Coolier - 新生・東方創想話

氷時計

2006/09/08 10:43:35
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次の目覚めは、彼女にとってあたたかな朝を…。

僕はそれを願いつづけた。
どんな日も待った、待った、待っていた。
彼女がどんなに異質な力を持っていたとしても、まだ少女の域を抜けない他人より傷つきやすい女の子なのだから。
それでも彼女にあたたかな朝は訪れない。
彼女を優しく起こしてくれる誰かは彼女には存在しない。
そばにあるのは着慣れた服と、ナイフ、そして直してもけっして動かない懐中時計。
ふかふかのベット代わりに、公園のベンチ。布団はそこらに捨ててあった新聞紙。
月は師走。何かに包まってないと彼女に限らず、外で眠るのは死に繋がりかねない。

やがて彼女は目を覚ました。今日もちゃんと目を覚ましてくれたようだ。
だが、今日もまた頬には涙の後がある。両親の夢を見たのだろう。うわ言で、父さん、母さん、とつぶやいていたので間違いないだろうと思う。
体を起こし周りを見渡す。
そして落胆の表情を浮かべ、もういい…、と呟き、光を映さぬ瞳と、笑顔を作らなくなった顔を向け時計を見つめる。
器具を取り出し、時計の調整を始める。
決して動くことないと分かっているはずなのに、彼女は“僕”を調整していく。
この行為が毎朝の彼女の習慣となっている。まるで自分自身を一日動かす為のぜんまいのネジを回しているようだ。
一通りの作業が終わると、彼女はすくっと立ち上がり、当てのない放浪を続ける。



彼女はとある小さな村に生まれた。
決して裕福な家では無かったが、優しい両親の愛情に包まれ、健やかに育っていった。
彼女はそんな優しい両親がとても大好きだった。

彼女には不思議な力を持ち合わせていた。それは世界をも干渉する特別なチカラ。
だが彼女自身、自らの力に戸惑っていた。

…こんなチカラを持った自分はなんなのだろうか?化け物なのだろうか?コンナ私を父さんや母さんが知ったら、父さんや母さんは私をどうしてしまうのだろう?

と、まだ年端のいかぬ彼女は自分のチカラと在り方について悩んでいた。
長い時間悩みに悩んだ末、誕生日の席で彼女はその大好きな両親に対して遂に自分の悩みを打ち明けた。
彼女の話を聞いた彼女の両親は笑顔を作り、静かにこう言った。

…どんなチカラを持とうと、どんな在り方であろうと、あなたは私たちの大切な娘よ。だからそんなに悩まないで。どんな事でも私達とこの世界は、あなたの全てを受け入れるわ。

…だから■■■。あなたは自分自身の全てを受け入れ大切にしていきなさい。

そう言うと、彼女の母親は彼女の手にあるものを握らせた。

…これは誕生日プレゼントよ。どんな時も自分を見失わないでちょうだい。この時計と私たちがあなたを見守っているわ。

彼女の手には金色に光り輝く“僕”が渡された。
彼女は泣いていた。拭っても拭っても涙は止まらなかった。
心に溜まっていた不安が取れた安心感と、自分の全てを受け入れてくれると言ってくれた両親の言葉が嬉しかったためだ。
そして一言

…ありがとう。父さん、母さん…。


だが、彼女と彼女の両親のささやかな生活は長くは続かなかった。
どこから聞いたのか、彼女の持つチカラを知った村の人々が彼女の家を迫害し始めた。

…異端のチカラだ!

…そんな子供殺してしまえ!

…一家揃って悪魔の手先だ!

村の人々は恐れていた。
彼女のチカラを。
彼女のチカラは人ならざるモノの力だからだったからだ。
彼女の一家への迫害は日に日に酷くなって行き、ある日の深夜家に火をかけられた。
一家はなんとか逃げ延びようとした。
だこか遠くへ逃げれば、また一家で仲良く暮らせると信じて。
だがそんな希望を打ち砕くように、武器を持った村人に囲まれてしまった。
彼女が落とした大切な金色に輝く懐中時計を踏みつけながら、少しずつせまってきた。
そして囲まれた彼女達の前に様々な武器が向けられ、いざ彼女らを殺さんと目の前に突きつけられた。
そんな中彼女の両親は、せめて彼女だけでも守ろうと彼女を抱きしめた。

そして
抱きしめられた彼女目の前で
彼女の大好きな父親が
彼女に笑顔を向けてくれる母親が
恐怖と憎悪の塊に次々に
貫かれていった

彼女は最初何が起きたのか分からなかった。
分かったのは、両親が彼女の大好きな笑顔で

…あなただけでも逃げて…

…私たちの分まで生きていきなさい…

と言ったことだけだった。
そう言い残すと、恐怖と憎悪の塊が突き刺さったまま地面へと倒れこんでいった。
それを意味することを知るのに、時間は余りかからなかった。
次の瞬間には、世界を揺るがすような慟哭が響いた。
その慟哭が響かせながら、自分の両親の背中に突き刺された一つのナイフを抜き取り、村人達へと迫った。
己のチカラを開放し、全てのモノが凍りついたセカイの中で…。

どれくらい経ったか。
世界が白み始めた頃、彼女はその体に血の臭いを染み込ませながら一人立っていた。
今この場で動いているの彼女一人だけだった。
他の、今まで動いていたモノは全ていなくなった。
彼女は罅の入り動かなくなった“僕”を拾い上げ、両親と村人を殺したそのナイフと共に“僕”をしまいこむと、その場に火を放った。
そして、彼女の両親の残した最後の言葉を守る為に、彼女は歩き出した。



その日以来彼女は笑わなくなり、僕は二度と動かなくなり、僕らは当ても無く放浪を続ける。
彼女の両親の最後の言葉を守る為に。


彼女を生かしているのは、両親との最後の言葉と、思い出。
過去の思い出の夢を貯め続け、過去の中で思い出作りをしていく。
けれどもそれは、一人でしか飾ることの無い悲しい思い出作り。
瞳に何も映さず、ただ生きていく。

でも僕らは明日のネジを巻く。

“僕”は彼女に何もしてあげることができない。
どんなに彼女の事を思っていても。
どんなに彼女の今の姿を見て心の奥が痛くとも。
そんなことしか出来ない滑稽なただの壊れた懐中時計。

それでも僕らは明日のネジを巻く。

あの日からどれ位経ったのだろうか。
時計の癖に時間の感覚が希薄だ。
今過ごしている時間が今日なのか、明日なのか、昨日なのか。
それでも“今日”もまた朝を迎え、彼女が“僕”の調整をする音が聞こえる。
彼女がふと空を見上げる。
あいにく、空は灰色に曇っていた。
ここのところこんな曇りの日が続いていた。
だがいつかはセカイに日の光が晴れ渡るだろう。
彼女にもいつか晴れる日が来るだろうか?
それでも前を向いてイキテ行く。
今日と言う影絵をずっと回ってイキテ行く。


灰色の曇り空が続いたある朝、凍てつくような雨が降り始めた。
彼女はその雨を避けることも無く、雨に打たれつづけた。
そして“僕”を見つめ

…こんな暗い灰色の雨の中でも貴方は光るのね。たとえどんな場所の色でも。

…この天気の様に私もいつか晴れるのかしら…。

と、まるで泣き笑いの様に自虐的に笑っていた。

僕は願う。
願わくば彼女に温かな朝を…。
そして本当の笑顔が映る事を…。

僕らはそんないつかは晴れる夢を見る…。

今日もまた明日のネジを巻く。









エピローグ

赤より紅く染まった吸血鬼の住まう館のテラス。
そこで紅き幼いの悪魔が優雅に夜のティータイムをしていた。
その横には寄り添うように、懐中時計を腰からぶら下げた完全で瀟洒なメイドが立っていた。

「ねえ、咲夜。一つ聞いて良いかしら?」

「なんでしょうか、お嬢様。」

「あなたが持つその懐中時計。いつも身に付けているようだけどそんなに大事な物なのかしら?」

「はい。私と共にいつでもいてくれた大切な物ですわ。」

「あら、私より大切なのかしら。そうだと少し妬けるわね。」

幼い悪魔は悪戯っぽくにやけながら言う。
それを聞いた従者は困ったように苦笑いをする。

此処は幻想郷。
これはそんな何気ない一コマ。
悪魔の従者からぶら下がった金色の懐中時計からは、時を刻む秒針の音が聞こえる。






FIN











はじめましての方ははじめまして。空之 翼翔と言います。
まあ前回より二ヶ月たっているのでわからないかも…。
自身三作目は、またも『Love song』からです。
今回は『氷時計』をモチーフにしました。この歌詞、自分的に解釈がかなり難しかったですorz
時計ということで、咲夜と懐中時計にしてみましたがいかがでしょうか?
これから一年以内に『Love song』シリーズ残り11曲をやっていこうかなと考えています。
相変わらず文が稚拙…さらに修行をせねばorz

これからの精進の為、ご意見・ご指摘・ご感想をお待ちしております。
空之 翼翔
[email protected]
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コメント



0.820簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
主人公それですか!
意表以上の展開で驚きました
17.無評価空之 翼翔削除
>名前が無い程度の能力さん

コメントありがとうございます。
人では無く物を主観に置くことは初めての試みだったので、うまく出来たか大分不安でした(^_^;)
次回に繋がるよう精進していきます。