
「そのツッコミにはもう一ひねり欲しいところだな!」
「ど、どっちも……」
私のペースだ、悪くない。
「今は女の方が強い時代なのよ!!」
「ひねってきたな、だが60点、単位修得はぎりぎりだぜ」
それにしても随分と食いついてくる、いつもなら「馬鹿じゃないの?」と一言で済まされてしまいそうなのに。
ああ、楽しいなこのやりとり。これから始まる戦いの前哨戦だ。霊夢は感じているのだろうか。
縁側に座ると、短くて地面に届かない脚をぶらぶらさせ、桜を見ながら霊夢を待った。
昨日の激しい風はもう止んで、優しい風が静かに桜の花びらを揺すっている。
「あんたに食べさせるご飯なんて無いって言いたいけど、病み上がりだから特別よ。はい」
「おーすまんな、苦しゅうない」
「……ほんとに病み上がりかしら?」
「いただきまーす」
朝食の残りだろう、白米、味噌汁、漬物、梅干……白米と梅干で十分と思っていた私には贅沢なメニュー。
白米は……よく炊けてる、輝いてるぜ。
味噌汁は……うん、霊夢の味だ、味薄いな。
漬物は……味薄い、霊夢は味薄いの好きだもんな。
梅干は……酸っぱい、通好みだ。
「随分食欲あるじゃないの」
「お前が私の為に持ってきたと思うと気分が良いぜ」
「嫌な性格ねぇ……」
「私が和食派だって知ってて和食を持ってきてくれたんだな?」
「私も和食派なだけよ」
「素直じゃない奴」
「素直よ」
意味の無い話をしながら、私は霊夢の持ってきた朝食を次々に口の中へ運んだ。
よく考えたら、昨日博麗神社に来る前に家で食事を摂ったきり何も食べていなかった。
食欲も無かったし、作る気力も無かったし。道理で腹が減っているわけだ。
食べ物が胃に流れていく度、力が湧いてくるような感覚があった。
私はそれらをあっという間に食べ尽くしてしまっていた。
「あーうまかった、ごっそさん」
「はいはい、お粗末さまでした」
「霊夢、お茶」
「あんたね、そろそろ殴るわよ?」
「お茶!!」
「……」
「なんだその顔はー、食後のお茶のうまさをお前は知っているんだろう? 何故私の気持ちがわからない?」
「……わかったわ、私もお茶を飲むから、そのついでにいれてあげる」
縁側から脚を垂らしたまま、私は仰向けに寝転がった。スカートからはみ出た脚に降り注ぐ太陽光が心地良い。
台所はそう近くないのに、霊夢がかちゃかちゃと食器をいじる音が聞こえる、そのぐらい静かだった。
「ほんと偉そうねあんた。ほらお茶よ、これで文句無いでしょ」
湯飲みを受け取って、一口啜ってから。
「なー霊夢、風呂、飯、の次ってなんだ?」
「風呂? あんたお風呂まで入るつもり?」
「いや、風呂は家で済ませてるから良い」
「それじゃ何よ?」
「風呂、飯、の次はもちろんお前だ、決着をつけるぜ、今日こそ」
「……病み上がりとは思えないわね」
「仮病だし」
「やっぱり」
できるだけ落ち着いて茶を啜る、もう気持ちが高ぶって仕方がない。
食後すぐの激しい戦いは脇腹が痛くなるかもしれないが、今日の私はそれさえも厭わない。
ただ茶の熱さのみが私の逸る気持ちに抵抗した。熱くてすぐには飲みきれない、うまいけど早く飲み終えて戦いたい。
少し前に突っかかって負けたときから特に修行は積んでいないが、気持ちの面で成長した……気がする。
ああもういい、とにかく戦いたいんだ、夢だけじゃ満足できない。
「よーっし飲んだ! さー早速行くぜ霊夢!」
「あんたねぇ、そういうけど理由も無いじゃないの、それに私はまだ飲み終わって……」
「てーい!」
「あっつぅ!? 何すんのよ!!」
霊夢の湯飲みの底を平手で突き上げる。
湯飲みと霊夢の歯がぶつかる音と同時に、まだ湯気の立つお茶が霊夢の顔にかかった。
霊夢の目がつり上がり、その手が袴に差し込んでいたお払い棒に伸びた。
「あんたね!! いきなり来て無茶苦茶やりすぎよ!! いくらなんでも限界だわ!!」
「ははは、喧嘩の理由ができたな霊夢!! 計算通りだぜ!!」
――さて、博麗神社を壊さない程度にしないと――
箒を手に取ると、私も臨戦態勢をとった。
「ぜぇ、ぜぇ……懲りた!? まったく……いつにも増してしつこかったわね今回は……ふぅふぅ……」
「きゅう……」
私は仰向けに倒れていた……ああ、空が青いなぁ、この青空の美しさは敗者だけのものだぜ。
いつも通り……いや、いつもよりは粘った。霊夢も肩で息をしている、上々だろう。
そんな情け無い私の鼻の頭に、風に流された桜の花びらが乗った。くすぐったいが取り除く気力も起きない。
「霊夢ー……」
「何よ?」
「随分疲れてるようじゃないか……」
「あんたとの戦いが一番疲れるのよ!!」
胸が、トクンと鳴った。
「しつこいし、何度も挑んでくるし、その度に強くなってるし……ああもう、なんでそんなに私を目の仇にするのかしら」
目に涙が滲む。
「あー、でもあれだわ、あんたに勝った後が一番スカッとするのよ、なんでかわからないけど」
目を閉じる。涙を搾り出す。
「私だって……お前に負けるのが一番悔しいよ……」
泣き顔を見られないように、うつ伏せになった。
鼻の頭に乗っていた桜の花びらが、ひらひらと地面に落ちる。
「なんか言った?」
「……何も……」
涙声になってる、だから発言は最小限に留めた。
肩を震わせないように、嗚咽を漏らさないように、必死に耐えた。
認められていることを知った喜びと、やっぱり勝てない悔しさが胸を押し潰す。
ああ、現実の霊夢は良いなぁ、私を満足させてくれるなぁ。
「魔理沙……?」
「……ばーか、ばーか、ばか霊夢」
「な、なによ……頭来るわね」
最後まで抵抗してやるぜ。ばーか、ばーか、ばか霊夢。
とりあえずこっちに来るな、お前に泣き顔を見られるのが一番の屈辱なんだ。
――だから頼む……あっちに行ってくれよ……これ以上、無様な負け犬に構わないでくれよ――
願いが通じたのかどうか、霊夢が遠ざかっていくのがわかった。
少し頭を持ち上げて真っ赤になった目で辺りを見回すと、霊夢が居ない。神社の中に行ったのだろうか。
「うぅっ……うぁぁぁっ!! 悔しい!! くぅっ!! うぅぅうぅぅっ!!」
うつ伏せになったまま、脚で大地を蹴り続けた。
失っていたのはこういう気持ちだったのかもしれない、負けたことを素直に悔しがる気持ち。
どこか達観して……いや、諦めていたのかもしれない。霊夢を天才、自分を凡才と決め付けて。
昨日から今日まで、何度も反芻してきたが……実際に負けることでしか得られない気持ち。
頭だけで理解できるものじゃなかったんだ、霊夢の弾幕の痛み。霊夢の涼しい態度、頭に来る台詞。
(追いかける……どこまでも……)
強く心に誓う。
――そうだ、この気持ちを味わうために今日ここに来たんじゃないか――
明日からまた修行をしよう。
人知れず一人で、霊夢の背中を追いかけて。
「魔理沙」
「っ!?」
身体がビクッと跳ねる。突然の呼びかけにびっくりした、集中しすぎていて霊夢の接近に気が付かなかった。
良かった、バタバタ暴れている最中じゃなくて……見られずに済んだ。
「なんだよ……?」
頬に、熱いものが触れた。
「お茶にしましょ」
私の頬に湯のみを押し付けた霊夢の顔は、驚くほど穏やかだった。
「おや、どうしたんですか紫様? こんな早起きなんて」
「おはよう藍。霊夢と魔理沙が戦っている頃かしら、と思ってスキマから覗いていたの」
「ほう、どうですか?」
「霊夢が勝ったわ」
「そうですか、やはり」
「ま、どっちが勝っても良かったのだけどね、別に」
「ん? ならば見る必要は無いのでは?」
「そうなのだけどね……彼女達の戦いそのものに意味があるとは思わない?」
「どういうことです?」
「鈍いわねぇ……ああやって魔理沙がしつこく絡んでいくことは、それすなわち霊夢の修行になるのよ」
「一理ありますね」
「霊夢の潜在能力は大きいけれど、あの子はそれを自分から伸ばそうとしない……なのに段々強くなる」
「それは魔理沙がいつまでも霊夢に挑戦し続けるから、と、そういうわけですか」
「そして魔理沙は、そんな霊夢を超える為に更に修行を積む、その繰り返しなの」
「どちらもとんでもない怪物ですね。自然に強くなる霊夢に、いくら負けても折れない魔理沙」
「やっぱり藍もそう思うわよねぇ~」
「こうやっているうちは博麗大結界も安泰と言うことですか」
「あぁ、でもいたずらで穴を開けられないぐらい結界が強力になってしまっては面白くないわ」
「いくらなんでもそれは心配しすぎでは……」
「藍、貴女も最近努力が足りないのではないかしら? 昔はしつこく私に食って掛かってきたわよね?」
「何を仰りたいのか、理解できますが理解したくないですね」
「つまらないの」
「いたずらする力を鍛える為に私がいるわけではないのですよ」
「そうよね、所詮藍は掃除してご飯作る程度の能力なの」
「修行してきます」
「いってらっしゃい、私は二度寝するわ……おやすみ」
酷い話だww
そんなことを考えさせられました。
失礼な話でギャグのほうが面白いなんて思ってましたが、こんなのを見せられたら改めなきゃ馬鹿ですね、はい、言葉おかしいです。
ともかく、楽しませていただきました。
それではいつもの通りに。
藍がかわいいよっ!!!11!
と思ったらパンドラ! やられた!!
なんつーか青春ですね~。彼女たちにはあんまり似合わない言葉ですがw
ちょw番外編ww
あれ?ちょっ、なにやってんのww
GJ!
…ってやっぱりギャグに落とすんデスカ…
↓
「ところでこれいつ箒へし折れるの?」
↓
「ギャグがうまい人はシリアスもうまいなぁ」
↓
「これはひどいwww」
最後がさわやかに決まっていて、VENIさんの作品中ではやられ役一択だった魔理沙が非常に格好よく映りました。
また、霊夢の天才性と人間性、その両方がとてもよく表されていたと思います。
で、番外はそのさわやかさを完膚なきまでにぶち壊してくれて、非常に笑わせてくれたのですが、
なんというか数分前のさわやかさをもう二度と味わえなくなってしまいまして、
なんてことしてくれたんだという気持ちで一杯です(笑)。
・・・番外編を見るまではw
と思ったらいきなり床がぱかっと奈落の底へ一直線ですかああぁぁぁ(エコー
そして番外編はひどいですね。
見事なぶっ壊し方です。
で、今度は後日譚で霊夢の株が下がってしまいましたが。
あんた最悪だ良い意味でwww
ごちそうさまでした
番外編は、まぁなんかホッっとしました、貴方らしくてw
とっても良い内容で、読みごたえがありました。
後日談は・・・・・www
でも意外に良い具合ですねぇ……これは新たな可能性かもしれません。
えーとちょっと失礼な話で申し訳ないのですが、レイマリな部分の流れは「確かに良い話で素晴らしいが、だけどわりとありがちな流れでもあるかなぁ……」という感想を少し抱いたりもしてしまってたんです。
ですが番外編……。いやーこれはひどい。+10点です。
でも、自分的にはうっかりリバられた霊夢の泣き顔が見てみt(夢想封印
本編と番外で合わせ技一本と言う感じでやられました、良かったです(礼
どう見ても前フリです、本当にありがとうございました。
ちくしょう、数分前の俺の感動を返せー!
番外編見るんじゃなかったwww
http://www.geocities.jp/hurkai732/v-14-ex
こちらからどうぞ。
自分のホームページに招くべき部分である「HOME」を悪用しています。
まぁ、読まない方が良いと思いますよ。ン~フフ~。
パンドラの箱を開けてどのような被害を被ろうとも、全ては自己責任です。
ボク悪くないもん。
お礼を言おうと思ったけどやっぱやめたww
感動返せ(笑
後日談の歴史を無かったことにして~~~っ!!
2・おや、後日談があるみたいだな。
3・karasuは息絶えました。
何じゃこりゃぁーーーー
だが面白い。
しかしながら魔理沙と紫の対話や、霊夢と魔理沙の関係性などどれをとっても御見事でした。
しかしそれはVENI氏が後日談のために仕組んだ巧妙な罠だった。
謀った喃、謀ってくれた喃!
な、なんだって~!?(AA略)
やっぱりそういう落ちだったなのね。
さすがVENIさん!
なんか色々なところが天国から地獄。そこがまたいいなあ、と
ご馳走様でしたー
ん?なにこれパンドラの箱?(ガチャ
………
……
ン~フフ~…台無しです~…
でもちょっと「ああVENIさんだ」と安心しましたがw
やられましたなww
とにかくありがとうございます、こんなにたくさんの人に読んでもらえているのは
とてもありがたいことだと思っています。この作品に限ったことではないのですが。
でもパンドラはやはり自己責任なので謝りません(最悪
ボク悪くないもん。
霊夢は天才でしたね。そっち方面の。
と思いきや番外編……。
いい話なのに前フリですかそうですかwwww
魔理沙が捨てられた子犬みたいでたまらん!
努力して葛藤する魔理沙という題材が好きなので。
いや、笑わせてもらいましたが。
やっぱ霊夢と魔理沙はこうでなくっちゃな。って感じです。
夢の中の話とか良杉
二人の関係が妙に納得のいく作品でした。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
よし、番外編はなかった方向で(ぉ
番外が腐ってやがるww
それはさておきいいお話でした。悔しくて泣いた魔理沙に欲j(ry
番外で全部ぶち壊しだ!!! VENIさん、あんた最高だぜ!!
仲良く喧嘩してね。
霊夢や魔理沙のこういった感情描写は、私の中では至高。
勿論、番外編も楽しませていただきましたよ~。
それはもう、全力で。
ちょwwww番外編なにこれwwwwwwww
でもそんな霊夢が大好きだー!!
ありとあらゆる意味で霊夢に勝てない魔理沙に合掌。
番外編wwww
番外編がwwwカオスwwww
ああ、これ、俺の想像する二人の関係に近いわ。すっ、と胸の中に収まってくれる。
番外編? なにそれ?
俺には無理だわ