「まあ、そんなもの間違っても開催されないんだけどね」
「一行目でタイトル全否定!?」
妖夢がコケたのか側転受身をしたのか微妙な突っ込みを行い、それを幽々子は煎餅を齧りつつ受け流す。
何の事はない、白玉楼における日常の一コマであった。
めでたしめでたし。
「で、でも、このビラには、確かに開催の旨が書かれていますよ」
しかし妖夢の主人公としての矜持は、そこで話を終えてしまう事を許さなかった。
体勢を立て直し、ついでにズレたドロワーズも直しつつ、一枚の紙を指し示す。
なお、この場合の主人公とは、当作品内における立場を示したものであり、
東方シリーズの主人公が魂魄妖夢であるとの主張をするものではないと付け加えておく。
実のところ、妖々夢は咲夜、永夜抄は妖夢、花映塚は鈴仙、萃夢想は紫、と勝手に思っているのだが、
それはこの話には微塵も関係無い上に、世間体や腋巫女が怖いので、あくまでも心の中のみに留めておきたい。
書いてる時点で留めるもクソも無いが。
話が逸れた。
今重要なのは、妖夢が指し示し続けているビラの内容についてである。
そこには確かに、第148回幻想郷最強タッグ決定戦開催! という見出しが記されていた。
もっとも、対面の幽々子はというと、ごろりと横になっては欠伸を噛み殺すという、とことんやる気の無い態度であった。
「残念ながら私には、それまでの147回に関する記憶がまったく無いわ。即ち、それがでたらめであるとの証明よ」
「なるほど……ところで幽々子様。昨日の夕食の献立を覚えていらっしゃいますか」
「……味噌煮込みうどん?」
「惜しい、ひきずり鍋です」
「ほほう、ということは鶏肉ね。ほら、あの名古屋……名古屋……ええと、名古屋……」
「名古屋コーチンですか?」
「そうそう、それよ。この際しっかりと記憶したいから、名古屋の部分を除いて十回言いなさい」
「はあ、それでは……コーチンコーチンコーチンコーチンコーチンコーチンコー……はっ!?」
「ふふふ、罠にかかったわね」
「うー……そんな小学生みたいな悪戯をして楽しいんですか……」
「小学生みたいな悪戯に引っ掛かる方が悪いのよ。
でも安心して。きっと喜んでいる大きなお兄さんもいるはずよ」
「意味が分かりませんから……っと、そうじゃなくて、私が言いたいのは、
幽々子様の記憶力ほどあてにならないものは無いという点です」
「むー、酷い言い草ね。こんなにピチピチなのに」
「それはある意味、存じております」
「何処を見て言っているのかしら、えっち」
時々思う事がある。
この二人は、地の文無しで延々と会話を続けさせたほうが良いのではないか、と。
無論、それも一つの手ではあるが、話が進まない事を考えると断念せざるを得まい。
「……ええと、ともかく幽々子様は、このビラがまったくのデマだと仰られるのですね?」
「そうよ。私の想像では大方、余りにも新聞が売れない事に業を煮やした天狗が、
開き直って虚実のみを記した新聞を作ろうと決意し、予行演習として配り歩いた。という所ではないかしら」
「想像にしてはみょんに具体的ですね……」
「……」
「幽々子様?」
「……うっ、えぐっ」
「ゆ、幽々子様!? 何ゆえ泣かれるのですか!?」
「ひっく……だって、妖夢が……」
「わ、私が?」
「妖夢が……久し振りに自分からみょんって言ってくれたんだもの……」
「……はい?」
「公式の文章に載っているほど有名なネタなのに、それを頑なに拒む妖夢の姿を見続けるのが、
私にとって、どれ程の苦痛だったことか……」
「べ、別に拒否していた訳では……というか、公式とか言うの止めてください」
「……もっと言って」
「はい?」
「だから、もっとみょんみょん連呼して」
「な、何ゆえに」
「いいから早く!」
「み、みょん……」
「……ひぅっ!?」
「ゆ、幽々子様っ!」
「……い、いいの、これは歓喜による絶頂の痙攣よ。私の事は気にせずに続けなさい」
「み、みょん、みょん、みょんっ、みょーん」
「嗚呼……もう死んでも良いわ……」
「みょん……」
あまり断念できていない気がする。
もしや、このまま最後までゆゆようむワールドをお届けするのが私の使命なのではなかろうか。
しかしながら、これでは三人称視点というより、作者の一人称になっている気がしてきたので、
無理やりにでも止めておかないと危険だ。
「ふぅ、妖夢。貴方最高に良かったわ」
「うう……何か大切なものを失ってしまったような……」
「まあ、そういう訳だから、こんなものは落ち葉と一緒に燃やして焼き芋の燃料にしてしまいなさい」
「……分かりました。芋はありませんが」
「何だか名残惜しそうね。もしかして、出てみたかったの?」
「べ、べ、べ、別に、そういう訳では……」
「相変わらず嘘のつけない身体のようね」
「その言い回し止めて下さい」
「だが断る!」
「おのれ、高野山!」
「……」
「……」
「で、こんな胡散臭い広告の何に惹かれたというの?」
「賞品です」
「……ごめんなさい。もう一度言っては貰えないかしら」
「だから、優勝賞品です」
「……賞品ってこの、真の友情で結ばれた二人のみに引き抜けるトロフィーとかいう、どこかの漫画で見たような代物?」
「はい」
「ええと……あまり人の事は言えないんだけど、貴方のセンスが少し分からなくなったわ」
「そ、そんなに変ですか?」
「変。すごく変。ごっつ変。ゆーあーくれいじー」
「みょん……」
「む、いくら解禁されたからといって、乱用は禁物よ」
「使えと仰ったのは幽々子様じゃないですか……」
「ふふん、貴方にはまだ、わびさびというものが分かってないわね。
金属製のおろし金よりも、鮫の皮を使ったもののほうが出来上がりが良いのよ」
「それはわさびです」
もう諦めよう。
作者一人称が拙いなら、このままフェードアウトしてしまえば良いのだ。
後は御二人でごゆるりと……。
「……? 今、何か言った?」
「いえ、別に何も」
「そう、気のせいかしらね……。
ともかく、このビラの謳い文句が本当だったとしても、きっと妖夢では引き抜けないわよ?」
「な、何故ですか!?」
「だって、ねぇ。私が貴方に対して持っている感情って、どう考えても友情より劣情のほうが大きいじゃないの」
「本人の前でそういう事を言いますか、普通」
「普通じゃないもの」
「それもそうですね。……じゃなくて、幽々子様は一つ、勘違いをなさっておいでかと」
「ほほう、それはどういう意味なのか、聞かせて貰おうじゃないの」
「別に私は、最初から幽々子様と組んで出るつもりはありませんでしたから」
「へぇ……ぐふっ!」
「ああっ!? 幽々子様が、吐いたら二度と蘇れない断末魔を!?」
「さようなら妖夢……貴方に会えて嬉しかったわ……」
「幽々子様ー! 幽々子さむぁー!!」
「……」
「……」
「まあ、蘇ったら蘇ったでそれも困るでしょうけど」
「確かに。妖々夢のストーリー台無しですね」
「それはともかくとして、妖夢」
「はい」
「一体全体、どういう意図での発言なのかしら。
事と次第によっては、貴方を全幽霊へと進化させる儀式を執り行わねばならないのだけど」
「ですから、元々幽々子様のお手を煩わせる気は無かったと」
「ちゃうがな! 何だって幽冥の住人組解散っちゅー結論に落ち着くのかって聞いとんねんな。困るでしかし!」
「最初から結成した記憶もありませんが……」
「何を寝惚けた事を抜かしてケツかるのかしら。
いい? 貴方は私専用の肉ど……肉豆腐が得意料理の従者なのよ?」
「い、今、とんでもなく不穏な台詞を言いかけませんでしたか」
「細かい事を気にしないの。ともかく、酷なようだけど、私以外に貴方と組みたいと考えるような暇人なんて……」
「……」
「……おかしいわね。何だか、約一人ほど存在する気がするわ」
「はい。そも、私から行かずとも、そろそろ向こうのほうから尋ねてくるものかと」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……来ないわね」
「……来ませんね」
「唐突に尋ねてくるパターンも、もう三回目だし、いい加減飽きてしまったのではないかしら」
「そ、そんなはずは無い……と思うんですけど」
「ふぅん。なら、自分から尋ねてみてはどう?」
「……大会がデマだと仰ったのは幽々子様ではないですか。
向こうから来たのならともかく、私のほうから動く理由なんてありませんよ」
「そうよねぇ」
「……」
「ありゃ、拗ねちゃった?」
「……拗ねる理由もありません」
「んもう……そんなにうどみょんを展開したかったの?」
「な、な、な、何を馬鹿な事を」
「ふふっ。相変わらず、体は正直ね」
「だから、そういう言い回しは勘弁して下さいって」
「ともあれ、これで妖夢がお出かけする理由は無くなったという事になるわね」
「……まあ、そうなりますね」
「即ち、幽冥の住人組復活と受け取って良いのよね?」
「良いですけど、復活して何をするんですか」
「ええと……謎の紅霧の原因を突き止めるとか」
「それは二年以上前に終わってます。」
「なら、宴会中に漂う妖気について調査というのは?」
「それも昨年終わりました」
「うーん……じゃあ、幻想郷の春度を奪っていった犯人を大追跡ー」
「残念。追跡せずとも、ここにいますから」
「むー、つまらないわね」
「要するに、再結成に意味は無いんですね」
「……うん」
「……」
「……」
「では、そろそろ私は仕事に戻りま……」
「……」
「幽々子様?」
「なに?」
「あの、袖を掴まれると動けないんですが」
「ふふん。どうしても行くというのなら、私を振り払って行くことね」
「そうですか。なら、止めます」
「……」
「……」
「……いじわる」
「もう、暇潰しに付き合って欲しいのなら、最初からそう仰って下さいよ」
「……むぅ、妖夢の癖に生意気よ! 来なさい、修正してやるわ!」
「お手柔らかにお願いします」
「いえーい、20連勝ーっ」
「……」
「へんじがない。ただのおきもののようだ」
「……妙なアレンジを加えないで下さい」
「だって、屍だとそのまんまじゃないの」
「まあ、それはお互い様なんですが」
「確かにね……にしても妖夢。貴方、弱すぎるわ」
「ルールを覚えて二週間の素人に無茶を言わないで下さいよ」
「経験は問題じゃないわ。推理力、洞察力、判断力、どれをとっても酷いと言わざるを得ないわね」
「たかがカードゲームで、どうしてそこまで言われないといけないんですか……」
「もっとも、それ以上に運が欠けてるからどうにもならないんだけどね」
「さらに追い打ち!?」
「まあ仕方ないわ。運が無いのは魂魄家の宿命とでも言うべきものだから」
「そういえば、お師匠様もこういうゲームはとことん弱かったですね」
「ええ。実は幽居したのもそれが原因……ゲフン! ゲッフン!」
「ゆ、幽々子様。今、とんでもない事実を耳にしたような気が……」
「夢よ。忘れなさい」
「……忘れます。恐らくは、私が耳にしてはいけない類のロストワードだったのでしょう」
「燃費、性能ともにリグルキックのほうが優れてるってのはどうかしらね」
「それはラストワードだと思いますが、何を仰られているのか理解できません」
「続編だからって無条件で酷評されるのはあまり良い風潮では無いと思うわ」
「それはロストワールドです。後、別の意味に取られる可能性があるのでどうかご勘弁を」
「時々妖夢は訳の分からない事を言うわね」
「分かって下さいよ」
「ま、ゲームは終わりにしましょうか。ここまで一方的だと飽きてきたわ」
「はいはい」
「返事は十回よ」
「はいはいはいはいはいはいはいはいはいはい」
「……ごめん、嘘」
「後悔するくらいなら、最初から言わないで下さい」
「うー、妖夢が苛めるー」
「小一時間に渡って苛められていたのは私のほうなんですが」
「失礼ね。もしも私が本気で苛めに走っていたならば、今頃、妖夢は生命が存在した事を後悔していた筈よ」
「それは世間的に拷問と呼ぶんです」
「こう、爪の隙間に焼けた針を差し込んでぐりぐりと抉るような……」
「ああー! 具体的に言わないでー!」
「そういえばこの前、紫から鋼鉄の処女をお土産に貰ったのよ」
「な、なんでまたあの方は、そんなブツを……」
「で、置物にしておくのも何だから、一度くらい使ってみるのも良いんじゃないかと思ったんだけど」
「対象は……私ですよね。勿論」
「おっと、乳首に当たってしまったわね。甘い痺れがいつまでも取れないでしょう?」
「勝手にみょんな未来予想図を展開しないでください。というか、死にますから」
「むぅ、残念」
「本気で使うつもりだったんですか……」
「ま、仕方ないから紅魔館にでも送りつけておきましょう。連中なら血を取るのに有効活用するかも知れないし」
「普通に嫌がらせとしか思われない気がしますが」
「んもう、ああ言えばこう言う。妖夢、一体何が不満なのかしら?」
「何もかも……」
「……そ、そんな遠い目をして言わないで頂戴。ほんのロシア風ジョークよ」
「ロシアの方に謝罪しておくべきかと」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「なんで妖夢まで謝るのよ」
「主人の罪は私の罪でもありますから」
「嬉しい事言ってくれるじゃないの」
「それはそうと、流石に仕事に戻らないと拙い時間なのですが」
「あっさり流したわね」
「毎回突っ込むのは疲れるんです」
「で、仕事って何なのよ。私を放置プレイするほどに大切なものなの?」
「夕食の支度です。後回しで良いのならそうしますが」
「……」
「フハハ、悩め悩め! 私の苦労の十分の一でも思い知るがいい!」
「心の声が思いっきり出てるわよ」
「……みょ」
「みょんは駄目よ。まだチャージ時間が完了していないわ」
「……へぐぅ」
「それは私の台詞よ」
「……で、解決策というのがこれですか」
「何よ。文句ある?」
「ありません。が、些か邪魔臭いという点は否定出来かねます」
「最近、毒舌に磨きがかかってきたわね。教育方針を間違えたのかしら」
「私の背後霊と化している幽々子様に、教育云々を語る資格があるのかは、甚だ疑問です」
「いやいや妖夢。これはマンツーマン指導というものよ。何も間違ってなどいないわ」
「ほほう……では早速、この魚の捌き方についてご教授願いたいのですが」
「……三枚下ろし?」
「いくら私でも、ちりめんじゃこを三枚に下ろす技量はありません」
「なら、踊り串を刺すとか……」
「このサイズのものにどう刺せと言うんですか。爪楊枝だって大きすぎますよ」
「すると、開き?」
「捌かないという結論には辿り着かないんですか……?」
「おのれ、謀ったわね妖夢!」
「……どうして食べる事が大好きなのに、作るほうの知識はさっぱりなんだろう……」
「変な事を言うわね。こんなにも頼もしい台所の主が存在するというのに、
私が知識を見に付ける必要なんてあるのかしら?」
「……」
「あ、照れた?」
「て、て、て、照れるというか、その、あの……」
「ああ、ほら、動揺しないの。お約束で指を切っちゃうわよ」
「で、で、で、でも、幽々子様に頼もしいと評されるだなんて、夢にも思わなかったから……」
「あら、元々家事に関しては疑った事なんて殆ど無いわよ?」
「そ、そうですか。あ、あり、ありがとう、ござい、ます」
「……泣く程嬉しかったの?」
「……はい」
「ふむ……それなら、続ける予定だったお小言は勘弁してあげましょうか」
「って、やっぱりあったんですね」
「ほら、それよりもお料理お料理。
私のお腹の虫が悲鳴を上げているのが聞こえるでしょう?」
「それはまあ、密接してますから」
「……」
「……何か?」
「お約束」
「はい?」
「お約束を忘れる悪い子は誰かしら?」
「……」
「……」
「……そ、その、胸が当たってるんですけど」
「当ててるのよ」
「……」
「……」
「……満足ですか?」
「あんまり……」
「なら、最初からやらせないで下さいよ」
「おかしいわね。もっとこう、心ときめくもので溢れると思っていたのに。
これが俗に言う倦怠期というものかしら」
「だからって、また何処かから新しい刺激を探してこないで下さいね」
「何よ。妖夢は私のおっぱいが嫌いなの?」
「どうしてそういう結論に行き着くんですか……」
「答えなさい。3、2、1……」
「好きです、大好きですってば」
「……」
「……」
「……心ときめくもので溢れたわ」
「……そ、それは何より」
「夕食が完成した。
私と妖夢は、いつものように卓袱台に向かい合って座る。
本音を言うならば、もう少し二人羽織を楽しみたかったのだけれど、
今は食欲を満たすことが優先である、と私の中の人が指示していたのだ」
「何ですかそのナレーターみたいな台詞は」
「仕方ないのよ。作者が地の文を書くことを放棄してしまったのだから」
「良く分かりません……」
「妖夢は知らなくても良い事よ。いただきまーす」
「いただきます」
「……む、これはいけないわ」
「え、何か……?」
「このお肉にはサシが多すぎるわ。
ソースに含まれる油分を計算に入れれば、脂肪分の無い赤身を選択するのがベストだった筈よ」
「……」
「香辛料もやや多すぎるわね。これでは素材の良さが死んでしまうわ。52点という所かしら」
「……はあ、精進します」
「褒めて伸ばすというのも考え物ね。やはりスパルタ教育で行くべきなのかしら……」
「あの、幽々子様。本当は調理の知識もお持ちでしょう?」
「……おほん。こ、この大根は良い味ね。滋味に溢れているわ」
「野菜スティックを褒められても、余り嬉しく無いんですけど」
「な、何を言うの。私は心の底から感心しているのよ。
流石は、切る事にかけては右に出る者がいないと称されるだけはあるわね。いよっ、この辻斬り少女!」
「それは褒め言葉ですら無いのですが……まあ気にしないでおきます」
「ほふほふ、ほれがいひばんお」
「話すなら口の中のものを飲み込んでからにして下さい」
「んむっ……」
「……」
「あ、今、リスのように頬を膨らませた幽々子様もラブリーとか思ったでしょ」
「思ってません。むしろ本来、礼儀作法を問う身でありながら、自ら逸脱してしまう辺りに呆れています」
「ほらほら、箸が進んでいないわよ。仕方ないから私が食べさせてあげましょう。あーん」
「馬耳東風かよコンチクショウ!」
「あーん」
「……」
「あーん」
「あ、あーん」
「美味しい?」
「……まあ、自分で作ったものですし、予想通りです」
「つまらないコメントね。今時、落合監督だってもっとサービス精神に溢れているわ」
「幽々子様は私に何を求めておられるのですか……」
「……エンターティナーとしての才覚?」
「うわ、本気だコイツ」
「む、ご主人様をコイツ呼ばわりとは何事ですか」
「お言葉ですが、呼ばれないような振舞いをして見せることも、主人としての役目かと」
「それもそうね」
「って、納得しちゃうんですか」
「いい加減食事に戻らないと、料理が冷めてしまうもの」
「それもそうですね」
「はい、あーん」
「あーん」
「……句読点が無いとグレイシーっぽい響きね」
「げほっ!」
「よ、妖夢!?」
「……平穏なる夕食の為に、あーんは禁止します。良いですね」
「いけずー」
「いけずで結構」
「むぅ……なら、今度は妖夢が私にやって頂戴。それで終わりにするわ」
「……本当に、これが最後ですよ?」
「ええ、覚悟の上よ。ばっちこいよー」
「なぜ少年野球風味なのかは突っ込みません。……あーん」
「あーん」
「……」
「あむあむ……」
「……どうですか?」
「素晴らしいわ、120点よ」
「さ、先程は52点と仰られませんでしたっけ?」
「ふふ、まだまだね妖夢。
シチュエーションという調味料によってもたらされる味は、どんな薀蓄よりも説得力があるのよ」
「……」
「さ、早く食べてしまいましょう」
「……あ、あの」
「何?」
「もう一度、あーん、しても良いですか」
「……ん、認可します」
「幽々子様」
「妖夢」
「真顔で呼び返さないで下さい。
というか、どうして私の部屋にまでついて来られるんですか」
「今日は一日中妖夢にへばりつくって決めたのよ」
「そこに私の意志が介入する余地はあるんでしょうか」
「無いに決まってるでしょう。この子ったら、何を今更な事を言っているのかしら」
「ですよね……ええ、分かってます。
現世だろうと常世だろうと、いつだって世界は不条理で溢れているんだなって」
「悟ったような事を言ってるんじゃないの」
「……でも、もう寝るだけですよ? 幽々子様の歓心を得られるような出来事は無いと思いますが」
「それは私が判断する事よ。さあ、いらっしゃい」
「だから、当たり前のように私の布団に入らないで下さいってば」
「何よ。妖夢は私に畳で寝ろと言うわけ?」
「ご自分のお部屋に戻るという真っ当な選択肢は無いのですか」
「実は、その部屋の場所を忘れちゃったのよ」
「……」
「……」
「……」
「……う、嘘よ? 本気にしないでね?」
「心臓に悪い冗談はお止め下さい……本格的に認知症が進んだのかと思ったじゃないですか」
「……ええと、それって、既に症状が現れていると認識されてるの?」
「まあ、深夜に突然、桜餅片手に姿を消されるくらいですし」
「あ、アレには妖夢の胸の谷間よりも深い事情があったのよ」
「要するに、何も無いという事ですね」
「……」
「……」
「……御免なさい。今のは私が悪かったわ」
「良いんです。ただの事実ですから」
「ともかく、私は至って正常よ。
こうして妖夢の部屋にいるのも、純然たる意思によるものだから心配しないで」
「それはそれで困るんですけど……」
「んもぅ、いいからさっさと来る!」
「わぷっ!」
「……」
「……」
「……んー、やっぱり妖夢枕は暖かいわね」
「ゆ、ゆゆござば、いぎがっ」
「おおっと、つい勢い余ってしまったわ」
「ぷぅ……仮にこれで死んでいたら、腹上死って言うんでしょうかね」
「あら、妖夢のほうから下ネタを振ってくるだなんて珍しいわね」
「……そ、そもそも、まだ残暑も厳しいのに、暖を求める必要があるんですか」
「あるわよ。体じゃなくて心の、ね」
「……」
「……妖夢?」
「何だか、今日の幽々子様は少しおかしいです」
「貴方がそう思うのなら、そうなんでしょうね」
「……でも」
「ゴルゴン?」
「……寝ます」
「ああー、拗ねないでー! もう茶化さないからー!」
「まったく、全然、これっぽっちも信用できません」
「分かったわよもう……。おやすみ、妖夢」
「はい、おやすみなさい」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……起きてますよね?」
「それはもう」
「……」
「……」
「……ええと、さっきの話ですけど」
「ええ」
「確かに変だとは思いましたけど、別段不快に思っている訳じゃありませんから」
「らしくないわねぇ。いつものように直球勝負で来なさいな」
「……分かっていて、言わせようとしているんですね?」
「当然よ」
「……」
「……」
「……私は、その」
「幽々子様の事が大好きですからー」
「……」
「……」
「……」
「……ごめんして」
「もう知りませんっ!」
「いやいや妖夢」
「うるさい」
「……ふぅー……」
「奇を衒った登場方法を求めて忍び込んでみたは良いものの、タイミングを外してしまい、
出るに出られないまま、砂を吐きたくなるような光景を延々と見せ続けられたが故の溜息。……といった所ですか」
「……出たわね、スピード狂」
「射命丸文です。こんばんは、鈴仙さん。
まさか白玉楼の屋根裏で出会うとは思いませんでしたが」
「私もよ……って、もしかして、一部始終観察してたの?」
「いえ、推測です」
「その洞察力、新聞記事にも反映できないものかしら」
「鋭意努力中なのですが、認めて頂くにはまだまだ時間がかかりそうです。不思議でなりません」
「そりゃまあ、そうでしょ」
「ところで、否定されないという事は、概ね推測の通りであると受け取って良いんでしょうか」
「好きにして頂戴。……そもそも、貴方のデマ記事さえなければ、私だってこんな状況に陥って無いのよ」
「……」
「何でそこで黙るのよ」
「……一組くらい、本気にしてくれても良いとは思いませんか……?」
「え」
またドタバタが起きるんだろうな、と思ってましたが…。
見事裏切られました(苦笑)。
でもこういった他愛の無い(?)会話だけで
魅了されるところが東方らしさといいますか。
しっかり堪能させてもらいました。
ついでに射命丸に つ日頃の行い
作者の地の文執筆放棄でさらに吹いて
オチでトドメにもういっちょう吹いたwww
これは面白かったです!
結局タッグトーナメントは
本当だったのに誰も信じてくれなかったのか
嘘だったけど誰も相手にしてくれなかったのでガックリなのか
区別がつきませんがそれもまたよし、ということで
>花映塚の主人公は鈴仙
激しく狂おしく同意しておきます
メインの冥界コンビも良かったですが、オチ要員の二人が最高でした(w
ない気がするのです というよりいつもの流れを無理して書いている様な
印象を受けました 匿名で点数を入れたのでフリーレスで
偉そうな事いってすいません
…なのになんでこんなに面白いんだろう…
そうか、うどみょンが愛しいからだな!(視線をそらしている。
うむ、和みますね。お茶の1杯も欲しくなる作品でした。
・・・鈴仙、君も茶の1杯も飲んで、そろそろ泣き止みたまえ。
( ・ω・)っ且<ギャアアアアアァァァァァ・・・
タイトルと本文がかけ離れまくっているのも愉快なお遊び心でGJ。
これまでの作品もそうなのですが、必ず一回はRoguelikeネタを入れるというのは何かの決まりというか呪いなんでしょうかw
まるで漫才を披露しているようで面白かったです。
(妖「私は面白く無いです!!
(幽「私は「ノリノリ」よ~~
(妖「シクシクシクシクシクシク・・・・・・・・(涙