「逆に考えるのよ、あの大ガマもろとも凍らせればいいんだわ!」
誰一人として応援なんかしちゃいないのに、お天道様は今日もお仕事に精を出しています。そんな煮えたぎる様な暑さのもと、セミ達がミンミンジージー喚く中でも一際大きなチルノさんの声が湖畔に響き渡りました。
何がどう逆なのかはよく分かりませんが、彼女の言動にいちいち突っ込んでいたら身が持たないのでやめておきます。
さて、私こと射命丸文は本日、チルノさんに対して極秘取材を敢行中。最近、彼女の事は記事にしていなかったので、そろそろ何かしらやらかし――もとい、何か記事にしてみてもいいかなと思った次第。そのため、こうして彼女がいる湖のそばの岩場で身を潜めているのです。
……決して、チルノさんの近くにいると冷気で気持ちいいからとか、そんな理由でこうして取材しようとしてる訳じゃありませんよ、ええ。実際、少しばかり涼しいのは事実ですが。
「やめようよチルノちゃ~ん」
「何言ってるのよ。今こそふくしゅうの時。時は満ちたのよ!」
一緒にいる大妖精さんの声は可哀想なくらい弱気だけれども、チルノさんは無駄に拳を高々と掲げちゃったりなんかして、相も変わらずイケイケムードなご様子。イケイケっていつの言葉だろう。まあいいか。
時は満ちただなんて、彼女にしてはらしくない言葉を使う。何だか、どこかで聞いた様なありきたりなセリフっぽい。きっと誰かから聞いたのをそのままパクっているのでしょう。何とやらの一つ覚え、なんて言葉が思わず浮かんでしまいます。
と言うか、ふくしゅうとか言うのなら、復讐じゃなくって何ゆえに大ガマに喰われたのかをしっかりと“復習”して貰いたいですね。
……ああいけない。突っ込んでいたらそれこそキリがない。
それにしてもこの夏の暑い最中、彼女は氷の妖精だというのに、とろけてしまう事も無くいつも通り元気と冷気を振り撒いています。その持て余しているエネルギーで、幻想郷のこの暑さを和らげてくれたらいいのにと思うんですけどね。
私の情報網によればこの夏も、カンカン照りの太陽がもたらす暑さのせいで、人妖を問わずかなりの数の日射病患者が出ている模様。
私の新聞でも、前日の天気の欄は晴ればかりで、毎日の様に真夏日を記録。今日で何日連続の真夏日でしょうか。天気予報の欄も、ここの所はお日様マークしか使った覚えがありません。おかげさまで予報は当たり続き。大した太陽さんです。
「行くわよ大ちゃん!」
「あっ、待ってよチルノちゃ~ん!」
意気揚々と飛び出して行くチルノさん。それをあわてて大妖精さんが追い掛けて行きます。大妖精さんも大変だなぁ。いつもいつもこんな感じで振り回されているんだろうなぁ。
っと、私も彼女たちを追い掛けないといけませんね。
私は立ち上がり、二人からやや距離を取って、追跡を開始する。
まあ目的地は例の沼でしょうから、天狗の足で以って先回りしてもいいのですが、それでは密着取材っぽくないですからね。理由はそれだけです。何ら他意はありませんよ。ええ。
……あぁ~、チルノさんが羽ばたくと冷気が後ろに流れて来て涼しいわ~。
さて、やる気まんまんで飛び出して行ったチルノさん。辿り着いた先はいつもの沼。
今度こそは大ガマに目に物見せてやると、鼻息荒くして乗り込んだはいいものの、
「もお! 放しなさいよ! このっ、このっ!」
やっぱり喰われてしまいました。大ガマの頬がもごもご言ってます。
今回の大ガマさんは随分と対応が早く、チルノさんが1匹目の蛙を凍らせた時点でやって来ました。チルノさんは冷気を使って大ガマを凍らせようとしましたが、大ガマとて妖怪のはしくれ。チルノさんの起こした冷気を身に受けながらもそれを跳ね除け、その舌で彼女を捕らえる事に成功。そのままペロリと飲み込んでしまったのでした。
「うきーっ! 放せー!」
「もごっ、もごご」
「ああ……チルノちゃん、私どうすれば……」
で、チルノさんは今、何とか顔だけは大ガマの口から這い出し、必死の抵抗を続けている所です。その様子はちょうど、チルノさんが大ガマの着ぐるみを着ているみたいに見えますね。私は金輪際着たくありませんが。
ちなみに大妖精さんはそこからちょっと距離を取って、何も出来ずにハラハラとその惨状を見守っているだけです。まあ下手にチルノさんに加勢しようものなら、一緒に悪者扱いされてしまうので、それは正しい判断でしょう。
「はーなーせー! 放せったらっ!」
「もごもごー」
「ひゃっ! ちょっとドコ舐めてんのよ!」
一体ドコを舐められたんでしょうね。わくわく。
「このーっ、食らえっ!」
「もごっ!」
大ガマの身体がぴくりと大きく痙攣。前の時にもそうしたらしいですが、どうやらチルノさんが大ガマの内部で冷気を発生させた様ですね。
その直後、チルノさんの脱出を押さえていた大ガマの口が緩み、彼女はやっとの事でそこから這い出る事に成功した様でした。立ち上がるのにもヨロヨロという状態です。
「チルノちゃん!」
そんな満身創痍のチルノさんに向けて、大妖精さんが慈悲深い天使の様な手を真っ直ぐ差し伸べます。ああ、友情っていいですね。ここ幻想郷では極めて珍しい、心洗われる場面を目の当たりにしていますよ私。
そしてチルノさんも、その手にすがろうと必死で自身の腕を伸ばします。どこか映画のワンシーンを思わせる光景です。何だか二人が瑞々しく輝いて見えますよ。
ところが。
よく見るとチルノさんの全身は、大ガマの唾液とか粘液とかですっかりヌルヌルのベトベトになっていました。もちろんその手も例外ではありません。ベットベトのギットギトです。思わず顔をしかめて「うわっ」とか言いたくなる惨状です。
その事に気が付いたのか、大妖精さんが一瞬固まり、その直後、さっと手を引いてしまいました。チルノさんの手がスカッと空を切ります。そして大妖精さんはその代わりに、
「ち、チルノちゃん、早く逃げよ!」
とか言って、先に飛んで行ってしまいました。何だか見てはいけない瞬間を目撃してしまった気がします。いやまあ、あんなにベトベトになったものを触りたくないと思うのは当たり前でしょうけどね。
と言うか、さっきの光景が瑞々しく見えたのは大ガマの唾液でてらてら光っていたためだった――としたら、激しく雰囲気台無しです。幻想郷に映画のワンシーンの様な綺麗な情景を求めるのが酷ってモンですか。そうですね。
で、当のチルノさんは残った力を振り絞る様にして、どうにか飛び立っていきます。フラフラですが、かろうじて大妖精さんに付いて行ってました。
ちなみに大ガマの方はと言えば、逃げてゆくチルノさんを追撃するでもなく、どこか得意げな表情で見送っていました。取り逃がしてしまったものの、彼女を懲らしめる事には成功したので、彼(?)としては満足なのでしょう。
それじゃあ、私はチルノさん達の方を追い掛けましょうかね。
……あぁー、チルノさんが羽ばたくとベトベトの粘液が後ろに飛んで来そうだから、今度は離れて飛ぼ。
「あーもう、悔しいったらありゃしないわ!」
「チルノちゃん……」
本当に悔しそうにして、チルノさんがどしどしと地団駄を踏んでいます。ちっちゃい子が駄々こねている様にしか見えません。チルノさんはまんま子供ですが。
ま、お姉さん的な立ち位置にいる大妖精さんからすれば、チルノさんのそんな所が可愛いのかも知れませんけどね。
あれからいつもの湖畔に逃げ帰ったチルノさんは、唾液でべちょべちょになったその身を清めるべく、湖で長時間の水浴びをし、着替えも済ませました。
で、命からがら逃げ帰って来てからまだ1時間程度しか経っていないのに、あんなに元気に悔しがっている訳です。さっきの満身創痍な状態はどこへ行ってしまったのでしょう。妖精って体力回復が早いものなんでしょうかね。よく分かりません。
「もぉ、どうしたらアイツをやっつけられるのよ~!」
やっつけるだなんて物騒ですね。元々はチルノさんが悪いのに逆恨みもいいところです。
「こうなったら、誰か強いやつ連れてってやっつけてもらおうかしら」
それは何だか方向性を見失ってる気がします。と言うか、そんな事に協力する人なんていませんて。
そんな風に一人勝手に興奮するチルノさんとは対照的に、大妖精さんは元気がありませんでした。
「……ごめんねチルノちゃん、私じゃ、全然役に立たないよね」
「あ……、べ、別に大ちゃんは悪くなんかないよ。全然」
「でも私、さっきはなんにも出来なかったし……」
しゅんとしてうつむく大妖精さん。何だか彼女、泣いてしまいそうですね。もしかしたら、さっき手を差し伸べられなかった事も、気にしているのかも知れません。
そう言えば、大妖精さんは立場的にはチルノさんのお姉さんみたいな感じですが、妖精として持っている力は、チルノさんの方が上なのでしょうか。
『悪戯好きの妖精たちの 知られざる友情』なんて見出しがふと思い浮かぶ。
……駄目ですね。そんなのでは記事にはなりそうにありません。
どのみち、これ以上チルノさんに隠れて密着取材をしていても、有用なネタを提供してくれる事は無さそうです。
私は溜息をひとつ。取材モードは終了して、彼女たちの前に出ていく事にしました。
「ダメじゃないですかチルノさん、お友達を泣かしちゃ」
「あっ、いつかのヤなやつ!」
私の姿を認めるやいなや、思いっきり顔をしかめてヤなやつ呼ばわりとは。もうちょっと可愛げのある態度を取って欲しいです。せっかく顔は可愛らしいのに。
「ヤツだなんて心外ですね。友達を責めちゃ可哀想じゃないですか」
「あ、あたいは何も悪い事してないわよっ」
「あ……、私は大丈夫ですから……」
大妖精さんが顔を上げて言う。でもやっぱり、チルノさんのフォローをしている様にしか見えません。
「とにかく、チルノさんの我がままで大妖精さんを巻き込むのは良くないですよ」
「何よそれ。ひょっとして、あたいが何をしてたか見てたって言うの?」
「そりゃもう。チルノさんが大ガマに喰われて全身を弄ばれてる所から、真っ裸で湖に入って、あられもない姿を晒して身体を洗ってる所までバッチリと」
私はそう言って含む様にニヤリと笑い、意味ありげに手元のカメラに視線を落とす。
そんなチルノさんの姿を目にしていたのは事実だけれども、実のところ、写真は一枚も撮ってはいなかったりする。盗撮まがいの事をしても仕方が無いですからね。
「な、何よ、またあたいの事を記事でバカにするつもりなの?」
口調は強気を保っているけれども、動揺が隠せてないです。声が微妙に震えているし、身体はそわそわと動いて落ち着きがありません。
分かりやすい子だ、と思うとつい笑みがこぼれそうになるけれど、そこは耐えなければなりません。
「記事にするつもりはありません。ただし、大妖精さんにはちゃんと謝りなさい」
別にチルノさんを脅してこうしようと思った訳では無いのですが、流れ的にはこう言った方が、チルノさんの為になるでしょう。これもひとつの、悪戯をした事に対するしっぺ返しです。
「大ちゃん、……ごめん」
「いいの。……でも、誰かを相手にして変な事するのはやめようよ。今回は大丈夫だったから良かったけど、次は無事に済むか分からないんだし」
「うん……」
優しいですね大妖精さんは。あれだけ振り回されていても、こうしてチルノさんのことを心配してくれる。理想的なお友達じゃあないですか、チルノさん。
まあチルノさんも、ちゃんと謝る事が出来るだけの素直さを持ち合わせていたので、私としては一安心。別に私は彼女の保護者とかではないのですが、そんな事を思ってしまいました。
「はぁ、友情ってホントいいですねぇ~」
「な、何よ友情って。あんたが誘導したんじゃないのよぅ」
うふふ、微妙に照れてますね。まあその辺は突っつかない事にしておきます。
「まあまあ、いいじゃないですか。きれいにまとまったのですから」
「そうよ、チルノちゃん」
「むぅ~」
やり込められた立場のチルノさんとしては不満が残っている様ですが、大妖精さんにも言われてしまえば、受け入れざるを得ないでしょう。
「そうそう、チルノさんにひとつ伺っておきたいのですが」
「なにさ?」
私は先ほどの大ガマとのやり取りを思い出していた。つい顔がニヤつくのを抑えられずに。
「先ほど、大ガマの口の中ではどのへんを舐められたのですか?」
「うるさ~い!」
怒られてしまいました。どうやらそれはヲトメの秘密の様です。
「ところでチルノさん、貴方は氷の妖精な訳ですが、この夏の暑さで溶けちゃったりはしないのですか?」
取材そのものはもうしないつもりでしたが、そのままさっさと立ち去ってしまうのも何だか物足りない気がしたので、私は少しばかり二人とお喋りする事にしました。
……決して、チルノさんのそばにいると冷気が気持ちいいからとか、そんな理由でこうして居残っている訳じゃありませんよ、ええ。実際、少しばかり涼しいのは事実ですが。
「? 何言ってんの? あたい、今こうしてピンピンしてるじゃん」
「いえまぁ、私のイメージとして、夏の貴方は暑さででろ~んととろけてノびてそうだなぁ、って今まで思っていたもので」
「そんな事ないわよ。あたい、最強だし」
エッヘン、と胸を張る。さっき水浴び中に見た時と同じでぺったんこ。
……おっと、そんな事はどうでもいいでしょう。
「最強だったら大ガマにあっさり負けないで下さいよ」
「きょ、今日はちょっと冷気の調子が悪かったのよ。次はけちょんけちょんにしてやるんだから!」
今日は調子が悪いって……、まさに子供じみた言い訳。まんま子供な訳ですが。にしても、けちょんけちょんなんて言葉、久し振りに聞きました。
「チルノちゃん、もうやめようってさっき言ったばっかりじゃないの。忘れないでよ」
「でもさぁ、負けてばっかじゃ悔しいじゃん」
「ダメよ」
「う~」
大妖精さんにたしなめられて、やめる方向に意識は動いている様ですが、煮え切らないものが残っている様子。と言うかチルノさんは弱いものいじめ以外で誰かに勝った事あるんでしょうか。
過去に霊夢さんや魔理沙さんに立ち向かって行った事があるらしいですが、軽くあしらわれたみたいですし。ま、あんな方々に立ち向かって行くその勇敢さは大したものだと思いますけれどね。
実際は何も考えてないだけかなぁ……とも思いましたが、その考えはチルノさんの名誉のために隠匿しておきます。
「そんなに何かに勝ちたいんですかねぇ」
「あったり前じゃない」
「う~ん、だったらあの太陽あたりと勝負してみてはいかがですか?」
私はそう言って、今も天高くから嫌がらせの様な熱量を投げ掛けて来ている太陽を指差す。
今でこそチルノさんのそばにいるから涼しいけれど、彼女から離れれば、また地獄の様な暑さに晒されなければならなくなる。それはちょっとイヤなので、チルノさんが何とかしてくれないかなー、とか思って何となく言ってみた。
まあ、実際に勝たれたらそれはそれで困りますが、それは無いので構わないでしょう。
「太陽? 何であんなのと競わなくちゃいけないのよ」
「ここ連日ずっと晴れでしてね、あんな風に偉そうにして熱を届けて来てる訳です。冷気を操る者として対抗意識が燃えませんか?」
「無理言わないでよ」
「あれあれぇ、チルノさんって、確か最強なんでしたよねぇ。負けを認めるんですか?」
私は意地悪な笑みを浮かべ、いやらしい物言いでチルノさんに迫る。
「む、無理だってば」
「最強の名が廃りますよ~」
「だからー」
「最強でしょ~?」
「う~」
「さようなら、最強の名」
「…………」
しれっと、つれない言い方をしてみると、チルノさんは黙りこくってしまいます。ウ~ン、と思いつめた表情。どうやら、「さようなら」という言葉が効いている様ですね。って言うか冗談なのにそんなに思い悩まないで下さいよ、って思っちゃいます。
と、彼女は突然バッと立ち上がり、決意を秘めた表情で太陽に向かってキッとメンチを切ります。更には指をビシッとその方に向けて、
「にっくき太陽! いざ、じんじょーに勝負!」
メンチに続いて啖呵切っちゃいました。
私としては、完全に入っちゃった貴方のスイッチを切りたいんですがまあこれはこれでいいやと諦めました。スイッチ入れたの私ですけどね。て言うか尋常って言葉を分かって使ってるんでしょうか。何か平仮名ですし。
そして仕舞いには、
「あたいが最強なのよー!」
とか言って、本当に太陽に立ち向かって行ってしまいました。
私と大妖精さんは、太陽に向かってすっ飛んでいったチルノさんを呆然と見送……りたいところでしたが、直射日光が眩しくてそれは叶いませんでした。
「あ~、本当に行っちゃいましたねぇ」
「もぅ、あんまりチルノちゃんをからかわないで下さいよ」
「はは、すみません。彼女はからかうと面白いのでつい。
……にしても、本当に行ってしまうとは思いませんでしたが」
「私も、まさかこんなに分かりやすく乗せられちゃうなんて思ってませんでした」
「単純ですからねぇ、彼女。貴方も何かと大変ですよね」
「私は、慣れてますから。あんなチルノちゃんが好きですし」
いいですねぇチルノさん。愛されてて。
まあ、馬鹿というか単純というか、そういう所が彼女の魅力の一つなのでしょう。
そうやって大妖精さんとまったりトークを続けていると、
「いやぁぁぁー助けてーー! 飛べないぃーー!」
必死さ2割、間抜けさ8割の、まあ要するに間抜けな声が空から降って来ました。
やれやれと思いながら声のした方を見やると、羽と、それ以上に手足をバタつかせながら、自由落下と滑空の中間ほどの速度で空から落ちて来るチルノさんの姿が見て取れました。
どうやら彼女特製の氷の羽が太陽の熱で溶けかかっていて、上手く飛べない様です。何だかどっかの神話みたいですね。調子に乗って大空飛んでたら太陽に近付き過ぎて羽根が溶けちゃうなんて。
……あ、でも確かその神話じゃ、そのまま墜落死しちゃうんでしたっけ。
私がけしかけた事ですし、助けてあげましょうと思って立ち上がった、
――その時、
「チルノちゃんっ!」
横から叫び声。
その時までは視界の端に、確かに存在していた大妖精さんの姿。しかしその声を耳にした直後、彼女の姿が一瞬陽炎の様にゆらいだかと思ったら、その場から忽然と姿を消してしまいました。
戸惑う私が周囲を見回すと、次の瞬間には彼女は空中でチルノさんを抱きかかえていました。
――テレポーテーション?
そうとしか説明出来ない、移動速度でした。幻想郷最速を標榜する私でも、瞬間移動には勝てません。ここは彼女に任せることにします。
大妖精さんに抱えられて、チルノさんは太陽との戦いから無事帰還しました。1ラウンドKO負け、ってところでしょうか。
「もう、死ぬかと思ったじゃない! このバカ天狗!」
にしては随分元気な様ですが。
「ははは、すみません、まさか貴方があんな安い挑発に乗ってしまうとは思ってなかったので」
「このっ、騙したなー!」
騙しただなんて人聞きが悪い。ちょっと口車に乗せただけです、ええ。あくまで。
さて、お喋りはこのくらいにしておきましょうか。ネタを足と翼で稼ぐ新聞記者がのんびり休んでいるのはあまりよろしくないですからね。
「ま、本当に太陽に勝ったら、貴方の事を記事にして差し上げますよ」
「キー! ぜっっったいに勝ってやるんだから!」
「期待してます。それでは」
「バカにしやがって~!」
直前に安い挑発云々言ったのに、またそれに乗っちゃってます。面白いなぁ。そのほっぺたぷにぷにしたいです。
普通の人なら怒れば怒るほど暑苦しくなるものですが、彼女の場合は逆に、怒りゲージが上がるほど、ますます冷気が放出される様ですね。気持ちいいです。
ああもう、ホント涼しくて離れ難くなるじゃないですか。
そんな事があった数日後。今日も私はネタを求めて、我が世の夏を謳歌するお天道様の下を飛び回ります。
昼下がりともなれば陽射しはますます鋭さを増して来て、ホント嫌になります。そんな何処ぞの閻魔様みたいにキッチリ働かずに、時には何処ぞの死神みたいに適当にサボって欲しいものです。
今日は仕事を休んでチルノさんで涼むのもいいかなぁ、などとぼんやり考えていると、翼が自然と湖の方へと向いてしまいます。
何とはなしに遠くの空を見やると、ずっと向こうに連なる山々の更に遠くに、もくもくと立ちのぼる入道雲が見て取れました。青い空と、白い雲。単純ですが、その配色が夏らしさを感じさせてくれます。
けれど、あの入道雲さんはいったいどこに雨を降らせているのでしょうかね。ここ最近、雨なんてとんと見ません。空から降り注ぐのは日光ばかり。
陽射しに手をかざして大空を見上げると、憎たらしいまでに澄み渡った青空。
青色って寒色ですよねぇ、なのに何でこんなに暑いんですかねぇ……と、微妙にピントの外れた事を考えてしまうのも全ては暑さで脳が茹だっているせいです。
あー、こんなアタマじゃ仕事になりません。やっぱり今日はチルノさんの所で涼もうかな……。
そうしようそうしよう、と、脳細胞の隅々までが諸手を挙げて賛成した時――
「……うん?」
不意に、ほっぺたに冷たいものが触れました。
何だろうと思って頬に触ってみると、指に感じるのは、濡れた感触。
雨? と一瞬思いましたが、そんなものを降らせる雲は上空には無いはずです。汗ではありませんし、ついでに言えば、涙を流した訳でもありません。
どういう事かと思い、辺りを見回そうとしていると、今度は「コンッ」っと、額に何か小石の様なものが当たりました。
そのまま下へと落ちて行こうとするモノを、私は宙返りしてキャッチします。――冷たい。
再度くるりと回転して身体を元通りにし、手にしたモノを確認しました。
……氷?
そのモノは冷たくて透明な塊、いわゆる氷と呼ばれるものでした。
入道雲であれば、時にこんな氷の粒――いわゆる雹を降らせる事もありますが、今は入道雲はずっと遠くにしかありません。上空は晴れ渡ったままですから。
氷の粒を指でつまんでまじまじと見つめつつ、首をかしげてしまいます。
これはどこから来たのだろうと思い、調べようと思って顔を上げると、
――正面から、雪と氷の粒を伴なった冷たい風が流れて来ました。
それは、夏の暑苦しさを一瞬でどこかへと追いやる、清涼で心地良いそよ風でした。時折身体に当たる雪も、何だかこそばゆくて嬉しくなります。最初に頬に当たったのはこの雪の粒だったのですね。
けれど、これはこれでまだ発生源が分かった訳ではありません。……何となく推測つくのですが。
私は風の流れて来る方向へ逆らって前に進み、正面に目を凝らします。
すると、湖がある方の上空に、何やら人影が見えて来ました。それも2つ。
このあたりで、もう犯人の見当がつきます。一体何をやってるんでしょうかね。“彼女たち”は。
涼しい風にあたりながら湖に近付いて、湖畔の林に身を潜めてその人影を観察します。
犯人はやっぱりチルノさん。加えて、このたびは大妖精さんも、このよく分からないたわむれ事の共犯者である様です。上空からチルノさんが盛大に雪と氷を撒き散らし、そこから大妖精さんが風を起こして吹雪かせているみたいですね。彼女は風を操れるんでしょうか。
「うりゃあっ!」
豪快に氷と雪をばら撒くチルノさんの威勢の良い声が、空からここにまで聞こえます。何だか楽しそうです。
そして時折、湖上に舞い戻っては盛大に水しぶきを上げさせ、それをもとにして雪を作り出している様でした。
「大ちゃん! 今度はもっともっと上からやるよー!」
「いいよー!」
チルノさんだけでなく、大妖精さんの声も生き生きとしていました。
2人が空中で手を繋いだのが見えたと思ったら、その姿が突然消失し――きっとテレポートしたのでしょう――もっともっと空の高い所に豆粒となって現れました。何をしているかなんてもはや見えやしませんが、2人協力して吹雪を巻き起こしまくっているのでしょう。きっと、とてもとても楽しげに。
「晴れに勝ちたきゃ雪でも何でも降らせりゃいいんじゃなーい!」
「そうよねー!」
「あたいったら天才ねー!」
何か物凄く突拍子の無い会話が聞こえました。
……私は先日、確かに「太陽と勝負してみたら?」なんて事を彼女に言いました。どうやらその結果として、こんな事をやらかしている様です。チルノさんが「太陽に勝つ」をどのようにこねくり回して「雪を降らせて晴れに勝つ」へと変移させたのか、私には知る由もありません。
と言うか私としてはもちろん、全くの冗談としてあんな事を言った訳ですから、本当に何かやるとは思ってもいませんでした。普通なら、太陽に勝とうだなんて思いもしませんからね。
……まあ彼女は、恐らく普通ではないのでしょう。かと言って、もちろん彼女の言う様な「天才」という訳でもなくて……。
でも、彼女たちの自由奔放な在りようを見ていると、天才だとか馬鹿だとか、そんな事が何だかどうでも良くなって来てしまいます。本人が天才と豪語しようが周囲が馬鹿とからかおうが、それで彼女たちの行動の根本が変わる事は無いのでしょう。
彼女たちはただ、自らの思うがままに振舞っているだけなのだから。
そんな楽しげな2人を見ていると、何だかこちらまで笑みがこぼれてしまいます。それはきっと、何者にも束縛されず勝手気ままに生きる、彼女たち妖精の純粋な本性を目の当たりにし、表面では呆れつつも、心のどこかでそんな生き方を羨望しているからなのでしょう。
水の補給にか、2人がまた湖上に戻って来ました。
「次はもっと遠くまでやるよ、大ちゃん!」
「いいよ~!」
そのまま2人はまた、どこかへテレポートしてしまいました。
そう言えば、大妖精さんは今回の悪戯に随分と積極的に関わっていますね。彼女も妖精として、やはり悪戯が好きなのでしょうかね。
ああでも、彼女は他者への嫌がらせになるような行為は好まないみたいなので、この悪戯が、誰の迷惑にもならなそうなの分っているのかも……。
いや、それよりただ単に、こうしてチルノさんと一緒に活発に遊ぶのが楽しいだけなのかも知れませんね。
彼女は、チルノさんの事が大好きなのですから。
さて、私も彼女たちにならって、自分のやりたい事――取材活動を行なう事にしますかね。夏に雪が降るなんて、充分にニュース性がありますから、今がまさに私の働き時でしょう。
『 「夏のさなかに雪の風 ひとときの涼」
○月○日午後、季節は夏であるにもかかわらず、上空から降雪と雹が確認された。紅魔館そばの湖でまず観測されたそれは、次第に範囲を広げ、幻想郷各地にみられるまでになった。
真夏であるため雪が積もる事は無かったが、雪に伴なう冷たい風によって地上の気温は上昇が抑えられ、昨日は久方振りに、連日の酷暑から解放されるかたちとなった。
この珍現象を起こしたのは、湖周辺に住む氷の妖精チルノと、大妖精。彼女らは湖の水を用いて雪と雹を作り出し、それを上空から吹き散らす事によって吹雪を起こしていた。
詳しい事を2人に尋ねようとしたが、彼女らは吹雪を起こす事に夢中で話を伺う事は出来なかった。しかし、その時の2人の会話を聞くに、どうやら、「晴れに勝つために雪を降らせていた」らしい。その詳細については、今後彼女らに取材を行なう事で追求していく予定である。
このたびの出来事について、各地の声を集めた。
紅魔館で門番の任に就く紅美鈴さんは、
「私の仕事って、一日中屋外じゃないですか。だからこの時期はいつも陽の暑さに悩まされるんですが、今日は涼しい風のおかげで快適に仕事が出来ますね」
人里に住む上白沢慧音さんは、
「初めは何事かと思ったが、原因はすぐに分かったし、大事ではないから良かったよ。それより、晴れているのに雹なんて珍しいだろう? だから子供たちが大はしゃぎだよ。涼しかったしね。たまにはこういう日があってもいいんじゃないかな」
博麗神社の巫女、博麗霊夢さんは、
「気持ちいいわね、この風。しかも雪なんて洒落たオマケつき。あのいたずら妖精もたまにはいい事してくれるじゃない。ありがたいわ。明日から毎日お願いしたいわね」
博麗神社に居合わせた魔法使い、霧雨魔理沙さんは、
「この雪は魔法の森には降ってるのか? ――降ってない。そうか、なら明日からは魔法の森の方で働いてくれとチルノのやつに伝えておいてくれ」
以上のように、今回の出来事は各地でたいへん好意的に捉えられている。当然の事だろう。連日の猛暑で誰しもが音を上げていた所に、恵みの様な涼しさが提供されたのだから。
ご存知の様に妖精は本来、たいへんな悪戯好きであり、人間に迷惑を掛ける事も多い。しかしその力の使いようによっては、本件の様に人妖たちに感謝される場合さえある事が分かる。このように、冷気を操る妖精は、頑張って夏に活動して皆に涼を提供すれば大変喜ばれると思うのだが、いかがだろうか。(射命丸 文)』
「見つけたわよ新聞屋ぁ!」
博麗神社の賽銭箱の前、霊夢さんと魔理沙さんと3人で腰掛けてまったりお茶をすすっていた所に、チルノさんのそんな叫びがこだましました。ああ、涼しいのが来てくれました。
彼女の片手には、私の発行した新聞。早朝に彼女の家に放り込んでおきましたからね。特別に無料配布です。その内私の所に来るだろうと思ってました。
「よくここが分かりましたね」
「当たり前じゃない、探したんだから! それよりこの新聞はなんなのよっ!」
バッと新聞を広げ、私に押し付けて来る。もちろんこちら側の面には、昨日のチルノさんの記事。わざわざ笑顔のチルノさんを望遠で撮影してあげたのまで載せてあります。うん、可愛く写ってますね。
「なにって、私が客観的立場から取材した内容を公正に記事にしただけですよ」
「きゃっかんって何よ、そんな事どうでもいいわよ。何であたいが感謝されてんのよ!」
「そういう事実があったから書いたまでです」
「そうそう、昨日は涼しくてありがたかったわ」
「私も同感だぜ」
「ムキー!」
とまあ、目の前で実際に感謝されてますます怒るばかりです。おかげで涼しいです。
「いい? 妖精ってのはね、悪戯をして弱っちいニンゲンどもをひーひー言わせて困らせないといけないの! 感謝なんてもっての他なのよ!」
いやまあ、それを知ってたから、あえてああいう記事にしたのですけどね。ちなみにあの記事の最後の一文は、チルノさん宛てに書いた様なものです。私の希望が大いに入ってます。
と、チルノさんが一人キーキーわめき散らしている時、
「いたいた、チルノちゃーん!」
この声は大妖精さんではないですか。
彼女の所にも新聞を入れておいたので、今回の記事を読んでくれている事でしょう。記事ではチルノさんがメインとなっていますが、大妖精さんの活躍もあった事を忘れてはいけません。
「ほらほら、私たち大かつやく~!」
私たちのそばに着地するやいなや、チルノさんに向けて嬉しそうに新聞を広げます。大輪のヒマワリの様な晴れ晴れしい笑顔が眩しいですね。2人の笑顔をペアで撮っておけば良かったなぁ。
「ちょっと大ちゃん、浮かれてちゃダメじゃないの!」
「えー、どーしてぇ? チルノちゃんがこんなに感謝されてるのよ。いい事じゃないの。
あっ、ほらほら、このチルノちゃんの写真、すっごく可愛いよねー」
「えへへーありがとー。ってそうじゃないわよ!
いい? あたいたち妖精は、こいつらニンゲンを困らせるのが仕事なのよ! だから感謝なんてされてちゃいけないの!」
「へーそーなのー?」
「そーなのよー!」
何か漫才が始まっちゃいました。まあ私たちとしては、チルノさんが無駄にヒートアップと言うかクールアップしてくれるおかげで涼しさを享受出来ているからいいのですが。
「まあまあ、たまにはいいじゃないですか。感謝されるのも悪くないですよ」
「そうだぜ、チルノ」
おもむろに立ち上がる魔理沙さん。何をするかと思ったら、子供にいいこいいこをするように、チルノさんの頭を撫でます。無駄に神妙な顔つきしてるのが何とも。
「昨日は久々に一日を快適に過ごす事が出来た。感謝してるぜ。ありがとな」
おぉ~~、100%からかいの言葉ですが、あの魔理沙さんの口からありがとうなんて言葉が飛び出しました。これは事件です。
「な、何よ! あんたなんかに感謝されたって嬉しくもなんともないんだからねっ!」
「まあそう照れるな」
「ムキー!」
ああもう、ホンット可愛いなぁこの子は。こんなに分りやすくムキになっちゃうなんて。
それに、怒って腕をぶんぶん振り回してるのに、頭を押さえられてて全然届いてないんです。可愛いったらありゃしません。
「相変わらず元気のいい事だな。……どうだ、久々に弾幕るか?」
「やるっ!」
即答です。あっさり落とされるなんて事は微塵も考えてなさそうです。
「んじゃあ霊夢、私はちょっくら涼んで来るぜ」
「手加減してやんなさいよ」
「分かってるよ」
「フンッ、そんな余裕こいてられんのも今の内よ! 今にあたいがほえづゅりゃ……ホエヅラかかせてやるんだから!」
きゃあ! 今、噛みました、噛みましたよこの子! せっかくの口上が台無しです。ああんもう可愛過ぎて抱き締めちゃいたいくらいです。いやいや、落ち着け私。COOLだCOOL。頭を冷やせ。チルノさんを抱き締めたら丁度良く冷えるんじゃない? とかグッドアイデアっぽい事を考えるな。
すーはーすーはー。よし、クールダウン。
「ははは、決め台詞で噛むなんてかっこ悪すぎだぜ。そんな小難しい言葉を使うからだ」
「うるさ~い!」
興奮さめやらぬチルノさんを尻目に、魔理沙さんは軽快に空中へと飛び上がります。チルノさんもそれに突撃する様に、魔理沙さんの後を追いかけて行きました。
大妖精さんだけが、ちょっと心配そうにチルノさんを見送っていました。
「大丈夫ですよ。魔理沙さんはそのへんは分かってると思いますから」
「はい……」
「ま、こんなに涼しさを提供してくれる相手を、みすみす酷い目に遭わせたりはしないわよ。魔理沙はああいうのをからかうの好きそうだし。はい、お茶」
「あ、ありがとうございます」
地上に残った私たち3人は賽銭箱の前に腰掛け、お茶をすすりながらまったりと2人の弾幕ごっこを観戦。勝敗は見えていますが、チルノさんがどこまで抵抗を見せるかが見所でしょう。
「あの、文……さん?」
「なんでしょうか」
「私たちの事、記事にして下さって、ありがとうございます。チルノちゃんがあんな風に感謝されたのが記事になって、凄く嬉しかったです」
チルノさんの活躍を、ここまで喜んでくれる。こんなにも想ってくれる誰かがいて、チルノさんは幸せだなぁと思います。
記事の中でこれだけ感謝されても、当の本人が素直にそれを受け止める事は恐らく無いでしょうが、こうしてお友達の大妖精さんが喜んでくれているのなら、それでもう充分なのかも知れません。
「いいんですよ。私はあくまで幻想郷での出来事を記事にしただけですから」
「はい……」
それきり私たちは言葉を休め、上空の弾幕ごっこ観戦に意識をやります。チルノさんが吹雪を起こすたびに、こっちまで涼しくなりますね。魔理沙さんは余裕の表情で、飛来する氷塊をひょいひょいと避けていました。
――幻想郷での出来事を記事にしただけ。
確かにそうなのですが、私がチルノさんの事を記事にしたのにはもうひとつの理由がありました。
私の新聞の、前日の天気の欄。そこには、晴れ時々雪と表記――すなわち、太陽マークと雪マークが並んで記されています。
つまりチルノさんは昨日、太陽に勝てはしませんでしたが、立派に引き分けに持ち込んでいるのです。
勝ったら記事にするという風には言いましたが、勝てずとも引き分けにまでしたのならば、その健闘に報いない訳にはいかないでしょう。だから私は、昨日の天気を晴れ時々雪と記し、そのうえでチルノさんの事を記事にしたのでした。
誰かが恣意的に降らせた雪を実際の天気にしてもいいのかって?
……まあいいんじゃないですかね。彼女は妖精で、つまりは自然の化身。天気は自然がもたらすものですから、彼女も自然の一部と考えれば何の問題もありません。
さて、そんな風に見事太陽と引き分けたチルノさんですが、弾幕ごっこでは分が悪い様で、次第に魔理沙さんに追い詰められて来ています。
魔理沙さんに負けたチルノさんをどうやってなだめようかなぁと、まだ必死の抵抗を見せている彼女には申し訳ないのですが、私はそんな事を考えていました。
幻想郷は今日も平和で、チルノさんは今日も元気いっぱいです。
ツンデレチルノに、天然大妖精はやはり最強かと。
良いチルノ分を頂きました。ありがとうございます。
良いSSでした(礼
⑨が移ったかな……;;