「言っとくが真剣勝負だ。手加減容赦一切NG。いいな?」
「良いも悪いも、話が見えない」
魔理沙の行動は理解に苦しむ事も多いが、今回は輪をかけて理解を超えている。
面倒ごとは嫌いだ。巻き込まれる意味が分からなければ尚の事である。魔理沙に付き合う気は更々起きなかった。
が、あまり楽観的でいられない。このバカたれは、割と本気の殺意を向けてきている。
ハッタリだ。この少女が人を殺す度胸を持っていない事くらいは知っていた。問題は、そんなハッタリをかましてまで、訳の分からない戦いを申し込んできたという事にある。
「ぞんざいに扱うと、背中からばっさり殺られそうね」
「ばっさりはいかんさ。刃物は趣味じゃないからな」
殺すというところには反論しない。
霊夢は考える。乗ってやるべきだろうか? 今なら至福なひと時を台無しにしてくれた分、それなりの殺意も沸くと思うが。
「来ないのなら、お前愛用の御幣をもらっていくぜ!」
「いや、あれ商売道具……」
「いいじゃないか。あんまり使ってないし」
「そういやそうね。いいよ持ってっても」
「いや待ってくれ。抵抗してもらわんと困る」
自分で言っといて何を困惑してるのだか。この辺り、本当に行き当たりばったりな魔理沙らしいと霊夢は思う。
「仕方ない。こうなったら賽銭箱の中身を頂戴し……」
「分かった殺すわ」
「……やる気になってくれてなによりだ」
釣られてしまった。
彼女とて楽園の素敵な貧乏巫女。その守銭奴っぷりを突かれては仕方がない。あんな僅かな小銭が入っているかも怪しい賽銭箱の中身に執着しても、文字通り無価値な気もするが……。
「私に喧嘩売るとは良い度胸ね。お望み通り殺してあげるわ」
「ふん。本当はショバ代を毟りたかったんだろ? この小さな宴会会場でよ」
「魔理沙ぁー!」
「さんを付けろよ腋巫女野郎!」
かくして竜虎相打つ。これは天の宿命か、はたまたヤマの文帖に記された死に際か。血を見ずにはとまらない、決死のデスマッチが開幕した。
§
空高く舞い上がる。魔理沙は星の川を引き連れ、霊夢は己が霊力を数多の色に輝かせ、その軌跡に残していく。
相克し交わらぬ螺旋。それはまさしく幻想の光景を残し、遥か高く伸びていった。
どちらともなく、飛び上がるのを止めて距離を取った。いつもの戦闘、弾幕ごっこに於いて、いかなる事態にも対処し得る安全地帯。
が、これはそのごっこ遊びとは一線を画す真剣勝負。いつもの道理は通用せず、当てにしてはいけない。
「死んでも恨みっこなしだぜ」
「そ。そりゃ良いわ、恨まれて面倒事が増える心配しなくて良いし」
地上に比べて空気は薄い。それ以上に、二人の殺気が空気を冷やして凍らせた。
先に動いたのは魔理沙。
いつもとは違うんだと言わんばかりに、魔理沙は跨っていた箒を霊夢に向かって投げつけた。
「!?」
驚く霊夢に構わず、箒は普段と変わらぬ速度で突進する。その道筋に星の弾幕を残して。
それに紛れるように、魔理沙もまた突撃する。箒を素早く躱す霊夢の懐に、刹那の間に張り付いた。
いつの間にチャージしていたのやら。懐に隠していたミニ八卦炉を、霊夢の身体に向ける。
「挨拶代わりだ、とっとけ」
白い閃光が放たれた。
「うわっ!」
その発動に、咄嗟に結界を張る事によって致命傷を避ける。が、それもあっという間にひび割れた。
二重、いや四重でも心許ない超出力魔砲を、咄嗟に張った簡易結界でどうして防げよう。
結界を維持するよりも、新たな結界を上に貼り付け擬似的な多重結界を展開する事で、ギリギリの境界をなんとか凌ぐ。その器用さは、あの八雲紫とて舌を巻くだろう。マトモな使い手なら格の違いを見せ付けられる。それはそんな技術だ。
だがそれでも魔力に押されて、魔理沙との距離はどんどん開いていった。
魔理沙は箒を手元に戻す。
離れていく相手を見つめながら、魔理沙は激しく乱れる呼吸を落ち着かせる。
挨拶代わりなどとんでもない。不意打ちにて相手の本気を拝む前に潰せればという意図で放った全開だ。箒なしの飛行は僅かの距離を飛んでも魔力消費が激しいし、カードの後押しなしの魔砲など論外だ。あまり上策とは言えない。だがそれを承知で、魔理沙は不意打ちを試みたのだが……。
消耗の割に、報われる程の効果があったとは言えない。霊夢は勢いの失った魔砲をすり抜け瞬時に反撃する。
直線的な針の雨と、弧を描くアミュレットからの御符。
距離からして針を躱すのは造作もなし。自動追尾の御符も魔理沙の速度にはついていけない。
容易く反撃を躱しながら、魔理沙はそうこなくてはと気合いを入れなおす。
余力をかなり失いはしたが、別に絶望的に消耗したわけではないのだ。呼吸を完全に整え、いよいよ本番と意気込んだ。
お互い最初の一手を処理しあい、合わせたかのような同タイミングで己のカードに力を込めた。
魔理沙の周囲には魔方陣。霊夢は取り出した二つの陰陽玉が膨張する。
それを解き放つ。魔理沙の魔方陣は彼女を中心として回転しながら、無数の星屑を撒き散らし、広がっていく。霊夢の陰陽玉は螺旋を描きながら突貫し、分裂して多方向に散らばっていった。
二つの弾幕がぶつかり相殺する。魔理沙はその弾幕に突撃し、霊夢は迎え撃つ!
時に自弾にすら肉薄しながら霊夢との距離を縮め、その間にもレーザーや御符での交戦が繰り広げられた。
ある程度距離を縮めた時、魔理沙は機を見て姿勢を低くした。
霊夢が身構える。
初撃の箒の投擲。あれに自身の魔力をブーストし更なる威力と速度を与え突進する。それを避けた先には、軌道から散らばる星の雨。魔理沙の決め手の一。魔符スターダストレヴァリエ。
「おりゃああぁ!!」
咆哮と共にその魔力を解放する。攻撃が身体中を掠めても意にも介さず、ただ霊夢を見て、霊夢に向かっていった。
霊夢は動かない。余裕の表れか微動だにしなかった。
上等、そのすまし顔をぶちのめす! そのつもりで勢いを保つ魔理沙。
が、その突進は霊夢に届かず、その間に挟まれた見えざる何かに阻まれた。
「ぶっ!」
思いっきり顔面をソレにぶつけ、顔を押さえながら魔理沙は唸った。
「なんだ……?」
涙目の魔理沙に対し、霊夢は不敵に微笑んだ。
「二重結界」
言われてから、魔理沙は瞬時にその霊力を肌で感じ取る。
上下左右前後、全方位死角無しで展開される二つの隔離防壁。
「マジか。いつの間に……」
「罠を張って迎え撃つのは定石でしょ。ともあれ、アンタは私の箱庭に包まれた……!」
「ちっ」
強がって笑みを浮かべるが、状況は絶望的だった。
霊夢の言うとおり、結界内は彼女の箱庭――――と言うより世界に等しい。さて、何が飛び出してくるやら。
が、
「詰みでしょ。茶番は終わり」
身構える魔理沙とは裏腹に、霊夢はやる気なしを示すように肩を竦めて見せる霊夢。
「真剣勝負だろ。何気を緩めてるんだ」
「終わったって言ってるの。アンタの負けよ」
「ピンピンしてるぜ」
「これ以上やったら本当に死にかねないって言ってんのよ」
「挑んだのはこっちだ。覚悟はしてるさ」
「アンタねぇ……」
「言ったろ、死んでも恨みっこ無しって。遠慮なく殺しに来いよ」
「……活動的なバカほど怖いものはないわね」
「失礼極まりないぜ……」
割かし本気でへこむ魔理沙。
「何があったのよ。何ムキになってんの?」
「あー? ムキになんてなってないぜ。私はいつだって真剣、全力、手抜き無しってな」
「らしくないって言ってんのよ」
「そうか? こっちの都合でお前を振り回してるんだ。らしいだろ?」
頭を抱える霊夢に、魔理沙はニヤリと笑った。
呆れられるのは不本意だが、魔理沙は目的なんて話せるはずがなかった。
面と向かって『お前の特別になりたいから』なんて言うのは、愛の告白と同じだ。出来るわけない。
「誰も本気のお前を倒せない。だから私が倒したい。それだけさ」
「随分とバトルマニアになっちゃったみたいね」
まぁいい、深くは聞くまいと気を取り直す。
霊夢がやる気を出した事に満足する魔理沙。
確信している。今から姿を現す博麗霊夢を倒せば、私が霊夢の特別になれると。そうすれば、私の疑問も解けるのだと。
「退くなら今がラストチャンス」
「死んでも退かん。私は常に前進あるのみだ」
「よく言った!」
言いながら札を投げつける。
それは目の前で消えて、頭上から突如降ってきた。
「うおっ!?」
咄嗟に躱す。間髪入れず、霊夢は更に札やアミュレットによる攻撃を仕掛ける。
細やかな弾幕が、結界を通して四方八方から襲ってきた!
「うわあぁ!?」
器用に身体をくねらせて回避する魔理沙。
「ほらほら頑張らないと、あっという間に落ちちゃうわよ?」
「くそぅ! 見世物じゃないぞ!!」
合間の反撃は、やはり結界に阻まれて届かない。
「卑怯だ!」
「知らん」
霊夢は無情にも、更なる攻撃を結界内に放り込む。
それが決め手となりうると知って。
「くっ!」
迫る弾幕に身をよじる。が、いよいよその密度は、回避動作というものを物理的に不可能なレベルまで跳ね上がっている。
正面を迫る針を躱す。
同時に側面から。
拙い! と思う暇もなく、
ドスン! と。強力な霊力を伴った御符が、とうとう魔理沙の腹部に突き刺さった。
「が……はっ……!」
動きが止まる。それはこの嵐の中で、最も致命的な行為だ。
血を吐き身を縮める魔理沙に、弾幕は容赦なく彼女の身体を叩きつける。
「ぐああああっ!!」
悲痛な叫び声に、霊夢は少し顔を歪める。
やりすぎたか。骨の一つや二つは折れてるか。血を吐いた所を見ると、内臓を傷つけたかもしれない。
ともあれ、これで勝敗は決した。今度こそ私の勝ちで幕だ。
そう思って、二重の結界を紐解いた。
「あ……」
しまった。と思ってももう遅い。
巫女はその勘を以って、結界を解除するのが早計だったと悟った。
僅かに感じる魔力の高ぶり。
彼女は持ち直した。
スペルカードが発動する程度の魔力が魔理沙から放たれる。
「まだ続けるの?」
「あ……ったりまえだ」
かなりのダメージを受けたが、まだ終われない。せっかく特訓までしたのに、出し惜しんだまま終われるか。
魔理沙の周りに魔方陣が展開される。
彼女の周囲を回転しながら、その魔方陣はレーザー砲を吐き出した。
「きゃっ!?」
紙一重で避ける霊夢に、畳み掛けるように星の群れが降り注ぐ。
改良型ノンディレクショナルレーザー。恋風 スターライトタイフーン。
「新技だ。頑張って避けろよ」
交互に飛来する星と光線に四苦八苦の霊夢に対し、胸を張って説明し始める魔理沙。
お前を倒す為に、わざわざ身に付けたのだとは言わないでおくが。
「ホントはカッコよく叫んで発動させたかったんだがなぁ。どうしてくれる?」
「知るか!」
避ける側と見つめる側が、見事に逆転してしまった。
内心で魔理沙に毒づきながら、霊夢は冷静にその弾幕を対処する。
回転するレーザーは同一方向から一定のタイミングで来る。意識を向けすぎず、星の海に集中して避ければ……!
そう思い、視界の端で捉えていたレーザーを避けた瞬間、
「甘い、逆回転!」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
致命的にマヌケだと思ったと同時に、すぐ傍にあったレーザーが折り返し霊夢を焼いた。
「っ……!」
即座に防御結界で直撃を避ける。右半身が少し焼けたがダメージは僅か。が、姿勢は充分に崩したおかげで、先ほどのお返しとばかりに星の雨が霊夢を襲った。
結界の上から、知識人に『爆弾』と称された弾幕が大きな音を立てて弾ける。
爆発は連鎖し、霊夢の姿は光の煙に遮られ見えなくなった。
一発一発がかなりの威力だ。結界の上からでも衝撃は大きいはず。だが決まったとは思わない。せっかくの新技だが、相手は霊夢だ。決定打に更に追い討ちをかけても足りるかどうか分からない。そういう気持ちで、魔理沙は霊夢に挑んでいるのだ。
改めて、魔理沙は自分が最も信頼する最強のカードを切る。言うまでもなく、彼女の切り札は恋の魔砲と決まっていた。
……身体中が痛い。けれど知ったことか。
魔理沙はミニ八卦路に、極限まで魔力を注ぎ込んだ。
「でっかい花火、咲かせるぜ!」
小さいながらも八卦を模す魔道具が悲鳴を上げ始める。
制御を誤れば暴発。そうなれば良くて腕を失って、悪ければ普通に肉壊だ。
そんなトンデモ魔力、人間はおろか生物に叩き込める代物ではない。幾ら強固な結界で身を護る博麗の巫女といえど、この直撃を受けては結界ごと蒸発すること請け合いだ。
殺したい訳じゃない。が、魔理沙は全力を出す事に手一杯だった。それを放って、万が一の事を考える余裕など存在しない。
戦いで気分が高揚しているのもあるが、それ以上に頭が空っぽだった。
先日、あの背中を見てから浮かんだ、魔理沙の中の不快なモヤモヤ。
この魔砲の果てに、答えは見えるのか?
空っぽになった頭では、そんな根本的な目的も忘れて。けれどだからこそ、その先に答えを見出す。
「これが私の全力全開! 最強最後のマスタースパークだぁ!!」
煙の中心に撃ち放つ。辺りの雲は瞬時に掻き消え、轟音と共に幻想の空を穿つ。
文字通り全開、これ以上はないと言うほどの本気だ。
その威力から生まれた爆風が煙を散らす。
そこに、博麗霊夢はいなかった。
それに気づいた瞬間、身動きが取れなくなる。さっきよりもより狭く不自由な結界に閉じ込められたのだ。
力は弱いが、今の彼女では引きちぎれない。
視界を上にスライドさせる。霊夢はフワフワ浮いていた。
この期に及んで、空気のような捉え辛さは健在だった。あらゆる意味で、彼女は魔理沙の手をすり抜けてくれる。
「つれないな。私の全部、受け止めてくれてもいいじゃないか」
「骨も残らんってーの」
軽口を叩く間にも、魔理沙の魔砲は空を裂き消えていく。同時に霊夢の霊力が彼女の周囲に具現していった。
「その代わり、全力には全力で返すわよ。アンタが私を受け取りなさい」
「――――」
その言葉に、ドキリとした。
勝って特別な存在になる事は叶わなかったが、少なくとも今この瞬間は、霊夢の全部を受け止める自分が、間違いなく霊夢の特別なのだと自覚する。
綺麗に光り輝く霊気がバラバラに魔理沙に集まり、
「集」
一斉に魔理沙を包み込んだ。
§
悲鳴すら上げられない衝撃の中、私は霊夢の姿を見た。
すまし顔しやがって、結局は余裕負けか。
悔しいなぁ……。けど、こいつはやっぱり強くてカッコいいぜ。
身体中が痛い。殆ど骨折り損だったが、満足していたのでそれすら心地よかった。
崩れ落ちる私の身体を、霊夢が優しく受け止める。
そこで、私の意識は落ちた。
§
――――あの日。霊夢の背中に、あいつの本質を見た。
吸血鬼だの幽霊だの魔女だの人間だの、挙句幻想郷から消え去った鬼ですら、みんな霊夢に惹かれて此処に来る。
誰も彼もを受け入れる。けれどきっと、霊夢は誰も受け入れていない。
それは、私も?
あの背中を思い出すと寒気がする。私が拒絶されたんだ。心の何処かで、あいつはどれだけ迷惑を掛けても、軽く流してしまうモノだと勝手に思っていたのに。
それは単に、私の事でさえどうでも良いと思っていただけかもしれない。
それは、凄く寂しい。
誰彼構わず平等に接するアイツは、もしかしたら、誰の事も仲間とか、友人だとか、そういう風に見ていないんじゃないか? 誰にも、そういう風に見られていないんじゃないか?
あいつにとって、誰が傍にいても一人であるのと変わらないんじゃないか?
それは、とても嫌だった。
夢心地に、私はようやく疑問の答えを得る。
私にとって霊夢は特別なんだ。誰よりも強くて、私よりも強くて、初めて負けて、それからずっと一緒にいて。
だから、霊夢にとって私がそこらの知人の一人であるのが嫌だった。
私はいつも気が利かないし、遠慮がないし、始末の悪いことにそれを直す気がないから。
だから私は、私が霊夢を特別にしたのと同じ方法で、霊夢を特別にしたかったんだな……。
§
「ってぇ……」
激痛に目が覚めた。
寝ぼける間も与えない程の強烈な痛みに耐えていると、遠くの方から騒がしい声が聞こえる。
「……神社」
ああ、今は宴の真っ最中か。丸一日近く眠ってしまったみたいだな。
自分の身体を見ると、霊夢の寝巻きの下に包帯がぐるぐる巻かれていた。
「あ、起きた?」
襖を開けて、霊夢が入ってくる。
その隙間から焚き火の灯りと、それを囲んでバカ騒いでるいつもの面子を視認した。
「とっくの昔に宴もたけなわよ」
「幹事抜きでおっ始めるとは酷い奴らだ」
「アンタの場合は自業自得」
「はい」
霊夢は布団の傍に座ると、手に持っていたネギマ串を乗せた皿と酒、お猪口を二つ置いた。
「呑る気力ある?」
「食欲は全開だ。酒も好きだぜ」
「さすがねぇ」
「只の怪我人だからな」
外の騒がしさとは裏腹に、私は霊夢と二人で、ネギマを肴に静かに呑んだ。
霊夢は理由を聞かない。話したければ話せば良いってタイプだからな。
だから、私は話す事にする。
「お前にとって、私はなんだ?」
「はぁ?」
案の定の反応だ。思い返すと、霊夢にしてみれば、私は随分とこいつを驚かせている存在なんだろう。
「意味がわかんない」
「私にとって、お前は滅茶苦茶デカい存在だぜ? 私の心の真ん中に、ぬりかべみたいにズッシリと居座ってる」
「ぬりかべ……。アンタ、ホントにどうしちゃったのよ……」
「私も一生に一度くらいは、突き抜ける方向性を間違えちゃったりするのさ。で、どうなんだ?」
霊夢は呆れていたが、私は答えを待った。
少しだけ躊躇して、それでも霊夢は答えてくれた。
「私にとって、アンタは大バカ。目を離したら何しでかすかわかんない危険物」
「酷すぎるぜ……」
バカ呼ばわりは少し傷つく。霊夢はこっちが気落ちしたのを気付かずに続けた。
「騒がしくて厄介な、背中を任せられるパートナー? そんな感じ」
「……」
考えていた期間の割に、随分と呆気なく答えを得た。
霊夢がそっぽを向く。
……あー、どう反応すれば良いやら。
二人の間に沈黙。外の騒がしさだけが耳についた。
「アンタね、なんか言いなさいよ」
空気に耐えられなかったのか、霊夢は仏頂面で私を睨む。
勘だが、もっと明るければ、真っ赤な顔を拝めたに違いない。
「次は勝つ」
「はいはい。相手になってあげるわよ」
呆れ面でそう言って、私のお猪口に酒を注ぐ。私も霊夢に酌してやる。
「じゃ、改めて二人の友情に乾杯といきますか!」
「……アンタ、こういうノリはコレっきりにしてよ、ホント?」
「言われんでも、寝て起きたらいつもの私さ」
「それはそれで厄介ね」
そう言って、二人で酒を呑みまくる。
いつも以上に酒が旨くて、今日は良い夢が見れそうだった……。
「良いも悪いも、話が見えない」
魔理沙の行動は理解に苦しむ事も多いが、今回は輪をかけて理解を超えている。
面倒ごとは嫌いだ。巻き込まれる意味が分からなければ尚の事である。魔理沙に付き合う気は更々起きなかった。
が、あまり楽観的でいられない。このバカたれは、割と本気の殺意を向けてきている。
ハッタリだ。この少女が人を殺す度胸を持っていない事くらいは知っていた。問題は、そんなハッタリをかましてまで、訳の分からない戦いを申し込んできたという事にある。
「ぞんざいに扱うと、背中からばっさり殺られそうね」
「ばっさりはいかんさ。刃物は趣味じゃないからな」
殺すというところには反論しない。
霊夢は考える。乗ってやるべきだろうか? 今なら至福なひと時を台無しにしてくれた分、それなりの殺意も沸くと思うが。
「来ないのなら、お前愛用の御幣をもらっていくぜ!」
「いや、あれ商売道具……」
「いいじゃないか。あんまり使ってないし」
「そういやそうね。いいよ持ってっても」
「いや待ってくれ。抵抗してもらわんと困る」
自分で言っといて何を困惑してるのだか。この辺り、本当に行き当たりばったりな魔理沙らしいと霊夢は思う。
「仕方ない。こうなったら賽銭箱の中身を頂戴し……」
「分かった殺すわ」
「……やる気になってくれてなによりだ」
釣られてしまった。
彼女とて楽園の素敵な貧乏巫女。その守銭奴っぷりを突かれては仕方がない。あんな僅かな小銭が入っているかも怪しい賽銭箱の中身に執着しても、文字通り無価値な気もするが……。
「私に喧嘩売るとは良い度胸ね。お望み通り殺してあげるわ」
「ふん。本当はショバ代を毟りたかったんだろ? この小さな宴会会場でよ」
「魔理沙ぁー!」
「さんを付けろよ腋巫女野郎!」
かくして竜虎相打つ。これは天の宿命か、はたまたヤマの文帖に記された死に際か。血を見ずにはとまらない、決死のデスマッチが開幕した。
§
空高く舞い上がる。魔理沙は星の川を引き連れ、霊夢は己が霊力を数多の色に輝かせ、その軌跡に残していく。
相克し交わらぬ螺旋。それはまさしく幻想の光景を残し、遥か高く伸びていった。
どちらともなく、飛び上がるのを止めて距離を取った。いつもの戦闘、弾幕ごっこに於いて、いかなる事態にも対処し得る安全地帯。
が、これはそのごっこ遊びとは一線を画す真剣勝負。いつもの道理は通用せず、当てにしてはいけない。
「死んでも恨みっこなしだぜ」
「そ。そりゃ良いわ、恨まれて面倒事が増える心配しなくて良いし」
地上に比べて空気は薄い。それ以上に、二人の殺気が空気を冷やして凍らせた。
先に動いたのは魔理沙。
いつもとは違うんだと言わんばかりに、魔理沙は跨っていた箒を霊夢に向かって投げつけた。
「!?」
驚く霊夢に構わず、箒は普段と変わらぬ速度で突進する。その道筋に星の弾幕を残して。
それに紛れるように、魔理沙もまた突撃する。箒を素早く躱す霊夢の懐に、刹那の間に張り付いた。
いつの間にチャージしていたのやら。懐に隠していたミニ八卦炉を、霊夢の身体に向ける。
「挨拶代わりだ、とっとけ」
白い閃光が放たれた。
「うわっ!」
その発動に、咄嗟に結界を張る事によって致命傷を避ける。が、それもあっという間にひび割れた。
二重、いや四重でも心許ない超出力魔砲を、咄嗟に張った簡易結界でどうして防げよう。
結界を維持するよりも、新たな結界を上に貼り付け擬似的な多重結界を展開する事で、ギリギリの境界をなんとか凌ぐ。その器用さは、あの八雲紫とて舌を巻くだろう。マトモな使い手なら格の違いを見せ付けられる。それはそんな技術だ。
だがそれでも魔力に押されて、魔理沙との距離はどんどん開いていった。
魔理沙は箒を手元に戻す。
離れていく相手を見つめながら、魔理沙は激しく乱れる呼吸を落ち着かせる。
挨拶代わりなどとんでもない。不意打ちにて相手の本気を拝む前に潰せればという意図で放った全開だ。箒なしの飛行は僅かの距離を飛んでも魔力消費が激しいし、カードの後押しなしの魔砲など論外だ。あまり上策とは言えない。だがそれを承知で、魔理沙は不意打ちを試みたのだが……。
消耗の割に、報われる程の効果があったとは言えない。霊夢は勢いの失った魔砲をすり抜け瞬時に反撃する。
直線的な針の雨と、弧を描くアミュレットからの御符。
距離からして針を躱すのは造作もなし。自動追尾の御符も魔理沙の速度にはついていけない。
容易く反撃を躱しながら、魔理沙はそうこなくてはと気合いを入れなおす。
余力をかなり失いはしたが、別に絶望的に消耗したわけではないのだ。呼吸を完全に整え、いよいよ本番と意気込んだ。
お互い最初の一手を処理しあい、合わせたかのような同タイミングで己のカードに力を込めた。
魔理沙の周囲には魔方陣。霊夢は取り出した二つの陰陽玉が膨張する。
それを解き放つ。魔理沙の魔方陣は彼女を中心として回転しながら、無数の星屑を撒き散らし、広がっていく。霊夢の陰陽玉は螺旋を描きながら突貫し、分裂して多方向に散らばっていった。
二つの弾幕がぶつかり相殺する。魔理沙はその弾幕に突撃し、霊夢は迎え撃つ!
時に自弾にすら肉薄しながら霊夢との距離を縮め、その間にもレーザーや御符での交戦が繰り広げられた。
ある程度距離を縮めた時、魔理沙は機を見て姿勢を低くした。
霊夢が身構える。
初撃の箒の投擲。あれに自身の魔力をブーストし更なる威力と速度を与え突進する。それを避けた先には、軌道から散らばる星の雨。魔理沙の決め手の一。魔符スターダストレヴァリエ。
「おりゃああぁ!!」
咆哮と共にその魔力を解放する。攻撃が身体中を掠めても意にも介さず、ただ霊夢を見て、霊夢に向かっていった。
霊夢は動かない。余裕の表れか微動だにしなかった。
上等、そのすまし顔をぶちのめす! そのつもりで勢いを保つ魔理沙。
が、その突進は霊夢に届かず、その間に挟まれた見えざる何かに阻まれた。
「ぶっ!」
思いっきり顔面をソレにぶつけ、顔を押さえながら魔理沙は唸った。
「なんだ……?」
涙目の魔理沙に対し、霊夢は不敵に微笑んだ。
「二重結界」
言われてから、魔理沙は瞬時にその霊力を肌で感じ取る。
上下左右前後、全方位死角無しで展開される二つの隔離防壁。
「マジか。いつの間に……」
「罠を張って迎え撃つのは定石でしょ。ともあれ、アンタは私の箱庭に包まれた……!」
「ちっ」
強がって笑みを浮かべるが、状況は絶望的だった。
霊夢の言うとおり、結界内は彼女の箱庭――――と言うより世界に等しい。さて、何が飛び出してくるやら。
が、
「詰みでしょ。茶番は終わり」
身構える魔理沙とは裏腹に、霊夢はやる気なしを示すように肩を竦めて見せる霊夢。
「真剣勝負だろ。何気を緩めてるんだ」
「終わったって言ってるの。アンタの負けよ」
「ピンピンしてるぜ」
「これ以上やったら本当に死にかねないって言ってんのよ」
「挑んだのはこっちだ。覚悟はしてるさ」
「アンタねぇ……」
「言ったろ、死んでも恨みっこ無しって。遠慮なく殺しに来いよ」
「……活動的なバカほど怖いものはないわね」
「失礼極まりないぜ……」
割かし本気でへこむ魔理沙。
「何があったのよ。何ムキになってんの?」
「あー? ムキになんてなってないぜ。私はいつだって真剣、全力、手抜き無しってな」
「らしくないって言ってんのよ」
「そうか? こっちの都合でお前を振り回してるんだ。らしいだろ?」
頭を抱える霊夢に、魔理沙はニヤリと笑った。
呆れられるのは不本意だが、魔理沙は目的なんて話せるはずがなかった。
面と向かって『お前の特別になりたいから』なんて言うのは、愛の告白と同じだ。出来るわけない。
「誰も本気のお前を倒せない。だから私が倒したい。それだけさ」
「随分とバトルマニアになっちゃったみたいね」
まぁいい、深くは聞くまいと気を取り直す。
霊夢がやる気を出した事に満足する魔理沙。
確信している。今から姿を現す博麗霊夢を倒せば、私が霊夢の特別になれると。そうすれば、私の疑問も解けるのだと。
「退くなら今がラストチャンス」
「死んでも退かん。私は常に前進あるのみだ」
「よく言った!」
言いながら札を投げつける。
それは目の前で消えて、頭上から突如降ってきた。
「うおっ!?」
咄嗟に躱す。間髪入れず、霊夢は更に札やアミュレットによる攻撃を仕掛ける。
細やかな弾幕が、結界を通して四方八方から襲ってきた!
「うわあぁ!?」
器用に身体をくねらせて回避する魔理沙。
「ほらほら頑張らないと、あっという間に落ちちゃうわよ?」
「くそぅ! 見世物じゃないぞ!!」
合間の反撃は、やはり結界に阻まれて届かない。
「卑怯だ!」
「知らん」
霊夢は無情にも、更なる攻撃を結界内に放り込む。
それが決め手となりうると知って。
「くっ!」
迫る弾幕に身をよじる。が、いよいよその密度は、回避動作というものを物理的に不可能なレベルまで跳ね上がっている。
正面を迫る針を躱す。
同時に側面から。
拙い! と思う暇もなく、
ドスン! と。強力な霊力を伴った御符が、とうとう魔理沙の腹部に突き刺さった。
「が……はっ……!」
動きが止まる。それはこの嵐の中で、最も致命的な行為だ。
血を吐き身を縮める魔理沙に、弾幕は容赦なく彼女の身体を叩きつける。
「ぐああああっ!!」
悲痛な叫び声に、霊夢は少し顔を歪める。
やりすぎたか。骨の一つや二つは折れてるか。血を吐いた所を見ると、内臓を傷つけたかもしれない。
ともあれ、これで勝敗は決した。今度こそ私の勝ちで幕だ。
そう思って、二重の結界を紐解いた。
「あ……」
しまった。と思ってももう遅い。
巫女はその勘を以って、結界を解除するのが早計だったと悟った。
僅かに感じる魔力の高ぶり。
彼女は持ち直した。
スペルカードが発動する程度の魔力が魔理沙から放たれる。
「まだ続けるの?」
「あ……ったりまえだ」
かなりのダメージを受けたが、まだ終われない。せっかく特訓までしたのに、出し惜しんだまま終われるか。
魔理沙の周りに魔方陣が展開される。
彼女の周囲を回転しながら、その魔方陣はレーザー砲を吐き出した。
「きゃっ!?」
紙一重で避ける霊夢に、畳み掛けるように星の群れが降り注ぐ。
改良型ノンディレクショナルレーザー。恋風 スターライトタイフーン。
「新技だ。頑張って避けろよ」
交互に飛来する星と光線に四苦八苦の霊夢に対し、胸を張って説明し始める魔理沙。
お前を倒す為に、わざわざ身に付けたのだとは言わないでおくが。
「ホントはカッコよく叫んで発動させたかったんだがなぁ。どうしてくれる?」
「知るか!」
避ける側と見つめる側が、見事に逆転してしまった。
内心で魔理沙に毒づきながら、霊夢は冷静にその弾幕を対処する。
回転するレーザーは同一方向から一定のタイミングで来る。意識を向けすぎず、星の海に集中して避ければ……!
そう思い、視界の端で捉えていたレーザーを避けた瞬間、
「甘い、逆回転!」
「はぁ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
致命的にマヌケだと思ったと同時に、すぐ傍にあったレーザーが折り返し霊夢を焼いた。
「っ……!」
即座に防御結界で直撃を避ける。右半身が少し焼けたがダメージは僅か。が、姿勢は充分に崩したおかげで、先ほどのお返しとばかりに星の雨が霊夢を襲った。
結界の上から、知識人に『爆弾』と称された弾幕が大きな音を立てて弾ける。
爆発は連鎖し、霊夢の姿は光の煙に遮られ見えなくなった。
一発一発がかなりの威力だ。結界の上からでも衝撃は大きいはず。だが決まったとは思わない。せっかくの新技だが、相手は霊夢だ。決定打に更に追い討ちをかけても足りるかどうか分からない。そういう気持ちで、魔理沙は霊夢に挑んでいるのだ。
改めて、魔理沙は自分が最も信頼する最強のカードを切る。言うまでもなく、彼女の切り札は恋の魔砲と決まっていた。
……身体中が痛い。けれど知ったことか。
魔理沙はミニ八卦路に、極限まで魔力を注ぎ込んだ。
「でっかい花火、咲かせるぜ!」
小さいながらも八卦を模す魔道具が悲鳴を上げ始める。
制御を誤れば暴発。そうなれば良くて腕を失って、悪ければ普通に肉壊だ。
そんなトンデモ魔力、人間はおろか生物に叩き込める代物ではない。幾ら強固な結界で身を護る博麗の巫女といえど、この直撃を受けては結界ごと蒸発すること請け合いだ。
殺したい訳じゃない。が、魔理沙は全力を出す事に手一杯だった。それを放って、万が一の事を考える余裕など存在しない。
戦いで気分が高揚しているのもあるが、それ以上に頭が空っぽだった。
先日、あの背中を見てから浮かんだ、魔理沙の中の不快なモヤモヤ。
この魔砲の果てに、答えは見えるのか?
空っぽになった頭では、そんな根本的な目的も忘れて。けれどだからこそ、その先に答えを見出す。
「これが私の全力全開! 最強最後のマスタースパークだぁ!!」
煙の中心に撃ち放つ。辺りの雲は瞬時に掻き消え、轟音と共に幻想の空を穿つ。
文字通り全開、これ以上はないと言うほどの本気だ。
その威力から生まれた爆風が煙を散らす。
そこに、博麗霊夢はいなかった。
それに気づいた瞬間、身動きが取れなくなる。さっきよりもより狭く不自由な結界に閉じ込められたのだ。
力は弱いが、今の彼女では引きちぎれない。
視界を上にスライドさせる。霊夢はフワフワ浮いていた。
この期に及んで、空気のような捉え辛さは健在だった。あらゆる意味で、彼女は魔理沙の手をすり抜けてくれる。
「つれないな。私の全部、受け止めてくれてもいいじゃないか」
「骨も残らんってーの」
軽口を叩く間にも、魔理沙の魔砲は空を裂き消えていく。同時に霊夢の霊力が彼女の周囲に具現していった。
「その代わり、全力には全力で返すわよ。アンタが私を受け取りなさい」
「――――」
その言葉に、ドキリとした。
勝って特別な存在になる事は叶わなかったが、少なくとも今この瞬間は、霊夢の全部を受け止める自分が、間違いなく霊夢の特別なのだと自覚する。
綺麗に光り輝く霊気がバラバラに魔理沙に集まり、
「集」
一斉に魔理沙を包み込んだ。
§
悲鳴すら上げられない衝撃の中、私は霊夢の姿を見た。
すまし顔しやがって、結局は余裕負けか。
悔しいなぁ……。けど、こいつはやっぱり強くてカッコいいぜ。
身体中が痛い。殆ど骨折り損だったが、満足していたのでそれすら心地よかった。
崩れ落ちる私の身体を、霊夢が優しく受け止める。
そこで、私の意識は落ちた。
§
――――あの日。霊夢の背中に、あいつの本質を見た。
吸血鬼だの幽霊だの魔女だの人間だの、挙句幻想郷から消え去った鬼ですら、みんな霊夢に惹かれて此処に来る。
誰も彼もを受け入れる。けれどきっと、霊夢は誰も受け入れていない。
それは、私も?
あの背中を思い出すと寒気がする。私が拒絶されたんだ。心の何処かで、あいつはどれだけ迷惑を掛けても、軽く流してしまうモノだと勝手に思っていたのに。
それは単に、私の事でさえどうでも良いと思っていただけかもしれない。
それは、凄く寂しい。
誰彼構わず平等に接するアイツは、もしかしたら、誰の事も仲間とか、友人だとか、そういう風に見ていないんじゃないか? 誰にも、そういう風に見られていないんじゃないか?
あいつにとって、誰が傍にいても一人であるのと変わらないんじゃないか?
それは、とても嫌だった。
夢心地に、私はようやく疑問の答えを得る。
私にとって霊夢は特別なんだ。誰よりも強くて、私よりも強くて、初めて負けて、それからずっと一緒にいて。
だから、霊夢にとって私がそこらの知人の一人であるのが嫌だった。
私はいつも気が利かないし、遠慮がないし、始末の悪いことにそれを直す気がないから。
だから私は、私が霊夢を特別にしたのと同じ方法で、霊夢を特別にしたかったんだな……。
§
「ってぇ……」
激痛に目が覚めた。
寝ぼける間も与えない程の強烈な痛みに耐えていると、遠くの方から騒がしい声が聞こえる。
「……神社」
ああ、今は宴の真っ最中か。丸一日近く眠ってしまったみたいだな。
自分の身体を見ると、霊夢の寝巻きの下に包帯がぐるぐる巻かれていた。
「あ、起きた?」
襖を開けて、霊夢が入ってくる。
その隙間から焚き火の灯りと、それを囲んでバカ騒いでるいつもの面子を視認した。
「とっくの昔に宴もたけなわよ」
「幹事抜きでおっ始めるとは酷い奴らだ」
「アンタの場合は自業自得」
「はい」
霊夢は布団の傍に座ると、手に持っていたネギマ串を乗せた皿と酒、お猪口を二つ置いた。
「呑る気力ある?」
「食欲は全開だ。酒も好きだぜ」
「さすがねぇ」
「只の怪我人だからな」
外の騒がしさとは裏腹に、私は霊夢と二人で、ネギマを肴に静かに呑んだ。
霊夢は理由を聞かない。話したければ話せば良いってタイプだからな。
だから、私は話す事にする。
「お前にとって、私はなんだ?」
「はぁ?」
案の定の反応だ。思い返すと、霊夢にしてみれば、私は随分とこいつを驚かせている存在なんだろう。
「意味がわかんない」
「私にとって、お前は滅茶苦茶デカい存在だぜ? 私の心の真ん中に、ぬりかべみたいにズッシリと居座ってる」
「ぬりかべ……。アンタ、ホントにどうしちゃったのよ……」
「私も一生に一度くらいは、突き抜ける方向性を間違えちゃったりするのさ。で、どうなんだ?」
霊夢は呆れていたが、私は答えを待った。
少しだけ躊躇して、それでも霊夢は答えてくれた。
「私にとって、アンタは大バカ。目を離したら何しでかすかわかんない危険物」
「酷すぎるぜ……」
バカ呼ばわりは少し傷つく。霊夢はこっちが気落ちしたのを気付かずに続けた。
「騒がしくて厄介な、背中を任せられるパートナー? そんな感じ」
「……」
考えていた期間の割に、随分と呆気なく答えを得た。
霊夢がそっぽを向く。
……あー、どう反応すれば良いやら。
二人の間に沈黙。外の騒がしさだけが耳についた。
「アンタね、なんか言いなさいよ」
空気に耐えられなかったのか、霊夢は仏頂面で私を睨む。
勘だが、もっと明るければ、真っ赤な顔を拝めたに違いない。
「次は勝つ」
「はいはい。相手になってあげるわよ」
呆れ面でそう言って、私のお猪口に酒を注ぐ。私も霊夢に酌してやる。
「じゃ、改めて二人の友情に乾杯といきますか!」
「……アンタ、こういうノリはコレっきりにしてよ、ホント?」
「言われんでも、寝て起きたらいつもの私さ」
「それはそれで厄介ね」
そう言って、二人で酒を呑みまくる。
いつも以上に酒が旨くて、今日は良い夢が見れそうだった……。
だが、庭先や図書館の床に埋まっている魔理沙を想像して悶えたのは秘密だ!
バトルも中々、擬似多重結界ってのは良いアイデアですね。
しかし真髄は最後の最後でレイマリ分を補給できたことです!(何
とまぁレイマリ分は置いておいて。
読んでてするすると最後まで読めた作品でしたー。
いい仕事してます。
こぁー
文章量が多いというのは読むのに時間がかかると言う事なのですけど、テンポの良い話は時間がかかったとしてもするすると気持ちよく読めてしまいます。
内容や会話、何より前述したテンポが物凄く良かったです。
あと僕も埋まる魔理沙萌え。
2人はやっぱり友達なんでしょうけど、その在り方の違い方から悩み、特別になろうとする。
友情の再確認? みたいに僕は感じました。作者様の意図とは違うかもしれませんが。
ともあれ、ご馳走様です。
文章量は結構あったのに、道中なかだるみも無く目的としているものがぼやける事も無かったので楽しく読めました。
月の無い夜には気を付けたまえ。
文章自体は善かったかと。
途中一箇所あった妖夢視点は余計な気がします。
一部唐突なオリジナル設定があったりもしましたが、王道を行く全体的に良い出来であったと思います。
最近読みたくてもなかなか読めない、このような中身の詰まった王道物語がもっと必要だと思いました。